~魔法少女リリカルなのはReflection if story~   作:形右

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 決戦の始動。

 戦いの嵐はより強く、先の三つの戦いへと繋がっていく。


第十一章 激化せし、戦いの嵐

 星光襲来 ――三大機動外殻・赤の城塞――

 

 

 

 《オールストン・シー》エリアBにて、シグナムとフェイト率いる武装局員たちがレヴィとの交戦を始めた時――。

 別の湾岸エリアでもまた、同じように迫る怪物と襲撃者の戦いが始まっていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「――の、ヤロォ!」

 

 威勢良く叫んだ声と共に――。

 ヴォルケンリッターが誇る特攻役、『鉄槌の騎士』の名を冠された少女・ヴィータが、己が相棒(デバイス)である(くろがね)の伯爵『グラーフアイゼン』を振るい、巨大なハンマーの形態をとった『ギガントフォーム』のアイゼンを、迫る脅威に叩き付ける。

「そっちに行くんじゃあ、ねぇ――ッ!!」

 彼女の振るった先には、レヴィの引き連れてきた〝海塵のトゥルケーゼ〟に続く、二体目の巨大『機動外殻』の姿が。

 人型に近いトゥルケーゼに比べ、此方は蜘蛛のように円形に広がった脚部を持ち、亀の甲羅じみた胴体の形を取ってる。

 堅固な見た目に違わず、ヴィータの一撃を受けて尚、『機動外殻』の進行は止まらない。

 余波で逆波が起こったにも拘わらず、泰然自若と構え、そしてまた一歩陸地へと踏み出して来た。

 だが、奴を迎え討っているのはヴィータだけではない。

 ヴィータと外殻の向き合っている後方で、なのはが手に持った電磁砲である『パイルスマッシャー』からの遠距離射撃を行う。

「――〝パイルスマッシャー〟、フルチャージ!」

 トリガーを引き、機構内に充填されたエネルギーを撃ち放つ。高威力の電磁砲からの射撃により、外殻はその上部を破損させた。

 着弾を見届け、ヴィータは「よっしゃ!」と拳を握り込み、笑みを浮かべる。

 しかし、

 《――冷却ユニットを起動します。バッテリーを交換してください》

「パイルスマッシャー、再発射困難。装備、換装します!」

 個人で高威力の射撃を行える代わりに、『パイルスマッシャー』は連射性に欠ける装備であった。

 一時的に大ダメージは与えられたものの、即座に連射を行えないため、完全に倒すだけの決定打にはならない。

「応よ、トドメは任せろ!」

 故に、なのはからの報告を受けたヴィータがトドメを請け負う。

 足下に展開された、三角形を模した『古代ベルカ』式特有の魔方陣が、ヴィータの魔力光である紅に輝く。

「せ、ぇぇええいッ!」

 再び威勢の良い掛け声と共に、ヴィータの振りかぶったアイゼンによる弩級の攻撃が振り下ろされようとした、その時だった。

「――ヴィータちゃん!」

 焦ったなのはの声がヴィータに届く。

「――――え?」

 が、彼女には向けられた声の意味が理解出来なかった。

 最後の一撃を加えるだけというこの場面で、いったい何を焦るというのか。――しかし、その理由は直ぐに理解できた。

 自身の頭上で、己のそれ以上に強い紅の光を放つ陣の上に立つ少女の姿を見つけた為に。

 

「――殲滅しますよ、〝ルシフェリオン〟」

 

