ちゅーか、俺様がこんなとこにいるのは間違ってる絶対   作:ビーム

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感想欄での貴重なご指摘により、大部分を修正しました。
申し訳ありませんでした。
ご指摘、本当にありがとうございました。
以後、このようなことが無いように努めますので、今後ともよろしくお願いします。


俺様、限定品を食す

ぼんじょるの!

 

泣く子も笑う!

 

海堂直也様だ!

 

笑え!ものども!

 

 

 

 

………

 

 

 

 

はい、沈黙をどうもありがとうごぜぇます。

 

本日はたいへんお日柄も…そんなによくねーな。絶好とも言わねーが掃除日和ってやつっすな。くそっ。

 

そんな日和様々ってか、俺様は入り口付近とオモテの掃除を仰せつかっちまった。だから、掃いてる。うん。

イッツ!労働タァイム!

 

噴き出す汗を拭いながら、あるのか無いのか、またはあったとしても目にはぜってー見えねー塵を掃いていく。

 

こんなもんやってもやらなくても見栄え変わんねーだろ。

 

そんなことをぼやいてやろうかと思ったが、後がおっそろしいのでやめといた。

 

 

「…こんなもんか」

 

 

一応、隅から隅までっぽいとこまで満遍なく。

見た感じ、綺麗さっぱりこざっぱりである。

こんだけやったんだから、後からドヤされんのはもう勘弁願いたいもんだぜ。

 

背後からギィと戸が開く音。

横目でチラリと見やるとルノっちがもーしわけなさそーな笑顔で、布巾をこちらにヒラヒラと振っている。

俺様は眉をチコっとひそめることでそのビミョーな笑顔に応える。

 

 

「カイドウさーん。ちょっとミア母さんに呼ばれてるんだけど…」

 

「あーー、はいはいはい俺様が代わりにテーブル拭いとけってこったろ?任せろ任せろ行ってこい」

 

「ごめーん!ほいっ!」

 

 

投げ渡される布巾。

放物線を描きながら俺様の胸に飛び込もうとする。

 

 

「ぅおっ!……っとぉ」

 

 

直撃寸前で片手でキャッチ。

 

 

「ナイスキャッチ!よろしくねー」

 

 

そういって、中にささっと戻ってしまった。

俺様もボケーッとしたまんま中に入る。

 

ちゅーか、なーんか態度がなっちゃいね〜な〜?ルノっちよお〜。布巾を俺様に投げつけるとか!

俺様ってば、もう大人さんなのよ?年上に対する敬意ってもんが足りて……な…?

 

 

あれ?そいやさ、

アイツらって何歳なんだ?

 

そういえば、まともに考えたことなかったなァ、年上なのか年下なのか。

そりゃ、見てくれは俺様の方がダンディでアヴァンギャルドな年上紳士だろーけどよォ〜。

実際、案外見た目っちゅーのはアテにならねーもんだよな。うん。

シル嬢だって、たまに大人みてーな雰囲気出すし。

 

まあ、せいぜい18、19くれーかな。

 

ンなことを考えながら、いちばん端からカタカナのコの字を描くようにテーブルを磨き上げる。

コレはシル嬢に教えてもらった技だ。

このやり方が効率がいーんだと。

 

…清掃検定があったら俺様合格してるかもな。

 

よしっ!速攻で片付けてやるゥわッ!

 

はっ!

オリャッ!

せいっ!

拭き拭きーの!

 

磨くぜ磨くぜェ!

俺様の清掃技術を讃えよ!この机も!このテーブルも!これもこれもこれもこれも!どいつもこいつもピッカピカにしてやんぜぃ〜ッ!

うおおおおおおおおああらああああああああああああぁぁ……ァ…ぁぁ…

 

目にも留まらぬスピード、しかしそれでいて丁寧。

仕事において非常にパーフェクトな動きの俺様だ。全てのテーブルを艶が出るほどに磨いていく。

 

…しかし、代償として俺様は大事な体力を奪われる。これをやった後は大体休憩がないとくたばっちまう諸刃の掃除だ。

 

「18、17、16、15、14、じゅうさん、じゅうに、じゅうい…ちぃ…!」

 

疲れがみるみる溜まっていくのを感じる。しかし、あと少しの辛抱…だっ!

