ちゅーか、俺様がこんなとこにいるのは間違ってる絶対   作:ビーム

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俺様、剣姫と出会う。

ごきげんよう。俺様です。

 

今ようやく昼の仕事が終わったとこだ。ちゅーか最近全然リューのヤツに首引っ掴まれてないな。

相変わらず口に出す言葉は厳しいが、なんか新鮮だなこういうのは。平和だへーわ。

 

「お疲れ様ですカイドウ。休憩しても構いませんよ」

 

「うーい俺様休憩入りっまーす」

 

元いた世界とは全く異なる……異世界っちゅーのか? 俺様はそこでのセカンドライフを満喫中だ。

前より良く働いちまってるのが気に入らんがなかなかいい店だぜ。

 

見ず知らずの行き倒れを保護してずっと面倒見るなんざ、普通じゃああり得ねぇからな。

まあ、俺様がここでくたばるには惜しすぎる天才だかんな!

 

しかし、いろんな種族が共存してるってのもそうだ。まさしくアイツが求めてた世界が、ここにあるんだ。

 

でもその理由が、神とみんなが強ぇーからって?絶対他にも理由があるはずだ。

それを必ず見つけてみせる。

アイツらへのせめてもの供養のようなもんだ。

 

まあちょっとした不満点を挙げるなら、リューのヤツだ。

 

アイツ最近俺様に優しい。

 

カあーッ!

気に入らねぇ!

ちょっと俺様がナイーブになったからって妙な気を遣い出すんじゃねぇやい!

俺様がなんか惨めな気持ちになるだろ!

 

え、なに?俺様のメンタルが弱いんじゃないかって…? コラテメ!

ふざけんじゃねぇーやい!

俺様は!身体も!心も!

強ぇーんだァ!!

 

俺様は店の壁をぶん殴った。

壁にはヒビみてーなものは見当たらず、代わりに俺様の拳が赤く腫れていった。

 

「ーーーはアーッ……! いつぅ……」

 

「カイドウさん、なにやってるんですか」

 

気づけばそばでジトォっとした目でルノっちが見てた。

 

「はん? な、なに? なんだそのアタマを疑うような目は?」

 

「どうでもいいですけど、お使いお願いできますか?」

 

けっ! また小間使いかよ! 外に出られるようになって多少は気が楽にはなったが仕事となるとどうもやる気が出ん。

まあ良い。こういう時こそ溜まってたストレスを解消するのにちょうどいい。

俺様はルノっちからメモと金を受け取ると店を出た。

 

俺様もこの街でだいぶ顔が知れてきたもんだ。

豊穣の女主人に勤める男ってトコがその理由だ。女ばかりの店に黒一点。男からの嫉妬の目が熱いぜぃ! おっと俺様恋は2度としないと決めてるんであしからず。

 

また、レベル5の拳を受け止めたっちゅー噂が流れていろんな奴から俺様は注目されてる。

実はまあまあ痛かった。

けど俺様並の冒険者より強い説は気持ちいいのでその流れに便乗してブイブイ言わせてやろうと思う。街から愛される人気者になってやるかなぁ!

 

意気揚々と往来を歩いていると、近くのガキが声をかけて来た。

 

「あっ!バカイドウだ! こんちはーー!」

 

「だぁれがバカイドウじゃコラァ! 愛と敬意をもって海堂さんって呼びなさい!」

 

拳を振り上げでっかい声で嗜めると、ガキは大笑いしながら逃げて行きやがった。

多分仲間を呼びに行ったんだな!?

上等だ!全員まとめてしばいたるわ!!

 

 

とまあこんな風に、

俺様ガキからの人気がデケェ。街へ出るたんびに必ずと言っていいほどガキがご相伴にあずかりやがる。

 

ガキに囲まれるようになったのはいつごろだったけか。

俺様が街を出歩いて、いろいろみて回ってたら……いつのまにかという感じだな。

そういや余興として竹とんぼやらメンコを作ってやったこともある。

素人が作るような出来だったが良く飛んだし、ガキを喜ばせるのに充分だった。

 

ちなみにバカイドウ……は、多分リューだ。

アンチキショウ、たまに俺様のことをそう呼びやがんだわ。それが広まっちまったんだと思う。

 

あーいかんいかんいかんコレはいかん。

このまま黙っていられる俺様じゃないぜ。

漢、海堂直也。

汚名返上果たして見せます。

 

つーわけで汚名返上の第一歩としてルノっちに頼まれた小間使いを終わらせてやんぜ。

サッと行ってサッと帰る!できる男の秘訣よぉ!

