innocent時空のユーノくん短編集(CP雑多) 作:形右
そして、今回は此方のアンケートで頂いたシチュを元に書きました。
ただ、二ついただいたのですが、双方を融合させるとどうしてもユーなのオンリーでなく、複数CPみたいになってしまうので、今回は《翠屋でお手伝い》の方を主軸に置かせていただいております。
最初にアイディアの選択について何も触れていなかったので、両方使ってつくるような感覚でアンケートを取ってしまった自分の不備です。申し訳ありませんでした。
その代わりに、《テスト前での勉強ネタ》の方に近いネタの過去にユーノスレで書いたss(確か154くらいに、ユノフェレヴィとユノフェの前かそこらに書いたもの)をおまけとして載せてあります。ちなみにこれは本編時空でのものになっております(前にフェイトの話でやったのと同じ感じです)。
アイディアをくださった鬼討物部さんと紅羽襲さん、ありがとうございました。
ですが、お二人のモノをまとめて作れる力が足らずごめんなさい。そして、次はその辺りを明確にしてアンケートを取らせていただきます。
今回のアンケートはこちらより。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=192262&uid=140738
なお、〆切は一週間くらいと言っていましたが、それだと今回は少し長かったので
コメントが来なくなったところを〆にしようと思います。
ただ、後追いでコメントをするのも大丈夫です。
頂いた意見は、ありがたく参考にさせて頂きますので、どうぞお気軽にコメントをいただけると嬉しいです。
長々とすみません。
では、本編の方をどうぞ――――
お手伝いin翠屋 Everything is an experience.
――事の始まりは、特に脈絡のない提案より。
何となく外出したユーノが、研究所の面々へのお土産に『翠屋』のシュークリームを買いに行ったのがきっかけだ。
美由希が剣道の試合に出向くことになり、応援に恭也と士郎が付いて行くことに。
その話を聞いたユーノが、臨時のお手伝いをすることになった。
渡されたエプロンに身を包んで、ユーノも準備万端。早速頑張って行こうと意気込んでいたところに、なのはが声を掛けてくる。
「なんだかごめんね、ユーノくんにも手伝ってもらっちゃって」
「ううん。そんなに忙しいわけじゃなかったし、困ったときはお互い様だから」
「……えへへ、ありがと」
「こちらこそ。それじゃ、今日はよろしくね。なのは」
「うん!」
そう挨拶を交わし合うと、ユーノとなのはは穏やかに微笑み合った。
これは、そんなひょんなことから『翠屋』でのお手伝いに興じることになった、ユーノのある一日の話である。
***
「それじゃあユーノくん。今日はよろしくね~♪」
「はい。よろしくお願いします、桃子さん」
礼儀正しくユーノが挨拶をすると、桃子は「うんうん」と頷いて仕事内容の説明を始める。
「ユーノくんにはホールスタッフと裏での雑務を主に手伝ってもらうことになるんだけど、そんなに複雑なことはないから大丈夫よ」
「わかりました」
早速、仕事の内容の説明を受けていく。
お客への対応を初めとして、注文の取り方と通し方に、食器洗いなどの雑用処理。その他、軽い清掃についても教えてもらう。
幸いユーノは覚えがよく、仕事を呑み込むのも早かった。
程なくして、慣れた様に仕事に取り掛かる。
お客からの注文を受け、丁寧に対応してテキパキと奥の方へ注文を通していく。
因みに、会計の方も担当したりしていた。レジ打ちは初めてとのことだったが、割かし機械系に強いこともあってか、直ぐに慣れた様子である。
なのはは、そんなユーノの仕事ぶりを厨房で母の助手をこなしながら見ていた。かなり成り行きに任せた展開だったが、それほど動じることもないまま彼はこの店に適応してくれたようである。
それを見て、安堵したなのはは「よかった」と息を零した。
娘のそうした様子を見て、桃子もなんとなく微笑ましい気持ちになる。
……それにしても、
「ユーノくんの仕事ぶり良いわよねぇ~」
と、桃子はユーノのことをそう表した。