 

 

あと、三つ。

 

 

 

あと二つ。

 

 

 

アッ..後一つ拭けば、拭けば…拭いて…

 

老けそう……だ。

 

 

「……ハァッ...よしっ、ハァ終了ゥフゥ。も、も、も、もうやめっ」

 

 

ハァッ...ヨようやく、ようやくハァ全部のテーブルゥフウ...拭き終えッオエッ!....た。

 

 

 

 

「せーの…いよいしょおー!うおおおほほほほ!!鳴ってる鳴ってる!あ♡気持ち…良い…♡」

 

 

ずっと中腰だったもんで、姿勢を正すと背骨から気持ちーい音が鳴り響く。

同僚共から冷てー視線が刺さる。

しかし、触発されたのか猫吉だけは背筋グーンと伸ばし切って気持ち良さげな顔をしている。

さながら、ヨガの猫のポーズだ。

ちゅーか、まんま猫だ。

 

 

さて、皆々様方。

お気づきになられたでしょーか?

 

聡明な方なら、『あっ、全然ちがうな〜』とかなんとか感じるでしょう。

えー、違和感を!

 

 

 

え?なんの違和感だって?

 

 

 

 

 

俺様だよ。俺様こと、海堂直也。

 

だいぶ、中身が変わった…いや!

変えられた!気がする!

 

そう!例えばだ。

 

前より体力がついてきたのを実感したのよ。

 

体力つっても、運動神経の方じゃねぇい。俺様に仕事に対するエネルギー量ってやつか。それが、増えた。

 

まー、なんちゅーか!俺様最初っからは『労働なんかクソくらえー!』とか、『死んでも働いてなんかやるもんかよー!』って思ってたけどよ。

(まあ、ぶっ飛ばされて無理矢理やらされんのがオチだったが)

 

いつのまにか、労働に従事しまくってる俺様がいる。

おはようございますって早起きをしてる俺様がいるっ!

 

そう、慣れちまってんだな、この環境に。

くたびれたーとか、休みたいー、なんて微塵も言わなくなった。

なんでだろーな?

今までは嫌々仕事してたってのに、今や進んでやっちまってる。

俺様は、仕事に対して面白みを感じ始めてしまっているっちゅーわけ。

 

そうだな、初めて給金を貰った時とかも。

ありゃあ、こみ上げてくるもんがあったな。そうか、俺様はこんなにも……出来る男だったか!想像通り越して予想以上だぜぇ!手がつけらんねぇ!!

 

中身を見たらテンションブチ下がったけどな。

学生のアルバイトかってんだ!

 

 

まあ、そんなこんなでうよきょくせつございましては!

 

おかげさまで!ただ今、俺様、労働の犬でございまーす!

 

私、海堂直也は、はたらくことに対してなんの不満も持たなくなっちまいました!俺様の人間らしさに磨きがかかってきたもんだ。

 

 

しかしまあ!ここまで成長できたのはひとえに(俺様の力が大半に決まってるが)アイツらのおかげ様でもある。

今度はなんか、奢ってやろうかな。

ジャガ丸くんとか。

 

(多分)年上様としての度量を見せてやらんとな。

 

 

「なおやん〜、そろそろ休憩するニャ」

 

「おっしゃキタキタぁっ!休憩なら俺様に任せとけぃ!」

 

「なおやんは休憩だけは得意分野だからニャ〜」

 

「ばーろーっ!てめらっ!それ以外も得意だっちゅーの!」

 

 

黒猫吉と猫吉をかるーくあしらいながら、椅子にドサっと座り込む。

疲れがじんわりと暖かい熱となって体中から吹き出てるみてーだ…

 

俺様は椅子の背もたれに身を任せ、深く、深く二酸化炭素を吐き出しながらゆっくりと目を閉じた。

 

いいかな諸君。英気を養うところにも俺様はいつだって全力なのだ。

 

 

 

 

     ーーーーーーーー

 

 

 

 

「……」

 

 

黙々と飯を口に運ぶ。

 

ただ今、朝飯時だ。

 

ここいらでよーく噛んでよーく食っておかねぇと、夕方ごろのラッシュで大体吐き死ぬ。

人手は足りてるっちゃ足りてるんだが冒険野郎どものペースが早い早い。

 

俺様だって、最初の頃は深夜まで働くと聞いて卒倒したもんだ。

あん時は昼飯を抜いちまったのが間違いだったな。

 

朝はのんび〜り、昼はのほほ〜んとしてて、夜の喧々轟々とした裏方!破竹の勢いで飛び出す注文の量!

嵐みてーな時間がやってくんのが嘘みてーな安寧だ。

 

 

あっ、これが嵐の前の静けさってやつかもな。

 

 

夕ご飯か?

