Fate/Zero Over   作:形右

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 シリアスな雰囲気が完全に死んだ話。
 ここからカオスが混じり始めたんですよねー、いや当初からChaosな部分はあったけども(笑)


第十五話 ~魔法少女☆爆誕~

 夜明け、だが混沌(カオス)の始まり

 

 

 

 

 

 

「――悪い、待たせたな――」

 

 

 

 命が消えるその刹那、無謀な願いを口にした凛が耳にしたのはそんな声だった。

 陰陽の双剣。

 どこのモノなのかは、小学生の凛には分からない。けれど、それが凛を傷つけることはないだろう。

 目の前にいる男の子の背中に、そんな絶対的な安心感のようなものを感じた。

 

 ――きっと、もうそこに絶望はない。

 

 あるのは、ただひたすらに温かい様な、一つの信念からくる想いだけだった。

 

 

 

「もう少しだけ我慢しててくれ――すぐ、終わらせるから」

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――――それは、ほんの少し前のこと。

 

 上空一〇〇〇メートル、とはいかないが――少なくとも、三桁は割らないだろう高度を、一本のおもちゃの様なステッキに引っ張られている少年がいた。

 

『いぃぃぃやっふぅ~~~~♪』

「おわぁぁぁあああああああああああああああああああああああっ!!!???」

 

 悲鳴、というよりは絶叫。

 遊園地の絶叫マシーンの方がきっと優しいだろう暴走っぷりに、流石の正義の味方も形無しであった。

「る、ルビー……ッ! 一体どこへ向かってんだよぉぉぉッ!?」

 探し人である遠坂凛の元へと向かっているはずだが、生憎と水先案内人であるこの性悪ステッキは、あと五分といった手前であるにも関わらず、かれこれ十分近く空を旋回し続けていたのだった。

 故に士郎は、そんなルビーに叫びつつ問うたのだが、この性悪ステッキはさらりとこう言い捨てる。

『いやー、凛さん今ちょうど修羅場っぽくてぇ~。せっかくの活躍の場を邪魔しちゃ悪いですしー?

 なので、少し時間を潰すべく、劇的に駆けつけるための準備運動を、と思いましてぇ~♪』

「なぁっ!? ふ、ふざけんな! さっさと遠坂のとこ行けよ! なんか危ない目にあってんなら、早く助けないと――」

『御心配には及びません。私たちは持ち主を選び、共に面白おかしく笑いあったりもしますが、決してマスターを見殺しにしたりはしませんよー?

 というか、相手はサーヴァントでもないので、本当にヤバくなったら士郎さんをぶん投げますので、それで大丈夫ですよー』

「何だそりゃ!?」

 ふざけてやがる!? 心中で吐き捨てるが、三半規管がそろそろ悲鳴を上げそうなので声には出さなかった。

 士郎はこいつをどうにかへし折りたかったが、少なくとも士郎には上空一〇〇~三〇〇のこの状況ではかえって危険なので、断念せざるを得ない。

『あ、そろそろヤバそうですねぇー。それじゃ士郎さん、凛さんを助けに行きましょう。準備はいいですか、正義の味方さん?』

 と、思っていたら、急に出番がやってきたようだ。

 しかし、当然のごとく士郎にはそんな準備は出来ていない。

 そして、これもまた当然の様に、ルビーは誰かの準備を待つような性格はしていなかったのもまた、悲しい現実だった。

『それじゃあ、乙女のハートをゲットしに、レッツゴー!』

「お、おい、そりゃどういう――ぉぉああああああああああああああああああっ!?」

 

 

 

 ――――そして、現在。

 

 

 

(はああぁぁぁ――――死ぬかと思ったぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁあああああッッッ!!!!!!)

