ちゅーか、俺様がこんなとこにいるのは間違ってる絶対   作:ビーム

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ただいまです


俺様、戦闘センスを測られる

チャァ〜オ〜!

ご機嫌いかが諸君っ!

あなたのミカタ、海堂直也です。

 

うむ、挨拶キマってる。

ショーウィンドウに映る鏡像の俺様。

こちら側がこぎみ良い挨拶をすれば、同じように挨拶を送り返してくれる。

そこ、ただ反射してるだけって言わないっ!夢がなくなるだろがっ。

 

 

挨拶を終えた鏡像の俺様は髪を整え、

指先をペロっ!

濡れた指で眉毛をグィ〜っとなぞる。

 

察しの良い皆さんは、俺様が何をしているのかお分かりでしょう?

うん、身嗜みチェックなのだ俺様。

 

 

…ヘアースタイルよし、

ファッションよし、

眉毛よし、

鼻毛よし、

俺様よし。

 

 

ガラスに反射した俺様の顔はいつも通り、…いやいつも以上に!?輝いていた。剃ったばかりの美アゴを手で撫でながらあらゆる角度を確かめる。

 

時にはウィンク。時には髪かき上げ。時には大胆にちょびっと舌を出す。

ヤダ…、俺様イケイケのみならず、オトナなセクシーさも醸し出してる…!

 

希望として髭はもーちょい残したかったんだがな。ツルツルのアゴ肉をグイっと引っ張る。いまでもジューブンっちゃジューブンなんだがな?髭を蓄え、気分はイケおじ。ダンディー路線も狙ってる俺様なのであった。

 

しかし、そうは問屋がおろさんわいってか!?見事に阻んでくれたのはうちのバイト先でした。常に清潔な印象を保つためだかなんだかって、寝ている間に猫どもに剃られちまった。俺様の予想だとアイツら床屋に転職しても食っていけると思う。

 

 

「ぃよぅし…メンテナンス終了っ!俺様発進!」

 

 

最後にニカッと白い歯を映し、ショーウィンドウから離れる。

ガラスの向こう側になんとも言えない表情の店員が眉をひそめているが、ンなもん俺様関係無しっ!

我が道を行くのだよ海堂様は。

 

さてさてさて、何故俺様が店ではなく外にいるのかっちゅー話だが…

また俺様は例の館に突撃することになっちまった。

 

というより、コレで3…4回目かぁ?んでもって来るたんびに!毎度毎度!

小せぇガキ神に歓迎してんだか警戒してんだかわからん薄気味悪ィ笑顔で迎えてきやがる。

 

まあ、持ってきた酒を向こうの思惑だかなんだか知らんが、ここまできてくれた労いとか言って一杯もらっちまってる。まあもらえるモンなら病気以外なんでももらいまくる俺様だし?

 

ほほう、良い心がけだなオメー。その

ご厚意にあずかってやろうではありませんかってなもんでよ!だんだんこのデリバリーが楽しみになりつつあるわけだっが!

 

さーて!今日もタダ酒をかっくらいに参りますかね〜ェっと!

 

気分が逸り、足取りが気分良く浮き始めた俺様は黄昏のオヤカタへと向かうのであった!!!

 

 

 

 

 

「ちゅーわけで!キミの闘いっぷりを見せてほしいんや!」

 

「はい」

 

 

はい?

 

 

「はい?」

 

「せやからぁ、キミがどーゆー闘い方しとんのか気になって気になって!ちょお、ウチに見してくれへんか?」

 

 

えー、ちょちょちょ、ちょまてよ?話を遡るとだな。

まず、オヤカタに着きました〜、はいはい。次に酒を渡しましたぁ〜、はいはい。そして歓談を交わした〜、はいはい。んで?

 

冒険者っちゅーのは荒くれ野郎どもも少なくなくて?

 

そいつらに酒なんか入ったら、さらに乱暴者に拍車がかかって?

 

暴れ出した奴らをバッタバッタとなぎ倒すのが豊穣の女主人の店員で?

 

実力者が何人か集う中、俺様だけが浮いてるように見えるって?

 

ウチはカイドウくんのことお気に入りやから、店員どもにいじめられてたりしてもうたら切ないって?

