~魔法少女リリカルなのはReflection if story~ 作:形右
未だ見えぬ先を目指して
───あの夏の日。
事件を終えて、エルトリアへ向かった少女たちとのつかの間の再会を経た日から、またしばらくの時が過ぎた。
季節は巡り、二度の冬を越えた。
これは新しい春を迎えるほんの少し前の出来事。
まだ時折の肌寒さを残した三月末。
その日の海鳴市の空模様は、とても晴れやかであった。
雲はゆるりと流れ、風は穏やかに頬を撫でる。……しかし、そんなのんびりとした雰囲気とは裏腹に、たたたっ! と、せわしなく道を駆けていく少年の姿が。
「―――はぁ……はぁ……っ」
走りと焦りが相まって、彼の息は相当に荒れていた。何をそこまで急いでいるのかといえば、答えは単純な事。
また一つ大人になるために、少女たちは今の自分を卒業していく。そんな終わりであり、始まりとなる節目───卒業式が行われる。
そう。彼、ユーノにとって大切な友人たちの節目となる行事が催されるのだ。……けれど彼は今、それに遅れそうになってしまっていた。
何故このような事態になったのかというと、話はほんの少し前まで遡る。
***
───一ヶ月程前のこと。
その頃、なのはは『無限書庫』を訪れる機会が増えていた。頻度で言えば、執務官志望であるフェイトや捜査官であるはやての方が多い。が、なのはの訪れる理由は、そうした機密資料を直接受け取るというのとは少し異なっていた。
そろそろ中学生になり、なのはたちも本格的に局員として参加する時期に突入する。なのはの利用目的は、卒業後に教導官や空戦魔導師として活動する際、様々な状況における戦闘の知識を得るためのものだ。
執務官や捜査官の様に品に対するものというよりは、様々な戦況に対する知識を得るためにといったところか。
次元世界は多岐に渡る為、管理世界と管理外世界の違いだけでなく、星の環境への見識なども必要になってくる。確かに戦闘魔導師は、事件対処の要請があって初めてその場所に出向くものだ。戦術なども状況に合ったものを出さねばならない。しかし、だからといってまっさらな状態から動きを練るのはハッキリ言って非効率である。
過去のケースに縛られるのも問題だが、似た条件下でのセオリーを無視する思考もまた、愚策といえよう。
そんなわけで彼女が『無限書庫』をよく訪れるようになったのに合わせて、ユーノはなのはから、彼女たちの卒業式について聞いたのだった。
「―――卒業式?」
「そうなの。三月末ごろにね、あるんだ」
書庫にやって来たなのはは、ユーノにそう伝えた。
ちょうど今日『無限書庫』を訪れる予定があったからというのもあったが、来られなかったにせよ、どのみちなのははメールか何かで伝えていたことだろう。ただそれでも、ユーノに伝えるのなら、直接言いたかったという彼女の想いがこの場を呼んだのかもしれないが。
「卒業式か……そこに僕も?」
「うんっ。ユーノくんにも来て欲しいの」
そういってなのはは笑みを浮かべる。だが、彼女の笑みとは裏腹に、ユーノはどこか浮かない顔をしていた。
「でも、良いのかな……僕がそこに行っても」
渋るユーノ。嫌だからではなく、むしろ大切な友人たちの行事であるからこそ、邪魔したくないと思ってしまうのだ。
実際、地球ではユーノくらいの年齢ならば、学校へ通っているのが常識である。これがクロノの様に年齢差があるならばまだしも、まるっきり同い年の子が来るのはやや不自然に見えなくもない。
けれど、
「当たり前だよ。来ちゃダメなんて、あるわけないもん」
なのははそんな不安さえあっさりと振り払ってしまった。当たり前のようにそう言われると、なんだかその気になって来るから不思議だ。
「……敵わないな。なのはには」
困ったような笑みを浮かべるユーノ。
「分かった、僕も見に行くよ。なのはたちの節目の行事だし、せっかくだから」
と、そう答えて、ユーノはなのはの誘いを受けることになった。
