~魔法少女リリカルなのはReflection if story~ 作:形右
相反する二人の少女は、共にどちらも統べる者。
守るべきものの為、
救うべきものの為、
取り戻すべきものの為、
先へ続く自分たちの道を描く為に、彼女らはその力をぶつけ合う。
戦いの行方。
勝利の
その、結末は――――?
影と光、
星光と雷光の激突が幕を下ろした直後――。
《オールストン・シー》から僅かに離れた山岳地帯で、ディアーチェは己の臣下たちが、二人共に敗れ去ったことを察知した。
(……ちっ、シュテルとレヴィが敗れおったか)
心中で毒突くディアーチェだが、あの二人が戦いに置いて手を抜くような輩ではないことは重々理解している。よんしんば油断したにせよ、全霊で戦い抜いたであろうことは疑っていない。
敗北に対する叱咤はくれてやるつもりだが、ともかく今はシュテルとレヴィを救出すべきだろうが――。
(今は……この小鴉が鬱陶しい!)
苛立ち紛れに魔力弾を放つ。しかし、飛び掛かる散弾を交わしながら、ディアーチェと対するはやては逆に迎撃を掛けてきた。
もちろんディアーチェも、その程度でやすやすと取られる気はない。
向かってくるはやてを迎え撃ち、逆に距離を突き放さんと仕掛けていく。
――元々、彼女らは共に機動力に優れるタイプではない。だからこそ、直ぐにケリをつけるのであれば、威力の高い魔法を叩き当てる必要がある。とりわけ、はやての側はともかく、ディアーチェは決着を急ぐ理由が出来てしまった。
なればこそ、今すぐに一面焼土を作ってでもはやてを地に叩き落したいところではある。
だが、はやては、ディアーチェの思うよりも食い下がって来る。
(……ええい、しぶとい……っ!)
腹ただしいが、足りない機動力を補う融合機とのコンビネーションに、ディアーチェは苦戦を強いられている。
見かけ上は
そもそも、はやては射撃も魔法制御もはっきり言って雑だ。最初からSランクという保有魔力量がダントツだった彼女は、細かい運用が不得手だった。
そこで、そうした細かい運用を支える融合機の存在が活きてくる。
《はやてちゃん! コアの位置、発見しました!》
「うん!」
追走していたはやてとリインのやり取りがディアーチェの耳に届いた直後、彼女の目の前を白い閃光が覆い尽くした。
「ぐ……っ、こざかしい真似を――!」
目眩ましを受けたディアーチェは腕で顔を隠すようにして接近を止め、引き連れて来た『機動外殻』の〝アメティスタ〟に攻撃をさせようとした。
その判断は、半分正解で半分は誤りであった。
「コントロールは任せたよ!」
《はいです!》
なのはのモノとはカラーリングの異なる『ストライクカノン』を換装したはやては、リインに射撃制御を任せ、自身の膨大な魔力を遠慮なく注ぎ込んで撃ち放つ。
「ぅ――――ぐっ!?」
一射目はディアーチェに被弾。
無論、撃墜出来るほどのクリーンヒットではなかった。ディアーチェもはやて同様に、防御力の高いバリアジャケットを身に纏っているらしい。しかし、それは構わない。
とにかく一瞬でも動きを止められれば、彼女の隷である〝アメティスタ〟を撃ち抜くだけの隙を生じさせられる――!
「ファイア――ッ!」
白色の閃光が、黒翼を靡かせた巨大な怪物に直撃した。
はやての膨大な魔力による破壊力と、リインの融合機としての射撃制御によって、〝アメティスタ〟はコアを撃ち抜かれたのである。
既にほか二つ――〝トゥルケーゼ〟や〝グラナート〟も破壊されてしまい、遂に最後の一体である〝アメティスタ〟もはやてによって撃ち落された。そしてシュテルとレヴィも相手方に囚われている現状は、まさに最悪の一言に尽きる。
ディアーチェは頂点に達した怒りと悔しさに歯噛みし、それでも尚足りないとばかりに苦々しく吐き捨てた。
「……こんなところでは使いたくなかったが、仕方がない」
出し惜しんでいたが、ここまで来ればもう我慢ならない。今すぐにはやてを地面に叩き伏せてやると言わんばかりに、撃たれた胸元のアーマー部分を押さえつけながら彼女を睨みつけ、叫ぶ。
「高まれ、我が魔力! 震えるほどに、暗黒……ッッッ!!」
「……っ!?」
ディアーチェの声に呼応する様に、彼女の足下に三角形の陣が展開される。そして、彼女の周囲に孔が開き――次の瞬間、はやてを闇色の魔力弾の雨が襲う。
込められた魔力が尋常でなかったと悟り、防御に徹しようとしたまでは良かった。しかし、はやてが魔力的な攻撃を警戒していたのとは裏腹に、ディアーチェははやての目の前まで迫って来た。
どう見ても互いに広域型であるのに、まさか距離を詰めてくるとは――。
相手側の取った行動に虚を突かれた時点で、はやては詰め路へと追い詰められてしまったも同然。
――そして、手繰った好機を逃すほど、ディアーチェは甘くない。
近づくや、はやての『ストライクカノン』を自身の杖である『エルシニアクロイツ』でたたき壊した。そうして、杖での射撃を仕掛けはやてを一気に自分の下方へと押しやり、そのまま闇色の紫電を迸らせ――トドメの一撃へと移行する。