 

 

「せやから、カイドウくんがこの先やっていけるかどうかを直接見て、安心したいって?」

 

「せや」

 

「いやその理屈はおかしーんじゃねーか?」

 

 

心配なのは余計なお世話だし、それを解消するために俺様の腕を見るだと?

まわりくどすぎんだろ、直で見にこりゃいいじゃんか。

さらに言やぁな?いじめなんて可愛いもんじゃねぇよ、超次元パワハラが起きてんだよ現場ではさぁ!たくっ。

 

出された酒を啜る。

あ、うまい。

 

 

「おかしなことないはずやで〜?あっこに勤めとる従業員は曲者揃いでなぁ〜 カイドウくん、正直に言うてみ」

 

「なんだ、なにがだ、なんですか」

 

「緑髪のマブイねーちゃんに大分絞られとるやろ」

 

「はぁっ!???アッハ!へえっへぃやいやいや、んな、な、んなこたぁ、ないですよ?俺様がまだ!まだまだね?本気をね?本気出してないだけで…」

 

「せやったらその本気っちゅーのウチだけに見せてほしいねん〜」

 

 

目の前の詐欺師みてーな神はニヨニヨと、やらしい笑顔で酒を注ぐ。

 

コイツなんちゅーか…、なーにを期待してんだか?俺様しがない店員のフリしてるだけで、本当は夜道を照らす正義のヒーロー様なんだぜ?本気出してないだけで。

 

そもそも考えてみろ、他の同僚はぁ、ぜーんいん女!かつ!俺様は男!

男女平等が叫ばれるご時世です故、男である俺様が優しく、手厚く、花を愛でるように手加減すんのは当たり前なのだ!

良い子のみんなも俺様を見習おう。

 

 

しかし、ま、リューの姐御には手加減あってもなくても、一回も勝てた試しはねーし、これからも勝てるヴィジョンは浮かんでこねー。

女将なんか言わずもがなだ。あんなのに逆らったら命がいくつあっても足りねぇ。手加減とか言う前に俺がおっちぬ。

猫吉と黒猫吉は、なんだ、体つきはフツーのくせして俺様より力があったりするし、ルノっちなんか破壊力がダンチ!怪物!

この前、酔った客を吹っ飛ばしてたもんで…そん時だけはさん付けしてました。

シル嬢…は、なんか、ダメだ。なんか、全てにおいて勝てねぇ気がする。

 

 

「あれ?俺様だけ、あの中でショボくさくね?」

 

「気付いてしもうたか…カイドウくん」

 

 

…気づかされました。男女とかそういうの関係なかったのね。単純にバケモンまみれだったのねここら一帯。

 

ちゅーかさ、ここの都市に住んでる…上級なんたらって、奴ら、えー、もしかして。ほとんど俺様よりも…

指折り数えながら、俺様の知る限りの冒険者どもを挙げてみる。

 

えー、アイズにベル坊だろ?んで、犬コロにリリ助にウチの常連…

 

 

「もしかしなくても、オラリオに住んどる上級冒険者どもは大半カイドウ君より強いで?」

 

「あハハハのぉ!人のぉホ!心ォ!読むのぉ!やめてもらっていいすかねぇ!」

 

 

俺様がいきりたつと、神様はくつくつと笑みを溢す。

ほんっとうに人のパーソナルサンクチュアリに堂々も踏み込んできやがんな神さんはよ!でぇっきれぇだぜ!そういうやつゥ!

 

 

「…やぁ、でもな?カイドウくん」

 

 

笑みが溢れる口元を、酒を煽る動作でロキは隠す。

 

こくり、こくりと。

喉を鳴らす音だけが鮮明に。

 

「はぁ……」

 

飲み切った後の余韻も、どこか色っぽいのがめちゃくちゃ不気味だ。

神っぽいな。

杯を静かに置き、笑みを崩さないまま俺様に尋ねた。

 

 

「君がもう一つの姿に変われば、話は大分変わるんと違うか?」

 

「…あーあ、ス-ッなるほど…でっす」

 

 

ため息をつきながら、視線を杯の水面に移す。小さく覗く俺様の顔は、少しばかり灰色の筋がたっていた。

ロキはもう慣れたようで、用意した菓子を口ん中に放り込んでいた。

 

