~魔法少女リリカルなのはReflection if story~   作:形右

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 錯綜する事件の最中。

 一律に思えていた事柄が、段々とその内側に矛盾を孕み始める。それは、次第に軋みを上げる心の様に。
 傷だらけの魂が、いつか描いた夢を見る。

 けれど、同時に朧げだった記憶は確かな過去へと繋がり、新たな明日を拓いていく。
 果たして、それらが紡いでいくものとは何か。抱かれた、本当の目的とは何だったのか。

 真実への路は、もう既に開かれた。
 そうして、全ての事柄が順を追って明かされていく。

 ―――尤も、その真実がどんなものであるのか。それだけはまだ、誰にも解かってなどいなかったのだが……。




第二十一章 抱く願いが結ぶモノは

 過去へ続く記憶(みち)

 

 

 

 錯綜する事件の最中。

 

 一律に思えていた事柄が、段々とその内側に矛盾を孕み始める。それは、次第に軋みを上げる心の様に。傷だらけの魂が、いつか描いた夢を見る。

 

 けれど、同時に朧げだった記憶は確かな過去へと繋がり、新たな明日を拓いていく。

 

 果たして、それらが紡いでいくものとは何か。

 抱かれた、本当の目的とは何だったのか。

 

 真実への路は、もう既に開かれた。

 そうして、全ての事柄が順を追って明かされていく。

 

 ―――尤も、その真実がどんなものであるのか。それだけはまだ、誰にも解かってなどいなかったのだが……。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 一枚の紙片を前にして、ユーノは一人解析を続けていた。本来なら、今すぐに結界班に参加すべきではあった。仮にそれで隊列に支障が出るのだとしても、拠点を回りながら支援をする事だって出来る。そもそも、手が足りていないのだ。戦える者が戦わないなど、無駄だと言われても仕方が無い。

 だが、

(……それでも、これにはまだ……『何か』がある。ユーリがあそこまでして伝えようとした、『何か』が……)

 ユーノは未だに諦めきれずにいた。紙片の中に残されたモノは、他にもあるのではないか? と。

 ―――が、これ以上の復元は出来そうになかった。となると、残されたモノを探すならば解析と、記録を見返す意外にない。

 幸い解析については、ユーノも微かな痕跡(ひっかかり)を見つけることが出来た。これについてはシャーリーに引き継げば、何らかの〝鍵〟としての役割を見つけて貰えるだろう。あとユーノに出来るのは、見返した記録の中から新たな情報を引き出すことだけ。しかし、見返したところで大まかな情報以上の事を見つけるのは簡単ではない。

 施設の細かな設備や研究員たちの名前、服装や容姿、『死蝕』やエルトリアの水事情、『フォーミュラ』と『ヴァリアントシステム』の概要、果樹園の植物、ユーリの足下にいる猫三匹、委員会の予算が削減されていたこと。そして、施設にいた人間を襲った銃弾、家畜たちに残された弾痕、イリスの磔にされた様子、廃教会、返り血を浴びたユーリ……。

 正直なところ、見ていて気持ちの良いものではない。だが、必ずこの映像の中にヒントになるものがある。例えば、ユーリの姓にしてもそうだ。

 『エーベルヴァイン』―――自分自身を、『夜天の書』を見守る為に、生み出された存在だとしながらも、ユーリは確かにそう名乗っている。ここから探り出さ出せる事柄もあるだろう。

(とりあえず、これは書庫に居るリーゼさんたちに……。古代ベルカの書架を中心にして〝エーベルヴァイン〟と〝生命操作〟の魔法に関する資料を―――)

 と、そこまで考えて、ユーノはふと違和感を抱いた。今、自分は何の『魔法』について調べようとしていたのかを。

 思い至ったのは、ユーリとの闘いや、クロノがイリスに操られた彼女によって被害を受けた時のことだ。

(……結晶化……)

 そう、彼が思い至ったのは、ユーリの能力。ひいては、彼女の操る〝生命操作〟の魔法についてだった。

 そもそもユーノが『フォーミュラ』を入れようとしたのは、『魔法』の効かない相手に対抗するためだ。術式を解析し、魔力結合を分解されるのであれば、逆の効果を発生させる〝力場(フィールド)〟を生成することで対抗しようと。結果としてそれが、ユーリの結晶樹の被害から皆を守ることにも繋がったものの、驚異的な力であることに変わりはない。しかし、だからこそ違和感を覚えてしまう。

 ―――あれだけの力を持っていながら何故、わざわざ銃弾のようなものに頼ったのか。

 少なくともユーリの結晶化の効果範囲は、分かっているだけでも易々と小島一つ形成する程。ならば、あの研究所そのものを飲み込むことだって可能なはずだ。仮に逃走を許さなかったというのなら、なのはと拮抗したあの砲撃で研究施設を吹き飛ばすことも可能である。

 なのに、ユーリはそれをしなかった。

 イリスには〝結晶化〟を使用した様子があったことから、イリスに見つかって抗戦となった為にという考えもなくはないが、それはあまりにも不自然だ。あの時、イリスは所長の亡骸を抱き、ユーリに問うていた。

 ―――どうして? と。

 だとすれば、ユーリは研究員たちを一人一人殺しまわりながら最後に所長室へ出向き、イリスと所長を手にかけたということになる。仮に暴走や策略なら、先ほどの通り砲撃や結晶化で十分であり、こんな状況に至るはずもない。逆に、委員会の壊滅や乗っ取りを目論んでいたのなら、わざわざ壊して何もせずに『エルトリア』を去ってしまうなど道理に合わない。そのようなことをする輩であるのなら、自分の過去の罪を提示してまでディアーチェたちを此方へ託し、イリスを案じるようなことを口に出すのは奇妙(おかし)すぎる。まして、生殺与奪のすべてを握られていた、あの状況でなど。

 つまり、あの惨劇(じょうきょう)は故意ではなく、何らかの事故や偶然の類。だからこそ、伝えたい何かがあった。―――こう考えるのが自然だろう。

 

 では、伝えたかった真意とはなんなのか。

 あの惨劇に陥り、親友を磔にし、星を去らねばならない状況に陥った原因とはいったいなんなのか。

 

 まるで判らない。解らないが、脳裏を過ぎる疑念はいっそう大きさを増していくばかりだ。それこそ、見落としが無いかを探しながら、最初からすべてを見落としていたのではないかと思えそうなほどに。

 だとすると、可能性はこの他にも浮かび上がってくる。

(…………でも、それが()()だったなら……)

 半信半疑のまま、ユーノはある仮説を立ててみた。現状と照らし合わせながら、これまでの事柄をすべてあぶりだしながら、道筋を組み立てていく。……合っていて欲しくもない、酷く残酷な可能性を。

「……っ」

 ぎり、と音が聞こえるほどに強く噛み締めた歯が、更に擦れ欠けて行くような音を立てた。額から伝う汗の感触だけが、厭に強く感じる。気付けば心臓はドクドクと速度を増し、咽喉はカラカラに乾ききっていた。

 ……万が一にもこれが当たっているとすれば、大変なことになる。

 彼の思考が、ようやく心に追いついたその時。

「ユーノさん! 解析の引継ぎに来ましたッ!」

 という声と共に、シャーリーとアルフが入ってきた。

「ユーノ、こっちはあたしたちに任せて、現地の応援に! みんなが危ないんだ。量産型だけじゃなく、新しい『機動外殻』も出てきて……っ!」

「――――――」

 嫌な予感は、微かに当たり始めていた。

 だがこれは、予感であって真実ではない。

 ゆえに、ユーノはアルフとシャーリーに『あとは任せた』と言って、現場へと向かっていく。

 隠されていた真実への道を、今度こそ明かすために。

 思い当たる嫌な予感が、真実などではないと確かめるために―――彼もまた、再び夜の空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 貫く一閃 ――攻防戦、開始――

 

 

 

 地下。結界に覆われた区画(ろせん)を、ただひた走る車両があった。

 中に潜むは動き出した〝悪魔(てんし)〟の分身。彼女らは母体からの命を受け、派遣された部隊の一つ。

 目的は非常に単純(シンプル)、結界の外へと出ること。

 地の底を走る鉄蛇。その腹の内にて、彼女らは暴れ出す瞬間を黙して待っている。―――が、それらを真っ向より迎え撃つ人影が一つ。

 

「――――――」

 

 地の底に蔓延る闇へ向けて、射放たれた隼が焔の翼で以てそれを裂く。

 車両の中心を正確に射貫いた炎の一射が、内部の量産型を一掃した。自らへ向かい来る速度もろとも車両(はこ)破壊(ころ)し、彼女へ向かっていた車両は燃え上がる。

 が、この程度で終わるはずもない。

 その様を鋭く見つめながら、『夜天の書』の守護騎士が筆頭―――〝烈火の将〟の名を冠された女騎士、シグナムは弓となった愛剣を再び鞘と剣へ分離させる。

 報告に寄ると、イリスの力を〝写した〟量産型は自我を持たない戦闘兵。機械の体躯に、僅かに意志を付与した命無き傀儡である。……ちょうどそれは、嘗て戦乱の都で道具(モノ)として使われていた守護騎士(じぶん)たちと似ていた。

 だからだろうか。せめて苦しまぬよう、鉄の身体に掛けられた呪縛を剥がしたいと思ったのは。

 ―――しかし、その認識は呆気なく覆る。

 破壊された車両から剣士じみた出で立ちの個体が姿を現した。

 それだけでも、これまでと異なるのは見て取れるが、何よりも驚くべき事は。

 

「酷いことをする」

 

 目の前の個体が、口を開いたことだろう。

「―――喋れるのか?」

 シグナムがそう訝かしむように問い返すと、相手は「そういう個体も居る。わたしも、その内の一人だ」と簡素に返した。どうやら、ある程度の自我を持っているのは、ほぼ間違いない。

