innocent時空のユーノくん短編集(CP雑多) 作:形右
CP名を何と呼んでいいか迷って、とりあえず支部の方ではユノシアにしましたけども、あれでよかったのかなぁ。
あと、何故かちょっちシリアスめな展開になってます。
なんでこうなったかというと、ある作品のオマージュ精神が発動してしまったからですかね(笑)
遙か遠き、七つの夜 Do_you_really_need_me?
夏も本番に入り出した、七月の始めの頃。
たまたまホビーショップ『T&H』を訪れていたユーノは、そこの看板娘の片割れであるアリシアにこんなことを言われた。
「ねぇ、ユーノ。明日わたしとデートしない?」
「…………え?」
思わず呆然となって聞き返したが、ニコニコと笑うアリシアに冗談の色は見受けられない。
次第に赤くなって行く自身の顔に集まる熱を感じながら、ユーノは一応聞き返した。
「で、でーと……?」
「そう、良いでしょ? あ、もしかして忙しかった?」
「ううん、そんなことないけど……でも、良いの? 僕なんかで」
「? うん、ユーノが良かったの♪」
「…………」
こう言われて、断れる人間がいるなら是非と見てみたいものだ。
と、何処へむけたかも判らない思考を浮かべつつ、ユーノはニコニコと笑っているアリシアのお誘いを受けることに決めた。
――――そうして、こんなお誘いから唐突に七夕デートが幕を上げたのであった。
***
翌日。
柄にもなくドキドキしながら、もう一度『T&H』へ向かうユーノの姿があった。
店に着くと、先日同様にアリシアが出迎えてくれた。
「おはよ~。うんうん、時間ぴったりだね。流石はユーノ」
「あ、ありがとうアリシア」
感心したように頷くアリシアだったが、ユーノの方はと言えばあまり心中穏やかと言うわけにも行かない。
意識しすぎなのかも知れないが、デートと意識して女の子を迎えに来る経験などほとんどなかったのだから、彼に求め過ぎるのも酷だろう。
が、何も喋らずにいても逆に緊張を増すばかりである。腹の辺りに感じる痛みを抑えながら、ユーノは口を開いてみたのだが――。
「ところで、えっと……今日は何しに行くんだっけ?」
「? デートだよ?」
返ってそれは逆効果だったかも知れない。
さらりと昨日の言葉が幻でなかったのだと肯定され、ユーノは益々頭の中が真っ白になってく。
正常な思考は拭い去られ、このまま案山子にでもなってしまいそうな予感さえした。
しかし幸いというのか、結果として彼が案山子になってご破算という展開になることはなかった。
何故かといえば、
「でででででデートてアリシア――『少しは落ち着いてください、プレシア』――り、リニス……!?」
「いい加減に子離れしてください。それに、今日は昨日フェイトの試合を八神堂に観戦しに行った分の仕事がたっぷり残ってるんですから。――――今日という今日は、逃がしませんからそのつもりで(にっこり)」
「そ、そんな……あ、アリシアぁ~~~ッ!!(ずるずる)」
こんな一幕があったからである。
自分よりも動乱した誰かを見ると、人間は冷静になれる生き物であると。
この日ユーノは、その事実を再認識することになった。
「ママってば相変わらず心配性だなぁ~」
アリシアの方は母のことをあまり気にしてはいないようだ。……まあ、『T&H』のプレシア店長と言えば極度の親馬鹿というのはこの辺りのBDプレイヤーには有名な話ではあるのだけれども――しかし、それでもアレを心配性と称するには、ユーノは自身への荷が重すぎると感じたため、肯定の句を継ぐことはなかった。
「それじゃあ、ユーノ。早速出かけよっか♪」
「え、あ……う、うん」
少しばかり呆けていたユーノは、促されるままに店を出て、アリシアに背を押されるままに目的地へとつれて行かれることになった。
***
そんなこんながあった後、『T&H』を出た二人が向かった先はと言えば――。
「ここって……プラネタリウム?」
