ちゅーか、俺様がこんなとこにいるのは間違ってる絶対   作:ビーム

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執筆に疲れたら、YouTubeで面白い動画を観て休憩するといいですよ。おススメは「ザコシの動画でポン!」(閲覧注意)


俺様、明かす。

はい海堂直也です。はいはいはい。

 

今俺様ちょっと困ったな。目の前のガ…神様に…圧をかけられちまってる。なんでかは知らねーが!

 

今の状況を説明すると、

手を組んで顎を乗せたまま、妖しく笑ってやがんのがロキ。

死んだ目をして肩を狭めているのが俺様。

この2人は向かい合って高級なソファーに座っております。

ちゅーかこれが…圧迫面接ってやつなのか?

 

いやっ!ちゅーかなんでだよぉ!俺様荷物届けに来ただけじゃあねぇかぁ!こんな筋合いねぇっつうのぉ!ふざけんじゃあねぇ!今すぐ立ち上がって奴のお尻ペンペンしてやろうか…!

 

 

「カイドウくん」

 

「はい」

 

 

借りてきた猫のように縮こまる俺様。精々目を合わせるくらいが関の山っちゅーか。

 

 

「わざわざ届けにきてくれておおきになぁ?大変やったやろぉ」

 

「…やぁ、べつにそんなことないっすけどね。はい」

 

 

労いのお言葉どうもありがとう。

目が全然笑ってねぇんだよ怖ェーよ。俺はもう頰とか頭を掻くことしか行動が許されて無いような…気に…苛まれ…

 

 

「なんや、ウチのアイズたんに案内してもらったって?」

 

「えぇ、まあ、はぁい、そうしてもろたんですけども…」

 

「ヘェ〜〜〜〜〜…どやった。可愛いやろあの子」

 

 

は、はぁ〜?質問の意図が読めねーっちゅーの…!なんのことだ!?どう言やぁいい!俺様は可愛いかったと答えりゃいいのか!?

でもそんなこと言っちまえば、

 

"なんやて!ウチのアイズたんには誰にも渡さへんぞこの変態野郎!"

 

とか言われて殺されそうだ。かと言って、可愛くないと言っちまえば、

 

"アイズたんの可愛さが分からんとかとんだ節穴野郎やな!"

 

とか言われて殺されそうだ。

 

…あれ、俺様チェックメイトしてね?

 

 

「はよ答えんかい」

 

 

ハイ神さま催促のコール入りましたー。海堂直也、これより散ります。

 

 

「……確かに、か、か…」

 

「かぁ?」

 

「えー!かっ、可ァ憐だったけど!なんだ…その、ちょっぴり…寂しい感じもしたなっ。あ、いえ、しました。いや悪ィ意味じゃないっすよ!?いい意味で!いい意味で!!うん!その寂しさがミステリアスで美しくて、あーいい子だなぁーって!へへ、へ」

 

 

身振り手振りを忙しなくさせながら俺様は背中で冷や汗をかく。

思わず、俺様がアイツに対して思ったことをそのまんま喋っちまった。

柄にもなく人を褒めまくるということが慣れてねぇから色々間違ってるかもしんねぇ…

反応…どう?ど、ど、ど、どうすか?

ゆーっくり目線を上げて顔を伺う。

 

 

「………」

 

 

ロキは考え込んでるのか目線は俺様から外していた。

思案顔を伺うっちゅーわけだが…

う…、糸目だから分からん…!

表情が読めねぇっちゅーのはどうもやりにくいぜ…!

うわ、目が合っちゃった。

サッと顔を背ける俺様。

変わらず、妖しい笑みを浮かべたままロキは尋問を続けてきやがる。

 

 

「ほな、カイドウくん」

 

「あっ!ハイ!ハイハイなんでしょうか?」

 

「アイズたんとは、なんか話したんか?」

 

 

なんなんだ?俺様さっきからなんか罰でも受けてんのか?

大したことない質問なのに重圧でせが縮こまる…!