隙を見て上手いこと食ってるよ。ただしあんまり落ち着いて食えるわけじゃあない。

 

だからこそ、朝、昼は唯一の至福の時間でもあるわけだ。

 

こんな時間、全力で過ごす以外に他はねえだろ。

 

食器を置く。

満腹感がじんわりとやってきて、再び眠気を誘ってきやがる。

 

 

てなもんでだらしなく足をほっぽりだして微睡の白昼夢を満喫する俺様。

あ?朝なんだから、白朝夢ていうのか?わからんけど。

 

視線はおぼつかず、ボケーっとしながら天井やら目の前を通り過ぎる人の影を見つめる。

 

ふと、ぼやけた黒い影が視界に現れたので、眼のピントを合わせようとする。

 

くっきりとした視界に映るのは、ボロついた姿の黒猫吉。

格好はいつものウェイトレス姿じゃあない。動きやすい…その、なんだ。

 

そーだラフだ。ラフな格好をしてる。

スポーツウェア?みたいな?

ちゅーかなんでだ?

しかもなんか微妙にくたびれてるし。

 

 

「なんニャぁ… ジロジロ見て」

 

「…」

 

 

視線に気づいたか、鬱陶しそうに俺様をねめつける。背筋を伸ばし、こりをほぐしながら漏れ出た言葉は、俺様が前々から気になっていたことだった。

 

 

「んぐぁ……っと、オメーってさ、トシが、えぇ〜っ、10、10ゥ〜〜………?」

 

 

「……レディにトシを聞くなんて失礼極まりないニャ」

 

「んああ、野暮ったいこと聞くんじゃねぇですよ。俺様とお前の仲だろぉ?はーい、3、2、1、カミングアウッッ!」

 

「なおやんの2個下ニャ」

 

 

「あーはん、21ね。ハイハイなるほ……えっどぅびょっじゅ、ニジュウダイ!?」

 

 

あっという間に夢心地から引きずり戻され、思わず椅子ごと後ろに倒れ込みそうになる。神的バランスで上手いこと戻ってこれたが。

 

ちゅーかオイ!20代で語尾が『ニャー』は恥ずかしくないのか!種族だからなせるとか言われても、俺様見てらんないよ。

 

んで、酒場で働いてるっちゅーことには……

えーまあ、ここは日本でも居酒屋バイトとかザラだし、別段俺様がとやかく言うことはねーけど。

 

この猫!俺様より年下だったとはなァ!

 

年功序列にはとやかく言うぞ俺様は!!

 

椅子の上で、足を組みながらふんぞりかえる。

 

 

 

「んなァ〜るほどなァるほどなるほどね… まぁー、なんだ!気持ちはわかるぜぃ若者よ」

 

「ニャア?」

 

「大人には逆らいてぇ。敬語なんざまっぴらぴら。ルールや社会に縛られたくねぇ。そうだよな?世の中ってのは何が正しくて、何が正しくねぇのか、それは誰にもだーれにも!決められねぇよ」

 

 

腕を組みながら俺様はうなずく。閉じたまぶたの裏にはありありと、俺様の若い頃の情景が蘇る。

あの頃から縛られない俺様であった。それは今でも変わらないつもりだ。

 

 

「俺様も同じだったぜ?ガキみてーなトシのときは、生意気真っ盛りさ。大人にはよく反抗したし、よく殴られたもんだ」

 

俺様は語りに熱が入り始める。

しかしその聞き手はどうだろうか。

目の前の猫は立って聞くのに疲れたのか、椅子を引っ張り出して座っていた。どっから出したか櫛で髪を梳かし出している。

 

 

「……あの聞いてる?」

 

「聞いてるニャ〜」

 

 

目元は手鏡、そびえ立つ猫耳は俺様の方向に向けている。

まあ、聞いてるならいいか。

中断していた話を続ける。

いつのまにか、シル嬢やルノっちなどのギャラリーもちょこちょこ増えだした。

 

 

「ただな?人生において。この人だけは尊敬できるっていう、のが必ず現れるんだよ」

 

 

ある人は其れを、先生と呼ぶ。

 

そうさ。いつだって、あの先生には敵わなかった。なんだったら、今のこの俺様の姿を見てもらいてーもんだ。

 

 

木場だって…まあ、先生みてーなもんだ。いろいろ、教えてもらったしな。

木場には見せたくねーんだけどな!働いてる俺様は!なんか!

