~魔法少女リリカルなのはReflection if story~   作:形右

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 行間その二でございます。
 行間一の前書きにあった通り、こちらもオリジナル展開というか、繋ぎの話になっております。
 ただ、色々ネタをぶっこんであるので、そういったものが嫌いな方は申し訳ありません。お気に召さなければブラウザバックでお願いいたします。


行間二 ~一幕再び、射撃と迷路~

 穏やかな時間は続いて―― Stay_Rest.

 

 

 

 海上にそびえる、一大テーマパーク《オールストン・シー》。

 その目玉ともいえるジェットコースターからほんの少し離れたところにある、ヴァーチャルシューティングが楽しめる施設へと、コースターを楽しんだ子供たちは引率のデビット共にそこへ向かう――。

 

 

 

 *** 緋弾? なアリサ Let's_Shooting!

 

 

 

 

 

 

 次の場所へ向かい歩きながら、ユーノはアリサたちにそのシューティングゲームを楽しめるという施設のことを聞いていた。

「――じゃあ、このパンフに乗ってる〝エレメンタル・ブラスター〟が、次の取材場所ってわけなんだね」

 と、ユーノは傍らのアリサに尋ねる。

 学校であらかじめ話を聞いていたなのはたちはともかく、ほとんど初見のユーノはアリサたちに説明を受け、次の施設の仕様を教わりながら歩いていく。

「そ。まぁ、取材なんて言っても、自由研究の取材は楽しんだ結果を書くんだから、思いっきり遊ぶだけなんだけどね」

 来る途中パンフレットを見ていたものの、此方の世界は管理世界の住人であるユーノからすればまだまだ見慣れない事ばかり。アリサから教えてもらう度に、楽しみは次第に倍増していく。

「あはは。じゃあ、皆で思いっきり楽しまないとだね」

「うんうん。その通りよ、ユーノ♪」

 ビシッ! と、楽しそうに人差し指を立てて笑みを浮かべるアリサ。

 まるで教師にでもなったかのようなその出で立ち(ポーズ)は、妙に彼女に似合っていた。

 先ほど水族館エリアでユーノのことを先生なんて呼んでいた時からは一片、メガネでも掛ければ彼女は元来の聡明さも相まって、いっぱしの女教師にでもなったように見えること請け合いだ。

「あ、見えた!」

 なのはの声を受け、皆が彼女の視線の先を追う。

 薄く青がかった白いドーム。

 入り口に差し掛かかったところで、デビットは「出口の方で待ってるよ」といってゴールの方向へと足を向ける。

 その際、

「ふふっ。ここは結構難易度が高いから、みんな頑張って。――ちなみに、僕らがテストプレイしたときの最高得点は……」

 と、言い残して彼はその場から去って行った。が、そう聞いては俄然やる気が出るというもの。

 とりわけ、デビットの娘であるアリサは負けん気が強く、父親の言った点数を上回って見せると張り切りだした。

 しかし、何も張り切り出したのは彼女だけではない。

 〝射撃〟には一日の長がある砲撃魔導師であるなのはやフェイトも、頑張ろう! と顔を見合わせて確認し合っており、この中では比較的大人しめの反応であるすずかも、運動の類が好きであることもあってか静かな高揚を覗かせている。

 そして、ユーノもまた、そんな彼女らに引っ張られるように、早くなっていく鼓動を感じながらその中へと歩を進めた。

 

 

 

 入り口を通ると、待ち構えていたのは丸いゴンドラの様なもの。

 今度は席が分かれるということもなく、五人全員がまとめて乗れる形であったため、微笑ましい小競り合いの第二幕は上がらずにアトラクションの開始を待つことになった。

 ほんの少し待つと高らかな女性の声でアナウンスが入り、席に備え付けられたゲームセンターにでもありそうな銃を手に持つようにと指示が入る。

 みんなで目の前のそれを手に取って、次の指示を待った。

 一拍置いて、再びアナウンスが入る。

『本日は仮想射撃ゲーム、エレメンタル・ブラスターにようこそ!