毎回ここに通うにつれて分かったことがある。どーやらこの女は俺様のもう一つの姿…、オルフェノクについて知りてぇみてーだ。

 

この前なんか、他のオルフェノクお仲間さんがいますかー?なんてことも聞かれた。いるわきゃねっだろ、多分。

アイツとクソったれ企業の残党は向こうに置いてきちまったさ。それ以外は灰だらけ。

 

他の仲間については、もう湧くこたねぇから安心しとけ、って答えたんだが、腑に落ちねぇ顔で唸っていた。

 

ちゅーかさ?そもそもよ、オルフェノクどもよりもっと強ぇ連中がわんさかいやがるこの街でよぉ、なにをそんなに気になることがあんだ?

 

まあ、コイツがまだ俺様を完璧に信用し切れていないってことぐれぇ、わかる。わかってんだ。

 

杯を煽り、酒の入ったボトルを掴み再び注ぐ。ロキはなにも言わなかった。

 

 

「…変わったら、変わるだろな」

 

 

決定的な何かが。

 

 

「でも、負ける」

 

 

そう、負けるねこりゃ。

あら残念!というふうに戯けてみせるが、一向にウケない。

目の前の神は相っ変わらず、寝てんのか起きてんのか分からん目でふざけた俺様の手を見つめる。

 

 

「根拠はなんや?」

 

「決まってんだろ!俺様は、意味のない戦いはしないの!」

 

 

売られた喧嘩は買うけんども。

そう言いながら、出された菓子を放り込む。

 

ここには人間以外の種族もいるが、そいつらも例外じゃあねぇ。

納得いかねー顔をしているコイツのために、もうちみっと、わかりやすく教えてしんぜよう。

 

咀嚼し終え、ゴクリと喉を鳴らす。

 

 

「んん、えー、俺様には夢があってだな!?いつか、いつかオルフェノクと人間の共存を夢見ていたのだ」

 

 

両手の指を絡ませながら、鼻を啜る。

 

 

「オルフェノクっちゅーのは……えと、なんだ?バケモンみてーな姿形だけどよ。俺様は思うんだ」

 

「……」

 

「いいかよく聞けよ?人間と手を取り合ってぇ、生きていけるってな?ぇああま、昔の仲間が言ってたんだよそうやって」

 

 

両手を固く握り締める。

ロキはその手を見つめ、少しばかりか、憐みが見えるため息をこぼした。

 

 

「ほー。その仲間は今、どうしてるんや」

 

「んー。死んだ」

 

 

暫し静けさが部屋に広がった。

やっぱりな、という表情をしてロキは杯を手に取っていた。

 

 

俺様は杯の酒を全て呑み下し、またもや注ぐ。だんだん、飲むスピードが速くなってきたみてーだ。

身体が熱い。

 

 

「そ」

 

 

同様にアルコールを平らげたロキは、杯を置き、以降それを手にすることもなくなった。

 

 

「俺はよっロキ。アイツらの死が、意味のあるものにしてやりてぇんだ。難しいかもしんねぇ夢だけどさ。俺はまだ、そのお陰で生きていけるんだ」

 

 

「…」

 

 

「……」

 

 

 

ん?

 

 

「……………」

 

「…………………ぇ?」

 

 

なんだ、このだんまりは。

アレ?もう、お、お、お終い?

質問タイム終了?

 

並々注がれた杯を一旦置いて、ちらちら様子を見るが、顔を伏せたまんま微動だにせん神が一人。

その状況になんだか、焦り始める俺様。なにを焦ってんだ俺様!

 

 

「…の」

 

「キミ」

 

「わあだぅぁぉっ、びっくした!あぁぁいきなり黙るなよ!ゔぁあもう脅かしやがってったくよぉ!」

 

「出身はどこや?」

 

「まったく、ビビらせてんじゃねっぞ!ったくよぉ…ったくったくった…へ?」

 

 

面食らった俺様。

出身ですか?今更だな?

唐突なことだったので、返事も咄嗟のものになる。

 

 

「日本です」

 

「は?」

 

「ぇあの、日本、東京。あの、東京タワー」

 

「トーキョー?どこやそれ」

 

 

うわめんどくせっ。いちいち説明しなきゃいけないのかよこんなこと。日本は日本だろがなめてんのかワリャ。

 

って考えたけど、ちょっと待てよ?

