ちゅーか、俺様がこんなとこにいるのは間違ってる絶対   作:ビーム

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ある男さんはオリキャラです。
この話の後に海堂さんが出てきますが、ある男さんのは海堂さんがオラリオに来る前の時系列です。


ある男の話と俺様の日常。

 

これは俺のちょっと昔の話。

 

俺は鈍臭くて、いつも誰かの足を引っ張っていた。

 

 

俺はとあるファミリアの冒険者だ。

 

 

種族は人間。

 

 

年齢は18くらい

 

 

名前なんか覚えなくていい。

 

 

レベルはまだ、1ぐらい。

しかも、トロ臭くて役立たずのオプション付きだった。

 

 

自分でもわかってた。

俺が誰よりも落ちこぼれているってことくらい。

 

 

 

ビビリで、ヘタレで、そんなくせして感情的で、情けなくて。

つい、どっかの路地裏に立ち寄っては、自分以下の生活をしているやつを見つけて、ちょっとホッとしている、クズ野郎。

 

 

レベル2の荒くれ冒険者が通る時には、なるべく下を向いて、因縁つけられないように道を譲る。

 

 

ほんとに、昔の俺は情けなかったよ。

 

 

そんな俺にも仲間がいる。

だがあの時の自分にはもったいないほどの人たち。

俺があの人達を「仲間」だなんて、呼ぶことすら烏滸がましく感じちまってた。

 

 

でも、あの人達は俺のことを見捨てないでくれている。

俺なんかを、仲間だと、思ってくれている。

 

 

それが悲しくて、悔しくて、恥ずかしくて、情けなくて、

 

 

嬉しくて。涙が溢れたもんだ。

 

 

剣に、体術に、棒に、槍に、弓に、あらゆる武器に手を出した。

 

 

早く強くなりたいから。

早くあの人達の、役に立ちたかったから。頼られたかったから。

 

 

がむしゃらに、ひたすらに。寝る間も惜しんで。俺は。

 

 

でも、一向に実戦では役立たない。

あの人達は、「武器が馴染んでない」と教え、他の武器を薦めてくれている。

俺はそれを、クソみたいなプライドで断って、訓練を続けていた。

 

 

あの人達の戦う姿は輝いていて。

あの人達の使う剣や弓の構えに、俺は憧れた。

あの人達に、並びたくて。

並んで立てるような男になりたくて。

 

 

チンケな武器じゃなく。破壊力のある武器を扱えることで、あの人達に並ぶことができる強迫観念に閉じ込められてたんだ。

 

 

そうだ。さらに昔の話をしようか。

 

 

悪いけど付き合ってよ。

 

 

俺がまだ冒険者になる前のころだ。

バカみてぇな考え……、まあ承認欲求ってヤツだ。

それを抱いてダンジョンに潜ったんだ。

 

 

冒険譚の英雄みてーな活躍をして、誰彼もがチヤホヤしてくれて、そしてダンジョンの奥深くに到達して、俺が。俺が新しい世界を切り開く第一人者となる…なんて妄想膨らまして。

 

 

甘かったよ。

 

 

あっという間に囲まれて、滅多打ちだ。

雑魚だからどうにでもなる…なんて話だったはずなのに…。

 

 

思えば、俺は昔から喧嘩にあんまり勝ったことはなかったな。

 

 

なーんて走馬灯につられながら死んでいくのかと思ってた。

 

 

 

 

「ーーーおい!大丈夫か!? キミ!立てるか!おい!」

 

 

「ちょっと…!誰かポーションとか持ってきてないの!?」

 

 

「とりあえずは…、安全の確保だろっ!」

 

 

そんな時に、あの人達が現れた。

 

 

それからはあっという間だった。

槍術でゴブリンたちをなぎ払い、

弓術で頭を打ち抜き、トドメを刺していく。

俺に襲いかかってくる奴らはみんなあの人の剣撃で沈んでいった。

 