 となれば、

「……そうか。ならば、お互いに対話の卓に着くことも可能と言うことか?」

 これ以上、暴力による解決を進めずとも互いの主張を交わす事も可能だろう。

 管理局に所属している、と言う建前もあるが、シグナムとてただ敵を傷付けることを望むわけではない。散々バトルマニアとして名を馳せてはいるが、彼女の根底にあるのは誇りや矜持を掛けた上での戦いである。

 ただ暴れるだけでは、獣と何ら変わらない。

 尤も、それも建前と言ってしまえばそれまでだ。故にこそ、秩序と理想は切り離し折り合うべきだとも言える。

 そんな意志を込めた言葉であったのだが、

「無理だな。―――わたしは命令に従うだけだ」

 敵側の根底もまた同様に。自我と心の両立を成さず、母体からの命にこそ意味を掛ける様を生きている。

「ぐ……っ」

 飛びかかってきた固有型の振るった両手剣(アームズ)と、シグナムの愛剣『レヴァンティン』が、火花を散らし交錯する。

 オリジナルのイリスがそうであったように、量産型とはいえ純粋な腕力は通常の魔導師とは桁違いだ。

 が、シグナムとて簡単にやられるつもりなど無い。

 歴戦の騎士は、敵側の剛力と切り結びながらも、己の方へと誘い込む。

「交渉は決裂、か……。まあ良い。言葉による説得をするには、わたしでは力不足だ。此方()の方が、分かりやすくて良い。

 幾らでも相手になろう―――来い!」

「言われるまでも無い―――推して参るッ!」

 そして、二人の剣戟が、再び地の闇に火花(ひかり)を散らす。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ほの暗い地の底で、剣士たちの交戦が始まった頃。

 地上でも同様に、新たな侵攻(たたかい)が始まろうとしていた。次なる場所は、天へと聳える鉄の楼閣。

 日本で最も高い電波塔、スカイツリーの麓だった。

 

「―――あの電波塔を封鎖領域の拠点として利用しているのね」

 

 スカイツリーへと侵攻する、一機の『機動外殻』。その上に、水色の髪をした固有型(しょうじょ)が乗っている。手には遺跡板を持ち、電波塔周辺への〝力〟の伝播を確認している。この場所を管理局の側が超広域結界の拠点(かなめ)の一つとして選んだのは、関東全域という広範囲を覆い尽くす巨大なフィールドを形成する為。広域のエリア形成には高い場所の方が都合も良いのだろう。

 が、その分見つけやすい。同じように、効率を重視すると言うことは、とどのつまり要を壊せば破壊も容易ということの裏返しだ。

 そして少女の目的は、

「結界内から出るのが、母体(ママ)の命令……」

 オリジナルであるイリスからの命を果たす事にある。それ以上でもそれ以下でもない。単純な事柄。故に、躊躇う理由など存在しない。

 

「―――やって、〝エクスカベータ〟」

 

 破壊を実行せよ、と固有個体は『エクスカベータ』に攻撃の指示を出す。

 腕の電磁砲が紫電を迸らせ始める『エクスカベータ』。ちょうど《オールストン・シー》でレヴィの連れていた『トゥルケーゼ』と同じ機構だが、此方はイリスの用意した完全戦闘用の機体である。

 そんな『機動外殻』が、スカイツリーを狙う刹那。

「っ、……⁉」

 突如、侵攻すべき先の空間が歪曲した。

 次いで、空間の捩れから巨大な手が飛び出してくる。捩れを生み出した光と同じ、緑の燐光を放つそれは、魔力で編まれた鉄糸で造られたもの。そして、現れたその鉄糸掌(ワイヤーハンド)は、『エクスカベータ』の放とうとした光線(レーザー)を文字通りの意味で握り潰す。

 何が、と思考する間も与えないままに―――固有型の前に、一人の女性騎士が姿を見せた。

 

「―――やっと完成した東京の新名所。そう簡単に壊されてたまるもんですか!」

 

 ヴォルケンリッターの参謀役、湖の騎士シャマルだった。

 普段の彼女からは想像もつかない、厳しい表情を覗かせている。普段は優しいお医者さんであり、皆の支援に回ることの多い彼女だが、支援型であるということが戦えないということには繋がらない。

 それどころか、時にはこうして強引な戦法だってとって見せる。

「ちっ……!」

 母体(イリス)から渡されたデータとは違う戦法に、固有型は歯噛みする。しかし、そんな彼女の苛立ちに拍車をかけるように、ザフィーラの拳が『エクスカベータ』へと叩き付けられた。

 傾く『エクスカベータ』の上で、固有型はよりいっそう苛立ちを募らせた様子で体制を立て直しにかかる。目の前の敵を、排除するために。

「……こ、の……っ!」

 しかし、シャマルとザフィーラはその反撃を許さない。二人は次いで、再度拳を固め、それぞれ『エクスカベータ』へと向け叩き込む―――!

 

「はぁぁ―――ああああッ‼」

「でぇえええやああああッ‼」

 

 凄まじい拳圧に押され、『エクスカベータ』の機体がよろめいた。傾きそうになる機体を立て直しながら、

「ぐ―――っ、……邪魔ッ‼」

 と、揺さぶられた足場の上で、苦々しく固有型は吐き捨てる。ここから、この攻防戦はさらに激しさを増していく。

 

 

 

 ***

 

 

 

 二つの拳によって、ある外殻の巨体が傾いた頃。そこから少し離れた市街地区画でも、激しい戦闘が行われていた。

 ビルの群れを草木のように薙ぎ払い進む、『侵攻型機動外殻・ヘクトール』。以前シュテルの引き連れていたグラナートの意匠を象ったような外観は、まさしく甲羅を背負った蜘蛛。紫の燐光を伴ったその巨体で地面を進み、街を蹂躙していく。

 その進行を食い止めるべく、ヴィータがアイゼンを振るい機体を押し返そうとするが、如何せん数が多い。はやてやなのはといった広範囲に攻撃を放つ魔導師ではなく、ヴィータはシグナム同様に一対一の対人戦を得意とする騎士だ。しかも、彼女の『フルドライブ』は市街地で用いるには些か問題がある。ビルなどの遮蔽物が多い街中では、振るう鉄槌の威力が削がれてしまうのだ。

 そこで、彼女の援護に『パイルスマッシャー』を用いて、機動外殻を迎撃する局員たちも奮闘しているのだが―――そこへ、新たな影が。

「……っ⁉」

 固有型だ。これまでとは異なり、量産型を引き連れていない。彼女は純粋に、局員たちを足止めするための戦闘役だ。しかも、

「―――な」

 黄色の電磁砲撃が、局員たちを掠める。その固有型は、ここまで戦ってきた『イリス』のイメージとは真逆の、高威力の電磁砲を持っている。その威力たるや、『パイルスマッシャー』と互角かそれ以上。

 否、速射性においてはそれを上回ってさえいる。

「う、ぁああああっ!」

 局員たちの呻きが聞こえてくる中、固有型はただ淡々と仕事をこなしていく。敵側は本来近接が基本であり、遠距離が可能な『パイルスマッシャー』については、電磁砲で相殺・圧殺が可能。

 『機動外殻』を倒さねばならず、また同時に、生憎と此方には火力が不足している。一撃で葬ることが出来ない以上、司令塔である固有型を潰すのが得策であるのは分かっているが、敵側の有する高火力武装に押されてしまう。

 事実、局員たちが『パイルスマッシャー』で応戦するも、結果として火力に押し負けてしまうことに。

 その様子を見ていたヴィータは、援護に回らなくてはと一旦『ヘクトール』から離れ、局員たちの防御に回ろうとした。

 だが、そこへ―――

 

「―――ヴィータ、そのまま突っ込んで!」

 

 いきなりそんな声が飛んできた。だが、ヴィータは疑いは挟まず、

「応っ!」

 と、それに背を押されながら、局員たちの防御をすべきだ、という判断をすべて頭の中から放り捨て、アイゼンを『パンツァーベルファー』へと変形させる。そしてそのまま、ヴィータは固有型の放つ射砲撃をすべて振り切って、鍔迫り合いにまで持ち込んだ。

「ぐ……っ」

 ここへ至り、初めて固有型の表情が歪む。

 遠距離武装は確かに強い。だが、鉄槌の本懐は近距離戦闘。距離を空けて戦いが滞るのなら、その懐に飛び込んで突破口をこじ開けるまで―――!

 ハンマーヘッドを射出し、僅かに軌道の被った射撃を叩き伏せる。そうして、再びアイゼンを変形させ、加速の勢いのまま突っ込む。

 

「―――てええええええええええぇぇぇいッ‼‼」

 

 叩きつけられた鉄槌の威力に、固有型の電磁砲が破損。機構が僅かに生きていようが、おおよそ致命的な傷となった。

 そのことに気を取られ、わずかに動きが鈍る。

「ロック……ッ!」

 そこに畳みかけるようにして、束縛の鎖が固有型を拘束した。翡翠の鎖に囚われた固有型は鎖から抜け出そうと踠くものの、そう簡単に抜け出せるものではない。

 一端の終わりに息を吐きつつ、ヴィータは助っ人に礼を告げる。

「わり……助かった、ユーノ」

 そう礼を告げると、ユーノは「ううん、いいんだ」とヴィータに返しながら、まだ残っている機動外殻たちを見やる。

 固有型を止めたとはいえ、まだアレらを完全に止められたわけではない。

「まだ、やることは多いよ」

 と言われ、ヴィータも「わーってるよ」などと気怠げに返す。正直、ここまでうじゃうじゃ涌いてくると、いい加減鬱陶しくもなってくるというものだ。しかし、ユーノが来たなら作業は早く済むだろう。

