ちゅーか、俺様がこんなとこにいるのは間違ってる絶対   作:ビーム

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ゲェーっ! こ、この評価! この感想欄!ありがとうございますっ! うう… 感極まって私、灰化しそう。


遠方の親戚からアコースティックギターを譲っていただきました。
私、喜びながら早速彼の弾いていた「Four Divertimentos: Nº 1, Andantino Grazioso」を弾こうとしましたが……! うわー! 全くダメだー! やっぱり彼は天才なんですね…。大人しく「stand by me」から始めます…。


俺様、夢を語る。

 

ーーー『本当に行くのか』

 

『あったり前ぇだろ。俺様は風だ。自由気ままに流れるのさ。それにもう、俺に帰る場所も無ぇからな』

 

『……』

 

『ンな辛気臭ぇ顔すんなって!ちゅーか、おめえはおめえの心配だけしてろぃ』

 

『お前…』

 

『おめえは残り少ねえ人生をよ。のんびり楽しんでろ』

 

 

ーーーーなぁ、乾。

 

柄にもなく俺は別れを思い出していた。俺が最後に見た乾の姿だ。

今どこで何してんのか、見当付かねぇ。

 

たりめーだ、俺様こんなとこいるんだもん。

バッグの内ポケットの携帯もずっと圏外だし、そもそもアンチキショウウェイトレスが俺様をここに縛り付けやがる。

アイツは、

 

「カイドウは外に出たら、何かしら問題が起きると思うので行かせない方が安心かと」

 

だかなんだか!

おちょくってんのか俺様を!

 

「ーーーオさん… ナオさん… ナオさん!」

 

「おぉぁいどうしたぁベル坊ォ」

 

「どうしたじゃないですよ… またリューさんに怒られちゃいますよ」

 

カウンターに伏せてる俺様を揺り起こしてんのは新米冒険者のウサギっ子、ベル・クラネル。

 

コイツ、スゲーんだぜぇ? なんちゅーか、食い逃げをやらかしやがった。本人は代金を後日持ってきたし、そのつもりは無かったとかなんだか言うが女将が「次は無い」とかなんとか脅しちまって!

 

震えるベル坊を見かねた俺様が色々世話してやったんだよ!

それからか、ベル坊はあの犬コロとの顛末をどっからか聞いてきて尊敬の眼差しを送るようになってきちまって…。

フッ、この俺様の天才さに気付くとは、アイツ見込みがあるぜ。

だが、犬コロの拳受け止めたときはまあまあ痛かったのはナイショだ。

 

「にしてもベル坊よ、お前なんか外で祭りがやってたときに大活躍したらしいじゃあねえか? なーにやったんだよ」

 

「そんな大した活躍では無いんですけど…。逃げ出したモンスターを街に被害が及ぶ前にエイヤっ…と」

 

どうやら俺様が汗水垂らして働いてたときにコイツらは祭りっちゅ〜のに参加してたらしい。

そういやなんだがあの日はめちゃくちゃ忙しかった気が。

俺様も見に行こうとしたんだが、アンチキショウウェイトレスに首根っこ掴まれて皿洗いをひたすらやらされた。なんちゅうヤツだ!

 

「ベル坊おめえなかなかやるじゃあねぇかよ! え! まだレベル1ってヤツなんだろぉ? 大金星じゃねぇか!」

 

「エ、えへへ…。ナオさんには敵わないですよ…」

 

「いよっし! お祝いとして酒奢ってくれ」

 

「僕が奢るんですか!? ん、まぁそれくらいは…ってナオさん今営業中じゃないですか!」

 

んだよ良いじゃねーかよそんくらい。

ベル坊、最初は安いパスタを頼むしか金がなかったが、最近どんどん高いモン頼むようになってきてよ。

俺様が見込んだ通りた、た、たい、タイセーするヤツだ、うん。

 

「シル嬢もよ、お前のこと気に入ってるみてぇだしよ。 いっそのことくっついちまえよ」

 

「えぇーっ! そんなシルさんが… えと、その、僕には」

 

「いや… やっぱり恋なんざやめとけやめとけ! ロクなことになりゃしねぇ!」

 

「ど、どっちなんですか!」

 

やっぱ、恋はダメだわ。何も良い事が無ぇ。

俺様も恋をした事があるが、本当にロクな思い出は無かった……。

だぁあ!思い出すだけでも惨めになる…。

しっかりしろ海堂直也!