『(ふっふっふっ~♪ 契約の第一段階はこれでクリアですねぇー)』

 きらきらとした凛の視線を受けつつも、内心、まったく明るくない(片方は乗り物酔い的に、一方は単純に腹黒い)二人組。

(あぁ……ついカッコつけちまった。背中に当たる視線が微妙に痛い……)

 とはいっても、そんな事は言っていられない。

 士郎は、凛を襲おうとするこの蛸擬きと海星擬きを今すぐ斬り伏せなくてはならないのだから。

「はぁ……ったく」

 つくづく、こうした巡り合わせには縁があるようだ。

 この時代(せかい)に来たとき、初めて出会ったサーヴァントとそのマスターである殺人鬼の二人。

 あの時出会ってしまった悪意の痕跡に、こんな形で再び見えることになろうとは。

「まぁ、ぼやいていても仕方がないか……」

 剣を構える。

 獲物が唐突にふえた所為か、はたまた士郎とルビーの発している気配のためか、今にも飛び掛かろうとしていた二匹はその足を止めている。

 子供二人と、杖一本。奴らの感覚からして、どれからかかってくるのだろうか。

 そんな事は分からないが……幸いにして、この海魔たちは宝具の一部のようなもの。そこに意志はなく、また同時に魂もないただの傀儡で、サーヴァントの本体の一部でも何でもないのだ。

 つまり――遠慮なく倒しても、何ら問題は存在しない。

「――――さあ、行くぞ」

 鋭く、士郎はそう呟いた。

 士郎の投げ放った双剣が、二体を同時に狙う。

 陰陽の夫婦剣が、互いにひかれあい、そして狙うべき敵へと向かって行く。

 それと共に、士郎もまた両手に新たな剣を生み出し、地面を蹴って飛び掛かる。

投影(トレース)開始(オン)……!」

 造り出したのは、同じ夫婦剣。

 生み出す為だけに造られたそれには、担い手が存在しない。故に、生み出す者にとっての最大に相棒となりえる。

 名を、干将・莫邪――錬鉄の英雄たちの、愛刀といっても差し支えない剣である。

「せ――ぁああああっ!」

 奮った剣が、触手を切り裂いていく。

 だがしかし、そうして士郎が剣を振るう程、後ろに控えている凛に不安が少しずつ溜まっていく。

 元来、『士郎』という存在は突出した才覚を持っているわけではない。

 特殊な『投影』を使えるが、それは本質的には戦う為のモノではない――それは、担い手としてのモノではない。

 あくまでもこれは、士郎という〝生み出す者〟としての力だ。

 それが、くらいついているかのような姿が――さらに言えば、同じ年ごろの子供が戦っているというのに、自分が何も出来ないという事実が――凛にとってはふつふつと滞りが積もってしまう。

 そんな凛を、勿論〝愛と力〟――もとい、〝愛と正義〟を司るカレイドステッキが見逃すはずもなく、知らない筈も無く……悪魔の手は、将来『あかいあくま』の名を継ぐ少女へと伸ばされた。

『彼を、助けたいんですか?』

 唐突に杖に話しかけられ、まるで自分の心を読まれたような感覚がして、凛はビクッと阿多を震わせながらもそれに応じた。

「……で、でも」

『大丈夫、無理強いはしません。

 それでも、今の貴女の素直な気持ちを聞かせてください――貴女は、彼を助けたいんですか?』

 優し気に、そして柔らかに、凛に問いかけてきたステッキ。

 色々と迷うところはある。だが、彼女の聡明な頭は既に、今宵起こり続ける異常事態にすっかり毒されていた。

「……たす、けたい……」

 少し迷ったのち、凛は頷いた。

『分かりました。なら、私が貴女に力を貸しましょう。

 私は、貴女のお父様の持ち物でもあります。なら、御息女に力を貸すことへの躊躇いもありません。

 さぁ、私を手に取ってください』

「う、うん」

『では、ほんの少し貴女の血を頂戴いたします。そんな大げさなものではありませんが、ささやかな魔術契約の為です。

 無限の魔力を供給する、私――カレイドステッキを使う為のものなので、ご安心を』

「っ……」

 少しだけ、ステッキの柄に凛の血が伝う。

 柄の部分から棘でも出たのか、肌を刺す痛みは小さかったが、確かに血が出ているんだろうなという感覚がある。

 しかし、この程度であの子の手助けになるのなら……と、凛は気丈にステッキの次の声を待つ。

『血によるマスター認証、接触による使用契約、起動に必要な乙女の恋心! 全て滞りなくいただきました~!』

「ふぇっ?」

 何か変なことが聞こえた気がしたが、ステッキはかまわず続ける。

『何でもないのでお気になさらず☆

 さぁ、最後の仕上げです! 名前を叫んでください。そうすればきっと――〝強い貴女〟に変身できます!