 

「オメーにはその存在が必要っちゅーわけだ」

 

「いらないっちゅーわけニャ」

 

「コラ!俺様のマネすんなっ。ちゅーわけで」

 

「わけで?」

 

「俺様のことを師匠と呼びなさい」

 

「…は?」

 

 

俺様が自信満々気に胸を張る。

しかし、返ってくる言葉はなく、ただ

あたりに静けさが滲み入る。

黒猫吉なんか、感動で櫛を落としてら。ふふ、そんなに嬉しいか。

 

そうだ。大人であるこの俺様が、こいつらの人生の指標になってやるのだ。

師匠だけに、指標ってか。

 

 

…今のナシで。

 

 

とにかく、この俺様が師匠になってやることで!新しい生き方ってヤツを教えちゃる!3年も経ちゃあ俺様に

 

『カイドウさん!お茶をお持ちしました!』

 

『師匠!おはようございます!』

 

ってな。

未来ある天才の卵よ。磨けば光るもんは誰かしら持ってる。

酒場で終始労働に従事するよりも新たな自分を探してみよーではねーか。

 

 

ついでに!

 

 

 

「お前らもっ!」

 

 

「ニャ?」

 

 

「は?」

 

 

「…」

 

 

「えっ?」

 

 

「いつでも!師匠である!俺様に!頼っていいんだぜっ!!」

 

「…いやぁ、手のかかる弟でしょカイドウさんは」

 

 

は?

誰だ今の!

誰だ今俺様のことを弟扱いしたヤツァ!

憤慨して、勢いよく立ち上がる。

 

 

「あ…あぁ〜〜〜〜ァ!????なな、なんだそりゃっ!?弟ですか!?フツーはお兄ちゃんだろが!こら!」

 

「その、精一杯背伸びしようとしてるところとか、子供っぽいニャ」

 

 

背伸びだぁ〜あ!?バリバリ178㎝の高身長だっちゅーの!

 

 

「あと…なんだろ、トマトが嫌いなところとか、子供っぽい」

 

「トマト!?いや、アレは食えねえだろ。酸っぱいし、なんかその、青臭いし」

 

「あー、なんとなくわかるニャ〜」

 

「ほらそういうとこだよ!」

 

 

ルノっちにしぱっと指を刺されるが、どういうことか分からない。逆立ちしたってトマトを食える気配はねぇ。

ケチャップなら好きなんだけどな。

こりゃ不思議だ。

 

 

「ケチャップは旨ぇ〜んだけどなあ……じゃなくてぇい!もっと俺様に敬意を払えってんだ!!俺は!23!に、じゅ、う、さ、ん、で、すぅ〜ッッッッ!!何歳だオメーら!」

 

「えぇ〜?女性に年齢を聞くの?ちょっとカイドウさん、デリカシーがさぁ…」

 

「乙女心が分かってないニャ〜」

 

「やっかましい!!もうネタは上がってんだよ!!観念しろ!ハイハイハイ!」

 

ため息をつくルノアくん。大人の言うことは聞いとくもんだよ?早く言いなさいっ。

 

「22なんだけど」

 

「……」

 

「ミャーも」

 

あれ…

 

狂乱のカミングアウトに動揺を隠しきれん。

結構コイツら歳いっちゃってんな?

逆に気恥ずかしくなってきた。同年代という現実が。

 

「…思ってた展開と違うって顔だね。ナオヤさん」

 

「うぐっ…シル嬢、そういうおめーは」

 

「私はまだ18。ナオヤさんの方が年上ですね」

 

あら、そうなの?なーんだ、シル嬢ってば人生これからってぇわけだな!ちょいちょいタメ口するようになってきてるけど、そこはまあ気にしないでおこう?

何故なら、たまに千年いきてんのか?ってくらい底冷えする視線を向けてくるからだ。嫁にすると尻に敷かれる1番怖いタイプだアイツは。好意を寄せられてるベル坊が気の毒でたまらんぜ。合掌。

 

「…へへ、そっか。そっだな。そうですねフローヴァさん

 

「え、なんで急に苗字?」

 

「18のシルだけ待遇違くないかニャ!?」

 

「るせっ!!なんかそうなっちゃったの!んで!お前はどうなんだァ〜?リューさんよォ!」

 

 

ラストに怖い緑髪だ。

 

 

よく見りゃ何故かコイツも微妙に体温が上昇しているが……2人してスポーツクラブにでも行ってんのかね。

椅子に座り一息ついてるところに声をかけた。

 

 

「私…ですか」

 

「そーだよ、オメーだよ。当ててやろうか?えー、16だな!」

 

「……」

 

あれ?

 

「えっあ…、あ、あ、違う?じゃ、じゅっ、17!」

 

「………」

 

 

あ、あれ?反応がねぇ。

付き合いきれないって顔してる。

18か?

19なの?

20だったり?

33?

 

…いや、ちゅーか!なんでこっち見ねぇんだ!こっち見ろぃ!なんか喋れぃ!

