~魔法少女リリカルなのはReflection if story~   作:形右

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《番外編 After_Detonation》
別れまでのひと時


 幕間の探検、ツアーin『無限書庫』

 

 

 

 ユーリとの再会から数日の(のち)―――

 シュテル、レヴィ、ディアーチェの三人は、八神家に滞在しながら帰還までの日々を穏やかに過ごしていた。

 これはそんな、ある少女たちが星へ帰るまでの合間にあった出来事。

 短くも尊き、束の間の優しい時間の記憶である。

 

 

 

 ***

 

 

 

 無限に列なる書架の螺旋。薄暗い迷宮のようになった知恵の海に、紫天に集いし少女たちはいた。

「うわぁ~……ッ!」

「あ、レヴィ気を付けてね? ここ空間が結構捻れてるから」

「はーい」

 隠しきれない興奮を漏らすレヴィの傍らで、ユーノは奥へ突き進んでしまいそうな彼女を窘める。

 五人の前に聳える、巨大な扉。そこは古代ベルカ系の未整理区画―――『無限書庫』の中でもとりわけ危険度が高く、また貴重な情報が眠っている場所である。

 シュテルの要望とレヴィの希望によりこの場所を選んだわけなのだが、それでも一応、ユーノは最後の確認を取る。

「―――えっと、念のためもう一回確認しておくけど、本当に良いの?」

 そういってユーノが区画入り前に確認をすると、

「はい、わたしたちの準備は万全です。師匠(ししょー)

 とシュテルは応え、その傍らでレヴィが待ち切れないとばかりに「迷宮(めーきゅー)♪ 迷宮(めーきゅー)♪」と無重力の空間をふわりふわりと踊るようにして漂う。

「少しは落ち着かんか。まったく、こやつらは……」

「あはは……」

 己が臣下に呆れた様に零すディアーチェと、困ったように笑うユーリ。二人につられてユーノも苦笑するが、まぁ仕方がないのかなとも思う。

 ここは、まさしく知の迷宮。ユーノ自身ここに魅せられて施設の長をやっているくらいだ。ワクワクすることが好きで、冒険や迷宮っぽいものが目の間にある状況で、はしゃがずにいろというのも酷な話である。

「じゃあ、あんまりもったいぶるのもなんだし、行こうか?」

 ユーノがそう声を掛けると、「うんっ!」と元気な返事が返って来た。それに微笑みを返し、ユーノは扉へ向かって右手を翳す。すると、手首の周りに円環状の魔法陣が三つほど重なったものが出現する。あれが、扉を開く認証用の鍵なのだろう。

 次第に重々しい音と共に、迷宮への入り口が開け放たれた。

「―――――」

 書庫内に入るや、シュテルは息を呑む。

 例えるのならば、そこは魔窟。しかし、それでいながらどこか聖域じみてもいた。

 一度ならずこの場所を訪れてはいたが、何度見ても圧倒される。列なる書架の中身は、深い意味を持つものから益体の無いものまで様々であり、正しくここは〝世界〟を納めた場所であると理解できる。

 しかも、そんな〝世界〟さえも欠片に過ぎない。

 そうした全てを丸ごと納めたようなこの場所に、シュテルはどうしようもなく魅せられてしまっていた。

 シュテルのその様子(はんのう)にユーノは少しだけ得意そうな笑みを浮かべて、改めて四人へ向けこう告げる。

「改めて、ようこそ―――〝世界の記憶の眠る場所〟へ」

 そうして、程なくして迷宮の中に足を踏み入れた一同の、短く小さな冒険譚の幕開けとなった。

 

 

 

 少し進むと、奥の書架まで続く迷路に差し掛かる。これまでとは明らかに一線を画した光景に、一同は思わず警戒を強めるが、

「おぉー、なんかめっちゃ面白そぉ~~ッ‼」

 好奇心旺盛に一番槍を買って出るレヴィの突撃が勃発。オリジナル譲りの高速移動(幼児形態Ver)に身を任せ、迷路の中に我先にと飛び込んでいく。説明してからでないと危ないので、ユーノはレヴィを嗜めようとしたのだが、

