innocent時空のユーノくん短編集(CP雑多)   作:形右

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 今回のお相手はシュテル。
 このシリーズのプロローグ以来、久々のメイン回……なんですが、どうにも焦らし精神が発動してかなり踏み込み不足な話になっています(笑)
 短夏短編としてなら前回の方が〝らしい〟ですが、今回は軽くニヤっとしていただけるような物を書いた感じですね。


素直になった子猫の話

 不器用な甘えと寂しさを込めて I_want_you_all_to_myself.

 

 

 

 ――――最近、何かがおかしい。

 

 ……否。本当は〝何か〟なんて言うまでもなく原因はハッキリしているのだが、その辺りは乙女のプライドといったところか。

 ともかく端的に言って、最近のシュテルは非常に不機嫌であった。

 そして、その原因となるのがこの少年。

「ど、どうしたの……?」

「…………いえ、別に」

 傍で不機嫌そうにしているシュテルへの対処にタジタジしている、ユーノ・スクライアに他ならないのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 時は遡ること凡そ十五分前。

 学校帰りに本屋に寄ったシュテルが、偶々ユーノに会って公園へやって来たところに戻る。

 元々はこんな偶然も、仲間内では読書家な二人にはありがちな展開であったのだが――ただ公園で会ってのほほんとしているだけというのが、シュテルには気にくわなかった。

 かなり理不尽と言えばそうかも知れないが、考えても見て欲しい。

 自分の好ましい相手へ誘いを掛けてもスルーされ、放っておけば何の因果か他の少女たちと遊びに出かけてイチャイチャして――。

 その上、この前など猛暑に煽られた自分たちを放って置いて、フェイトと喫茶店で涼んでのんびりしてたなんてこともあった。……尚、発言にはかなりの語弊があり、ユーノの名誉の為に断っておくと。別にユーノは彼女らを放っておいた訳ではなく、涼みと休憩がてら喫茶店に寄っただけで、その後はちゃんとシュテルたちにも構ってくれていた(膝枕で茹だった彼女らを仰ぐくらいには)。

 が、経緯は重要ではない。

 というか、そんなものはどうでも良い。

 問題は、何で一番近かったはずの自分が最近放って置かれているのかだ。いや、突き詰めれば、まるっきり噛ませ犬にでもされた気分に等しいと言える。

 この屈辱を雪ぐ為、幾度となくリベンジを掛けるも全て不発に終わって来た。しかしチャンスがきたと思えば、こんな如何にもな状況なのに何も起きやしないと来ている。

 

 ――――何なのですか、これは。

 

 これでは愚痴の一つや砲撃(BD内でだが)の一つも撃ちたくなるというものだ。

 ユーノからすれば理不尽も良いところだが、放って置いた彼にも若干の責任がある。……まあ、別に鈍感というわけでもないので、単に色々タイミングが悪いというのも要因の一つだったが。

 簡単に言うと、シュテルが一言「構って欲しい」と言えば、一時の羞恥心を担保に幾らでもお釣りが返ってくるレベルである。

 しかし、それでは面白くない。

 自分から因果を引き寄せても良いが、それだけでは何かに負けた気がする。こういう場合、変に負けず嫌いな性格が生じて損を招く。

 結果として、シュテルは未だに見返りを得られることも無く、ただ剣呑とした雰囲気を保つに至っていた。

 とは言え、

(……流石に、このままというのもアレですね)

 どうせ帰る場所が一緒なので、何時までも意地を張っていたらそれはそれで弊害が生じる。特にユーリ辺りは、自分たちが喧嘩じみた雰囲気を出していたら不安を覚えるかも知れない。

 それは好ましくないとシュテルは思い、そろそろ折れるタイミングかと思い、今日はこの辺りで終わりして次の機会を狙おうとした――その時。

「――――えっと、」

 ユーノが何かを言いかけた。何を言い澱むのか気になって、「何ですか?」と問いかけてみたところ、ユーノはこう応える。

「いや……その、もしかしたら大したことじゃないのかも知れないし、僕の勘違いかも知れないんだけど……」

 が、その答えは非常に歯切れの悪い前置きに留まっており、ことの詳細が見えない。

 故にシュテルは、

「はぁ、それで……」

 結局、何が言いたいのですか? と訊いた。

 するとユーノは、

「……あのさ。シュテル、もしかしたら寂しかったのかな……とか、思って……その」

 あろうことか、そんなことを言い出した。

「――――!? な、ななな……っ!」

 言葉にならない声がシュテルの口から漏れ始めた。普段は冷静な彼女であるが、こう言った攻撃には弱かった。ストレートに来られたり、上手に取られたりすると割と崩れ易い。仮想空間では殲滅者などと呼ばれ、自他共に勝負に厳しい彼女も、現実では存外に乙女である。

 そう言った意味では、ユーノの放った攻撃(コトバ)は非常に効果的であった。だが、逆にこうなるとユーノも焦ってしまう。

 真っ赤になったシュテルは狼狽えているばかりで、怒っているのか恥ずかしがっているのか判らないのだ。

 見かけ上の境が曖昧で、どちらなのか判断しかねる。……尤も、第三者から見ると、どちらでもあまり大差ないような気もするが。

(ど、どうしよう……怒らせちゃったかな? いや、恥ずかしかっただけって可能性も――――ん? それってどっちみち怒られるだけなんじゃ……?)

