innocent時空のユーノくん短編集(CP雑多) 作:形右
ほんわかした雰囲気を意識して書いてみた感じです。
休息は外で Let’s go out!
海鳴市・暁町にあるグランツ研究所にて――
今日も今日とて、VR関係の研究がおこなわれていた。
本日は、仮想空間におけるデータベースの運営。また、そこにおける活動のデータ収集である。
投影された画面とキーボードの前に座りながら、ユーリはモニターの中を真剣に眺めていた。
モニターの中には床や天井の無い、うねるように上下に連なった書架が広がっている。
その光景こそ、仮想化されたデータベースであり、ここの研究所で研究が進められている仮想世界の可能性の一つだ。
そんな風景を
「ユーノ、どうですか?」
ユーノは〝外〟から掛けられた問いに対し、こう応えた。
『うん、良い感じだよユーリ。検索、閲覧、整理――どれも問題ない』
自身のサポートをしてくれているユーリにそういうと、ユーノは目の前に在った〝本〟をパタンと閉じ、目の前から書架へ戻す。
そんな彼の様子に、ユーリは「良かったです」と安堵の表情。
特に支障はなかったようだと判断して、一旦ユーノに検索を中断するように頼み、正面の脇に浮かぶ他のモニターで彼のバイタルチェックを行う。――数値はどれも正常、いたって問題は見られない。
『仮想空間におけるバイタル変化、いずれもオールグリーンでした。お疲れ様ですユーノ。そろそろ、戻ってください』
『うん。仮想データベースでの検索は、これで結構データが集まったかなぁ?』
「はい。……ただ、速度に関してはもう少し落としてもらえると。ユーノは、並列思考処理が早いので、その……検索の
微かに苦笑しながらユーリに言われて、ユーノは少しバツが悪そうに頬を掻く。
そこから、どちらともなく小さく噴き出して、二人きりのラボに楽しそうな笑い声が響いた。
そうして二人がしばらく作業を続けていると、
「やあ、二人共お疲れ様」
と、そんな声と共に、ラボに癖の強い黒髪をした白衣の男性が入って来た。ここの研究所主任のグランツ博士である。
『あ、お疲れ様です。博士』
「おつかれさまです~」
「うん、お疲れ様。そろそろ休憩でも入れないかい?」
そういった博士だったが、二人はもう少しでキリが付くからと作業に戻る。
どうやら大まかなデータ収集は終わっていたらしいが、こまごまとした微調整が残っていたらしい。そうやって残りを片付け始めた二人を見て、博士は楽しそうなやる気というか、二人の生真面目さを頼もしく思いつつも、あんまりにも一生懸命すぎる部分には苦笑い。
「うーん……。二人が頑張ってくれているのは嬉しいけど、もう少しペースを落としてもいいんだよ? 研究は君たちや、みんなのおかげで本来の予定よりずいぶん進んでいるわけだからね」
まぁ、ジェイルの悪ふざけは少し困る時もあるけど。
なんて付け加えた博士に、ユーノとユーリはくすくすと愉快そうに笑う。
確かに、博士の言うところのジェイル――グランツの後輩であるジェイル・スカリエッティ博士は、どうにも『
と、それはともかく――
ひとしきり笑い終わると、博士は少し真面目な顔になってこう言った。
「まぁ、君たちが楽しんでやっているのはとても頼もしいよ。しかしね、僕は二人の娘を持つ父親でもある。だから、可愛い家族同然の君たちにも無理はしてほしくないんだ」
「あぅ……」
「すみません……」
「たはは。いやいや、謝る様な事じゃないさ」
沈んでしまった空気を変えるように博士は、二人に提案する。それならいっそ悩むより、少し外を散歩してくるのはどうかな? と。
「今日は、とてもいい天気だからね。どうやら見たところ、残ってるのは不備のチェックくらいみたいだし。残りは僕がやっておくよ」
その言葉を受けて、二人はしばし考えた末――じゃあ、お言葉に甘えて、といって、片づけた作業の最終チェックを博士に任せ、外へ出ることに決めた。
***
ラボでのやり取りから十分ほどしたのち、ユーノとユーリは一旦部屋に戻り、外出の準備を始めた。
準備と言っても、そんなに遠くへ行くわけでもない。せいぜい財布とケータイを持つくらいのものである。あとは、ユーリが小さなポシェットを持ったくらいだろうか。
そうして入り口まで向かったのだが、思いのほか日差しが強い。