 

 

「えぇーと、…じゅうななぁ…」

 

「……」

 

「.5だ!」

 

「なおやーん、リューは21だニャ」

 

「ハ?」

 

 

タチ…?二十歳超え?

 

21歳。

 

しらなかったぁ…

 

あーうん、まあ、まあまあまあまあまあま。

 

まっ、いいでしょうっ!

 

 

「んん〜フッフッフぅぇ〜!んなぁるっ!ほんどぉねえぃ!なるほどなるほど。そーだったか」

 

俺様はニヤつきながら顎を擦り、リューの顔つきや姿を物色……する。

 

 

「ふ〜〜〜〜ゥゥゥむ…っふふーん」

 

「…なんですか」

 

…迷惑そうな目つきで俺様を見据えるエルフ。いやん怖い。

ニヤつきながら俺様は鼻を鳴らし、精一杯のキメ顔で、

 

 

「…俺様を、人生の先輩と、慕ってもいいんだぜ?」

 

 

キタ。これは人生最大級に決まった。

目の前のエルフもあまりの衝撃に目を見開いて…

見開いて…

 

「…見開いてないな」

 

ちゅーか、かんっっっぜんにソッポむかれちゃった。

え、結構恥ずかしがり屋さんなのか。

 

「シカトされてるニャ!あーあ!かわいそーだニャー」

 

「精一杯のキメ台詞も、あーあ!台無しだニャー」

 

「ちがぁぁぁぁあうっっ!これはおめーらにも言ってやったんだ!」

 

俺様は背を向け諸々にいばり散らす。

 

「は?」

 

「どゆことニャ」

 

「聞いた通りだろっ!俺様はお前らより2,3年くれー人生経験豊富っちゅーヤツだ…!えー。と。つまりは人生の先輩ってわけだ!」

 

「うわ、水増しした」

 

「歳の差一年ちょっとニャんか誤差ニャ誤差」

 

「うーん…特にみんなとの歳の差は気にしないんだけどなぁ」

 

「そこ!だまれっ!しずかに、おねがい」

 

身振り手振りは大きく、口調は厳かな感じで。

勝手にしゃべくりだす迷惑ギャラリーはビシッと注意だ!

手を合わせて懇願するようにな!

 

 

「だだっ、だからなんかな!困ったこととか、悩んでるっちゅーことがあったら!先輩に!なんでも相談してみろっ!なっ!?」

 

「…別に相談するったって〜」

 

「例えば何ニャ?」

 

「んえ…、ん…ぁ例えば、ぁ将来のぉ…あー、進路とか?人生相談?とか?痛いのは、無しの方向で」

 

 

人生相談なら俺様でもなんとかなりそうだしな。的確なアドバイスで導いてやるぜぃ!そして、奴らが大人になって大成したとき、インタビューでこういうのだ。

 

『私の恩師!カイドウさんのお導きあってこそ!この人生はうまくいきました!』

 

『カイドウ先生がいらっしゃらなかったら、今の私はいないでしょうニャ!』

 

とかうんたらかんたら。

 

そして、ゲスト紹介でサングラスをつけてどーもーって颯爽に登場する俺様……!司会とトークするおしゃれ番組に登場するわけよ!

 

『髪切った?』

 

『切ってないです』

 

妄想がノンストップに湧き出てきやがる…!くぅーっ!未来は明るいぜ!

 

 

なんて妄想捗らしていたら、黒猫吉は悪戯を思いついたような悪ィ笑顔で櫛と手鏡をしまい、

 

 

「なおやん、なんでも相談していいのかニャ?」

 

「おう!ばっちこい!ほらなんだいってみろ!」

 

 

「じゃあ!手合わせの時、リューが手加減しないのをなんとかしてニャ!」

 

 

と宣った。

 

 

はぁ?

手合わせだあ?

なんだそりゃ。

 

件のリューさんにおっそるおそると目をやると、申し訳なさそうな顔で俯き気味だ。

なんだ、しおらしい。らしくないぜコイツ。

 

改めて黒猫吉の目を訝しげに見つめる。

 

 

「それーでー、手合わせーーーと、仰いますと?」

 

「あーそれ!リューってばいっつもやりすぎなんだよね〜!カイドウさんなんとかしてよ!」

 

「…オメーもかよ」

 

 

ルノっちからも似たような発言が飛び出してくる。

2人もアイツの手合わせとやらに巻き込まれてんのか。

 

 

「それについては…すみません」

 

 

あ、アイツ謝った。珍しいな、いいもん見れたわ。

 

聞くところによると、リューはいっつも朝早くに起きて、鍛錬とやらをしているとのこと。

しかも戦いの鍛錬ときた。

ウェイトレスにいるか?そんな技術が?とは最初思ったが、あんな連中を夜に相手取ってるもんな。

納得、納得、納豆食うだよホント。

いつもは1人でやってるそうだが、たまに腕の立つ同僚2人(さっきのアイツら)に付き合ってもらってんだとよ。

 

 

さっきは、黒猫吉に頼み込んでみっちりとかましてきたらしい。

なるほど、アイツがラフなカッコしてたのも、リューの体温うんぬんもそれが理由か。

 

しっかし護身術にしちゃ身が入りすぎって、なんで言えばいんだ?なんとかするったってどうするぅ?

