Fate/Zero Over   作:形右

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 第五話です。


第五話 ~震撼する戦場、迫り来る影~

 射貫く矢、そして降り立った王

 

 

 

 心静かに、(けん)を弓につがえる。

 少し高い倉庫の上。幼子らしからぬ身のこなしが出来たことから、だいぶ()()()()()()のだという事が解る。

 狙う先には二つの人影。猛き青と緑の戦士たちが持つ、剣と槍。また、射るは剣と槍の間。二人の激突するその隙間を撃ち抜く。

「……ふぅ」

 一息(いきひとつ)。集中の撃鉄が起こされた。

 傷つけることなく、二人の攻め筋にある空白を貫き、勝敗なき錯綜をこの場に作る。

 外しはしない。少女が剣を覆う風を解き放ち、丈夫が二槍を操り少女の不意を狙う、その刹那を再び静に還すために、この世界で初めて弓を引く。

「――――」

 引き絞りながら、囁くように詠唱(コトバ)を紡いだ。

 声に合わせ、引く手に合わせ、手の中にある『剣』が『矢』に変わっていく――

 

 ――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

 

 螺旋を描く剣が、その身を更に引き絞られ――より鋭く、より速く、対象を穿ち貫くためのものへと姿を変える。

「――偽・螺旋剣(カラドボルクⅡ)

 真名を解放し、『鷹の目』と称されたこの目で両者の間にある隙を射る。

 少女が解いた風が伝わる。頬をなでる猛々しい感触は、自分にとっての強さの象徴である彼女にはふさわしい。

 が、それさえも今の己にはどうでもいい。

 矢を引くことで(から)となったこの身は、今はただ彼女の剣と、向かってくる彼女をもう一つの真打ちで穿とうとしている槍兵の槍先のみを狙う。

 響く地鳴りすら意識の外に置いて、決定している軌跡をなぞれと矢を放った。

 それで、もうこの状況は終わった。

 外すことはない。それは、数少ない自身の中にある矜持であるからこそ。

 直ぐさま二本の剣を作り、次に起こる事態をかき消すために矢を少しずらした方へ向け、弓につがえる。続けざまのこの二射も、焦ることはない。この身が未だ幼かろうと、落ち着いて放て。

 焦る必要は無い。『矢』は、これらの『剣』は、己が体。

 自分が成すために、ただ一つの世界に閉じ込められた記憶であり、同時に『(カラダ)』という全て。

 経験(きおく)を重ねたばかりの身体は、まだまだ未完成で完全というにはほど遠いが――それでも、この身が至った理想が、誰かを救うことである限り、こればかりはし損じるわけにはいかない。

「赤原を駆けろ、緋色の猟犬――喰らえ、赤原猟犬(フルンディング)……ッ!」

 それぞれの赤い矢に、それぞれの獲物を命じて撃ち放つ。とはいえ、本当に射貫(いぬ)くための奇襲ではなく、最初に放った場所を誤魔化すためだけの牽制の一撃。

 本来ならば決して離さぬ猟犬も、未熟なこの身でそれならば、そこまで行ければ上々だ。元より、英霊相手ではそう易々とは必中はとれはしないのだから。

 だが、それでいい。

 戦況は、これで変わる。その先はいまいち解らないが、それでもいい。

 今、ここで英霊に死なれるのは困る。戦うことが騎士の誉れだとしても、それでも俺は邪魔をする。

 聖杯戦争という中で、今目の前で起こるそれらから始まる悲劇を、叩き潰すために。

 

 

 

 ――英霊たちでさえも気づかない内に、無駄なく放たれた三本の矢が、運命の夜を覆う闇を駆けだした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 一閃必中。

 狙い定めた一撃は、確実に相手を屠るだけの威力を持っている。

 解き放った風が、体躯(カラダ)を後押しする疾走感に駆られながら、手に握った愛剣が後ろで引かれるほどに振りかぶりながら突進する。

 通常の踏み込みに対して、その速度は実に三倍近く。英霊の身体能力を考えれば、ゆうに音速を超えそうなほどの勢いのまま、敵であるランサーの懐へ飛び込む。

 風を解く寸前、奴が僅かながらに足捌きを誤ったのが見えた。

 その隙、僅かながらの解れへと、文字通り飛び込んでいく。敵の赤槍を吹き飛ばす心算で、剣を振るう――

「――――ふっ」

 笑っ、た……?

 敵の浮かべた笑みの意味が解らず、目の前の光景が急に停滞を始めたが、そのくせ身体はちっとも動かない。

 生命の危機に瀕した時の、思考の加速。

 ――私は何か、重大な見落としをしているのか?