 

俺様は小走り気味に店へと急ぐ。

えーと確か新しい食材の下見に行くんだっけか。

 

とりあえず一個買って帰ればいいらしい。後は女将達が新食材を使って新たな料理を考える。上手く行ったらシルやリューが店との取引の契約を取るという段取りになっとる。

 

まっ、俺様買えば良いだけなんで気が楽だわな。

さーてガキが来る前にさっさと終わらせっぞぉ〜。

えーとこの辺どこだっけ。

 

俺様の人外的な嗅覚で(まあ確かに人ではないんだけども)店を探す。

大体の位置は匂いで覚えているのだ。

 

 

 

………なんかめちゃいい匂いがする。

コレ、コレコレコレコレ……ジャガ丸くんの匂いだ。

 

気づけば俺様は北のメインストリートに足先が向いていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

おーおーやってるやってる!

出来立てホーヤホヤのジャガ丸くん!

食欲を誘う匂いが俺様の嗅覚を刺激する。

俺様ここにきて良かったと思うもう一つの理由がコレ!

俺様の大のお気に入り!ジャガ丸くん!

外に出ていった時によく買っていくんだよ。おかげですっかり常連様だ。

 

ちゅーわけで屋台の目の前に立つ。

愛想のいい店員がいらっしゃいませーと出迎える。

 

あん時の神さんと違う店員か。いやまだ神なんて信じられないが。

さーて。金金金ェーっと…。

さ、い、ふっーはどっこにしまったか。

俺様は服のポケットを次々と探る

 

しまった……俺様のサイフ置いてきたんだった。うーわ最悪。ここまできてなんだそりゃ。

 

ポケットを少し乱暴にまさぐってると、ルノっちから渡された小銭入れが出てくる。それを見た瞬間、俺様は長い葛藤に苛まれるのであった!

 

 

……ちょっと余分にもらってきてるし、い…いいよな?

一個くらい…な? な?な?

 

葛藤終了。

 

よーし! 決まった! 俺様買う! 買うと言ったら買うんだい!! 一個買うぐらいなんだ!そうだ!! 買うぞコラァ!文句あっか!!

 

 

 

 

 

 

「二つください」

 

「毎度ありがとうございまーす! 」

 

ウッキウキのステップで店を後にする俺様。

むほほ♡ 二つも買ってしまった!

いやぁコレはご褒美だよ、うん。日がな頑張って同僚にどやされる生活を送る俺様への恵み…!

しかも俺が買った分で最後だったらしい。 こりゃラッキーだな! 後の客がかわいそうだぜ!

さーてさて!アツアツの袋をゆっくり開けて……開けて…あけ…。

 

「…あっ…まだ……」

 

「すみませーん! 出来立てはまだ時間がかかっちゃいます〜」

 

ホカホカのジャガ丸くんにかぶりつくのを止め、後から来た客をチラリと見る。

 

んー……買いそびれたアイツ。

なーんかどっかで見たことあんだよな。それにかなり臭う。いやクセェってわけじゃなくてだな。

 

その、血の臭いだ。

 

 

 

あんなガキが。

なんだってそんな臭いを纏ってんだ。

 

 

なんでか俺様は戻る足を止めた。

深くため息をついて、女のところへ戻って行く。

 

どうしてこうも俺様ってばこんなことしようとするかね。

 

 

出来立てのジャガ丸君が手に入らなくてちょい沈んでたアイツの目の前に立ち、鼻をフンスと鳴らす。

 

……よく見てみればスゲェ整ってんな。

金髪に金色の目。成長すりゃあ俺がいた世界じゃ誰もほっとかないぜ。

そうだな、洗濯屋の店主が気に入りそうだ。

 

ガキは不思議そうな顔でこちらを見ている。なんだその目は!

なんとなくそれが嫌だったので目をそらし、俺様はジャガ丸くんを差し出した。

 

「ほれ。やるよ」

 

「…え?」

 

わかってなさそうな雰囲気がじれってぇ! じれってぇぞ!

