~魔法少女リリカルなのはReflection if story~   作:形右

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第二十三章 ――〝追想Ⅱ〟――

 間奏 出会いと絆、見えた夢の路

 

 

 

 始まりは穏やかな時間だった。

 

 惑星エルトリアにかつてあった『惑星再生委員会』――その第七研究所である少女が生み出された。

 望まれた少女は、愛と共に自らの心を育てていく。

 

 ――しかし同時に、始まりの惨劇への時は、直ぐそこまで迫っていた。

 

 過ぎていく幸福な時間の中で、出会い絆を結ぶ二人の少女。

 本当なら、きっと寄り添え合えた筈の存在。……けれど同じくらい、二人の絆は決定的に決裂した。

 

 

 ***

 

 

 人工知能の開発――この研究に着手した第七研究所のメンバーは、幾つかの構想を練り上げていく。

 様々なアイディアがあった。

 最初は単純に電子情報領域内で活動できるだけのものを、と唱える研究者が多かったという。けれどそこに『ヴァリアントシステム』によって生成された外殻に人格を宿らせ、コントロールを行う事が出来るといったアイディアが追加され始めた。

 他にも、『フォーミュラ』を使う上での並列思考の強化から、その後の解析に至るまでの処理強化など――研究者たちは、空の箱に希望(ユメ)を詰め込むようにして構想を重ねていった。

 そしてまた、新たな考えが生まれる。

 ――後の世代に残す為の研究。

 それが『惑星委員会』の基本理念であり、先の時代にいる人々とも関わり合い、伝え続ける流れの形である。

 であればこそ、と所長はある部分を特に重視して人工知能を組上げた。

 

 所長であるヴィルムが尽力した部分とは、〝心〟

 

 心を持つ、人工知能。

 人と人とが関わり合い、先の世代へと紡いでいく――。それは本来在るべき流れの形であり、同時に彼らの理念そのものであった。

 もちろん、弊害はいくつも存在する。

 他人より長く生きて、悲しむこともあるだろう。

 何時か心を闇に染めてしまう事もあるかも知れない。

 だが、それでも彼は――否、ヴィルムと共に開発を進めていた研究者たちは願っていたのだ。

 これから生まれてくるだろう自分たちの〝子供〟が、いずれ来る再生の時。

 この星で暮らす人々と、生まれてくる子が共に笑い合える未来。いつか彼女が活動限界に際し、見送り見送られ、最後の手向けを受け取る日まで……幸福に過ごせるように、と。

 

 ――――そうして、イリスは生まれた。

 一人の子供として、自らの〝家族〟のところに。

 

 

 ***

 

 

 そうして、誕生(かいはつ)から数年。

 時は僅かに過ぎ、現在から三十五年ほど前のエルトリアにおいて、イリスは実に健やかな成長を遂げていた。

 

 始め、生まれたばかりのイリスは基本的な情報以外はまっさらな状態であった。ただそれ故に好奇心も強く、大人たちの手を煩わせてもいたという。

 本体である〝遺跡板〟からは基本的には離れられないのだが、『フォーミュラ』の術式を使い自分の複写体(シルエット)を創れることが発覚してからは、もう飛ぶ鳥を落とす勢いであちこちを飛び回っていたらしい。

 しかし、身体を得たことで多少のふれあいが可能になったものの、イリスのそれはまだ不安定な状態であった。幽霊よりはしっかりしているが、実際に肉に触れるような感覚をイリスはもちろん、研究者たちも感じられずにいた。

 が、やはり不満なのは本人である。

 単純な情報なら数値化できても、数値は所詮数値。経験と呼ぶにはほど遠かった。

 

 故に不満からか、次第にイリスは〝遺跡板〟の中に籠もりがちになり――外での不満を、更に外を見ることで解消しようとしていた。

 

 何かを埋めたかったのか、それとも単に拗ねていたのか。

 当の本人にはさっぱり理解できていなかった。だが、当然ながら研究所の面々は末娘の成長に苦笑しながらも、優しく見守る構えであった。……まあ、所長であるヴィルムは特にイリスに構って貰えないのを寂しがって、割と深めのダメージを受けていたらしいが。

 

 そんな不満からの逃避より数週間の後――。

 イリスの窓口(ゲート)に、どこかの記憶領域(ストレージ)からの通信経路(リンク)が形成される。

 

 ――――そこには、金色のふわふわとした髪の天使みたいな子がいた。

 