 自身への問いかけも、突き進んでいく体躯も。何もかもが世界から、空間から、時間から切り離されたかのように、自分の思考の中に沈んでいく。

 そんな中、黙視していた深緑の戦士が足下から何かを蹴り上げた。

 無駄なくてに収められたのは、先程放り捨てた短槍。

 そこで、ようやく気がついた。

 

 〝――宝具は、決して単一とは限らない〟

 

 そんな基本に、今一度立ち戻る。

 あの槍兵が、もし二本の槍を操る伝承を持つ英霊なのだとしたら――あの二つの槍は、何方も奴の『宝具』たり得るのだということに。加えて、飛び込む前に奴の言った言葉。

 それは――。

 

『しかし、この場に限って言わせてもらえば――それは失策だったぞ。セイバー』

 

 つまり奴には、飛び込んでいく此方を貫くだけの何ががある。

 有利に転じた筈が、一瞬にして不利な状況に転じた。だが、それがどうした。此方の一撃もまた、魂を込めて放つ一撃。

 ――何方も自分の矜持を掛けて、真っ向から突き抜ける!

 そう決意した瞬間。停滞した時の流れは終わりを告げ、周囲に色彩(いろ)が取り戻された。

 しかし、奴の槍と私の剣が交わることはなかった。

 それどころか、私と奴はその交わる筈だったその隙間を、正確無比に〝射抜いて〟きた『誰か』によって貫かれた。

 だが、それは相手(ランサー)にとっても予想外らしく……奴もまた、自らの黄色の短槍の穂先を弾かれた事に驚き、目を見開いていた。

 その驚きも頷ける。

 何せ、その射は――私たちの剣と槍が交錯する直前の、私の腕を擦る槍先とランサーに届こうとしていた剣先を()()()()弾き飛ばし、私たちを無傷のままに左右へ吹き飛ばしたのだから――――

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「ぐっ……!?」

 ドザザッ! と、セイバーが地面に身体を擦らせ止まった。勢いがついていた分、彼女の方が俺よりも体勢を崩されたらしい。

 此方は弾かれた槍を手から取りこぼした程度で、姿勢によろめきはさしてない。

 それこそ、今すぐ喉元を突かれたとて、それを躱し敵の喉笛を狩らことは造作もないほどに。

 しかし今、この身を驚愕に晒しているのは、先程まで互いを斬り伏せんと肉薄していた俺たちを、剣先を交わらせる事なく引き離した何者か。

「――何奴……?」

 矢の飛んできた方向を見ながら、矢を放った者の意図を探る。

 援軍かと思いもしたが、それにしてはおかしい。あれほどの射にも関わらず、矢を放ったであろう何者かは、決して〝俺だけ〟を狙ったのではなかった。そうでなければ、あの瞬間に、あとほんの僅かばかり矢の軌道がズレていただけでも、今頃は確実に俺の脳天は貫かれ地に伏していただろうに。

 なのに、狙われたのは俺とセイバーの〝二人〟――いや、これも正確ではない。

 より正確にいうならば、狙われたのは俺たちの武器の切っ先。

 何方も倒さない、傷つけないことを前提とした精密な射撃。

 そこに己の力を鼓舞する意図は見受けられず、寧ろ受けた此方からすれば――あの射は、セイバーを庇った(・・・)かのようにも見えた。

 だが彼女もまた、矢が此方へ向け放たれた瞬間に動揺していたことから――これは恐らく、彼女の知るところではない第三者からの追撃と考えるのが自然か。

 彼女の『陣営』からの援護とも考えられなくはないが、先程のは紛れもなく『矢』であった。それも、相当な神秘を纏ったものであり、同時に何処かケルト系の流れを持つかのようにも感じられた。

 となると、新手という事になるのか? と、考えもしたが――どうもその線はなさそうだ。

 殺気らしい殺気が感じられなかった、と考えていた――――その刹那。

 

「「――――――ッ!?」」

 

 再び、矢が襲い来る。

 ほぼ同時に飛来した二本の赤い矢。更に信じられない事に、それらはまるで意思があるかのように、俺とセイバーの両方を狙って向かってきた。

 セイバーはすぐさま起き上がり、その矢を躱そうとしている。

 此方も直ぐさまそれに倣い、躱す。

 最優、最速の『(クラス)』は伊達ではない。

 危なげなく、迫る矢を躱そうとした。

 だが、

「な――に、……っ!?」

 その矢は、躱そうとしたとした獲物を追う猟犬のように、その動きを不規則に曲げて、こちらへ迫る。

「くっ……!」

 槍で弾く。喰らいつかれそうだが、落とせぬ程ではない。

 そして、『宝具』であるならば――この手の魔槍は、魔を根底から断ち切る!

