ちゅーか、俺様がこんなとこにいるのは間違ってる絶対   作:ビーム

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大変お待たせしました。
初10000字超えです。


俺様、ダンジョンに潜る。

お久しぶりでーす。俺様でーす。はい、どーも。

長らくお待たせしたような気がするけどもね、俺様元気です。今は昼休憩でございます。

 

ちゅーかね、最近俺様悩みあんのよ、2つぐらい。

ちょっと聞いてくれ。

まあ1つはね、どぉーでもいーんだけど、どぉっっっでんんんんもいいんだっけどっ!!!!!

 

金が足りないのよ。

 

金。足んないの。マネー。

店で働いてるっちゃ働いてっが、ぜーんぜん足りなくってよ。

そろそろ副職とか考えてるわけ、俺様。まっ!このマルチな才能を秘めた俺様なら見事に副職もこなせんだろ!

あっちゅーまに30万ヴァリス稼いでやんぜぇ!

 

あ?ンな大金なにに使うかだって?

ばっきゃろ!教えるわきゃねーだろぃ!俺様の金だどうしょーが勝手でございましょーが。

 

いや別にアレ買おうとか思ってないんで全然。ハイ。

 

…まあその、なんだ。扱いが荒い奴らの手に渡る前に俺様が買って、持つべき奴に渡しておくだけだ。うん。

 

もうこの話はいいよな?

んでよぉ次が問題なんだわ!

大問題!!もうさっきの話とは比べ物になんねぇぐらいやばい。

心して聞けよ…?いいかぁ?

 

 

 

 

 

 

「最近肌荒れがやばい」

 

「そっちがどうでもいいニャ」

 

んだと?こんクロネコはなーに言ってやがんだ。天才は肌みてーな細かいとこにも気を遣うモンだ。分かっちゃいねーなー。

 

俺様は頬に当てたパックをグリグリ押しながら椅子にどっかり座る。

円状に薄くスライスされた果物パックはいい香りを放ち、俺様の毛穴という毛穴に吸収されていく(ような気がする)。今は男でもパックする時代だ。いいだろこんなもんぐらいよ。

黒猫吉はパックの香りに眉をひそめている。

 

「それより、さっきのお金の話。ここの給料じゃ足りないのかニャ?」

 

「ン俺様ぁ手っ取り早く稼ぎてぇんだよ! まあ泊まっちゃーいるがな、宿代飯代風呂代も給料から抜かれてんだからな!! 何百年働きゃー30万になるんだか!!!」

 

早くしねーと先越されちまうしな。

 

「ちゅーわけでよ、なんか手っ取り早ーく稼げる方法知らねーか?黒猫吉」

 

グイと黒猫吉に近づく。その眉は一層シワが走っているのが見えた。

そういや、猫は柑橘系が苦手らしいな。へっ、知ったこっちゃねーが。

 

コイツは猫吉と同じキャットピープレとかいう種族だ。

ただなんちゅーか、猫吉と違ってただならんニオイを醸し出している。

血の匂いとかな?ルノっちからも似たようなニオイがした気がする。

 

まあ、シル嬢みてーなガキンチョはあんまし金の話は知らなさそうだし、リューは「諦めてここで働きなっさーい」とかなんとか言ってきそうなので相談はNGだ。

 

そーゆーことを判断した上で俺様はコイツに相談することにした。

まっ、知らなきゃあルノっちに聞くだけのこった。

黒猫吉は鼻を小さく擦りながら言った。

 

「…うーん、手っ取り早く稼ぐ職なんてそうそう無いニャ」

 

「頼むぜぇ!そこをなんとかさぁ!!」

 

そのやり取りを見ていた冒険者が笑いながら俺様に声をかけた。

 

「だったらダンジョンに行くってのはどうだぁ? 実に手っ取り早いぜぇ!?」

 

「そうだそうだァ! おまえみてーな女に囲まれてる貧弱野郎は一度しごかれてこいや! ハッハッハッ!」

 

 

「お客さん、余計なことは言わなくていいニャ」

 

「ダンジョンだぁ?」

 

聞いたこたァ〜ある。

この都市の冒険者どもはダンジョンちゅー地下に潜ってモンスターをバッカバッカぶっ倒すのが仕事らしい。

ベル坊もあんなちっちぇー身体でかなりのやり手と聞いた。

つまり、モンスターとやらはこの俺様でもぶっ倒せる程度ってこった。

最近なまっちまってたがな、ちょいと昔はぶいぶい言わしてたもんだぜ?