「そ! 《海鳴スターミュージアム》だよ」
元気よく応えたアリシアだが、ユーノとしては此処に連れてこられた異図がよく分からない。確かに、デートスポットとしては王道の一つなのだろうが、なんとなく違和感を感じる。
「なんでまたいきなり?」
「??? あれ、言ってなかったっけ?」
そう言うとアリシアはポケットから二枚のチケットを取り出してユーノに渡す。チケットには大きく目の前のプラネタリウムの施設名が書かれていて、その脇にはこんな宣伝文句が乗っていた。
〝七夕の夜に美しき星の軌跡を! 男女カップル様にお得な半額割引!!〟
……。
…………。
………………つまり、これは。
「えっと、僕を誘ったのって――これが理由?」
「? うん。そうだよ」
屈託のない笑顔で言われると、残念な気分もそこそこに、少しだけホッとした。
薄情な気もしたが、勘違いしたのと足し引きで勘弁して欲しいものである。
どことなく余裕の生まれ始めた心と共に、プラネタリウムの内部へと進んでいく。入り口でチケットを受付のお姉さんに渡して、半額になった入場料を払う。
中に進むと、二人同様に七夕のカップル割引を適用されたと思わしき男女の組が既に大勢席に座っていた。しかし、見た限りでは二人と同世代は流石にいない。
ちょっと浮いたような感覚と、微笑ましげな視線を同時に向けられてる。どうやら、カップルと言うよりは、兄妹にでも見られているのだろうか。……そういえば受付のお姉さんも、カップル割を渡したアリシアの事を温い目で見ていたような気もする。
まあ、ユーリほどではないが、ユーノとアリシアはそこそこ似てなくもない。
フェイトくらい背が近ければ違ったかもしれないが、少なくともこの組み合わせではカップルとは見られにくいだろう。
さて、そんな感慨もそこそこに席へ着いた。すると程なく会場は暗くなり始め、場内アナウンスが響き始める。
『――本日は、当プラネタリウムにご来場いただき、誠にありがとうございます。本日のプログラムは、七夕にちなんだものが予定されておりますので、皆様、どうかごゆるりとお楽しみくださいませ――』
そうして暫く説明がされ、それが最後の言葉で締めくくられたのと同時に半球状の天井が暗くなり、夕暮れ時の空が中央のプロジェクターより映し出され始めた。
段々と、あかね色の空が暗くなり、夜の闇へと呑まれていく。
説明が所々にまぶされるが、それらは目の前に広がる
誰しもが意識を呑まれていた中、例に漏れずユーノも星空の光景に魅了されていたが――ふと、隣から小さく声が聞こえてきた。
「わぁ……」
感心と言うよりも感嘆。
無邪気に光に溢れた紅の瞳を輝かせながら、アリシアは星空を眺めていた。見上げた空の移りゆく様に魅了される姿は、酷く無垢な色を感じさせる。
先ほどまでとはまた少し違う方向に意識が抜けかけ、ユーノは一拍を置いて我に返った。
思わず見とれてしまった事に気恥ずかしさを感じながら顔を逸らし、小さく息を吐いて空に視線を戻す。
彼の内心の焦りとは裏腹に、天井の星々はゆったりと光の帯を形成していく。
天の川がハッキリと見えた辺りで、七夕伝説の説明が入る。
曰く、その川の畔には二人の男女がいた。
天帝の娘と、牛飼いの青年。
それぞれが布を織る天女と、生真面目な仕事人。そんな二人が出会い、恋に落ちる。けれど、二人は幸せの最中で堕落してしまう。その罰を背負い、二人は天の川の両端に引き裂かれてしまった。
互いが自身の役割を全うしなかったが故のツケ。
それを支払う形で、二人は仕事を全うする事によって一年に一度、この川の果てにいる愛しき者と再会を果たすことが出来るのである。
――と、そういった説明が流れ、いくつかのコラムと共に説明が進み、次第にその周囲の星座たちの紹介へと移行していった。
「……ね、ユーノ」
しかし、そうして七夕の説明が終わったあたりで、隣からアリシアが声をかけてきた。
