innocent時空のユーノくん短編集(CP雑多) 作:形右
雷光の天敵は宿題? Let's_Reading_and_Writing!
それは、初夏の風が漂い始めた頃の土曜日。
グランツ研究所の一室にて、机にかじりついて眉根を寄せているレヴィから始まった。
「むぅ……」
「どうしたのレヴィ、そんなに唸って」
何かに悩んでいるらしい彼女を見つけて、ユーノは声を掛けた。
すると、
「ぅぅ……宿題めんどーくさいよぉ……」
ユーノに向かっているのかどうかも定かでない声で、そんな返答を返す。
「あー」
なるほど。
と、彼女の様子に納得したユーノ。
改めて机の上を見てみると、其処には何冊かの本と作文用紙。これから鑑みるに、どうやら彼女に課せられたのは作文のようである。
地頭は悪くないレヴィだが、あまりこうした課題は得意ではない。
計算辺りを前にすれば、すらすら解いてしまうが、こうした自分から着想・発想し、ある程度求められる形に治めるのは不得手なのである。かなり前になるが、自己流でやり過ぎて再提出をくらった事もあるとか。
なので、面倒な事が嫌いな彼女はどうにか頑張ろうとしているのだが――。
「でもおわんないんだよぉ~……」
ふにゃふにゃの軟体動物にでも成ったかのように、机の上でぐでーっとしたまま突っ伏しているレヴィ。
どうやら、よっぽど煮詰まっているらしい。
その様子に苦笑しつつ、ユーノは傍らからイスを引き寄せて彼女の傍らに座る。
「……んー? どしたのー、ゆーの~」
「いや、大変そうだから手伝おうと思って」
「ホント!?」
「う、うん」
がばっ! と勢いよく起き上がるレヴィに少し驚きつつも、ユーノはひとまず、課題の詳細を把握しようと思い、彼女にそれについて訊ねてみる。
聞けば、文学書を読んで書くというごくごくありふれたものである事が判った。
「でも、それなら終わりそうな気もするけど……?」
「だぁってぇ~」
曰く、純文学はまどろっこしくて読み辛い。
レヴィに言わせれば、話の進みが簡潔でなく、どことなく詩的な部分が面倒だ、という話であった。しかし、年齢自体は小学生であろうが、所属しているのは中学校である以上、まさか児童書のようなものを選ぶわけにも行かない。その上、『日本の有名作家』というカテゴリで括られているため、如何に彼女といえども、奔放に行くわけにも行かず困っている、と。
レヴィの抱えている理由自体はそんなものらしい。
なんともらしい理由だな、と、ユーノは思わずまた笑みを零す。
如何に飛び級しているとはいえ、レヴィはどちらかというと感情や直感で動くタイプの性格をしている。
単純に言えば、どれだけ流れを見て取る力があっても、他者に伝えるのが下手な所謂〝天才型〟なのだ。硬い表現しか出来ず、多勢に伝わり辛いシュテルとは異なり……レヴィは、そもそも自分の感覚でしか説明できない。その辺りが彼女の欠点と言えば欠点だろうか。
それはともかくとして、ユーノは早速レヴィの選んだ本を手に取ってみる。
と、そう思ったところで、ふと他の二人はどうしたのだろうかと思い至り、それについて訊いてみた。
「そういえば、シュテルとディアーチェはもう終わってるの? いつもだったら三人で一緒にやってるのに」
「最初は一緒だったケド……読んでるときにうるさくしちゃって、怒られちゃった」
「……なるほど、どおりで二人とも図書館に行ってるわけだ」
今朝方、図書館へ行こうと誘われたのを思い出した。
随分いきなりだと思ったが、思いの外シュテルが同行しないことに対してごねたのは、もしかすると、ユーノがレヴィの手助けをすることを危惧したからかも知れない。その他の理由も若干あるのだが、生憎と「手伝うかどうか」を思案し始めたユーノがその辺りまで思い至る事はなかったという。
(まぁ、もう手伝うって言っちゃったし……。それに、レヴィも一人で読んでてもつまんないよね)
大方、シュテルもディアーチェも、レヴィを置いてきた事にもやもやしているのだろうな、と思い浮かべるユーノ。
何だかんだとやっていても、存外二人ともレヴィには甘いのをユーノはよく知っている。
なら、先に手助けしても構わないだろう。早めに終わらせられれば明日辺り、ユーリも連れて遊びにでも行けるだろうし――。
そう考えたユーノは改めて、レヴィの作文作成を手伝う方向に決意を固めた。
「じゃあレヴィ。作文をちゃんと終わらせて、明日みんなと遊びにでも行こう」
「え?」
「宿題終わらせたら、すっきりした気分で遊びに行こうってこと。それに、シュテルとディアーチェも、レヴィがちゃんと終わらせたって知ったら褒めてくれるだろうし」
ね? と、ユーノ。
向けられた笑みに、レヴィは目をぱちくりさせていたが、ソレが要するに〝ご褒美〟だと気づき、顔がパアァァと明るくなる。
「うんうん! じゃあ、ボク頑張る!!」
「それじゃあ、改めて始めようっか。レヴィ」
「うん!」
――――それから三十分後。
「あぅ~……」
やはりというか、そう事はとんとん拍子とは行かず、やはりレヴィは行き詰まっていた。
「うーん、やっぱり読むのは苦手なんだね」
「だぁってぇ~」
「たはは……」
どーせならもっとカッコいいのが良い! などと駄々をこねるレヴィにユーノは苦笑気味である。
なんとなく前にユーリのお兄ちゃん気分になったことがあるが、しっかりしているユーリとは真逆に、レヴィを妹と思った場合、なんとも手の掛かる妹様だなと思った。
しかし、だ。
別にこれはこれで楽しい。少し困りはするが、レヴィは少なくとも放り出したりはしない為、根気よく支えるだけで自ずと進む事は幼なじみであるユーノはよく知っていた。
(……でも、流石にこのままじゃ拙いかなぁ?)
