ちゅーか、俺様がこんなとこにいるのは間違ってる絶対   作:ビーム

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海堂直也は、ロキに戦闘能力計測という名目でカカシとの戦闘訓練を余儀なくされる。


俺様、カカシを殴る。

薄灰色の蛇を模した軽鎧、いや、レザージャケットと形容すべきか。

人種を超えた超生物は眼前の木人形を見据える。

その面貌からは感情を読み取ることすら不可能。だが、その動向はまさに軽薄な若者。

あまりにも不釣り合いな組み合わせであるが、それこそが海堂直也なのだ。

 

右手で空を切れば軽く音が鳴る。ある男に影響を受けて真似をしたものだ。これが彼にとっての戦闘合図でもある。

 

地を蹴りだす。

人の姿で感じ取っていたものと違う、身に受ける風の圧。

身体能力の向上により、通常よりも力強く、常人の脚力を軽く超える。

海堂もロキも異なる感触を鋭敏に感じとっていた。

 

(明らかに動きが変わったな)

 

その双眸は怪物の動きを寸分も見逃すことなく熱く捉えていた。

 

視線の重圧を一身に背負う男、海堂は若干苛つきを覚えながらも右拳に力を込める。

先ほどの人間の時と、全く同じ動きではある。

しかしその拳から放たれる異様さは尋常ではない。

 

迎える案山子は、ろくな加工も施しておらず、樹皮さえも剥がされていない丸太を十字型に組んだ粗雑な出来。

 

無加工の自然な形であるがゆえに、硬度は優良。

およそ凡人には破壊することすら敵わないだろう。

 

ある程度鍛錬を積んだ者、神の恩恵を背に受けた冒険者であるならば話は別である。

 

だが目の前の男、海堂直也はそのどちらにも当てはまらない、万はいる凡人のみてくれである。

 

例え、異形の姿になったとしても、構えは安っぽく、動きも素人。

あれならば、訓練を積んだ人間に、いとも簡単に打ち負かされてしまうのではないか。

 

だが必ず、何かが違う。

人間とオルフェノクを分ける明確な何かが。戦闘力は無論、その特性や素性。ロキはそれをなんとしても見出そうとしていた。

 

大きく振りかぶった拳。

不格好でなんとも言えぬ姿。

多くの戦士たちを見てきた悪神の観察眼もあるが、素人目からでも見て取れるであろう。

 

コイツは戦闘のど素人。

本物の戦いの場に出れば、腰を抜かして逃げ出すだろう。

例え過ぎた力を手にしても、宝の持ち腐れ。使いこなせないのがオチ、であると。

 

のはずだ。

 

はずなのに。

 

悪神の目は、別の側面を観ていた。

 

異様な戦闘慣れ。

 

冒険者でもない一般人は、戦闘に対して躊躇を覚えるのは当たり前のことだ。恐怖だって必ず持つであろう本能の内の一つである。

 

だが、コイツは戦いに対しての躊躇や恐怖といったものが微塵も感じられないのだ!

 

 

「おっりゃっ!」

 

 

間抜けた掛け声。気迫なんぞさらさら感じられない。

やる気があるのかと疑うがこの思考はすぐに捨て去ることとなる。

 

それはあっという間のこと。

拳が触れた、その刹那。

めきりばきりと樹皮を巻き込みながら拳が陥没してゆく。丸太から噴き出す尖った木屑や木粉が当たり一面に散らばってゆくのがスローモーションに見える。

 

拳を中心に巻き起こった陥没穴は原木を容易に引き裂き、上半分があらぬ方向へと飛んでゆく。

人の形をした案山子は悲しきかな、今は無残に下半身だけを残した状態となった。

 

「へえ」

 

なるほど、あの形態であれば常人以上の力を引き出せるというわけか。

さしずめ、冒険者レベル1か2ということだ。神の恩恵さえあれば3か4も夢ではない。

 

「っーへっへっへぃ、どぉでぇまだまだこんなもんじゃないぜぇ!ワチャチャチャーッハチョーッ!!」

 

 

どこのカンフー映画でも見たか、手掌を蛇の頭に模し、指先で点穴を突くかのように木を突きつける。

蛇拳の真似事だ。

 