 

まるで英雄のようだった。

 

 

語彙が足りなくてすまないけど、

 

 

カッコよかったなぁ…。

 

 

普通の冒険者たちにとってはこんなこと、日常的だったんだろう。

 

 

でも俺にとっては、最高の英雄譚だった。

 

 

助けてくれたお礼を言う前に俺は。

 

 

「俺を仲間にしてくださいッ!!!」

 

 

突拍子も無いことを口走っていたのさ。

 

 

それが、俺の冒険者としての始まり。

そして、思い知らされる日々の始まりでもあった。

 

 

冒険者の始まりは割とトントン拍子で話は進んでいった。

ファミリアの神様も快く俺を迎え入れてくれた。

けど、俺のステイタスを見て心配そうな顔を浮かべていた。

 

 

それでも俺にはまだ希望があった。

あの人たちと同じパーティを組むことができて、天にも昇る心地だったが、レベル1と聞いて目が飛び出るかと思った。

 

 

あの人達は、「まだ鍛え甲斐がある」とか、「すぐにレベル2になってやるわよ!」と言っていたが、そうじゃない。

 

 

あの動きでもうレベル1なんだ。

 

 

俺の冒険者人生は早くも暗雲に包まれた。

 

 

 

 

それからというもの、俺はあの人達とダンジョンに潜るが…、酷かったなぁ。

俺だけが足ばかり引っ張っていた。

俺だけ、役立たずだったんだよ。

 

 

あの人達は「気にしないで」と励ましてくれていた。

「できるようになれる」と俺の修練に付き合ってくれていた。

 

 

俺は、申し訳なさで心がパンクしそうだった。

 

 

またある時、酒に逃げちまったこともある。

そのときに俺がヤケんなって起こした乱闘騒ぎも、結局は俺がズタボロになった。

女将の人にトドメを刺されて終わったかな。

あの人達に余計な心配とファミリアの看板に泥を塗ってしまった。

店の方にも謝罪しに行って、神様からも叱られて、俺は情けなかった。

 

 

 

 

ある時、神様からナイフを薦められた。

俺がこれ以上迷惑をかけないようにと、もう冒険者をやめようとしていた頃の話だ。

 

 

クソみたいなプライドも、時は過ぎてズタボロになっていた。

だから俺はナイフを使うことをすんなり受け入れた。

 

 

するとどうだ。

 

 

思うように手に馴染む。

思い通りに自分の体が動いてくれる。

これまでの俺が嘘のように思えた。

 

 

震える眼で恐る恐るあの人達と神様を見つめると、嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

俺は自分が間違っていたことを認め、みんなに謝罪した。

本当に申し訳ないと思っていた。

俺が意固地にならず、素直に意見を聞いていればよかったと後悔した。

 

 

でもあの人達は、なんのことだかわからない。キミが謝る理由なんてない、とまで言ってくれた。

 

 

俺はその言葉に、ずっと震えて泣いていた。

 

 

 

 

それから俺は、ようやくあの人達の役に立てるようになった。

武器自体が軽かったので、鈍い動きをすることもなく、攻撃の回避も容易になった。

 

 

俺が敵の撹乱をして、あの人達の攻撃をつなぐ一手をつくる。

 

 

それだけの活躍だったが、俺は満足していた。

あの人達も、よく俺の動きを褒めてくれていた。

帰ってきたときの神様の出迎えがようやく気持ちよく誇らしく感じられた。

 

 

俺はやっと、みんなの仲間になれたんだ。

 

 

 

ここら辺で、ようやく嫌な昔話は終わり。

 

 

 

 

俺がナイフを使い始めて久しい頃。

遂に、仲間の一人がレベル3に上り詰めた。祝杯を挙げた時に、こっぱずかしそうに頰を掻いていたのが印象的だった。

 

 

俺が乱闘を起こしちまった店で祝杯を挙げたもんだから、俺はなんとなく気まずい気分だったよ。

仲間は、「あの人は平気だ」とか言ってくれたんで参加させてもらったんだ。

 

 

ビクビクしながら、店に入ったよ。

すると上等な酒や料理がズラリ!