何かこう、レヴィが目の前に置かれた壁を超えられる様なものをあげられないものだろうか。
少し考えてみるが、まず読み進めることが不得手なレヴィは内容を説明するだけでは作文に成らない。彼女自身の考察や感想が載っていなければ、あまり意味がないだろう。
どうしたものか、と、ユーノは思案を重ねていく。
すると其処へ、ユーリがやって来た。
手にはお盆を抱え、其処には三つのカップと皿に乗せられたクッキー等が並んでいるところを見ると、つまり。
「おやつですよ~♪」
そういうことらしい。
まあ、こうしたデスクワーク(?)には糖分摂取は必要かと思ったユーノだったが、
「おやつ!?」
そう言って、地獄に仏とばかりに飛び上がったレヴィを見て、少々思い直す。
「――レヴィ?」
「…………あぅ」
しょんぼりするレヴィを見ると、なんともいたたまれなくなるが此処は愛の鞭。あまり緩めすぎては、進むものも進まないのである。
が、その様子は今しがたやって来たばかりのユーリには不思議だったらしく、
「??? 二人とも、どうしたんですか?」
疑問符を浮かべながら、彼女はユーノとレヴィにそう訊いた。
そこから経緯の説明が始まり、ユーリが運んで来てくれた紅茶を片手に、暫しの休息を兼ねた相談タイムが始まったのであった。
***
「――なるほど。それでだったんですね~」
ふんわりとした笑みで納得した事を告げるユーリ。
彼女がいるだけで、先ほどまで切羽詰まっていた様子さえも和んでしまうのは、どうしてだろうか。
などとほんわかしていると、ユーリは不思議そうに首をかしげている。
何でもないよ、とユーノは告げ、おやつを食べ終わり再度机に向かったレヴィの背を眺めつつ、ユーリにどうしたら良いかを訊ねてみた。先ほどからあまり進みが芳しくはないため、何かしてあげたのだが、あまり良い案が浮かばなかったのである。
オマケに、おやつタイムの後と言うことも手伝って、レヴィの進みはいっそう遅くなってしまった。人間、楽しいことの後に苦しいことがあると進みが遅くなるものである。
ううん、と唸るレヴィを見て、ユーリは申し訳なさそうに呟く。
「すこし、タイミングが拙かったでしょうか……?」
「いや。休憩は大事だし、ユーリが悪いわけじゃないよ。それより、ユーリは何かレヴィがやりやすくなるアイディアとか、思いつかない?」
そんなやり取りを交わしながら、先ほどの問いかけの応えを訊いてみるユーノ。
「そうですねぇ……」
ぽわぽわと思案していくユーリだったが、直ぐに思いつかなかったようだ。
そもそも彼女もまた、シュテルやディアーチェ同様、其処まで本を読むのに苦手意識を持たないタイプである。思いつかないのも無理はない。
やはり地道が一番かな……と、そう思い直し始めたユーノだったが、その時ユーリはふとこんなことを言った。
「ええと、なんとなく思いついたんですけれど……その、レヴィは自分で読むのが苦手なので、いっそ読み聞かせなんてどうでしょう?」
「読み聞かせ?」
「はい。昔、向こうにいたときユーノが偶にやってくれたみたいに」
「あー……」
そういえば、と。
ユーノ自身忘れかけていたが、もう少し小さかった頃――そういえばユーノはユーリに本を読んで上げた事があった気がする。保護者である祖父の影響で読書家なユーノは当時、家の書庫の中を漁って古い本なども読んでいた。けれど、シュテルやユーリはそういったものをスラスラ読めるわけではない。そこで、読んであげると言う手段に出たことがあった。
……尤も、それはシュテルがユーノと遊びたかったことと、ユーノにくっついていたユーリが退屈しないようにと思ったが故の副産物であったのだが。
ともかく、そうしてみてはどうかと言われ、ユーノはなんとなく試してみようかと思った。
なんとなく懐かしい気持ちもさることながら、もしかすると場面の接合を理解しづらいなら、人の口を通して語ることで、少しは判りやすく出来るかも知れないと思ったのである。
「……って事なんだけど、どう? レヴィ」
「ぅうん……よくわかんないけど、お願い」
「うん。わかった――」
そこからの本選びはトントン拍子に進み、早速とばかりに読み聞かせが始まった。