「あ、ちょレヴィ! 危ないから待って―――」

「一番乗り~!」

 すっかり好奇心という名の情熱が彼女を急き立て、面白そうな場所へと彼女を飛び込ませていった。慌てて追走し、追い駆ける一同。往々にして予測はしていたが、少々レヴィのタフネスをなめていた。

 子供になっていても、魔力不足でも自分の系統は直りが早かったのだろうか。無重力空間という事も手伝って、阻む物のない飛行魔法の推進力に任せレヴィは駆け抜けていく。

「あの大戯けめぇ~っ‼」

 この状況に、普段はレヴィに甘いディアーチェも流石に悪態を吐いた。

「あはは……。レヴィは昔から一番ヤンチャでしたから……三人の中では一番フィジカルも強くて、回復が早かったですし」

 ユーリは苦笑しながら、そう告げてレヴィの事をあまり怒らないで欲しいと暗に告げている。この状況に、なんとなくユーリは、昔イリスの部屋を滅茶苦茶にしてしまった時に三匹(かのじょら)を庇ったのを思い出した。

 その態度はユーノにもしっかりと伝わっていたようで、彼も苦笑い以上に怒気はない。……ただ、心配だけは強い。一応、本当に危険すぎる場所は選んではないつもりだが、この書庫を治める者としてレヴィを危険に晒したくはなかった。

 そんな訳で、機動に不安の残るディアーチェとシュテルを抱えて、ユーノとユーリは速度を上げる。

 程なくして追いつきはした。……したのだが、

 何とも困ったことに、大惨事の幕は、既に上がってしまっていた。

「―――ぁ、えと……これは、えっと……!」

 落ち着いた皆に、レヴィは焦ったように手をバタつかせて状況を説明しようとするが、説明するまでもなく目の前の光景は至極単純なものであった。

 

 目の前を埋めるのは、幽体らしき半透明の門番たち。

 前にユーノも似たようなモノに出くわしたことがあるので、その存在自体には驚かなかったが、問題は数である。

「……目視範囲だけで、少なくとも百体近くはいますね」

 こんな時でも平静というか平坦に状況を語ってくれるシュテルに「……だよねぇ……」と同意しつつ、ユーノはこれらをどうしようかと考えを巡らせ始めた。

 

 ……ちなみに、どうしてこうなったのかというと。

 面白がって先に進んで、不用意にその辺りにある面白そうなもの―――目を引く宝石っぽい取っ手やら、バツ印の書かれたスイッチ的なもの―――を、手当たり次第触っているうちに、目の前の状況になってしまったようである。

「「「――――――」」」

 お決まりな展開に、思わず一同は言葉を失って呆れてしまう。唯一ユーリだけがギリギリ、レヴィを嗜めるように、これからは勝手をしては駄目ですよ? と注意している。まぁ、下手に怒るよりはその方がいいのだろうが―――

(……問題は、これをどうするのか、だよね)

 律儀に止まってくれている目の前の門番たちに視線を向け、ユーノはここから先に進むか否かを考える。

 開拓する側としては、既に書庫の中に収められている以上放置するという選択肢はない。

 少々荒っぽいが、生憎と滅び去った世界の資料を漠然と守り続けられても困る。利得計算の様で無粋な気もしないではないが、その辺りは勘弁してほしい。何せ、現在ここを任されている彼の一族の生業は過去の探索。抱く本質を違えることは出来ないだろうし、彼自身、もう既にここを解き明かす気は満々だった。

 

「―――ユーリ、手を貸してもらえる?」

 

 そう言って振り向くユーノの横顔は、どこか悪戯っぽい色を覗かせていた。唐突な呼びかけにポカンとしたユーリだったが、意識が追いつくと「はいっ!」といって、三人を後ろへ下がらせてユーノの側へ並ぶ。

 

 ここから先は、語るまでもなく半ば一方的な展開へ繋がっていく。

 古からの守り手たちは、並び立った守護者二人に蹂躙されてその役目を終える。そうして次の世代へ知識を繋がれ、ささやかな冒険に終止符が打たれた―――

 

 

 

 ***

 

 

 