しかし、言われたなのはの方はというと、母の言葉の真意を測りかねた様に疑問符を浮かべていたが――。
次の瞬間。
悪戯っぽい母の発言によって、ふわふわした思考は一気に白熱する。
「いっそうちの子に欲しいわ~……あ。ねぇなのは、いっそのことお婿さんに来てもらわない? 女の子的はお嫁さんがセオリーだけど、中に入れたいなら婿入りの方が確実ね」
「ふぇ……ええっ!?」
驚きに苛まれるなのはだが、それも当然だろう。
そもそも、なのははユーノと知り合ってまだ間もない。仲が悪いわけではないし、とても親しみやすくはあるとはいえ……それでもいきなり、お婿さんになんて言われても困るのは当たり前だ。
なのに、桃子は呑気に自分の時のことを想いだしているらしく、「士郎さんも婿入りだったし、恭也も忍ちゃんとこ行っちゃいそうじゃない? だから、やっぱりなのはか美由希におむこさんもらってほしいなぁー」なんて言っている。
そこまで言われて、ようやくなのはの口が二の句を接いだ。
「お、お母さん! なに言ってるの!?」
「あら、なのはは嫌? じゃあ、美由希かなぁ~? あの子も男っ気ないからねぇー」
「――――」
あんまりにも娘の色恋沙汰に踏み込んでくる母の言葉に、なのはは真っ赤になってしまう。
だが、それも仕方がない。まだまだ若い心情の持ち主である桃子は、まるで年頃の少女の様に、娘の赤面する様さえ楽しんでいるのだから。
と、そこへ。
「桃子さん、お持ち帰りのアップルパイの注文が入りまし――」
「にゃあ……っ!?」
すっかり母のペースに乗せられてしまったところで、件のユーノがそこに顔を見せる。
不意を突かれ、心臓が跳ね上がったような錯覚に囚われたなのはは、びくっ! と背筋が反して驚いてしまった。
しかし、なにも驚いたのは彼女だけではない。
「うぇっ!?」
そう。ユーノもまた同様に、なのはの動揺に誘われるようにして、驚いてしまった。
此方も当たり前と言えば当たり前。自分が入って来たことで驚かれたら、そりゃ当人としてはびっくりするだろう。
「え? え? ど、どうしたのなのは……?」
「あ……えっと、その……ぁう」
困ったように俯くなのはに困惑して、助け船を求めるかのようにしてユーノは、桃子の方を見る。
けれど、桃子の方は「あらあら♪」と楽しげに微笑むのみ。
自分から話題をふって当人たちの反応を楽しむ様は、まさしく年頃の少女の様だ。……まあ、海鳴市における母親の枠に入る方々は非常に若くて綺麗だという変な統計データがあるので、あながち外見的な意味では間違っていないかもしれない(桃子を始めとして、『T&H』のダブル店長や中島家の奥方。そして、グランツ研究所の出張中の婦人などが主な対象だとか)。
――さて。
そんな可愛い反応を楽しんだが、流石にこのままにしておくとお店が回らなくなるので、桃子も二人を動かすために背を押すことに。
「はいはい、二人共固まってないで。なのはもホールの方行ってあげて」
「ぇ、う――うん」
思考が一拍遅れの状態で、なのはは母に背を押され厨房から外に出された。
まあそれについてはユーノも同じだったが、彼の場合、なのはが何故か驚いていたことの方が気がかりだったといえる。そこで、とりあえずさっきのことを訊こうとしたのだが、なのはは「なんでもない」と応える。
若干言いよどむような前置きがあったので、なんでもなくはないと思ったものの、追及するほどのコトかと言われればそうでもない。
なので、ユーノは「そっか」と相槌を打ってお客の方へ戻って行く。
なのはもそれに次いで行くのだが、どうも少しぎこちない。
結局、それからしばらくの間は、地に足ついていない様な状態での応対が続くことになってしまった。
――――そうして、段々と客足が遠のいていった頃。
そろそろ、彼の『お手伝い』の終わりが迫っているためか、なのははテーブルの片づけをしながら、ユーノの方を見ていた。
目を向けた先では、ユーノが会計を済ませ、最後のお客に持ち帰りのアップルパイを手渡しているところが見える。……その時、おそらく魔が差してしまったのだろう。或いは、母の言葉の呪縛か。
ともかく理由は何であれ、なのははついこんなことを思い浮かべた。
(…………お婿さん…………お嫁さん)
