innocent時空のユーノくん短編集(CP雑多) 作:形右
そして、前回に引き続いてこの話でもちょっとオマージュが入っています。まあ、そんなに重要というわけでもないですが、楽しんでいただけたら幸いです。
ちなみに、今回はおまけで前にツイッターに挙げたミニSSも載ってます。
こちらのミニSSは、特にinnocent時空とはあまり関係ありません。むしろ、どちらかというと本編か別の長編の方のそれな感じですかね。
熱気に誘われて A_roasting_day.
それは、暑い日。
夏が本格的に腰を上げ、陽光で街を焼き始めた頃のこと。
「「あ」」
***
通りを歩く、金色の髪をした人影二つ。
肩を並べ歩く少女たち――ではなく、そこには二人の少年少女。街を包んだ熱気に汗を流しつつ、彼らは一緒に街を歩いていた。
「それにしても奇遇だったね、フェイト。こんな日に本屋さんで会うなんて」
ユーノがそう言うと、フェイトも「そうだね」と頷く。
「でも、少し意外だったかな」
「? 意外って、何が?」
「こんな暑い日にユーノが外出てるのもだけど、なんとなく本屋さんに行くならシュテルも付いてきそうな気がしてたから」
「ああ、確かにそうかも」
そういわれ、フェイトの言葉にユーノは頷いた。
言われてみれば、平時はインドア派の自身が外に出ていることもさることながら――読書関連でユーノにシュテルが付いてこないのも、珍しいと言えば珍しい。
「ただ、今日はみんな暑さでバテちゃっててさ。それで、ちょうど外に出るついでにお土産でも買ってこようかなって思って」
現在、ユーノのホームステイ先であるグランツ研究所では、ユーノとユーリを覗いて夏バテの波が真っ盛り。しかし、普段学校に通っている他の面々に比べ、普段は研究所にいるユーノとユーリはそこまで暑さに当てられなかったのである。
故に、ユーノは一人外に出てきたというわけだ。
けれど、正直ユーリだけを残してくるのは少し気がかりではあったのだが、生憎と彼女はあまり身体が強くないため、炎天下に彼女を晒すのはあまり好ましくない。
それに、研究所には他の職員さんたちもいる。
なら大丈夫だろうと判断して、ユーノはこうして外に出てきたのである。
そんなわけで今も研究所ではユーリが、パタパタと団扇で『ダークマテリアルズ』と『エルトリア・ギア―ズ』の面々を扇ぎながら、ユーノの帰りをのんびりと待っていることだろう。
尚、保護者役のグランツ博士もダウンしている。なんでも、研究に行き詰まった気まぐれで外へ出た際に、軽い日射病になってしまったらしい。
……これを聞いてユーノも、なるべく普段からちゃんと外に出ようと決めた。うん、不健康良くない。
と、そこまで考えたところで、ユーノは話の筋を戻す。
「でも、僕もフェイトが一人でいたのには少し驚いたかな。いつもは、みんなと一緒だから」
大体フェイトはいつも姉のアリシアか、友人であるなのはたちと一緒に居るところをよく見かける。時折、リニスやシグナムといった面々とも出かけているようだが、ユーノ個人としては、前者のイメージが強い。
彼がそう訊ねると、フェイトはこう応えた。
「うん。確かにいつもならそうなんだけど、今日はお姉ちゃんずっとクーラーの前から動かないし、なのはたちもあんまり外に出る気分じゃなかったみたいだから、外に出るのは一人でも良いかなって」
「そっか……。やっぱりこの暑さには、みんな堪えてるんだなぁ」
どこか他人事のように口にするユーノ。実際は、今の彼はちょうどその熱気の真っ只中にいるわけなのだが、フェイトと話しているためか暑さへ向ける感覚が薄れているのかも知れない。
「あ、そういえば……」
「?」
「今更だけど、なんだから珍しいね。フェイトが帽子被ってるのって」
「そうかな? 割と最近は被ってるんだけど――でも、それならユーノだって帽子被ってるの珍しいよ。フード付いてる服着てるのは、よく見るけど」
「……言われてみれば、そうかも」
フェイトに指摘され、なんとなく頭に乗った帽子に手をやってみる。
意識してなかった所為もあってか、いまさらながら自分が帽子を被ってるのは珍しいかも知れないなと、言われてから他人事のように納得した。因みに、ユーノは黒地に緑のラインの入ったスポーツキャップを被っており、フェイトの方は白地のストールハットを被っている。――尚、それぞれなのは及びシュテルの監修である。
