~魔法少女リリカルなのはReflection if story~ 作:形右
※この先の本編に関わる事の為、お読みになることをお勧めいたします。
今回から、ReflectionのパートからDetonationのパートに移行するにあたり、最初にここで注意事項を述べておきます。
先日Detの本予告が解禁されましたが、自分は元々リリパなどにいってなかったので、あの映像のことを知らずに今後の流れを考えていました。
なので、今後の展開は本来の映画とは展開が絶対的に変わると思われます。
ですがまあ、元々二次創作なのでそこまで気にすることかという部分はありますが、一応言っておくべきだろうと思って書いております。
此処から先の展開や作品の中での注意事項については、以下のようなものが主になります。
・オリジナル展開
・独自解釈
・BoAやGoDのオマージュ増加
・戦闘や結末の日時変更
・あとがきによる捕捉追加……等々、etc.
こういったモノが苦手な方や或いは映画本編の流れを汲んだ展開の方が見たいという方は、映画公開後の本編沿いの話を書くので、その時の方をお読みいただければと思います。
逆にこちらも呼んでみたいという方は、今回の話で導入となりますので、ここで判断いただけると幸いでございます。
あと、なるべくDetの公開までにオリジナル展開は完結を目指すので、かなり投稿が不定期になることが予測されます。短かったり、逆に長かったり、何時ものように短編と一緒でなかったりするので、その辺りはご了承願います。
以上のことを踏まえた上でお楽しみいただければ幸いです。
ともかくどちらを読んでいただけるにしても、全力で今後も書いていくので、よろしくお願い致します。
以下はいつも通りに、本編前の前口上的な部分でございます。
***
──実に、この世は不条理に満ちている。
誰に言われるでもなく、しかし誰しもがそう考えていた事だろう。
かつてこの街で──
ある一つの出会いがあり、そこから始まった絆があった。
同じように始まりを得た絆と、終わった悲しみがあった。
世界さえ呑み込もうとした危機は去り、
涙と傷が紡いだ物語は終わりを告げた筈だった。
けれど、今──また歯車は外れ、人々の日常に亀裂が走る。
清算は終えられずとも、背負い続ける咎があれど。
それでも前に進み出したヒトを嘲笑うように、こうも簡単に世界は狂う。
第十八章 絶望入り混じる刹那の希望
それぞれの決意の狭間
『――――――』
空に〝悪魔〟が目覚めた時――。
異なる色彩の瞳が、それぞれ同じ場所を見つめていた。
いずれも悲しみを塗り替えようとする者たち。
しかし、写す場所が同じであろうと、胸に描く決意の像はまるで違う。
何を犠牲に、何を成すのか。
あるいは、何も失わないために、何を取り戻そうというのか。
未だ世界は不明瞭。
見えるものは全てを写しておらず、現実はまだ先への路を見せてはくれない。
そして、何時しか癒える疵であろうと、罅だらけの記憶と
であればこそ、決して引くことなどできない。
それと同様に、決して諦めることなどできはしない。
喪い続けて来たモノを取り戻すために。
先に紡がれていくモノを、守るために。
少年や少女は、目の前に起こる災厄に挑む。
例え、どれだけの代償を払い。
例え、どれだけの対価を求められることになろうとも。
譲れぬ想いがある限り、砕け得ぬ意志は必ず果てへの道を示し続ける。
――――なればこそ、始まる戦いの結末を、己が瞳にしかと焼き付けよう。
***
――――下らない。
目の前の光景を目の当たりにして、イリスは急速に己の裡が
少々邪魔な乱入者たちの行動に振り回されはしたが、実際のところ相手方との力の差は埋まり切ってなどいない。
未だ、イリスは少なくとも優位には立っている。
だというのに、光を失わない瞳が、己とユーリを止めようと足掻き続けている。
それが酷く癪に触って、冷めたはずの
頭の芯がキリキリと痛む。
失ったはずの綺麗なものを、信じ切っているあの子供たちが、不快で不快で仕方がない。
知らず、息が漏れた。呆れと怒りを吐き出す様に、息と共に思考をいったん初期化して、目の前の事象を冷静に分析し始めた。
自分たちを取り囲んだ封鎖領域は、見ての通りあの少年が構築したものだろう。
にしても、まさかこの短期間で異なる術式を併用して運用しようとする馬鹿が二人も出てくるとは誤算だった。