 冷たさを感じる程に平坦な声が聞こえたと、気づいた時にはもう遅い。

「〝ディザスター・ヒート〟ッ!!」

 声色とは裏腹に、燃さかる灼熱の奔流がヴィータに迫る。

「――――、あ」

 全てを呑み込む程に、赤く燃える炎。目の前を覆い尽くしたそのヴェールに、ヴィータの思考は停止しかけてしまう。

 だが、直ぐに正気に戻ることになった。

「っ――、ぅぅ……!」

 なのはが『フォートレスユニット』の盾でヴィータに迫った炎を防いでいた。

 守られたことや一瞬の油断に歯がみしながらも、盾との激突で周辺に散らばる炎の残滓の対処へと移らなくてはならない。

 このままでは、このエリアの施設が余波で破壊されてしまう。

 守る側に立つ以上、それだけは何がなんでも避けなくてはならない事態だ。

 けれど、ヴィータが盾をエリア上空に同時展開させるよりも早く、翡翠の輝きを放った半球状のドーム状の防壁が展開される。

「ごめん――遅くなった!」

「ユーノくん!」

 広域の防御魔法を張り、被弾を防いだのはユーノだった。

 長引いてしまったアミタの聴取を終わらせて現場に飛んできたらしい。

 額に軽く汗を浮かべているところを見るに、間に合ったのもどうやらギリギリだったようである。

 ――だが、それでも助かった。

「ハッ――ほんっとに、遅っせーってんだよォ!!」

 口に出した言葉とは裏腹に、歯を見せて笑うヴィータ。

 なのはとユーノが今、自身と周辺に与えられる被害を防いでくれている。――なら、自分がするべきは、先ほどの失態のツケを精算することだ。

「いっ、けぇ――ッ!」

 《Schwalbe fliegen!》

 指の間に生み出した小型の鉄球をアイゼンで撃ち放つ。

 魔力を込めた鉄球をハンマー部で叩き付けることで放つ、誘導射撃魔法『シュワルベフリーゲン』である。

 対人に特化したベルカ式らしく、バリア貫通や着弾時における炸裂などの副次効果を持つのだが――相手方は難なく舞う鉄球を躱し、挙句の果てには自身の生成した誘導弾でそれらを撃墜してしまった。

「な……っ!?」

 敵の行った対処に、ヴィータは思わず目を見開いてしまう。

 少なくとも、仲間内以外でこの魔法がここまで破られたことはない。――否。寧ろ、だからこそ、と言うべきか。

 あの戦い方に、ヴィータは非常に見覚えがあった。

 二年前にあった『闇の書事件』において――。

 当時はまだ『管理局』と敵対していたヴィータと、たった二度目の対峙にも関わらず、長年の騎士としての戦闘経験からの組み立てを行ったこの射撃魔法を、同じだけの誘導射撃で迎撃した魔導師がいたのである。

 ――そう。

 ちょうど今、自身の傍らに居るなのはこそがその魔導師であり、目の前にいる相手は彼女と似た戦法を取っている。

 どういうことだ、とヴィータの脳裏を疑念が過ぎる。

 しかし、それよりも早く――なのはが襲撃者へ向け飛び出して行った。

 誘導弾だけでは効果が薄いと踏んで、閃光弾を織り交ぜながらの突進を掛ける。初手での隙を突く程度には効果を発揮したはずだった。

 だが、なのはの持つ『ストライクカノン』を己が杖で受け止めた相手は、鍔迫り合いに至ったにも拘わらずそれに対する感慨は薄い。

「……なるほど、良き連携です」

 まるで見定めを行っているかのような口ぶりである。

 けれど、それ以上に。

「ぇ……?」

 なのはは、自分と似た顔立ちをした少女との対峙に驚愕した。

 見た目というだけなら、二人はほとんど似ていない。瞳の色も、髪の長さも。そして、なによりも纏う雰囲気が異なっている。

 ……だというのに、本質的に似ていると理解出来てしまう。

 まるでそれは、光と影を合わせ鏡とした虚像。

 歪んだ鏡を見ているような感覚だった。

 蒼穹(そら)と光を体現するなのはに対し、相手の少女が体現するのは深淵(やみ)と炎。

 色彩の逆転した戦闘装束(バリアジャケット)も、形状が刺々しい手に持つ(デバイス)も似ているのに、何もかもが正反対である。

 いったい、何者なのか――。

「あなたは……」

 誰? と、なのはが訊こうとしたのに合わせるように。

「――名乗らせて頂きましょう」

 と、少女は自らの名を告げてきた。

 

「我が名は〝シュテル〟――〝殲滅のシュテル〟と申します」

 

