innocent時空のユーノくん短編集(CP雑多) 作:形右
膝枕は良いよ膝枕は。……何言ってんだよこの変態め! って感じですが、ともかく思いついちゃったんですよね(汗
あと、ヴィータちゃんに毒吐かせたかった。
今回はそんな感じの妄想を詰め込んだお話になっておりますが、お楽しみいただければ幸いです。
では、どうぞ――――
始まりは眠気と共に Summer_Date.
夏もいよいよ中盤に差し掛かり始めたある日。
ユーノは一人、藤丘町にある古書店を訪れていた。
店の名は『八神堂』と言い、狸のパーカーとバツ印のバレッタがチャームポイントな少女の営んでいるお店である。
ここの店主と顔馴染みであることも手伝って、元々よく訪れていた。加えて趣味も比較的近かったこともあり、よくおススメの本を教え合う事やボードゲームに興じる事などもしばしば。
アポなしで来ても割と平気なので、来店の目的は割と気まぐれだ。少しのきっかけがあれば、足を向けたくなるような店であるからこそ。
――――そして、ちょうど今日もそんな日だった。
早速とばかりに入り口をくぐると、微かに来店時に聞こえる鈴らしき音が聞こえてきた。
「こんにちはー」
声をかけてみるが、返事が返ってこない。
店の中に人影は無く、出迎えなども特に無い。何時も静かな雰囲気の営業スタイルをとる八神堂だが、それにしても今日は静かすぎる。
どうしたのだろうかと首を傾げつつ、ユーノは何時も店主の座っているカウンターに向かってみた。しかし、やはり人影はそこにもない。出払っているのかとも思ったが、入り口が開いている以上それはないだろう。
そこで、とりあえず奥の部屋に入ってみることにした。
勝手知ったる他人の家……という訳でもないが、何回か通された事があるため迷うことはない。
元々書庫だった部屋を改造したらしいが、単なる物置を空けたというよりは、どことなく隠れ家的な印象を抱かせる。部屋の様式は比較的和風な色が強めに設定されていて、何となく風通しが良いイメージがある。
ともかく誰かいないのかを確かめたい。
「おじゃましまーす」
声をかけながら部屋にあがるものの、相変わらず返事は返ってこないが、代わりに。
部屋の真ん中。
掘りごたつになっているテーブル前の畳で、一人の少女が眠っていた。
「あれ、ヴィータ一人……?」
ユーノの声に出した通り。
畳の上で寝こけていたのは、八神家の末っ子筆頭であるヴィータだった。
最近の熱気に耐えかねてか、普段は三つ編みにしている髪を今日はポニーテールにしている。
三つ編みのようにきっちりまとめられていない分、少し朱色がかった赤い髪が薄い緑の畳によく映えていた。明るい色の髪だと、こういう時にふと鮮やかさが見て取れる。
と、少し見とれていたが、視線を外して周囲を見てみる。
しかし、一通り見渡すも人の気配は無し。
こうなると、事情を知っているのは必然寝ているヴィータだけなのだが――。
「…………すぅ……すぅ」
気持ちよさそうに眠っているのを起こすのも忍びない。
だが、かといってこのまま帰っても……と、ユーノが少し迷っていると、思考が結ばれるよりも先にヴィータが目を覚ます。
「んぁ……あれ、ゆーの……?」
何でここにいんだ? と訊かれ、ユーノはさっきまでの流れを軽く説明した。
店に誰もいないのが気になり、上の部屋まで来たのだと。
それを訊いて、ヴィータは思い出したように「あ」と声を上げる。
「あっちゃ……閉店中の札下げとくの忘れてた」
ぽりぽりと頭を掻きながら、ヴィータは手に持った札を表にかけに階段を降りていく。部屋に一人残るのは手持無沙汰な気もしたため、とりあえずユーノはヴィータに付いて行き彼女が札をかけ終わるまで見守ることに。
そうして、二人はもう一度部屋に戻って話を始める。
寝起きの所為か、ヴィータはどことなくぽわぽわしていた。
「大丈夫? 何だかすっごく眠そうだけど……」
心配になってヴィータの傍に寄るが、ヴィータは「平気」だと短く答える。