思わず目を見張ったし、それに。

あん時の女将の気持ちのいい笑顔と言ったら。

俺も気まずさなんか吹っ飛ばして、仲間と喜んだ。

女将にヤケに頭をぶっ叩かれたけど。

 

 

 

レベル3になったのは剣を自在に扱うあの人。近接戦闘がめちゃくちゃ強い割にはすごく謙虚な性格だ。

最初の頃の俺とは大違い。

よくできた人だ。

 

 

槍のお調子者的な性格の仲間はまるで自分のことのように喜んで、肩を組んで笑っている。

俺が暗い性格からちょっと明るくなったのも、あの人から元気をもらったからだ。

 

 

弓のしっかり者の仲間は、すぐに追いついてやると意気込んでいた。

努力家で面倒見が良い人だ。

俺の修練に一番付き合ってくれたのもあの人だ。

 

 

俺も純粋に嬉しかった。レベル3に上がってしまったことで随分離れてしまったように感じたが、すぐに追いついて見せると決意した。

 

 

今までの情けない俺じゃない。

今この場には、あの人達の立派な仲間として、俺は存在していた。

 

 

 

 

 

 

ある時、妙な冒険者依頼が届いた。

差出人は不明、だが報酬はかなりの額だ。家1つは買えるくらいの額。

 

 

剣のあの人は少し訝しんでいたが、ファミリアのさらなる発展のため、俺たちはその依頼を受けることにした。

 

 

実を言うと、俺もそろそろレベル2になれるほどの実力が備わってきていると評価されている。

この依頼を見事達成することで俺はさらに仲間に、神様に、ファミリアに、貢献できると考えた。

 

 

家が1つ買えるほどの額だ。

どのような困難な依頼だろうか。

しかし、俺たちならきっと上手くやれる。

そう考えて依頼書を見ると、

 

 

 

 

 

 

 

『灰色の異形の捜索』

 

 

という内容だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ふぁはぁ〜〜ぁぁあぁ〜〜いィ〜ヒィ〜んフゥ〜………」

 

 

ちゅーか、暇だ。

 

 

ふぁい、こんにちふぁ〜…。

あなたの…、ぅ〜ん…。

海堂……直也でふ。

 

 

「めっちゃ… 眠たぁ…い」

 

 

これでもかっちゅーくらいのでっけぇ欠伸をしながら、俺様は睡眠欲に従順な態度をとる。

俺様は外の掃き掃除を命じられているんだが、何しろこんな環境だ。

ついつい、椅子を用意してそこに座り込んじまう。

 

 

俺様お気に入りのロッキングチェアちゃん!

ウキウキしながら、サングラスをかけどっしりと座り込む。

 

 

ポカポカと照りつける太陽、人の通りもそんなになく騒がしくない珍しい日がやってきた。

 

 

つまり、昼寝日和ってこったな。

 

 

「お昼寝一番隊隊長、海堂直也。いざ、就寝!」

 

 

「ダメです」

 

 

中から持ってきた毛布を被った途端、思い切りめくり上げられた。

サングラスの上から、しかめっ面と寝ぼけ眼で顔を伺う。

 

そこにはあの恐ろしい緑色の髪と、困り気味に揺れている銀髪。

 

 

「あれっ!? リュ、り、り、りりり、リュー先輩じゃあないっすかぁ!?し、シル嬢もっ!おっ?えっ?今日は買い出しに行ったんじゃ?」

 

「はい、行きました。そして今ちょうど帰りました」

 

 

「ナオヤさん…、ぐっすり寸前でしたね…」

 

 

ちくしょお…、もう帰ってきやがったのか。俺様の計算上経験上あと一時間ぐらいかかるモンだと思ってた…。

 

 

あっそうか!