「せあ――ッ!」

 赤は赤によって砕かれ、魔力の粒子に変わっていく。このことから、矢が宝具であるという確信に至る。

「やはり宝具……となると、新手というのは確かなようだな」

 此方と同様に、矢を叩き伏せたであろうセイバーへ視線を向けそういうと。

「その様だな。決闘を邪魔するとは、その了見を問わねばならんな。ランサー」

 彼女はそう答えた。

 ああ、だからこそ――この『騎士王』たる彼女は好ましい。

 正体を晒して尚、決して萎縮する事なく真っ直ぐな心根をもつかの王に、騎士としてどうしようもない畏敬を感じる。

 だがその前に、この場を掻き回した無粋な輩を拝まずにはいれまい。

 矢の飛んできた場所の当たりは凡そついた。しかし、第二射――ほぼ間の無い二連の〝一射〟に思えた一撃は、飛んできた方向が分からなかった。十中八九矢の特性なのだろうが、万に一つ撃ち手の力でないとも限らない。

 どうにも、動きを封じられた。

 それはセイバーも同じようで、彼女の視線は、口惜し気に第一射の放たれた辺りを見つめるまでに留められている。

 場は、再び静まり返ったかに思われた――――

 

 

「――――AAAALaLaLaLaLaie(アアアアララララライッ)!!」

 

 

 刹那の静寂をぶち破るかのように、雷を迸らせながら巨大な戦車がよく似合う大男がこの場に降り立った。

 筋肉隆々。猛々しい事この上ない風貌で、まさしくそれに相応しいと言わんばかりの豪快さで、その大男は声を張り上げ、俺たちへ向けてこう宣言した。

 

「双方剣を収めよ、王の御前である!」

 

 自らを王と称したその男は、その巨体には似合わない憎めなさを伴う笑みを浮かべながら、有り余るほどの威厳を放ち、周りの空気を自分自身の色へと染め上げている。

 それはまるで、何もかもを蹂躙していく大勢の如く。

 

「我が名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争では、騎兵(ライダー)の『(クラス)』を以て現界した」

 

 

 

 豪快にして不遜極まりなく、自身に絶対の自信を持つ確固たる姿。加えて、自らの真名を隠そうともしない何とも風変わりな『王』の登場に、場の流れは再び塗り替えられていくのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――――『冬木大橋』。

 

 聖杯戦争においての戦いの場にして、その儀式の大本たる『大聖杯』の眠る土地――冬木市の『新都』と『深山町』を二分している大河を渡る巨大な橋である。

 その橋の上、より正確に言うならば、車の走る道路のさらに上。

 橋にかかるアーチの鉄骨の上に堂々と立つ身長二メートルはあるだろう大男と、それとは対照的にびくびくと鉄骨にしがみついて震える小柄で中性的な少年がいた。

「ラ、イ、ダー、降りよう、ここ……早く!」

 震えている少年。ウェイバー・ベルベットは、ここに上って何度目になるか分からない弱々しい声で己のサーヴァントであるライダー、『征服王イスカンダル』にそう告げる。だが、先ほどから続くこの嘆願は風に流され、ここから唯一降ろしてくれるであろう存在のライダはも、遠く離れた倉庫街で戦っているらしいセイバーとランサーの戦いに夢中でウェイバーの言うことなどちっとも聞いてくれはしない。

 半泣きのまま「……もう嫌だ……イギリスに帰りたい……」と泣き言をぶつぶつと呟くウェイバーに、ライダーは最初のほうこそ冗談交じりで相手をしていたが――とはいえ、そんなデコピン一つとっても、ウェイバーからすれば命の危機に等しいものだったが――今はそちらには目もくれず、ただひたすらに倉庫街での戦いを凝視している。

「……いかんなぁ。これはいかん」

「な、なにが……」

 久方ぶりに口を開いたライダーに対し、ウェイバーは純粋にライダーへ質問をしたかったのか、はたまた自分で自分の気を紛らわそうとでもしたのかどうかも分からないままに口を開く。

 ともかくそう訊くと、ライダーは暫し己の思考を反芻した後、ようやく応えた。

「ランサーの奴め、決め技に訴えおった。早々に勝負をつけるつもりだな、ありゃぁ……」

「え、それって好都合なんじゃ――」

 聖杯戦争に挑むマスターの一人として、サーヴァントが一人でも脱落してくれるならば喜ばしいことなのではないのかと、自分が橋の鉄骨の上にいることも僅かに忘れてウェイバーはそう思い、ライダーにそういったのだが……どうやら、この時二人の間にない共通認識の齟齬(そご)は〝高い所は危険である〟というモノだけではないようだった。

「馬鹿者。何を言っとるか」

 ガン、と鉄骨を踏み鳴らしライダーは苛立ちを橋に伝える。

 英霊であるライダーがそんなことをしたら、必然その橋はただではすまない。しかし、そんな愚考にわざわざライダーがはまるわけもないのだが、ことその隣で橋の揺れを直に受けているウェイバーからしてみれば恐ろしいことこの上ない。