もしも、仮にユーノが家に何時もいるのなら、と。
知り合ったのはごくごく最近のことだ。
最初に興味を持ったのは、自分が遠い目標だと思っている最強の少女の友人である彼が、偶々自分の幼いころからの友達であるフェレットのユーノと名前が同じだったということが発端だった。
しかも、現在に至るまでの数か月に置いて、なのははユーノとそこまで踏み込んだかかわりなど特に持ったわけでもない。
しかしだ。
なぜだか分からないが、妙にしっくりくる。
――自分とユーノが、一緒にいる未来というのが。
想像は勝手に輪をかけて、どこか確定した将来像の様に広がっていく。だが、ふと正気に立ち戻ると、それは泡沫の夢の様に溶けてしまう。
実に不思議。いや、奇妙な感覚である。
けれど、それ以上に奇妙なのは、何よりも、どうした訳かその感覚に覚えがあるという事に尽きる。
思い浮かべるイメージで近いのは、二人。
片方は彼と同じように、BDの中で知り合った雷光の様な輝きを持った少女。
そして、もう片方は未来からの来訪者。自分と同じ苗字を持っている、虹色の輝きを持った少女である。
絶対的な共通点があるというわけでもなく、強いて挙げるなら髪の色くらい。
その他を思い浮かべると、部分的に瞳の色や、もしくは声などだろうか? だが、それらは別段何かを表しているわけではない。
だというのに、似通っているとなんとなく感じてしまうのだ。
言いようのない、モヤモヤと形を得ない感覚に、なのはは小さく「うーん」とうなりながら、浮かぶ疑念に頭をひねる。
が、答えらしいものは浮かばない。
結局なのはの思考における
とはいえ、気づけないということは固さを伴わないという事でもある。
つまるところ、気づかないがゆえに――青い思いは、まだまだ不定形のままに漂い、時に燃え、時に甘くも苦くもなるということである。
その日は、まだ淡いままに終わった思いだったが――。
それらはまるで運命に誘われるようにして、弱いながらも結びを生み始めていた。
必定などはなく、まだまだ不安定な青い心たち。
――――はてさて、それらは此処から先の路はどう進むのだろうか。
……因みに、本能的に危惧していた事態が(想像とは少し違うとはいえ)起こった事に、ますます星光は頭を痛める羽目になるのだとさ。
*** オマケss 『秋空と席替え、そして夢』
とてもとても色々なことがあった夏休みが終わって、普段の生活に戻ったなのはたちには新学期が訪れていた――――
「はーい。では今日は新学期ということもあるので、席替えをすることにしまーす♪」
「やったー!」
「いい席だといいなぁ〜」
「窓際だな、窓際!」
「えー、狙って出るものじゃないよー?」
新学期開始によくあるイベントの一つである『席替え』をするという先生の声に、生徒たちは皆とても沸き立っていた。
廊下側の席に座っていたなのはは、そんなみんなの声を聞きながら、次になるなら仲のいいフェイトかアリサの側がいいなぁとぼんやり考えていた。
三年生の頃は仲の良かったみんなが同じクラスにいたけれど、今ははやてとすずかは隣のB組にいる。
今でも何処と無く寂しいような気もするが、新しく友達になれる子が出来たらとても嬉しいだろうと思い直して、席替えの方法が決まるのを待つ。
定番の『あみだくじ』と『くじ引き』のどちらがいいかで論争が起こったが、結局はジャンケンで意見をぶつけていた二人が雌雄を決すると決め、結果として席替えの方法は『くじ引き』に決まった。
早速とばかりにノートの切れ端が各々に回され始め、なのはの手元にもそれは回ってきた。
番号と名前を書き、それを前へ回す。そして集めていた生徒がそれらを箱に戻し、いよいよ席替えのためのくじ引きが始まった。
準備万端。我よ我よと、みんな動き出す――かと思えば、意外にもみんなは慎重な動きを見せる。
こういうものは、早く引いたほうがいいと思う人と、そうでもない人とに別れやすい。その辺りのジンクス的部分については、個人のこれまでや性格に寄るところが大きい。
なので、よしと意を決した子から引き始め、次第にそろそろかなという感じに子供達が列に加わっていく。