一見、突き指をして即冷却処置が必要なトンデモ拳法に見えるが、みるみるうちに原木はガッガッと木片を撒き散らし、削られていく。

せっせこせっせこと指先だけで、なるほど大したものだが、なんともしょーもなくて魅力に欠ける技だ。

 

だが、やたらめたらにふるうだけで辺りを傷つける怪力の持ち主であり、さらに人間が持つ特技、細やかな力の込め方も軽々とこなせるということがわかる。

 

大力を宿す怪物のようであれば、技術の研鑽をなし得る人間のようでもある。成長の余地はいくらでもあるということか。

 

神の審美眼は海堂の人格、そして彼すら気づいていない種族の可能性にすらも鋭敏に感じ取っていた。

 

 

(オルフェノク、か)

 

 

ここでロキに3つの疑問点が浮かび上がっていた。

海堂の方はまだ蛇拳ごっこを続けているため、これ以上観察しても得られるものはないと判断し、ロキは考察に思考領域を割きはじめた。

 

まず第1に、種を増やす行為、生殖方法。

 

聞くところによれば、カイドウは元人間。

命と引き換えに大きな力でも得たのだろうか、と思えば違うらしい。

話の内容から、オルフェノクへの転生は唐突だったと推測できる。

 

死んだか、殺されたか、だ。

 

そこいらに打ち立てられた、無傷の案山子に背を任せ、思考の世界に籠る。

まだカンフーの真似事をしている海堂を尻目に。

 

 

ロキはある仮説にたどり着いた。

 

オルフェノクは人間が死亡することで、種として次のステージに進んだ結果なのだ。

 

以前、海堂に他の仲間の存在を尋ねてみたが、その時の返答が「もう出てくることはない」だった。

 

人はいつか、必ず死に至る。

その度にオルフェノクに転生するとしたら、彼のいたニホンはいずれ人間は駆逐され切ってオルフェノクだけの世界になっていただろう。

 

しかし、彼の発言からニホンにおいて人間は健在であり、オルフェノクはかなり少ない印象を受ける。

 

コレはつまり、人間がオルフェノクに転生する確率は、天文学的レベルであると予想できる。

 

(そうすると、ホンマにカイドウくんはラッキーやったってことか)

 

彼は平凡な人間だった。

しかし、ニホンという地で何らかの理由により死亡した。

 

自殺は彼の性格上あまり考えられないので、事故か他殺である可能性が高い。(もちろん、何かとんでもない闇を抱えていて、自殺に追い込まれるほどという可能性も捨て切れないが。)

 

しかし神の奇跡か悪魔の仕業か。

オルフェノクとして転生してしまったのだ。

 

(いや、アンラッキーやったかもしれんな。元人間にしては)

 

第2に、戦闘態勢への異様なスムーズさである。

 

(あれは、一度か二度ではない。何度か命のやり取りを経験しとる)

 

彼はある程度の戦闘経験を積んでいることをロキは看破していた。

普通の人間であれば、もう少し躊躇というものが生じるはずだ。

また、初対面時の一件もある。

岩石なぞ軽く砕くであろう凶拳を彼は、一度でも受け止めていたのだ。

その時の片腕が、白き異形に変化していたのも見えていた。

神の加護をもつ冒険者相手に追随する、経験に裏打ちされた反応速度。

彼の元いた国は余程苛烈な修羅場だったのだろう。

なんにせよ、ニホン出身を名乗る人物にあった場合には注意が必要だ。

 

第3に、人間の心を未だ持ち続けている点である。

 

突如大いなる力を与えられたのならばそれに溺れてしまうのが人間だ。

 

彼が怪物に堕ちてしまわないのが、不思議だった。

こればかりは、彼が骨太な精神力を持ち合わせているとしか考える他はない。

もしくは、彼を人間たらしめる楔のようなものが……

 

長いこと、思案に溺れてしまっていた。

チラリと海堂の方に目を見やるが、呆れ返ってしまいそうになる。

 

 

「よっ!ほっ!はっ!アチョっアチョ!」

 

「…まぁ〜だやっとんのか」

 

 