「ひい……っ!?」

 またしても小さく悲鳴を上げながら、ますますがっしりと鉄骨を細腕で抱きしめる。

「もう何人か出揃うまで様子を見たかったのだが、あのままではセイバーが脱落しかねん。そうなってからでは遅い」

 その言葉に、ウェイバーは怪訝な顔をした。

「はあっ? ほかのサーヴァントが潰し合ったところを襲う計画だったじゃないか」

「……あのなぁ坊主、何を勘違いしおったか知らんが」

 ライダーは呆れた様子でウェイバーを見返す。

「確かに余は、ランサーの挑発にほかの英霊が乗って出てこないものかと期待しおった」

「な、ならなんで……?」

 ウェイバーにしてみれば至極当然の疑問。しかし、ライダーにとってそれはまた違った意味であり、同時に彼にとってごくごく当たり前のことだった。

「当然であろう。一人一人相手をするより、まとめて相手をしたほうが手っ取り早かろう」

「まとめて……相手?」

 呆然となりながらもそう呟いたウェイバーを見て、ようやく己が主も我が意を得たかとばかりに笑みを浮かべたライダーは、狩る獲物を見つけた獣のように唸りを上げると、嬉しげにこう語った。

「応とも。異なる時代の英霊豪傑と矛を交える機会など滅多にない。それが六人もそろうとなれば、一人たりとも逃す手はあるまい?」

 獅子か熊でも目の前にしているかのような気分にさせるその様に、これがライダーなりの含み笑いなのだろうとは思っても、どうにもその恐ろしさからは脱しきれないウェイバーをよそに、ライダーは早速とばかりに腰に下げた剣を抜き、今尚続く剣戟の真っ只中へ乱入する気満々で己が戦車(チャリオット)である〝 神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)〟を呼び出そうとする。

「現に、あのセイバーもランサー。あの二人にしてからが、ともに胸の熱くなるような益荒男どもだ。気に入ったぞ、死なすには惜しい」

 嬉々としたままライダーはそういうが、ついにその物言いにウェイバーは我慢できずに怒鳴る。

「死なさないでどーすんのさ!? 聖杯戦争は、殺し合いだってば――」

 しかし、そんな精一杯の威勢さえ、かの征服王の前ではデコピン一つで終わってしまう。

「勝利して尚滅ぼさぬ! 征服して尚辱めぬ! それこそが、真の〝征服〟である!!」

 高らかに宣言し、ライダーは雷を迸らせて戦車を呼んだ。

「さて、見物はここまでだ坊主。我らも参じるぞ!」

「馬鹿馬鹿馬鹿! お前やってること出鱈目だ!」

 最早ついていけないと、ウェイバーは言おうとした。付き合いきれない。もう勝手にしてくれ、と。

 だが、

「ふむ……では気に食わぬなら、ここで余が戦い終えるまで待つか?」

 それはつまり、降りれもしないこの場所に一人取り残されるということで――

「行く! 行きます! 連れて行け馬鹿!!」

 ウェイバーは、もう恥も外見もかなぐり捨ててそう叫んだ。

「うむ! それでこそ我がマスターだ!!」

 満足そうにライダーは自身のマスターを伴って戦場へと向かう。

 

「いざ駆けよ! 神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)!!」

 

 新たな一石が投入され、静まり返りつつあった水面(せんじょう)は再び波紋に踊らされた。

 そうして、戦場へ向かうライダーだったが――その前にもう一度と、再びセイバーとランサーのぶつかり合いを目視しようとして、目を向けた。

 すると、丁度それは二人がぶつかり合う瞬間。さらに、その瞬間に新たな第三者からの介入があったのが見えた。

 赤槍と黄槍、そして黄金の剣。二つの神秘がぶつかり合い、剣がランサーの槍を払い、セイバーの左腕を黄槍が擦ろうとしたとき、射られた矢の一閃がそれらを弾き飛ばす。

 一見すれば、騎士同士の戦いを愚弄した無粋な一撃。しかしそれは決して卑怯な暗躍ではなく、寧ろもっと別の何か故のものであると感じられる。

 そんな征服王たる彼の目には、自分とはまた別にあるもう一つの『波乱』の予感がありありと映し出されていた。

 

(はてさて――こりゃあ、心躍るのぉ……っ!)

 

 

 

 再び、戦況は動き出す。

 

 

 

 ***

 

 

 

 響いたのは、まさしく轟音。

 何事かと音の方を凝視すると、そこには二頭の牛が引く、雷を迸らせた巨大な戦車(チャリオット)と、それに乗った戦車の巨大さに見合うだけの巨軀を持った大男が勇ましい咆哮を上げながら降りてくる。

 

「――――双方剣を収めよ、王の御前である!」

 

 一体何なのかと驚愕に頭を悩ませていると、先ほどの不遜な物言いのままに、男は豪快に自らの名を叫びながら、この場にいる全ての者にこう宣言した。

「我が名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争ではライダーの(クラス)を以って現界した」

 その潔すぎる有様に、というよりも寧ろ――その馬鹿正直さというか、馬鹿馬鹿しいほどの無鉄砲さを目の当たりにして、先ほどの宣言を聞いた誰もが呆気に取られてしまい、言葉を失っていた。