先生もそんな皆の気持ちを汲んでか、そのやり方を微笑ましげに見守っている。
そしてなのはも、そんなみんなの流れに乗ってアリサとフェイトと一緒に列に加わった。
「楽しみね。ねぇ、二人はどこの席がいい?」
列に並んでいると、アリサがなのはとフェイトにふとそんなことを訊いた。
訊かれた二人は少し悩むようにして考えをまとめ、フェイトが先に口を開いた。
「そこまでどこがいいって程には決めてないけど……でも、アリサやなのはと近い場所だったら嬉しいかな」
「ま、それはそうだけど――なのはは?」
「ふぇ?」
「〝ふぇ?〟じゃなくて、なのははどこがいいとかないの?」
ぼうっとしていたなのはに、アリサは呆れたように先程訊いたのと同じ内容を質問する。
なのはも今度はしっかりと答えられる程度までには考えをまとめて、アリサにそれを答えた。
「わたしも、フェイトちゃんと同じ……かな? 二人と近かったら嬉しいし、他の人のところでも、仲良くなれたらいいなって思ってるよ」
「ふぅん……でも、大体みんなそんな感じよね」
アリサも納得したように二人の言葉を聞くと、そろそろ間近に迫りつつあるくじ箱の方を見据えた。
三人の順番が回ってくると、アリサ、フェイト、なのはの順でくじを引き、席に一度戻る。
みんなが引き終わるのを見計らって、一斉にくじを開いて番号を確認。
ささやかな一喜一憂の後、そこから一斉に大移動が始まっていく。
なのはも皆の移動の流れに乗り、鞄をもって席を立つ。当てはめられた番号を黒板と照らし合わせながら、新しい席に歩いていくと――
「……あ、ここだ」
なのはのとった新しい席は、窓際の一番後ろの席だった。
日当たりもよく、そこまで先生の目にも当たらないという事で、とても人気のある席なのだが……このクラスにおいては一つ、問題ないし欠点があった。
それは、
(……ここって、隣がないんだよね……)
そう。ここは、偶々人数の都合上生じた最後尾の列。それゆえ、隣の席が存在しないのだ。
フェイトやはやての様に転校生が来たり、或いは転校していってしまう子がいると、人数に若干の変動が生じて、こういったことが起こってしまう。
ただ、日当たりもよくそこまで目立たないポジションは中々のもの。
微妙に横とのつながりがない点を除けば、前にだって人はいるし、そこまで困ることもないのだが……はたして、これは運が良かったのか悪かったのか。
なのはは、その席を引き当ててしまった。
「…………」
何だか、喜んでいいのかどうなのか……今一つ分からない席を獲得したなのはは、しばらく呆然となったまま先生の「新しい席で気分を一転して頑張っていきましょう」といった旨の言葉を聞き流したまま、授業の開始を迎えることになったのだった。
因みに、アリサとフェイトはなのはと同じ列の真正面、最前列から二つ後ろの席の場所で並んで座る様な席を獲得していた。
なんだか一人だけになってしまったようで寂しかったが、別に今生の別れというものでもないので、なのはは気にしないようにして授業に集中することに意識を持っていこうとしたのだが……
「――なので、ここの歌の意味は」
……生憎と、一番初めは彼女が苦手な文系科目。
国語の中に出てきた和歌の意味は勿論解説されているが、なんだかよく分からない部分があって少し眉根が寄ってしまう。
勿論、小学校の範囲程度でそこまで思い悩む必要はないのだが……なまじ大学生と高校生の兄と姉を持つ末っ子のなのはは、中学生などに成ったらこんなものをそのまま読んだりしなければいけないのかと思うと、少しげんなりする。
歌の意味自体はとても儚く素敵なものだ。
でも、読み方や古い言葉遣いはよく分からない。
ややこしさと、そこに込められた意味の深さは、一体どうやって昇華していけばいいのやらと、なのはの頭の中で混乱を巻き起こしている様な気がした。
そんな時、ふと思い浮かんだのは――一人の男の子。
(――ユーノくんだったら、こういうの得意なのに)
こういった分野にものすごく秀でている幼馴染を思い起こし、いっそのこと彼がこのクラスに転校して来てくれたらここも一人でなくなるのに……と、酷く無茶な気もしたが、何となくそう思ってしまった。
(……ユーノくん、今もお仕事なのかなぁ……?)