彼はまだ原木を削っては削り、削っては削り、またまた削っていた。

あのパフォーマンスをまだ続けているのだ。

いい加減、見飽き始めているロキがいた。

 

彼の行為にどんな意味があるのか、懸命に見出そうとするが見えてこない。

声だけでも掛けてはみるが、とてつもない真剣な目でこちらに見向きもしない。

もしや、この行為はオルフェノクの能力にまつわる重大な何かを示しているのだろうか。

 

(アホか、ウチは何を考えとるんや)

 

無駄な考察はもうよそう。

シャクに触るが、彼の性格のことはよーくわかってしまっている自分にため息をつく。

本当に知りたいことはオルフェノクだというのに。

 

片付けをしろと親に言われたのに、その散らかった玩具でさらっと遊び始めたクソガキのようなものだ。

 

ロキは頬杖をついて、彼の職人ぶりを見物し始める。

じっとりと、恨めしい視線を送りつけながら。

 

とにもかくにも情報だ。

この未知なる種族の情報を得るためには、この男からしか源流がない。

 

様々な考察を巡らせるロキ。

未だ指に力を込め続ける海堂。

まだまだたっぷり考える時間はありそうではある。

 

海堂が小指を使い始めたところから、ロキは完全に彼への興味を無くし、ひたすら思案に耽っていた。

 

 

 

 

それから、10分過ぎた後のこと。

 

「しゃっ!おし完成!!」

 

「え」

 

思考でブレていた眼前の景色が男の歓声に無理やり引き戻される。

 

「や〜、またせたなっ」

 

「待たせすぎやアホ。10分もなにしとったん」

 

やれやれとロキが首や肩を回すと、ゴキリゴキリと鈍い音が鳴る。同じ態勢で居続けるのは少々疲れてしまうのは神も人も同じことだった。

 

「ぐぁ〜ぁ"あ"あ"!ぎもぢっ……ぁあー!オッさんみたいな声出してしもーたやんか!」

 

「し、知らねーよんなこた…べっつにいんじゃないの?オッさんぽくてもよ」

 

パシリと小気味よい音が鳴る。

ロキが海堂の肩にツッコミを入れた音だ。

 

「いいわきゃあるかいな!これでも結構有名な神様なんやで?恥も外聞もあるんや!」

 

「あーそーすかい。まったく神ってのは気苦労が多いこってぇ」

 

興味ナシとばかりに海堂は、先ほどまで削っていたカカシの方を向く。

 

自信ありげなその白い背中の先、いったい何が見えるのだろうかと横からロキが覗く。

そこには、痛ましい姿だったカカシの上にどこから引っ張ってきたのかボロい布が被さっていた。

外からでは見えない状態だ。

 

「さぁ〜てお待たせしましたオーディエンスども!これぞ!俺様巨匠の偉大な芸術である!」

 

(普通に見せりゃええのに、随分とエンタメ性を追求してくるなコイツ)

 

風切り音を大っぴらに出しながら、布をひっぺがす。

改めてまじまじと見るロキ。

そこには、あの炸裂したカカシの下半身は影も形もなく、人の形を模した粗雑な木製フィギュアが出来上がっていた。

 

「ほお、器用なもんで…」

 

「タイトルはァ、『新たなる世界にに降り立つ俺様』ってんだっ!」

 

どうだすごいだろう、と自慢げに鼻を擦る。未だ、怪物の見た目で、人間らしい動きをするのに大きい違和感を覚えながら、ロキはじっくりと像を見据える。

見たまんまだと、思いっきりこけている男の姿にしか見えない。

タイトル負けしているのではないか?

 

「なんちゅーか…なんやっけ、タイトル。追い付いてなくないか?」

 

「んなっバカァなよぉくみろっての!ここが!!オラリオのイメージで!俺様が!天使っぽくだな!舞い降りてだな!?」

 

ちゅか!俺様から芸術説明すんのはアホらしくてやるせなくなる!

もっと観察して理解しなさい!