 唯一、その征服王のマスターらしい少年だけが「何を――考えてやがりますかこの馬鹿はあああぁぁぁっ!!!???」と、気の毒なほどサーヴァントに振り回されているのが目に見えてわかるツッコミをしていたが、征服王はとりとめもなく少年にデコピンをかまして黙らせる。

 非常に気の毒なことだが、この混沌とした場ではあまり意味を成さなかったそれは、夜気に渡った痛そうな音と少年の受けた痛みだけを代償に沈黙という名の海に沈んだ。

 そんな中であるが、当の本人である征服王はまったく気にすることなく、己のもたらしたこの悶々とした空気すらも楽しむかのように、二人の騎士と――未だこの場には見えぬもう一人の狙撃者に対して問答を始めようとしている。

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交えるより先に、まずは問うておくことがある。

 うぬら各々が聖杯に何を求めるかは知らぬ、だが、今一度考えてみよ。その願望、天地を喰らう大望に比して尚、まだ重いものであるのかどうか」

 何を、言っているのだろう。

 死角に身を顰めながら、士郎はそんなことを考えた。

 征服王を名乗る大男というだけでも、今一つ頭が追いつかなさそうなものだが、それに加えてこの問い。はっきり言って、どういうことなのか理解しがたい。

「何なんだよ、一体……?」

 ボソリと、そんなことを呟く。お人好しの代表格のような士郎をしてこれである。ならば、他の面々がいかほどの不信を覚えたかは想像に難くない。

 そもそも、何を言いたいのか今一つ分からないが、要するにそれは〝聖杯を奪い合う間柄になってしまってはいるが、世界を喰らいつくすような大きな野望を前にしても尚、自分たちの願いがまだ重いものであるのかどうかを今一度考えてみろ〟――という事なのだろうか。

(滅茶苦茶だ……)

 図らずして、件の征服王――ライダーのマスターと同じことを考えた。いつの世も、振り回される側の人間というのは、総じて似たような思いを胸にするものらしい。

「貴様――何が言いたい?」

 この場において最も堅物な少女、セイバーはライダーのその物言いを無礼だと感じているのか、キツめの物言いで問いに問いを重ねた。

「うむ、嚙み砕いて言うとだな……」

 しかし、そのつんけんとした態度さえライダーにとっては些末な事らしく、飄々とくだけた口調で自らの意を唱え始める。

「ひとつ我が軍門に下り、聖杯を世に譲る気はないか? さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を制する快悦を共に分かち合う所存である」

 

「「「…………」」」

 

 その言葉に、いよいよ皆が言葉を失い始めた。

(なんでさ……)

 士郎を始めとした、ランサーやセイバーたちの様に、呆れて言えなくなる者たち。

 唖然としたまま、言葉どころか思考まで固まってしまっているアイリスフィールたちマスター陣。ただし、切嗣とその相棒である舞弥に関しては、呆れというよりほとんど嘆息のようなもの故の沈黙であったようだが。

 その場に再び、暫しの静寂が流れる。

 場を搔き回し、動乱させたのも征服王であるのならば……起こした動乱をまた凍り付かせて沈ませたのもまた、征服王その人であった。

「先に名乗った心意気には、まぁ感服せんでもないが……その提案は承諾しかねる」

 滞った空気の中、先に口を開いたのはランサーだった。

「俺が聖杯を捧げるのは、今生にて誓いを交わした新たな君主ただ一人だけ。断じて貴様ではないぞ、ライダー」

 忠義を果たすべくこの戦いに馳せ参じた彼にとって、征服王の人を食ったような物言いはあまり好ましいものであるとは言い難かった。

 真名を堂々と晒してきた豪胆さこそ感心しもしようが……それでも彼の提案はあまりにも突拍子のない暴挙である。

 確かに、〝世界征服〟という一点において、征服王イスカンダル程その言葉の真意と実現に近づいた者もおるまいが、そんな彼の発した『我が軍門に下れ』という提案は破天荒すぎる。

 英断か愚行かでいえば、まず愚行であると同時に、何よりも暴挙であるといえる。

 挙句矛も交えない内から懐柔を求める行動は――己が信条を、絶対的な信念と真理であるかのように生きる様は、端からこの世を縛る何ものも意に介さないという姿勢はまさに、聖杯戦争という枠組みすら逸脱したもの。とてもではないが、従う気になどなれない。