こいつら俺様がサボってやがると思って、早く帰ってきたんだな!?

もぉ〜っ! ズル賢い奴らだ!

 

 

「なんだおめぇら!俺様がサボってるって予想して走って帰ってきたんだなぁ!? ずっこいぞコラ!」

 

 

「いえ、いつも通りの道を通って普通に帰ってきましたが」

 

 

「うん、いつも通りだったね〜」

 

 

な、なんだっ…てぇ…?

サングラスがずり落ちる。

 

 

「ちゅーか、猫吉。こりゃどういうトリックだ」

 

 

俺様はいつのまにか玄関に現れていた猫吉にこの謎を聞いた。

 

 

たしかに俺様が買い出し行った時は一時間以上かかってたはずだっちゅーのにコイツらは。

 

 

「単になおやんの買い出しは寄り道ばっかりでえらく時間かかってたからニャ」

 

 

あっ、そういう……ことだったんですねぇ。

 

 

真っ白になって座り込む俺様をすり抜けリュー達は店の中に入る。

なにやら、みーんな集まってきてワイワイやっとるわ。

 

 

「リューにシル、おかえりニャ〜! お土産買ってきてくれたニャ?」

 

 

「一応、みんなの分の果物とか買ってきたよ!」

 

 

「いいリフレッシュにはなると思います。みんなを呼んできてください」

 

 

「あいあいニャー!」

 

 

おおっと、どうやら休憩時間みてーだな?それには俺様も参戦しなきゃダメだろ。ちゅーか、俺様が休憩しなくてどうするっちゅー話よ?

 

 

「さぁて!みんな一通り仕事を済ませてきたようだね!」

 

 

「こっちも仕事は片付けてきたニャ!」

 

 

「バッチリオッケーです!」

 

 

「よぉーしっ!ここいらで一息つこうじゃぁねぇか!え!さぁてシル嬢、何買ってきたんだぁ?」

 

 

「「「「カイドウ(さん)(なおやん)はダメです((ニャ))」」」」

 

 

 

「相変わらずだね、アンタは」

 

 

 

…

 

 

 

あーしんどい。

 

 

はーめんどい。

 

 

俺様は柄にもなくまじめに箒でチリやホコリを掃いていた。

 

 

まさか監視の目がつくとはなぁ〜。

 

 

俺様が用意したロッキングチェアでぐっすり寝てやがんのは猫吉だ。

その隣にこじんまりとした椅子とテーブルを用意してなんか女子会みてーなことしてんのは、シル嬢とリューとルノっちと黒猫吉。

楽しそぉ〜に果物を食ってやがります。

 

 

「いやぁ、良い眺めだニャア…。せっせと働くアリを見ながらの休憩は格別だニャ」

 

 

「カイドウさんはアリ…というより、ヘビって感じよね」

 

 

「そうそう、ずっこいヘビだニャー」

 

 

くっそお、ルノっちと黒猫吉が黒い会話をしてやがる。んだ!アイツら!イイ性格してやがんなちくしょう!

リューのやつもうまそぉ〜に果物食いやがって!

うわぁ〜…なんか腹減ってきた。

ちゅーわけで俺様は見向きもしないリューに一声かけた。

 

 

「リュー先輩」

 

 

「はい」

 

 

「あのォ、ちょっと、ちょちょちょ、ちょっとぐらい分けてもらってもォ」

 

 

「休憩とは、仕事を一通り終えてからとるものです」

 

 

リューは一度もこっちを見ずに答えた。

 

 

ですよね。そういうと思いました。

ちくしょうと。

なんとも言えない表情でシル嬢を見つめる。

シル嬢は笑顔で手を振った。

 

 

「ナオヤさん!頑張ってください!」

 

 

「シル、カイドウさんに応援なんかしなくてイイから」

 

 

「そうニャそうニャ。自業自得ニャ」

 