 だが、敢えてヴィータは、ユーノに向けてこう言った。

「―――あとは任せろ、お前は他の助けに行ってやれ」

「え、でも……」

「いーんだよ。固有型は、シグナムたちからも基本一ヶ所に一体って報告は受けてんだ。それを片付ける手間が省けただけでも十分だっての。

 結界がやべーんだ。―――なら、おめーが行きゃアタシがいくよか役に立つだろ」

「ヴィータ……」

 僅かに戸惑うユーノだったが、ヴィータの弁は的を外してはいない。基本的に外殻はコアを潰さない限り、何度でも再起動をかけてくる。ユーノには直接的に破壊する力が無い分、拘束に回ることになるわけだが―――その作業をする間にも、危険にさらされている結界の要所はいくつもある。

 まして彼は結界術師だ。防衛こそが本懐であり、殲滅・制圧はフロントアタッカーの仕事である。

 その上、極めつけはこうだ。

「それとも、あたしじゃ背中を任せるには不満かよ?」

 少し拗ねたようにそう言われ、ユーノは思わず呆けたような顔になる。が、すぐに我に返り「……いや、そんなことない」と嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。行ってくるよ、ヴィータ」

「ああ。他の奴らのほうは任せたぞ、ユーノ」

 紅の騎士と、翡翠の賢者はそうして一度別れる。この戦いにおいて、何よりも果たすべきことのために。

 けれど、その戦いの中でも―――紡いできた絆は、未だ強く力をくれる。

 胸に残るあたたかさを、今更ながらに実感しながら、彼らはまた更に先へと進んでいく。

 

 

 

 変わってゆくために

 

 

 

 翡翠と紅の騎士がそれぞれの場へ向かう最中。

 商店街(アーケード)の一角、大通りのド真ん中で、キリエは量産型の『イリス』と対峙を果たしていた。

 固有型はおらず、そこには量産型のみが蔓延っている。だが、量産型といえども、言葉を完全に話せないと言うわけではない。―――とりわけ、それがこの対峙であるのならば、尚更に。

 

「なんだ。まだいたの?」

「何しに来たの?」

「一人じゃ何にも出来ないくせに」

 

 ぎこちない言葉ではある。しかし、紛れもなくそれはイリスからキリエに向けられた言葉でもある。

 一つ一つが、深く心に突き刺さる。

 痛みを感じるな、と言う方が無理だ。

 だってそれは、あの時キリエを突き放したのと同じもの。キリエが親友に、初めて拒絶された時と、同じ。―――だが。

「……そうだね」

 あの時と、今は違う。

 キリエは静かにそれらの言葉を受け止めながら、小さく目を伏せた。その動きを察知するや、量産型はキリエへ向け発砲。

 注ぐ銃弾の雨の中、キリエはじっと動かない。ただ、向けられた悪意を静かに受け止め続ける。

 やがて、雨が止む。

 キリエには一発たりとも被弾していない。

 この現実にどんな意味があるのだろう。また試されたのか、或いは臆病故に逃げると思われているのか。

 そんなもの、今は分からない。

 しかし、だからこそキリエは応える。真っ直ぐ目をそらさないままで、量産型の個体を通し―――その先に居るイリス本体を見据えながら。

 

「わたしはイリスに頼りっぱなしだった……。優しい人たちに甘えて、いろんな人に迷惑を掛けた。

 ―――だけど、」

 

 瞬間。桃色の光が、量産型たちの間を駆け抜ける。

 半秒遅れて、量産型のほぼ全てがバラバラに切り伏せられた。残った個体は、キリエの変わりように、ありもしない戸惑いのようなものを見せる。言葉に踊らされることなく、まったく揺らがないキリエの姿に。

 そうして、構えた『ストームエッジ』を残る量産型へ向けながら、己の決意を語る。

 

「……だけど、わたしは変わりたいっ! ううん―――変わらなきゃ、いけないんだ……ッ‼」

 

 剣を構えるその姿は、もう何も出来ない〝冴えない子(だれか)〟などではない。

 これから前へ進もうと先を目指す、決意と覚悟を持った少女―――キリエ・フローリアンに他ならない。

 短い問答は、そこで終わる。

 ……あとはただ、巻き起こる新たな旋風(かぜ)(はし)るのみ。

 

 物語はまた、一つずつ進んだ。

 途切れてしまった絆も、置き去りにしたままの過去も、新しい何かに出来るのなら、それはきっと―――鮮烈なまでの明日に変わっていくはずだから。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 ヴィータと別れた後。ユーノは次の場所へと飛びながら、クロノへ向けて通信を飛ばしていた。

「クロノ、今大丈夫?」

『構わない。君がこんな時に無駄な時間をとるやつだとは思ってないからな。何かあるんだろう?』

「……うん」

 クロノに促され、ユーノは一つ一つ順を追って己の見解を語る。主なものは二つ、紙片にあった違和感と、ここまでの戦いの流れについてだ。

「あの紙片の記録を見た限り、ユーリがただ委員会を壊滅させたにしては不自然なところが多い。それに、現状についても……そっちの方は、クロノの方が気づいていると思うけど」

『ああ……。彼方側(エルトリア)の機械運用技術は凄まじいものだが、いくら何でも生産ペースが速すぎる。仮にキリエの目を欺いていたのだとしても、単に結界の外に出るだけという目的にしては不自然だ。とりわけ、向こうがユーリを確保しているなら猶更に』

「そうなんだ。シグナムさんが地下鉄で交戦した量産型も、隠密にしては中途半端だし……かといって、囮にしては本体が全然動いていないのも気にかかる。―――何かが奇妙(ふしぜん)なんだ。この戦いは……」

『そこは分かっているが、ともかく今は手が足りない。本体の居所と、司令部(きょてん)は此方が叩く。君は残る結界の要に』

「大丈夫。もう向かっている」

『場所は?』

「《オールストン・シー》へ」

『了解した。それと、そこを手短に片づけたら、こちらに回ってくれ。座標を送る。君なら、転移魔法で向かえるだろう』

「スタジアム……?」

『そこの固有型は、地下鉄の固有型同様に直接戦闘を加えてくるタイプらしい。対抗できる魔導師が足りないんだ。フェイトにも向かうように要請を出してあるが、万が一のことも考え君に結界の強化を任せたい』

「分かった」

『頼む』

 長いようで短い言葉を交わしあって、二人は通信を切断する。

 お互いに進むべき場所はもう明確である。ならばもう、この事件を止めるためにすべきことをするだけだ。

 ユーノはそうして、銀色と桜色の光が煌めいた、海上の楽園へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 《オールストン・シー》にある遊園地区域(アトラクションエリア)でもまた、量産型を引き連れた固有型が遊興施設を破壊―――否、()()をして回っていた。

「ここは良い鉄がたくさんだねぇ~♪ ぜーんぶバラして有効利用するよ~」

 何処か軽い口調をした固有型が、部下である量産型へと指示を飛ばす。彼女たちの目的は結界の破壊ではなく、外殻や量産型の機械駆体(ボディ)を造る材料を集めることのようだ。

 先刻の戦いで守られた物を、少しずつ崩していこうとする。さながらそれは、ヒトが成そうとする夢を糧とする悪鬼の如く。

 次第に形を失っていく遊園地。守られたはずの夢が、再び喰らわれ行く最中―――そこへ、白色の光で造られた、剣の雨が降り注いだ。

「⁉」

 咄嗟に回避に移った固有型だが、そこへさらに畳みかけるように白色の光が量産型を薙ぎ払う。それをみて、本体から還元された敵側データを参照。自分の中にあるデータと参照した結果、彼女らの敵としてここへやってきたのは……。

 

「時空管理局です。抵抗を止めて投降して下さい。―――それから、イリスに連絡を!」

 

 八神はやてに他ならない。今回の事件のきっかけともなった、『夜天の書』の主にして、魔導師としての実力は、広域Sランク。遊園地という、限られたエリアでしか戦えない相手を制圧するには持って来いの人材である。

 だが、

「ハッ―――!」

 固有型ははやての言葉を鼻で笑い、むしろ待っていましたとばかりに、引き連れてきた機動外殻を目覚めさせる。

「アンタを倒せばみんなも喜ぶわねぇ~ッ!」

「っ……⁉」

 今度は、はやてが驚かされる番だった。集められていただけの鉄屑が、その瞬間一気に『機動外殻』へと姿を変える。しかし、ここまでに明らかになった情報からすれば、『機動外殻』は本体内部にある中枢機(コアパーツ)を核として生成されるハズだ。そして、トゥルケーゼ、グラナート、アメティスタと、すでに三体が破壊され、シャマルやザフィーラが戦闘を行っている場所では、イリスが連れていた『エクスカベータ』が確認されている。

 

「―――やっちゃえ、〝エクスカベータ〟‼」

 

 機動外殻をはやてへとけしかけようとするが、その背後から凄まじい桜色の光が放たれる。

 そこには、

「―――――」

「ちっ……アイツか……ッ‼」

 やはり、なのはだった。悔し気に舌打ちする固有型とは裏腹に、彼女は静かな佇まいを崩さない。

 先刻の戦いにおける、不完全な武装だった『フォーミュラカノン』から、更に派生を遂げた『レイジングハート・ストリーマ』をひっさげ……星の光を掲げた〝魔法使い〟がいま再び、夜空を眩い閃光で染めていく。

「―――カノン、撃ちます!」

 先程の射撃が霞むほどの閃光。そのたった一撃でなのはは、はやてに迫る『エクスカベータ』を葬った。

 さらに、そこへ―――

「ロック……ッ‼」

 崩された『機動外殻』たちを縛り付ける、翡翠の鎖が出現する。次いで、施設全体の床を覆いつくすような陣が広がり、量産型・固有型を問わず、場にいる敵を一斉に拘束しつくした。