 貴女のお名前は?』

 動揺していたため、深く考えることができず、凛は結局素直に名前を告げてしまう。

「あ、えっと――と、遠坂凛」

 名を告げた瞬間、周囲を赤い光が包み込む。

「え、なにこれ?」

『ぃぃぃ――やっふぅぅぅ~~!! よっしゃーっ! ロリっ子ゲットぉぉぉ!』

 幼い凛の脳裏に最後に残ったのは、そんなルビーの興奮したような、言っている意味が今一つ掴めない叫びだけだった。

 

 

 

 その時、夜の路地を眩い光が包み込む――――。

 

 

 

 *** 魔法少女、誕生!

 

 

 

「な、なんだ……? って、まさか――!?」

 思いの外手こずりながら切り合っていると、急に後ろで光が溢れた。

 恐れてはいた。だが、まさかこんなところで凛が誘いに乗るとも士郎には思えない。

 ……しかし、彼の頭からは決定的に欠落していた部分がある。

 一つ、凛は負けず嫌いで、誰かにだけ重荷を背負わせるのを黙って見ているようなお姫様でない。

 二つ、マジカルルビーは、獲物を決して逃がさない。

 三つ、自分のフラグ体質。

 

 何を隠そう、マジカルステッキの起動の為の力は、魔力でもないんでもない――乙女の愛力(ラヴパゥワァ~)なのである。

 

 強すぎる輝きに、海魔たちが怯む。

 悪魔は光に弱い、まるでそれを象徴するように、悪夢を終わらせるべく――光を纏った使者が舞い降りる。

『やったー♪ 素敵です! 素敵ですよぉ~! マイ・マスタぁ~♪』

 よっぽど嬉しいのか、ルビーは興奮したように幼い凛を褒め称える……が、しかし。

「……まさか、こんな形でここに〝来る〟ことになるとはねぇ……」

 その口調は、非常に士郎に慣れ親しんだもの。

 けれど、その持ち主はここにはいない。

 いるはずはないのだが、

「ったく士郎! なんで私をコイツと契約させてるのよ!」

「と、遠坂……なのか?」

 口元が引き攣るのが分かる。

 そういえば、マジカルルビーの元々の力は、想い描く〝理想の自分〟を並行世界から今の自分に乗せること。

 つまり、どこかの並行世界にはきっといるであろう〝何かの達人〟である自分の技術だけをダウンロードする。ちょうど士郎が武器の記憶を読み取り、担い手の経験を憑依させることに近い。

 違いがあるとすれば、なんとも皮肉なことに――このダウンロードには、負担がないのだ。

 たった一点、使い手の精神的負担以外は、何も。

「勝手にトリップして目ぇ逸らしてんじゃないわよ!」

放射(フォイヤ)~!』

「おわぁ!? な、何すんだよ! カレイドルビー状態でそんなモン撃たれたら普通死ぬぞ!?」

「死んでないんだからいいでしょ! それより士郎! なんでこんなことになってんのか説明しなさい!!」

「んな、横暴な……って、海魔がまだ――」

 ほんの少し忘れていたが、そう言えば自分たちは現在進行形で命の危機だったのだ。

 放っておくわけには――と、後ろを振り返る。

 そこには、既に消し炭になった海魔の残骸だけが残っていた。

「いぃっ!?」

『いやー忘れられがちですけど、そもそもガンドにしても放射にしても、担い手が怪物じゃなきゃこんな風にはならないんですけどねぇ~』

 そうだ。

 そうだった。

 ただの軽い呪いを、まるっきりマシンガンの様に連射して教室を戦場の後の様にするようなトンでも悪魔だった、コイツは。

「邪魔モノなんていないし――ゆっくりとお話しできるわね? ()()()()♪」

「……ハイ、お付き合いさせていただきますです。ハイ……」

 何故か二度返事をしてしまった。確認すれば悪夢は消えるかと思ったのだが、どうやらそんなことはないらしい。

 というより、化け物級に強い魔術師(今は魔法少女)の前では、全ての意志は蹂躙されてしまうのかもしれないということを、士郎は再び、身に沁みるほどに学んだのだった。

 

 

 