この感覚は、あれだ。

結婚の許しを相手の父親にもらいに行く時のやつだ。俺様そんなのしたことないけどな。

 

 

 

「アイズたん、クールビューティやからなぁ〜!あんまりよう喋る子というわけやないねん」

 

「はぁ」

 

「せやから、どないな話、したんかなって?」

 

 

まさか無言で案内してもらったわけやないやろ!?っていう顔で俺様を見つめている。

いや、表情読めねーけどなんとなく雰囲気でわかんだよ!

まあ、そうだ。確かに話したっちゃ話したが。

 

 

「まあ、話したっすね」

 

「ヘェ。何を?」

 

「ジャガ丸くんの話です」

 

「!?」

 

 

おお、こけたぞコイツ。

思わずずっこけるロキ。

うわ、もしも漫画だったら結構いい擬音鳴らしてんじゃねーか?ってくらい、良いズッコケっぷりだ。

拍手してやろ。しないけど。

ロキは体勢を立て直すともう一度聞き直してきた。

 

 

「はっ?えーと、ごめん、なんやっけ?」

 

「ジャガ丸くんの話」

 

「マジ!?マジにそんなん話したん!?や、でも確かにアイズたんはジャガ丸好きやけど!」

 

 

なんかすげぇブツブツ言ってんな。

さっきからコイツの情緒が不安定すぎるぞ…!ちゅーか、俺のこと訝しみすぎだろ。

 

 

「…じ、じゃあアイズたんの好きなジャガ丸くんの味は!?」

 

「へえっ?急にクイズ形式ですか」

 

「答えられるやろ!そんな話をしたんなら答えられるはずや!」

 

「えっ、えー、小豆クリーム味です」

 

「んなっ…」

 

「っスよね?」

 

 

嘘や…みてーな顔しながら、ぐでっとソファーに寄りかかるロキ。

ちゅーかよく覚えてたな小豆クリーム味。ナイスだぜ俺様。

んでもまぁ!コレで俺様がマジにそんな話をしたって証明になったな!

ざまみろ!俺様は怪しいものではございません!

 

 

「……ずっとジャガ丸くんの話をしながらこっち来たん?」

 

 

ソファーにもたれたまんま、呟くロキ。

さっきまでの威圧感はまるでどっか行ったな。こりゃ早く帰れそうだ。

 

 

「えーっ、うん、別の話もしましたね、俺様」

 

「それや!」

 

 

うわっ!急にガバって立ち上がって元気になりやがった!お前!まだ続けんのか!ンな大したことしてねぇよ俺様!

 

 

「ちょお、その話も聞かせてもらおか!一体どんな話をしたんや」

 

「ま、恋バナしましたね」

 

「ちょっとごめん。もっかい言って?」

 

「恋バナっすよ〜。こ、い、の、は、な、し。へへ」

 

 

ロキが天を仰ぎだした。

うつろな表情。

 

 

「ウチのアイズたんが、天使のアイズたんが…恋…?嘘や…嘘やと言って…」

 

 

え、なんか間違ったこと言ったか?

あのがっかり様はなんだ?

俺様、嘘なんかついてねえよ?

マジに話したモンな!うん!

 

 

「…ま、まあ、俺様の恋の話ィ〜なんだけど、ね!俺様の!」

 

「あ、あ、あ〜ぁ!そうなんや!なんやそういうことやったらカイドウくん早よ言わな!」

 

「うわ、急に元気だなおめー」

 

立ち上がってバンバン叩いてくるわこの神。関西弁の神は立ち振る舞いもそんなもんなのかね。

 

ちゅーか、神っちゅーのはなぁ〜んか保護者気質だよなぁ?ヘステーんときもそうだったな。慈愛っちゅーのか?そういうのがベル坊に対してカンストしてたぜ。

 

ちゅーかロキのやつ、すげえ元気になってやがる。俺様の恋に興味深々すぎやしませんかね!身を乗り出してまで!