ここって、アレじゃん、日本じゃないじゃん。

おそらく世界地図のどこにもないとこじゃん。

 

顔を覆い、天上を仰いだ。

 

くぁ〜ぁ…どう説明してやりゃいいんだ?俺様、違う国から来た外国人なんです!つっても、今度はその国についての説明しなきゃで。

 

覆った手をゆっくりと下にずらし、摩擦で頬の皮膚が引っ張られる。俺様は今きっと変な顔をしているのだろう。

それだけ悩んでんだ。

 

 

「えー、おめーの知らない国」

 

天井に目を向けたまんま答える。

 

「ニホンって国だ。えー、多分知らないでしょう、貴方は。それぐらい、遠い国なのです」

 

「ここに来た理由は」

 

「そんなの知らねーよ!俺様だって知りてーよ」

 

勢いよく見上げていた天井が視界から外れ、呆れ顔の神が入ってくる。

そんな俺様も頬杖をつく、ため息とともに。

ホントなんでこんなとこ来ちまったんだか。ここが死場所だってのか?

はん!なんだか酒だけじゃ口寂しくなってきやがった。

 

 

「んで、キミの言うニホンってとこは、オルフェノクの住む都市だったりするんか?」

 

 

菓子を一つ、口に放り込む。

 

 

「あぐ…む、いんやちょいとちがう。モグモグ…人間が大半で。オルフェノクはちょこちょこいた。そしてぇ、ゴクリ、だんだん増えてったりしてたんだろなぁ」

 

「増えるやと?」

 

 

弾かれたように顔を上げてきた。

そういえば、オルフェノクの増え方を知らねーんだったか。

 

 

「そーだ。だが増えるつっても、ケッコンしてラブラブチュッチュして元気な赤ちゃんですよ!で増えるわけじゃねーんだ」

 

「…」

 

「あー…つまりぃ」

 

 

いや、どうしたもんか。言ってもいいモンなのか。

 

いいか、言っちまうか。

コレも、夢を叶える大事な一歩なのだ。

酒の入った俺様は、いつになく判断力が血迷っちゃあいるが、問題ない。

 

 

「死ぬ、だな」

 

「なんやて?」

 

「人間が、死ぬ」 

 

 

空の杯を手で遊ばせながら答えた。

 

 

「んでもってまた生き返ったら、オルフェノクだ」

 

 

答えてやったらやったで、絞り出すように息を吐き、俯きだしやがった。

困惑するのも当たり前だよな。

死んだらそこでお終いだっちゅーのによ。

 

突然ロキは、勢いよくツラを上げて俺を見つめた。

糸目が、糸目じゃなくなってる。

ンな目してたのかよアンタ。

茶色の双眸が俺様の姿を映しだす。

言いたいことはわかってる。

 

 

「せやったらキミは」

 

「まあ、そういうことになるぜ」

 

 

直後、さっきよりも倍ぐれーのどでかいため息が部屋中にこだまする。

もちろん、コイツのため息だ。

 

 

「なるほどな…っはぁぁあああ……」

 

なんか、会社の偉い人がやってそーなため息だな。心労が絶えない仕事ってのは俺様マジでごめんだぜ。

そー思うと、俺様アソコでよかったかもしんねぇ。

 

「そうかぁ、そうなんか…」

 

「心配か?ここいらの連中がオルフェノクになんの」

 

「…せやな。なったらなったで、ホンマもうめたくそ面倒くさなるからなぁ…」

 

 

言えてる。たしかにオルフェノクなんか腕利きの冒険者がなっちまったらやべぇ状況だ。力に飲み込まれて怪物になんのか、新人類だか抜かして俺たちの敵に回るか、だな。

 

そう言って俺様は視線を落とす。

俺様の靴が見える。

 

 

「ちゅーか、ほんと、いったいなんなのかねぇ、オルフェノクの力って」

 

「キミもわかってへんのかいな」

 

「そりゃそーだっ。いきなりハイどーぞってされても、俺様ほーぼ持て余してたっちゅーの!」

 

 

ありゃあ、人の手には終えん力だな。

扱えんのは、人間を捨て切ったゲス野郎しかいねぇ。

 