 そしてそれは、騎士としての矜持を抱くセイバーとて同じこと。

「戯言が過ぎたな征服王。騎士として許しがたい侮辱だ」

 また、元来生真面目な彼女にとっては不愉快極まりない提案であったらしく、ランサーの様な僅かな呆れの笑みすらない顔で征服王を睨みつける。

 しかし、そんな二人からの鋭い視線を受けてもまだ、征服王は彼らを諦めきれないらしく「むぅ」と唸ると、再び二人へ向けてこういった。

「……待遇は応相談だが?」

「「くどい!」」

 にべにもなく、一喝。

 提案をすげなく蹴られた征服王は、惜しみつつも唸るばかり。これ以上言葉を重ねても、二人はてこでも動かないであろうことが分かり切っている以上は、非常に惜しいが一度諦めなくてはならないかと征服王は次なる征服の手段を考えようとした。

「惜しい。惜しいなぁ……是非とも貴様らをわが軍に加えたかったのだが――」

 その時、ふと思い出した。

 今この場に出ている二人以外にも、同じように勧誘を掛けたかった存在がいたことに。

「おぉ、そうであった――! もう一人おったな。先ほどセイバーとランサーの矛先をかすめ弾きおった強者が」

 辺りを見渡す。

 士郎もまたその視線に僅かながら驚き、身をすくませた。

「そろそろ出て来てははどうだ。ここにおるのであろう? なぁ、先ほど矢を放った弓兵よ!」

 そんなこと言われても、出ていくわけにいかない士郎は「俺にどうしろっていうんだよ……」と、小さく念じた。

「うーん、出てこんなぁ……」

「あ、当たり前だろ! そもそも、場所晒して狙撃手の意味があるわけ――ッデェ!?」

 ボクハゴクアタリマエノコトヲイッタダケナノニ、とウェイバーは泣きながら、本日何度目かを数えるのも忘れた強烈なデコピンに晒された額を(さす)った。その心情は押して知るべしである。

 同情とは失礼かもしれないが、誰もがその状態に気の毒に思ってしまった。何せ、傍から見れば屈強な大男と線の細い子供である。主従逆転している状況は、どうにもこうにも、気の毒に映ってしまうのだから。

(なんだかすみません……ライダーのマスターさん)

 一応時代的に目上なのは明白なので、そんなことを一人胸中でごちた士郎。

 正直、今すぐに出て行って事情を説明出来たのなら、どんなに楽か分からない。若干自分のせいでウェイバーの額が痛みに晒されていると、どうにも心が痛む。

 何というか、苦労人としてのシンパシーのようなものが働いている気がした。気の強い女性陣に振り回される自分も、傍目にはあんなもんだったのだろうかと思うと、せめてあの場の誰か一人でも自分の言葉を真摯に聞いてくれる人がいればなぁ……と、思わずにはいられない。何故なら、〝聞いてくれそうな人〟というだけならばともかく、〝まともに取り合ってくれる人〟となると、この場においては流石に難しいであろうから。

 しかし、

「こりゃー交渉は決裂か……勿体ないのう、残念だなぁ……」

 そんな思いもつゆ知らず、単純に残念だとぼやく征服王。頭を搔きながら下を向くと、何やら恨めし気な思いを訴えてくる視線と目が合った。

 彼を恨めし気に見る視線の先には、ウェイバーが額を腫らしながら、それに勝る口惜しさや惨めさで擦れた声をライダーへと送る様が見えた。

「ら、い、だぁぁぁ……どうすんだよぉ……征服だのなんだのいっといて、結局総スカンじゃんかよぉ……」

 お前本気でセイバーたちを部下にできるとか思ってたのか? とウェイバーが締めくくると、征服王は――

「――まぁ、〝ものは試し〟というからの」

「〝ものは試し〟で真名バラしたんかい!?」

 どうしようもない理由を、さも当然の様に堂々と言い張った。

 ウェイバーにとっての初めての、本格的な『戦い』の場である聖杯戦争。しかも、初めての『実戦』であるそれを、彼にとっての初戦で、真名を堂々とばらして自分たちが不利になった上、サーヴァントは言うことを聞きもせず呑気なこととを平然とやってのけているというこの状況。

 二重三重に降りかかる責め苦に、ウェイバーは己の自尊心や自信、戦いに賭ける意欲や情熱といったものを悉く潰されてしまう。

 その上――

 

『おやおや、誰かと思えば……』

 

「――――っ!?」

 この場で、もっとも聞きたくなかった(もの)が聞こえてくる。

『何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思えば……まさか、君自身が聖杯戦争に参加する腹だったとはねぇ? ウェイバー・ベルベット君』