 お手元のブラスターはお手に持ちましたか?

 ここより進むのは、様々な属性を具現した世界〝エレメンタリア〟。皆さまには、暴走した技術によって生み出された様々な精霊(フェアリー)幽霊(ゴースト)たちを撃退していただきます。大きな勇気と強い心で、共に異世界・エレメンタリアを支配する敵を倒し、この世界を救いましょう!!』

 世界観の説明と、大まかなルールがこうして言い渡された。

 入る前にデビットの言っていたとおり、要は撃破した標的(ターゲット)に応じてポイントが加算されていくという形式である。

 ……にしても、

「なんだか、設定がどことなく管理世界のロストロギア関連に似てるような……」

 ついでに『無限書庫』にも、と。

 どことなく馴染み深いような舞台設定に、ユーノはふとそんな呟きを漏らす。

 不思議そうにしている彼の傍らで、すずかはその様子にくすりと笑うと、彼の疑問に答えを呈した。

「ふふっ。前にユーノくんから貰った本も、参考にしてもらったんだよ~」

「あぁ、なるほど。それで……」

 どうりで、と、納得したようにユーノは彼女の言葉に頷いた。

 そうこうしている間にも説明は進んでいき、大体の事柄を話し終わったところでついにゴンドラが動き出す。

 この施設はレールに従って動くゴンドラの中から、四方から現れる標的たちを倒すというものだ。

 標的の出現はランダムだが、倒すごとにターゲットが追加される仕様になっているので、点数が上限いっぱいになるということはないのだが、制限時間――つまりは、距離が決まっているので限界はある。

 詰まる所、この短い間にどこまで倒せるのかを競うゲームなのだ。

 そうして動き出したゴンドラの中で、五人はターゲットの出現を待つ――。

 

「――来た!」

 

 いの一番に声を上げたのは、やはりなのは。

 ゲームが得意であるとともに、現役の砲撃魔導師である彼女は、こういった空間把握を求められる事柄に強い。

 そんな彼女に負けまいと、同じく砲撃寄りの戦技魔導師であるフェイトもなのはに続く。

 一つ目のターゲットたちは、開始直後のなのはの察知によってあっさりと倒されてしまった。

「なのはったら絶好調ね……でも!」

 即時殲滅を受けたターゲットたちを見て、一気に闘争心が加速したアリサはユーノを自分の方へ引き寄せた。

「おわっ!? あ、アリサ。なにす――」

 唐突に引き寄せられ驚いた様子のユーノだったが、アリサの心なしか燃えるような碧眼に気圧されて思わず言葉に詰まる。

 戸惑いながらも、流石は司書長といったとこか、ユーノの思考は止まっていない。

 詰まった言葉をどうにか引き出しから引き出すように、彼女が何を思ってその行動に出たのかを訊ねてみた。

「ど、どうしたのアリサ?」

 問いかけを投げると、帰って来たのは何故か助力要請。

「どうしたも何も、こっちも負けてらんないわ! ユーノ、力を貸して」

「え、あ……うん。えっと、何をすればいいの?」

 ゲーム中に手助けって、何をするのだろうか? ユーノのその疑問は、決して間違ったものではない。間違いではないが、ヒートアップしている今のアリサにはその理屈はどうやら通用しそうにない。

 普段以上に強きに磨きがかかり始めた彼女に、ユーノは既に呑まれていた。

「良い返事ね。それでこそあたしの相棒にふさわしいわ!」

「相棒って……」

 何だか良く分からないが、ひとまずユーノはアリサの相棒に認定されたらしい。

 背中を預け合うその響きは、どこか懐かしい様な気もする。

 因みに、懐かしさを感じていたユーノとは裏腹に。

「アリサちゃん!?」

 その〝相棒〟宣言に対して、なのはがびっくりして目を見開いていたのは余談である。

 元祖パートナーを取られてしまったような気がして、なのはの手が緩んだのをアリサは見逃さない。

「細かいこと気にしないの!! いい、ユーノはサポート。あたしの足りない空間把握で、標的を補足して教えて!」

 