さて、そんな感じで他愛のないことを話していた二人だったが、暫く歩いていると暑さに当てられ始めた。いくら友人といようと、駅までの間を歩くには少しばかり暑すぎた。普段ならば何の苦も無い距離さえ、まるで無限に感じられる。
そこで、こんな提案をユーノはしてみることに。
「ねぇ、フェイト。ちょっとだけ涼まない?」
あそこで、と指を指したのは喫茶店。涼むついでに、おやつでも食べていけば少しは太陽の日差しも弱まるだろうと思ってのことだった。
ちょうど時刻も、午後三時を回ろうかというところ。おやつのついでにおしゃべりでもしていけば、三十分くらいは潰して帰れるだろう。
そう提案してみると、フェイトも「そうだね」と頷いた。
彼女も流石に暑さに堪えていたらしく、彼の提案に乗ることに決めたようである。
そうして、店内。
お好きな席へ、と出迎えてくれたウェイトレスさんに席へと案内された二人は、早速メニューをのぞき込む。
暫く悩んで、それぞれ注文を
ユーノがコーヒーフロートとティラミス、フェイトはアイスミルクティーとミルフィーユだった。
先に運ばれてきた飲み物を手にして、おしゃべりでも始めようとしたのだが――店内の穏やかな雰囲気に包まれていると、何となくまどろんだ気分に包まれてしまい、沈黙の時間が心地よく感じられる。
よくよく考えて見ると、そもそもこの二人はどちらかといえば聞き役に回ることが多いこともあり、あまり自分から話題を振っていくタイプでもない。もちろん、別に触れないというわけではないのだが、単純に気心の知れた間柄も手伝ってか、心地よい静寂に揺られる方が何となく良いと感じたのだろう。
年に似合わず随分と落ち着いた雰囲気を楽しむ二人に、桃色の髪をした臨時のウェイトレスさんが何となくほほえみを増していたのは内緒である。
が、程なくしてその沈黙も破られた。
「おまたせいたしました」
テーブルに到着した品と掛けられた声に、二人はまどろみから一旦現実へ。
注文していた品を運んでくれたウェイトレスさんにお礼を言うと、店員さんは小さく微笑んでから「ごゆっくり」と手を振って戻っていった。
それにしても、
「……綺麗な人だったね」
「……うん。確かに」
何となく二人とも見惚れてしまったくらい、あの店員さんは美人であった。更に付け加えるなら、立ち居振る舞いが優雅でいきなり声を掛けられたというのに驚きがほとんどわいて来なかった。
先ほどまでとはまた違う意味でぼんやりとしてしまった二人だったが、他のお客さんのところを回っているウェイトレスさんを見ていたフェイトが、ぽつりとこんなことを言い出した。
「あのお姉さん……なんとなくだけど、すずかに似てるかも」
「え、すずか?」
言われるまで想像だにしなかった名であるが、友人のすずかを思い返してみた途端、ユーノも彼女の弁に納得してしまった。
言われてみると、似てなくもない。
髪が長いとか、少しウェーブのかかった髪などもそうだが、確かに雰囲気が似ている。
が、ついついそんな事が気になってしまったものの、あまり露骨に詮索するのもどうかと思い、二人は話題を移した。
幸いというか、一度話が出ると第二声は楽なものである。
本格的に話し込んでしまい、気づけば一時間近くも経ってしまっていたのには二人ともびっくりした。
あまり遅くなってもいけないので、話を一旦切ってお会計をして貰おうとレジへ向かう。
ちょうど最初に入ったときの人が外していたらしく、伝票を受け取って精算をしてくれたのは、先ほどのお姉さんであった。
それに少し驚きはしたが、ともかく今は支払いが先だ。
「では、お会計の方が一四五〇円でございます」
告げられた金額を聞き、ユーノは「じゃあ」と二千円をお姉さんに渡す。
おつりを受け取ったのち、フェイトが自分の分と言ってお金をわたそうとしたが、ユーノは大丈夫と手でそれを制した。
「今日は良いよ。誘ったのは僕だし」
「でも……」
「いつもT&Hでフェイトには良くして貰ってるし、この前アリシアにプラネタリウムに連れて行って貰ったから、その分のお礼も少し、ね?」
いまひとつ納得がいかないようなフェイトだったが、そこへ助け船を出してくれたのは、意外なことに、先ほどのお姉さんだった。
「ふふ。良いじゃない? 今日は、お礼を素直に受け取ってあげたら?」
「…………」
そう言われても、律儀なフェイトには何となく引っかかりが残る。
根が真面目なのを見て取ったのか、そのお姉さんは。