 こんな真似が出来る人物は限られている。

 加えて先ほどの声から考えれば、浮かぶのはたった一人。

「ユーノくん……っ!」

 嬉しそうになのはがそう呼ぶと、ユーノとはやてがなのはの元へと歩み寄る。揃った三人は、ひとまず状況を脱したことを確認し合う。

「ユーノくん、応援ありがとうなぁ~」

「ううん。僕のほうこそ、本当はもっと早く来れたらよかったんだけど、紙片の解析に少しだけ手間取って……」

 そういいながらも、ユーノは気を引き締め直し、二人にこう告げる。

「ともかく、この範囲は捕縛しきったけど……まだ残ってる可能性はある。特に、『機動外殻』は復活する可能性も高いから、二人はそっちの破壊をお願い。それと、拘束した人たちの確保も」

 ユーノからの頼みに、二人は『分かった』と頷いて、拘束された群体と『機動外殻』を引き受ける意を示した。

 彼女らの返事に、ユーノも礼を返す。

「ありがとう。これで、ひとまずここの防衛は済んだから、僕はここの結界に補助を加えてから、クロノに頼まれた場所の支援に移る」

「了解や。けど、無茶しすぎたらあかんよ?」

「ありがとう、はやて。でも、みんな自分にできることをやってる。僕も、自分にできるだけのことはやりたいんだ」

「分かった……。ほんなら、気いつけてな?」

「わたしたちも、ここを片付けたら、すぐに応援に行くから!」

「うん……!」

 そう言って言葉を交わし、ユーノは結界中枢へ向かい、なのはたちは残る量産型と『機動外殻』の完全破壊を試みる。

 海上の遊園地での戦いはこうしてその凡そを収束させた。

 しかし、まだ戦いは残っている。舞台は、大地を揺るがす大槌と紫電迸る大型球場へと移されていく。

 

 

 

 ***

 

 

 

 市内にある、ドーム型の大型球場(スタジアム)

 そこは結界の『要』の一つ。つまるところ要所だが、攻め入ってきた固有型のパワーと、群体の圧倒的なまでの数に苦戦を強いられていた。

 

「ハアァァァッ‼」

 

 ズドン、と大槌が、本来の質量を無視した速度で振るわれる。大地を揺るがすその一撃は、まさしく弩級。ちょうどヴィータと似た戦法ではあるが、彼女のそれとは異なり、鉄槌そのものによる対人戦(タイマン)を張るタイプではない。武装の形状から見ても、それは明らかだ。

 柄が非常に長く、懐に飛び込まれてしまえば致命的。だというのに、一見して弱点に見える部分さえ、この固有型は簡単に覆してくる。

 量産型との連携も巧妙だ。狙撃に徹した部下たちが、彼女の死角へ飛び込もうとする局員たちを阻害する。が、隙が皆無というわけではない。ないが、僅かな隙を突き懐へ飛び込んでも、拳や蹴りの届く範囲であるなら容赦なく相手を吹き飛ばす。

 理外の剛力と、数の暴力。

 端的にいうならば、まさしくこの戦いは圧殺と評することが出来る。

 これらに対抗するには、同じだけのパワーか遠方から吹き飛ばせるだけの火力を持った魔導師が必要になる。けれど、この場に条件に合うだけの魔導師は……。

「ぐ、ぅぅ……ッ!」

 苦し気な声が漏れ出す。このままでは、結界防衛を果たすことが出来ない。現在展開されているのは、関東全域を覆い尽くすだけの巨大な物。一か所でも綻びが生まれてしまえば、たちどころにその効力は半減してしまう。すると結果として、事件の首魁であるイリスを逃がしてしまうことになる。

 それだけは、何としても避けなくてはならない。

 だが、

「……終わりだ」

「ぁ―――」

 そんな願いさえも無に還す様に、振るわれた鉄槌が容赦なく局員の頭上に降り下ろされようとしていた。

 迎撃は不可能。しかし、だからといって避ければ後方にある結界の術式に破損が生じてしまう。

 行くも地獄、引くも地獄。まさしく八方ふさがりの状況に追い詰められ、局員は己の死を覚悟した。

 けれど、そこへ―――

 

「―――フンッ!」

 

 窮地へと立たされた局員たちを守るように、蒼き雷が飛来する。

 振り下ろされた巨大なハンマーを受け止め、跳ね返し現れたのは、二つ括りにした水色の髪を揺らす少女―――レヴィだった。

 真珠色のツリ目で弾き飛ばした固有型を睨みつけながら、苦戦していた局員たちへ向けて呆れたような声を飛ばす。

「まったくもぉ、キミら弱っちいなぁー。助けてやるから感謝しろよぉ~……あでっ⁉」

 が、そんな、余裕綽々の登場も量産型の一斉射撃によって台無しに。降り注ぐ光弾の雨に耐え兼ねて、自身と局員たちを守る盾を張り、防御の姿勢を取らざるを得なくなった。

「ちょ……あぁーっ! ていうかちょっと多くないっ⁉」

 あんまりにも無粋な攻撃に文句を垂れるが、相手方からすれば、そんなもの知った事ではない。敵側からすれば、寧ろ余分な隙を覗かせたレヴィを嘲笑うかのように攻撃を仕掛けてくる。

「もぉ、なんなのさぁ―――!」

 再び文句を垂れるレヴィが、敵側の攻撃を全て吹き飛ばす高火力攻撃に出ようとするが、近場にいた局員が慌ててそれを止める。

「ここも、結界の要なんだ……! ここを落とされてしまったら……っ‼」

「むぅ……っ」

 制止を掛けられ、レヴィは苦し気な顔を見せる。しかし、ハッキリ言えば、レヴィにとって固有型など何ら脅威ではない。

 ただピンチを脱するだけならば、今すぐ愛斧である『バルニフィカス』を大剣状態に変形させ、高火力攻撃で全部吹き飛ばしてしまえばそれで済む。……けれど、それをしてしまったら、此処に助けに入った意味がない。

 レヴィがここに来たのは、自分の中でただ壊すだけだった戦い、どこかそれを遊びとさえ見ていた自分の考えに少し疑問を持ったからだ。

 レヴィは一度、ある戦いに置いて敗れた。

 その時に戦った少女は、自分には無い。……いや、本当は。

「くっ……ぅぅ!」

 思考が深く沈んでしまい、勢いに押されてしまう。おかげで益々降り注ぐ銃弾の威力が増し 雨のように注ぐ弾幕の中で自由に身動きが取れなくなる。

 そう。レヴィが何よりも苦戦しているのはこのためだ。

 ―――守る戦い。

 レヴィにとってそれは、経験の無いものである。だからこそ、ただ全てを壊すだけではない戦いに戸惑う。倒すだけでは駄目。そんな戦運びをしなければならない状況で、レヴィは戸惑い本来の力を発揮しきれずにいた。

 すると、そこへ―――今度は、金色の雷が飛来した。

「「!」」

 煌いた上空へ目を向けると、レヴィと固有型の瞳に降りて来た少女の姿が飛び込んできた。レヴィと同じ二つ結びにした髪と、少しだけツリ目気味の瞳。だが、その色はレヴィとは異なり金と紅。纏った戦闘装束は黒と白。まさしくそれは、雷光を体現したかのような色彩だった。

 狙撃を担当する量産型を一撃で蹴散らし、場に降り立ったのは、レヴィと同じ姿をした少女―――否、彼女こそがレヴィの姿の基となった少女。

 そう、フェイトだった。

「フェイト~! ……あ、いやいや、喜ぶトコじゃないし……ピンチとかじゃないし」

 ブツブツとレヴィがそんなことを呟いていると、そこへ歩み寄って来たフェイトが不思議そうな顔でこう問い掛けてくる。

「レヴィ、王様たちとユーリのところに行ったんじゃなかったの?」

 投げられた問いに対し、レヴィは少しだけ顔を赤くして目を伏せた。しかし、さして間を開けることなくこう答えた。

「……通りがかったらアイツらがピンチそうだったから、ちょっと寄り道したんだよ。王様とシュテるんにワガママ言って」

「え……?」

 不思議そうな顔をするフェイトの表情を見て、レヴィはますますどこか拗ねた様に顔を背けながら、ポツリポツリと理由を語っていく。

「誰かが死んじゃうのは良くないことなんでしょ? ……フェイトがそういった。知らない人でも、どこかの誰かの大切な人かもしれない。いつか、ボクの大切な人になるかもしれない……って。

 そう思ったから助けたんだ。―――何かいけない?」

 悪戯好きな子供が、初めて見知らぬ他人へ気遣いを見せる。そんな行動にどこか気恥ずかしさを覗かせながらも、レヴィはハッキリとフェイトにそういった。

 そうした彼女の心情の変化にフェイトはなんだか嬉しくなって、レヴィの身体を優しく抱きしめた。

「ううん、良いことだよ。それは本当に、すごく良いこと……!」

 褒められたような言葉に、何となく気恥ずかしさを感じる。覚えてもいないのに、どこか懐かしい抱擁のぬくもり。……そう、ずっと昔にも、こうして優しく諭されたことがあった気がする。

 

 〝……もぉ、レヴィ……駄目ですよ? 散らかしちゃ……〟

 

「っ……」

 フェイトから感じるぬくもりに、なんとなくレヴィはあの戦いの時、自分が持っていなかったものを今、とても近くに感じていた。

 ずっと昔に置き去りにしてしまった、大切な物。

 もしかしたら、本当の意味さえも忘れてしまっていた、何かを―――

 

「―――って、まだ敵が居るからっ!」

 が、まだこの場の戦いは終わってなどいなかった。

 しかし、

「……あ、そっか」

 と、ちょっと抜けた声で、フェイトは現状を思い出したようにして剣を構える。二人は、それぞれ長刀、薙刀の形を取った愛機を握る。

 抗戦再開か、と思われたその時。フェイトは、迫りつつある人物の反応を察知し、微笑みながらレヴィにこう言った。

「此処はもう大丈夫だよ。レヴィは、王様たちのところに」

「え、でも……」

 いきなりそう言われ、レヴィは戸惑ったような様子だ。先ほど自分が苦戦した場に、フェイトだけで対処しきれるのかと言った不安を覗かせる。

「平気だよ」

 だがそれを、フェイトはたった一言と、優しげな笑みで彼女の不安を払拭していく。

 言葉と共に、『バルディッシュ』を鋭く振り払うと、紫電が彼女の周りを迸る。自身の黄金に重ねられた色は、紫と空色の雷。

 決して一人じゃない。これまで紡いできた絆が、此処にあるのだから。

 言葉ではなく、フェイトは溢れんばかりの闘気でレヴィへとそれを伝え、場の空気を塗り替えた。

 