 

あぁ、この世界の天使は、シル嬢だけだな……。俺様は世知辛い世の中を嘆きながら溜息を吐いて、チリを箒で掃いた。

 

 

「カイドウ、そこ。箒の掃きが甘いですよ」

 

 

「へい…」

 

 

うーわ、来ちゃったよ。リューさんのダメ出し。

見てないようでしっかり見てやがる。

 

 

説明しよう。リューさんのダメ出しとは、姑にグチグチ言われる嫁さんぐらいに相手のストレスを溜める必殺技だ!主に俺様に効く。

ちゅーか、基本俺様にしかやらない。

 

 

 

「なおやんって、初めの頃に比べていくらか言うこと聞くようになったニャー」

 

 

「そうだね〜。初めは何かと言ってきたり、ストライキ?とかブラック職場断固反対!とかいって床に仰向けに倒れ込んだりして」

 

 

「そうやって、ミア母さんやリュー、たまに私とかがぶっ飛ばしてたっけ」

 

 

アイツらなんの話してんだ。

随分楽しげに話してんなぁ?

もしかして…、俺様のかっちょよさについて話し合ってんのか!?

いっやぁとうとう気づいたのかぁ!遅ぇんだよぉ!全くもって!ンフフフフフ。

よーしいっちょキメポーズ作っとくか。

左斜め45度…、手首のスナップもビシッと決めてだな。

クヒヒヒ!

 

 

「…?ナオヤさん…、様子が変だね」

 

 

「くねくねしたり、急にキリッとしたり、そしてまたくねくねしてる…」

 

 

「キモいニャ」

 

 

まーたまた俺様をオアツイ眼差しで見つめてやがる…。

そうか、そんなにかっちょいいか。

今までわかってくれんのはガキどもぐれーだとは思っていたがぁ!

ようやく!遂に!

俺様の時代!キターーーっ!!

 

 

「今度は両手を突き上げて、キターーーっ!って叫んでる!」

 

 

「太陽で頭がやられてしまったんじゃない?」

 

 

「もともとやられてるんだニャ」

 

 

「…ふっ」

 

 

「うにゃにゃにゃあ……、もう、食べられないにゃあ…」

 

 

 

 

 

 

 

ゔあ"あ"あ"あ"あ"あ"終わったぁ。

ダメ出しをいくらか食らったが、ようやく合格を出してやったぜ!

そうだよなぁ…!俺様やりゃあ出来んだ!

 

でもしんどぉい。

 

やれと言われてやる仕事ほど、嫌なもんはねぇよなぁ。

俺様もっとこう…!鳥のように自由に生きていてぇんだ!

 

 

んなこと考えながら箒を片すと、外に俺様を呼ぶ声がした。

さっきのアイツらだ。

はーいはい今行きますよって。

 

 

 

 

 

「ナオヤさんお疲れ様です!はいどうぞ!」

 

 

いつのまにか用意されていた椅子と食べやすい形に切られた果物。

うむ、苦しゅうない。

その椅子にどっかり座り込んで、果物を口の中に放り込む。

うぉっほ。フルーツ的な甘さがじんわり広がって、疲れにキューッと沁みいるぜぇ。

 

 

「ちゅーかさ、さっきおめぇらなんの話してたんだぁ?」

 

 

「秘密ニャー」

 

 

黒猫吉が素っ気なく答えて、ルノっちはクスクス笑ってる。

 

 

うーん、そりゃそうだよなぁ!

秘密にしたがる気持ち!

俺様にはわかるぜ。ふへっ。

だが悪い!もう俺様気づいちまってんだ!俺様がカッコイイっちゅー話をしてたって、こっと!

 

 

「そういや女将はどこいったんだ?」

 

 

「ミア母さんならどこかに出かけてるよ」

 

 

「どこに行ったんだろうね〜」

 

 

「珍しかったニャ」

 

 

随分と不思議そうな顔を浮かべてんな。

たしかにいつもだったら中でゆっくりしてんだろ。

だが今日は行方不明だ。

女将はどこに消えたんだ〜?