 

 

「例えばなおやんが〜、これからは俺様が相手になるとかニャ〜」

 

「あっ!それいいかも!カイドウさん耐久力高いからなんとかなるって!」

 

「ばっ、ばかっ!痛ぇーでしょ!?俺様言ったハズだ!痛いのやだって!」

 

 

俺様としちゃあ、やりすぎないように!といった学校の先公みてーな注意しかできねーが。

 

 

「えー、では……おほん!いいですかぁっ?リューさん!えー、やりすぎないように!」

 

「…はい」

 

「んじゃまあ、これにて一件落着ということで…」

 

「ニャっ!?」

 

「んなっ!」

 

そそくさと、厨房に戻る。

とりあえず、巨匠、海堂直也様の人生第一歩は踏み出せた感じだな。この調子でバンバン解決してやるぜ!

 

 

 

 

 

…後ろから、落着してないー何が師匠ニャーなどの抗議の声が聞こえてくるが、聞こえないフリ。

 

突如、「喧しい」との女将の拳骨が響いて以降、静寂が訪れた。

 

相変わらずドギツイぜ女将…

そいつらは将来成功する器の持ち主たちだ。罰は慎重に頼むぜ〜?

と、小さく呟いてみた。

 

したら俺様ンとこにやってきて、さっきまでの演説がうるさかったとのことで皿洗いとトイレ掃除をしてこいっ

だってよ…

 

く、くそぁ…!俺の方が罰重ェーじゃねーか!さっきの拳骨1発のほうがマシそうだ…

 

そんなこんなで、今日も労働に勤む俺様なのであった。

 

 

 

 

    ーーーーーーーーー

 

 

昼休憩の時間。

俺様は仰せつかった業務をこなし、朝よりもさらにじんわりと汗ばみながら休憩に入る。

 

厨房を出ると、何やらリューが出かける準備をしていた。

どうやら、洗剤もろもろがそろそろ足りなくなるというので買い足しにいくとのこと。

さらにお優しいことにみんなの欲しいモンも買ってきてくれるらしい。

あー、まあ、例えば、ジュースとか、果物?それとジャガ丸くんとかな。

 

大したやつだよな、まったく。新参者である俺様に頼みゃー良いっちゅーのに。

自分にできることと言ったらこのくらいだ、とかなんとか言って積極的に行動してやがんの。

なんだ、労働に意欲的でない俺様に対する当て付けか?

当て付けなのですか?

 

ま、黒猫吉にボロ付けた謝礼って意味も込めてなんだろーな。

エライ。

こういう奴ほど、ぜひ弟子にしてぇ。21だけど。

 

買ってくる物のリストをつけ終えたリューは最後に俺様に声をかける。

 

 

「カイドウ、何か入り用な物がありますか?」

 

 

そうねぇ…と呟き、椅子をギシギシ叫ばせながら思案顔になる。

入りよーつったって、俺様特に欲しいものなんてねーし、せいぜいジャガ丸くんくれーがちょーどだ。

 

テキトーな味のジャガ丸くんを頼むかね。

 

 

「あー、ジャガ丸くんをー、ジャガ…ジャ?あっ!ちょお待て!まてまてまてぃ!」

 

「…はやくしてください」

 

唐突にあることを思い出し、出かけていた言葉を飲み込む。

 

そういや、今日は特別な味のジャガ丸くんが発売されるんだったな…

俺様も未だ味わったことのない新たなる道だ。ジャガ丸くんフリークとしては是非とも味わっておきたいものである。

 

 

ちゅーわけで!

 

 

「どーやら今日、特別な味付けのジャガ丸くんが発売されるらしくてよ〜」

 

「…それを買ってこいと?」

 

コラそこの猫と人ども!まーたいつものですか!って顔すんじゃねぇ!

俺様のソウルフードだぞ!