 ――――風穴開けてやるわ! と、なんとも頼もしいが、どこか物騒なことを言い出したアリサ。

 

 最も、まぁ確かに自分は闘う側とは言い難い。

 サポート奴としてゲームを楽しむのもいいかなと、ユーノは二丁拳銃(ユーノの分)を構えた彼女の提案に乗ることにした。

 さらっとその相棒宣言に彼が乗ったことで、なのはが余計にショックを受けているのは内緒だ。

「いいよ。アリサの足りない部分は、僕が補うよ」

「良い覚悟ね、ユーノ。――アンタがいれば、何だってやってやるわ」

 自分達で微妙に空気を生み出して、そこから乗ってしまっている感はあるが、ともかく何故かここに金髪碧眼コンビが結成された。

 そこから先は――まさしく、赤い閃光が入り乱れる世界を具現することとなった。

「アリサ、右後方に三体。上方に五体。前方の二体を倒したら、上方から右方へシフトして」

「了ぉ、――――解ッ!」

 無双、まさしく無双。

 そんな言葉が、きっと今の彼女にはよく似合うだろう。

 前に刀が似合う、なんていったことがあったが――意外と銃も似合うなぁ、と、ユーノは特技である並列思考の片隅で、ぼんやりと思った。

 ただ、そうして洗練・加速していく思考とは裏腹に。

「……アリサちゃん」

「ぅぅ……ずるい」

「あはは……」

 二人の視界にはもう互いしか写っておらず、微妙に他の子たちがフレームアウトしていたことに気づけていないという弊害を生んでいたことを、ユーノとアリサはゲーム終了後に知ることとなるのであった。

 付け加えて、もう一つ弊害らしきものがあるとするのなら――。

 

 ――――まだテストオープンの段階だというのに、このゲームにおける最高得点が何故か更新されてしまうことになったくらいだろうか。

 

 

 

 ***

 

 

 

「~~~っ、はあ……楽しかったぁ」

 まさしく、満・足! と、顔に書かれているアリサ。

 ツヤツヤとしたその顔には、確かに書かれた文字と同様の気分が現れている。

「ホント、すっきりしたわ。ユーノのアシストもあったし~」

「はは、ありがと」

 何だかここ最近、ますます距離を縮めているような雰囲気を醸し出す二人。

 見ていて面白くないのは、彼をここへ誘うことになったなのはである。

 加えて、本人は自覚していないのだが、自分だけと思っていたお株を取られてしまったのが非常に悔しい様だ。

「うぅ……」

「な、なのは……。そんなに落ち込まなくても――」

 落ち込んでいるなのはを宥めるフェイトと、終わってみればのほほんとしているすずか。そして、満足感を隠しもしないアリサと、彼女のテンションにまだ引っ張られているユーノ。

 なんとも、高低差が激しくなってしまったなぁ……と、苦笑いをする引率のデビット。

 落ち込み気味のなのはが、次の施設で元気を取り戻してくれると良いのだが、と。

 自覚の薄い王子様に期待をしつつ、彼は娘とその友人たちの一行を、次の施設へと案内していく――――

 

 

 

 ***

 

 

 

 続いて子供たちが訪れたのは、先程のシューティングと同じ体感型の施設。

 但しこちらは、先ほどまでのように受動的に動くゴンドラとは異なり、自分で動いて体感する仕様(タイプ)の施設。

 此処の内容は、手にしたアイテムなどを用いて複数のゴールを目指すという、いわゆる迷路の類だ。そして、その内容を最大限楽しめるように、入れる人数は二、三人までで逆走は禁止、というものになっている。