「うんっ!」
再度大きく頷いて、なのはは満面の笑みを覗かせる。花の咲いた様な表情に、ユーノも嬉しくなった。自分が行くくらいで喜んでもらえるのなら安いものだろうと思った。
その後も、仲睦まじく二人は話を続けて行く。
卒業生代表としてアリサが答辞を読むことや、卒業式の後にお花見をやること。そうした様々なことを語り、二人は約束を交わした。
来る三月末。私立聖祥大付属小学校、その卒業式の席に参列する、と。……しかし、その前日に彼は、現実はそう甘くはないのだと理解させられる。
(は―――あ、はぁ―――マズいな……まさか、こんな時に限って依頼が立て込むなんて……っ)
そう。急いでいた理由は、まさにそれだった。
タイミング悪く舞い込んできた依頼の山に追われて、本来出るべき時間に間に合わなくなってしまったのだ。
……が、どうにか依頼自体は片付けた。
元々、今日なのはたちの卒業式に参加することは決めていた。時間こそ喰ったものの、業務を片付ければこちらに来られる算段はついていたのである。
けれど、それでもなかなかに厳しそうだ。時計の針はとっくに
「……仕方、ないか」
何が? なんて問われるまでもない。別にこれは、諦めでも何でもなく―――単純に諦めが悪いからこその
走りながら、辺りを確認する。如何に年度末とはいえ、平日の昼に差し掛かった道を歩く通行人はそう多くなかった。これ幸いと、ユーノはそのまま具合のよさそうな物陰へと走って、そこから一気に空へと飛びあがる。
これがミッドチルダならば速攻で管理局に補導されるだろうが、生憎とここは管理外世界。見つかりさえしなければ、何ら問題はない―――というのは流石に無理があるが、緊急事態といえばそうだ。大目に見てもらいたい。
結界を張っておけばもっとよかったのかもしれないが、そこまですると魔法使用がクロノたちへ伝わってしまう。感知されてしまえば、流石にお咎めなしとはいかないだろう。それは少しばかりマズいし、こんな日になのはたちに迷惑をかけてなんていられない。
小学校の位置をもう少し詳しく覚えていれば転送魔法を使えなくもなかったけれど、万が一転送先に人がいたらそれはそれで困る。結局のところ、ユーノに許されたズルの限界はそこまでだった。
そうして自分に許された範囲での手札を行使し、ユーノは目的地へと急ぐ。
───それから、三〇分後。どうにかユーノは聖祥大付属小学校の土を踏むことが出来た。
しかし、
「…………流石に、これは……」
体育館の前まで歩いて来たのは良かったが、重く閉ざされた扉の前には人っ子一人居ない。それどころか扉の先では答辞らしき声が微かに透かされて聞こえてくるのみで、出てくる人も居はしなかった。
……否、当たり前と言えば当たり前か。
よほど特別なケースでもなければ、卒業式にここまで遅れてくるのは中々ない。その上、親でもなければ兄弟でもない子供が入るには、目の前の扉は重すぎた。
もちろん入ればいいだけの話なのだが、下手に目立ちすぎるとそれはそれで困る様な気もしている。
「……どうしよう」
状況は八方塞がり。打破するべき策もまるでない。
手詰まりに陥ってしまったユーノだったが、このままぼーっとしているのもあまり建設的ではない。一応、周囲を見渡して何かないかと探す。
何か、といってもそんな都合の良い不明存在があるわけもないのだが―――
「―――あ」
どういう偶然か、それはちょうど開いていた。
無論、これがただの子供だったら、或いは彼以外であったならば何の意味もなさないものだったが……しかしこの時、ユーノにとっては、それはまさしく天啓ともいうべき幸運に見舞われたのだった。
「他に人は……いないか。―――よし」
誰ともなしに頷くと、ユーノはまた物陰に入り、ちょっとしたズルに興じてみる。約束を果たし、ユーノ本人の願いも遂げる為に。
そうして物陰から緑色の燐光が灯ると、小さな影が体育館の二階部分。その
