innocent時空のユーノくん短編集(CP雑多) 作:形右
色気のあるおねーさんを書くのは楽しかったですが、うまく描こうとするとなかなか難しかったです。
お姉さんと花壇 The_Moment_in_the_Garden
「フンフフフ~ン♪」
鼻歌交じりに花壇に水をまいて行く。
午後のお気に入りのひとときに、キリエ・フローリアンはえらくご機嫌であった。
最近は何だかんだとゴタゴタがあり、研究所内が騒がしかった為、こうしてのんびりと花の世話をする様な時間は久方ぶりだったのである。
それにしても、
「……えへへ~」
キリエはこの時、普段は見られそうもない珍しい顔をしていた。
実は彼女、花の世話などと言った少女趣味があったりする。日常面では出来るお姉さん的な雰囲気を出しているが、実のところ姉以上に内面は乙女チックな色をしているのだ。……日曜朝の番組は魔法少女派だったりするところなども。
さて、そんな秘密の時間でまどろみに浸っていたキリエだったが――。
「あ、キリエさん」
と、そこへやって来た人影一つ。
にこやかな微笑みと共に現れたのは、ユーノであった。
「あらん? ユーノくん、もう帰って来たの?」
確か今朝は、シュテルたちと一緒に出かけたような気がしていたのだが、帰って来たのはユーノだけだった。
疑問符を浮かべるキリエに、ユーノは軽く流れを説明してくれた。
「はい。シュテルたちがT&Hでデュエルしてから帰るそうなので、僕は先に。帰りに本屋に寄りたかったのもありましたし」
「へぇー……」
納得はしつつも、シュテルはさぞご立腹なのではないだろうかなどと思い浮かべるキリエ。
尚その予感は当たっており――現在T&Hでは、偶々遊びに来ていた鉄槌の二つ名を持つ紅い少女騎士が、星光を司る殲滅者にいつも通りにやられていた。
しかしそんなことはつゆ知らず、ユーノはキリエの手入れをしていた花壇に近づいて「綺麗だなぁー」なんて呑気なことを言っている。
「そう言えば、ここの花壇はキリエさん一人で世話をしてるんでしたっけ?」
「あー、まあそうかしら。偶にママがやってたりはしたけど、基本はあたしかなぁー。お姉ちゃんはこういうのセンスないし」
頭の中で「失礼な!」と憤慨する姉が浮かんだが、前に任せて花壇の一角がとんでもない事になったのをキリエは忘れていない。
具体的に言うと、気合いと根性を謳い水や肥料をあげ過ぎて枯らされたのである。
謝罪は受け取ったが、あれ以来姉のアミタには花壇を触らせたりしない。……少なくとも世話に限っては。
しかし、それはともかくとして。
「ユーノくん男の子だけど、こう言うの好き?」
「はい。綺麗なものは見てて楽しいですし、キリエさんが頑張って世話してるから、こうして咲いてるんだって思うと凄いなぁって感じますから――うえっ!?」
「あら〜♪ ありがとうねん」
自分の趣味を褒めて貰ったからか、機嫌良くユーノのことをハグして撫でるキリエ。
前にユーリとディアーチェも同様の被害に遭い、今でも良くやられる。というか、フローリアン姉妹は基本的に良くハグをする。
家族だからというのが理由らしいが、まだ此方に来てそんなに経っていないことや、男の子なので、これまである程度遠慮されていたのが此処へ来て決壊したようである。
まあ、主にアミタの方がそういうことにうるさいだけで、キリエは割とユーノのことは弟の様にしていた(前にディアーチェに言われた女装写真も、発端は彼女とレヴィである)。
そんなわけでユーノのことを可愛がり始めるキリエだが、ユーノの方は軽く慌てて彼女の腕――と背中に当たる柔らかい感触――から逃れようとする。
「……うふふ」
しかし、イヤイヤされると返って面白くなって来るのはいつの世も捕まえた側の性。ついついイジワルしたくなり、キリエはユーノのことを更に強く抱きしめて来た。
「――――!(じたばた)」
声にならない叫びらしきものを発しながら、ユーノはキリエの腕の中で藻掻く。が、逆にそんな様子が可愛いのか、キリエは嗜虐心丸出しでユーノに構い出す。
「あぁ~……ユーノくんってば可愛いわねぇん」
「き、きききキリエさん!」