俺様はパックを丁寧に剥がし勢いよく立ち上がる。

 

「うーしゃー!!」

 

「どこ行くニャ?」

 

「どこって決まってんだろ?ダンジョンだよ、ダンジョン。なんか文句あっか」

 

「あるに決まってるニャ!まだ勤務時間だし、大体なおやん冒険者じゃないニャ!」

 

「あぁ、そんなことか。心配すんなぁ黒猫吉ィ」

 

黒猫吉は訝しげに首を傾げた。

 

 

 

 

「ーーー人間ってやつは生まれた時から既に、冒険者なんだよ」

 

空間が冷えていく気がした。

何言ってんだコイツ、という目線をチクチク感じる。

 

「……フヘッ。ん、ん、んじゃ、そういうことです」

 

「そういうことじゃ……あっ!待つニャ!なおやん!!」

 

「ギャッハッハッハ!! アイツ死んだな!」

 

生まれた隙を利用して俺様は急いで外に出る。武器とかは持ってきていない。この拳だけが頼りだ。

後ろから黒猫吉の慌てた声が聞こえる。もう俺様は誰にも止められないのだ。すまん。 善は急げァ。

 

「なおやーーんっっ!」

 

さらばクソ賃金クソ職場。

海堂直也、ダンジョンにて一山当ててきます。

 

フッ..自然と笑みがこぼれるぜ。久しぶりに味わった解放感に俺様は自然と笑みがこぼれる。

 

「プグ-ックッヒッヒッヒッヒッ....」

 

未知の世界に向かう俺様の足取りは希望に満ちていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさてさてこのデッケェ塔の下にあるんだな?

俺様はバベルの塔とか呼ばれるどデカイ建造物の前に着いた。

さまざまな装備に身を包んだ奴らが自信に満ちた表情で入り口をくぐっていく。 どーやらここがダンジョンで間違いなさそうだ。

周りが周りだもんで俺様の軽装がチョイと浮くがそこは気にしねぇ。

 

 

意気揚々と入り口を通り階段を降りていく。大広間に出ると、10メートルほどの大穴が目に付いた。

 

「な、な、あ、あんじゃあこりゃあ…!」

 

未知の光景に同じように大口を開けることしかできねぇ。

螺旋状の階段が円周に沿うように設けられており、冒険者達はそれで大穴へと進んでいっているのが見える。

天井を見てみれば何やらよくわからんが芸術的な壁画がデザインされていた。

 

「うわオイオイオイ、カメラもってこりゃ良かったぜ」

 

いよいよという感じだな…。

ここから俺様の冒険譚が始まるっちゅーわけか!フヒヒ!待ってろよぉい!!お宝どもよ!!

 

希望を胸に秘めながら階段を降りようとする。周りの冒険者が俺様の姿をチラチラと見ていやがるが仕方のないことだな。

なんたって俺様はどんな服でも似合ってしまうかんな……。

 

例えそれがウェイター服だとしてもな。

 

「おい、アレって……」

 

「豊穣の女主人の店員じゃねーか…?」

 

「なんでこんなとこに…」

 

 

 

 

「あれ? も、もしかしてナオさん!? 」

 

一際目立つ声が聞こえた。

あの声は俺様もよーく知ってる。

 

「ベル坊ォ!お前も来てたのか、って当たり前だのクラッカーだわな」

 

冒険者として生計を立ててるベル坊にしちゃあダンジョンに来るのはたりめーだよな。

ベル坊は嬉しそうな顔を浮かべながら寄ってくる。

何ちゅーか、犬みたいなやつだな。

犬。 乾とは大違いだわ。

 

「ナオさん!もしかして冒険者になったんですか!?」

 

「ん? おう! 人間って奴ァこの世に生を受けた以上、冒険をするのが義務だからなぁ!」

 

「さすがです!ナオさん!」

 

「答えになってません!!意味不明です!」

 

おっと、リリ助もいたのか。俺様をちゃあんと様付けするわかってる奴だ。他の奴らとは大違いだわ。

 

「ナオさんはどうしてダンジョンに?」

 

「まあちょいと金策をね、しなくちゃなんねーんだ。ダンジョンってまあまあ稼げんだろ? 前に聞いたぜぃ」

 

「それはそうですが…。ときにカイドウ様、私たち冒険者がどのようにダンジョンでお金を稼ぐかご存知でしょうか?」

 

なんだぁいきなりな質問だな。

えっーとなんつったかな。

 

「アレだ。あーん、モンスターを倒しゃいんだろ?」

 

「半分正解で半分間違いですね」

 

「にゃにィっ!? 倒すだけじゃあダメなのかよ!?」

 

「ええ、正確には魔石を回収し、ギルドに換金することが主な収入源となっています」

 

「ま、ませ…、なんだぁ?」

 

ませき? また聞いたことねぇ用語だな…! もーちょい黒猫吉から聞くべきだったかぁ?

リリ助が俺様を訝しげな視線で攻撃してくる。コイツになんかやったか俺!?

