Fate/Zero Over   作:形右

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 ――初めに手を伸ばした少年が、救いのも取らされた後で、最後に救われる。

 そんな今シリーズのエピローグ。
 かつ、次作へのプロローグ。

 新月の夜へ続く、始まりの時。


最終話 ~Over Zero After ――更に先へ――~

 終わりを迎えた少年の始まり ――Restart――

 

 

 

 ――――あの日、大切な何かが終わった。

 

 大切なモノを()くしたような、そんな()()()

 痛みも恐怖も、その終わりと共に消えていった。

 そうして、何もかもを失った後……身体(じぶん)は何時しか、空白(からっぽ)になってしまっていた。

 何となく、それはヒトでなくなったのだと知る。

 自己が消え、命だけが残り、繋がりを全て失った。

 ……なのに、酷く客観的に、命だけが残った肉体(カラバコ)を観ている。

 

 これは、本当に〝死〟だったのだろうか?

 

 在り方を失ったモノに、それを知る術はない。

 何か一つだけでも欠けてしまえば、変わることだけは判る。

 ただ、それ以上に何かを見極める術を持たないが故に、先へ進むことが出来ずにいた。

 取り残された残骸のように、過ぎる時を呆然と感じている。

 痕跡だけを残し、存在するだけ。

 生きているわけではないのだろう。

 何故なら、在るべきものでも、必要なものでもない。

 しかし何にも害を為さず、在ることもまた害でない。

 ただ、そこにいるだけ――――ああ、なんて無価値な存在感。

 

 酷く歪だ、……今の『自分』は。

 哀しいコトだったのだろう。

 もしかすると、痛いコトなのかも知れない。

 ……でも、何も感じられない。

 失ったモノは戻ってこない。

 止まったままの針を動かすことが出来ず、何時までも留まっている。――あの夜に、ずっと。

 

 

 ――――ああ、でも。

 

 

 そういえば何か、……別物のようであったのに、何か同じ物が、ずっと共にあったような気がする。

 少しだけ、あの時――針が動いていた。

 でも、それは自分の知らないところで始まり、いつの間にか終わっていた。

 なら、関係ないことなのだろう。留められ続けても、今こうして先へ進めないなら、同じことだ。

 

 思い浮かぶのは、あの夜。

 暗くて、冷たい。

 とても苦しくて、鉄の臭いが強く充満していた。

 

 〝――――怖い〟

 

 最初に、(おぞ)ましい笑い声が聞こえた。

 澄んでいるのに、どす黒い汚れを感じさせる声。

 自分を満たすために他者を弄ぶ。

 悪いコトで、酷いコトだったのに……何の助けもやってこないまま、自分の繋がりをあっさりと断ち切られた。

 怒りで燃えた。

 でも、直ぐに冷めた――恐ろしくて、怖かったから。

 なのに最後まで、自分が残っていた。

 恐怖なんて無くても、今と同じだ。

 たった一人きりで、残ってしまっている。

 ……なら、自分なんてどうでも良かった。

 こんなところにいるだけの自分なんて要らない。

 

 

 

 〝まさしく、正しく――そこは地獄だった〟

 

 

 

 だから、何か救いが欲しかった。

 だから、手を伸ばした。

 元の時間を取り戻したい、と。

 ……だが、間違いなく救えたモノなんて何もなかった。

 全ては救えなかったのだ。

 恐怖は消え、確かに救いはあったのだろう。

 でも、こぼれ落ちてしまった物は確かにあった。

 伸ばせた偶然に、奇跡に救われてしまった。

 それを理解したとき、硝子の割れる音がしたような気がする。

 

 砕けていく自分。

 それはそれで良かったのかも知れない。

 砕けて、()くしたモノの場所に行けるなら、それでもいいと。……どうせもう、誰も自分など必要としていないのだから。

 ならもう、こんな『自分(から)』なんて要らないだろう。

 終わりなら、それでいい。

 どうせ今はもう、空っぽで。

 独りだけで、一つだけ。

 隣り合うモノは、何も無い、はず……なのに。

 ……そう、思っていたのに

 