(あぁ……これ癖になっちゃうカモ)
なんとなくイケナイ感覚に苛まれるキリエであるが、今のところ撫でているだけなので、特に問題はない(?)かも知れないのだが――。
ユーノからすれば、年上のお姉さんに可愛がられる現状はかなり恥ずかしい。……というか、色々柔らかくて良い香りがしているのが、初心な彼には辛かった。
が、しかし生憎とユーノはキリエの拘束から抜け出せない。
暫くの間じたばたしながら、その抵抗を頭に乗せられた顎ですりすりされつつ過ごした。
――――で、十分後。
抵抗を諦めたユーノはそのままキリエの成されるままになっていた。
「あぁ~、癒やされるわ~♪ ユーリたちとはまた違った感触が……」
「あの……キリエさん……。えっと、いつまでこうしてるんですか?」
「ん~? もうちょっとかなぁ~?」
すっかりユーノの感触を気に入ったらしいキリエは、どうやらまだ獲物を離す気はないらしい。
ユーノは耳まで真っ赤になりながら、じっとしているしかなかった。――本当はもっと抵抗すれば良かったのかも知れないが、動く度になんだか柔らかい感触に当たる上に、キリエはそのくらいでは全然離してくれなかったので、ユーノの方が折れたのである。
と、そんな状態でいたところに、また一つ影が――。
「キリエ。ユーノが此方に来ませんでした…………か?」
新たな人影の主は、シュテルであった。
しかし彼女は、花壇の方を見るなり動きを止める。……最近その動きの意味を否応なしに我が身で知っているユーノは一瞬、まごうことなく己に迫る静かな怒りの波動を感じると同時。さっきにも似た吹き上がる炎を幻視した。
だが、キリエの方はそんなものはお構いなしだ。
「ん~? 来てるわよん? ちょーど此処に」
「――――(ふるふる)」
ほら、と、腕に抱えたユーノを見せる。それを受けたユーノは、「これは違う」と、一体自分で何が違うのか判らないまま首を横に振った。
――そして、運命を審議する時間が静かに流れた。
たっぷり三十秒が経過した後、シュテルの口から低く声が漏れ始めた。
「……………………………………………………ふ、ふふふふふふふふふふ」
なんとなく、悪魔の嗤いにも思えるその声は、間違いなくシュテルから漏れている。その嗤いは、一体何を意味するのか。
何が起ころうとしているのかを予測出来なかったユーノは思わず、檻の中の小動物の様に震え始めた。
「――本当に。ほんっ、とうに困った人ですね。ユーノは。
ええ、全く。最初はユーリに次はレヴィ。ディアーチェや、挙句スバルやティアナにすら……!」
「あ、いや……僕は別に何もして……」
「な・に・も?」
「」
その眼光は、蛙を睨み殺す蛇の如く。何故か言い訳のようになってしまったユーノの言い分を黙らせるに足るだけの迫力を伴っていた。
あまりにも無責任な言い分(シュテル視点)に、彼女の怒りはどうやら頂点に達してしまったらしい。
「そうですか。おんぶをしたり、読み聞かせしたり。デュエルの指導をして挙句デートするのが何もしていないと――そう言いたいのですね?」
「………………」
そう言いたいも何も、そんな事実はないのだが。
ユーノは正直に述べるのならば、言いたいことはそうであった。
けれど、今のシュテルに通じそうもない。
――なんだか最近のシュテルは怖い。
前はもっとほんわかして可愛かったのに、と、つい考えてしまうほどには何故か最近のシュテルには焦りのようなものが感じられる。
尤も、シュテルもシュテルで焦っているのは事実である。当の本人が自身の領分を意識せずに誰かを懇意にしていて、それが意中であれば尚更に。……とりわけ、今はユーノの方が落としてる側だが、下手に落とされでもしたら非常に困った事態になってしまう。
逆なら別に問題はないのでは? と思われそうだが、違うのだ。
シュテルは一人、その可能性を秘めた人間を知っている。
それこそこの二人が懇意にしていれば、運命の出会いの如く互いを意識し合い、十年二十年は平気で無自覚夫婦にでも成りそうな予感をひしひしと感じさせる様な、デュエリストとしては自身と同じく星の光を司る少女を。
