~魔法少女リリカルなのはReflection if story~ 作:形右
これを支部に出した当時、まだ円盤が発売されていなかったので、それの繋ぎに入れた間の話になっております。
穏やかなひと時 Rest_Time.
――それは、迫る嵐の間にあった穏やかなひと時の出来事。
***
一、二、三――GO!
急降下。
一気に重力の枷を外されると同時に、その勢いを余すことなく一身に受ける。
まるでそれは、空へ向かった鳥が地に飛び込むかのよう。吹き抜ける風の力と、迫る恐怖に心境は高揚していくのみ。
そのまま、右へ、左へ。右往左往を繰り返す。
もう止められない。
止まるはずもない。
もちろん、止まる必要もない。
なぜなら――ここは、そのための場所のなのだから。
瞬間、その視界は闇に染まった。
「いぃ――――やっほぉぉ~ッ♪」
「「ひゃ――――ッ♪」」
「ぇ、ぁ――きゃーッ!?」
「う、ぉ……ぁぁぁッ!?」
だがそれも一瞬。
高らかな歓声やほんの少し戸惑った歓声と共に、目の前には光が駆け抜けるように飛び込んで来た。
車輪が
そう、ここは――――
海鳴市の海上に建設された、一大テーマパーク――《オールストン・シー》の
***
数分前のこと――。
水族館エリアから、
では早速、と、いくつかのアトラクションを見学しておこうという話になった子供たちは、「遊園地といえば……」ということで、まずはジェットコースターから見ていくことに決め、一旦《オールストン・シー》の中央に聳える城へと向かう。
中央に建っている城の展望テラスへと着いたところで、アリサの父・デビットが子供たちの引率に回ると申し出た。妻のジョディを始めとしたママ友四人に、せっかくだから展望テラスでティーブレイクでも、と言って勧めたのである。
こうして婦人たちは子供たちと一度別れ、のんびりとしたティータイムに興じることに。
そして、近況報告などで茶飲み話に花が咲いた頃。子供たちの方はというと、コースターの前で席を決めるジャンケンが勃発していた。
デビットはここの経営者として試運転などに参加しているため、今日のところは並ぶお客たちに席を譲り、子供たちが満喫して降りてくるのを待つ役に回ることにした。
だが、こうなってくると少し問題が発生する。
子供たちは五人で、コースターは八人乗り。二人組に譲っても、一人で乗る子が出ることになる。
なので、ユーノがその役をすると言ったのだが、何故かこんな事態になってしまった。
ちなみに、ことの発端はアリサである。
彼女曰く、「案内してあげるって言ったのに、一人でなんてダメ」とのことらしい。
更に、そんなの狡いと周りもユーノの取り合いを始めた。最も、当の本人はというと、フェレットの時撫でまわされる順番を争われて、結局全員に盥回しにされたのを思い出し、未だに自分の認識にフェレット分が多量に含まれているのを再認識したとか、していないとか……。
ともかくこうして、そんなジャンケンが始まったのである。
「「「――――せーの、じゃーんけーん、ポンッ!!」」」
***
そして、公正なるジャンケンの結果、席順はこのように決定される。
「むぅ……」
「ま、まぁまぁ……なのは」
「うぅ……一人になっちゃった」
前列にアリサとユーノ。
その後方にフェイトとすずか。
そして最後になのはという並びになった。
おまけに、偶々次に並んで人たちがカップルだったため、そのままスライドで乗ることになり、結局なのははコースターに一人で乗る羽目になってしまうことに。
「まぁ、なのはには悪いけど……この結果は当然ね。運命の神様は最初の約束を破らせるなんてことはしない筈だもの!」
アリサはそういうが、ジャンケンの結果なので偶然なのではないだろうかと傍らのユーノは思う。
最も、それも含めて運命だというのならば、きっとIFもどこかに転がっているんだろうな、とも思ったのだけれど。
「なのはちゃん……」
そんな彼の隣で、すずかはなのはを心配そうに見ている。