 

 

「で?で?ウチもカイドウくんの恋、聞きたいで!どんな恋をしたん?どこまで行ったん?やったん?」

 

「…コレ俺様答えねーといけねーのか?」

 

「アイズたんには話したんやろー?ウチにも聞かせてや!楽しそうやし!」

 

「はぁ!?そんな理由でテメ、俺様の精神的サンクチュアリィに侵入してくんじゃねー!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

全部吐いちまいました。

 

道中アイズに話していたことをそっくりそのまま!

しかしまぁ〜、このロキってやつがすげぇ聞き上手でな!ついつい、余計なことまでくっちゃべっちまうんだわチクショっ!

ロキのやつは糸目のくせしてキラキラ輝かせながら俺様の話を聞いている。ついつい俺様も乗せられて話し込んじまうってわけだ。

 

 

「ほんで!?ほんでその真里って子には彼氏がいたんか!?」

 

「まあ待て落ち着け神よ。…そうなのだ、彼氏がいたのだ!その女にはな!」

 

「ヒィ〜!なんつー修羅場やねん!なんや、そいつらめっちゃラブラブやったんか?」

 

「ンめっちゃラブラブだった」

 

「ヒィ〜〜!!」

 

 

もうさっきの殺意ムンムンルームとは打って変わってスーパーなごやかルームだぜ。しかし俺様の黒歴史がほじくられまくっているのでやはりダメージは確実にもらっている。

痛い痛い。

 

 

「まあ、彼氏がいようがいよまいが関係なかった俺様はだな…」

 

「ほんほん」

 

「白スーツでめかしこんで赤薔薇の花束持ってプロポーズを申し込んだのだ!」

 

「マジでか〜っ!漢気溢れるなぁカイドウくん!」

 

「いやぁ、褒めてくれるなよ。照れるじゃねえか〜」

 

 

すっげえ不本意な褒められだけどな…

もう正直俺様こんな話したくねぇーんだが…!話を止めたら止めたでまたさっきの微妙な雰囲気はもっと嫌だ!面倒臭くて逃げたくなる!

 

 

「はぁーあ!笑わせてもろたわ〜!カイドウくんやっぱおもろい子やな〜!」

 

「だ、だろ!?俺様、わりかしこういう路線で進めていっても上手くいくと思うんだわ!」

 

 

や、やっとおはなしは終わりですか?もうだいぶ心は削れつつあるのでひとまず国へ帰らせていただきやす。

おもむろに腰を上げる俺様。

結構の間話し込んじまったみてーだな。関節という関節がポキポキ鳴りまくる。

 

 

「なんや、もう帰るんか?カイドウくん」

 

 

ひとしきり笑ったのか目をこすりながら見上げてくる神。

 

 

「ま、まあそうだなっ。俺様っ、えっとなんだ、あぁ!女将を待たしてるといけねぇから!」

 

「あぁ、ミア母ちゃんな」

 

 

へへ、なかなか筋通った理由じゃねえか。女将をダシに使ったけど特に迷惑かけてねぇしいいだろっ!?

そもそもこんな客の相手させられちまったんだからな!もっと給料を上げてもらっても文句言われねえはずだ!へん!

 

 

「そ、そ、そうそうそう。ミア母ちゃんね。母ちゃん。んじゃそういうわけで〜〜俺様〜〜……帰るわ」

 

 

とりあえず脱いだ帽子をいそいそ被って閉められたドアに向かう。

もちろん女将を待たせちまってるかもしれねーが、ちょいと寄り道したって文句言われねーだろーな。

帰りにジャガ丸を買おう。そうしよう。

そう考えながらドアに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後ろに気ぃつけてな」

 

 

 

 

 

「ッ

 

突如として怖気が背後にまとわりついた。俺の後ろに。何か鋭利な刃物でも突き立てられてんじゃねぇのかってぐれーの。

あらゆる感情が俺の中に流れ込んでくる。脳みそが対処しきれねぇ。

 

 

ジクジクとした畏怖。

 

 

気持ち悪ィ。

 