 色の薄い瞳を向け平坦に。――けれど、どうしようもなく堂々とした声で、強者の風格を見せつけながら、シュテルはそう名乗った。

「シュテル……?」

 今しがた知ったばかりの名を、なのはは繰り返すように口に出す。

 向けられた確認の様な声にシュテルは「ええ」と応えると、

「そして、王より賜った我が隷――〝城塞のグラナート〟」

 そう言って先ほど壊されかけた己が隷を、もう一度立ち上がらせた。

 上陸の際、湾岸部を破壊したことで発生した残骸を取り込み、グラナートは自身の装甲を再構築。

 より強固に、より強靱に。

 侵略すること。なによりも、殲滅することを前提とした再生を施した。

 それは、明確な対峙の意思を示すものであり、同時にシュテルにとっての戦いへの姿勢を示すものである。

「あなた方に恨みはありませんが――」

 まさにそれは静やかで、実に情熱的な炎。

 熱くも冷たい闇の太陽のように、明けを告げる明星の如く、彼女は燃えていた。

 自らの定めた〝敵〟を、殲滅するために――――

 

「――――ここで、消えて頂きます」

 

 

 

 *** 闇の襲来 ――三大機動外殻・王の黒翼――

 

 

 

 ――なのはとシュテルが邂逅を果たした頃。

 《オールスト・シー》より離れた森の上空にて、はやてもまた、自分と同じ顔をした少女との対峙を遂げていた。

 はやて自身は知る由もないことだが、それまでの二人と同様に――二人の姿はまさしく、歪んだ合わせ鏡のようである。

 似た顔立ちや髪型。

 色彩の異なるバリアジャケット。

 相反する影の様な目の前の存在に相対し、さしものはやても最初は言葉を発せずにいた。

 けれど、

「貴様が、『闇の書』の主か?」

 先に相手よりそう問われたことにより強張りは解け、認識の齟齬に訂正を踏まえて応える。

「――『()()()()』の主、八神はやてです。あなたは……?」

 そうして、今度は自分が相手について問うた。

 すると、投げ返されたはやてからの問い掛けに、相手はさして感慨もなく淡々と応じる。

「我が名は〝ディアーチェ〟――失われた力を取り戻すために甦った、〝王〟の魂」

「王……失われた、力?」

 聞きなれないワードに、はやては訝しむ様な反応を見せた。

 が、ディアーチェと名乗った少女の方はそんなことに構う気は無いらしく、早々に目的のみを簡潔に告げて来る。

「ああ。それと、我が力を取り戻すには、どうやら貴様らが目障りだとかでな」

 だから大人しく消えろと、言外に双言われている様で、はやては少しムッとなる。そして同時に、この手口から何となく裏で糸を引いている存在の思惑を感じ取った。

 アミタの話ではキリエが始めた計画だというコトだったが、段々と事件の始まりが見えた気がする。

 救いを求めた手口にしては、あまりにも度が過ぎている。おまけに、現在起こっている事態は、明らかに邪魔を消すためのもの。

 はやてにとっての、この事件の始まりの戦いと同じ――言葉とは裏腹な、周囲への被害など気にもしない冷たい計略。

 つまり、

「これはキリエさんやなくて、全部――イリスの差し金ってことやね?」

 そう言うことなのだろうと、半ば確信を持ってディアーチェにそう訊ねた。

 しかし、向こうは此方の言葉に耳を貸す気も無い。

 焦っているわけでもなく、脅すでもない。それは単に、自身の障害になる存在に興味など無いと告げるように。

「応える必要は無いな」

 ディアーチェは己の杖を取り出し、それを振るって闇色の光球(スフィア)の弾幕を張る。

 自身の周りを取り囲んだスフィアと、向けられた情け容赦ない交戦の意思を見せつけられて、はやては思わず息を呑む。

 ……これまでも、戦いは幾度となくあった。

 人の重ねた業の結晶である〝闇〟と対峙したこともあれば、質の悪い犯罪者を相手にしたことだってある。

 けれど、こうして改めて感じる。

 久しく離れていた〝戦い〟というモノを。

 賭けたものは互いに重く、言葉だけでは決して分かり合えない。

 

 ――――なら、するべきコトは一つだけ。

 