「―――という感じで、未整理区画を探検してきました」

「へぇー、そんなかんじやったんやなぁ~」

 イキイキと語るシュテルの言葉に、はやては朗らかな笑みと共にそう応えた。

 その傍らでは、レヴィが守護騎士たちに向けて身振り手振り交じりに、書庫内で起こった戦闘について語っている。

「そんでねそんでねー! こう、ズバガキッどっかーん‼ って、ユーリが出て来た幽体をぶっ飛ばしてさぁ~!」

「れ、レヴィ……」

「でねぇ~、ユーノもこう……鎖どばぁーッ! ってやってさぁ~‼」

 未だ興奮冷めやらぬようで、面白かった! と全面に押し出すレヴィだが、そんな彼女を傍らのディアーチェが窘める。

「おいレヴィ、少しは落ち着かぬか。そもそもだな、貴様が考え無しに(トラップ)を発動させたからあのような事態になったのだぞ?」

「う……っ、それはその…………ぁぅ……ゴメンなさい」

 ディアーチェからの叱責に、しょぼんとするレヴィだったが、そんな落ち込んだ様子のレヴィにはやてが傍らからフォローを入れてくれた。

「うんうん。反省出来とるレヴィは、ええ子やなぁ~。ヤンチャは行き過ぎるとダメやけど、元気なのは偉いよ~」

「……えへへ~……」

「おい小鴉(こがらしゅ)、あまり甘やかすでないわ。叱る時にはきっちりとだな―――」

「ンなこといって、単純に取られたくないだけじゃねぇのか?」

「な、ななな⁉ そんな訳があるかァ‼」

 ヴィータにからかわれ、即座に否定しようとするディアーチェ。だが、生憎と言葉に詰まった時点で、だいぶ説得力に欠けていた。

 そのまま、ワイワイと時が過ぎていく。

 ディアーチェがはやてに夕飯の手伝いを申し出て話題を切り上げようとしても、はやては悪意なく朗らかに、けれど確実にディアーチェをからかってくる。

 今の体躯では背が足りない分、昔はやての使っていた台にちょんと立っているところを見て「なんや、妹が出来たみたいやわぁ~」なんて言われたりもしたくらいだ。怒って「誰が姉妹か⁉ 誰と誰がッ!」と返しても、はやては「お姉ちゃん、って呼んでくれてもええんよ~」などと楽しげな表情を崩さない。結局、はやてのペースに巻き込まれてしまったディアーチェがだんだん拗ねていくと、はやてもそろそろ潮時かと謝り、頭を優しく撫でてディアーチェをなだめる。

 しかし、そうして謝りながらも、『たまにはこんな騒がしいのも悪くないだろう?』と訊ねた。正直、それに対しディアーチェは素直に応えたいとは思わなかったが、それでも彼女が口にした返答は―――

 

 ***

 

「―――まぁ、悪くはなかった……な」

 あの日々を思い返しながらディアーチェは、一人そう呟いて手に持った遺跡板(たんまつ)に映る写真を閉じる。

 酷く簡素ではあったし、拗ねた答えだったが……確かにそう思った。

 目を閉じ、思い返す日々は短いながらも実に心穏やかな時間であったのは間違いなく、今の日々を創り上げていく土台の中には、あの日々が根付いている。それは、八神家―――はやてがディアーチェのオリジナルだからとか、そんなことが理由ではない。

 それはただ、小さな切なさを伴う思い出。家族の温もり、有り体に言えば、そう―――愁にも似た気持ち。回りくどい言い方を消してしまえば、ある幸せの形であったがゆえに。

 が、センチな気分になるのはこれで終わりだ。

 何故なら、

「おーさまぁ~。そろそろ行かないと、約束に遅れちゃうよぉー?」

 ……これから会いに行く自分の基に、そんな弛みを見せるのは彼女のプライドが許さないからである。

 

「―――ああ、今行く」

 

 そういって、ディアーチェは故郷を発つ。残してきた友に再び会うため、あの星への旅路を辿るために―――

 

 

 

 




 本当に毎度毎度不定期で申し訳ない。まさか年明けになってしまうとは……自分でもちょっとだらけ過ぎだったように思います。
 しかし、ちょっとばかり言い訳をさせて頂くなら、ギャグのノリを完全に忘れてしまっていることだったと言えますかね。でも本当に勘が鈍ってて、ここまで書き上げるのにマジで時間掛かりました……。
 まあ今回は短いながら二本まとめて投稿するので、言い訳というか説明は二本目のあとがきの方でかかせていただきますので、そちらを参照していただければと思います。

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