 入り口から少し入ると、その部屋が回転するようなっていて、五つある入り口のどれかにランダムに入る。迷路の中は暗がりで、最初に与えられたヒントと、その先に設置されたアイテムスポットにある問題を解きながら持ち物を増やしてゴールまで進んでいく。

 用意された五種類のゴールは、四種類+シークレットという内訳で、元々明かされている四種の内容(コンセプト)は以下の通り――

『超古代の謎』

『崩壊した近未来』

『現身の鏡の物語』

『輪を外れた時間の世界』

 ――という風になっており、シークレットはそれらと異なる結末が用意されている。

 そうして其々に用意された謎を解き明かすと、解いた謎の数に応じてその結末を映像として見られる仕様。

 このように、プレイヤーによってエンディングが変更されるということから、発表の段階からかなり注目を集めている。また、先程のシューティングとは異なり、こちらは実際にあるモノを用いて遊ぶことから、AR的な側面が強い。

 そういった違いを楽しめるように、これらが同じエリアに設置されたのだそうだ。

「まぁ、大まかな説明はそんなところね」

「ふぅん。謎解きかぁ……」

 アリサに言われ、ここの内容を大まかに把握したユーノ。

 そういった探索、捜査はユーノの得意な分野だ。

 未知や謎解きに好奇心を覗かせる彼の姿は、普段のそれに比べると、どことなく年相応に見える。

 少し子供っぽい反応も、中性的な見た目をしているユーノの、確かな少年らしさを感じさせてよく映える。なんとなく自分たちも胸躍るような気分になって来た、少女たちもまた、早速この迷路へと挑む。

「――と、その前に組み分けしないと」

「あっ、そっか。ここ、多くても三人ずつしか入れないんだもんね」

「じゃあ、二人と三人に分かれるとして、どうやって決める?」

「うーん。さっきはジャンケンだったし、今度は……どうしよっか?」

 悩む子供たち。すると、そこへ待っていましたとばかりに、用意していたくじを渡すデビット。

「パパ、これどうしたの?」

「さっき、皆を待ってるときにだよ。ジャンケンもいいけど、こういうのもスリルがあっていいかなと思ってね」

「なるほど……うむむ、流石パパね。いいとこ突くわ」

 一度で決まる、という点においては確かにジャンケンより判り易い。

 先程の光景を見て、さっさと用意してしまうその行動力は、流石はアリサのパパといったところだろうか。

「くじには番号が振ってあるから、偶数と奇数で二人と三人のペアを決めるといい。さっきのコースターみたいなときは、座席順ってことにすれば、判り易いと思うよ」

 そういって差し出されたくじを引きにかかる子供たち。

 この場にいる人数からして、奇数ペアが三人。偶数は二人ということになるので、どうなるかはよく判らないが、ともかくくじにとりかかる。……ほんのりと、ユーノが偶数になることを祈って。

「じゃあ、ユーノからでいいわよ」

「え、そう?」

「何よ、いやなの?」

「ううん。ただ、何となくアリサなら〝レディーファーストよ〟、とか言いそうな気がして」

「うっ……~~~っ、うるさいうるさいうるさい! いいでしょ! 男女平等の時代なんだから。それより早くしなさい、Harry up!」

「は、はい……!」

 何故か急かされ、勢いでくじを引く。

 迷う暇もなかったので、本当に選ばずに勢いで引いてしまった、彼のくじに振られていた番号はというと――。

「で、番号は?」

「あ、えっと……二番、だね」

 

「「「!!」」」

 

 ――なんとも、予定調和(アンケ通り)な展開になって来た。

 胸の高まりが心なしか増し始めたその中で、少女たちは残りのくじを引く。

 ……狙うは、残った偶数。

 運命の女神は、果たして誰に微笑むのか――――。

 

 

 

「「「せー、のっ!」」」

 

 

 