 訪れた場所は、暗い闇の中だった。

 何があるわけでもなく、ただ真っ黒な無機質な空間が広がっている。しかし、そんな中にぽつんと、小さな少女がいた。

 ふわふわした金髪を漂わせながら、漂うようにして宙に静止している。

 ……否、それも見た印象でしかない。そもそも此処に地面があるのかどうかさえ、正確なことは判らなかったのだから。

 だた、イリスに判ったのは、そこにいるということだけ。

 そして、

「――あなた、は……?」

 ふと声を掛けられて、イリスは言葉に詰まった。

「あ……、えっと」

 なんと応えるべきだろうか? 検索を掛けていたら、いつの間にか門が出来ていた――なんて、説明しても理解して貰えるかどうか。……いや、まあイリスが()()()()空間に居る時点で、目の前の少女も似たような存在なのだろうけれど。

 だからというわけでもないが、興味があったのは本当だ。

 気づけばイリスは、ニッコリと笑いかけながら、その子と話をしようとしていた。

「初めまして……で、良いのかしら? 正直自分でもここが何なのかよく分かってないんだけど、とりあえず自己紹介するわね。

 こんにちは、わたしはイリスよ。あなたの名前は?」

「名前……」

 そう訊ねてみると、相手の少女は目を少し伏せて短い逡巡を経て、自らの呼称を告げた。

「わたしは、やて……『闇の書』の、無限連環機構――『砕け得ぬ闇(アンブレイカブル・ダーク)』――システム、U-D」

 だが、

「う、うーん……。えっと、それってあなたの機構呼称(システムコード)……? わたしはどっちかと言えば、個体名称の方を訊きたかったんだけど……」

 それは少女の名前ではなく、冠された役割を示す呼称である。彼女の言う『砕けぬ闇』とは、イリスでいうところの、《I.R.I.S》の詳細コードみたいなものである。

 イリスの問うたのは、彼女の『名前』だ。しかし、少女は困ったような顔をしていた。

 まるで自分の名前という物に、久しく触れていなかったような面持ちだ。

「…………」

 そうして、しばらくの沈黙の後。

 彼女は、ゆっくりと自身の名を口にした。

 

「――ユーリ……。ユーリ・エーベルヴァイン……です」

 

 それが始まり。

 ある星に刻まれた傷へ繋がる、ある少女たちの出会いであった。

 

 

 ***

 

 

「ふぅん。じゃあユーリは『闇の書』のシステムだけど、今は別枠なのね」

「はい。本来、この魔導書が運用される魔力循環を司っています。ですがわたしは、あくまでも裏のシステムで……」

 初めのうちはぎくしゃくしていたけれど、自然と二人は打ち解け合った。似た境遇がそうさせた部分もあるが、何もなく、誰も来られない場所で二人きりともなれば、打ち解けられなければ立ち去るだけな気もするが。

 そうして話をしているうちに、いつしか二人は互いのことをたくさん教えあう。

 イリスの生まれたエルトリアの話や、ユーリと今は眠っているほかの制御機構(ユニット)の話。果ては、イリスが肉体を持てないことに対する不満に至るまで、二人の話は進んでいく。

 

「――じゃあイリスは、自分の身体を持っていないんですか?」

「まぁそうね……。〝フォーミュラ〟で具現化できるのは、あくまでも外部に映し出す残像みたいなものだし、……ん?」

 と、そこまで言って、イリスはユーリの発言に少し違和感を覚えた。

 先ほどの問いかけは、イリスと同じ情報の中にいられるのに、まるで肉体を持っていることを当たり前だとでもいうような発言である。

「持っていないのかって……じゃあ、ユーリはもってるの?」

 ゆえに、イリスが半信半疑でそう聞き返したのも当然といえるだろう。

 だってユーリは先ほど自分の名前を初めに出さず、認識名だけで応えようとした。しかも、『闇の書』とやらのシステムだと自分で言っていたばかりである。自分以上にプログラム寄りに思えた彼女が、肉体を持っているなどと考え浮かぶわけもない。

 だが、

「はい」

 ユーリは驚くほど簡単に、しかも淡々と答えていく。

「この魔導書には『守護騎士システム』というものがあるんです。

 ここに収められた騎士たちはプログラムではありますが、リンカーコアと呼ばれる〝魔法〟のための器官を有しています。なので、周囲の魔力から自分の身体を疑似的な生命として作り出すことができるんです。