 

 

「ん。そういうこっと!何味かーは、わかんねーが」

 

「ここに着くまでには、冷えてしまっていると思うのですが」

 

「あーいーいーいー、なんとかなるなる」

 

 

ここにはレンジがないが、フライパンはある。意外とそれでなんとか代わりになるもんだ。

 

リューはそれを聞くなり、荷物をまとめ、では、行ってきますと一言。いってらっしゃいの言葉におくられて、店を出た。

 

 

 

……俺様だけ何も言わねーのはなんか気まずかったので、手だけヒラヒラと振っておいた。

 

 

     ーーーーーーーー

 

迷宮都市のオラリオの空。

空全体を一様に灰色の雲が覆い、太陽はすでに見えなくなっていた。

 

そんな空模様の下で、薄緑髪の女性が1人。

買い物を終える所だった。

 

 

(こんなものか)

 

 

瞳の先には、リスト通りの品物が入ったバスケット。

店の備品や同僚たちの頼みの品諸々は程よい重量である。

それを軽々と左手で抱え、右手でリストを持つ。

まだ、彼女は最後の品物を手に入れていなかったようだ。

最後の欄には、あの同僚が求める品である特別なジャガ丸くんとやら。

 

 

(いつもの出店のところに行けば、買えるだろうか)

 

 

頭に浮かぶのは、あの憎たらしくもどこか気を許してしまいそうな雰囲気の三枚目。最近、余計なぼやきもすっかり少なくなりよく働いてくれる姿が記憶に新しい。

 

 

…そこまでにたどり着いたくれるまで、壮絶な時間と苦労が伴ったわけだが。

 

本当に手のかかる弟のような存在である。聞けば彼は齢23とのことだ。

年上ではあるが…精神年齢は20を下回るような具合である。

 

しかし、彼はどこか……

 

 

いや、もう考えるのはよそう。

どこかほっておけない彼の姿を頭の内から消しながら、リューは出店へと急ぐ。

 

すると、何やら行列が出来上がっているのが目に入る。

まさか、と思いながらも最後尾の人に尋ねる。

 

「…あの、これは一体なんの、列でしょうか」

 

「知らないのかいィ?『ジャガ丸くん、永遠味!忘れられない感動を味覚で是非!』の発売だっ!」

 

「はぁ」

 

「俺たちジャガ丸くんフリークは是非ともこの限定品の歴史の生証人となるためにだな…」

 

そのまさかであった。

この行列は海堂直也が求めている品のものである。最後の最後でこんな試練が待っているとは。

リューもどこかくたびれた表情を出しそうになる。

ベラベラ喋る謎のジャガ丸くんオタクを聞き流しながら後ろに回る。

 

 

(ここが最後尾か)

 

 

先頭は豆のように小さくみえる。

ここからどれくらい時間がかかるだろうか。

 

彼女は並ぶ。

みなに遅れることを申し訳なく思いながら。

 

 

ふと、冷たい風が彼女の頬を撫でた。

 

 

    ーーーーーーーーー

 

 

「遅い」

 

リューの帰りが微妙に遅れていることに第一声を出したのは、あの男。

対して女性たちは特に気にせず思い思いに過ごしている。

1人ソワソワしてるのは海堂直也だけである。座った椅子をギシギシ揺らしながら同僚に声をかけた。

 

 

「なっ、や、な、な、なあ。なんかさぁ、おっそくねえか?」

 

「心配してるんですか?」

 

「ばっか!ちゃうわ!俺様はただ、あつあつの限定品を食べたくてだな…」

 

 

彼女たちはこの後に控えている、荒くれ者どもの殺到に備え、動かざる山の如く精神統一を行う。

 

いつも通り過ごしているように見えるのは彼女たちの磨いてきた技術のたまものだろう。

まさに、達人の域である。

 

1人だけわちゃわちゃ目立つのはそれが理由である。

 

 

「リューなら大丈夫ニャ。ちょっとしたら戻ってくるニャ」

 

「…まあ、そうかもなア」

 

 

貧乏ゆすりをやめ、背もたれに身を預けがら瞼を閉じた。

 

精神統一のやり方は人それぞれではあるが、彼の場合は瞳を閉じるという動作がトリガーである。

視覚をシャットアウトして、他の五感に集中する。

 

 

聴覚。

 

首を鳴らす音、彼女たちの息遣い、外から漏れる人の往来。

 

触覚。

 

椅子の硬い感触、ほのかに感じる熱、微妙な空気の流れ。

 

嗅覚。

 

厨房から漏れ出す洗剤のニオイ、同僚たちの艶かしい香り、外からのニオイ……

 

ニオイ。

 

 

「なあ、傘ってどこにおいてあんだ?」

 

「「傘?」」

 

「そうだ、カ・サ」

 

 

椅子から立ち上がり、唐突に飛び出した質問に訝しげな視線が募る。

彼はふざけているわけでもなさそうだ。

 

傘、とは。

あの雨を凌ぐ道具だろう。

でもなぜ今それを聞くのだろうか?