「絶望に足掻け――〝アロンダイト〟!!」
両手で生成した光球を掛け合わせるようにして叩き付けた、ディアーチェの持つ高威力の大型直射砲撃魔法『アロンダイト』――その闇色の奔流を受けたはやてに畳み掛けるようにして、ディアーチェは生成した孔から追い打ちの魔力弾の雨を降らせた。
ひとしきりそれらを撃ち切ったところで、ディアーチェは乱れた息を落ち着かせながら眼下を見渡す。
立ち上った土煙が次第に晴れていく。程なくして、無様に地に転がったはやての姿が見えるだろうと、ディアーチェはそう思っていた。
が、薄くなった土煙の中から白い光が僅かに覗いている。
それを見たディアーチェは軽く呆れ、同時に憎らしげに光の辺りを睨み付け、こう言い放った。
「――ふん、融合機に救われたか」
言い放った先には、ディアーチェの魔力攻撃によって抉られたクレーターじみた大穴と、そこに立っている少女の姿があった。
はやてである。どうやらディアーチェの弁の通り、融合機であるリインが決死の覚悟で防御を担当し、どうにかはやてのことを守り切ったらしいが――。
「――しかし、その様子ではもう戦えまい。見たところ、とっくに融合の方も解けておるようだしな」
確かにはやては今、ギリギリ追手から逃れたに過ぎない状態だ。仮にこのまま戦いを続けても、恐らくディアーチェの側に分があるのは必定といえる。
だが、
「王様も、相当にお疲れの様やけどね……!」
はやては尚も、強気のままだ。
自分が疲弊しているように、ディアーチェとてあれだけの大技を出した直後。ならば、互いが十全でない以上に差はない、と。
まるで挑発のような言葉であるが、所詮は強がりだ。
が、そうだと判っていても、神経を逆なでされることに変わりは無い。
ならばいっそ、向こうの望み通りに叩き潰してやろうかと、ディアーチェは本気で考え始めていた。
火急と思っていたシュテルたちの救出も、実のところ救出そのものにはさして苦労しないのだ。いざとなれば、多少魔力は喰うものの〝門〟を開いてやれば勝手に二人の方から脱出してくるだろう事は想像に難くない。
であれば、はやての安い挑発に乗ってやるのもやぶさかではない。
――と、そう思い始めていた時だった。
「減らず口を……む?」
「??? アレ、は……?」
――――彼女らが、空へ伸びる光の柱を目撃したのは。
ちょうどその光の柱に、はやては見覚えがあった。
ほんの少し前。恐らくはディアーチェたちが目覚めを迎えた時に起こった現象と、目の前のそれは非常に似通っている。
だが、ディアーチェの方も今の光が何であるのかは知らない様だ。
でなければ、勝負を急いだかに見えた彼女が、わざわざ戦いを放り出したままにしておくはずがない。
そうしたはやての思考は当たらずとも遠からず。
しかし、推察の至らなかった点があるとすれば――それは、ディアーチェはアレを理解しているわけではなかったが、アレを知っていた点である。
あの光を見た瞬間。
ディアーチェは、今すぐにあそこへ行かねばならないという直感に苛まれた。
急ぎ念話を飛ばし、自らの臣下たちを呼び寄せようとする。
「シュテル、レヴィ! 今すぐ〝門〟を創る。急ぎ戻れ――!」
《……んみゅぅ……?》
《心得ました》
対照的な返事が返ってきたが、ともかく繋がっているのならばそれでいい。
とにかく、早く集まらねばならない。
「迅速にな。何やら、きな臭いことになっておる」
最後にそう二人へ告げると、ディアーチェは戦っていた筈のはやてを置き去りにして、急ぎ《オールストン・シー》を目指し始めた。
いきなり逃亡を図られ、はやても慌てて後を追う。
しかし、やはり先程までのダメージの差もあり、はやては段々ディアーチェに距離を空けられていく。
「ちょぉ待って、王様! アレは何なん!? なんか知っとるなら教えてや!」
「貴様に話す道理があるか戯け! ついて来るな!!」
それでもどうにか、と、状況を把握せんとディアーチェに問いを投げて見るが、返答はにべもなく切り捨てられた。
「あ、ちょ――王様ってば!」
結果として先行を許してしまい、訳の分からないまま後を追うしかなくなった。
はやては悔しげに、焦って後を追うが……そんな彼女の心境を他所に、ディアーチェもまた、別の意味で何らかのざわめきのようなものを感じていた。
(この感覚……。我は、知っている。この力の〝持ち主〟を――――)
――――嫌な予感がする。
目覚めたばかりで曖昧な記憶しか持たぬ身であるが、それでも確かに、自分はアレを知っている。ただ、嫌な予感だけではない何かが心のどこかに引っかかっていて、ディアーチェ自身この感覚への判断を付けられずにいた。
けれど、とにかく行かねばならない。
確かめるために。
そして、知るために。
この時を以て、漸く事件はその深淵への足がかりを示し出す。
たった一人を除き、誰一人として知り得ずに居た――その〝