 

「あーーっ!もういいからさっさともらっとけってんだ!」

 

俺様は無理矢理ジャガ丸くんを持たせてやる。

ガキは驚いたようだったがすぐに落ち着き、俺様をじっと見据える。

 

「いいの?もらっても」

 

「ハイハイいいのいいの、俺様がいいと言ったらいいの」

 

俺様は手をひらひらさせる。

ガキは表情を緩ませると一言、

 

「ありがとう」

 

そうして渡したジャガ丸くんを頬張った。

 

随分と美味そうに食いやがるな。

いかん!飯テロだ! ジャガテロだコレ。

たまらず俺様も取り出してジャガ丸くんにがっつく。

 

包装紙のクシャッとした音と静かな咀嚼音が鳴りあった。

 

 

 

 

しばらくしてお互い食べ終えると、ガキが金を支払おうとしたので断った。

せっかく気前よく奢ったのに面目が保てねぇだろそんなもん!

 

俺様がそばの壁にもたれ歯を掃除しているとそばに同じようにもたれかかるガキ。

唐突に話しかけてきた。

 

「あなた、豊穣の女主人にいた」

 

「おっ? 俺様のこと知ってんのか?」

 

俺様はニカッと笑う。

 

「そうとも!俺様がかの天才と呼ばれた男!海堂直也です」

 

「やっぱり、ベートの拳を受け止めてた人」

 

…ベート? 拳? あぁ!あん時の犬コロか!

つまりコイツはソイツの仲間だ。名前はなんてんかな、えーとアイアイアイアイ…。

 

「私はアイズ。アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

「そうそうアイスだアイス」

 

「…アイスじゃなくてアイズ」

 

ちょっとむくれて訂正するアイスとやら。

 

「わかったわかった。で、アイスさんが俺様に何の用です? 俺様色々と忙しいから手短にしろよ」

 

「アイズ…。 あの時はごめんなさい。ベートがあなたを」

 

ほ? コイツ謝りに来たのか?

随分と律儀なやっちゃな!

とりあえずまぁ平気そうにしておくか! あん時のリューのしばきは辛かったが俺様強い説を街に広めるために!

 

「全く気をつけてほしいもんだぜ! 今度から首輪をつけておくように!」

 

「ベートには注意しておいた。どうか許してあげてほしい」

 

「…しゃあない! 許す! まっ俺様なんともなかったけどな!」

 

「よかった、結構あの時痛そうにしてたから」

 

「よせやい照れ……え、なんで痛いって知ってんですか」

 

なんで痛いって知ってんですか。

 

え? バレた? バレてた?

あの時のすまし顔は人生で上位に入るほどの出来だったはずだが。

 

「やっぱり。まだ痛むようだったら私が回復薬を」

 

「っっ! っっんだ!おぉっっ!いらねぇ! なんだそりゃあもう!楽勝!楽勝よっ! 」

 

「……? 痛くなかったの?」

 

「そうだよっ」

 

冷や汗をダーダーにかきながら自分を取り繕う。

なにが楽勝なのか自分でもわからなくなって来やがった。

 

「そうなんだ」

 

アイスはちょっと安心したように息をつくともう一つ聞いてきた。

 

「どうしてジャガ丸くんを私に?」

 

クシャクシャと包装紙を丸めながら俺様に尋ねる。

 

「楽勝よっ!楽しょ…え? あ、あぁ、あのあのあのあのアレだ」

 

「うん」

 

「えー、気まぐれだ!気まぐれ! 普段こんなことしないんだからな!」

 

「そうなんだ」

 

「お、おうよ」

 

 

正直俺様がジャガ丸を渡した理由はよくわからん。

ただ、何か不思議な雰囲気を感じた。そういうのには疎いはずなんだがここ最近そういうのをよく感じるようになった。

シル嬢とリューの3人でバブル?の塔らへんにいた時も、微妙に視線を感じた。

う、うん。しかし俺様でも分からん、渡した理由は。

ただなんとなくなんだろう、なんとなく。

 

そう思い込むと俺様は話の転換を試みる。

俺様にもなんか聞く権利はあるはずだ。

 

「そういやアイスよ。おめえめっちゃ強いってな? 」

 

ウチの店員が噂していた。

ロキファミリーマアトにはおっそろしく強ぇ女剣士がいると。

そんときにアイズだかアイスやらと聞こえてきたので多分コイツがそうなんだろう。

 

ベル坊とおんなじ。

ガキのくせに強くなろーとしやがる俺様がこの世界で複雑になるものの一つだ。

異世界ってやつだから俺様の常識は通用しねぇーんだろう。口出しすることもねぇわな。

 

「……いや、まだ足りない」

 

足りない? どういうこっちゃ。

アイスは俯き、ギリギリ聞こえる程度で呟く。

 

「私はもっと、もっと強くならないと… 」

 

「……!? 待て待て!待てよ!」

 

一瞬見えた瞳に、愕然とした。

 

あのときの、あんときの木場の目と似ている…!