 

離れたい。

 

 

反撃を。

 

 

攻撃。

 

 

それらを振り払うかのように身体ごと振り向いた。

 

 

「……」

 

「………な」

 

 

別に大したことはなかった。

さっきまでと同じ。

ロキがフツーに座って、フツーに俺様をみているだけだった。

後ろから急に襲いかかられたとか、そんなんじゃなかった。

 

 

 

いや、何か違和感だ。

 

ロキの顔が、険しい。

…驚いてる様にも見える。

 

なんだ…、なんなんだ。

俺の顔に…、何か。

 

 

顔。

 

 

「そういえばなぁ」

 

 

不意にロキが口を開いた。

 

 

「こんな話を耳にしたんや」

 

 

俺は聞いていることだけしかできない。

 

 

「ダンジョンで、白いバケモンを見たっちゅう、噂」

 

 

…………

 

 

頭が灰一色に染まる。

これからどうする?

どう説明する?

 

嘘をつくか。

無理だ。

 

シラを切るか。

無理だ。

 

襲いかかるか?

そんなのはもっと無理だ!

俺が、俺が絶対そんなこと。

 

奴の目が刺さる。

目が、思い切り引きしぼられ放たれた矢のように俺を射抜く。

 

まるで裁判にかけられたみてーな。

これから、処刑されるんじゃねえか。

 

 

 

こんなところで、バレるのか。

俺は。

 

 

今までの安息は。

どうなる?

 

 

怖い…

 

 

 

どうすりゃいい?なあ教えてくれよ…

 

 

 

誰か…

 

 

 

 

『でも、ずっと黙って悩んでいるばっかりじゃ、何も進まないんだ』

 

 

 

 

『そんな俺の理想を!……君は馬鹿にしてたんじゃなかったのかな』

 

 

 

ばっきゃろ…

 

 

「その顔」

 

 

違うだろ。

 

 

「キミのこと…違うか?」

 

 

俺はな。

 

 

「…あぁ、そうだよ」

 

「…」

 

 

 

ーーーーーお前のように生きて

 

 

 

 

「俺様が、その怪物だ」

 

 

「……」

 

 

「文句あるかぁ?ばっきゃろーが!」

 

背をピンと伸ばして、アイツの目を見据えて、どーどーと言ってやった。見てるかよ木場。ヘスティア。

一歩進んでやったぜ。

 

へっ。神さんよ、ビビって声も出なくなったか。なんか、言ってみろよ、オイ。

 

 

「…そうなんか」

 

「んだぁ?言いたいことあるんなら言えよ神様よ。俺様をどうするつもりだ」

 

「いや、無いで」

 

「…え?」

 

「どうするつもりも無い」

 

「ンンンン無いんかいっ!!!!無いんかい!!!!」

 

 

え?

 

 

オイ!ホントに無いのかよ!

殺される覚悟だったのに!

ウッソ、なんか俺様めちゃくちゃシリアスっぽかったのに台無しじゃねーか!?

 

 

「なんやその、残念そうな顔は」

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、フツーそーなるでしょーが〜!なるでしょーが〜〜!もっとこう…!なんか!あんだろ〜がぁ〜!!」

 

 

膝から五体投地で崩れ去る俺様。

バラす覚悟を決めた!

一歩前に進む覚悟もした!

そしたらぁ?急に708歩ぐらい歩かせられたよーな気分だぞこれ!

嬉しいようで虚しいぜ!