しかし、
「ん、へいき……だけど、ちょっとだけ……ねむぃ」
そんなヴィータの様子に、ユーノはどうしたものかと頭を捻る。
とりあえず八神堂が今日は休みだというのは分かった。しかし、かといってヴィータが此処に居るからには何かしらの理由があるんだろう。
が、それがヴィータ本人の理由なのか、はやてあたりから頼まれたものなのかの判断がつけられない。
もし用事だったら悪いと思いつつも、とりあえずはやてに聞いてみようかとスマホを取り出したユーノだったが――。
「……なぁ、ゆぅの……ひざ、かして」
「え? あぁ、うん良いけど――」
「ん……さんきゅ…………ぅ」
座った膝の上にヴィータが寝転ってきた。
いわゆる膝枕だが、イメージ的には男女逆な気がしないでもない。
とはいえ、正座で膝を出さなかったのがせめてもの救いか。今度こそ本格的に眠ってしまったヴィータを見て、ユーノはそう思った。
起こすのもどうかと思ったし、このままにしておくわけにもいかない。
どのみち時間はある。はやてに訊いておくのも済ませたかった為、少しくらいなら良いだろうと枕役を請け負うことにした。
――――そうして、一時間余りが過ぎた頃。
漸くヴィータが目を覚ましたのだが、
「うぇ……っっ!? な、ななな何でユーノがここに! って、しかも膝枕で!!!???」
しかも膝枕、の部分については訂正を入れておく。
「いや、膝貸してって言ったのヴィータなんだけど……」
驚かれたのは心外だ、と。
そうしてちょっとだけ抗議を交えつつ、とりあえずユーノはヴィータに事のあらましを説明する。
二度同じ説明をすることになったものの、それもやむなしと見たらしい。加えて、ヴィータの寝ている間にはやてと連絡が取れたので、八神堂が今日休みだった理由なども聞けたと告げ、その為にここに残っていたのだとも。
ちなみに今日ヴィータが一人で店にいた理由は、単純に宿題を片付けるためらしい。
夏休み的には中盤のはずだが、どうやらヴィータは先に終わらせておきたいタイプだったようだ。ついでに、みんなが用事があって出払っている日だからこそ、暇なら終わらせておけば都合の合う日に遊べる。そんな考えだったようだが、じめじめと熱い夏の熱気もこの部屋ではあまり関係がなかったようで、心地よい風に煽られてついつい睡魔に負けてしまったようだ。
「あ~~、せっかく調子出てたとこだったのに……」
文字通り二度寝したゆえの気怠さに苛まれ、ヴィータは呻くような声を上げる。
それを、ユーノは「まぁまぁ」と宥める。こういった対応は行き詰ったときのレヴィで慣れているため、ともかく手を動かせる状態を作ってあげることが大事だと理解していた。
とはいえ、流石にあと一歩というだけの量とは言い難い。別にそのままの答えを教えてもいいのだが、それではあまり意味がないだろう。
しばし悩み――ユーノは結局、前にあったレヴィの時と同じようにして、ヴィータに根気強く付き合う事にする。
どうせ時間はあるし、乗り掛かった舟だということで――。
そういうとヴィータは手を貸してもらうのは不満そうだったが、しかしこのまま一人でやっていても気分が乗らないと思ったらしく、彼の協力を受け入れた。
こうして勉強タイムが始まった。
しかし、いまひとつヴィータはやる気の線が途切れたままだ。
別にヴィータは勉強が嫌いという質ではないが、一度切れた集中のままでいるとどうしてもつまらなく感じてしまうらしい。
結局、興味が浮かんだ事象を考えたり、覚えていられるかを問うものであるがために――小学生の問題は、解ける解けないよりも興味を持てるかがカギになる。
そこで、ユーノは所々にコラムを挟んだりするなどして、ヴィータの興味をうまく刺激する。
この手法はなかなか功を奏し、ヴィータの宿題は次第に目減りして行く。
そうして二時間あまりをかけて、ヴィータは直ぐに終わらせられない自由研究や感想文などを除いた宿題を全てやり終えた。
「あ〜、終わったぁぁぁ……」