と、大声でまくしたてる海堂をロキは適当な相槌で受け流していた。

 

「ほな一つ言わせてもらうわ」

 

「あん?なんだ?」

 

人差し指をピンと立て、ロキは像の都市部分を指す。

 

「ここ、変やで」

 

「あぁ?どこが」

 

「ここ!ここのでっかい館の部分!」

 

「んぅ?んんん?!」

 

「ここ!うちらの館やろ!モチーフ!」

 

ロキが指差す不満点。

そこは海堂が荒削りで制作した都市部分の黄昏の館にあたる区域である。

ロキは仮にも自分の住居をモデルにするならもっとマシにしろと主張しているのだ。

めんどくさげに頭を掻き、像を覗き込む海堂。

その顔面のどこでモノを見ているのかは本人以外にはわかりかねない。

像とロキの顔を交互に見ながら彼はゆっくり尋ねた。

 

「あの、どうすればいいんスか…」

 

「……せやな、仮にもウチの本拠のことやし、いっそのことバベルよりも立派にしてもらおかな!」

 

「えーと、俺様の指ではコレが限界でして…」

 

おどおどと弱く主張を伝えると。

ロキは大きくため息をついて失望を見せた。

 

「なーんや…所詮カイドウくんは芸術家気取りのパンピーやったちゅうわけか!」

 

「…な?に?」

 

「残念や…光る原石やと思っとったのにぃ〜な。ま、コレが凡人の限界ってやつなんかいな」

 

「ほ、ほ、ほ」

 

ペラペラも矢継ぎ早に繰り出される煽りは海堂のプライドを刺激する。

ワナワナと震えだしたかと思えば、不敵に笑い出した海堂。

その様子を見て、ロキは何かを期待し始めた。

 

「おめぇ、俺様を本気にさせちまったな…」

 

海堂が右手をおもむろに掲げる。

灰色の反射光。

ロキが動向を注視する。

一挙一動を見逃さない目だ。

 

 

「職人海堂、見せてやるぜ」

 

 

掲げた右手にはいつのまにか、短剣が握られていた。

 

「!?」(武器創造やと…?!)

 

ロキは自分の記憶をたぐる。

あの時、極細の神眼は寸分違わず海堂を捉えていた。

見間違えようものがあるものか。確実に今ここで、武器の創造が行われたのだ。スキル使用を疑ったが、彼がどこぞのファミリアに属しているといった情報は聞いてない。

では魔法かと問われればそれも違うと脳内で断定する。

では何なのか。

至極単純な答えである。

 

(オルフェノクの能力…あるいは、うちの一つか)

 

まったくつくづく不思議な生命体である。武器創造をあのように軽々と行えるあたり、対価らしい対価など存在していないのだろう。

まさか、短剣以外にも何か生み出せるのだろうか?長剣、大剣、棍棒、ありとあらゆる武器を即席で生成し、それらを使いこなせるというのはかなりのアドバンテージのはず。

 

彼の能力について突き詰めようと迫る。アレは一体どういう理屈なのか?

オルフェノクの基本的な能力なのか?

その短剣にはどういう効果が備わっているのか?他に生み出せるものはあるのか?

 

詳細な話を聞こうと一歩を踏み出す。

今、ここで聞けずになあなあにされるのが1番ロキにとってムカつくのだ。

 

ロキの手が、短剣を持つ右腕に触れようとする、瞬間。

 

聞くことのないであろう奇妙な不協和音が突如として流れ、

光を放ち、人の姿へと還った。

悍しい灰色の姿はもうどこにもない。

 

 

 

 

手が止まった。

 

1人の、懸命に生きている男の姿がそこにあるのだ。

 

「……」

 

「ど〜だ?真ん中の塔よりは立派になってきたぜぃ」

 

こちらに見向きもせず、ロキに呼びかける人間。

掴みあげようとした手が、ゆっくりと降ろされる。

 

(なんか、大して変わらんな。人もオルフェノクも)

 

危険に思うべき、種族なのかもしれない。

災厄をもたらす悪魔なのかもしれない。

 

しかし、ただの人間なのだ。

 

他人の言うことに耳を傾ける姿。

 

自分の生き様を貫く姿。

 

夢を語る姿。

 

弱音を吐く姿。

 

思い出を話すときの、懐かしむ姿。

 

そして、アイズに向ける情。

 