出会ってはいるので、其処は諦めよう。
だが、獲物まで渡してやる気はないと言うのが彼女の秘めたる
オマケに今度は年上と来たか。
いろんな意味でこのままでは自分が不利に(断じて胸囲的な意味ではないが)成ってしまうような気がして、焦りが更にヒートしていく。そうして、まるでデュエル空間にでも入ったかのように揺らめく陽炎を感じ始めたユーノは、自身の終わりを覚悟したのだが――。
そんな彼女を諫めたのは、意外なことに、今回シュテルをヒートさせたキリエであった。
「もぉシュテルってばー、そんなに怒らなくても良いのに~。あんまり心の狭い女の子は嫌われちゃうわよん?」
「な……! わ、わたしは別に……ッ」
「うふふ♪ 別にシュテルがそんなに焦らなくても大丈夫なのよん?」
「何がどう大丈夫だと言うのですか。このままではユーノが、某ウェインターツリーシティで噂になっている方のようになってしまいます」
「だから、まずシュテルが焦ってるのが間違いだって言ってるのよん?」
「??? 何を――」
「だって、結局不安なのってシュテルがなーんにもしないからじゃない? 最初は抜け駆けするくらい積極的だったのに、いつの間にかすっかり奥手になっちゃって……」
よよよ、と。
酷く芝居じみた泣き真似をするキリエ。
その言い分に、今度はユーノではなくシュテルが真っ赤になる。
「な……ッ!」
「あらん? 自覚してなかったの?」
「ぅ……」
「え? え?」
ユーノは話の展開について行けない。というか、正確にはキリエに耳を塞がれて肝心なところが聞こえない。
なので、結局何がどうなっているのかに追いつけなかった。しかし、すっかり何か怒られるのだろうと覚悟をしていたところで、何故かシュテルが真っ赤になって、さっきとは別の何かに焦っている。
訳が分からないままだったユーノの耳に当てられていたキリエの手が、ようやく外された。
「あの、キリエさん? 何が――」
「ん~? 何がって言えば……経験の差、かもねん」
一体、経験の差とは何か? と、正直疑問に残る部分は多かったが、ともかくシュテルの怒りは鎮火したようである。
何をどうやってあのシュテルを押さえたのだろう。下手に藪をつつくのはどうかと思ったが、ユーノはどうしても気になりシュテルに声を掛けた。
「えっと……その、シュテル?」
「…………」
返事はない。しかし、何故か真っ赤になっている顔は更に赤く。
白い首筋にさえ赤みが広がっていって――。
「――ユーノ」
そうしてようやく、シュテルが口を開いた。
「な、なに?」
おそるおそる訊ねてみると、シュテルはかなり恥ずかしそうに。
オマケに、何度か悶えながら……それを口にした。
「――――キリエばかり、ズルいです。その……ですからわたしにも、もふもふさせてください」
その予想外だった発言に、ユーノが一分ほど固まったのは仕方ないことだっただろう。
後に聞くところでは――。
この後もシュテルの独占とは行かず、結局レヴィたちにももふもふされた。
その上、逆にキリエも他の面々をもふもふして行き。ユーリはふんわり、レヴィはふさ~としていて、ディアーチェとシュテルはサラサラ。そしてユーノは、なんとなくもふもふしていたくなる小動物感がある等と細かに感想を述べたりもした。
背丈で言えば、本来一番小さいのはユーリなのだが……どうにもその辺りを超越した何かがあるらしい。何というか、定めのような何かがあるのだとか。
其処に関しては全員一致だったらしい。
で、最終的にはレヴィがせっかくだからみんなで寝ようと言いだして子供たちで一緒に寝ることになった。
そうしてなし崩し的に寝床へと進められたまま、シュテルは悶々とこれまでの己の未熟さを反省していたのだったが……。
最後に受けたキリエからのメッセージに、新たな決意を固めることとなる。
「――――ユーノくん可愛かったから、あんまりシュテルが奥手だとあたしが貰っちゃうわよん?」
なんとも色香たっぷりにそう言われてしまい――
厄介なライバルが増えたことを理解したシュテルは、今後は本気でアプローチをして見ようと心に決めるのであった。