 *** 暗い迷路で高揚する心 Fall_in_Labyrinth.

 

 

 

 

 

 

 ――――中に入ると、最初に二人を出迎えたのは暗闇。

 そこから数秒の間を置いて、重く響きを持った男性の声でアナウンスが入る。

 〝ようこそ、『フラクチュエート・イデア・ラビリンス』へ。

 此処は、とても不確かな旅路の一角。君たちは、己が物語の先へ見事辿り着けるか。その胸に秘めた、知恵と勇気が試される〟

 最初のアナウンスが終わると、暗闇の一角が光る。

 見ると、そこには一枚の紙があった。描かれていたのは、迷路を制覇するためのヒント。

 絵の方は、黒い人型と滲ませて暈した様な人型。

 何故人型が二つもあるのか? と最初は思わなくもないが、片方がはっきりと輪郭が判るのに対して、もう片方は其方のはっきりとした人型があったからこそそうだと解る程度。ただそれだけでは滲んだ絵の具の痕にしか見えない。

 この二つが関連していると推察したところへ、さらに重ねられた文字。

 その一文は――〝夢は鏡、虚ろなる世界は揺れ動く〟という、詩のようなものだった。

 暗がりの中で、置かれていた台座の光の元、それを読み取る紅の瞳の少女。

 しかし、その答えを直ぐに知ることは出来ない。こんな序盤でアトラクションのヒントの答えなどそう簡単に判るわけもないのは、当たり前といえば当たり前だが……仮にそれがアトラクションのストーリーだとしても、暗がりの中で謎の中に放り出されれば誰だって少しは不安な気分になるというもの。

 とりわけ、のめり込んでみる気があるなら尚更に。

「これって、どういう意味なんだろ……?」

 傍らの、翡翠の瞳に問う。

「……うーん……」

 だがもちろん、彼にもそれは分かってはいない。だがひとまず、ここは迷路型のアトラクションなのだ。

 まずは進んでみないと話にならないだろう。

「これだけじゃまだ判らないけど、ひとまずは進んでみない?」

「……そうだね。まずは進もう」

 こくり、と頷いた少女に、少年も軽く頷き返して手を差し出した。

 その手が握り返されたのが解るのに合わせ、「じゃあ」と、彼は彼女に声を掛けながら、ゆっくりと歩き出す。

「行こっか、フェイト」

「うん。そうだね、ユーノ」

 そうして、偶数ペアになった二人の迷路探検が始まり、奥へと進んでいく金色の髪が、ゆらりと暗がりの中へと消えて行った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 その頃、奇数ペアはというと――。

 

 ゆらり、と舞ったほの白い炎。

 真夏の悪夢(ユメ)にでも出てきそうな、陽炎じみたその影。

 風が木の葉を揺らすような温い動きを見せ、心なしか遠巻きに太鼓が音頭を取っているかのように感じられる。

 すると、

 

「「「ひう……っ!?」」」

 

 噛み殺した様な声が少女たちから漏れ出す。

 こそばゆい様な感覚を残して首筋を撫ぜていく何かに、思わずまだまだ幼いお年頃の少女たちは、すっかり飲まれてしまっている。

 その路は、四つの物語に属さない五つ目。……そう、彼女らがいるのはまさしく、シークレットのコース。

 課せられたコンセプトは、といえば――――

 

 

「「「ひゃっ――――きゃあああああああああああああああああああっっっ!!!???」」」

 

 

 

 ――――真夏の遊園地にふさわしい、恐怖と怨念が犇めく幽鬼の路なのであったとさ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 少し進むと、そこには一対の別れ道。

 本来迷路というものは、壁に沿って進めばいずれ出口に付くものであるが、ここの迷路には五つの路があり、その路も中でいくつかの出口に分かれている。ドーム状の建物を、五つの区画に分けて出られる場所によって、クリアの度合いを測っている仕様なのだ。