初夏の訪れをありありと感じさせるそれに、ユーノは少し考えた後、一旦部屋に戻って麦わら帽子を取ってくると、ユーリに被せた。
「まだそんなに熱いって程じゃないけど、まぁ念のために」
「ありがとうございます、ユーノ」
ぽふっ、と、頭に乗せられた帽子を軽く押さえながら上目で見てくるユーリに微笑みを返すと、早速二人は外へ向かう。
その背を遠巻きに見守るグランツ博士は「うんうん」と頷きながら、楽しい外出になることを祈りつつ、二人から引き受けた作業を片づけるべくラボに戻っていった。
と、ひとまず外へ出たはいいが、研究所を少し離れたあたりで、二人は目的地を決めていなかったことにはたと気づく。
「どうしましょう?」
「うーん、どうしようか?」
疑問符を浮かべて首をかしげる二人。何となく傍から見ると、まるっきり姉妹……いや失礼、兄妹の様である。
悩み始めた二人。
しかし、脚を止め続けても意味がないのに気づいたのか、とりあえず歩を進める。
しばらく歩いていると、ちょうど広場のようになっている場所に出た。軽く公園のようになっている場所なので、ここで少しのんびりするのもいいかもしれない。そう思ったところで、少し離れたあたりから三時を告げる時報が聞こえて来た。
こうもタイミングよく聞こえてくるものなのかと思ったが、ここはバスプールからもほど近い。故に、そういう関係もあるのだろう。
時報についてはそう納得したユーノだったが、三時というキーワードが彼の脳裏にある事柄を連想させる。
どうにもグランツ研究所にいる年の近い面子は女所帯であるし、とりわけ内一人はものすごく無邪気で奔放。その他にも諸々の事情もあって、あそこでは大体の面子がそろっていると決まってアレが催される。
ついでに言うと、ユーノ自身も頭脳労働が多い方なので、アレは好きだ。
単純に作っている人間が料理上手というのもあるのだが、とにかく美味しい。そんな意識が表出すると、もう戻れない。
実に単調な思い付きというのは浮かびやすく消えづらい。――が、それもまた一興というものだ。
隣にいるユーリの方を見ると、彼女も似たようなことを思い浮かべていたらしい。
となれば、後はもう否も応もない。
それに、あそこへ行けばお土産も買ってこられる。最近は作ってもらってばかりだったから、日ごろのお礼もかねてプレゼントしてみるのも悪くないだろう。なにせ、我が家の王様は非常にアレが好みであるのだから――。
「――じゃあ、行こっか?」
「はい!」
そういって手を繋ぎ、僅かに心躍らせながら、バス停の方まで歩いていく。
目指すは暁町より少し行った、藤見町の商店街にある『翠屋』。二人の友人の高町なのはの両親が経営している喫茶店である。
***
ほどなくバスは藤見町に二人を運び、二人は海鳴商店街へ降り立った。
バスを降り少し歩くと、目的の店の看板が目に入る。
早速その中へ入ると、喫茶店らしくドアに着けられた鈴が来客を告げる音を鳴らし、中から優しげな声で来店を歓迎する声が聞こえて来た。
「いらっしゃいませ~……って、あら。ユーリちゃんにユーノくんじゃない! いらっしゃ~い♪」
声を掛けてきたのは、ここの店長兼パティシエで、なのはの母である高町桃子だった。
笑顔で迎え入れた桃子は、早速二人を席へ案内する。
店内は平日の昼下がりということもあってか、それほど混んでいない。なので、本来なら一緒にやっている桃子の夫の士郎も今は表に出て買い出し中である。
そうして席に着くと、彼女の息子でなのはの兄である恭也がお冷を運んできた。彼は大学生であるが、時折暇を見つけては、こうして店の手伝いをしているのだ。ちなみに、彼の彼女である月村忍はここのアルバイトチーフだったりする。
お冷を運んできた恭也は二人を見ると、意外そうにこう話しかけてきた。
「なんだか珍しい組み合わせだな。二人だけというのは」
言われて、二人は顔を見合わせ少し考えてみる。
確かに、普段この組み合わせで外出するというのはあまりない。
「そういえば。出かける時はみんなと一緒が多いですから、ユーノと二人というのは案外なかったかもしれません」
普段、昼間も一緒にいるせいかあまり実感がわかなかったが、外に視点を移すと恭也の指摘は当たっている。
そもそもユーノもユーリも、自分から主張する方ではないので、大抵は誰かに巻き込まれる形の方が多いだけに、こうして二人での外出は珍しいかもしれない。