忘れろ忘れろンなこと!!

さっさと話題を変えるに限るぜ。

 

「そういや話は変わるけどよ、冒険者ってのはそんなに良いもんなのか?」

 

「えっと… と、言いますと?」

 

「ホラ、俺様ちょっと強ぇーとこあんじゃん?このチンケな職場を辞めてやった後は冒険者っちゅーのになろうかと思ってよ」

 

「ナオさんも冒険者になるんですか!?」

 

「いやいやまだ決まったわけではないんだが俺様もあんなアンチキショウウェイトレスからさっさと解ほぐおおぉぇぇ!!! 首っ!首っ首! 締まって…… ベル坊ォ! ベル坊ォ!ゲホッ

 

「カイドウ、サボった分倍にして皿を洗ってもらいますからね」

 

「あ、あはは……。優しくしてあげてください…」

 

うぐっ…… またアイツ俺様の襟引っ掴んで奥に連れて行きやがる……。

頼むからたまには優しく「海堂様、どうか皿洗いをやって頂けませんでしょうか?」と頼んでみろぃ。やってやる気が起きなくもないかもやしれん。ゲホ。

 

 

 

ーーーーーーー

 

「お、ま、たせ♪」

 

「あっ、ナオさん。首は大丈夫なんですか…?」

 

やーっとこさ皿洗いと掃除から解放された。ちゅーか、ベル坊もう食い終わってんじゃん。えらく時間かけさせやがってアイツ…。

 

「なんか、前にもこういうことあったな」

 

「そうですね! 僕とナオさんが初めて会った時! あの時僕、ちょっと驚いちゃって… でも!ナオさんが良い人で良かったです!」

 

「良い人か、 そうか」

 

実を言うと俺様。

人間じゃないんだよなあ。

 

オルフェノク。人間の進化形とも呼ばれる灰色の異形だ。

その姿は元人間だった時に秘めた内なる『戦う姿』が剥き出しになったものらしい。

だから、馬の姿だったり、鳥の姿だったりする。あ、あと狼もな。

俺様は蛇がモチーフのスネークオルフェノク。

オルフェノクになっちまったヤツは大体力に溺れて意識なく暴れる怪物になるか、人間社会に溶け込んで種としての独立を図ろうともしてる。

つまり大体のヤツは人間と敵対するってこったな。

 

しかし、この俺様は人間を守ると決めた正義のヒーローなのでーす!

迫り来る悪をビシィバシッとぶっ倒し、人間のガキどもに大人気のスーパーマン!

人間に仇なすオルフェノクどもが蔓延るスマートブレインという会社を倒産に追い込ませたのも俺の活躍があってこそなんだぜぃ!イェイ!

 

 

 

…………けど、この理想は俺が考えたものじゃない。

 

「人間とオルフェノクの共存」

 

そんな夢まぼろしのような馬鹿げた理想を掲げてたアイツ。

その意思を勝手に受け継いだのが、この俺だ。

 

アイツは理想を目指すのを辞めちまった。

けど、最期の姿は乾から聞いている。

最後の最後でアイツはまた、自分の理想を目指し始めたんだ。

だったら、生き残っちまったこの俺様が受け継ぐのも、悪くないんじゃねぇか。

尊敬してたアイツの生き方を俺様が成し遂げてみせる。

そのためにほかの同族を探しに旅に出たんだが、さすが滅びの種族といったとこか。

めっきり見かけなくなっちまった。

 

とうとう俺様の旅は、死に場所を求める旅になりつつあった。

 

でもってたどり着いた場所がここ。

ブラック酒場。

アンチキショウウェイトレス。

とても死に場所には似合わねぇー!!

ちゅーか俺様まだまだ生きられそうな気がしてきたぞ。

まだ外の様子も窓からしか眺めてねぇ。もしかしたら、同族はここで冒険者とかモンスターとかやってるかもしれん!!