隣に空いた空白のスペースはまるで、二年前にある時期の間、傍にいてくれた彼の眠っていた籠の様だ。
今はからっぽで、そこには思い出しかない。
それが、酷く虚しいような気がした。
別にもう会えないという訳でもないし、連絡だって取れるし、今だって会いに行こうと思えば会える。
でも、やっぱりどこか思い浮かんだその姿は彼がここにいないという、当たり前といえば当たり前のことを認識させる。
その上、斜め前の方ではクラス内でも時々うわさを聞く仲のいい男女が、どちらかが教科書を忘れでもしたのか、互いに見せ合って仲睦まじげにしている。
なんだかそれを見ていると、ますます一人っきりの自分が浮き彫りになるようで、なのははそっと二人から目線を外す。
はぁ、とため息をついて窓の外を見た。
残る春の日差しと、景色の端々に漂う秋の欠片。
うつらうつらと、まさに小春日和な陽気に誘われて、瞼が重くなっていく。
そして、
(ぁ……)
こてん、と、なのはにしては珍しく……眠りの世界の中に自分を飛ばしてしまった。
先生の声が遠巻きに聞こえる。
生憎とそれなりの人数の居る教室では、人の影と距離があるなのはの席は見えづらく、小柄ななのはが眠ってしまったのを見咎める者はいなかった――。
「――――ふにゃ……っ?」
程なくして、なのははまた教室で目を覚ました。
声を出してしまったような気もするが、周りのみんなは気づかなかったのか、何もなかったかのように黙々とペンを動かしている。
そんな皆の様子に、いけないいけない……とペンをとり、聞き逃してしまった部分があるかどうかノートと黒板を照らし合わせようとして、ふと気づいた。
(あれ? 教科書――)
さっきまで机の上にあったはずの教科書がない。
寝ていて落としてしまったのか? と考えもしたが、流石にそんなことをしたら寝ていることが周りに知れるはずなので、それはないだろう。
不思議そうな顔をしていると、〝隣の席から〟声がした。
「どうしたの? なのは」
「えっ……なんで……?」
「??? いや、それは僕が訊きたいような……」
たはは、と苦笑するその人は。
翠の瞳に、蜂蜜か栗のような色の金髪。
一見すると女の子の様にも見える中性的な顔立ちは、さっきまで隣の席だったら良いなと思っていた人で――
「ユーノ、くん……?」
「……なのは。もしかして……まだ少し、寝ぼけてたりする?」
「ふぇ……!? ぁう……その」
居眠りしたところを見られたことを今更ながら自覚し、あわあわとしながらさっと前髪を撫でて素早く身だしなみを整えるが、そんな彼女の仕草は反って彼の笑いを誘ってしまったらしい。
「ふふ」
わ、笑われたーっ!? とショックを受けるが、よくよく考えてみたら、彼は自分の寝ているところなど見たことは何度もあるし、自分だって彼のそういうところは見たことがあるけれど……。
でも、だからといってそれを面と向かって笑われるというのも、乙心としてはどこか複雑で。
「ひ、ひどいよ……」
「ごめんね。なんだかなのはが随分慌ててるから、少しおかしくて。でも、大丈夫……先生も気づいてないし、そのまま授業に戻れば――って、教科書どうしたの?」
「あ……えっと」
「ふふっ……国語は苦手だし、今日は小春日和。眠くもなるかな?」
「……あぅ」
ひとしきり笑うと、ユーノはみんなが気づかない程度にそっと机を動かして、なのはと机を合わせた。
「一緒に見よう。そうすればこの授業は乗り越えられるし、ね?」
「あ、ありがと……」
嬉しい。嬉しいが……なんだかこう、恥ずかしい。
でも、これは先ほどまで自分が望んでいた光景でもある。
隣に来ると、彼の髪が微かに揺れて、自分が好きな彼の香りがしてくるような気がした。
それに、とても安心する。
彼といる時、この表現が一番ぴったりと来る。
フェイトたちやヴィータたちといる様な、判りやすい楽しさではなく、柔らかで温かな毛布のような心地よさ。
先ほどまでの陽気に重なるように、この雰囲気がなのはをほわほわと夢へと誘う。
しかし、また夢の住人になるには早い。
そう思っていた矢先、またしてもうつらうつらとしたところを見られ、くすくすと愛おし気な声が聞こえてきた。
「ふふっ。なのは、今日はよっぽど眠いんだね」
「……にゃっ……!?」
一歩手前でまた牽き戻される。
眠ろうとしているのに、なんだか眠りの世界に引き留められている朝方のようだ。
顔が赤くなるのを感じるが、どうにもこの雰囲気には抗いがたい。
どうしたものかと思っていると、ユーノが先生の指している文の意味を試しに考えてみたら? と言ってきた。
まあ、逆効果かも知れないが、何もしないよりはいいかなと手元からノートの上に転がったペンを取る。
「――ぬるがうちにせめては見えよ関守のありともきかぬ夢のかよひぢ――?」
勿論小学校の範囲なので、そのまま読めなどというものではなく、その意味がおおよそ乗っているものを読んでそこに込められた思いを考えてみようといった程度。
けれど、なんだか読んでいて不思議に思った。
「ねぇ、ユーノくん」
先生や周りに聞こえない程度の声で、なのははユーノにこう訊ねた。
「これって……要するに、夢で会いに来てくださいってことだよね?」
「うん。まぁ、大まかにいえばそんなかんじかな」
「でも、なんだか不思議な言い方だね。自分が思うから夢に出てくるんじゃなくて、まるで相手の方から夢の中に来てくれるようにお願いしてるみたい」
首をかしげるなのはに、ユーノはさらっと捕捉を加えた。
「前に、はやてやすずかから聞いたことなんだけどね?