「……男の子には格好付けたい時があるんだから、そういうときは甘えちゃいなさい(ひそひそ)」
小さく耳打ちを始めて、フェイトに柔らかくこう告げた。
「素直な好意はちゃんと受け止めて、相手が困ってたら返してあげるものよ?」
「……はい」
「うん。良い子ね、貴女も」
優しく撫でられ、フェイトは漸く納得したようである。
ユーノは何が起こったのか解らなかったが、ともかくフェイトの顔が晴れたのを見て、悪いことではなかったのだという事だけは判ったらしい。
「……じゃあ、そろそろ行く?」
訊くと、フェイトは「うん」と返事をして行こうと促す。
そこへちょうどお客さんが新しく入ってきたようで、お姉さんも少しフェイトの後を追う形になり、
「――頑張ってね。可愛い顔した男の子って、案外気が多いものよ?」
すれ違いざま、そんなことを言ってきた。
「……ふぇ……っ!?」
驚いて振り返るも、既にお姉さんはお客さんのところへ言っており、何となく中性的な青年と話している。
「よ、さくら。ホントにバイトしてたんだなぁ。びっくりしたよ」
「ふふっ。忍がやってたのが楽しそうだったから、つい。ところで先輩、どうですか?」
「ん? ――ああ、うん。似合ってるよ」
「良かった。それではお客様、こちらへどうぞ」
「ありがと。でも、そろそろ先輩ってはやめない? 卒業してから結構経つのに……」
「そうですけど……やっぱり相川先輩は、私の先輩ですから」
「……そっか。まあ、さくらがそれで良いなら、俺も特に文句はないかな」
「なら良かったです」
とても親しげだ。
先ほどのそれより、更に穏やかなその雰囲気を見て――つまり、さっきのアレはそういうことで、彼は彼女のそうなんだろうということを、フェイトは何となく理解した。
「…………」
「??? どうしたの、フェイト?」
しかし、その弊害か妙に顔が熱い。
だというのにユーノはそんなことに気づいてさえおらず、フェイトはよくシュテルがユーノに怒っている理由を察した気分になった。……とはいえ、彼女は相手に強く出られるタイプではなかった。
「え、ぅ……ううん、なんでも……」
故に、こんな返事しか出来ない。
割と不自然だと思ったのだが、どうやらユーノは気づいてくれなかったようである。
「そう? なら言いんだけど」
そう応え、彼女の返事を受けたユーノ。
少し顔を赤くしているフェイトには気づいたものの、若干の和らぎを見せた熱気でも早く帰った方が良いのかな、などと検討違いの方向に思考が跳んでいる。
逆にフェイトの方も、馬鹿正直に先ほど言われたことを口にするわけにも行かず、外の暑さなど比にならないほどに湧いた熱に苛まれながら、少し深めに帽子を被り直して歩き出す。
同世代では背の高い方だが、ユーノは彼女より少し高かったため、顔はもう見られずに済む。
気恥ずかしさを感じる少女と、変わらず穏やかな少年は、こうして穏やかな家路を辿る。
どこか微妙に思考はズレてしまったものの、二人の帰り道自体は穏やかであった。
……素直な好意には、また同じように。
何時かのお礼を考えつつ、フェイトは傍らを歩く少年のことを帰るまで考えてしまうことになった。
――――なお。お土産を買いに行ったのに、ユーノが帰りを遅くしてまでフェイトとお茶をしていたのを知って、グランツ研究所内およびその外気温が二~三度上昇……。
「今度は姉妹ルートというわけですかそうですかユーノ。ついに一と二の間にある壁さえ越えると?」
「いやいや、何の話?」
「問答無用です。さあユーノ、今すぐ対戦しましょう。――燃えるほどに熱く……あつ、く……」
「…………はぁ。ほら、無理しちゃ駄目でしょ?(ぱたぱた)」
「…………(ちょっと満足げ)」
――訂正。
外気温も研究所内の気温も上がらなかった。
ただ、上がろうとしていた余波があり、シュテルの高揚度が若干上がりはした。以上。
おまけ 七夕、雨
七月七日。俗に七夕と称される行事の設けられたこの日は、恋人を隔て続ける天の河が唯一二人の逢瀬を許す日であるのだそうだ。
しかし生憎と、その日の海鳴市は雨に濡れていた。
古人曰く、雨が降る七夕は恋人たちの再会を許さないのだという。
年月をまた隔てることになった織姫と彦星。
そんな二人が空の上にいたこの日。
ある少年と少女が、雨の中で久方ぶりの再会に興じていた。
***
「……あ」
雨だ、と。
そうポツリと少女の漏らした呟きをかき消す様に、雨音が強く周りを覆って行く。