***
───場所は変わって、体育館の中。
用意された席に腰かけた
まだ式が中盤ということもあり、会場は穏やかだ。
卒業式は感慨深いものであるが、聖祥大付属小学校は大学までのエスカレーター式の学校であることも手伝って、別れという意識は他校に比べると薄い。もちろん別れが皆無というわけではないし、単純に中等部へ進む者もいれば、逆になのはの兄や姉が通っていた風芽ヶ丘などに行く子もいる。
様々な事情があるのだろうし、それは仕方のないことだ。
そもそも今の時代、連絡は当然ながら、会う事だって手段はいくらでもある。
だからこそ、今生の別れなどというほど大袈裟なこともないのだろう。それになのはの親しい友人の中から、まったく別のところに行く子は居ない。
故にこそ、今のなのはが少しばかり別のことに気を取られてしまうのも、無理からぬことだったと言えよう。
(……ユーノくん……)
ぼんやりとした思考の表層を滑っていくある少年の名前。
自分が誘い、卒業式に参列してくれると約束してくれた友達の名前。
しかし、未だに彼の姿はない。
とはいえ、扉が固く閉まっていては入ってくるのもそう容易な事ではない。
それに、まさか青春ドラマの様に大仰に扉を開け広げるわけにもいくまい。……まぁまったく期待が無いかと言えば嘘になるが、ユーノの性格的にそれはないだろうことは分かる。第一、ユーノは役目の為に遅れているのだ。寂しがってしまうのは少しばかり勝手だし、怒るのは全くの見当違いだろう。
せめて、後のお花見の方には合流できると良いな―――と、なのはが自分にそう言い聞かせようとしていた、その時。なのはは、何となく聞きなれた鈴の音に似た音を聞いた気がした。
(―――ぇ……?)
驚いて周囲へ視線を飛ばしてみるが、特に他の誰も気にした様子はない。
気の所為だったのかな? と、なのはは改めて前を向き直そうとするが―――次の瞬間、視界の端で何か小さな影が動くのを捉える。
体育館の二階部分。通路脇の開けられた窓から、何かが入って来た。
鳥くらいなら偶にあるが、その場合は往々にして多少なりそこに注意が向くものだ。
異物感とでもいうのか、人は一律を乱されるとそこに注目するものだから。だが、その
(…………まさか)
何かに思い至り、なのはは目を凝らす。
ギリギリ此方の目線に引っかかるかどうかの際に身を置いた、小さな影の正体を明かすために。
目立たないようにしているが、なのはにははっきりとそれがなんであるのか……否、誰であるのか判った。
案の定、その推察は的中だったようだ。目を向けたその先に―――最近とんとご無沙汰だった、懐かしい姿をしたユーノが視えていた。
(―――ふふっ)
視えた姿に、なんだか少しおかしくなって笑みを零す。別にちょっとくらい目立ってもよかったのに、なんて思いも浮かんだが、直ぐにその思考は消えた。
理由は簡単だ。
『―――――』
ちらっ、ともう一度周囲に目線を飛ばす。けれどそうして見てみても、同級生たちはもちろん、下級生や保護者、先生たちにも彼の姿は気づかれていない。
それが何となくおかしくて、同時に、ちょっと嬉しかった。気づいたのが自分だけかもしれないという、その秘密っぽさが。
それからややあって、式は大詰め。証書の受け渡しへと移行する。
名前を呼ばれたなのははハッキリと返事をして、壇上で証書を受け取って筒に納める。それから礼をして、最初の席へ戻って行った。
ここまで来れば、残すは軽い合唱と国歌斉唱。そして閉式の言葉くらい。……だが、なのははもう終わりが待ち遠しくて仕方がなかった。
別に伝える手段くらい、念話でも良い。だけどこんな日に、忙しい中を押して来てくれたのだ。
なら最初の言葉は、面と向かって伝えたい。来てくれたことへの感謝と、また一つ大人になって行くという報告。それらをちゃんと向き合って、真っ直ぐに―――