「ぁ、……ぁ……っ」

 その声は、ウェイバーが最も嫌っていたものだった。同時に、それはこの戦いを通して、彼が最も鼻を明かしてやりたいと願っていた相手の声でもあった。

『残念だ。いやぁ、実に残念だよ』

 好都合であった。

 今ココには、自分の呼び出したサーヴァントであるイスカンダルがいる。

 この場にいるどの英霊にだって引けを取らない、大英雄。それを、この僕が呼び出したんだ! と、言い返してやりたい。

 しかし、浮かぶ思考とその意思に反したまま……ウェイバーはただブルブルと震えているしかなかった。

 怨嗟を含んだその声と、他ならぬ自身の名を呼ばれたことで、相手が誰なのかが嫌という程理解できてしまう。

 他の誰にも、ウェイバーのことが分からないのがここにおけるせめてもの救いだろうか。

 敵である相手の聖遺物を盗み出して、聖杯戦争に参加した。事実、ウェイバーの手には令呪が宿り、こうしてイスカンダルが現界している。それだけで見れば、万能の願望器を巡る戦いにその者を出し抜いて選ばれたと誇ることもできよう。散々受けてきた辱めに対する、最も効果的な意趣返しではないか。

 だが、その相手もまた新たに聖遺物を手に入れ、戦争に参加してきた。

 どうしてそんなことを予想できなかったのか。奴よりも、自分の方が選ばれたのだと、そう思って浮かれていたのは間違いだったのか。敵――時計塔という魔術の世界の最先端にいる教師であり、魔術師としての力を〝神童〟とまで呼ばれ讃えられた男である、あの『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』を出し抜いた。

 それだけのことをしたと思っていたのに、その男はこうして敵として立ちはだかって来た。

 言い知れぬ恐怖が、ウェイバーを襲う。最早、長々と芝居がかったかのような口調で自分をなじるケイネスの声など耳に入ってこない。やり返してやりたいと思っていた恨み辛みすら、萎んで地に枯れ落ちた。

 彼の思考に残ったのは、たった一つのこと。

 ――逃げなくては。逃げなくてはならない。

 幸いなことに、ウェイバーの相棒であるイスカンダルの(くらす)は『ライダー』。機動力に関しては、この場にいる誰よりも秀でている。確実に逃げ切れる……否、そうでなくては困るのだ。こんなところに居たら、確実に殺されてしまう。

 魔術師として、言葉の上で理解したつもりだったその意味と、普段笑い飛ばしていたその重みを今――ウェイバーはその身をもって体験していた。

『到し方ないなぁ、ウェイバー君。君については、この私が特別に個人授業を受け持ってあげよう』

 向けられた殺気に、もう心臓が凍り付きそうだった。

『魔術師同士が殺し合うという事の、本当の意味――その恐怖と苦痛とを、余すところなく教えてあげよう。光栄に思いたまえ』

「……ぁ、っ……は、ぁ……」

 息が乱れ、目の前は白いのか黒いのかすら判らなくなっていく。

 屈辱であると、普段の彼ならそう思ったであろう。ちっぽけな矜持を胸に、蟻が巨象に挑むことを厭わないのだと胸を張っただろう。それこそ、勇気であると。自分にはそれを成すだけの力があり、努力を積むことでそれは成されるという虚勢を張れたはずなのだ。

 そこに、得体のしれない〝死〟というものがなく、自分がその場でそれを受け入れなければならないと強いられていなければ、だが。

 矮小な己はこの場の流れにすら飲み込まれ、潰えてしまうのだと、彼には間違いなく、その確信があった。

 が、しかし。

「おい、魔術師」

『……?』

 何も救ってくれるものなどいない筈の場で、

「……ぇ……」

 救いの手は、何よりも近い隣から差し出されていた。

「先の話から察するに、貴様は坊主に成り代わって余のマスターになる腹だったらしいな」

 征服王は、『ライダー』として己を呼び出したウェイバーを庇いたてた。

『…………』

 相手からの答えが返らずとも、征服王の言葉は終わらない。

「だとしたら片腹痛いのぅ。余のマスターたるべき男は、余と共に戦場を馳せる勇者でなくてはならぬ。姿をさらす度胸さえない臆病者なぞ、役者不足も甚だしいぞ」

 その言葉に、ウェイバーは沈み呑まれた重い空気(どろ)の中から引き揚げられたような感覚を覚えた。

 征服王イスカンダルが、ただの人からその上である英霊にまで至るほどの偉業を成した男が――自分を認めて、肯定してくれたのだと。

 それだけのことが、今のウェイバーにとっては、何よりも救いであった。

 そのことが不愉快であるといった怒りが征服王に向けられるが、そんなものが何だとばかりに呵々と笑い飛ばす。いかに優秀であろうと、姿を晒せぬ臆病者が何だとばかりに。

 征服王の豪快で確かな優しさにより、ウェイバーの心中が多少なり安定を取り戻していく。それを見て、満足そうな笑みを浮かべた後、征服王は今宵の大一番に至るべく、元から大きな声を更に張り上げて、その場全てに今一度宣告した。