 

「傘なら…外に立てかけてありますよ」

 

「おう、わかった」

 

シルが外に置いてあることを告げると、海堂は軽く手をあげて感謝の意を示し、外に出た。

 

 

     ーーーーーーー

 

 

降り響く雨音。

道ゆく人々は持ち物を傘にして通りを駆け抜ける。

 

肩を少し濡らした彼女は、屋根があるところで雨が止むのを待っていた。

 

 

(にわか雨とは、ついてない)

 

 

生憎、傘は持ってきていなかった。

品物も制服も濡らすわけにはいかない。彼女はただ雨が止むのを待つしかなかった。

 

街道は人通りも少なくなり、時折、急な雨から逃げるように通りを走り去る人がポツポツと現れるだけであった。

 

 

(戻ったら、なんて謝ろうか)

 

 

同僚たちはきっと気にしないでくれるだろう。しかし、彼女自身の誠実な性格がそれを許さなかった。

 

いやまて、あの男はきっと何かしら突っかかってくるだろう。

どこかで埋め合わせを考えておこうか、

そんなことを考えながら

遠くの景色を見つめていた。

 

 

 

 

 

ふと、特徴的な物体が視界に映る。

目を凝らせば、人の形をしているのがわかる。どうやら傘を持っているようだ。

顔は、傘で隠れてよく見えない。

だが、その格好は彼女がきているものと同じ店の制服であった。

 

こちらへ向かってくる。

しかし彼女は、どこか不思議そうな、安心したような雰囲気で男を見つめる。

 

 

現れた傘男は、雨宿りをする彼女の目の前に立ち、ゆっくりと傘から顔を覗かせた。

 

 

「…よっす、買えたか?」

 

「カイドウ、すみません。手間を取らせました」

 

 

海堂は何も言わず、彼女の持つバスケットを取り上げ、

肩にかける。

そして傘を彼女に差し出した。

リューも同様、何も言わずにそれを受け取る。

 

この状態はいわゆる、相合傘というやつだ。

だが2人は特にこれといった会話もなく、雨音の走る通りを歩き出した。

 

雨粒が傘を叩く音。

海堂はどうやら、傘を一つしか持ってこなかったらしく、さらに言えばそんなに大きくない傘を選んでしまっていた。

 

海堂とリュー、互いの片肩が雨に濡れる。

 

 

「カイドウ、こんなことを聞くのは野暮かもしれませんが」

 

「野暮なら聞かんとけ」

 

「なぜ、傘を持ってきてくれたのですか?」

 

 

あなたらしくもない。そんなことを言ってしまうのは彼に悪い。

ただ、面倒くさがりやの彼が、なぜここまでしてくれるのか。

それを知れば、彼の人と形というものがより深くわかるかもしれない。

そう考えて、リューはこの質問に踏み切った。

 

海堂は頬をポリポリ掻きながら、ぶっきらぼうに答えた。

 

 

「んーーーー、責任だよ、セキニン」

 

「…責任ですか」

 

「そうさ。この中に入ってるヤツの」

 

 

そういって海堂はバスケットの中を探る。

 

 

「……おー、あったあった。あんがっと」

 

 

紙に包まれていた限定味のじゃが丸くんを手に取る。

 

 

(……責任、か)

 

 

そんなものなど、無いはずのなのに。

 

どことなく、彼の誠実さが伝わってきたような気がする。

彼は、皆になにか隠し事をしている。

 

 

だが、決して悪人ではない。

そんな確信が、今ので分かった。

 

 

「…意外と早かったですね」

 

「何が?」

 

 

包装紙を破りながら海堂は答える。

 

 

「あぁ、それか。まあなんだ。雨が降る前に俺様、店出たからな。雨の匂いがしたもんで」

 

「匂いですか」

 

「そ。まあ、傘が一つしか持ってねえのは、俺様のキュートなミスだがな!」

 

 

ほんのり温かいことに満足気に頷くと思いっきりかじりついた。

 

リューはその動作を横目でチラリと眺めていた。

 

かぶりついた途端に広がる無表情さ。

ゆっくりと潜まっていく眉。

不満気に咀嚼する音。

 

大儀そうに喉を鳴らした海堂は、ため息をついた。

 

 

「ハァ……あんまりおいしくねぇ」

 

「…ふふ」

 

 

雨は降り続く。

されど、二人の足取りは、少しばかり晴れやかであった。

 




修正(2021/04/01)

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