「反省しろぉおおおおおおおおっ!!」

「なんでさぁああああああああっ!?」

『いやー、ベタでいいですねぇ~♪ ぐふふふ、最ッ高ですよ~マイ・マスター! 輝いてますよ~!!』

「うっさーい! こんなとこ呼び出されて、黒歴史また作らされて輝いてるも何もないわよばかぁーっ!」

「小学生の頃の見た目だから高校生の時よりはいいだろ!? つか、俺に当たるのは勘弁してくれぇ―っ!」

「そもそも、この時空の私が起動するに至ったのってあんたがこっちでもフラグ立てたのが原因でもあるでしょ! 責任取れ!」

『おぉー! 凜√突入ですか!?』

「そういう事じゃないわ! この阿保ステッキ!!」

 

 そんなことをわーわーぎゃーぎゃーと言い合いながら、夜の街ではそんな微笑ましい様な馬鹿々々しいような光景が繰り広げられていく。

 三人(内訳子供二人+杖一本)がその喧騒を収めたのは、それから数十分後。

 魔力の波動を辿って来た時臣たちが乗ったヴィマーナが、冬木大橋のあたりで魔力弾を必死の形相で受け流している士郎と、涙目で怒りのままに撃ち放っている凛を発見するまで続いたのだったとさ――――。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 で、その後。

 

「「ごめんなさい(正座)」」

 

 子供二人、英雄王の空飛ぶ座こそ〝ヴィマーナ〟で正座&反省中であった。

 因みに、ステッキに契約させられたままの凛は、子供のころの記憶と先取り(ダウンロード)した未来の記憶がおおよそ三対七ほどの比率で混ざり合っている状態である。

 そんな二人を見ながら、奥の方で「魔術の秘匿が……」と呟きながら頭を抱えている時臣、そして「また後始末か……」と顔を歪めている綺礼はこの二人の仕出かしてくれた痕跡が、はっきり言ってキャスターのそれより(死者に関しては一人も出ていないにしろ)大規模であることに頭を抱える羽目になった。

 だがその一方で、

「ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっ!!!!!!」

 腹筋どころか、その膓に至るまで捻じれていようかと思わせる爆笑ぶりを見せる英雄王がいたり、

「……なるほどな」

「……心中お察しいたします」

 時臣があれほど恐れていた理由が色々な意味で分かったバーサーカー主従であったり、

「姉さん……可愛い」

 フリフリの端を弄られながら、妹に絡まれている凛の姿が。ちなみに、アサシンズは甲斐甲斐しく綺礼の父、璃正のお手伝いである。

 しかし、この場で一番(年齢的・精神的にも)子供である桜は、何だか良く分からないけど姉が可愛い恰好をしているのを物珍し気に見ている。

 あまりの急展開に、なんだかもう自分が間桐家にいたことかどうでもいいかな、とか思い始めているのだが……果たしてこれは前進と呼んでいいのだろうか。ともかく、こうして姉妹の再会はなされた。

「桜……ごめんなさい。あなたを一人にして」

「姉さん……わたし」

「いいの。〝私〟は、知ってるから。でも、〝わたし〟はまだ知らない。だから、いつでもぶつかってきなさい。

 その度に、『私たち』は何度でもあなたに向き合うわ。

 あなたが、本気でそう望んでいるのなら――何度でも、ね」

「…………はい」

「……よく頑張ったわね。

 でも、大丈夫。ここから先は安心していいの。

 絶対に、夢なんかじゃ終わらない、終わらせない未来があるから――」

 絆を取り戻した姉妹の抱擁に、その場は一時静寂に落ちるが……勿論、そんな空気を読んでくれないような奴もいる。

『あのー、桜さん? 唐突ですが、凛さんとお揃いの魔法少女、成ってみませんかー?』

「なれるの?」

 割と乗り気の桜さん。

「げっ!? あ、あんた、私の妹にまで黒歴史の毒牙を掛けようとしてたの!?」

 それとは反対に、妹の危機を感じ焦る姉。

『あはははー♪ 毒牙だなんて人聞きの悪い。私の妹のサファイアちゃんがそろそろ来る頃なので、桜さんをパートナーにどうかなー? と思ってました次第というだけですよ~』

「妹!? 何それ!?」

「……なってみたいな」

「桜ぁーっ!?」

「姉さんと……お揃い」

「嬉しいけど! 嬉しいけども思いとどまってぇ――っ!!」

『うっしゃぁああああーっ!! 二人目のロリっ子ゲットォー!』

「士郎ぉー! 桜を止めてぇ~~!!」

「無理だ遠坂。この時空の桜が言うこと聞くのはたぶん、今この場ではオマエと雁夜さんくらいだ……」

 正義の味方では止められない。

「おじさーん!」

「え、あ……いや、まぁ……可愛いんじゃない、かな?」

 保護者としては、別にそこまで恥ずかしくないと思ってしまう。欲目もあるだろうが、はっきり言って今の年頃凛と桜なら可愛らしくこそあれ、そこまで恥ずかしくもないだろうからというのが最も大きな理由だが。

