1時間後、試験場内にある軍のブリーフィングルームに、南瀬、パトリシアの二名と数人の将校が詰めていた。
現在、大西洋をブリタニアに向けて航行中の補給艦へ合流とその後の流れ、式典についてなどの細かい説明を受けている。
「貴君らは、このリベリオン合衆国の一員としてこの式典に参加してもらう」
未だに欧州本土の多くはネウロイの手に落ちたままである。
そのなかで、ロマーニャ、ガリア、カールスラント等の一部地域奪還の成功の祝賀と、失われた人々の哀悼を込めた式典。
多くの人々に希望を見せるという建前で行われる式典ではあるが、内情は各国の覇権争いと技術交換の場としての意味合いが強い。
今回、南瀬が出席を迫られた理由も技術交換の場に赴き、扶桑、リベリオン両国への技術供与を狙ったもである。
軍人である以上、上官の命令は絶対である。
ましてや、左遷された身である南瀬は断ることなど出来るわけもなかった。
「了解しました。リベリオン海軍の一軍人として、扶桑の技術仕官としての責務を果たします」
将校は、その言葉を聴き、健闘を期待するとだけ返した。
その言葉を聴くと南瀬とパトリシアは敬礼をし、ブリーフィングルームを去ろうとする。
南瀬が先に退席すると、続くパトリシアを将校が呼び止める。
振り返り、足を止めたパトリシアに一人の将校が耳打ちをする。
「パトリシア・D・フレミング中尉、君には先の命令のほかに南瀬大尉の監視を追加として命ずる」
どういうことかと、首をひねるパトリシアに将校は続ける。
「彼女は非常に優秀だ。ここに来てからも多くの技術、
特にストライカーユニットの分野、
偵察に関する幅広い知識で我々を大いに助けてくれた。
だが、扶桑からの資料で伏せられている彼女の事情が我々にとっての懸念材料にもなっている」
その場に居る将校は皆、南瀬を評価する一方で疑いの目も向けていると言った。
パトリシア自身も気になることではあるが、監視するほどのことなのかと思った。
将校もそのパトリシアを見て言いたいことは分かると言った様子だが、さらに言葉と続ける。
「我々、リベリオン合衆国と扶桑皇国は同盟関係にある、がしかし、やはりこれからの世界において袂を分かつとも限らない。
今後、世界を先導していく国を決める際、彼女の行動が我々を不利にしないとも限らない」
先ほどの式典の裏事情を繰り返すような内容にパトリシアは眉をしかめる。
内容は以上ですか、と言い退席しようとする。
将校はその背中に向かって呟く。
「そういえば、噂程度だが彼女は一年前に自らの僚機と先導する戦闘機部隊を全員殺した、
という話があってな。貴官も気をつけろよ」
そう言い残すと、将校たちはパトリシアの横を通り過ぎ立ち去った。
南瀬友姫が仲間を殺したという、不穏な言葉をどう受け取ればいいのか、
パトリシアは困惑しながらブリーフィングルームを出て出撃ハンガーへと向かった。
パトリシアがハンガーに到着すると、既に南瀬は出発の準備を進めていた。
今朝組み上がったばかりの彼女の専用機に多くの武装、彼女のリベリオンでの研究成果や理論などの重要な資料などをひとつひとつ確認しながら装備に収めていく。
「それが、新たにリベリオンの機材を組み合わせて改良したストライカーユニットなのね」
パトリシアも自らの装備や機密書類などを確認する作業に取り掛かりながら南瀬に話しかける。
大体の点検や確認を済ませてた南瀬はパトリシアの方へと歩み寄りながら答える。
「そうだ、ここ2週間でようやく全てのテストを終えた新型のテスト機のC6N2汎用偵察戦闘脚 彩雲一二型だ。従来のC6N1艦上偵察脚 彩雲を大幅に改良し、より早くより高く飛べるようになった。まぁまだ量産には程遠い気難しい機体だけどね」
彼女は、自身の組み上げた専用機に目を向けながら少しだけ誇らしそうな顔をする。
南瀬の専用ストライカーユニットとなっているC6N2汎用偵察戦闘脚 彩雲一二型は、
扶桑で少数ながら生産されていた偵察用のストライカーユニット、C6N1艦上偵察脚 彩雲を、より高高度をより高速で飛行し、先行偵察、初期戦闘、夜間偵察、敵情報の収集後確実に帰還する為に徹底的に改良したモデルである。
通常のストライカーユニットに比べて少々大型であり、多くの任務を1機でこなせる高性能機ではあるが、南瀬の言うとおりまともに扱えるのは彼女くらいというピーキーな代物になってしまった。
また、機体の出力を引き上げたお陰で従来より重武装が可能となり、今回の欧州行きにも多くの武装を持ち込むようだ。
MG15機関銃1丁、扶桑刀2本、極めつけは5式30mm機関砲という充実振りだ。
いったい何と戦うつもりなのかという疑問も出るような重装備だが、南瀬はとくに気にした様子もなくそれらの装備を懸架していく。
そして全ての準備が整うと、南瀬はストライカーユニットに両足を差し込む。
パトリシアもそれに続くように、自らのストライカーユニット、F6Fヘルキャットに足を差込み魔導エンジンを作動させる。
ハンガーに二つの魔方陣のような魔力フィールドが展開される。
それぞれのストライカーユニットは徐々に魔導エンジンの音を大きくしていく。
「さて、ではそろそろ出発しよう」
南瀬の言葉と同時にストライカーユニットを保持していたロックが解除される。
そして、ハンガーから直結の滑走路へと飛び出し、さらに加速していく。
徐々に二人の体は滑走路から離れていく、1M、2M、3M…そして一気に上昇を始め、
二つの影は暑く青いダラスの空に舞い上がった。
基地の上空で高度を上げながら旋回し、目標の地点へと進路を向ける。
ダラスの管制から無線が入る。
<<こちらダラス管制塔、機体の離陸を確認これより大西洋艦隊への合流の為、まずはファラウェイランド上空を通過しその後、大西洋を航行中の艦隊へと合流。着艦後は艦長の指示に従い任務を遂行。欧州に到着後、ブリーフィングで話したとおり式典への参加、及び現地での作戦を開始とする。では貴機の幸運を祈る>>
二人は、了解と無線に返答し更に高度を上げながらガンダー空軍基地を目指し飛び立っていった。