「―――わたし、強いんだからっ!」

 

 そう宣言する姿に、レヴィも微笑む。

 フェイトの言葉を信じ、レヴィは離脱していく。そうして反対に、入れ替わるようにしてそこへ翡翠の光が注いだ。

「―――ゴメン、遅くなった!」

「ううん、大丈夫だよユーノ。タイミングはバッチリ」

 そういって、フェイトはまた一つ重なった絆を背に戦いへと足を運ぶ。再開された嵐は、そうしてまた吹き荒れて、さらに激しさを増していった。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 高速道路上にある、環状線のトンネル構内にて。逃走する車両を追って、アミタが白い車体を爆走させていた。

 追うのは、イリスが量産型を輸送する大型トレーラー。

 走行中であろうと、その内から湧き出る量産型は、車両の上から容赦なく攻撃を仕掛けて来る。しかし、向けられる狙撃をアミタは見事な車体操作(ドライビングテクニック)で躱しながら、反撃の機会を探り当てるべく疾走(はし)り続けた。

 そして、それは訪れる

(―――ここッ!)

 敵側がトンネル内で取れる動きは、基本的にはそこまで大きくはない。アミタのバイクに対して、トレーラーは限られた範囲での行動をするにはあまりにも適性が無さすぎる。勿論、上に載っている量産型はまた別だ。右往左往しながらアスファルトに焼けた車輪(ゴム)(かおり)を残しながら迫るアミタへ攻撃を仕掛けるべく、向こうは荷台やその側面から攻撃を仕掛けなくてはならない。

 同時に、敵側の得物が『銃』である以上―――少なくとも遮蔽物が在っては狙えない。

 必然、アミタを撃つのならアミタにも量産型は見えている。そこを狙いすまし、迎撃を仕掛けた。

 被弾に怯んだ隙を突き、車体を放棄して身一つで跳躍。

 飛び掛かりざまに一体ずつ量産型を撃ち抜き、着地した車両の上で剣を振るう。そうして後続車両を破壊し、アミタは悠々とトンネル内から外へ出る。けれど、全滅させたわけでもないのに、なぜこうも彼女はゆっくりとしていられるのか?

 ―――簡単な話だ。

 アミタから逃げおおせたところで、群体のみでは結界外へ出ることは出来ない。

 ならば、向こうが取り得るのは抗戦のみ。

 無論、逃走を選ぶ可能性がないわけではないが―――これまでの戦いを鑑みれば分かるように、アミタを逃がすイリスではない。非常に単純(シンプル)であるからこそ、その予想は正しかった。

 彼女を待ち受けるために前方を走っていた車両郡と、登場していた量産型がトンネルを出たあたりで停止している。先ほどアミタが破壊したトレーラーから発せられた煙が晴れ、お互いの姿をはっきりと確認できた瞬間。量産型たちが、狙撃を仕掛けて来た。

 再び注ぐ銃弾の雨。

 量産型を止めるという目的で動く以上、アミタに逃走の選択肢はない。必ず迎撃を取ると、量産型も判断できたことだろう。それらの判断は概ね正しいが、決定的に違えている部分がある。

 そんなものでは彼女を止めうる力にまでは至らない。

 ただの作業。ただの命令。人格さえも付随されずに動く、信念無き機械如きに、この胸に燃える情熱(かくご)を止められる筈もないのだから―――!

 

「―――〝アクセラレイター〟‼」

 

 鋭く発声されたコマンドを認識した防護服が、システムを起動させる。

 その姿は、まさしく銃弾という雨の狭間を疾走する青き風。そのまま行けば、量産型如きに遅れを取るなど有り得ない。

 ……だが、ほんの僅かにアミタの動きが鈍い。

 防ぎ切れない銃弾を、倒した量産型の駆体(ボディ)を盾にして防ぐ。しかし、止まっている暇も無ければ、このまま戦い続けるだけの余裕もない。

 ―――そこで、アミタはまた一気に加速を掛ける。

 超加速に伴って、彼女の視界に映る世界は遅延したかのように動きを鈍らせる。時計の針を無理やり圧し留めているかのような加速の最中、アミタは星の軌跡を描くようにして、超速で空間に光弾の星座を配備する。

「フ――っ!」

 そうして、最後の一撃を撃ち放つ。すると、最後の一発を引き金として、描かれた星々は流星の如く量産型へと降り注いでいった。

 タッ、とアミタが地面に降り立つ背後で、注ぐ星が機械躯体(あくいのざんがい)を砕いていく音だけが響き渡る。

 この場における戦いは決した。―――アミタはまた、次の舞台を目指す。

 一つの幕を下ろそうと、決してそれは本来の幕引きではない。まだ、残された者は山のようにある。

 故郷に嘗て刻まれた惨劇(きず)の理由や、憎しみに染まった心の行く末も、まだ何も、解決しきれてなどいないのだから……。

 けれど、

「―――?」

 そこへ、どこからか通信が入った。何だろうと思って出てみると、そこからは……とても懐かしい声が聞こえて来た。

 

『アミタ……よかった、無事で』

「っ……⁉」

 

 ―――そうして、もう一つ道が開かれた。未だ明かされていない、真実への路が……今ここにまた、もう一つ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 戦いが激化する最中。

 一切の静寂に包まれた、東京タワー内の展望台。そこに、イリスはいた。

「……結界はまだ壊せないの?」

 苛ただしげにイリスは、通信拠点に配置した量産型たちにそう問うた。オリジナルの苛立ちを受けて、指令員たちは少し言葉に詰まりながらも、現状を端的に伝える。

『機動外殻を配備した市街エリアが、広域攻撃の影響を受けており……』

 そう言いながら、量産型はイリスに市街地へ送り込んだ外殻たちが、広域攻撃によって停止させられている映像を送る。そこには夏の世に真っ向から反逆するような、一面の銀世界。街一つを呑み込んだ吹雪の様子が映っていた。

 結界という、隔離空間ならではの戦法だと言える。砲撃や高火力とは異なり、被害を抑えながらも機械や躯体にとって天敵である冷気を味方に付けるとは……。全てを魔力的な極寒に包むとは、随分と大胆な手段を執ったものだ。

 イリスは感心と怒りが半分ずつの心境で、覆われた雪原を見つめた。するとそこへ、ハッキングが掛けられた。

 しかし、それは量産型の根幹を揺らがす様な阻害(テロ)の類ではなく―――それどころか、此方の様子はおろか、向こう側の映像さえ届いていない。ただ音声(こえ)だけが、此方へ伝わってくる。

『―――イリス、聞こえているか?』

 聞こえてきた声に、イリスは聞き覚えがあった。確か、《オールストン・シー》で身体を構築した時、倒した相手。自分とキリエを『逮捕する』などと宣った少年―――クロノ・ハラオウンだったか?

 ユーリの結晶化の波に飲み込まれる悲鳴の嵐。惨状の中にいた内の一人、その姿をイリスは微かに思い返していた。黒衣の防護服を纏う姿はどことなく、司法の組織には似つかわしくはない気もしたが、ここまでしても貫く姿勢であるのなら、強ち間違いでもないらしい。

 おまけに、

『こちらの制圧は順次進行している。それに君たちの事情も、多少なりとも把握している。出来る限りの配慮はする、大人しく投降してくれ』

 その少年は、挙句こんなことまで宣い始めた。……なるほど、さしずめ彼は局の意向を此方へ伝える交渉役と言ったところか。

 しかしそんなもの、イリスは全く必要としていない。

 故に、応えはこうだ。

「助けなんて要らない。自分の事は自分で出来る。それにあたしは〝テラフォーミングユニット〟―――理想の世界を創るために、邪魔なものを排除するのも役目の一つ。……そのことを証明するのも、わたしの目的の一つなんだから」

 そう言い残すと、通信が切れる。単純に通信兵(オペレーター)妨害阻害(ブロック)が発動したのか、それとも単純に向こうから通信を途切れさせたのか、それは分からない。

 

 ただ、この短い交信で以て、イリスとクロノはお互いに、何となくここで流れが変わり出すという予感を覚えた。

 

 片方は、半ば確信―――目的と矛盾、それらの出所について。……しかし片方は、粘つくような不快感。まるで自分という存在を侵されていく様な、そんな感覚。

 

 ―――けれど、まだだ。

 

 何を失ってもいい。否、元より失うものなど何もない。

 抱く不安を掻き消すように、思考(みるもの)を切り変える。

 これは己の物語。ならば、幕を引くも世界を変えるも己の為に。復讐はまだ、終わってなどいないのだから―――

 

 

 

 ***

 

 

 

 市街上空。ビルの群れを眼下に収めながら、ある場所を目指すシュテルとディアーチェの元へ、スタジアムの防衛より舞い戻ったレヴィが合流した。

「王様~! シュテるーんっ!」

「レヴィ」

「あちらは、もう良いのか?」

「うん。―――ユーリは?」

「もう、すぐそこです。先ほど、あの少年から座標を頂きました」

「ふん……。そのような代物(モノ)は不要だったのだがな、まあ唐突に移動された時の為だ。使ってやることにしたのよ」

「ふぅん……」

「さあ、無駄口は終いだ―――行くぞ」

「「はい/うんっ!」」

 大きな橋の下へ向かう三人は、これから始まることへの悲壮感など何もない。むしろ、希望さえ抱いている様な三人を画面越しに見ながら、イリスは小さく呟いた。

「あの三人を目覚めさせたのは、共鳴反応でアンタを探すためでもあったけど……もう一つ、別の目的もあった。

 決着の前の、ちょっとした嫌がらせ―――」

 そうして、イリスは感情を全て殺し切ったような顔で、冷たく言い放つ。

 