(なのはちゃんの方は、デバイスにアミティエの予備『コア』を埋め込んだみたいね。〝エネルギー分解装甲〟と〝魔力の無効化〟……この二つへの対抗措置としては、予想される完成度含めで五十八点ってとこかな)
だが、大火力を持つ邪魔者が増えたのは好ましくはない。しかし、イリスの関心――いや、苛立ちはむしろ、攻撃的脅威でない方に向けられていた。
(あっちは見たとこ『コア』の方は持ってないみたいだけど……まあ、あの子は攻撃に適正が無いって話だったし、『ヴァリアント』の出番がないなら妥当かしら。――――でも、)
なによりも腹ただしいのは、このフィールド。
それにしても、非常に面倒なものを造りだしてくれたものだ。所詮は雑兵と捨ておいたのが裏目に出たかもしれないな、とイリスは今更ながら思う。
攻撃こそ使えないが、誰かと組まれると非常に厄介である。
思い返してみると、そういえば調べたデータの中にあった。この街であった事件を解決するきっかけを生んだのは、あの子――ユーノからである、と。
なのはに『魔法』を運び、始まりのパートナーだった。
そんなことが載っていた気がする。……まあ、それも今となっては些末なことでしかない。どれほど積み重ねがあったのだとしても、どれほど深い絆があろうとも、そんなものは直ぐに壊れてしまう。どれだけ大切でも、どれだけ想っていても、目の前にある理不尽に適うはずはない。
そして今、その理不尽は自分の手の中にある。ならば、あとは倒せばいいだけだ。
ただ、この封鎖領域――いや、向こうの流儀に則って言うのなら、〝結界〟というべきだろうか。
ともかく、これは非常に面倒な代物である。
この結界は、『魔法』と『フォーミュラ』の双方の技術を合わせたもので、本来の目的である封鎖はもちろん、破壊に対しても少しばかり対策を講じているようだ。
基本的に『フォーミュラ』は、個人の内部から派生。そして、その範囲はごく近いものに限られているのがほとんどである。
対して『魔法』は、その効果の範囲は非常に広い。系統別にすれば差異はあるものの、あの少年が用いる『ミッドチルダ方式』については、汎用性と効果の範囲が比較的広いのは解っている。つまりだ。この両方を用いることが出来るというのは、端的に言って範囲の拡張が成せているという事――。
『フォーミュラ』の欠点である広範囲に渡る術式の発動と、『魔法』が『フォーミュラ』というエネルギー干渉術に対して不利だという欠点。
――この二つを、忌々しいことにあの少年は越えて来た。
たった一つの
――『魔法』を阻害する『フォーミュラ』を阻害する。
という
発想自体は非常にシンプルだが、だからこそ効果的とも言える。
本来存在する術式同士の
(戦闘型ではないからこその戦い、ってところか…………下らないわね)
とどのつまり、それは他力本願も同じ。自らは運命を変える力がないと認めているようなものだ。
故にこそ、イリスは再びその場に生まれた決意を嘲笑う。
「――――その程度のコトで、わたしやユーリを止められるとでも?」
しかし、向けられた嘲笑に対し一切の揺らぎを見せない。代わりに、ただ真っ直ぐイリスを見つめていた。
それが、なんとも癪に障る。
先ほどまでのアミティエもそうだったが、なのはとユーノの見せるもの全部が神経に触って仕方がない。
信じて貫いて、先へ先へと進み続けるその心はとても美しく、醜い。
そんなもので救われれば苦労はない。
都合の良い理想だ。不要な感傷にすぎず、一欠片さえの価値すらない、と。
「まあ、幻想に縋るならそれでもいいけど――」
そう言おうとしたイリスの言葉を、
「幻想なんかじゃない!」
強く真っ直ぐな声が遮った。
「幻想だとか、理想だとか。そんな言葉で『今』を諦めちゃったら、絶対に後悔する――それにそんなの、目の前にある大切なものを諦めちゃう理由になんてならない!」
本当に、それは酷く真っ直ぐだ。
しかし、そんな事で救われる世界なら、誰も苦労しない。
「そう。――なら、見せて貰える? その言葉に足るだけの結果を」
そうであろうとするのなら、せいぜい足掻いて見せて貰おうか。
……尤もそれも、これから始まる惨状を目の当たりにしてもなお、
分からず屋の子供に、現実を今から見せてやる。
救いというモノの重みと、それを成す難しさ――そして、決して越えられぬ理不尽という名の、壁の高さを。
それでも抗えるのか。
問えば必然、応えは肯定で返ってくることだろう。しかし、口でならば何とでも言える。