 

こんなガキが!? どれだけ辛い思いすりゃあ…こんな目を…!?

 

慌てて呟きを遮る。

 

「な、なななんだお前!何歳だお前!!」

 

「…16歳」

 

ほら見ろ! 俺様の思った通り16歳だコイツ!

 

 

「ま、まだガキじゃあねぇーかおめえよお! 強くならなきゃあ〜ってお前!いくらオラリオだからってガキが死に急ぐことねぇだろ!? 」

 

「…ガキじゃない」

 

「いーやガキだ! 俺様からすればその歳はまだガキなんですー! 何だってガキがそんな強くならなきゃいけねぇんだ!?はん!? 言ってみろ!!」

 

「…あなたにはわからない」

 

んだあぁ!? なーにがあなたにはわからねぇ、だ!

わかんねぇから聞いてんだろが!!

 

「へっ! なら力づくで聞くまでだっ!」

 

俺が発する気を察知し、アイスも即応戦ができるように構えた。

 

剣呑な雰囲気が漂う。

 

加速する本能が俺の顔に歪みを生じさせる。

アイスは目を見開いた。

 

当たり前だよな。今まで顔に怪物が浮かぶ人間なんて出会ったことないだろうからな。

 

俺様は手を数回スナップさせる。

 

「覚悟いいかぁ? シャアいくぞコラァッッッ!!

 

 

ーーーーーーー

 

「うぉおぉぉぁあぉぉぉぉぉぁあぁああああああッッッ!!!」

 

「………(グッ)」

 

「あらっ……」

 

腕があっという間に倒される。

あんな細い腕のどこにそんな力があんだ!

 

あっ、俺たち腕相撲やってます。

 

殴り合い?

 

痛いのでパス。

 

あんだけ力を込めてやってんのにそれすらも簡単に崩されちまう!

こんな情けねぇ姿、街のガキどもには見せらんねぇや。

威厳が失墜しちまう!

 

「もういい?」

 

「まだだ!次は指相撲じゃあ! 指出せ指ィ!」

 

どうやるかわからないアイスにやり方を教えてやり、お互い指を絡め合って親指を立てる。

 

「俺様がスタートっつったらゲーム開始だ。いいな?」

 

「わかった」

 

うし、いくぞぉ…!

 

「よーい……」

 

「……」

 

「…スタートッッ」

 

と同時に俺様は人差し指を抜き出し、アイスの親指をこちら側に引き込もうとする! !!

これは公式では反則技だが、ここは異世界!!

前世界のルールはかなぐり捨てろ!!

 

ビビるアイスは掴まれた親指をどうすることもできずにそのままカウントダウンを迎えてしまうのだ!

俺様の勝ち!!

 

ここまでが俺様の計画。

しかしうまくいかないもんである!

 

(…コイツ! 人差し指が抜けねぇ!!)

 

そう!人差し指が抜けないほどがっちりと絡み合っていたのだった!!

なんだコイツの力は!!!???

握力いくつ?

 

そうこうしてるうちに、

 

「……(ギュッ)」

 

「あらっ……」

 

「10、9、8」

 

「ま、ままま、待て待て待て待て」

 

「4、3、2」

 

「ちょ、ちょっとタンマな?タンマ」

 

「0」

 

負けた。

 

連勝のアイスは無表情を貫いてやがる。

ンのやろォ…俺様を本気にさせたな!?

 

 

……七転び八起きの男! 海堂直也!

こんなところで諦められっかよぉ!!!

 

「よーし!次はトントン相撲だ!