 似通っているものを上げるとすれば、シミュレーションゲームのそれに近いだろうか。

 物語は一つでなく、またそれぞれの結末もまた一つではない。

 根幹をなすのは、それに似ているのかもしれない。その例に習うかのように、ユーノとフェイトは最初の分岐点へと差し掛かった。

 そこには、先程手に取った紙と同じ、ヒントらしきものが描かれた石板を模したパネルが立っている。

 これもまた、進む先を示している道標のような物であるらしい。

 ただ、どうやらまだ、最初の紙にあったそれが関係しているわけではなく、ここに在るのは単完結型の問題。

 故に、ここがまだ通過点であることを示している。

 そして、そこに記された問題は――

「えっと、〝常に己は平静であれ。なればこそ、その水面は望む先を写す〟――これって、どういう意味なのかな……?」

「まぁ、要するに意図の裏を読んで答えろ、ってことなんだろうけど……」

 だが、生憎とそこに書かれた事柄は、字面のままに捉えたのでは答えられそうにない。

 この先に進むためには、少しばかり頭を捻る必要がある様だ。

 けれど、まだ少々参考にできる要素が少ない。周りの物から他にも情報を得られないかと、ユーノは先への道に何か違いはないかと見てみた。

 特に目立った仕掛けはなく、ただ通るための物の様だ。

 更に調べて分かったのは、其々に通ったことを感知するらしい境界線が引かれていることだけ。要するに、ここを過ぎると〝通った〟ということになり、選択をしたと見なされるようである。

「……む」

 これが本来の迷宮であるとか、『無限書庫』の未整理区画だというならば、当然のごとく何度かやり直しを前提として進む先を吟味するところだが……ここは、入ったからには出るまで一回きりの選択肢しか認められない。

 これまで経験したダンジョン系統の遺跡に比べれば勿論易しいが、ゲームならではの難しさというのもあるのだろうか。

 ユーノは問題を反芻しながら、思案顔で辺りの物を探っていく。

「分かれ道に何の変化もないなら、――あ」

 ぶつぶつとつぶやきながら、視線を向けた先に、彼は何かを見つけた様だ。

 そこには、水の溜まった水盆のようなものがあった。

 最も、きちんとしたものではなく、迷路の雰囲気に合わせた、岩のくぼみのような形をとったものではあるのだが。

「これ……」

 フェイトの呟きがぽつりと漏れる。

 どうやら彼女も、彼の視線の先に気づいた様だ。

「うん。多分、これがさっきの問題の水面のこと何だと思う」

 同意を示しつつ、先の問題文を思い出しながら水盆を見つめるユーノ。

「確か、さっきの問題文にあった水面は、望む方向を示す……って」

 そもそもだが、この水盆は出口を写していない。かといって、これが完全に無関係とも思えないのも確かだ。

 

「「うーん……」」

 