───そうして式が終わり、なのはたちは体育館を後にする。
クラスメイト達がばらけ始めたところで、各自家族や友人たちと輪を作り始めるのを他所に、なのははある場所へと走っていく。
その輪に加えるべき欠片を連れてくるために。……まぁ、最初に会いたかったというのもあるにはあったけれど。なんてコトを考えつつ、なのはは体育館裏へ。
入り口の賑わいとは裏腹に、やや静寂とした空気が流れている小さな林。しかし、これはこれで都合が良かったと言えるだろう。これなら誰よりも、最初に会える。
ほんの少しだけ申し訳なさそうな顔で、彼は立っていた。
そんな顔をしなくてもいいのに。そう思ったが、とにかく今は何よりも先に、彼の名を呼ぶ。
「ユーノくん!」
その声に気づき、ユーノもなのはの方を振り向いて返事をした。
いつも通り、柔らかな声音で。
「やあ、なのは。ゴメン、少しだけ……いや、結構遅れちゃった」
「ううん、そんなの良いよ。ちゃんと来てくれたし、見ててくれたもん」
「……やっぱり、気づいてた?」
「もっちろん! だって、ユーノくんのあの姿を一番長く見てたの、わたしなんだから」
ちょっと得意そうになのはは胸を張る。
その自信がなんとなく微笑ましく、また自分の取った行動も相まって、なんだか笑ってしまった。
「なんか、いろいろ手間取っちゃってごめん」
「そんなの良いよ。それよりも、みんなのところ行こっ」
「あっ、そうだった……。せっかくなんだから、待たせてちゃ悪いよね」
本日の主役をこんなところに引き留めておいたのでは、祝うために来た意味がない。
早速とばかりに二人は入り口の方へ戻っていく。ただ、その途中―――ユーノは、まだ口にしていなかった言葉があったのを思い出す。
「なのは」
傍らのなのはに呼びかけつつ、ポケットの中に入れていたものを探す。が、そこまで苦労もせずにそれは見つかった。
「??? なーに?」となのはが聞き返したのに合わせて取り出して、ユーノはこういった。
「卒業祝い、まだ言ってなかったから―――卒業おめでとう、なのは。はい、これお祝い」
言葉と共に、なのはの手に小さな箱を手渡す。
開けてみて、と促されて開けてみる。するとそこに入っていたのは、台座部分の空いた
普通に考えればやや突拍子もないものだが、この場合は違う。
「ねぇユーノくん、つけてみていい?」
「もちろん」
そういってなのはは首から、元々つけていたレイジングハートを外して、新しい紐を付けてみる。
そうして、元の台座からRHを外し、新しい台座に据え付けた。
「つけた感じはどう?」
「うん、とっても良い! ね、レイジングハート」
《
「よかった」
どうやら二人共気に入ってくれたようだと安心して、ユーノはホッと一息。
ひとまずの安堵を経て、二人は一度緩めた足をもう一度前へと向ける。そうして、二人は入り口付近にいた皆と合流し、会話の輪を広げていくのだった。
と、そこから少しだけ時間が過ぎて―――
ユーノとなのはが戻ったところで、様々な会話が交わされていった。
内容は中等部でも同じクラスになれたらいいねといったものや、なのはの両親の店である翠屋に中学生になったら寄り道したいなといった定番の会話から、なのはの兄である恭也やフェイトの兄であるクロノがカッコいいという黄色い声もあった。しかし、生憎と二人共が相手持ちだと判ると残念そうな雰囲気に。そこで途中参加のユーノのことが話題に上り、どういう繋がりで此処にいるのかを聞いてくる子たちも。しかし、この中では唯一家族的な繋がりがない彼は返答に困ってしまう。
「えーっと……」
どうしよう、と顔に書かれたユーノにアリサが助け舟を出す。
「この子、あたしんとこの親戚なの」
サラッと言い切るアリサに、事情を知っている面々はポカンとなるが、意外とクラスメイトたちに疑われることもなくさらりと受け入れられる。ちょうど二人の容姿が似てるところも影響したのか、実にお誂え向きな言い訳であった。
