innocent時空のユーノくん短編集(CP雑多) 作:形右
お出迎えは、一人で Seclet.
海鳴市にあるグランツ研究所。
VRゲーム『ブレイブデュエル』の開発や、ロボット工学を扱うこの研究所には、現在四人の留学生と、此処の所長たるグランツ・フローリアン博士の娘二人が生活しており、賑やかで楽しい日々を過ごしている。
だが、本日残っているのは一人。
赤い縁の眼鏡を掛けた、短く肩口の辺りで切りそろえられた茶髪の少女、シュテルだけであった。
それというのも、本日は休日であるにもかかわらず取り立ててすることもないと言うのがことの始まりである。さしあたってすることもなかったため、他の面々も――まぁいつものことであるが――勝手気ままに自分たちのしたいことのために飛び出していった。
面倒見の良いアミタやディアーチェ、あるいは無邪気なレヴィ辺りはシュテルのことを連れて行こうとしたが、今回は辞退しておいた。別に出かけるのが嫌だったわけではなく、ちょっとした野暮用があるからだった。
これはまだ誰にも明かしていない、彼女のちょっとした秘密の――彼女自身が秘密にしようとした、お話である。
*** ささやかな独り占めのひと時 Boy_Meets_Girl.
空港のアクセスポートへ着いたシュテルは、いつも落ち着いた彼女にしては珍しく、そわそわしながら到着予定の便を今か今かと待ちわびている。
とはいえ、別に飛行機そのものに乗ってどこかへ行こうというわけではなく、彼女の待ち望むものがやって来ることを待っているのである。
それから約一時間後、彼女の待ち人を乗せた便が空港へと着いた。
しばらくロビーで待っていると、搭乗ゲートから少年が一人降りてきた。
亜麻色の髪に、緑色の澄んだ瞳。
髪は少々長く、一見すると女の子にさえ見えそうな中性的な顔立ち。
まさしくこの人物は、シュテルの待ち望んでいたユーノ・スクライアその人であった――
「ししょ――ユーノ」
思わずいつも『BD』の中で呼んでるように呼びそうになり、少し詰まりながらも彼の名の方を口にして、彼を手招く。
シュテルのことに気づいた彼は、彼女の居る方へ柔らかな笑みと共に足を運んできた。
「やぁ、元気だったかい? シュテル」
「ええ、そちらも元気そうで何よりです。久しぶりですね。ユーノ」
「うん、そうだね、最後に会ったのは確か……シュテルたちが留学して少し経ったくらいだったかなぁ?」
挨拶を交わしながら、久方ぶりの邂逅を懐かしむユーノ。
随分と会っていなかったようだ、と、どことなくじじむさい感傷に浸る部分があるのは、彼の保護者である祖父の影響なのかどうか……。
が、
「大体そんなところですね。――しかし、会えなかったことは兎も角として。少なくとも、連絡が取れなかったのは、別に私が貴方への連絡を渋ったりしたからではないのですけれども?」
先ほどまでのソワソワとした態度から一変し、シュテルの瞳はいつも以上にジトリと彼を見てきた。
唐突な飛び火に、思わず言葉に詰まるユーノ。
「うっ……」
最も、その部分に関して言えば、彼の方に若干非と呼ぶべき一側面があったことは否めないことは、重々承知しているのだが……それ故に、尚のこと始末が悪い。
「いつもいつも、連絡をする度に誰かと通話中、ないし圏外というのはどういうこと何でしょうかね――発掘旅行のついでに、誰か女の子と逢瀬でもしてきたのですか? それとも、どこぞの学会でファンでも増やしてきた、といったところでしょうか?」
赤く縁取られた、レンズの奥にある蒼い瞳が、まるで責め立てるかのようにユーノを射貫いてくる。
別にやましいことがあるというわけでもないのに、まるで自分が何かをしでかしたような気分になるのが不思議なところ。世に言う、上司への接待などを勘違いされて妻に糾弾される夫というのは、こんな気分なのかもしれない。
と、ユーノは思考を切り離して他人事のようにそう思った。
そんな彼の様子が不満だったのか、シュテルはますますジトっとした半目で何かを訴えてくる。
前に彼女が向こうにいたときもよくこんなことがあったものだ。
ちょうど友人であるクロノが母や妹分たちと向こうの叔父に会いに行ったとき、ユーノたちの方にも遊びに来たことがあった。その時も、アリシアやフェイトに勉強を教えていたり、クロノと喧嘩している時さえシュテルはそんな目をしていた。
いや、流石に大げさに言い過ぎた部分もあるかもしれないけれど、何故かユーノはこの目に弱い。幼なじみ内では――特にレヴィ辺りに――『ユーノはシュテるんに弱いなあ~』などとよく言われていたものである。
実際その通りなのだが、果たしてこれは何がいけなったのか? その辺りが、今ひとつユーノは判らないでいた。