***
「――――と、あった。
ふぅ……。どうだったレヴィ、少しは面白か――った?」
最後の一節を結び終わったユーノがレヴィの方を見やると、そこでは。
「ううぅぅ……」
「ふぇ……ひくっ……」
泣いているレヴィとユーリの姿が。
「!? だ、大丈夫……?」
「うん……そうじゃなくてさぁ……」
「はい……よかったです。感動しました……」
そこまで大層な事をしたつもりはなかったユーノだったが、今回は思いの外彼女らには好評だったようである。
とりあえず、何が悪いという訳でもなかったので安堵を浮かべるユーノ。
ホッとしている彼をよそに、レヴィは何やら燃え上がっていく様な様子を見せる。
「ユーノ! すっごくよかったよ!」
「そ、そう? なら良かった」
「うん!」
満面の笑みで原稿用紙へ向かうレヴィ。
そんな彼女の様子を見て、ユーノは先程とは異なる安堵を覚えた。
「……そっか」
やる気の炎が出たのなら、レヴィは大丈夫だろう。
確信というには大げさかもしれないが、ユーノは少なくともここまで燃えているレヴィを見て心配などという言葉はもう出てこなかった。
――その後、ここまでの遅滞が嘘のようにレヴィは作文を書きあげた。
思いの外、読み聞かせ効果が高かったらしい。滞りなく進んだ作文の出来はと言えば、不備もなく、しっかりとしたものに出来上がっていた。この辺りは思考の論理性はしっかりしているレヴィらしいといえるだろう。
「できたー!」
「よかったね、レヴィ」
「ですね~♪」
「うん! 二人ともありがと~~!!」
「「わッ!?」」
ガバッと抱き着いてくるレヴィ。
こうしたところはどことなく子犬っぽい印象を抱かせる。聞くところによると、彼女と仲のいいアリサも知り合った当初は、なんとなくレヴィをイヌっぽいなんて理由から〝センパイ〟呼びをやめたほどだとか。
まあ、それはともかくとして。
「えへへ~」
嬉しさ満開とばかりに喜んでいるレヴィを見ると、助力をした身としても嬉しくなる。
ユーノとユーリはレヴィの頭を撫でつつ、そんなことを思った。
***
――――そうして、翌日。
ユーノを含めた『ダークマテリアルズ』面々は、彼が昨日レヴィと約束した通りに遊びに出ていた。
場所は、新しく出来た遊園地。何と、園内には水族館も併設されているという一大テーマパークである。
作文を書き上げた後のレヴィに急かされ、どこに行くのかを決めあぐねたユーノがこういう事に詳しそうなアリサに尋ね、おススメされた場所だ。
昨夜この『ご褒美』の内容を説明したところ、行けないという面子はいなかったが……フローリアン姉妹は
専門は機械工学でもあるが、
と、それはさておき――
早速とばかりに遊園地へ来た面々であるが、ユーノは背中にひしひしと感じるシュテルの非難の視線を感じていた。
「えっと……シュテル?」
「…………(じとーっ)」
「……僕、何かした?」
「いえ。ただ、ユーノはレヴィに甘いですよね。……色々と(わたしの誘いは断ったのに)」
どことなく内心まで伝わってくるような気がして、ユーノはちょっと心が痛い。
別にないがしろにしたわけではないが、確かにちょっとレヴィに甘かったかもしれない。……ついでに言えば、シュテルは最近ユーノに構ってもらえなかったこともあり、とても不機嫌であるが……言ってしまえば、単なる嫉妬であった。
ヴィータによくムッツリ呼ばわりされるのは、この辺りが所以である(捏造)。
閑話休題。
入場した面々は、早速どこへ行こうかを相談しようとした。
が、そこは奔放なレヴィを抱えた面子である。興味の向く方へと、自由気ままに駆けて行く。
……ユーノを引っ張って。
「おぉ~! アレカッコいいーッ!!」
「え――あ、ちょ……レヴィ~~~ッッッ!!!???」
そんなこんなで始まった休日の遊園地。
レヴィのパワーに振り回され、ユーノは少し目を回すが、それでもこう思う。
「…………こんなのも、たまにはいいよね」
と。
満面の笑みを浮かべるレヴィと、振り回されるユーノ。
二人を追って行くシュテルたち。
遊園地を騒がせる子供たちの時間は、こうして過ぎていく――――
END
面白かったでしょうか?
次の短編も楽しんでいただけたのなら幸いです。