しかし、
「へぇー、アリサちゃんの親戚なんだ~」
「ってことは、ユーノくんの出身ってアメリカ?」
「五人とも知り合いなの?」
「向こうはもうお休みに入ってるの?」
「スポーツなに好き?」
「ゲームとかする?」
と、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。この辺りはアリサの人気の余波だろうか。クラスでも中心にいる事の多いアリサだからこそ発言に意味もあるが、逆にそこで隙が生まれてしまうこともあるらしい。
下手に設定を捏造しても後で面倒なので、ユーノは「あー、まぁ、そんなとこ……かな?」などと曖昧に返事を返すしかない。なおその様子を見て、なんとなくフェイトは自分の転校初日を思い出していたのは余談だ。
結局この質問攻めは最終的にはやてと一緒にいたヴィータに矛先が変わるまで続いた。ヴィータもヴィータで質問攻めにあっていたが、元々こっち側で過ごしている彼女は既に返答の用意はあったようで、ユーノよりもスムーズに応えていく。……尤も、可愛いなどと言った声が男女ともに上がり、割ともみくちゃにされていたのはちょっと苦しそうだったが。
そうして暫し賑やかな時間を過ごしていたが、固まっていた子供たちはやがてまばらになり、ちらほらと帰路に着き始める。
合わせてなのはたちも早速次の予定の場所へと向かうことに。
お花見の場所は、前にユーリとディアーチェたちが再会したところにほど近い、海鳴市の小高い丘の上。
ここの桜は隠れ名所と言われていて、穴場ながらなかなかに綺麗な桜が立ち並んでいる。今日は少し早いかもいしれないが、海鳴市は比較的温暖な地域なので、もう桜はほどよい塩梅で咲いていた。
……ちなみにちょっとした逸話があり、かつてこの場所で星の天女と旅の狼が出会ったとか、血を吸う鬼と少年が巡り合った地であるとか、そんな出会いが桜に変わる様な話が無きにしも非ずとか言われていなくもない。
ともかくそんな場所なのだという。
が、今は花見舞台だ。早速シートを敷いて、持ち寄ったお弁当を広げて輪を作る。
そして、リレーされたコップに各々が飲み物を注いだところで、アリサの母であるジョディが乾杯の音頭を取る。
「では、全員に飲み物は行き渡ったところで早速……本日の主役である子供たちの卒業と、この先の良き門出を祈って―――ッ!」
「「「カンパーイっ‼」」」
その声を皮切りに、卒業祝いを兼ねたお花見が始まった。
***
お花見が始まったとはいえ、今回は内輪での集まりだ。そこまで大仰なイベントというわけではないため、大まかなところは飲食と談笑である。
そんな中でもユーノはどちらかと言えば聞き手に回って会話に参加していた。
卒業式の直後ということもあってもっぱら話題は先程の式のことや、中等部へ上がることへの話などが多かった。学年が上がるのもそうだが、環境が変わるのは往々にして不安と興奮が半々であるモノだ。
「でも、みんなきっとうまくやれると思うよ?」
「んー、まぁ勉強に関してはそんな心配してないけどね。でも部活とか文化祭とか、結構大きい行事も多くなりそうだから」
ユーノの問いにアリサはそう返すと、それを受けてはやてはこう口にする。
「けどわたしらの場合、管理局のお仕事もいかへんとあかんし、やりくりするの大変かもしれへんなぁ」
確かに学校の規模が大きくなれば、いろいろと規模が増したり、掛かる責任も重くなっていく。その辺りに対する不安は、それなりにあるものだ。
既に管理局員としてある程度下地を作っている三人にとっては、若干窮屈さを覚えることもあるかもしれない。けれど、
「でもきっと、楽しいんじゃないかな。新しい生活を始めるっていうのは」
「へぇ、意外ね。ユーノってあんまり変わった事するの苦手そうなのに」
「あはは……。だけど一応、未知を開拓するのも僕の本業だから」
「あ、そっか」