「〝ドゥームブリンガー〟ッ!」

 発声と同時に向けられた、闇色に輝く剣の逃げ道の無い波状攻撃。更にそこへ、はやてを串刺しにせんとばかりに、魔力の槍をディアーチェ自ら投げ放つ。

 が、しかし――。

「――……ッ!」

 唐突に輝きを増したその光に、思わずディアーチェも目を見張った。

 向けられた闇を晴らさんと、噴煙の裡より光が(いず)る。

 瞳は蒼く蒼天の如く、髪は降り積もる雪を思わせる淡黄色(クリームいろ)に。だが、変化そのものに意味は無い。所詮それは、融合機とユニゾンによる副産物。どれだけ雰囲気が変わろうと、本質まで変わるわけではないのだ。

 しかし、それを見てディアーチェは何となく納得した。

 

 ――確かにこれは『闇の書』を扱う者ではないな、と。

 

 元より彼女らは相反する存在。

 自身が闇である以上、敵がそれと同じだという道理は無い。

 ディアーチェがそう納得した様に目を伏せ、再び明けると――そこには決意を胸に、闇より生まれ出た光が強く瞬いていて。

 もう二度と、これ以上負けてなどやらないという固い信念を魅せつける。

 そうだ。

 今は止めなくてはならない人がいて。

 守りたい場所と、大切な人が沢山いるのだから。

 ならばこんなところで、負けてなどいられるものか――!

「これ以上、墜とされたりなんてせぇへんよ。キリエさんもイリスも、止めなあかんし――」

 そして何より、

 《盗まれた〝宝物〟も、返して頂かなければなりません!》

 家族の絆を、何時までも盗られたままでいられるものか、と。

 手を夜の(そら)に掲げながら、はやてとリインはディアーチェを真っ直ぐに見据えている。まるで、直ぐ其処まで行ってやるとでも言わんばかりに。

「王様にも、お話聞かせて貰うで……!」

「寝言は寝て言え。そも、ここは王の御前であるぞ? ――頭が高いわ!」

 二人の態度にディアーチェは激高する。

 けれど、それくらいの方が分かり易い。

 誇りや矜持の類を持ち出されるのなら、何もかもが不明瞭な敵などよりも、よほど血の通った語らいが出来るというものである。

 しかし、ひしひしと肌を刺す殺気もまた本物で。

(――――何か、来る……ッ!)

 ディアーチェの掲げた杖の後方で渦が起こり、深淵を覗いたような深い闇の中から、一体の怪物が姿を見せた。

 絶望を象徴したかのような姿で現れたのは、三体目の『機動外殻』。

 巨大な翼を広げたそれは、これまで確認されていない空中戦に特化した型のモノ。

 そして、闇を統べる王の隷に相応しく悠然と、また絶対的な脅威を与えながらこの場へと現れる。

「そこまで吠えるならば、精々最後までほざいて見せよ、小鴉。

 尤も、それも我が隷――〝黒影のアメティスタ〟に嬲られてもなお、貴様が口を聞ければの話だがな」

「ゆーてくれるやんか……っ」

 隷の前に立ち、傲岸不遜に言い放つは闇の王。

 そして、足掻けるものなら足掻いて見せよと言われ、受けて立つは光ある夜天(そら)の主。

 

 遂に三つ目の舞台も幕を開け放ち――戦いは、いよいよ激化の一路を辿り出す。

 

 

 

 *** V.S.トゥルケーゼ

 

 

 