「まぁ、今日は休憩がてら外にでも、ってグランツ博士が。それで、ちょうどいい時間だったのでここに」
そういってユーノが説明すると、桃子と恭也は「なるほど」と納得顔。
しかし、珍しい組み合わせというのは中々見られないからこそ面白いものだ。こういう時、好奇心旺盛な女性は強い。
「そっか。じゃあ今日のユーノくんは、ユーリちゃんのおにーちゃんなのね~」
「いや、まあ……そんな大層なことはしてませんけども」
桃子の言葉に苦笑するユーノ。
そんな彼の傍らで、ユーリはなんとなく言われた言葉を反芻している。
「おにーちゃん、ですか……」
言われてみると、何となくそういう面もあるかもしれない。
ユーリは研究所でお世話になっている面子の中では最年少だが、みんなが学校へ行っている間に過ごす時間はユーノや博士と一緒の割合が多い。付け加えるならば、飛び級が終わっているという点に置いて、元々の幼馴染である面子の中では親近感もある。
「おにーちゃん……けっこう、しっくりくるかもしれません」
ユーリのそんな呟きに、桃子は満面の、恭也は静かな笑みを浮かべる。
「仲が良くて何よりだな。それじゃあユーノ、今日はしっかり兄としてユーリを守ってやるといい」
そう言ってメニューを渡すと、恭也はユーノの肩をポンと叩いて奥へ戻っていく。
桃子の方はというと、もう少し二人を愛でたかったようだが、厨房の方でタイマーがなるのを聴くと残念そうに戻っていった。立ち去る際、今日のオススメは桃のタルトとイチゴのチーズケーキだとも告げて。
オススメを聞き、美味しそうだと思いつつも一応メニューを開く。
別に急ぐような時間でもないので、ゆったりと吟味することに決めた様だ。
そうして可愛らしく迷っている二人を遠巻きに眺めつつも、高町親子はお店を回す方に専念しだした。
出来上がったばかりの皿を渡された恭也は、注文のあった卓へ持っていく。
それを運ぶと、座っていた恭也と同い年くらいの青年が彼に話しかけてきた。彼は恭也の高校時代からの友人で、赤星勇吾という。
「なあ、高町。なんか仲良さそうだったけど、あの子たち誰? あんまり見かけないけど」
「ああ、妹の友達だよ。例のVRゲームの関連で、暁町にある研究所にホームステイしてる子たちさ」
「ふぅん。でも、ホームステイって言っても学校は?」
「何でも、二人とも学校は終えているんだそうだ。ユーリの方は聞いてないが、ユーノの方はなのはが考古学だとか言ってたかな」
「考古学って……VRとあんまり関係なくないか?」
言われてみれば、と、恭也も思うが、実際手伝っているあたり、何かしらの関係があるのだろう。それに確か、一つだけを専攻という訳でもないとなのはが言っていたような気がする。
「まあ、なんでも祖父の影響なんだそうだ。なのはが言ってた……それに、別に取ったのは一つじゃないらしいがな」
それを説明すると、赤星の方もとりあえず納得したようだったが、今度は別の事が疑問に上ったらしい。
「というか、あの子たち姉妹? めっちゃ似てるけど」
「いや、あの二人は姉妹じゃないぞ? あと、せめて間違うなら兄妹にしてやれ」
「? あ、ナルホド……」
察する赤星。
顔だけを見てれば、女の子に見えなくもないが、言われてみればユーノは間違ないなく男の子に見える。この辺りの印象は、ボーイッシュで勘違いされやすい中島家の四女とは対照的である。
そんな益体もないことを話していると、どうやらユーノたちの注文が決まったらしい。
桃子が聞きに行ったので、恭也はもうしばらく赤星とのトークタイムとなりそうだ。
「はーい、二人ともご注文は?」
「えっと、僕はイチゴのチーズケーキとブレンドでお願いします」
「わたしは、さっきの桃のタルトとミルクティーを」
と、そう二人が注文すると、桃子は承ったとばかりに厨房へ向かって行く。
そして数十分後。
二人の前には、美味しそうなお菓子が並んでいた。
「それじゃあ、食べようか。ユーリ」
「はい!」
ほんわか笑顔を交わす彼らに、店内がなんとなくほんのりしたのは内緒である。
***
のんびりとおやつタイムを終え、『翠屋』を若干ほのぼの空間に変えた後――。
お土産用にシュークリームを買うと、ユーノとユーリは桃子たちにお礼を言って、店を出ていた。
そうして向かったのは、『翠屋』にほど近い公園。