視界の端に、ボトルの注ぎ口が俺様の杯に向けられているのが見える。

 

 

「いつ、そうなったんや」

 

 

腕を組みながら目を瞑る。

視界は暗く、杯に液体が満ちる音だけが耳に伝わってくる。

閉じた目蓋にありありと情景が映る。

いつになるんだか。長いようで短かったあの日。

 

 

 

「あぁ、結構最近だったな」

 

「それは災難やったな」

 

「そうだよ、まったく!本っ当いい迷惑だったぜぇ?」

 

 

いきなり死んでよ〜、妙な連中とつるむわ、後輩には失望するわ、挙げ句の果てにはガキの面倒やら!

俺様の多忙さをあれやこれやとまくしたて、注がれたアルコールを喉に流し込んでやった。

これまでにない不満に満ち満ちた顔でそう答えてやった。

 

だのに、目の前の女は笑みを浮かべている。

その顔からは、さっきまでの悪趣味なモノやおどろおどろしい雰囲気は微塵もない。

 

 

「まあ…、そ「そんなに悪いことばかりでもなかったって?」…ってオイ!オメーはそういうとこだぞ!人が考えてること先に言うんじゃねーよ!」

 

「あっはっは、わかりやすいモンだからカイドウくん」

 

「…とにかくよ!とどの、とどっ、とどのつまりだな!?」

 

 

そーゆー、力を見せてみよ…イベントは必要ねーんだわ、と手をひらつかせお断りをいたしました。

俺様、無闇な戦闘は好まないでござる。だってそだろぉ?ンン俺様っ、ゥ愛するものを守る正義の味方っっっ…ちゅーわけ…だから……な、へへ、へ…

 

 

「あー、キミ。オルフェノクなってるで」

 

「えっ?あっ、あっ!なっ、ななな、イヤン!エッチ見ないで!泥棒ネコ!」

 

「乙女か!アンタが勝手に露出したんやろが早よしまわんかぃ!」

 

 

気がつけば俺様はオルフェノクの姿に変貌していた。蛇を模した灰色の鎧はまるで花もはじらう乙女のようなそぶりを見せる。

ちゅーかオメー!糸のみてーな目をさらに吊り上げ、あられもない姿の俺様にそないな暴言を…!お里が知れるぜ全く!

 

無意識のうちに変貌しちまったようだな……普段の俺様であればこんなこたぁありえない。気ぃつかってっからな。

 

…考えてみれば、ここにきてからだいぶ経った。長く居れば、故郷みてーなもんだ。

 

そこで、考えた。

俺様は、だんだん本当の俺様をさらけ出せてきているんじゃないか?

 

ホラ、こーやって神相手に怪物の姿をまざまざと見せつけている。こんなふーに、ほーれ。

 

 

「腰振るのやめろやっ!!」

 

「ほーら俺様のサービスシーンだ!今宵は大盤振る舞いでっす!」

 

「需要ないてそんなん!キミそんなキャラだったん!?」

 

 

見てるか?木場、長田。お前らがここにいたら、どんな表情してんだろうな。

 

ついに海堂直也様は心を許せる相手、ロキに出会うことができた。

心を許せる、だからこそ、今の自分を見てもらいてぇんだ。

あ、そうか。

 

だから、無意識のうちに、俺様。

オルフェノクになっていたのか。

これが、俺様の、本当の気持ち…

 

 

 

「いや、これ酔っ払ってるだけだな」

 

「仕事中やろキミ」

 

「……そうだ俺様、仕事ちーーー」

 

 

軋む音が下方より鳴り響く。

 

あ、嫌な音だコレ。

 

メリメリと悲鳴を上げるテーブル。冷静に元の姿に戻った俺様は顔を真っ赤に、しかし心は真っ青に。

大の大人がちんまいしゃれ乙テーブルになんざ乗り上げちまえば、結果は明らか。

テーブル上にピシリピシリと、亀裂が走り始める。

 

神の怒りを受ける覚悟なんざできてやしなかった。やっちゃいましたぁ。

 

 

「ずいぶん暴れてくれたな〜カイドウく〜ん」

 

 