包装紙出せ包装紙ィ!」

 

 

 

ーーーーーーー

 

俺様が今までに挑んだ勝負。

 

腕相撲、指相撲、紙相撲、走り幅跳び、飛び幅跳び、競争、鬼ごっこ(ガキも交えて)、ジャンケン。

 

 

全負け。

 

自信無くすわ。

 

「おま……、強いな…」

 

「ナオヤも、強かったよ」

 

「慰めはいらん! 余計惨めになる…」

 

疲れ切った俺様は壁際に座り込み地面を弄る。

アイスが心配そうに側にしゃがんだ。

俺様はアイスに問う。

 

「あのさ、お前が強さを求める理由ってさ」

 

「うん」

 

「誰かに……追いやられるようなマネされてんのか?」

 

アイスは特に表情を変えずに、

 

「…されてない」

 

と言い切った。

その様子じゃあマジらしいな。

 

 

 

「じゃあ、変なこと聞くけどよ」

 

「うん」

 

「お前さ、信じられる仲間、いんのか?」

 

「……」

 

全くガラでもねぇ…。

変な質問だよな。

 

 

前にリューのやつが言っていたな。

 

みんな強いからみんな共存できる、だってよ。

 

けどな、俺はそうじゃないと思う。

そうじゃねぇと信じてぇ。

俺たちの信じた理想が、そんな形でしか叶えらねぇなんて。

 

このガキは強くなろうとしてやがる。

その理由は教えてはくれねぇが。

 

俺様は、なんとなく嫌な想像をしてしまった。

 

強くなりたい理由。それは、ほかの奴らに追いやられないようにするため。一人に、ならないため。

 

リューの言葉と、俺の想像が嫌な繋がり方をした。

 

共存できるこの世界。

生きるためには、ガキだって強くならなきゃいけねぇ。

妄執するほど貪欲に、強さを求めなければ、生きていけないのか?

 

そのために、こんなガキが、返り血を浴びるほど戦わなければならないのか?

 

 

そんな世界。

 

 

俺は、とっとと出て行く。

 

 

偽物だ。

 

 

 

 

 

長い思案を経て…アイスが俺を見つめる。

俺が一番聞きたい言葉は。

 

「いるよ」

 

「…そうか。じゃあいい」

 

たった一言だけだったが、俺様は確信した。

あの澄んだ金の瞳。

なんとなく、あぁそうなんだろうなと思える。

仲間はたしかにいた。

犬コロにチビ神にアマゾネスに…。

 

愚問だったな。

俺様は自分をわらった。

 

 

そうか、勘違いか。

 

 

いらん心配だったな。

 

「でも、このままだと私、もっと強くはなれな…「そうじゃねぇ!」…?」

 

それ以上言って欲しくねぇ。

別の心配が湧き出てきやがる。

俺はアイスの言葉を遮った。

 

「仲間がいるから!いいんだろがぃ!」

 

アイスはじっと聞いていた。

 

「クセェから言いたくなかったけどよ! 誰かのために、闘うってことはなぁ!」

 

俺みたいな弱っちいオルフェノク、いや、人間でも。

木場の理想のために、乾を助けるために、……照夫のために。

 

「一人よりも、何倍も強くなれんだよ」

 

あんな怪物どもと渡り合ったんだ。

一人では決して至れなかった道だ。

人間が持つ最高の能力。

 

人間(俺たち)の持つ美徳を、どうか捨てないでくれねぇか」

 

「…うん」

 

オルフェノクみてーに、冷酷な強さをもつ孤独な生き方なんか、寂しいだけじゃねぇか。

 

ーーーーーーーーー

 

ひとしきり海堂が語った後、気づけばもう夕方だった。

 

海堂の脳内にミアとリューの罰がありありと巡り、思わず頭を抱える。

 

海堂は急遽立ち上がり、アイズに簡単な別れを告げる。

 

「ちゅーか俺様もう行かなきゃなんだわっ! おうアイス!気ィつけて帰れよ!」

 

「うん、ナオヤも」

 

海堂は急いで店の方まで走り去っていった。

後ろ姿を見つめるアイズ。

今まであまり仲間や強者以外に関心が持てずにいた。

 

しかし強者とも呼べないがとても興味を引く人物、海堂直也。

仲間の存在が強さにつながると教えてくれた人。

仲間や友人以外でここまで関わった人は経験上なかったのでアイズにとって新鮮な体験だっただろう。

 

(楽しかった)

 

アイズは再び彼とまみえることを密かに思いつつ、帰路につくのであった。

 

海堂はその日、たんこぶを二つほど作った。

 


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