 二人そろって唸る。

 一つ目からこれでは、先が思いやられるかと思われたその時。

「――あれ?」

 フェイトが、何かに気づいたらしい。

 気になったユーノは、それについて訊ねてみる。

「? どうしたの、フェイト」

「ここ、何か写って……」

 指差した先で、ほんの少し揺れている水面には、確かに何かぼんやりと写り込んでいるのが見える。

 だが、周りが暗い事と、微かに漏れこんだ光に邪魔されてよく見えない。

 少し考えて、じゃあと二人で光を抑え込むようにして並んで立つ。そうすると、光がある程度遮断されて水面が映す何かが見えた。

 どうやら、天井に文字が――

「――文字?」

 そこに在ったのは、〝心〟という文字。

 ぽつんと、まるでそこに在ることに何の疑問も抱かせないかのように、ひっそりとそこにいた。

 が、明らかにこれはヒント。

 問題文から察するに、この〝心〟が進むべき方向――〝望む先〟であるのだろう。

 しかし、

「心って言っても、別れ道の天井に心に通ずる文字なんて書かれてないしなぁ……」

「……だね」

 これではまた手詰まり、先に進むことが出来ない。

 二人は再び考え込む態勢に入り、小さく唸りながら問いかけの答えを探す。

 周囲に、他のヒントはない。また、これといって進むべき第三の道もない。

 これでは……と、ユーノはおもむろに、最初に手に入れた紙を取り出して眺めてみる。何か、通じているのでは無いかと思ったのだが、特に思い当たる節はない。

 ため息を吐き掛けたその時、

「……(ずいっ)」

 フェイトが身を乗り出して彼の手元を覗き込んで来た。

「ふぇ、フェイト……っ!?」

 不意打ちに驚いたユーノは、胸の内で跳ね上がった心臓同様に肩を震わせてしまう。

 そんな彼の様子を見れば自分が何をしたかも判りそうなものだが、生憎と、今のフェイトは問題を解くのに夢中でそれに気づいていない。

「? どうしたの、ユーノ?」

「い、いや――どうしたって、その――」

 不思議そうな顔をされても、それは困る。

 ユーノは結局、何も言えなくなってしまい、苦し紛れに手元の紙へ意識を戻す。

 だが、早鐘のようになってしまった鼓動がうるさくて、いつものような集中力が取り戻せない。

 別に、何をやましいことをしているでもなし。落ち着いて、平静なままでいれば何も問題はないのだと。そう自分にそう言い聞かせようとして、それに気づいた。

(揺れる水面、心、望む方向……平静であれ……)

 左胸にそっと手を置く。

 思考が晴れていくのに合わせて、その鼓動は成りを顰めていく。

 しかし、それはある意味、一度乱さねば当たり前すぎて忘れてしまう程度のもの。

 ……とすれば。

「もしかして」

「? ……ゆ、ユーノ?」

 ふっと小さく呟くと、ユーノはフェイトの手を引いて左の路へ進む。

 まだ問題が解けていなかったのに、とフェイトは驚きを微かに覗かせたが、ユーノの迷いのない足取りを見て、大人しくそれに従った。

 ほんの五メートル足らずの間であったが、フェイトには何だがかなり長く感じられていた。繋がれた手から伝わる温かさに彼女がほんのり頬を染めている間に、二人はその道をするすると抜けていく。

 二人がそこを抜けると、そこは出口(おわり)ではなく、道が続いているのが見えた。

 どうやら、左の道で正解らしい。

 正解だったのはいいのだが、

「でも、ユーノ。どうして分かったの? 左だって」

 どうもただ連れられてしまっただけのフェイトには腑に落ちない部分もあるらしい。

 説明を求めるように、じっと見てくる彼女に、ユーノは「あぁ、それは……」と説明を始めた。

「あの問題文と、心の文字に望む方向。この三つと、最初の平静であれっていう言葉」

 そこから推察を重ねて、左という回答に辿り着いた。

 左とは、心臓のある場所のこと。平静であれ、ということは一度乱れることがある。

 落ち着かせようとしたら、きっと意識は左胸に行く。

 意識を残したまま、その鼓動が落ち着いてしまえば、残るのは意識の裡に残ったその方向だけ。

 つまり、乱れるのは水面を意味している。

 波打ちそれが消えてしまった先に映るのは、〝心〟……すなわちそれは心臓だろう、という説明をユーノはフェイトにした。

 推察としては十分。

 ただ、もしも彼らが日本という国にもっと馴染みがあったのなら、〝明鏡止水〟という言葉からもっとあっさり答えに辿り着けたかもしれない。日本では古来の言葉遊びに置いて、時折水を心に繋げることが多かったりもする。

 そのあたりから、この問題はきっと造られたのだろう。

 説明を終えると、「なるほど……」と感心したようにきらきらした紅の瞳をユーノへ向ける。

 感心しきりの彼女に苦笑しながら、先へ進む。

 先へ向かって行く二人の手は、暗がりの中でも温もりを伝え合うかのように、繋がれたままだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 結論から言うと、その後は至極順調のまま進んだ。