言葉の調子は柔らかく、さっさと降りろと言わんばかりの冷えた視線の温度差に俺様は風邪を引きそうになる。

目は口程にものを言うとかいうが、あー、まさにそれだ。

顧問の先公にブチ切れられた部員みてーに黙ってテーブルを降りた。

 

 

「持ってきた酒も、ほぼキミが飲んだやないか。ええ?遠慮って知っとるか?」

 

「あ、あ、あ、あの、えー。なんていうかですね、その」

 

「んまあまあまあ、今回についてはまあ気にせんと。気分転換にエエとこ連れてったるわ」

 

そういうと、ロキは部屋の外へと手招きした。今度はやけに笑顔で。

 

もう、従うほかねぇだろこんなの…

 

 

 

 

んで、

 

なんで俺様こんなとこいるわけ?

ぅぉえ、きぼちわるっ…グッ…

酒は結構イケる口だったはずなんだが…

 

酩酊チックだ俺様…、あ?酩酊チックってなんだよクソっ…、適当なこと喋んな頭ン中ァ〜ァ〜ぁ〜ぁ…ん!

あ、またオルフェノクに…んがぁぁぁあ、ピシッと!ホラ、もどった。ぃよし、んで?

 

吐き気を催す酒気を、腹を撫でるように物理的に抑え込み、辺りの環境を視認する。

あ、今睨みきかせてますけど別に怒ってるわけじゃありませんんんんかぐ…

 

 

んぐ、えーと、なんだアレ、カカシ?カカシなのかアレは。

 

や、待てよ、あちこちに傷が入ってんな?経年レッカーやらではなく、意図的な傷。スゲェ勢いで叩きつけられた…、いやぶった斬られてんのか?

 

んで、木製の剣、槍、弓?んん、とにかく、武器がムッチャあるな。何に使うんだコレ。修学旅行のお土産か。

 

うわ、ボッロボロになったさっきのカカシが無造作にぶちまけられちまってる。数あるな。ホラ俺様の足元とかさ。

 

ふと、地面に落ちていた木屑を拾ってまじまじ眺めてみた。

 

この屑って、や、ちゅーかコレもさっきのカカシの残骸…えー、なんですかねコレ。

 

あー、なんとなくわかってきたぞここ。

思えば広場の地面も不自然な形で抉られてるし、ここってそうだ。

 

 

「カンフー映画のセットだ完成度たけーな」

 

「訓練場やでカイドウくん」

 

 

俺様はどうやらアイス達が日々、ここで己が戦闘技術のけんさん(←なんて漢字だったかは忘れた。)を積むとんでもないトコに連れてかれちまった。

 

訓練する本人達はどこにもいないが、その修行の跡が、苛烈さを物語ってやがる。

剣に矢に爪にハンマーに、焦げた跡。

どう見ても戦場跡地です。

 

 

「あの聞いてましたか?俺様やらないって言ったよね。戦い嫌いの菜食主義つったよね?肉食うけど」

 

「キミの嗜好は知らんけど、コレはいわば酔い覚まし!酔い覚ましの刺激やって!」

 

 

ンな覚まし方あっかよ!断ァるっ!

絶対コレ、酔い覚まし以前にアイツの思惑に…ん?

アッ!!やたら酒を勧めてきたのは、コレが狙いだったちゅーわけかっ!?

 

 

「汚いぜ…汚すぎるぜ神様よぉ!!酔った俺様をンなとこ連れ出して、全てオメーの計算通りだったちゅーわけだなぁッ!?」

 

「…帰りたかったら帰ってもええで?しかし、戻ってきてフラフラの酔っ払い〜やったらミア母ちゃんに何されるんやろな〜?」

 

 

かわいそうやけど…ちょい見てみたいで〜と、愛らしい声とは裏腹に魔ッッッッ黒な笑顔。

怖気が…

 

 

「ウチは親切心から酔い覚ましたろうかと思うとったんやけど…余計なお世話やったら帰っても…」

 

「是非、僕の酔い覚ましをお願いします」

 

 

ヤローめ…術中にすっかりハマっちまった。こーなったら運動して頭スッキリさせて無事帰るしか助かる道は無ぇ。

 

んん、まーしかし、なんだ。運動不足だったしな、そろそろ体動かさねーとガタ来ちまうからな?