オルフェノクはいまだ未知数だ。

だが、海堂直也を見ているうちに、

ロキは信じてみたくなった。

 

彼の夢を。

 

『ーーーー俺様には夢があってだな!?いつか、いつかオルフェノクと人間の共存を夢見ていたのだ』

 

『人間と手を取り合って生きていけるってな?昔の仲間が言ってたんだよ』

 

彼女の表情からは何も読み取れない。

気まぐれな神の、気が変わった。

神は、迷える人のそばに並び立った。

 

 

「カイドウはさ」

 

「なにぃ」

 

「人間なんやね、本当に」

 

「ああ、そうだぞ?あったりまえのことじゃないの、オルフェノクでもあるけんども」

 

「むしろ良いことや。お互いの痛みが理解できる…それは悲しいくらいにな」

 

 

短剣を握りしめた海堂は慎重に像を削る。かしょり、かしょりと刃を滑らせる音が聞こえる。

こうなってしまっては海堂は止まらない。凝りに凝っているからだ。

 

館の造形に真剣になる海堂。

そこにロキが肩を突いて横槍を入れた。

 

「あー、そこ。そこはもっちょい、削りや」

 

「はい〜?なんだ急に口を挟みやがっての」

 

渋々といったふうに、城のような館の屋根先端を過剰に尖らせる。

指に刺さったら痛そうなほどに。

 

「ウチは芸術にうるさいからな。神様としてしっかり極意をご教授したるゆうてんの」

 

「あ、いらねっす」

 

「聞けや」

 

神と怪物、2人での共同制作が始まった。

そこには疑念も未知に対する警戒もない。

親と子供のような、ほんのり暖かい時間が緩やかに流れていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時は過ぎ、帰宅の刻を迎えた。

 

長く時間をとってしまったことをロキは詫びたが、良い酔い覚ましになったから、と海堂は答えた。

 

「んじゃ、俺様そろそろ嵐のような職場にもどりまっす!暇ができたら、ツレも一緒に来いよ」

 

「おーう、今日はどうもあんがとなカイドウ」

 

荷物をまとめ終え、門をくぐり外の道へ出ようとする。

 

夕陽が照らす背中に、ロキはどうしても一声かけたくなった。

 

「ちょい待ち」

 

「あーん?なんだなんだ、まだなんだかありますか?」

 

気怠げに海堂が振り向く。

振り向いた矢先、息を飲む。

そこには、黄昏の太陽に照らされ、荘厳たる神がいた。

 

「ウチのファミリアに来ぉへんか?」

 

「…えぇ?」

 

沈黙が流れる。空の上の雲のように。

パチクリと瞬きを繰り返しながら海堂は言葉の意味を咀嚼した。

 

「…なに?スカウトってこと?俺様を?」

 

なぜなんでどうして、と小学生の口癖3連砲を繰り返す海堂だが、その表情には明らかに動揺が見えていた。

 

「キミの行く末を見届けたくなってな」

 

「……ち、中二病っちゅーやつか。イタイこっちゃ」

 

呆れて帰路に歩を進めようとする。

これは海堂なりの拒絶の意思だ。

やはりダメかと苦笑するロキ。

 

「キミの夢の続きを、近くで見せて欲しいだけなんやけどな〜」

 

「だったらぁ!尚更よ」

 

勢いよく振り返る海堂。

 

「神様らしく見守るだけで良いっ。俺様はきっと成し遂げてみせるからな」

 

「………」

 

「ああ、きっと大丈夫だ。紐神さんからのお墨付きだしな」

 

「んな、紐神やと?」

 

とある神の存在はやはり海堂にとっても大きかった。

あの出会いはまさに僥倖だったのだ。

 

とある神の存在が、男の内にこうまで大きく影響しているとは。

 

「はは……ま、門はいつでも開いとる。夢叶えるまで気張りや。それまで死んだらアカンからな?」

 

「死ィ〜ぬわきゃねーっだろ!俺様がぁ!!ワハハハ!」

 

 

双方の甲高い高笑い。

それは、2人の心に約束を刻み付けた。

 

だが約束が、果たせそうにもないことはロキはまだ知らなかった。

 

それでも人は、夢の斜面を見上げる。


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