すぐ帰ってくると思うがな〜。

 

 

「なおや〜ん、なんか面白い話してニャー」

 

 

いつの間にか起きてた猫吉。

寝ぼけ眼で俺様に暇つぶしを頼んできた。

ちゅーかそこはもともと俺様が用意した椅子だろぉ。さっさと俺様に譲らんかいっ!

猫吉の手を引っ張って立ち上がらせようと俺様奮闘!

 

 

「面白い話っておめぇなあ。俺様芸人じゃねんだぞ!ちゅーか、その椅子は俺様の椅子だ!どけっ!オラっ。どけ」

 

 

「いーやーニャーぁー」

 

 

ひっぺがそうとしてもぜんっっぜん離れねぇ。あれぇ?俺様って結構力あったはずだよな?

世の中どうなってんだ。たぁもうっっ。

泣く泣く諦めて元の椅子に座る。

 

 

「あっ、私も聞きたい!ナオヤさんのお話!」

 

 

「カイドウさん。シルもこう言ってるし、なんか話してよ。リューもそう思うでしょ?」

 

 

「……まあ、そうですね」

 

 

なんだお前らまで。変なとこでノリがいいんだから。

 

 

面白い話ねぇ。たしかに俺様、面白すぎる体験目一杯してきたわけだがな。どれもこれもこの世界にゃあ嘘っぱちと思われて終わりよ。

となるとだな。

 

 

「えー……、昔々ィ…。えー、生意気なガキとかっちょいい蛇がいました〜」

 

 

…

 

 

 

 

「てな訳で、蛇が助けたガキンチョは立派な大人になって、人を助ける立派な仕事につきましたとさ!はいおしまい」

 

 

「えーっ!もう終わりニャ!?もっと続きが聞きたいニャ!」

 

 

「まさか物語を語るとは思わなかったニャ…」

 

 

「ありきたりなハッピーエンドだったしね」

 

 

「んだとぉ?ハッピーエンドがいいんだろが!わかっちゃねぇなぁ?」

 

 

「まあまあ。でもなんか不思議でした。ナオヤさん、まるで本当のことのようにお話するから」

 

 

…みんな意外と聞き入ってたな。

なんだ!もしかして俺様噺家の才能があったりすんのかぁ?

いやいや、マルチすぎる才能に俺様がビビる!

天は二物を与えずとは言うが、俺様に二物も三物も与えすぎたんじゃねぇーかな?

 

 

「どうよ?おたくの感想は」

 

 

「…シルと同じ意見です。でも」

 

 

そう言ってリューは考え込むように伏し目がちになる。

ちゅーかさ、割とリューとシル嬢ってなーんか鋭いんだよなぁ…。

 

 

この話。っちゅーか経験だな。

ちょっとしたウソがある。

 

 

蛇はもちろん俺様のことだ。

そしてガキは、照夫。

 

 

序盤の話から中盤まで、蛇がいじめられるガキを助けて、そして心を開いていく様を語った。

親を亡くして、施設に入って、いじめられちまって、抜け出して。

そうして、俺様んトコまで転がり込んできて。

 

 

最後にはガキが成長して、大人になるってんで締めくくったんだが…。

 

話してる途中で何度も思ったよ。

これ、現実だったらなぁって。

 

 

オラリオの通りを遠い目で見つめる。すると、存在感を放つ奴がやってくるのが目に留まった。

 

 

「あん?アレって女将じゃね?」

 

 

「本当ニャ!ミア母さーん!お帰りニャさーい!」

 

 

猫吉が元気よく出迎える。

犬みてーな奴だな。猫のくせに。

他の奴らも手際よくテーブルと椅子を片付けている。なんだ働く気満々だな。

 

 