とはいっても、公平なジャンケンの結果なので、何らかの不正があったわけでもないため、これ以上は何もできない。
そんな空気に耐え兼ねて、先ほどまでなのはを宥めていたフェイトに続き、ユーノも彼女を慰める役を買って出ることにした。
励ますような言葉でいいのかよく分からなかったけれど、曇った表情は彼女には似合わない。
少しでも彼女が元気を取り戻せるように、ユーノは声を掛ける。
「で、でもアトラクションはこれで最後じゃないし、次は一人で乗ることはないよ」
と、そこまで言ったとき。
最近また開き始めた身長差ゆえか、下から覗き込むようにしてなのははユーノの名を呼んだ。
「……ユーノくん」
「え、な……なに?」
唐突に呼ばれほんの少し戸惑うユーノ。
だが、その次に続いた言葉でその戸惑いはあっという間に霧散することになる。
どことなく不満そうな雰囲気は残しながらも、ほんの少し拗ねた子猫のように甘えを覗かせながらなのははこういった。
「次は、一緒に乗ってね」
その問いかけに対する返答は、ユーノの中に探すまでもなく、当たり前に存在している。
「うん。もちろん」
「約束だよ?」
「うん、約束」
小指を差し出すなのはにユーノも小指を向け、指切りを交わす。
親しくなるごとに、時折除くなのはの一面はユーノにとって好ましい。そして、それは なのはの側も同じこと。
信頼や絆を感じられるこの感覚は、とても胸が温かい――。
と、そう思っているのは二人だけ。
取り残された外野は、無自覚に交わされるこのやり取りに伴って発生している甘さのようなものに少々げんなりしていた。
いかな甘味を求める乙女でも、友人の惚気はお腹いっぱいの様だ。
「……二人だけでなに甘い空気だしてるのよ」
アリサがぼそりと呟きを漏らすが、事の発端であるユーノはほんの少し恥ずかしそうにするのみで、なのはに至っては「ふぇ?」と分かっていない反応を返すのみ。
「自覚無しって、ホント質悪いのね……」
「え? え? アリサちゃん……何のこと?」
「いーわよ、それもなのはの魅力だし」
ため息とともにそんなことを言うアリサ。
なのはが自覚するのは果たして何時になるのだろうか……。
それは謎であるが、今は先に手に入れておいた特権を行使することとしよう。
――まぁ、あんまり気づけないでいるんなら……わたしが貰っちゃうんだけどね?
悪戯っぽく内心でそんなことをごちながら、アリサはユーノを引っ張ってコースターへと向かうのだった。
そうして場面は冒頭へと戻る。
島の一角を縦横無尽に駆け抜けたコースターから降りた子供たちは、未だ興奮冷めやらぬ様子のまま、楽しそうに歩いていく。
「んー、楽しかった~♪」
どこかスッキリした様な顔でいるアリサは、とてもいい笑顔でそう言った。
それに対し、
「すごい迫力だったね……」
傍らのユーノはというと、まだ心地よい高揚感の中にいるようで、高鳴り続ける鼓動の打つ胸を軽く押さえながら彼女の後を付いて行くようにして歩いていく。
そんな彼の言葉を受けて、アリサも満足そうに頷きながらも……。どこか楽しそうに、ニヤニヤと笑いながら彼のことをからかい始めた。
「でっしょー。ふふっ、ユーノすっごい驚いてたもんね~」
「たはは……空を飛ぶのは慣れてるつもりなんだけどなぁ」
楽しそうなアリサだが、未だ夢遊病の様な気分のユーノは、どこかぽわぽわとしたまま感想を口にすることくらいしかできない。
加えて、ちょうどそれはフェイトも同じらしく「……うん。アレは、すごかったね……」と、そんな感想を口にした。
その後ろでは、最初のなんだかんだはどこへやら。
高速の弾丸への搭乗を堪能し、満喫したなのはとすずかが「楽しかったね」と微笑み合っている。
「凄かったねぇ~」
「うん! とっても楽しかったね~」
歩き出した子供たちを見守りながら、後方を歩くデビットも、皆の楽しそうな顔に満足そうに「うんうん」と頷いている。
そんなほんわかした雰囲気のまま、子供たちは次のアトラクションへと向かっていくのだった――――