刀を鞘から抜き放つとその刃に自らの顔が映る。
何を不安な顔をしているパトリシアを信じろ、しっかりと刀を握り締めろ。
意識を集中して刀身に魔力を込め真っ逆さまに飛び込め。
細く長く息を吸い、小さく吐き出す。
「さぁ、行こうか」
眼下の銃口を目掛けて滑るように落ちていく。
後ろは振り向かない。ただ加速する風切り音を聞きながら刀身に集中する。
魔力を込めた刀身が微かに光を帯びる。
横を流れる景色がゆっくりに感じる。
先ほどまで聞こえていた風切り音も聞こえない。
刀身越しにパトリアの掲げる機関砲の銃口が見える気がする。
ついに景色から色が消え白黒の世界になる。
狭まっていく視界を無理やり広げていくと世界が静止したように感じる。
次の瞬間銃口が輝き銃口から弾が飛び出すのが見えた。
全ての魔力を刀身に込める。
刀身の輝きが最高潮に達し世界が真っ白になる。
銃弾はまっすぐ刃に飛んで来た。
(流石パトリシア、計算通りだ)
弾の先端と刃が交わり真っ二つに割れ、刀身に宿した魔力を纏いながら
南瀬の頬を撫でるように後方へ一直線に流れ飛んでいく。
次の瞬間、視界に全ての色が戻り、後方のネウロイが砕け散る音が聞こえた。
眼前に迫ったパトリシアの横を通り過ぎながら落ちていく。
夜の戦闘は無事に終わり二人は生き残った。
旋回上昇しパトリシアのもとに戻る前に、
握っている刀を見ると刀身は粉々に砕け散り柄もボロボロにひび割れていた。
瞬間的に許容限界を超えて魔力を込めた結果、魔力が抜けると同時に強度を失い
原型を保てなくなり壊れてしまったのだった。
「安くないんだがなぁ、この刀」
刀身の無くなった柄だけの刀を腰に差し、懐からパトリシアから拳銃を取り出す。
少し上で待っているパトリシアの元へ飛んでいく。
「お疲れ様パトリシア、何とかなったな」
手に持った拳銃をパトリシアに手渡し、預けていた機関砲を受け取る。
他の装備は、すべて海に落ちてしまってた。
船に戻ったら装備をいくつか見繕わないといけないかもしれない。
面倒だなと考えている南瀬にパトリシアが少し心配するように声をかける。
「おかえり、お疲れ様って友姫、顔から血がっ」
ん?と頬を手のひらで擦ると血が付く。
先ほど弾丸を斬った際に頬を掠めたか魔法の余波で切れたようだ。
「まぁ大したことないだろう」
適当に拭いながら返された機関砲を担ぎ帰ろうと船に無線を入れようとする南瀬の頬を、
パトリシアが両手で包みながら少し怒る。
「ちゃんとしないと手当しないとダメです!ほら傷を見せてください」
パトリシアは腰に巻いているベルトの小さなポーチから消毒液と絆創膏を取り出しテキパキと治療してくれる。
幸い表皮が軽く切れているくらいで大きな傷はなかった。
「はい、これで大丈夫ね。ちゃんとしないと傷が化膿したりして長引くと大変よ?」
頬に絆創膏を張り、その上をそっと撫でながら心配している。
少しバツの悪そうな顔をした南瀬は撫でられた絆創膏の上から頬を掻く。
「ありがとうパトリシア。気を付けるよ」
そして、誤魔化す様に無線連絡をする。
「アレクサンダー司令、こちら南瀬とパトリシア両名無事だ。敵ネウロイは撃滅した。
多少の装備の損耗はあったが問題はない。これより帰投する」
手元の時計を確認すると既に深夜3時近くになっている。
南瀬は最後の一刀でかなり魔力を消耗しておりこれ以上空に留まり続ける余力は残っていない。
「艦へ戻ろう。流石に今夜は疲れたな」
「そうですね、敵勢反応も消滅、危機は去ったと思います。早く戻って休みましょう」
二人が高度を下げながら飛行していると南瀬の魔導針に歌が聞こえてくる。
どうやらどこかのナイトウィッチの無線通信が届いたのだろう。
ナイトウィッチは世界中と交信しQSLカード₍交信証明証₎を交換して交流しているものがいる。
その中にはカールスラントの中でも屈指のナイトウィッチやあの第501戦闘航空団にいたウィッチもいるとか。