今思い出したとばかりに口に手を当てて驚くアリサ。その反応にもう、とばかりに苦笑するユーノだが、見ている限りとても楽しそうだ。
「まぁ、その辺は置いておいて―――はい、これ卒業祝い。まだみんなに渡してなかったから」
そういってユーノは先程なのはに渡したように、四人にそれぞれ祝いの品を贈る。ちなみに、ユーノが送ったラインナップは、フェイトとアリサには髪留め、はやてとすずかには本と栞だった。
フェイトに送ったのは執務官として事務作業が増えることを考え、前髪などを止めやすいヘアピンタイプ。豪奢な装飾というわけではないが、カジュアルとフォーマルの中間くらいのアクセサリーだ。嵌め込まれた四色のジュエリーが、良いアクセントになっている。
アリサに贈ったものはどちらかというとシンプルなリボンタイプで色は黒、軽くレースっぽい装飾の他はあまり飾らないスッキリとした造りになっている。だが、その代わりに中央に一つ据えられた紅いジュエリーが黒を明るく芯の通ったイメージにしており、アリサにとても似合っているといえた。
残るは、はやてとすずかの二人。ユーノが彼女らに本を贈るのは割とよくあったが、今回は栞にやや気合を入れたらしい。地球には無い別の次元世界の植物を押し花にして封じ、それを金属素材で額縁の様に見せる造りになっていた。ちなみに、すずかのは月のイメージ、はやては風と雲を現したメタルモチーフになっている。
と、そうした品々を眺める少女たち。反応は良く、ユーノはどうやら外した贈り物にならずによかったとほっと息を吐いた。
そんな彼にいの一番に礼を述べたのはすずかだった。
「ありがとうね、ユーノくん。大切にするから」
「うん、ありがとうすずか。喜んでもらえたならよかったよ」
微笑みを交わし合う二人。
割と気質が近い所為か、こういったときのやり取りはとても穏やかな雰囲気が漂う。
……が、それを面白くないと思っている少女が一人。
「ゆ、ユーノくん。わたしも大事にするからっ。レイジングハートのことも!」
少しばかり強引だが、なのはも改めてお礼を言おうと身を乗り出してくる。周りから見れば大分あからさまだったが、生憎とユーノは純粋に嬉しそうな様子で応える。……お互いに根っこが惚れた腫れたでないと、嫉妬の理由にさえどうにも鈍くなってしまうらしい。
「ありがとなのは。でもレイジングハートはなのはが使い手でいるのが一番だから、僕はあんまり介在する余地がない様にも思うけど……」
《
「レイジングハート……うん、ありがとう」
と、なのはとユーノはお互いの絆を確かめ始めるが、いつまでもそれが続くほど席は甘くない。
ちょうどそこへ着信音が響いた。
「……ん?」
確認するためにユーノが端末を取り出すと、それがエルトリアからのメッセージだと解る。どうやらイリスの刑期が明けることに関してのやり取りが主の様だが、なのはは何となく腑に落ちないものを感じざるを得ない。何か厭な予感が迫っているような気がして……。
(……うぅ……また、モヤモヤする……)
果たして、とうに咲いた想いの花に気づくのは何時になる事やら。
周囲の面々はそう思った事だろう。そんなこんなで贈り物の段は終わり、また次へ話は進む。
「ささ、お茶もジュースもええけど、お弁当の方も摘まんでいってなぁ~」
そういって、広げられたおにぎりやサンドイッチなどを手際よく皆へ配っていくはやて。受け取った面々は一時会話を中断し、彩りよくしつらえられたお弁当に舌鼓を打つ。
もぐもぐと、そこからしばらくは咀嚼音が場を支配していた。
「はぁぁ~~……やっぱりはやてちゃんお料理上手だよねぇ~」
満足そうな吐息と共に、すずかがはやての料理を褒める。
はやては「おおきになぁ~」と笑顔。実際、はやてはこの中では一番料理が上手い。一人暮らしが長かったというのもあるが……本人がそういった家事を好んでいるところもまた、一因と言えるかもしれない。