「―――大事な子たちと、仲良く殺し合いなさい」

 

 奪われた自分がする、当然の報復。

 ……自分から奪っておいて、ユーリだけが大切なものを残すなんて許さない。救い、残そうとしたものと殺し合い、消し去って二度と消えない傷を負ってしまえ―――と、イリスは始まる惨劇を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 取り戻した願いの意味 ~GET BACK~

 

 

 

 長い運河に掛かる大橋の下。

 そこでは遂に、ユーリとディアーチェ、シュテル、レヴィの三人が、本当の意味で邂逅を果たしていた。

 けれど、これから始まる戦いは、ただの諍いではない。これは、これから先の行方とこれまでの過去の因縁、その全てを明らかにする戦いだ。

 故に、

「わたしたちの過去と未来、そして、あなたの現在(いま)を取り戻すために」

 遠い過去に置き去りにしていた、願いと記憶。それらすべての決着を賭けた一戦が、いま此処に幕を開ける。

 そのために、今は。

「ちょっとだけ、我慢してね……」

 今は、共に在った同胞であろうとも、越えていかねばならない。

 掛けられた枷を外し、もう一度この先へと進んでいくために。

「―――行くぞ、ユーリ」

 三人は、目の前に浮かぶ〝天使(あくま)〟との戦いの火蓋を切り落とす。

 

敵性存在三基、排除します(Beseitigen Sie die feindlichen Anwesenheit 3-Phasen)

 

 三人の抗戦の意思に同調したように、ユーリは己の力を開放する。しかし、応じたのは冷たい声。まるでそれは、血の通わない機械。どれだけの大きな力を持っていようとも、これではただの操り人形に過ぎない。

 こんなものは、絶対に違う。そう三人の本能が叫んでいた。

 目の前の悪夢を晴らせ、と、急き立てる本能のままに―――三人は、己が魔法(ちから)の全てを開放する。

 ユーリの操る『魄翼』と『鎧装』は確かに驚異的だ。防御と攻撃、遠近を問わず、相手をひたすらに蹂躙する。しかし、そんな武装も無敵ではない。

「―――〝アロンダイト〟!」

 ディアーチェの声と共に、闇色の孔が開く。そこから放たれる闇色の光弾の雨。彼女の持つ、連射も可能な直射型の砲撃魔法。その威力は、先の戦いではやてを窮地に追い詰めたほどの折り紙付きだ。

 ディアーチェによって生み出された隙を突く様に、レヴィがユーリへと仕掛ける。

「せぇぇぇぇやあぁッ‼」

 威勢良く振り下ろされた『バルニフィカス』の刃が、防御に回された『鎧装』の一部を叩き壊す。そうして生まれた隙間に飛び込むようにして、シュテルがユーリの懐へと飛び込む。が、それを、もう片方の『鎧装』が迎え討ってきた。

「フ―――ッッ‼」

 だが、シュテルは自分へと叩き込まれた巨大な『鎧装(こぶし)』を左手の籠手で受け止め、そのまま弾き飛ばす。

 闇、雷、炎の三重奏。さしものユーリも、激しい攻撃の奔流の中に微かに揺らぎを覗かせる。

 が、

「く―――っ!」

 すぐさまに破損を再生。再構築した『鎧装』の腕で、ユーリはシュテルとレヴィを捕らえるべく動き出すが、それをディアーチェが許さない。魔導書(デバイス)項目(ページ)をバラ撒くようにしてユーリの周囲を取り囲み、一斉射撃で足止めを掛ける。そうしたディアーチェの攻撃によって、ユーリの防御が遂にがら空きとなった。

 その隙を突いて、レヴィが先陣を切る。

「雷光、招来っ!」

 掲げるようにして空を指すと、彼女の意思に応えるように蒼き雷が降り注ぐ。

「ぅ……うぅぅ……っ!」

 天より来たりし雷を、その身で以て受け止める。それは、電気への魔力変換資質を持つ、彼女ならではの戦法。単純な保有魔力だけではユーリの防御を突破できないが為に編み出した、()()()の方法である。

 その真意は、充電。自分の魔力できっかけを与え発生させた、膨大な自然エネルギーを自らに上乗せして、自分の攻撃魔法を強化する。

 理屈の上では、非常にシンプルなプロセスだ。……が、それは諸刃の剣。僅かにでも気を抜けば、一瞬で痛みに意識を刈り取られる。

 しかし、

「ぅ、がぁぁ―――ッ!」

 想像を絶する痛みに苛まれながらも、レヴィは構わず自分の中に取り込んだ雷を、そのまま己の魔法へと上乗せして打ち放つ。

「ぐっ、ぅぅぅ……うぅ、あああああッッッ! (らぁ)(じん)っ、(つい)―――ッ‼」

 次の瞬間。

 夜の闇を切り裂く雷光の奔流が、冠された技の名通りに、槌の様に振り下ろされる。微塵の言い訳も通さないそれは、正しく力の集中砲火。

 レヴィの決死の覚悟を伴った一撃は、今度こそ間違いなくユーリへと届いた。

「う、ぁ―――あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼‼‼」

 その証拠に、ユーリの悲鳴にも似た呻きが場に轟く。……けれど、それで止めるわけにはいかない。

「いま、ユーリを操作しているのは、〝フォーミュラ・システム〟による〝行動矯正プログラム(ウィルスコード)〟……」

 レヴィに続いて、シュテルとディアーチェも更なる追撃を掛ける。

 シュテルの放つ『ディザスターヒート』と、ディアーチェの『インフェルノ』の魔力が、レヴィの『雷神槌』を後押しして、更に魔力攻撃による、〝処理負荷〟を与えて行く。

「連続攻撃で負荷を与え続ければ、ユーリを縛る呪縛(いと)は焼き切れる―――ッ!」

 そう。ディアーチェの言う通り、ユーリを助けるためには、今はユーリを傷つけなくてはならない。

 ある種の矛盾だ。だが、しかし―――

「……ゴメン。ごめんね、ユーリ……痛いよね……! ―――でもっ」

 血を吐くような()()に苛まれながらも、レヴィは自分の攻撃を受けて傷ついていくユーリから目を逸らさず、必死に覚悟を口にする。

「泣かないで……ユーリが泣いていると、僕らも悲しいんだ……っ」

 そう……。身に受ける痛みなど、何の意味もない。

 ただの衝撃如きに、この胸を締め付けるような痛みは掻き消せない。

 目の前に、苦しんでいるユーリがいる。それだけが、三人の心に傷だらけの硝子の様な(あと)を刻んでいく。……だからこそ、救いたいと願うからこそ。

 そのために今は、ユーリを打ち倒す―――!

 

「ぁ、う―――ぁぁぁぁぁあああああああああああッッッ‼‼‼」

 

 が、決死の覚悟で放たれたレヴィの『雷神槌』―――『絶・天覇雷神墜』を、ユーリは無理矢理押し退けて砲撃の外へ出ようとする。

 元々、生命に干渉するという特異資質を持っていたユーリ。そんな彼女がイリスと出会い、様々なエネルギーへと干渉する術を学んでいたのは、過去の記録でも明らかだ。……であれば、彼女の結晶化は魔力にさえ作用させることが出来ても不思議ではない。

 操り手の緋色を載せた黒い力が枝を伸ばし、周囲を侵食し始める。

「ちっ……!」

 それをディアーチェが魔導書(デバイス)(ページ)を展開させ、シュテルやレヴィを結晶化から守る。ディアーチェの守りを受けた二人は、そのまま押し出ようとする結晶樹を魔力砲によって押さえつけるが―――

「―――っ、ぅぅ……」

 押し合いは、ユーリの側に微かに軍配が上がった。三人の決死の攻撃は、ユーリへ決定打を与えることは出来なかった。けれどそれは、単に三人の敗北という事にはならない。

 確かに、倒しきることは出来なかった。が、倒せなかっただけで、得られたものはある。

「シュテル……レヴィ……ディアーチェ……っ」

「「「ッ……⁉」」」

 微かにではあるが、ユーリの意識が此方へと引き寄せられている。このまま続ければ、彼女を縛る呪縛を取り払える。

 と、そう三人は思った。けれど、ユーリは……。

「……イリスは、わたしがきっと止めます……ですから―――ッ」

 苦しみ、動けもしない身体で、かつての友に命さえも握られながら、それでもユーリは三人の身を案じ続けている。

「その為に……わたしたちに退けと……⁉」

「駄目……駄目だよ、ユーリ!」

 その言葉に、三人はあの時、イリスに連れ去られたユーリの姿を思い返す。

 目の前で弄ばれる命。

 強大な力の前に、届かぬ手の虚しさ。

 同じように、それを守ることも出来ない己の無力さ。そんなものを、また自分たちに味わえというのか。

「っ、馬鹿者が……! それが、動けもせずに泣いている()()の言う事か⁉」

 ディアーチェは憤慨するように、ユーリへと向けそう怒鳴り返す。

 ……だが、それでもユーリは、

 

「あなたたちまで―――失いたくないんです……ッ‼‼‼」

 

 三人がユーリを救わねばならないという衝動に突き動かされる以上に。……否、それさえも凌駕するような『何か』を抱きながら、涙だらけの表情で叫ぶ。

 しかし、途切れかけた『糸』は再び彼女を縛り付け、望まぬ力を振るわせ始める。

 『魄翼』が細い花弁の様に形を変え、微かに紫天(あかつき)の色を伴った弩級の砲撃を撃ち放つ。

 殆ど溜めもなく放たれたものであるというのに、その威力は理外の一言。

 が、それでも三人は退かない。……壊すだけだった自分たちが、どうしてこうも彼女へ固執するのか、そんなものは未だに判らない。

 ただ、

「待っていてください……。必ず、助けますからッ!」

 自分たちの中に溢れ出す衝動は、決して間違いなどではない。それだけ信じられれば十分だとばかりに、シュテルはそう叫んだ。その声に応えるように、レヴィとディアーチェもいっそう気合を込め直して空を舞う。