 どうしてか、決して消えることなく、何かが繋がっている。

 見えるモノなど何処にもないのに、間違いなく自分と本当の意味で繋がっている。

 失われた熱が燃え上がる。

 だけど、一度目に広がったのはまた地獄。

 炎の中、人が死んでく。

 誰も彼も平等に。けれど、自分だけが生き残る。

 恐怖に優劣など存在しないが、少なくとも静かな終わりとは全く別の恐ろしさがあっただろう。

 同時に、手を伸ばすことさえ出来な――

 

 ――――しかし、光が起こる。

 

 まるで、案ずるなと諭すように。

 そっと、包み込むかのようにして、何かが。

 炎を晴らし、先への道を示す。

 

 〝暖かな光は、黄金の輝き。

 遠くで待つ少女は、清廉な青を思い起こさせる。

 連れて行ってくれるのかと思ったが、それは違うようだ。

 今はまだ違う。

 其処に、貴方だけの繋がりがあると告げ、彼女は微笑みを向けてる〟

 

 

 ――――それは、無価値なだけの人間(ずめん)意味(カタチ)を与える輝きだった。

 

 

 肯定と共に、熱が宿る。

 守られているように、支えられているように。

 先への繋がりを、示すように。

 そうして、繋がりはまた結ばれる。

 

 

 

 

 

 

「こんにちは」

 

 

 

 閉ざされた戸が開き、黒と銀が覗く。

 瞬間。鼓動が強く、ハッキリと自分を動かし始めた。

 先へ進めと、身体の方が理解しているように。

 が、意見には同意した。

 悪いことにならないのは、判る。

 ……だから、もし手を伸ばしてもらえるのだとしたら、きっとその手を取ることになるんだろう。

 あの暗闇の中のように。

 あの地獄の中のように。

 ……もう一度だけ、始まりを()()

 今の自分の意味。

 求められた理由。

 それ以上に、あの光が望んだ『自分』の生を。

 もう一度だけ、今度は自分から掴もう。

 

 〝そうして、定めの幕が下ろされ、また此処に始まりを告げる。

 在る少年の歩く次の路。

 もう一つの、更に別の夢の道――――――〟

 

「ねぇ、〝士郎君〟。

 いきなりだけど、貴方は見ず知らずの私たち夫婦に引き取られるのと、施設に預けられるのだったら、どっちが良い?」

 

 これが始まり。

 終わりの自覚と共にやって来た、もう一つの路。

 失われたモノの先へ――。

 空白の時を越えた、新たな物語の始まりだった。

 問いかけの答えの代わりに伸ばした手は、ハッキリと二人を指している。

 嬉しそうに微笑んだ二人。

 そして最後に、

「ああ、そうだ。一つ言い忘れてたことがあった」

 今度は男の人がこう告げた。

 その内容は、悪戯っぽい笑みに似つかわしく、けれど何の躊躇いもなく。

 

 

「うん。初めに言っておくとね?

 ――――僕たちは、〝魔法使い〟なんだよ」

 

 

 とても夢想じみた言葉だったが、その時の()に浮かんだのは純粋に、二人への感心だけだった。

 

 

 

「うわ―――二人とも凄いな……!」

 

 

 

 

 

 

 

                  

Fate/Zero Over―――END

 

 

 




 これで、Fate/Zero Over――連載当時ほとんど出てこなかった副題で、ハーメルンでの題名――最終話でございます。
 このシリーズの、本当に最後の最後。
 こちらへの移行投稿も終わり、やっと次のシリーズへ行けそうです。

 ともかく、これで完結でございます。

 一応、続編へ続くのですが、次のシリーズはこのシリーズの設定・世界状況を完全に引き継いだ続編ではありません。
 アンケートでプリヤ時空へ繋がるので、接合性のための変更が多々ありますので、ご注意を。

 ともかく、お読みいただきありがとうございました。

 次のシリーズも読んでいただけたら嬉しいです。

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