最初に聞こえたものとは違い、明確に話しかけてきた声。ユーノはどうしたのかと思いつつも、小さくささやきかけられたそれに応じる。
「? どうしたの、アリシア?」
「ユーノはさ、どう思う? 織り姫と彦星みたいに、大切な人と引き裂かれたら」
「どうって、例えば……?」
「別に大したことじゃないんだけど、大切な誰かが違う場所に行っちゃうとしたら、ユーノならどうするのかなって思って」
酷く難しい質問だった。
冗談交じりにらしい答えを期待するものとも違うそれは、安易に答えが出せると言うものでも無いように思える。
何かがあったのか、それとも思うところがあったのか。
アリシアの心情を推し量ることは出来そうになかったが、それでもなんとなくユーノには、この質問は疎かにしてはいけないもののように感じられた。
「……そうだなぁ」
誰かと引き裂かれる、という言葉自体をあまりユーノは意識したことが無い。
元々、幼なじみの内でも同じ場所にいられた時間は短かった方である。誰かと引き裂かれるとしたら、という例を自身のこれまでに適応するならば、ユーノはどちらかというと、その誰かを置いてきた側の人間であるだろう。
飛び級を重ねるごとに、最初に見知った人間は姿を減らしていった。
けれど、だからといって巡り合わせそのものが悪かったということもなかった。
単に運が良かっただけであろうと、ユーノは大切な人たちと過ごす日常にいま居られて、その時間を謳歌できている。
だから、引き裂かれたら――という問いかけに対する答えとしては不適当かも知れないが、ユーノはこう考えた。
「きっと、最初は悲しくて仕方ないんだと思う。泣いたり、苦しんだりするんだと思う。でも、多分最後はまた会えるとも思ってる」
「……ほんとに、そう思う?」
「うん。――だって、きっと会いたくなるじゃないかな。自分の大切な人と離れちゃったなら」
そう。離れてしまったのなら、きっと会いたくなる。
「織り姫と彦星も、雨で会えない年もあるだろうけど……それでも、きっと忘れらないだろうし」
「それでも会えなかったら、どうすると思う?」
「多分、言いつけを破ってこっそりあっちゃうんだろうなって思うよ。アリシアだって、勝手に言われてずっと会えなかったら――そんな気持ちにならない?」
「――――」
何が不安だったのか。
それとも、何があったのか。
アリシアの心情は結局判らなかった。しかしそれでも、アリシアはユーノの弁に、こくりと頷いていた。
今日のアリシアは酷く儚げな印象を受けたが、頷いた彼女の反応に、この方が良いとユーノは思った。
いつでもみんなを照らす、太陽の様な存在でいて欲しい。
勝手な願いかも知れないが、そう思ったのだ。
納得したように見えたアリシアだったが、ユーノが安堵を感じ始めたところを狙い澄ましたかの如く、こんなことを訊ねてきた。
「じゃあ――ユーノは、もしもわたしがどこかに行っちゃったら会いに来てくれる?」
じゃあ、と言われても困る。
寧ろこの場合、アリシアがどこかに行ったら、プレシアやフェイトの方が先に追い掛けていきそうなものなのだが……まあ、そういうことではないのだろう。
が、そんな事は実は関係なく。答えは、もう考えるまでもなく決まっていた。
「今は傍に居るから想像出来ないけど、多分離れちゃったら会いに行きたくなると思う。だから、フェイトとかレヴィみたいに早くは行けないんだろうけど……きっと、会いに行くんだろうなって、思ってる」
「……そっか、そうなんだ。うん! なら、良いかな」
にぱっと、いつもの笑顔を取り戻したアリシア。
それきり二人の間にあった会話は止み、今度こそ星々の海に意識を委ねることになった。
そうして、二人はプラネタリウムを堪能した後、〝
静けさを取り戻したものの、何があったわけでもないのに、何故か胸の奥にすとんと落ちるものがある。
そんな家路を辿り、二人は柔らかな笑みで「じゃあね」と別れた。
それは七夕の日の、穏やかな一幕。
小さく交わされた心の出来事であった。