そんな遠くのウィッチの無線を聞きがら二人は帰投した。
艦のハンガーに戻った二人はストライカーユニットを外し、残った装備を整備班に渡した。
「南瀬大尉、装備が減っていますが損耗の確認よろしいですか」
整備班の班長が声をかけてくる。
付けていた帽子のつばに触れ挨拶し、バインダーとペンを手渡してくれた。
「すまない、手間を掛けてしまうな」
南瀬は受け取った書類に書き込みをしていく。
今回失ったり壊れた武装、ストライカーユニットの損傷を確認しながらチェックする。
戦闘中は気が付かなかったがストライカーユニットにいくつか損傷が見られた。
垂直尾翼の塗装が剥げ、主翼の端が欠けたりしている。
もう少し戦闘が長引いていたら空中で壊れていたかもしれない。
「ストライカーユニットの整備は応急修理をしてくだされば問題ないです。細かい所は欧州に着いてから自分で何とかします」
書き終わった書類を整備班の班長に手渡し明日、寄港するまでの整備の話をする。
班長は書類を受け取ると目を通しながら南瀬のストライカーユニットに目をやる。
「しかし、見たことないストライカーユニットだと思ったが新型か?」
様々な整備をしてきたであろう班長も初めて見たと言いながら南瀬のストライカーユニットに触れる。
「新型、というよりは扶桑で少数作られた機体を私が改修した機体です」
ほほう、自ら改造までするとはなかなかやるな。
二人が話している横でパトリシアもほかの整備士から受け取った書類に書き込みをし、
ストライカーユニットや使った武装の整備が始まっている。
「友姫、そろそろシャワーに行って休みましょ」
このままだと朝まで話し込みかねないと思い、南瀬の手を掴むとハンガーからシャワー室に引きずっていく。
南瀬は班長にまた明日よろしく頼むといいながら引きづられていった。
脱衣所に着くと制服と下着、ズボン脱ぎ、シャワー室に入る。
パトリシアのきれいな肌とメリハリのある身体を真水のシャワーが伝っていく。
戦闘で火照った体を冷やしてくれる。
「戦闘後のシャワーで汗と熱を流している時、今日を生き残ったって感じがするわ」
長いブロンドを梳くように流していく。
「‥‥そうだな」
南瀬の平坦な体をなぞる様にシャワーが流れていく。
長い黒髪の毛先が戦闘で焦げたのか少し傷んでいるが気にしない。
「せっかく綺麗な黒髪なんだからしっかり手入れしなきゃ」
いつの間にかこちらのシャワー区画に入り込んでいたパトリシアが南瀬の髪を洗い始める。
「こんな傷アリ、誰も貰わんし気にしなくていいだろう」
言いながらも特に嫌がるでもなくパトリシアに身をゆだねる。
優しく頭から毛先までの汚れを洗い落としていく。
「ねぇ、少し聞いてもいい?」
少し遠慮がちにパトリシアが訪ねてくる。
「なんだ、今更私に聞きたいことなんてるのか」
ぶっきらぼうに南瀬は返す。
「その、本当は言っちゃいけないんだけどね」
少し不安そうにパトリシアは話を続ける
「今回出発する前にね、将校からあなたの監視命令と過去の噂を聞いたの
今日の戦いであなたは私の力を信じてくれたけど私はまだあなたの本当の姿を知らない
だから、教えてくれない?友姫あなたに何があったのかを」
ふーむ、少し思案したが別に隠すようなことでもない。
まぁ余り思い出したい記憶ではないが、今後欧州からリベリオンに帰還できたなら彼女とはその後も付き合うことになる。
そんな彼女が私への噂で不安や不信を抱き作戦や戦闘に支障をきたす方が問題だろう。
「今日はもう遅い、明日欧州に渡ったら半日くらいは明けられる。あまり面白い話ではないが聞きたければ話そう」
これ以上シャワーを使うのは水がもったいないし体も冷える。
そう言い南瀬はシャワーのハンドルを捻り水を止める。
「約束だよ、絶対だからね」
約束だと返し、二人はシャワー室を出る。
その後も適当に色々済まそうとする南瀬と世話をしながらパトリシアは部屋へと戻り
戦闘の疲れもあり直ぐにベッドに横になると深い眠りについた。