 

 

「ほら!俺!バケモンだよ?今オメーがみてるのは世を忍ぶ仮の姿!なんだって!」

 

 

近づいて両手をンバって上げて襲いかかるポーズをするが、向こうはまっっったくの無反応。それどころかため息をついてやがる。

 

 

「なーにをそんなにびびっとんねん」

 

「はっ!?あっ、いやビビってねぇし!ビビるって誰が!」

 

「ま、一旦落ち着きや。キミ、今驚きと喜びでキャパオーバーしとるで」

 

「ぅぇっ…う、う、う、うん…」

 

 

口ん中に菓子を突っ込まれた。

甘みがじんわりと広がっていく。

とりあえず座ることにした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ちゅーか、なんで俺がオルフェノクだってこと、わかったんだ」

 

「オルフェノクぅ?そういう名前なんか」

 

「あ。…んまぁ、そういうことだっちゃ」

 

 

状況は逆戻り。

向かい合って再びご対面。

しかし雰囲気は明らかに好転している。先ほどまで冷めやらぬ興奮を抑えるのに必死だったが、ようやく落ち着くことができた。

 

 

「だって、顔になあ?」

 

「あ、見えてた?」

 

 

やっぱオルフェノクの紋章が浮き上がってたか。ちゅーか結構浮かび上がらせちまってんでは無いでしょうか?色々な場面で俺様。

ロキはまた妖しーい笑顔で人差し指を立ててきた。

 

 

「ちょお、もっかいやってくれへん?」

 

「は?なんだと思ってんだぁ?俺様のこと」

 

「いやあ、さっきのあんまよく見えへんかったし…確認しておこかなと」

 

「嘘つけェあッ!バリバリ見てたでしょがッ」

 

 

大道芸人じゃあねぇんだよこっちはよ!ったくぅ!

それよりも!んなことよりも!もっと重大な!じゅーーーーだいな!

話がある!

 

 

「で!俺様がその…バケモンでよ!」

 

「せやな、で?」

 

「なんか…捕まえろー!とかぁ、やっつけろー!とか怖いー!とか!無い!?な、な、の、無いのか!?」

 

「キミより怖いのは迷宮に腐るほどおるで」

 

 

そ、そうかも。コイツらはそうだった。

いや、話がちげえーだろぉ〜!?

コラ!何ため息ついてんだ!

 

 

「ちゅ、ちゅーかっ!モンスターが街を歩いてるんだぜぇ!?未確認生命体がよぉ!」

 

「まあ、せやね」

 

「せやでっ!!?」

 

「キミは暴れとるんか?」

 

 

暴っ…?

暴れ?俺様が?

 

 

「あっ暴れてないです」

 

「なんか悪さしとるんか?」

 

「悪さしてないです…」

 

「じゃあええやんか」

 

 

な、な、な、なんだぁ〜っ?

この、コイツ。

 

すげぇ適当な返事するじゃねーか。

一体何をもって俺様のことを判断してんだ!

 

 

「オルフェノクのこと、誰もまだようわからんのや。どんな力を持ってるのか、どんな害を及ぼすのかをな」

 

 

『ヒッ…!く、来るな……! 化け物…!』

 

 

俺様はどっかで会った冒険者のことを思い出した。

 

わからねえから、怖い、か。

 

 

「でもなぁ〜。キミの人となりっちゅうの知ると、なんや大丈夫やなって気がするんや」

 

「それは…勘ってやつか」

 

「勘や」

 

 

はっ!神様ってやつもおめでてーやつばっかだな…ちゅーか。

 

 

…。

 

 

「まあ、ウチが次に知りたいのはオルフェノクの特徴ってとこやねんけどな?」

 

「あ?」

 

「それは別の機会に…ということにしとこうや!」

 

 

そういうとロキは立ち上がって背筋をぐぅーっと伸ばし始めた。

どうやらこの話はおわりみてーだな。

 

 

「悪かったなあ〜カイドウくん。疲れたやろ?ウチに捕まっとったってミア母ちゃんに言いわけしてええからな」

 

 

ケッ、にやつきやがって!

俺様、オメーみてーなタイプの神はもうごめんだぜ。

 

 

「言ぃーわれなくたってそうするっつーの…!」

 

 

俺様もぐぅーっと体を伸ばしきる。限界まで。いやぁ、緊張しまくってたみてーだな…。まーた体がボキボキなりやがる。俺様、自分を酷使しすぎだろが。

 

 

「ほな、気いつけて」

 

「へーへー、とっとと帰ってやるぜこんなとこ」

 

 

神の相手も疲れるぜ。

んでもまぁ、たまにはいいか?