俄然やる気が湧くぜぃ!

 

あ、そういや。

 

「ベル坊、お前なんで冒険者になったんだ?」

 

「冒険者になった、理由ですか」

 

気にはなっていた。こんなガキみてーなちっこいヤツが一体どんな理由で冒険者になったのか。

俺様だったら、金が稼げるだとかモンスターを倒すのがカッチョ良いとか、それとも純粋に闘争意欲を満たすためなのか。それぐらいしか思いつかねぇ。

 

だがコイツはいかんせん若い。

俺様のいた国ではガキはガキらしく遊んでればそれで良かった。

わざわざ危険に飛び込むような職を選ばなくちゃいけねぇ理由って、一体なんだ。

 

「僕、夢があるんです」

 

「夢」

 

それを聞いた瞬間、俺はなぜか捨てたはずの呪いを思い出す。

俺の今の夢は、アイツから受け継いだものだというのに。

 

「はい、僕の夢は」

 

「……」

 

「英雄譚の英雄みたいになって、女の子にモテモテになりたいからです!!」

 

なんじゃそりゃァァァアッ!!

 

なんか緊張して損したわ!!

夢夢語るからなんだと意気込めばモテたいからだとぉ?

ふざけてんじゃ…あ、良いかもしれない。

いーやっ! 恋なんかロクなもんじゃねぇ!!

 

「おめえが! 冒険者に! なりたい理由ってそれかよ!! そんなのアリかよ! アリか! アリっちゃアリだわ!!」

 

「みっ、認めてもらえてよかったです!!」

 

この俺様が見込みある後輩にあれこれ口出しするのもアレだからな!

アイツの生き方ってやつを尊重するぜ。

だが、人生の先輩としてこの俺様が一つご教授する。

 

「いいかあ、ベル坊」

 

「は、はい! なんでしょうナオさん!」

 

「俺様から言わしてもらうとよ… 夢ってのはーーー」

 

 

 

ーーー『ちゅーかお前、夢持ったことあるか。夢。まあ、おめえみてぇなひねくれモノが夢知らねぇだろうけどよぉ』

 

『捻くれてるのはお前もだろ。 それに、夢ぐらい俺も知ってるし、持ってる』

 

『ほーぉ? じゃあこの俺様に夢をご説明願おうか!? 言ってみろよ』

 

『あぁ、夢っていうのは…』ーーーーー

 

 

 

 

「…………」

 

「あ、あのナオさん?」

 

「夢っていうのはな」

 

 

『「時々スッゲー切なくなるが、時々スッゲー熱くなれる」』

 

「………」

 

「というもんだ」

 

「切なくなって… 熱くなれる、ですか」

 

「お前が夢を追い続けることで、そういう感情をめっちゃくちゃ味わっていくんだ」

 

「ナオさん…」

 

「だからよベル坊。途中で夢、あきらめたりすんなよな」

 

「はい!! 頑張ります!!」

 

また、俺様らしくない発言。

諦めたら、呪いとなってずっと繋がれるっていうことを伝えようと思ってた。夢を持つことの恐ろしさを。

 

でも、乾の夢への価値観がよぎった。

アイツは夢を持つことの恐ろしさよりも、夢を追い続ける楽しさを見つめていた。

借り物の言葉みてーだったけど、アイツもアイツで、いい夢を持った。

 

そうだな。 俺様も借り物だが夢を持っている。誰かに託すってことはもうやっちまった。

俺様も、託される側に回らねーと。ほぼ勝手にだったけど。

 

「まぁ、適度に頑張んなさい。お前ならきっとできるんじゃねーか」

 

「カイドウ、あなたは業務を頑張ってもらわないとなりません」

 

「えっ、リュー。なん、な、な、な、なんだお前急に袖を引っ張り出して。優しいな」

 

「なるほど、襟を掴まれる方が好みですか」

 

「いやいやっ!このまま!このままで! なっ!?」

 

また皿洗いだよ。

でも、真っ白にしてやんねーと。

な、乾。

 

 




拙作を読んでくださる皆様! 本当にありがとうございます!

次はちょっとした(?)再会です…。

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