本降りになる前に屋根の下に入れたのは良かったが、何時迄もそこに立っているわけにもいかない。
自身の周囲を濡らす雨に、少女は困った様な顔をする。
彼女の家はここからほど近い場所にあるが、都合の悪いことに、買い物帰りの彼女は沢山の荷物を抱えていた。
あまり雨に晒したくない品もあるため、このまま雨に打たれて帰るのは躊躇われる。
ポケットから携帯を取り出して、家族の誰かに迎えに来てもらうことも考えたが、思い返せば今日の我が家はもぬけの殻であった。
少女――フェイトの母であるリンディと、兄であるクロノは今日、勤め先である管理局の任で久方ぶりに家を空けていた。
何でも、古くからの付き合いであるレティからヘルプがかかったのだとか。
同行を申し出てはいたのだが、来週に控えた連休に友人たちと約束をしていた彼女を臨時で出向かせることを、母と兄は良しとしなかった。
何でも今回、少し大掛かりなヤマを相手にするのだという。それなら尚のことだと普段ならば食いつくところだが、未だ学生の身であるフェイトは本分を優先することに重きが置かれている。
若干の不満はあったが、一応の理には叶っていた為に大人しくそれを呑んだわけだが、どうやらそれが裏目に出てしまったらしい。
おまけに、何時もは家に居てくれる彼女の使い魔であるアルフもまた、友人(?)である守護獣のザフィーラと共に捜査へと出かけていて頼れない。
正しく八方塞がりに落ち着き、すっかり立ち往生に陥ったフェイトは軽く溜息を零した。
尚、頼みの綱として友人たちに連絡という手段が残っていたものの、少し工夫すれば最小の被害で家に着ける程度であることもあり、いまいち連絡する気になれなかった。
となればあとは決心を固めるだけなのだが、どうにも雨音というのは人の足を止めさせる。ついつい聴き入ってしまう不思議な感覚は、時を引き延ばしている様にも感じられなくもない。
ぼんやりと時の流れに溶けていたフェイト。
そんな彼女を現実に引き戻したのは、雨音の中から聞こえた声であった。
「あれ、フェイト?」
「……ユーノ?」
聞こえた先に目を向けながら、声の主の名を呼んだ。当然というか、人違いだったなどということもなく。
そこに立っていたのは、間違いなく彼女の幼馴染の少年であった。
「どうしたの、こんなところで?」
首を傾げながら彼女の側に立つと、ユーノはフェイトにそう聞いて来た。
別にありのままを言えば良いのだが、少し恥ずかしかったのだろうか――フェイトはその質問を少しだけ逸らす様にしてこう応えた。
「ユーノこそ……。珍しいね、こっちに来てるの」
「まあ、確かに最近は来てなかったから、そうだね」
逸らされたことには気づいたようだが、ユーノは人が嫌がることはしない。それも、明らかにそれが判っているだろう状況ならば尚更に。
返答は他愛のないもので、先ほどまで手に持っていた傘を閉じて水気をそっと払いながら、彼は世間話でもするようにフェイトの振った問いについて語り始めた。
「ちょうどはやてに直接手渡す資料があったから、仕事終わりがてらこっちに来たんだけど……折角だから久々に海鳴市を見ていこうと思ってたんだ。それで、その途中で君を見つけたから声をかけたってわけ」
「そう、なんだ……」
逸れた話が戻って来たためか、フェイトの歯切れは悪い。
が、もちろん話を戻したユーノもまた、彼女を責め立てる為に話の方向を戻したつもりはない。
単純にこれは、単なる理由づけだ。
「ところでさ、フェイト」
「? なに?」
「荷物多いみたいだから、僕も運ぶの手伝って良いかな? どうせこのあと帰るのに、フェイトの家に寄らなきゃ行けないと思ってたから」
らしく無いなあ、と。
ユーノは自分のとった行動を内心では自嘲しながらも、一先ずは目の前の問題を解消することを選んだらしい。
荷物持ちを申し出た彼に、フェイトは大きな紅い目をパチクリさせて驚いていたが、特にそれ以上何も言わずに微笑んでるユーノを見ているうちに、残っていた恥ずかしさは消え去った。
「……じゃあ、お願いしても……良い?」
「了解。任された」
空いていた片手でフェイトの荷物を受け取ると、ユーノは閉じていた傘をもう一度開いて自分たちの上に差した。
「行こっか」
「うん」
そっと歩き出した歩みはゆったりと。
強かな雨音とは裏腹に、暖かな心を感じながら、少年少女は家路を辿る。
隔てるものなき二つの星は、空から注ぐ水の中で出会うことに。
そんな、雨に誘われた七夕の再会だった。