 エリアBより進行を続ける機動外殻――『トゥルケーゼ』を相手にして、シグナム班が決死の抗戦を行っていた。

「――はああああッ!」

 シグナムの振り下ろした炎を伴う剣閃が、レヴィの引き連れてきた『機動外殻』の片腕を切り落とす。

 が、トゥルケーゼは自身の腕が欠損したことなど意に介さず次の手に出る。

 残った方の腕にある発射口から電粒子砲(レーザー)を放つ構え。

 狙う先は、この遊園地の中央に聳える《オールストン城》。

 戦いながらシグナムたちの行動を学習したのか、或いは単に彼らが侵略のための外殻だからなのか――。

 詳細は不明だが、間違いなくその一手は効果的である。

「な――、……くっ!」

 トゥルケーゼの構えを見るや、シグナムはレーザーと向けられた施設との間に飛び込んで行く。

 ……守る側である以上、如何せんハンデを背負うものだ。

 敵は壊すだけであり、対象そのものを選ぶ意味を持ち得ない。おまけに操り手であるレヴィはこの場を離れてしまった以上、この機械兵には選ぶという行為が失せている。

 つまるところ、無力化されるより早く目的を果たしてしまえば、それまでの消耗品。

 役割を果たす為だけの存在であるが故に――トゥルケーゼは、厄介な敵としてシグナムたちの前に立ち塞がっているのだ。

 そして、

「――――っ!」

 微かな火花を散らしながら、短くエネルギーの収束を告げる音がして――青い光線が放たれる。

 が、それをシグナムは防がんとレヴァンティンを寝かせるように翳した。

 元々、シグナムは純粋なベルカ騎士らしく対人に特化した戦士であり、こうした砲撃戦は不得手と言える。

 とはいえ、仮になのはたちの様な砲撃を得意とする魔導師と戦う場合は近接で追い詰めることが出来るが、相手がこうも巨大な兵器そのものでは分が悪い。

 咄嗟だった為に盾を張れず、結果として彼女は、己が身一つで光線を受け止めることになってしまう。

 だが、それでも。

「ぐ、ぅぅ……ぉぉおおおおおおッ!!」

 苦しさに圧され、呻きながらも――押し寄せる光の奔流を押し留め、シグナムは後方の施設を守り切った。

「あ――――ぐぅ……ッ!」

 反動で城壁に叩き付けられはしたが、一時の時間稼ぎにはなった。

 他の武装局員では出来なかった以上、この負傷は致し方ないと納得もしよう。

 ……それが、現状でないのだとしたら、だが。

 

「「「!?」」」

 

 砲撃を行い、一度動きが鈍ったかに思われたトゥルケーゼ。しかし、その遅延は全く別のコトのためにである。

「再生スピードが、どんどん早く……っ!」

 着られた腕も再生させ、修復の速度もまた、次第に上がり始めている。このままではイタチごっこ――否、均衡を保てさえしなくなるのは明白だ。

 となれば、いっそう迅速な対処が求められる。

 故に、シグナムたちの交戦模様を見ながらも、シャマルは戦いに加わらずに分析に専念していた。

「――――――」

 〝旅の鏡〟を用いて『クラールヴィント』にトゥルケーゼの要を探す。

 まだ『フォーミュラ』や『ヴァリアントシステム』についての理解はさわり程度だが、それでも大まかな弱点は把握している。

 前者は自身らの『魔法』同様のエネルギー干渉術。そして後者は『コア』を中枢機とした物質の形態変化を司る。

 ただ、『魔法』が広域・単一を問わない〝変化〟・〝移動〟・〝幻惑〟の三種に分類されるのに対し、『フォーミュラ』はどちらかというと個人のエネルギーの運用そのものに寄るところが大きい。

 事実として、『フォーミュラ』の術者たちは自分に対する強化を主に活用し、外部的に作用させるのは『機動外殻』や『ヴァリアントアームズ』への動力供給などに限定されており、『魔法』で言うところの結界に相当するものは存在しなかった。また、それらは攻撃においても言える。

 アームズにおける攻撃は基本物質的なもので、エネルギーコートされた実弾を主に用いていた。

 そして、それは『機動外殻』の用いていた攻撃も同じ。つまるところトゥルケーゼを始めとした『機動外殻』たちは、『フォーミュラ』による動力供給で動いており、『ヴァリアントシステム』によって生成され、壊される度に周囲の物質を取り込んで再生させている。

 ただ、反則じみた再生機構と戦闘用の機能を持ち合わせる代わりに、イリスやキリエの見せた『フォーミュラ』による『魔法』の阻害――〝エネルギー分解装甲〟や〝魔力無効化〟などといった力は持っていない。

 付け入る隙があるとすればそこである。

 動力供給を行っているのが引き連れてきたレヴィ本人か別かなどは判らないが、少なくともヴァリアントによるものであれば中核を為す『コア』がある筈だ。

 故に、〝旅の鏡〟によって索敵に優れた彼女が内部構造の把握、そして相手側のコアの位置を探ること。

 それこそがシャマルに課せられたこの場での役割であり、嘗ての『闇の書』の守護騎士であり、蒐集のために魔導師の『リンカーコア』へ直接触れる技を持つ彼女だからこその戦い方。