昔は今みたいに、自分が思うから相手も夢に出てくるんじゃなくて、相手が自分を思っていてくれるからこそ、自分の夢に出てくるんだって考えられていたらしいよ」
「へぇー……」
しげしげと、改めて先ほど読んだ部分を見返してみる。
昔の歌に触れてみよう程度の内容だが、いくつかの分類に分かれていてその中でも『恋』にまつわる歌として先ほど読んだものが乗っていた。
ユーノの言葉を踏まえて考えてみると、この歌はなんだか『恋』というより両親のような夫婦を思わせる気がした。
もちろん、今と昔では考え方が違うというのは、ユーノの捕捉や社会科の歴史の授業で何度かやったことがあるため分かってはいたが……どことなく、まだそこまでその流れのまま読めないなのはには今の時代に置き換えると、そんな風に感じられた。
――夢の道には看守などおらず、阻む者はいないのだから……せめて夢の中でくらい、その姿を見せに会いに来てください。
切ないけれど、会いたいという思いがひしひしと伝わってくる気がした。
そしてそれは、どこか今の自分にも当てはまるような気がして……。
(……あれ?)
ふと、思った。
眠ったらいつの間にかユーノがいて、まるで自分の為に会いに来てくれたようで、こうして優し気に笑みを浮かべる彼と一緒に肩を並べて授業を受ける。
本当にそれは、願っていた夢のようで――。
「――――のは」
そこまで考えたとき、どこからか声がした。
だれだろう? と思ったが、こんな授業中に声を出すような人がいるとも思えない。
「――なのは」
けれど次第に、自分の名前を呼ぶ声が強くなっていき……
「――なのはったら、そろそろ起きなさいよっ!」
その声と共に、ユーノを含めた周りの景色が一気に消失した。
「――――ふぁ……?」
「あ、起きた」
「はぁ……もう、なのはったら。熟睡しすぎよ!」
アリサとフェイトが、何故か目の前にいた。
先ほどまでスムーズに働いていたはずの頭が、何故だか急にぼんやりと霞んだ気がする。おぼつかない思考のまま、周りを見ると生徒たちがまばらになっているのが見えた。
所々が空席となり、まるで授業が終わってしまったかのように見える。
でも、まだその真っ最中の筈であり、その隣にはユーノが――
「――あれ? ユーノ君は……?」
あったはずの席はなく、勿論そこには彼の姿もまたない。
「え? ユーノ?」
「……なのは。あんたホントに大丈夫? 夢遊病――は違うか。ええと、そうだ。夢うつつとかになってない?」
「なにそれ?」
素で返すなのはに、ああこれはいつもの彼女だと安心したらしい金髪少女二人。
「なんか夢でも見てたの?」
「ゆ、め……?」
そう言われて、なのはの思考がやっと本調子を取り戻した。
「……わたし、夢見てたんだ……」
ようやくそれに気付く。
授業中に寝た挙句、ユーノの幻影まで見てしまうことになるとは。これではまるで、さっきの夢の中の授業の――
「…………(かあぁぁっ)」
「「???」」
不思議そうな二人をよそに、なのはは顔を赤くしたまま下を向く。
夢の中で聞いた内容が、まるで自分の内面から浮き出してきたようで……恥ずかしい。
良く解らないが、ものすごく照れくさい。
夢には彼が出て来てくれて、すごく幸せだった。
でもそれが、さっきの歌の様な意味を持っていたのなら――?
そう考えると、幼いなのはには、それだけでも十分な威力をもたらした。
暫くして、はやてやすずかがお昼の誘いに来たり、夢の内容をアリサたちに茶化されることになり……随分と気恥ずかしい思いをするのだが、それはまた別である。
これは、そんなある秋の日の――少女の抱いた小さな夢のお話だった。