しかしその反面、逆に思い出した部分もある。
「あれ? そういえば……みんなは?」
いつも一緒でいることの多いシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリの四人組。けれど、今居るのはシュテルのみ。
ユーノが思い出した事柄を口に出すと、シュテルの勢いが少しだけ衰える。
自分一人では不満なのか、と問えば、単純に来ていないのが気になるとだけ応える。……この問答に関しては、微妙にシュテルの側は旗色が悪い。
とはいえ、だからといってありのままを言うのも悔しい。
「……少しだけ、所用があると言っていました」
だから、ほんの少しぼかした真実を告げる。有り体に言って、独り占めしたかったという自分の本音を包み込んで。
別に言ったところでユーノは困らないだろうが、その辺は微妙な意地の部分。
比較的ストレートな言動の多いシュテルにしては珍しく、そんなところを重んじた答えを導いた。
「そうなんだ。じゃあ寧ろ、シュテルが来てくれて良かったって思うべきだったかな」
「……」
気兼ねない仲、という間柄を差し引いたとしても。どうにもその素直な展開は、回り込んでいったシュテルに微妙な棘を感じさせる。
が、もう手遅れだ。
――――貴方を独り占めしたくて、他のみんなには告げるフリをして告げていませんでした。
今更そんなことはいえないし、言いたくはない。……だって、恥ずかしいから。
普段、ゲーム内では『星光の殲滅者』などという異名を取る彼女も、こうなっては形無しである。殲滅者はその実、存外に乙女なのであった。
「……」
「??? シュテル?」
先ほどから黙り込んでしまった少女に、不思議そうな顔で声を掛ける少年。
この構図は、端から見るとまるっきり色恋沙汰のそれである。
知ってか知らずか――はたまた、これ以上此処に留まりたくなかったのかはさておいて、シュテルはユーノの手を引いて空港の出口へと向かう。
手を引かれて驚いた様子のユーノに、
「……これ以上、此処で立ち話もなんですから」
とだけ言って、シュテルは外へと向かう。
その一言で、自分よりほんの少し上にある翡翠色の瞳は既に困惑をなくしている。
そのことがどことなく悔しい様に思う。鼓動が強くなり、白い筈の頬に朱が入れられた己とは逆に、落ち着いたユーノの様子がなおのこと。
最も、それも詮無きことだ。
ファーストアタックは痛み分けだが、まだ時間はたっぷりとある。
ここからじっくりと、セカンド、サードと順々に攻めていけばいいのだ。
今、ここからの時間はシュテルのものであるのだから。
――その少し後、図書館近くの喫茶店でのんびりと会話していた二人の姿があったという。
……オマケ?
……と、此処までで終われば良かったのだが、そうそう世の中は上手く行くはずもない。
「あれ、シュテル?」
「……ナノハ」
そんな声を皮切りに、あれよあれよという間に人が集う。ちょうどシュテルの得意な、集束砲撃のように――。
「へー、考古学者なのね。凄いじゃない! Excellent!」
なんてアリサの声が、
「ユーノくんも本好きなんだねぇ~」
共通点を見つけたらしいすずかの声が、
「久しぶりー! 元気だった~?」
「久しぶりだね。ユーノ」
なんて言っているテスタロッサ姉妹に、
「ユーノくんっていうの? あのね、家にもそんな名前のフェレットさんがいてね? わたしの大事なお友達で〜……」
「……ナノハ、それはまた違うのでは?」
「えー? でも、なんだか雰囲気似てるし、こっちのユーノくんとも仲良くなりたいなぁ~って」
「…………また、魔の手がユーノに……(怒)」
そんな声もあった。
ちなみに、グランツ研究所の王の面々もやって来ており、
「ユーノ~♪」
「ひっさしぶりぃ~!!」
ほんわかと抱きつくユーリと、思いっきりダイブをかましていくレヴィ。
「あら、可愛い男の子ねぇ~」
「皆さんの幼なじみなんですね! 研究所こと我が家では、大歓迎ですよー!」
「……おいシュテル。言い訳は、勿論考えてあるのであろう?」
「……なんのことやら」
「とぼけるでない! そもそもだな、朋友を迎えるとあって、その事案をぼかして伝えたなど、臣下にあるまじき――」
「……そもそも王ならば、下々の者の言葉を察するべきでは?」
「ぐっ……!?」
いつも通り、大体こんな感じであった。
けれど、
「――シュテル」
「何でしょう……?」
「賑やかで、退屈しなさそうな良い街だね」
「……はい」
確かにそこには、笑顔と、楽しいことに溢れる何かがあった――。
何の益体もないEND
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