「でも、本当にはやては上手だよね。僕も遺跡発掘とかで野営するときには料理したりもするけど、あんまりだからなぁ」
「コツ掴んだら案外早いよー? 材料とレシピが頭の中に入ってれば、そこからアレンジとかも出来るし」
「ふぅん……」
「せや。気になるんやったらユーノくん、今度うちに来て練習してみる? よかったらやけど」
「いいの?」
「もちろん。我が家はお客様大歓迎やから。なぁ~、ヴィータ?」
「うぉ……っ! は、はやて、急に引っ張らねーでくれってばっ。……でもまぁ、うん。だいたいその通りだけどさ」
ツンとしながらもヴィータはさして嫌がっている様子はない。……そういえばあの事件の夜も、割とヴィータはユーノと一緒にいたような―――
「…………むぅ……」
せっかく取り戻したかと思えばまた手の外に。
どっかの叛逆皇子でももう少し大人しいだろうに、今日のユーノの流れはやや手ごわい。―――とかなんとかを無意識下で本能として走らせるなのは。
そんな親友の様子に、フェイトはやや苦笑い。
出会った当初は、どちらかというとユーノの方が苦労しそうだなと思ったこともあったが……。あの事件以来、ちょっとだけ『苦労』のベクトルは逆転しているかもしれない。
(二人共、まだ少し苦労しそうだな……)
ただそう考えながらも、少しばかりこの微笑ましい光景を見ていたいという思いが半分。もう半分は、自分もその中に入りたいな、という思いがある―――かもしれない。
とまぁ、そんな乙女心の動きもあったが、お花見は順調に進んでいく。
そうして、終盤に差し掛かった頃。騒いで疲れたのか、子供たちはシートに横になっていた。
「はぁ……。楽しかったけど、ちょっとだけ疲れたわねぇ」
「あはは、確かに」
アリサの声に、はやてがそう応じる。
その傍らではフェイトとすずかが穏やかに微笑んで、こう言葉を交わしていた。
「……また、来られると良いね」
「うん。みんなで一緒に……ね?」
二人の交わしていた言葉に、近くで横になっていたユーノが、「そうだね」と独り言っぽく呟いて応じた。
それを、ちょうどユーノとフェイトの間になる様な位置で聞いていたなのはは、ぼんやりと空を眺めながら、ふと以前もこうしてみんなでいたことがあったな、と思い返す。
あれはまだ、魔法をアリサとすずかに明かせていなかった頃のこと。はやてやリインたちが居らず、ユーノとアルフも小動物の姿のままだった。
しかし、細部が変わっていても、皆でのんびりと穏やかな時間を過ごしていたのは変わらない。むしろ幸せの度合いでいえば、大幅に上回ってさえいる。
ふと、そんな
暮れていく陽にやかれた桜の色が、ゆっくりと瞼の裏で融けていく。やがて感じられるのは閉じた瞼の先にある、世界を流れる風の感触だけになる。
とても穏やかで、静かなひととき。……それをこうして過ごせるのは、とても幸せで、尊いことだと思う。
ここ一年ばかりはとても平和であり、大きな事件と呼べるものはなかった。
優しい世界だと言い切るのは甘いかもしれないが、それでも今の世界は酷く穏やかである。
ちゃんと、積み重ねられたものは生きている。
だからこそ―――急ぐことも、急くこともない。
あの夏の夜に、そう教えてもらった。頑なであることも、求めることも間違っていないけれど……決してひとつきりの正解では無いのだ、とういうことを。
そうしてまた、目を開く。
「――――――」
見えた
あの時の
けれど、それは終わりではない。
残る意味を失くし、役目を終えたと思っていた場所でさえも、確かな
そして、それは今も―――。
「……なのは?」
「どうしたの?」
しっかりと、彼女の傍らに咲いている。共にいられる、この場所に。
伸ばした手は、ちゃんとそこに在る大切な人たちに届く。今はもう遠くなった始まり、歩み続けた軌跡の先であっても、確かな証としてここに在る。───それが分かったのならば、後はもう簡単なことだ。