ちょいと軽〜くジャンプして準備運動を始める。

身体を動かしがてら、バラバラに撒かれたカカシをみやる。

人間技じゃねーな…ってくれーひでえありさまだ。向こうのカカシくんはキレーな断面のまま真っ二つ。そちらのカカシさんは胴体部に風穴空いて、足元のカカシちゃんは頭からブッ潰れてる。

 

 

「うっ…普段からこういうえげつないプレイしてんのかアンタら」

 

「プレイゆーな。普段っちゅうよりアイズたんなんか暇さえあればダンジョンばーっか潜っとるからな〜。ココは模擬戦としてしかたまにしか使われへんで」

 

 

カカシはタダのストレス解消相手みたいなもんや!と笑うロキを横目に冷や汗を流す。

コイツの…ファミ、りあだっけ?か?

団員どもはみんな人間離れの技を持ってるちゅーことは理解した。

そして、模擬戦?模擬戦って。

もぎせ………俺と?

 

 まさか、まさかまさか、ココでその怪物冒険団ともと勝負しろってか!?

俺様がアイツらのサンドバッグしろってことかっ!?何で?

 

いやまて、ちゅーかなにで勝負する?

ジャンケンならギリいけるけどアイツらジャンケン知ってんの?仮に真剣勝負だったとして木剣で、やーって立ち向かってもそこいらのボロカカシが俺様の運命を物語ってんじゃん。

 

 

『おまえもこうなるぞ』

 

「ち、ちがう!ちがわい!俺様オメーみてーなデクのカカシたぁわけが違うんだ!見ろ俺様はグーチョキパー三つ出せる、オメーはパーしか出せないつまり勝負の土俵にすら立ててなかったんだコラ」

 

「なーにを一人でおかしなっとんねん。ほれ、カイドウくん。得物決めてもらおか」

 

「エモノ?エモっエっっえ?」

 

 

ズラリと並べられた木で出来た刀、槍、杖、爪、短刀、ハンマー……

どいつもこいつも当たったら痛そうでヤダな。

 

 

「あのォ、ちょっと異議を唱えたいんですけども」

 

「なんや?」

 

「こんな木刀でアイツらに敵うわきゃないじゃないっすか…カラダボドボドにされてすぐ病院送り〜なんすけど」 

 

 

ちゅかっ、ここに病院あんのか知らねっけど…っ、ふっ…へへ…

ニヤケながら様子を伺う。

 

 

「心配せんでもウチの子たちとやらせる気なんかハナっからないで。キミはまずそこのカカシ、殴ってみよか」

 

「んだよぉ、そういうことならそうだと言えよなぁ!?たくぅ」

 

(すぐ調子乗り出すなコイツ…)

 

 

手首足首をプラプラと、小刻みにジャンプなど軽い準備運動をしつつ、オラオラとカカシの前に歩み寄る。

 

 

「おぉん?こらぁ?なぁに見ちゃってんですかぁカカシふぜーがよぉ」

 

『いや別に見てないっすよ海堂さん』

 

「嘘つけオメー!なんだ、俺様のことバカにしてんのかっ?やっちゃいますよ?ほらっ!」

 

 

頭ン中で、カカシとの会話を妄想しながら徐々に戦闘態勢に入る。

 

シュッシュッ、シュッシュッと。

いや、これ蛇の威嚇じゃないからね。

シャドーボクシングの風切り音ね。

素早いジャブを見せつけながら、カカシの前でステップを踏む。

 

 

「早よせいや」

 

「わぁーった!わぁった、わぁーたよ…」

 

 

痺れを切らした神に急かされ、俺様は拳を固く握る。

 

 

「壊しちまっても、弁償しねぇからなっ!」

 

 

言い放ちながら、カカシの中央に拳が入る。

 

 

 

 

たった1発の右ストレート。

軟弱そうなその腕からはありえないほどの凶音があたり一面に鳴り響く。

 

その威力凄まじく、その胴体部は大きな風穴が開けられており、穴からは不自然な煙を纏う俺様の拳が覗いていた。

 

しまったか…少しやりすぎちまったか?

少しばかりニヤケてしまう俺様。

 

突如として起こったその出来事は、かの悪神ロキすらも受け入れ難い現象であり、事実でもあった。

 

瞳孔を見開いたロキは、恐る恐る尋ねる。

 

 

き、キミは……一体何モンなんや!!?