 

やっぱよくねぇや…

 

 

早く帰ろ…

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

外に出てみりゃあ、アイズと褐色女が暇そうに喋っていた。

俺様たちに気づくと褐色女が興味津々な目で俺様を見つめてる。

対照的にアイズは小さく手を振っている。無表情で。

ちゅーかアイズはまあわかるけど、あの褐色女は誰だったっけ…?

 

 

「2人ともお疲れやで〜。まあ、大した労働にはなってへんと思うけど!」

 

「な〜んか気持ち悪いのばっかりだったよ」

 

「ちゅーか、コイツらここで何してんですか」

 

 

見た感じ外見がどうのとか目立った痕跡はねぇし、つまりコイツら俺が話し終わるまでずっと外で話してたってこと?どんだけ暇なんだよ…!

 

 

「何って、適当に相手してあげただけだよ?」

 

 

そう言いながら、目の前の女は手刀でしゅぴっと(くう)を切った。

褐色女、なんかお前はヤバそうだ。

ちゅーかお前は誰だ。

酒場で見たけど。

 

 

「アイズ…コイツ誰」

 

「ティオナ。冒険者で、私の友達」

 

「あなたって豊穣の女主人にいた店員じゃん!どうしてここに?」

 

「んん…、デリバリーだよデリバリー。届けにきたんだよ」

 

 

なんか…今日は色々と疲れたわ。

早よ切り上げて眠りたいわぁホンマ…

 

あかん、アイツの関西弁、感染っとるやんか。

 

 

「ちゅーか、俺様、もう帰る。次からは、別のやつに、届けて、もら、え」

 

「あらら〜。アイズ、悪いけど送ったってくれるか?」

 

「わかった」

 

 

んだ…?アイズが送ってくれるらしい。いや、余計なことすんなって言いてぇ気分だけど、まあ今日ぐらいはいいか…今日ぐらいは…

 

 

ようやく、俺様は()()昏の館を脱出することができた。

もう2度と行かねー。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

猫背でだらしなく歩く男の背を見据えながら、神はこれから彼の身に起きることへの興味が湧いていた。

 

アマゾネスの一級冒険者、ティオナ・ヒリュテは訝しむ。

 

 

「さっきの、気持ち悪いの。もしかして、あの店員が狙い?」

 

「…かもな」

 

 

路地裏の隅には、第一級冒険者の手刀で気絶した男達の山ができていた。お互い名を知らぬ、顔も知らぬ。若い男もいれば、壮年の男も。

しかし全員、共通してその瞳は何かに魅了されたかのように虚ろであった。

 

 

「ミア母ちゃん、お代は確かに受け取ったで」

 

 

イラついたかのようにロキは舌を打つ。

このオラリオに、不思議な存在がやってきた。

人間のような、怪物。

どちらが、本当の彼なのか、ロキには未だ判断をつけられずにいた。

彼の持つ力が、災害になるのかどうか、見極めたかった。

 

 

(ともかく、情報や。オルフェノクについてはあの子からしか引き出せん…)

 

 

存在を知ってしまった以上、そしてもう一つの勢力に好き勝手されるのが我慢ならない。

何より、自分の子供達に、被害を被るのは避けたかった。

彼はその可能性を、持ちうる。

 

 

オルフェノク。

 

その言葉からロキはとある吟遊詩人を連想していた。

 

 

 

オルフェウス。

 

神話の竪琴の名手。

亡き妻を連れ戻そうとしたが望みを果たせず、トラキアの女達に八つ裂きにされた。

 

 

(なにか、関係があるのか?)

 

 

いつになく思慮深く、ロキは消えゆく背を目で追っていた。

 

 

「……カイドウくん。ほんまに後ろに気いつけるんやで。ウチがオルフェノクのことがわかるまで…死なんように」




まぁ、別に大丈夫だと思いますけどね。海堂1人くらい。

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