「ほら!カイドウさん!立って!片付けるよ!」

 

 

「……ぐぅ〜」

 

 

「起きろなおやーん!寝たふりするニャー!」

 

 

「いって!叩くな叩くな!わかったわかったハイハイハイ!」

 

 

あぁ、俺様のプライベートタイムが無情に終わってしまった。

 

 

「みんな、ただいま。しっかり休みはとれたかい?今からキリキリ働いてもらうからね!」

 

 

「ミア母さん!おかえりなさい!どこに出かけてたんですか?」

 

 

「んん?なぁに野暮用さ。それと、ナオヤ!ちょいと頼めるかい?」

 

 

「いぃ? 俺様? 買い出しならさっきアイツらが行ってきたじゃねーか」

 

 

「まあまあ、コイツはアンタにしか頼めん仕事さね。新事業展開ってやつさ」

 

 

俺様にしか頼めない仕事だぁ? ったくしゃあねぇなあ!いっちょ一肌脱いでやりまっか!

 

 

 

 

 

…

 

 

 

 

 

「宅配サービスだあ?」

 

 

やめときゃよかった。

 

 

宅配ってそもそも自転車とかバイクとか使っていくもんだろが!

俺様バイクなら運転できんだが、お生憎様!バイクは俺様もってきてません。たとえ持ってきてもガソリンがねぇーっつーの。

 

 

「そんなに遠くないよ!持ってくもんも重かない。楽な仕事だろ?」

 

 

ほら出たこういうとこがブラックなんだよ。じゃあまず自分が一回やってみろってんだ!

人の気持ちってのがわかるから。

 

 

「んじゃ、北のメインストリートまでひとっ走りよろしく頼むよ!持ってくもんは今から用意するから、アンタも出かける準備くらいしときな」

 

 

「ってちょいおーい!勝手に話進めんなってぇーの!俺様まだやると決まったわけじゃ」

 

 

「いいから、やんな」

 

 

「…はい」

 

 

 

…

 

 

 

 

全く俺様ってどうしてもアイツのいうこと聞いちまうんだよなぁ。

思えばリューのいうことも度々聞いてたわ。くぅーっ、なっさけねぇ!

 

 

えーと北のメインストリートの…いっちゃん向こうの外れた街路の脇…。

 

『黄昏の館』ちゅーとこに届けりゃいんだよな。

馬鹿でかいからすぐわかるとのこと。

 

 

なーにが黄昏の館だよ。俺様が黄昏てえよ。何にもせずぼーっとな。

夕焼けをバックに、ぼーっとな。

へへっ。何言ってんだ俺様。

 

 

ちゅーわけで、俺様は難解な地図を何回も回転させながら道を歩く。

なるべく人気の多い道を通ってけ、と女将に言われてる。

ナオヤはすぐ迷いそうだからいつでも誰かに尋ねられるようにするためだとさ!

気遣ってんのかけなしてんのかわからんわ!

 

 

「しっかしこの荷物…、中々重ぇじゃねぇか!」

 

 

女将は軽いとか言ってたが、ありゃ女将基準だな。信用なんねぇ!

 

まっ、俺様天才だからな。

だーれにも聞かず北のメインストリートに到着だ。

 

 

「スン..スンスン。これぁ」

 

 

あぁ、また俺様を呼ぶ匂いがする。

果たしてこの妖香に耐えられる奴はいるんだろーか。

 

 

そう。ジャガ丸くんです。

そこからの俺の行動は疾風のごとく。

 

 

「「1つください」」

 

 

ん?

 

 

「ぇあ?」

 

 

「あっ」

 

 

忘れることなきあの金髪。金眼。

なんか凄そうな剣。

 

 

「久しぶり」

 

 

「お、お、お、おうん。ふうん」

 

 

アイスバレンタインデーと俺様は再会したのだ。

 

 

 

ちなみにバレンタインデーは親とばあちゃんからしか貰ったことがない。

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