「おいこら! 他にもおるであろうが。闇に紛れて覗き見をしておる連中は!」

 その言葉に、倉庫の周りにいる者たちは僅かばかり眉を潜め、何かを仕掛けてくるつもりなのか? と警戒を強めた。

 だが、先ほどまで戦っていた二人は怪訝な顔で征服王に問う。

「――どういうことだ? ライダー」

「セイバー、それにランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い、まことに見事であった。あれほどに清澄な剣撃を響かせては、惹かれて出てきた英霊が、よもや余一人などという事もあるまいて」

 まして、先程の弓兵は主らの戦いを止めるに足るほどのものであったしのぅ――と、征服王は感慨深そうに言った。

 手を出さない者や、隠れながら見るだけの者。何もせずに傍観するだけの者。

 そんな闘志に乏しい者たちではなく、止めるだけの力を持ち、誰も傷つけない様なこの状況を作り出した。だからこそ、面白いと征服王は姿なき弓兵に賞賛を送る。

 だが、この戦いにおいては正式な弓兵ではない士郎としては、そういわれると、この戦いにいるであろうあの金ぴか野郎の気を煽ってしまうんだろうなぁと、今から少し胃が痛くなった。互いに天敵であるが、勝てるのは奴が慢心しているからである。加えて、もっと魔力を円滑に流せるだけの準備が無ければ切り札は使えない。

 というか寧ろ士郎的には、何故征服王はたかが横やりを入れただけの自分にここまでいうのかの方が不思議だった。こんなことでいちいち賞賛されたら、あの金ぴかが面倒な具合に怒りだしかねない。

 前途は多難だ、と士郎がため息をつこうとした、その刹那。

「情けない。情けないのぅ! 冬木に集った英霊豪傑どもよ。このセイバーとランサー、そして未だ出てこぬが何やら高潔なアーチャーが見せつけてきた気概に何一つとして感じることが無いと抜かすか? 誇るべき真名を持ち合わせておきながら、コソコソとのぞき見に徹するというのなら、腰抜けだわな。英霊が聞いてあきれるわなぁ。んんッ!?」

 隠れ潜むやり方を笑い飛ばした征服王は一息吸うと間髪入れず、更なる怒号如き声を響かせ熱弁を振るった。

 

「聖杯に招かれし英霊は今! ここに集うがいい。尚も顔見せを怖じるような臆病者は、この征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!!」

 

 士郎やアイリ、ウェイバーは内容にこそ割と関心したものの、その咆哮然とした大声に思わず耳を塞ぎ……セイバーやランサーはその豪快さや潔さに僅かばかりの感嘆を覚えた。

 だがしかし、ケイネスはそのライダーの言い分が自身を卑怯者であると言われている様で腹ただしさを感じたが……己はランサーをその場に出している上、魔術師である以上、こうした行動は卑怯で姑息な考えによるものではなく『戦略』の一つであるとし、知性や気品といった面を欠いた征服王に、先程ウェイバーを庇った分も含めての侮蔑を向けるだけに留め、姿は晒すことはなかった。

 其れよりも離れた場所に座すアサシンは、征服王の挑発に乗ることなく、己が『暗殺者』たる矜持故に傍観を続けることを選ぶ。

 そして、アサシンより僅かに逸れた位置で場を見ていた切嗣は――

「――あんな馬鹿に、世界は一度征服されかかったのか?」

 と、戦う上での鉄則をまるで無視した、まさに『英雄』然とした『イスカンダル』という英霊の在り方に、セイバーに対する理解以上に認識(それ)を放棄して、呆れと侮蔑を込めた嘆息を一つついた。

 誰しもがその言葉を聞きながらも、それ以上の行動を起こせずにいる中……その場を〝見て〟いる三人ほどの者たちは、嫌な予感を覚えていた。

 その宣言を聞き、絶対にその言葉を聞き捨てないであろう英霊に一人、彼らは嫌という程心当たりがあった。

 その予感を感じたのは、士郎とその場にいない他二人。

 アサシン越しに場を観戦しながら状況を把握し、師に報告していた『言峰綺礼』と、その彼の師である『遠坂時臣』。

 秘密裏に協力関係を結んでいる二人だが、時臣の召喚(よびだ)したサーヴァントが二人の抱いた悪い予感の種である。

 この言葉を聞き、恐らく……いや、絶対に黙っていないであろう英霊。

 己以外を有象無象であると豪語する――世界最古の『英雄王』。

 

 

(オレ)を差し置いて〝王〟を称する不埒者が、一夜のうちに二匹も涌くとはな」

 

 

 眩いばかりの()威光(かがやき)を持ち、黄金の鎧を纏った英霊が――夜闇に晒された戦場へと姿を現した。

 

 ――――戦場は、再び荒れ狂い始める。

 

 

 

「……く…………はは、ははは……っ」

 

 そして、そこにはまだ新たな影も――――。

 

「――――殺れ……あのアーチャーを殺し潰せ……ッ! バーサーカーァァァッ!!」

 

 

 

 始まりの夜は長く、未だ明けない。

 

 

 


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