 三色の光が闇を駆け、金色の〝天使〟を止めようと足掻き続ける。

 いっそう激しさを増した火花と紫電、そして闇が、味気の無い空へ散りながら彩りを与える。そうして散り行くもの全てが、ユーリを閉じ込めた呪縛の繭を少しずつ焦がし、解いていく。

 だというのに、操られたままの力であるというに、ユーリのポテンシャルは依然として凄まじい以外の形容を許さない。

 無尽蔵に湧いてくるような魔力を豪快にバラ撒いて放つ砲撃もさることながら、近接に置いても圧倒的なまでの防御力と攻撃力で、強引に懐へ飛び込んで来ようとするほどだ。

「く―――っ」

 たまらずディアーチェも全力で防御を試みるが、舞う魔導書の紙片の嵐さえユーリを止めきる事は出来ない。ただ不格好に拳を突き出したままの、技術も戦法も無い強引な突進さえ、ユーリに掛かれば必殺にさえ昇華されてしまう。

 何せ、元から触れれば負けが確定している相手だ。

 多少なり緩和策があるとは言っても、気を抜けば敗北は必至。

 故に、ディアーチェはどうにかユーリを押し返そうと、或いはせめて、離脱のきっかけを手に入れようとした。

 しかし、その時―――

「―――あの、惨劇の中で……」

 ユーリが初めて、過去の惨劇について口を開いた。知る者から語られる、嘗ての出来事に、思わず耳を傾けてしまう。

「わたしが……残せたのは、イリスの心と……あなたたち、だけだった……ッ!」

 ぐしゃぐしゃになった顔で、強張った喉を無理やりに動かしてユーリがそう叫ぶ。血反吐でも吐くようにして、ユーリは己の中に溜め込み続けた痛みを吐露してく。

「いつか、故郷に帰るため……誓った夢をかなえるため……っ! あなたたちまで、居なくなってしまったら―――わたしは……ッ‼」

「…………」

 時が凍り付いたかのような錯覚にディアーチェは陥っていた。

 脱すべき窮地であると、触れてはならぬと判っていて尚、ディアーチェはユーリの突き出した拳にそっと手を重ねる。

 ……小さい。本当に、小さな手だった。

 だが、それは決して冷たい機械や傀儡などではない、血の通った手だ。こんな手を持つ少女が、望まぬ戦いを強いられ、多くの傷を生まされてきたのか。……そんな、言葉にできない憤りの中。この時になって初めて、ディアーチェはまっすぐにユーリの姿を目視する。

 振れた手の感触と、ユーリの姿。それらを目視した三人は、やっと思い出す。

「「「――――――ぁ」」」

 何かが、伝播するように三人の繋がりを揺さぶった。

 確かな記憶として、三人の中に何かが浮かんでくる。

 苦しんでいる少女。そして、目の前にある小さな手。……けれど、とても温かく大きな慈しみを持った、手。

 この手にかつて、自分たちは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───()()()()と、何か、大きな影が自分を見下ろしていた。覚えのない、知らない何かが、知らない言葉(オト)で何かを言っている。

 

「元気になってよかったね~。それにしても、改めて魔法ってすごいねっ!」

「頑張りました……っ!」

 

 そう――。色は、薄紅色と金色。

 ユーリと、イリスだ。……けれど、そんな事よりも。

 

 〝……さ、むい……〟

 

 ()()()()()()()よりも、何よりも寒かった。

 身体が動かない。何かが、段々と消えていく。戻って来た何かが、また流れ出して行こうとしている様な、そんな感覚。

 それを察知した様に、二人は自分たちに()()()()()()()()()()

 優しい声音で、『大丈夫』だと声を掛けながら。

 

 ───場面(きおく)が切り変わる。

 

 先程のポニーテールとは異なる、三つ編みにしてメガネをかけたユーリの背中が見える。ユーリが()()()()()の上にうつ伏せになって、遺跡板で資料を読んでいた。

 自分は、ぼんやりとそれを眺めているだけ。―――当然だ。分からない文字を読めるわけもなく、これはただ……。

 

「??? あ……ふふっ、一緒に読みますか?」

 

 微笑みながら、ユーリは此方を振り向いた。

 こちらの意図を汲んだように、柔らかな声で自分たちを手招いている。

 

 ───また、記憶(ばめん)が変わる。

 

 見えてきたのは、少し……いや、かなり荒らされたイリスの部屋。そこら中に本や、家具に乗っていた装飾品が散らばっており、カーテンやベッドの上の毛布が()()()()()に。

 

「うぅ……こらチビ助! アンタらあたしの部屋に恨みでもあんのぉ~っ⁉」

「え、と……その、みんなまだ、遊びたい盛りなので……」

「うぅ―――『がだっ』―――あ、またぁ⁉」

 

 自分たちが、イリスの部屋を大分散らかしてしまったらしい。でもそれは、楽しかったというのもあるが……二人が、自分たちのことを受け入れてくれているかの、確認だったのかもしれない。

 とどのつまり、確かめたかったのだ。自分たちが、こうして生きていることを認めてくれているのかどうかを。

 

 ───そうして、また。

 

「こいつら何っ時もくっついてるねぇー」

「真ん中の子が、三人の〝王様〟ですね。何時も他の二人の面倒を見てあげて……」

「王様ねぇ……。ま、こーして寝てると可愛いんだケドなぁ~」

 

 まどろみに落ちかけたところで、上から二人の声が聞こえてくる。

 自分たちを柔らかな視線で見つめながら、二人は、こんなことを語っていた。

 

 また、そして―――

 

「……〝夜天の書〟は、憎しみと死の連鎖に覆われた子です。

 だけど、わたしと夜天の魔導は、星や生命(いのち)を救う力にもなるんだ、って……そう思い出させてくれたのはイリスと、あの子たちです。

 どうしようもない現実も、諦めなければいつか変えられるかもしれない。一人で出来ないことも、皆でなら出来る。わたしはイリスからそんなことを教わったんですよ?」

「や、やめてよ、恥ずかしいからぁ~……」

「ふふっ……。あの子たちの元気な姿が、それを証明してくれてます」

「あ、そうだ。名前、付けたんだよね……。何だっけ?」

 

 倉庫の傍にある家畜たちの囲の近く。柵の上に座ったユーリと、傍らに立つイリスが『夜天の書』について話している。

 エルトリアで、ユーリが改めて思い出したことを。静かに、自分たちの方を優しく見つめながら。

 

「〝星光(シュテル)〟と〝雷光(レヴィ)〟、それから〝闇王(ディアーチェ)〟ですよ~」

 

 その眼差しと同じくらい穏やかな声音で、名を呼んだ。

 呼ばれた先には、三匹の猫がいた。……それが、本当の自分たちの姿。

 だが、猫だから何が違うというわけではない。

 柔らかな笑みで、自分たちの名前を呼ぶ。本当に嬉しそうに、自分たちが生きていることを心から祝福してくれている笑顔で……。

 それだけで、自分たちは本当に救われていた。だというのに、ユーリはそれ以上の幸せな日々を沢山、本当に沢山くれた。

 

 

 

 

 

 

 そして、そして、そして―――!

 

 

 

 

 

 まだ、まだ思い出は続いていく。数えきれないほどの日々が、自分たちを温かく包み込んでくれている。

 そう。この名も命も、ユーリがくれたものだ。

 ───否、それは正しくない。本当は、それだけではない。

 

(そうだ……命をくれて、育ててくれた)

(飢えとも渇きとも無縁の、温かな暮らしをくれた……)

(それに報いるために、強くなりたい……。だから欲しかったのだ―――)

 

 多くのモノをくれたユーリの力になりたい。居場所を認めてくれた、イリスやエルトリアの為に力になりたかった。

 緑の絨毯を草原だと思い、簡素な登り台(キャットタワー)さえ巨木のように見える矮小な体躯(カラダ)でなく。子猫の弱々しい手足や、言葉を離せない口ではなく。

 また同じように、遊び道具にしかならない尻尾でもない。

 彼女らが本当に求めていたものは、壊すためのものなどではなく。それは、ホントは守るための力で。

(優しいこの子を守れるような……)

 矮小な獣。星に見捨てられた、荒廃(ほろび)の中に消えていくだけだった自分たちに贈られた……。

 与えられた優しさと、送られた慈愛に報いる為のモノ。

(この子の願いを叶えられるような……沢山の力をッ!)

 それはとてもとても大きく、強いものでなくてはならない。だって、ユーリは自分たちを、自分たちの抗えなかった自然の厄から救い出してくれたのだ。

 ならば、自分たちだって同じだけのことが出来なければ意味がない。

 どんな苦しみからでも、ユーリを守れるようなものでなくては、それは何の意味もなさいのだから。

()()()()()()()()()()()()()()()を……ッ‼)

 そうして、小さな小さな子猫の抱いた優しくも尊き願いは、此処へ来てやっとその実を結んだ。

 『魔法』という、今ユーリを苦しめる呪縛から解き放つための力として!

 

 時が、再び動き出す。

 もうそこに迷いなど無くなっていた。

 あるのは、ただ……小さな願い。始まりの願い、本当に欲しかったモノの意味を抱いた、胸の昂揚だけだった。

 

 ───最早、言葉など不要(いらない)

 

 逃げろ、などと言われても迷わない。逃げてさえやらない。

 いっさいの躊躇いもなく、この命を賭けられる。ユーリを助ける為ならば、どんな傷も痛みも恐くなどないのだから―――!