 ……ちなみに、カメラは既にランスロットがキープ済み。

「そんなぁああああ~っ! だめー! 桜は汚させないぃー!」

『うるる……何と麗しい姉妹愛。妹を持つ身としては、共感を得ます……ですが、このルビーちゃんの一番好きなことは、〝(ラブ)正義(パワー)〟! 

 そして、自分の楽しみを貫くために、あえて大切な主人(という名のおもちゃ)にノーという事です!』

「あぁ……やっぱこうなったか」

 

 ――――そして、その場は再び地獄(?)となったのだった。

 

 

 

 *** 夜は終わり、彼は再び〝それ〟と(まみ)える

 

 

 

 

 地獄の一端。

 それは、見ようによってはとても素晴らしいモノなのかもしれない。

 だが、それは往々にして、人の心に傷をつける様に穿ち、抉っていくのが世の常であるという事を、忘れてはならないのだ――――。

 

 

 

『さあさあ、時は満ちました!! 行きますよぉ~っ? レッツ、転身(マジカル)タイム!』

『理由は分かりませんが、ひとまず同調しておくことにします』

 そんな声が、夜の闇に響く。

 ぎゅんぎゅんと、無駄に輝きを放つ二本のステッキ。というか一体いつ増えた?

『先ほどです』

 即決回答をありがとう。

 さて、目の前で起こっている現状は、少なくともごくごく平和とは口が裂ける――どころか、仮に全身が反転することになっても言えそうにない。

 勿論、何も言えない俺は泣いている女の子に手を差し伸べられそうもない。

 ……嗚呼、正義の味方に成れていたと思ったのは、俺だけの自己満足だったのか。いや、元々見返りが欲しかったわけじゃないと、摩耗した未来の自分ですら言ってたくらいの馬鹿だとは知っているけれど、それでも。

「うぅ……士郎のばかぁ……!」

「姉さんと変身……(わくわく)」

 こんな状況を、俺にどうしろっていうんだ。

 出来ないことは引き受けない。それは、大切な人が相手でも例外はない。

 だけど、心が痛いなぁ……嗚呼、俺にもっと力があったら。

『あぁ……! 高まります! 昂ぶりますよぉ~ッ!!

 さあ、サファイアちゃん。行きますよ? 私たちのマスターを、可愛らしく、凛々しく、美しく、華麗に変身させて差し上げましょう!!』

『……些か心が痛む気もしますが、出オチというのもしゃくなので、今日のところはひとまず姉さんに従いましょう。

 それに、私もマスターが欲しい所なので』

「たー、すー、けー、てぇぇぇ――――っ!!」

「……ゴメンな、遠坂……今の俺は無力だ…………」

「(わくわく)」

 三者三様の表情を見せ、光に満ち満ちたヴィマーナで、悪夢(?)かもしれない何かが始まった。

 

『『――――コンパクトフルオープン! 鏡界回廊、最大展開!』』

 

 繭の様になった光が、凛と桜の身体を包み込む。

 カレイドステッキに溜まった魔力が収束し、二人の服を吹き飛ばし、新しい服を作り出す。

 男なら見ていたいような気もするが、光のカーテンは男の目を悉く遮り、麗しい少女たちの変身の全貌は隠している。

 シルエットのみが映される中、少女たちの衣が少しずつ変えられていく。

 服が、

 腰にスカートが、

 背になびくマントが、

 順を追って変わっていく、変えられていく。

 ひょこひょこと揺れるケモミミが最後に頭部に着けられ、遂にその光は一気に弾けた。

 

『魔法少女、カレイドルビー(真)――爆・誕・っ!!』

『魔法少女、カレイドサファイア(妹)――推参いたしました』

「姉さん。わたし、楽しいです(きらきら)」

「あはは……よかったわね。ええ、よかったのよ……もう何でもいいわよ(ぐすっ)」

 

 ――そこには、大変可愛らしくポーズを決めた魔法少女たちがいた。

『よっしゃぁぁああああああああっ!!