 これはわたしの持っている結晶化能力の派生で、魔力素を物質化するもので――」

「ちょ、ちょっとまって!」

 あまりにも当たり前のように語られて唖然としていたが、ようやく我に返ったイリスはユーリを思わず遮ってしまう。

 ユーリもよくわかっていないようで、「?」と不思議そうな顔をしている。

 しかしそんなことも気にならないくらい、イリスにはユーリの存在そのものが特異であった。――否、特異だからこそ、それは。

「……ならユーリは、エネルギーを物質化できるのね……?」

「そうですね……。こちらの世界では魔力(エネルギー)は結晶体をとっているものも多いですが、守護騎士たちのように疑似生命としての身体を与える場合もあります。わたしの場合は、周囲にある物質や魔力素を取り込み結晶化することでこの魔導書の根底を成しています。

 ……今は眠っていますが、わたしと共にある〝(やみ)〟〝(ほのお)〟〝(けん)〟も本来は構成体(マテリアル)としての身体を作って活動する形をとるはずでした。とはいえ、この場合は構成体の元となるデータが必要なんですけどね」

 曰く、通常においてユーリが中心であるため身体は必要としていないのだという。

 構成体たちはあくまでも制御ユニット。この魔導書の初期構想の段階では、現在の『守護騎士』同様の形がとられるはずだったが、ユーリを含めた機構は魔導書の運用元に据えられた。何故そうされたのかまでは、あまりにも長く眠っていたため忘れてしまったそうだ。ただ、中心となるユーリだけは、最初に身体の情報が作られていたのだとか。

 ――しかし、そんなことはどうでもいい。

 とにかくイリスは宝箱を見つけた子供のような顔をしていた。

 

 〝ユーリの力を借りれば、身体が手に入るかもしれない。それどころか、所長(おとーさん)の願いだって叶えられる〟

 

 脳裏には夢が溢れ、胸には希望が灯る。

 ゆえに、これは必然だったと、この時のイリスは感じていた。

 なぜなら自分は外を探るために生まれてきたのだ。外の世界にある夢へと続く何かを探し、出会うために。

 ユーリとの出会いこそ、まさにそれだったのだ。

 それに、今のユーリは一人きり――自分と同じような生まれだけれど、ここには彼女の家族はいない。心当たりはあるようだが、今は表側のものがそれを置き換えている。

 なら、ユーリをこの魔導書から引きはがし、『エルトリア』で一緒に暮らせるようにできたなら……イリスだけが暗闇から抜け出し、ユーリを置き去りにすることもない。

 そもそも、初めて見つけた友達なのだ。

 このままの状況にしておくなんて、できるわけもなかった。

 ユーリはここを受け入れてはいたが、それでも心がないわけではない。

 イリスとの語らいの中でふと見せた笑顔は、とても綺麗だった。そんな風に笑えるのに、いつまでも忘れられたままにしておくなんて――在りえない。

 だから、イリスはユーリに言った。

 

 〝――――わたしと一緒にエルトリアに来ない?〟と。

 

 

 ***

 

 

 そうして時は流れ――二人の少女はただ、夢に向かって進んでいく。

 やがてすべてが整い、始まろうとしていた。……けれど、その願いは呪いにあっけなく砕かれる。

 

 〝夜天〟は〝紫天〟を隠し、〝闇〟に染まった。

 

 そう思われていた。

 だが、『闇』がずっと巣食っていたのは『紫天』の方だったのである。

 それに気づけなかったばかりに、二人は新たに紡いだ絆を失ってしまうことに。

 ……遠い星で、決して魔法と交わるはずのなかったものが交わったとき、鮮血の痕が刻まれた。

 

 それはある少女の終わりであり、始まり。

 願いが変わり、復讐への決意を決めたその日。

 

 滅びゆく星は、残されていた余命(じかん)さえも失うことになった。

 

 

 




 いよいよDetが明日公開ですね。
 ………………公開前に終わらせるって宣言守れなかったなぁ。

 そんな落ち込みモードながら、どうにか過去編だけは明日までに三本めを挙げられるように必死こいてやってます。

 ……加えてちょっとだけ愚痴を言わせてもらうと、課題の書き物がマジで面倒だったという。なんで寄りにもよって今週だったのかと、ちょっとだけ八つ当たり気味。まあ早追われなかった自分が悪いのですが(汗

 とにかくなるべく早めに映画の本編沿いも書けるように頑張りますので、今後もよろしくお願いしますね^^
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