 

「ッ……、―――――⁉」

 

 勢いよく空を翔け、シュテルとレヴィは拘束魔法によって、今度こそユーリの動きを封じることに成功する。(ひとえ)に救いたいという願いの為に、限界を超えてでも、打ち込んだ鎖を離さない。

 何故なら、この手の先にいるのは……。

「ディアーチェ! 助けますよ、わたしたちの主人を‼」

「ボクらの、大切な子を……ッ‼」

 二度と手放したくない、なによりも大事な人なのだから。

「応ッ―――お前を苦しめる呪縛(かせ)を、今ここで焼き払うッ‼」

 ここで助ける。それ以外の結果など、要らない。

 三つの魂に冠された、その力の全てがここに集まっている。それらで以て、この苦しみを終わらせる。

 それこそが、助けられた三つの魂が抱いた本来の願い。

 恩に報い、護る者になりたいという一つの〝矜持〟だった。

「――――――!」

 ユーリは、腕に巻かれたシュテルとレヴィの拘束魔法を外そうと足掻きながら、乖離した意識はディアーチェの方をただじっと見ていた。

 何かの魔法が、発動する。

 彼女の足元に、三角を模した闇色の魔法陣が浮かび上がり―――次いで手前に、今度は円形の魔法陣が五つ。真ん中の大きな()に乗るようにして、四つの小さな円が重なり合う。

 ユーリの知るところではないが、その形状は、ディアーチェの基となったはやての持つ最大の広域魔法『ラグナロク』のものと、ちょうど魔法陣の配列が正反対。―――そう。これこそが、彼女がオリジナルの『魔法(モノ)』を、己が『魔法(モノ)』として編み変えた最大の攻撃。

 冠された、その名は―――

 

 

 

「―――〝ジャガーノート〟ォォォっっっ‼‼‼」

 

 

 

 瞬間。

 ディアーチェの魔法陣から、四つの巨大な魔力弾が飛び出してユーリの周囲を取り囲む。そうしてそのまま、魔力は圧縮されていた爆発力(いりょく)を開放するようにして膨れ上がり、ユーリの華奢な身体を呑み込んだ。

 

 

 

「ぁ、―――ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ‼‼‼」

 

 

 

 激しい魔力が自分を呑み込んでいく。

 次第に意識が薄れて行き、やがて暗転した。

 

 けれど、その感覚の中でも不思議とユーリに恐怖はなかった。

 魔力によって焼かれているようなものであるのに、ユーリに訪れたのは、不思議と穏やかな静寂。ただ、静かに時間だけが流れ続けていたようにさえ感じる。

 

 そんな、一時の幕引きの中。確かだったことは、一つ。

 かつて死にかけていた生命が、こんな自分を助けるために戦ってくれた。新たな力を手に入れて、どこへでも飛べる翼を得ても尚、自分の為に。

 それが酷く嬉しくて、ユーリはただ静かに、暖かな闇に抱かれていた。

 

 

 

 ───そして、暗闇の中にいた彼女を呼び戻す様に、暖かな滴が零れ落ちて来た。

 

 

 

 目を開け、再び光の世界へと戻ってきたのだと認識する。様々な不条理が蔓延る、この現実(セカイ)へ。

 でも、そうしたものが有っても、ここは同時に。

「ユーリ……ゆーりぃ……っ! よかった……ホントに、よかったよぉ……っ」

「…………レヴィ……」

 同じだけ、彼女を祝福してくれた場所でもある。

 目を覚ましたユーリを、レヴィが(やさし)く、(やさし)く抱きしめる。助けられたことを確認し、離れ離れになっていた主人を、確かにこの手に取り戻したことを喜んで。

 魔力負荷によって、まだぐったりと動かない身体の代わりに、目だけをそっとレヴィの背後へ向ける。

 そこには、もう二人。

 自分がかつて助け、最後の最後まで守り通すことの出来た命の姿が。

「戻られて良かった……。やりましたね、ディアーチェ」

「ああ……」

 こんな自分を。あの悲劇を止めることも出来ず、この事件のきっかけになってしまった自分を、三人は暖かく迎えてくれた。

 それが、あの刹那の微睡詩(まぼろし)でなかったと知り、ユーリの瞳からは自然と涙が零れだす。

 

「みんな……ごめん、なさい…………でも、ありがとぉ……っ」

 

 謝罪交じりの感謝に、三人は少し困ったような顔をする。

 自分たちは、ユーリを助けたいからこそ助けたのだ。

 だから、ユーリには笑っていて欲しい。……けれど、それを無理強いするのは違う。なにより、ここまで色々なことがあった。

 嬉し涙は、悪いものではない。零した涙は、また更に先の笑顔に変えて行ければ良い。

 故に今は素直に喜ぼう。この再会と、ようやく帰って来た自分たちの宝物が、無事である事を―――

 

 

 

 

 

 

 ───が、次の瞬間。

 彼女らの再会を、一発の銃弾が(まっか)(けが)した。

 

 




 まずは一言。
 どうも遅くなって申し訳ありません……! そして、読んでいただきありがとうございます!!

 なんかもう、毎度のように言っている気もしますが、実際のところ本当にお待たせして申し訳ない限り……。
 調子乗って、週三更新とかしてこれかよって思っている方がいたらホントすみません。

 ですが、滞った分は少しでも良いものにできている、筈です……きっと!(心配)
 とかもう既にネガティブ入ってるわけなんですが、ともかく最後のところは中盤に置いて一番書きたかったところなので、力を入れて書いたつもりです。とはいっても、戦いの勢いと心情を一気に書き切りたかったという個人的なワガママによって、今日(日付跨いでるので昨日今日が正確ですが)一気に書き上げた形になっておりますが。
 ……なので、もし誤字とかありましたらお教えいただけたらと思います。……まあ、元から誤字多く毎度の様にお助け頂いている身なので、なるべく自分で読み直して気づき次第に修正入れていこうと思っております。

 盛大に言い訳かましておいてなんですが、此処で少し本編の方に触れていきます。
 自分はぶっちゃけ発想力に乏しい駄作者なので、流れそのものは映画本編ほぼそのまんまになっております。ほとんどやってることはノベライズと変わらないというアホなんですが、まあそんな中でも少しは変更を取っている部分はあります。
 例えば冒頭のユーノくんについては、後半の説明や伏線を前半に持ってくるために出した形になります。この作品の中では、イリスにしょっぱなからハラグラリとやられているので、映画本編の様に最初から結界班の人員に参加はしていないので、指揮船にいたことから紙片から読み取れた事柄に少しは疑念を持つだろうとことと(+様々な方からの有難いアドバイスにより)こういった形にしてみました。
 あと、前も言った気がしますが、本編中でユーノくんを自由に動かしたかったというのも大きいです。

 と言った部分もあり、だいぶ今回好き勝手に動かしちゃいましたね……。当初のコンセプトからすれば、あくまでも原作の設定からあまり外れない、不自然でない程度の範囲で……としてたんですが、転移魔法や結界の強化に『フォーミュラ』の付与と、少しばかりやりすぎたかなぁと思わなくもないです。
 ぶっちゃけユーノファンである自分としては不可能ではない、と考えられる範囲でやってるつもりではありますが、出来ればあまり露骨なキャラびいきではない物語運びで、ユーノくんのファン以外にも彼の魅力が少しでも伝わって好きになって欲しい……という心境でやってる部分もあります。
 とりわけ、今回のは『たまたま夏休みに海鳴にいた』から始まってるわけですから、いきなりすぎる強化は露骨すぎるので……。
 仮にこれが何かとのクロスオーバーとか、最初からそういった力に出会った物語を通ったユーノくんが関わってくるとか、明確なコンセプトがあるなら、別に何の問題はないんですけどね。
 その逆を言うと、このシリーズが終わった後のユーノくんは『フォーミュラ』を使える状態でこの後に続くstsなどの時間に進むわけですから、仮に続編があって彼が活躍するとすれば、そういった積み重ねの一環だと言えることになりますし。

 ……と、長々と書いてまだ本編に触れられていないので、巻き返して早速そこに触れていきます。

 映画からの大まかな変化としては、戦いの順番の変更ですね。
 ユーノくんを参戦させたいのと、レヴィがユーリのところへ出向く関係上、小説ならなるべくするすると節を飛んでいきたいところなので。
 単独で大丈夫だと判断されそうなシグナム、シャマル&ザフィーラ組のところを映画通りに先へ進めて、ユーノくんの参戦をヴィータ戦のところに持ってきてから、映画通りなのは&はやて組の《オールストン・シー》へ合流。その間にクロノくんとの交信を挟んで、少し事件の異様さに気づいていく彼の様子を書いていく感じで。そしてそこで、クロノくんからスタジアムへ応援をという頼みを与えることで、彼が更に動ける土台を作っていったという風になっております。
 《オールストン・シー》の固有型の子(ツイッターでは鉄子ちゃんとか呼ばれてました)と『エクスカベータ』を拘束するのは、限られたエリアである遊園地であることと『フォーミュラ』によって外部への効果範囲の拡張が為されているといった部分を押し出してこうしました。

 大まかな説明(という名の言い訳)は大体こんなところでございます。
 あとは今回のラストパートである『VSユーリ』のところが、少しでも映画に迫れていたなら良いな、というくらいでしょうか。
 まあ正直、素人の文には限界があるので、映画を観に行った時の思い出が少しでも浮かび上がったとか、補完として僅かでも魅力が出ていたら幸いでございます。また、まだ見ていない方がいらっしゃるのでしたら、まだ公開期間は残っていますし、是非とも映画館へ……!
 そういえば、今週のウィークリームービー5も良かったという話なので、自分も映画館で観てきたいと思います。
 それを経て、此処から先の部分を上手く書けるように精進していこうと思います。

 今回も遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
 ですが今後も頑張っていくので、この二次小説にこれからもお付き合い頂けたら幸いです。

 では、また次回もお会いしましょう^^

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