何故そこを選んだのか。そう聞かれると返答に困るのだが、ともかく二人はのんびりとした場所を探していたようである。
林に囲まれた公園には、中央に池や桟橋があり、ボートなどで遊べるようになっている。だが、とりあえずそれをスルーして、二人は中央の池から続いている水路に面した木陰へと向かう。
そこにはちょうどベンチがあって、西へ傾き始めた陽光を受けながら休むにはうってつけの場所であった。
腰を下ろし、一息つく。
思えばなし崩しで始まった様な感覚だったが、
「たまにはいいね……。こうしてのんびりするのも」
「ですねぇ~」
悪くない、と。
陽気に誘われるようにして、ふわふわとそんな呟きが二人から漏れ出す。
そうして、次第にうつらうつらとユーノとユーリの頭が振れる。眠気に誘われ、二人の瞼が重くなっていく――――
「……ぁ」
しまった、と、そこまでは声にならなかったが、ユーノは自分が眠ってしまったことに気づいた。どうやらベンチにもたれたまま寝てしまったらしい。傍らに目をやると、自分の肩に頭を乗せて寝息を立てるユーリがいる。
仲良くお昼寝してしまったようだ。
と、そうぼんやりとした頭で考えながら、時間を確認しようとケータイをポケットから取り出す。
画面を付けると、通知が十件ほど溜まっていた。どれもグランツ研究所の面々からのもので、内訳は――シュテル五件、レヴィ二件、ディアーチェ・アミタ・キリエからが一件ずつだった。
どうやらなかなか戻ってこない自分たちを心配してくれたらしい。
時間はもう夕食時に差し掛かろうかという頃。これは早く戻らないと、ディアーチェが怒るんだろうなと想像をしつつ、ユーノは返信を送る。
内容は、シンプルに一言――今から帰ります、とだけ。
返信を終えると、寝起きの身体を起こすべくため息を一つ。身体が固まっているのをほぐすと、なんとも言えない倦怠感に襲われるが、研究所まで戻るくらいなら問題ない。早速ユーリの事も起こして、帰ろうかと思ったところで、ユーノはハタと気づく。
「…………すぅ」
安らかに寝息を立てているユーリ。
どうやら、彼女は自分よりも疲れていたらしい。しかし、考えてみればそれも当然であろう。
確か、ユーノが来るまでは一人で普段から研究を手伝っていたのだとか。
そんな環境に、自分よりも年下の女の子がいたのだ。楽しんでいても、充実感があっても、見えない疲労はいつの間にか溜まっていたに違いない。なら、起こすのは忍びないというものだ。
来るときはバスを使ったが、別にグランツ研究所までは歩いていけないでもない。
で、あるなら。
「……そうだよね。今日は、僕が君を支えてあげなきゃ」
そう意を決して、再度メッセージを送信する。
今度の内容は――――少しだけ、遅れるかも。
*** 優しげな背に揺られて Yuno&Yuri.
――――なんだか、少し揺れている。
ぼんやりとした意識の中で、ユーリは漠然とそんなことを思った。
自分はさっきまで公園にいたのに、何故か今は視界に木々は写っていない。というより、自分の視界は何かに遮られているのだろうか。
前にある色は、自分のそれより幾分色の濃い亜麻色っぽい金。
その向こうには夕焼けがあって、最期に見たときよりだいぶ燃えている。
何だろうと思って、少しだけ身を乗り出そうとして――ユーリは、そこがどこなのか分かった。
……自分は今、ユーノにおぶられているらしい。
つまりここは彼の背で、寝ているところを運んでもらっているということだ。
降りて歩こう、そう思いはした。
なのに、身体は起きるのを拒否するようにまた眠気を誘ってくる。
どうにか起きようと身体を軽く捩ると、ユーノはユーリが寝づらかったのかと勘違いして、少し身を前かがみにしてユーリが持たれやすく重心を調整した。それがまた目覚めかけの意識を沈めていき……
「もうすぐ着くから、大丈夫だよ」
聞こえているかも定かではないのに、掛けられた声に安心して。
「今日は、君のおにーちゃんだからね。――傍にいるから、安心しておやすみ」
そんな柔らかな声で、また瞼が閉じられた。
ある午後の陽だまりの中。
燃える火を越えていく二人の影は、とても優しい雰囲気に包まれていて――似た色彩を持った姿は、まるで本当の兄弟の様だったという。
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いでございます^^