「お疲れ様」
労いの言葉を口にしつつ、ユーノはまた膝の上に寝転がってきたヴィータの頭を優しく撫でる。
最初は驚いていたが、しばらくしたら慣れた様で、彼の膝はすっかり彼女のお気に入りになってしまった様だ。
そうやって一息をついたのち、ヴィータは膝上からユーノを見上げながら「……なんか、悪かったな」と言って来る。
しかし、特に謝られる覚えはないのでユーノは不思議そうに聞き返す。
「??? 何が?」
すると、ヴィータはこう言った。
「なんていうか……その、いろいろ」
そう口にして、少し恥ずかしそうにヴィータは膝の上でそっぽを向く。
どうやら偶々来ただけのユーノに、結果的として手を煩わせてしまった事を言いたかったらしい。
「大丈夫だよ。それに、僕も勝手に上がった様な感じだったから、おあいこって事で」
特に困るほどではなかったのだから、気にしなくて良いとユーノは言う。
だが、ヴィータはどこか腑に落ちない様子である。
「…………」
そんな彼女の様子を見て――。
せっかく宿題が終わって晴れやかな気分なのに、モヤついた終わりではあんまりだと感じた。
なので、
「――――あ、そうだ」
「???」
「それじゃあヴィータ、ちょっと外に出ない?」
「? 外って、どこだよ?」
「まあ、どこってほどじゃないけどさ。おあいこじゃ不満そうだがら、その代わりがてらにヴィータにちょっと付き合ってもらおうかと思って」
そう言うと、ユーノは少し楽しそうに笑う。
よくわからないが、ヴィータも別にこの後が忙しわけではない。
ともかく付き合えと言うのなら、言ってみようと思いユーノの膝から起き上がって外へ出ることにした。
***
――――で、その少し後。
「……なあ」
「どうしたのヴィータ? ――あ、ちょっと待って。アイスついてる」
「あんがとよ……って、そうじゃなくて!」
「??? じゃあ、どういう?」
「だってお前。さっきおあいこの代わりだって言ってたのに、なんでアタシはアイスおごられてんだよ」
そう。
外に出たかと思うと、ユーノはヴィータを連れて遠見市のアイス屋に連れて来た。かと思えば、そのまま店内で「どれがいい?」なんて訊かれて、そのままイートインだ。
これで不思議に思わない方がどうかしてる。
買い物にでも付き合えと言われてるのかと思えば、この待遇。
そしてまたこの限定フレーバーがなんとも美味しくて腹ただしい。まさに。実に。
しかしユーノはと言うと、涼しい顔でさらっと。
「あはは。でもねヴィータ? 今日八神堂に行ったのは、はやてにオススメの本持って来たのもあるけど、ここの話を君に教えようと思ってたのもあったんだ。
でも、それが遅くなったのは宿題を見てたからで、ヴィータはそれを悪いと思ってる。――なら、ヴィータがここでアイス食べてるのが、僕にとっては何よりの代わりになるよ」
なんて言うものだから、ヴィータとしても二の句が継げない。
しかもそう言われては、無碍に突っぱねるわけにもいかず。大人しく
だが、このままやられっ放しというのも悔しい。
そこでヴィータは、こんな事を言う。
「……お前、少しキザになったな」
「うぇっ!?」
「いや、違うな。こりゃもう立派に女ったらしだよ、お前」
「そ、そんなぁ……」
ちょっと恩知らず気味だけれども、実際そんな感じだったから良い。うん、間違いない。
意趣返しがてらのカウンターも決まった事だし、これで良いか、とヴィータはそう心内で結び終えるや、早速目の前のアイスに集中する事にした。
しかしそれは、
(……ま、別に嫌じゃねーんだけどさ)
ほんの少しだけ素直さに欠けた意趣返しだった事を、彼女自身もまだ自覚していなかった。
――――その後。
それらを察知し、波に乗るかの様にして、八神堂による『Y・S奪取計画』が秘密裏に動き出した……かどうかは、定かではない。
確かなのは、せっかく素直になった星光がまた。
少しばかり厄介な危機感に苛まれることが増えるという事くらいである。
END