 決まりました! 初の決めポーズ、ばっちりでしたよ! サファイアちゃん!』

『ええ、見事な決めポーズでした。お二人とも、大変可愛らしく、そして凛々しい姿だと思われます』

「だそうです。姉さん(にこ)」

「あー、嬉しいなぁー! こんちくしょーっ!」

 ごめん。ごめんよ遠坂。あと似合ってるよ、うん。

 そして桜、段々感情が強くなってる。良い傾向だと思うよ。うん。

 俺には止められなかった。……というか、よくよく考えてみると、何で桜の方は人格のダウンロードがされてないんだろう?

 まぁ、それはともかくとして――ここから先に、俺はいったい何を見るべきなのだろうか。

『きゃー☆ 素敵ですー、マイ・マスタ~!』

 ルビーは、嫌味なほどにご機嫌だ。

「あははははははははははははははははっ! よい! 良いぞ小娘らよ! 中々に愛いではないか」

 か、完全に楽しんでやがる……。

 ぶん殴りたいような衝動に駆られたが、止められなかった俺にそんな権利がある筈も無く、俺は結局申し訳なさと……二人共可愛いなと思うくらいしかできなかった。

「はぁ……」

 俺がため息をついている傍らで、桜が雁夜とランスロットに写真をお願いしている。

「はーい、笑ってふたりとも~」

「では撮りますよー」

「ピース」

「……ぴーす」

 保護者目線な雁夜と、ランスロットはさして躊躇うこともなく二人を撮っている。

 ……そもそも、凛と桜の心境は無きが入るほど差があったような気もするが。

 その後も撮影会は続き、『別バージョンですよぉ~♪』とルビーの出した提案に乗った桜に頼まれると、色々と知ってしまっている人格を付加された凛に断ることなどできる筈も無く、結局その後も衣装替えが幾度となく続いた。

 

『とある三角水晶(プリズマ)な世界線のモノでーす♪』

「……猫耳ないのは、まだいいのかしら?」

『いやー、可愛いとは思うんですけどねぇ~。

 こちらでは年増呼ばわりしちゃったりもしますけど、私は基本的に過去・現在・未来を通して、(面白い)マスターのことは大好きですよ~♪』

「……聞こえてんのよ、本音が」

『さー、次行きましょう次!』

「うん、お願いサファイア」

『桜様が望むのでしたら、是非もなく。この世界の私のマスターは貴女ですから』

「ありがとう」

『麗しい友情ですねぇ~』

「……なんでこうなるのかしら……優雅さはどこへ消えてしまうのかしら」

 きっとそれは、遠い遠い次元の彼方だよ、遠坂。

 優雅さはあまり気にしなくてもいいんじゃないかな? と、かなり失礼だが……項垂れている凛と、後ろでなんか怯えてる時臣さんを見ていると、ついついそんなことを思ってしまうのだからしょうがない。

『さあ、さ。今度はステッキ入れ替えでの転身ですよ~♪』

「ふわふわ……」

『凛様も、とてもよくお似合いです』

「露出多いなぁ……」

 諦めてきたのか、凛は既に半分楽しんでしまうべきか思案中の、反応半減モード(単なる現実逃避ともいう)に入っていた。

『では次はビーストも――「アウト! それだけはアウトだぞルビー!」

 右手に契約破りを持って、ルビーに突きつける。

『あーれー、おたすけぉ~』

 絶対そんなこと思っていないだろう口調で、ルビーはそんなことを言った。

『御慈悲を~』

「ない! そんなものはない! 少なくとも、これ以上遠坂を辱めたら、八つ当たりされるのは間違いなく俺だからな!」

 一応、遠坂の方を見る。

 もしかしたらそこまではしないと言ってくれ――

「(あ、それは分かってるのね)」

 ――る筈もないらしい。

 それは、悲しい事実だった。

 というかステッキを交換してる最中でなければ、きっとルビーにこんなことは出来なかっただろう。

 ああ、もうこうなりゃヤケだ。

「――――投影層写(ソードバレル・オープン)

 上空に、〝精霊を殺す〟あるいは〝呪いを解く〟ことに関連したありったけの『記憶(ちしき)』を基にした剣を並べる。

 いくら()()()()()()()が手を焼くといっても、コイツ自体には持つ主から離されて俺に抵抗する力はない。古今東西にいる英霊たちの武器、これならきっと……確実に殺せるだろう。