「ううん、ただ……なんとなく」
短くそう答えて、なのははまたそっと目を閉じた。繋がれた掌から伝わる熱は暖かで、とても安心できる。……これを確かめられたのなら、あとはもう何も怖くない。
───これから先もきっと、
目の前の
時に焼け付き、時に凍てつき。時に絶望としか思えない様な
この、本当に大切な居場所を。
とてもやさしく、しあわせな時間に帰ってくるために。
……これから先もずっと、
笑顔で、元気に。
掌のぬくもりを守り、
*** To_be_next_story.
そんな、幕引きのまでの刹那―――
しかし、そこで永久に
───そう。
始まりはもう、直ぐそこまで迫っているのだから……。
お待たせいたしました……! また遅くなってしまい申し訳ありません……。
ですが、どうにか書き上げることが出来たので、ひとまずはホッとしております。これでRef/DetIFの番外編を書き切ることが出来ました。
ここまでお付き合いくださりありがとうございます<(_ _)>
と、前置きもここまでにして、早速本編の内容に触れて行こうと思います。
前々から予告していたとおり、番外編の五作目は卒業式&お花見の回です。
構想基としては、Detのパンフ漫画とエピローグ部分で、それらを混ぜ合わせたような形にしてみました。
なので、パンフ漫画では八か月後の進級祝いのお話でしたが、此方では卒業記念という流れに変えてあります。
大まかな造りとしてはそんなところで、あとはハーメルンでいただいたアイディアを取り入れて話を創っていった感じです。
頂いたアイディアはフェレットモードのユーノくんが卒業式を天井から見守っている(笑)というものでしたが、これを頂いてから何となくすっとユーノくんがなのはちゃんたちの卒業式に来る流れが思いつきました。
経緯としては―――
割と忙しいユーノくんなら急な依頼で遅刻してしまうのもアリかな? というところから膨らませていき、学園ドラマみたいにどっぱーんと扉を開け広げるのはユーノくんらしくないし、かといって子供の姿で後から大人しく入るだけというのも芸がない。ならどうしようか……そう、フェレットモードで二階の窓とかから入って見守っちゃえばいいじゃん! と、頂いたアイディアを頭悪い発想で塗りたくってしまうスタイルで書いていくことに。だか私は謝らない。既に覚悟は出来ていた。そう、『覚悟』とは! 暗闇の荒野に道を見出すことd(ry
すいません調子乗りました(いった傍から謝っているアホ作者)。
でも、なんとなくなのはちゃんだけがユーノくんを見つける、という話の流れをやりたかったというのはあります。前回もそうでしたが、自分で誘ったのに……と思ってしまう部分と、今回は仕方がないという理性をぶつけ合わせ、それでもちゃんと来てくれたことを喜ぶという感じで。
そのほかは、卒業祝いの品は一番最初に書庫の開拓の時に拾って来た宝石を上げたときのネタを原点回帰的に入れてみました。ずっと以前はその宝石がデバイスとかデバイスの強化外装になる敵なネタも考えてましたが、アリすずの魔法少女化は結局しなかったのでとりあえずお祝いの形に固定してささやかなオマージュとして拾ってきました。
とまぁ、おおまかにはそんな感じですね。
あと他に上げるところがあるとすれば、次回のエピローグでこのRef/Det編が最後になるということくらいでしょうか。
もちろん、その先はあるので終わりではないんですが、この時間との別れはなんとなく感慨深いものがあります。
ネタを出したのはもっと前ですが、本格的に書き始めたのはたしか二〇一七年の九月でしたね。そこから数えて、随分と長い時間が経ちました……。本当にここまでお付き合いしてくださった方々、ありがとうございます。
たぶん次回は次シリーズの予告というか、イメージ的には映画の特報みたいな感じに短く終わると思うので……ひとまずここで感謝を述べさせていただきます。
たくさんの感想やアイディア、励ましの言葉などを頂けて創り上げて来たこのシリーズは、本当にたくさんの方々と共に創り上げて来た最高の軌跡です。この先もその日を絶やさず、きっと良いモノにできるように、この先も頑張っていきたいと思います。
ひとまずは異常になります。
今回は特にアンケートなどはありませんが、次回のエピローグでここまで引っ張って来た続編の色々を放出したりするので、そういった部分などについてご意見がありましたらお気軽にメッセージなどでお寄せ頂ければ幸いです。
なお、続編の投稿はこのシリーズ一覧とは別になりますので、作者のプロフィールなどから見て頂けたらなと思います。ただ一応、続編の更新が始まったらエピローグにもリンク載せておきますので、そちらからでもたぶん行けるようになります。
長々と申し訳ありません。
重ねて、本当にここまで読んで頂き、ありがとうございました!
それでは次回以降も読んで頂けるように祈りつつ、今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。
またお読みいただけることを楽しみに待っております^^