仮に真実であれば、成すまでは終わらない。
無論、イリスも手抜きをするつもりなどない。
つまるところ、悦論は他方が倒れるまでは終わらない。なればこそ、譲れぬ以上はこういうのが正しいか。
魅せられるだけの我を張れなかったのなら、
「――――精々、踊り狂って
もう一度、場が
それを止めるのは、桜色と翡翠の光。二つの力が前に立ち、今宵また先陣を切って
「ユーリ、やりなさい。まずはそっちから、地獄に送ってやりなさい」
イリスはなのはに指を差し向けると、暗に殺せと命じた。
すると一拍置いて、ユーリはなのはに飛び掛かる。消えた事さえ認識できそうもなかった攻撃を、なのはは驚異的な空間把握に任せてどうにか防ぐ。瞬く間もなく二人は空を翔けていくが、それを追う者は一人もいない。
今、イリスの前に立ちふさがっている少年さえ――
「行かなくていいの? あなたの大事なお姫様が、わるーい悪魔に殺されちゃうかもしれないのに」
「まったく心配してないかって言われれば嘘になりますけど……。僕は今、あなたを止めなきゃなりませんから」
「……へぇ」
動揺の見られない口ぶりから、おそらくは本心なのだろう。
だが、そんな彼の言葉はイリスを見くびっているように聞こえた。
なるほど、『止める』と来たか。
戦闘に向いてもいない癖に、随分と生意気なことを宣う。――だが、その思い上がりを潰せると思えば、
「ふふっ、面白い冗談ねぇ」
実に愉しめそうな展開になって来た。
面白い。またある意味、全ての希望を削ぐのにはうってつけだと言える。
ちょうど今、周囲の魔導師たちがユーリの力から逃れていられるのは、目の前の少年の張った結界によるところが大きい。
つまり彼を倒してしまえば、またこの場には地獄が生まれる。今度こそすべての希望を削いだ、完全な絶望が――。
それを思うと、イリスは愉しくて仕方がない。
散々邪魔をしてくれたのだから、見合うだけの対価を払ってもらうのは当然。
だからこそ、イリスは目の前の少年――ユーノのことを嗤う。
「あなた一人でわたしと互角に戦えるわけないじゃない」
戦闘に向かない結界術師であるという事を引き合いに出して、肉体を取り戻した今の自分に勝てるはずなどないだろう、と。
だか、ユーノはそれでもまだ揺れなかった。
それどころか、
「確かに僕は弱いですから、互角に戦えるとは思ってません」
と、イリスの弁を認めさえした。
しかし、これだけならただの卑屈に過ぎない。戦う意志が今一つ見えず、懸ける理由が見えてこないも同然だ。
故に、イリスはこう訊いた。
「なら、どうしてわざわざここに来たわけ?」
分をわきまえた様な態度を取るなら、どうしてこんなところにまで出て来たのか。
その問いかけに、ユーノはこう応えた。
「――あなたを止めないと、
非常に明確かつ、単純な話だ。
事件を終わらせるには、目の前のイリスとユーリを止めなくては何も解決しない。
そして、ユーリを操っているイリスを止めなくては、根本的にユーリを解放することさえ不可能。
加えて、本当にユーリを救う気があるのなら――。
その思考に合わせて、ユーノはイリスの後方にいる少女たちへと目を向け、
「ユーリには、彼女たちの助けも必要でしょうから」
と、半ば確信でもしているかのように、そう言った。
その言葉を受けて、一瞬イリスの表情が消える。だが、直ぐに訝しげな表情をするや、ユーノに小さく訊ねた。
――――知っているの? と。
けれど、ユーノは首を横に振る。
それは全てを知っているわけではないという意志表示。その様子に、イリスはますます疑いを深めるも、ユーノはそれこそが答えであるかのようにこういった。
「全てを知っているわけではありません。
――ですから、僕はそれを知るためにここへ来ました。
過去を解き明かすことも。古の呪いを紐解くのも。そうした全部が、僕らの一族の本業ですから」
「…………なるほどね。だけど一つアドバイスしておくわ」
「?」
「女の子の
「…………勉強になりました。でも、それなら猶更――僕はあなたたちの過去を明かさないといけません」
「まだまだ子供ね……。まあ、それなら隠すことにも覚悟があるんだってことは教えてあげる。それに、女の子の秘密っていうのは、解き明かされそうになると、意固地になっちゃうものだしね」
悪戯っぽく告げた言葉を皮切りにして――
イリスはユーノを完全に敵と認識し、彼との
――――そうして過去と未来を賭けた、最後の戦いが幕を開ける。