 漸くそこに気づいたものの、シュテルよりは程度はマシかもしれないが、ユーノもユーノで焦りに苛まれている。

 結果として、公園で静かに百面相を見せる少年少女の出来上がりだ。

 ある意味それは、傍目に見れば告白したてのカップルに見えなくもない光景。

 図らずも望みに近い状況に陥ったシュテルであったが、頭が上手く働いてくれずその事実に気づけていない。

 ――とにかく何か言わなければマズい。

 ただそれだけが彼女の脳裏を埋め尽くして行き、そして――――

 

「そ、そそそ――そんなわけが! ある、ある筈…………あり、ま……す」

 

 ――――混乱の果てに、言葉が出る。

 

 判り辛いか、一応それが口から紡がれた。

 幸いと言うのか、蚊の羽音よりはハッキリと聞こえたそれを聞き逃すこともなく、ユーノは確かにそれを聞き届けていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――――そうして、十分後。

 

 公園を離れた二人は、駅近くの映画館へとやって来た。

 放課後デートとしてはベタだが、初々しい顛末を見せた二人には誂え向きである。

 実際のところ、売店でポップコーン等々を買った際に店員さんに微笑ましい目線を向けられる程度には、二人はそんな感じであった。

 そうして、ちょっぴり気恥ずかしさを伴いながらも――ユーノとシュテルの映画デートは幕を開けた。

 チケットを入り口のお姉さんに見せて中へ進む。

 販売が自動化されていても、こういったところではまだまだ人の手があることが多い。そういった情緒をどこか感じつつ、二人は劇場内に足を踏み入れた。

 場内はまださして暗くもなく、上映前のCMより少し前といったところか。しかし、結構前とはいえ人の姿はそれなりにいた。なら、先に席に着いても良いだろうと考え、出入りが面倒になる前に二人は早速チケットに指定された席に着く。

 そうして席についたまでは良かったのだが、

(…………か、会話が出てこない)

 ユーノは、ほんの少し気まずさを感じてしまっていた。

 普段ならばシュテルといるのは心休まるのだが、どうにも始まりと現状がなんとも言い難い経緯を辿っているためか、どうにもぎこちなさを感じてしまう。

 取り敢えず、先ほど本屋で見つけた本の内容でも話そうか。

 そうユーノは思っていたのだが――次の瞬間、彼の思考は途絶する。

「――――(こてん)」

 何が起きた。

 その時のユーノの思考を端的に表すならばまさしくこの通りであり、何が起こったのかと問えば、シュテルがユーノの肩に頭を乗せてきたからだと言える。

(ぇ……ぇ、ぁ……えええっ!?)

 驚愕。(ただ)しく驚愕であった。

 一体何がどうしたというのか。

 頭の中が混乱し、うまく思考がまとまらない。それでも言えることがあるのだとすれば、それはとりあえずシュテルがユーノの側に寄ってきたということだけはハッキリと感じ取れてたということくらいだろう。

 何が総じてこうなったのだろうか。

 いや、確かにシュテルがユーノに寄り添ってくることはなかったわけではない。

 しかし日本(こちら)に来て以来、彼女のそういった面はすっかり薄れていて、とても大人びたものだなと感心することの方が多かった。だというのに、今のシュテルは何処となく昔に戻ったかのような反応を見せる。

 正直にいうと、今のユーノの(なか)はすっかり空白になっていた。

 が、ぼんやりとした頭もいつまでも止まっているだけではない。

 次第に取り戻されていく思考の中で、ユーノは何か教訓めいたものに突き当たった気がする。つまるところ、当たり前のように思えていたが、離れてみなければ判らないことも確かにあったということだ。

 ……そういえば、と。

 ユーノはまだ不鮮明な思考で、公園で交わしたやり取りの最後の方を思い返す。

 そもそも自分が言ったのではなかったか。――もしかして、寂しかったから怒っているの? と。

 思い返してみるとかなりデリカシーに欠ける発言だった。しかし、最近のシュテルの反応をどこか思い返すと、どこかそう……彼女の好きな猫っぽいというか、「構え」とせがまれているような感覚がしていたのだ。

 レヴィくらい感情豊かならば分かり易いが、シュテルはどちらかというと不機嫌さは隠すタイプだ。

 影で拗ねるか、もしくは捻くれた対応を返す。

 子供の頃。二人でピクニックに行こうと約束していたが、レヴィたちと一緒になってしまい、楽しんだは楽しんだものの、約束を破ったと拗ねたシュテルに一週間ばかり引っ付かれていたこともある。……まあ、面白がって途中からレヴィも真似していたけれども(なお、のちにアリシアに伝染してクロノが引っ付かれていたりもしたらしい)。

 さて、ここまでくれば概ね分かったようなものだ。

 要するに、お姫様(こねこ)のお相手をサボっていたツケがここに来た――ということである。

 ならば甘んじて請け負おうか。

 自分程度にそこまで構って欲しいと言ってもらえるなら、それはとても嬉しい。

 ユーノはそんなことを考え、どこかほんの少しだけズレた考え方の下でシュテルとの時間に臨むことに。

 

 ……最後の最後までは届かなかったけれど。

 ゆっくりと、ゆったりと。

 徐々に花開く蕾の様に、二人の心は溶け合っている。

 ――――今はまだ、それで良い。

 

 淡い花弁が色付きを増すごとに、二人の想いは徐々に溶け合っていくのだから。

 時に壁もあり、時に涙もあるだろう。

 しかし、いずれそこに花を咲かせることができたのなら――――その時は。

 

 きっと、笑顔でいられる。

 あなたのそばで、たくさんの宝物を持って。

 

 決して枯れぬ、その心に宿す想いを誓い合って――――

 

 

 

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