 ……つか、あの朱い月の成れの果ても魔法少女を面白がってやってるくらいだ。これくらいあれば、少なくとも契約の解除くらいは出来るだろう。

 そして、どうやらそれは当たりらしい。

 目に見えて焦りだしたルビーは、

『あ、あのですね……? ちょ、ちょーっとやりすぎたかなー、と思わなくもないルビーちゃんなのですが……?』

 こんな風に、どうにか逃がれるための算段を立てている。

「――――――」

 だがそれは黙殺しておいた。

 多分、その方が〝らしい〟だろう。

 桜の手からステッキを奪い取り、剣を突きつけている様はいったい傍目にはどう映ったのだろうか? きっと、凄く間抜けに見えるだろうが……こっちだって、命は惜しい。勘違いされがちだが、割と俺も命は惜しかったりする。

 少なくとも、どこぞの親友のワカメ頭に妹の日記帳を見に連れていかれて、自分だけ逃げだそうとするくらいには。……よし、あいつもこの際だから更生させよう。あいつはシスコンなくらいでいい。愛が重いのが間桐家だし、多分大丈夫だ。うん。

 くだらないと百も承知の思考が一秒間脳裏を駆ける間に、被告人ルビーは許しを請うべく士郎に交渉のカードを提示する。

『じゃ、じゃあ、士郎さん! 妹さんたちのあられもない写真とか欲しくありません? 今なら無料でお渡しできますよー?』

「んなもんいるか!」

 断じて俺は妹(たぶん雪のお姫様)のあられもない写真などに釣られはしない!

『で、では! もう一人のマスターのとかどうです? 思春期の男の子にはたまらないと思いますよ? たぶん、おっぱい的な意味で!』

「ぶぶっ……!? ば、馬鹿! ンなもん余計にもらえないわ! というか後が怖すぎるんだよ! 真冬のテイムズ河はご免なんだよ……っ!!」

『んー……じゃあ、ママさんの方はいかがです?』

「……親父に殺されるぞ? オマエ」

 というか、どこで手に入れてくるんだ? そのルビーコレクションは。

 もしかしたら、カレイドのネットワークは、きっとどんな次元すらも超越しているのではないだろうか……?

『むむむ……手ごわい。

 あ、ではこれなどいかがです? いかがわしくない、寧ろ士郎さんが見る分には何の問題もないモノですが』

 前置きがない分恐いが、一体それが『何で』あるのかについてははっきりさせておかなくてはならない。

「……で、それは誰の?」

 

『時臣さんです』

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………思考回路が途絶する。

 だがそれは、皆もまた同じようで。

 

 

 

「「「――――――――――――――――――――――――――――――」」」

 

 

 

 長い長い沈黙が、その場をただ漂っていた。

 空気は凍り付き、何もかもがその場に固まっている。

 しかし、勿論――――あの(・・)ルビーがその空気を読んでくれる筈もなく。

 

『これはこの時間軸における、二十年ほど前の映像なのですが――』

 

 最大の悪夢を、ここに投下してくれることになったのだった。

 その場に、ルビー以外に音が生まれたのなら、それはきっと――家訓をかなぐり捨てた時臣の心の悲鳴だっただろう。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 ――――世界は今一度、地獄を渡る。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 一瞬の気の迷いだった。

 何もかもが、最悪に転んだ一瞬。

 それだけの、はずだったのに――――。

 

 

 ――――この遠坂は、誇りある『魔術師』の家系である。

 

 

 疑いようのない、その一点を信じたがゆえに起きた――一時の悪夢。

『私は、くそじじ……もとい、あの大師父・ゼルレッチに造られたマジックアイテムなんですよ~♪』

 嗚呼、信じてしまったがゆえに――こんなことが。

『――――さあ、私と契約してくださいまし☆』

 手に取ったあの時を、何度後悔したか分からない。

 

 

 

 〝うっかりフェアリル! マジカルボーイな魔法少女、とっきー☆〟

 

 

 

 

 

 

 うがぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――――――そして、全てが終わった。

 

 

 

 *** 終焉 ひと時の終わり To_be_next.

 

 

 

 何もかもが終わった後、そこには今よりも結束を強くした陣営だけがあった。

 

 ――ただ、それだけ。

 

 それだけの終わりを迎えた、夜の物語だった――――。

 

 

 

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