 

俺か?俺様はだな。

 

 

「失われし稀代の天才ギタリスト、海堂直也さ」

 

「人間態は、レベル1冒険者以下…と。はい、次オルフェノク態行ってみよ」

 

 

淡々と聞こえてくるロキの声がただ、ただ虚しくなる。

いっ……つ!なんだこの…、このカカシも木製なのかよ!

せめて柔かくまとまった藁でできてたりするもんだろが…イッチチ!

 

そう、さっきまでの華麗なる海堂劇場。

全て妄想だった。

人生とは、上手く行くばかりではないのだ。決して。

良い子のみんな、いい勉強になったろ?

 

拳が痛みでじんわりと熱くなる。

思わず抱え込みしきりに撫で回す。

俺様からは地面しか見えないが、ロキの呆れた表情がなんとなく見えてくるぞチックショ…

 

 

「ま、待って、ちょ、タンマ…」

 

「なんや、もう休憩入るんかいな。貧弱すぎひんかキミ」

 

「ちがっ…ちがうから。痛みが…引くまで……な?へへ、よしっ、おっけ…ってうおおおおおおおりゃあああッッッッ!!!!!」

 

 

うずくまっていた身体が弾けたように飛び上がり、カカシに向かって思いっきりドロップキックを見舞う。

 

その勢いは十分、気合も十分。

目の前のカカシヤローが粉々に蹴り砕かれるイメージが鮮明に頭に宿る。

 

現実は、コースを思い切り外してカカシの横を通り過ぎ、地面に尻から思い切り叩きつけられた。

 

仰向けで地面に横たわりながら、両手で静かに尻を抑え、空を眺める。

蒼い空はどこまでも広がり、陽光が俺様を照りつける。

今は、昼時か。

 

あ〜、綺麗だなァ。空って広いんだなァ。

いつまでも眺めるみてぇなァ。

 

しばらく横たわっていると、視界に黒い影が覗く。

逆光で全くわからんので目を凝らして見りゃ、呆れた表情のロキ。

俺様は半笑いで迎える。

 

 

「…惜しかったっすね」

 

「どこがやねん、早よ立たんかいなドアホ」

 

「いだっ、いたっ!ど、ドアホて……ちょちょ、ちょ、け、蹴るな、けるなバっきゃやろぅ!たつたつ、立つから急かすなよって!」

 

 

コイツ…なんだか急にアタリ強くなってきやがったな。俺様の頭を蹴り始めるとか…危険な女ばっかだなこの都市!

 

 

「早よ、次行ってもらおか!手抜き禁止な?」

 

「ハイハイはい〜…お待たせしましたよっ…と」

 

 

仰向け状態から、両の足を天高く上げ、おろす勢いでくるりと前転、しゃがんだ体勢でピタッと止まる。

珍妙な物を見る視線が背中に突き刺さるが、気にせず。

 

 

「へん、しんっ♪」

 

 

静かに呟いたその一言をスイッチに、表現不可能な音を立てながら身体が光り、灰色の鎧が姿を見せる。

 

やっぱり変わるときにゃあ、この言葉がピッタリだよな?

 

辺りに緊張感が生まれる。

今ここには俺様とロキしかいないはずだが、この緊張感は全てロキが放っていやがる。

 

ありゃあ俺様の動作、性能を全て観察せしめんとするキツい目だ。

あそこまで見られちまうとこっちも緊張が走る。

 

(いよいよ、見してもらうで海堂クン)

 

変貌を遂げた俺様の体は、ゆっくりと立ち上がり、首だけを動かす。

目に映るのはカカシ。俺様のことをコケにしてそーな生意気カカシだ。

 

不敵に笑いながら、大儀そうに振り返り言い放ってやった。

 

 

「オメー…謝っても、もう遅ぇからなっ!オメーは俺様をキレさした!」

 

「カカシはさっきから何もしてへんやん」

 

『そっすよ海堂さん誤解ですって』

 

「やっかましぃわオメーら!!!行くぞォ!!」

 

 

風を切るように右手をぶらつかせ、勢いよく地面を蹴った。




次回、戦闘描写の練習
になるから苦労しそうです

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