 普段の優しげなシャマルからは想像も付かない、敵を確実に仕留める為の戦い方である。

「見つけた! ――――でもって!!」

 遂にコアの位置を探り当て、目の前に展開させた〝旅の鏡〟にシャマルは手を突っ込んだ。

 空間を歪曲させトゥルケーゼの内部にまで手が届くと、〝戒めの鎖〟という魔力で編んだ鉄糸(ワイヤー)で自身の手を肥大化させる。掌から五指全てを型どり、制御するのは難しい。しかし、相手は自我を持たぬ機械である以上、遠慮は無用。

「全身を制御する中枢機(コアパーツ)、これさえ壊せれば……ッ!」

 そう。『コアユニット』を壊せば、トゥルケーゼの再生機構は停止する。

 ならば後は、ただ力任せに握り潰すだけで事足りる――!

「こん、のぉ――ッ!!」

 珍しく張り上げたシャマルの声が上がり、よりいっそう加えられた圧迫によりトゥルケーゼのコアが完全に潰れた。

 しかし、弛緩したように腕を垂れ下げるが、機体の発光線(フォトンライン)は消えていない。つまりまだ、トゥルケーゼは外部からの供給を受けている。

 このままではまた動き出す可能性も否めない為、ここで完全に破壊しなくては。

「シグナム、あとはお願い!」

『ああ、判っている!』

 シャマルの声を受け、先ほどの砲撃で飛ばされたシグナムが舞い戻る。

 換装したカートリッジが四発炸裂すると、レヴァンティンの刀身を魔力が満たす。

 そして、炎の尾を引かせながら、シグナムはトゥルケーゼへ向け、最後の一撃を叩き込む。

 打ち込む技は当然のように、彼女が最も得意とする炎の剣閃――その名は。

 

「紫電――一閃ッ!」

 

 鋭く響いた声と共に叩き込まれた斬撃によって、トゥルケーゼは完全に爆散した。

 

 そして、その爆散から数瞬の後――。

 シャマルはトゥルケーゼの再生が起こらないかを観察していたが、確認された反応は無し。

 対象は完全に沈黙していた。

『再生反応は無し――うん、エリアB状況終了! お疲れ様シグナム。局員の皆さんも、お疲れ様でした』

 シグナム班の全員へ念話を飛ばし、シャマルは戦闘の終了と労いの言葉を告げた。

 援護に来てくれたシャマルに、シグナムも礼を述べる。

「ああ、助かった」

 フェイトがレヴィを追った為、シャマルが来てくれなかったら更に戦闘が長引いてたことだろう。

 しかし、一時の幕引きを得たにも関わらず、シグナムたちの心境は穏やかには遠かった。尤も、まだ他のエリアでは、戦いが続いているのだから無理もない。

「ところでシャマル、ヴィータたちの方は?」

 他所での状況が気になり、シグナムはシャマルへ直ぐ近くで自身らと同じく交戦中のヴィータについて訊ねると、シャマルはこう応えた。

『まだ交戦中みたい。でも大丈夫、援軍がまた到着してたって報告があったから、今の戦闘データを送っといたし、ヴィータちゃんたちの方も直ぐに終わるはずよ』

「そうか。なら良いが……」

 告げられた戦況に、これならばヴィータたちにも負けはないと思えた。

 だが、未だ残る懸念は他にもあった。

『……シグナムも気づいた?』

「……ああ。ここまで大がかりだというのに、首謀者が一切動きを見せないのもそうだが――なにより、そもそも目的が〝永遠結晶〟を手に入れるコトだけとは到底思えん」

 言葉を交わすにつれ、先への不安が沸き起こる。

『…………いったい、何が起こるのかしら』

 不安そうな呟きを漏らすシャマルに、シグナムはこう結び、応える。

「判らない。判らないが……少なくとも、決して穏やかには行きそうもないことだけは確かだ」

 空を見上げ、濁った色を見た。

 曇天の如く染まった空は未だ見通せぬ戦いを見つめ、今か今かと結末(おわり)を待ちわびているかのようである。

 心境はまるで、見えない指し手に取られた駒のよう。

 けれど、何者かの待ちわびるそれが、果たして良いものかどうかは――その場の誰にも、解らないままだった。

 

 

 


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