 先程の『水』に関する問題の後、『反射』や、『記憶』といった事柄を元にした問題が続いており、最初の文の内容から、おそらくここは四つの内『鏡面世界の物語』なのだろうとも解った。

 

 そして、最後の問いに辿り着く。

 

 パネルには、ここまでと同様に問題が記載されている。

 そこに在ったのは、〝よくぞここまで辿り着いた。結びの問いかけは、最初の詩を以て己が答えと成せ〟といったもの。

 最初の詩は、〝夢は鏡。虚ろなる世界は揺れ動く〟。

 ここまで通って来た道は、『水』は『心』を指して、『反射』は『影』を表し、『記憶』は『思い出』だとされた。

 そこから導かれた答えは――――

 

 

 

 ――――〝自分〟。

 

 

 

 心は水面のように不確かで、それを写す鏡は夢。けれど、そうして写したものはいつも美しいとは限らず、己の影をどこかに残す。だが、残された影すらも受け入れてこそ……それは確かに、自分という存在だといえるものになるだろう。

 最期の道まで進むことのできた二人は、これまでにはなかった扉に手を掛けて外へ。

 こうして、鏡の物語は終わりを告げた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 迷路を抜けた一同はしばしの休憩ということで、おやつタイムを楽しんでいた。

 

「はぁ……ったく、えらい目にあったわ」

 楽しい休憩かと思いきや、どうやら手放しで喜べるわけでもないらしい。

 アリサは疲れた様に手元のジュースをチューチュー啜る。

 彼女のそんなため息を見て、フェイトは「た、大変だったんだね……」と心配そうに彼女らを見ていた。どおやら奇数ペアの迷宮探検は、相当にハードだったようである。

 ただ満足そうに出てきた偶数ペアとはえらい違いだ。

「……もう。ユーノとフェイトばっかり満足そうに出て来てズルいわねぇ~」

 おまけに、仲良さげに手ぇ繋いでたし? と、ジト目を向けるアリサ。

 相当先ほどのシークレットコースが堪えたらしい。

 不機嫌そうな娘を見て、デビットはその頭をポンポンと撫でながら笑いを溢す。

「はは。にしても、まさか一回目からあのコースに当たるとはね。結構レアに設定されてたはずなんだけどなぁ……」

「うぅ、こんなところで運使いたくなかったわ」

「まぁまぁ、そう落ち込まないで」

 拗ねたようなアリサであるが、父に撫でられて少しは機嫌を取り戻しつつあるようだ。

 その傍らでは、これまたおなじように拗ねたなのはがユーノに宥められているところが見られる。

「大丈夫……?」

「……こわかった」

 ほとんど無敵の魔法少女にも、どうやらそれなりに怖いものはある様だ。

 まだ子供なのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。

 くすり、と、どこか微笑ましげに見ているユーノに、なのははどこか不満そうだ。

「ユーノくん、今わたしのこと笑った……」

 普段ならそれほど気にしないだろうことも、そんな気分に引きずられてついつい零れてしまう。

 流石に失礼だったか、と、ユーノは訂正を試みる。

「あ、いや……これはそういう訳じゃなくて……その」

「むぅ……」

「な、なのは……」

 しかし、なのはの機嫌は未だ坂を転がる石の如く。

 まだまだ直りそうもないのであった。

 結局その後も、なのはの機嫌が直るまでユーノは彼女に付き合うことになる。

 そんな可愛らしい嫉妬を眺めながら、子供たちの自由研究が進んでいく。

 

 

 

 

 

 ――――しかしその一方で、刻々と迫る戦いの予兆。

 

 

 

 遠き世界より、滅びの定めに抗おうとする少女の心がその嵐を巻き起こす。

 

 

 


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