 

「これくらいの常識も知らないとなると……、本当に冒険者なのか疑わしいですね」

 

「ばっ!ばっきゃろ! 新たな世界に踏み込む者こそが冒険者なんだろが!! 常識を知らねぇーからって勝手に決めつけんなアホゥ!!」

 

「それは貴方様の中での話でしょう!? 私たちは神の恩恵をうけ、ギルドに登録をした人達のことを冒険者と呼ぶんです!」

 

「うっせぇやい!! もっとわかりやすい言葉で喋りやがれってんだ!」

 

「な!? さっきからちゃんと喋って……! なんなんですか貴方様はァ!?」

 

口論が白熱する中、ベル坊が焦るように俺様に確認を取る。

 

「ナ、ナオさん! ギルドの方には登録しているんですよね…、ね!」

 

「え、え、え、えっ、なんですかそれ」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 

ベル坊とリリ助がピシリと固まって動かなくなった。

場内の空気が凍ってきやがる。

あーやだやだ、退散しまーす。

俺様寒いの嫌なんです。蛇だから。

 

「ん、ん、んじゃあそういうことで。サヨナラっ、また今度っ」

 

ぐるっと90度方向転換、そのまま俺様は階段を走り抜けた。

 

「あっ、ベル様! そっ、その人捕まえてくださいっ! 」

 

「えぇぇ!?うわっ! ちょ、ちょっと待ってください! ナオさーんっ!!」

 

待たねぇよアホンダラィ!

俺様は冒険者だ!!

誰がなんと言おうと冒険者なんだ。

 

 

 

 

「こっ、ここまで来りゃあ十分だよな…」

 

階段を2、3回降りた気がする。

ダンジョンでいう3階層あたりか?ここは。辺りは人の姿は見えねーが、あちこちで誰かが戦う音が反響してくる。マジでファンタジーだな。

周囲を見回しゃあ、俺様は今ダンジョンの大広間みてーな場所にいるな。四方に道が続いている。とりあえずモンスターを探しにこっちの道を……って。

 

「な、なんじゃあこりゃあァ!?」

 

薄青色の壁から小せぇ鬼みてーなのが出てきやがった!

うわぁ気持ちわる。

 

「! そうかオメーがモンスターってやつだな」

 

モンスターは俺様を視認すると敵意を向けてジリジリにじり寄ってきやがる。

俺様はビシッと指を向け、セリフをビシッと決めてやる。

 

「オメーはこの海堂様が直々にぶっつぶぁぁぁあああいぃぃててててててッ!!!!!!

 

野郎ォッ!俺様が名乗りを上げている間に襲ってきやがった!!

いててててて引っ掻くな爪たてんな!

 

「このやろお!離れあ痛痛痛痛痛痛痛っ!?ケツ痛っ!」

 

目の前のモンスターに気を取られて、背後の存在に気づけなかった。

今俺のナイスなケツは思いっきりかじられている。

目を向けると犬頭のモンスターが歯を思いっきり突き立てて痛てててててててて!!!!!

 

前方は小鬼がひっつき服を容易く引き裂いてきやがり、後方からは犬頭がケツを執拗に攻め立てやがる。

 

「いい加減にしろっちゅーの!! オラァッ!!!」

 

とりあえず小鬼の対処に移る。

奴ァ俺の身体に爪を立てることに夢中で防御の意識がない。よって。

 

「△●×□ッ!?!?」

 

思いっきり右腕で殴り抜いてやればいとも簡単に吹き飛ぶ。

小鬼は地面に叩きつけられる。

次は犬頭ッ。痛っ。ケツ痛っ。

 

「こんのオメー!そんなにケツが好きならよ!」

 

「!?」

 

大きくジャンピング。唐突な浮遊感に犬頭も困惑している。

 

「好きなだけ食らわしたらァッ!!」

 

「ーーーッ!!」

 

俺様の必殺技!

ビッグニードルストンプ!!(おもいきりすわっただけ!!)

固ーい地面に鋭ーい尾骶骨が犬頭の体をサンドする。俺様への衝撃は犬頭がクッションとなっているので問題ない。

ちょいとカッコ悪いが威力は絶大。犬頭は痙攣したのち、身悶えすらしなくなった。

 

小鬼の方はすでに立ち上がっており、臨戦態勢に入っている。

気がつけば数体ほど増えていた。

 

「へっ! いいぜ! オメーらのまさき! ん?ませき? ……をさっさと渡せっちゅーんだコラ!」

 

手首を数回しならせ、構えた。

 

小鬼どもが飛びかかってくる。振りかぶった腕で俺様の体を裂こうとしているがそうはいかねぇ。

 

「そらよっ!」

 

あらかじめ握っていた土砂を小鬼どもに投げつけてやる。

突然の目潰しに意表を突かれ、ふりかぶられた腕は目を抑えることに使われる。

そうすりゃあ、無防備な連中の出来上がりだ。

 

「おっりゃあァッ!!」

 

拳の一撃、まともな防御ができていない小鬼にとって致命的なダメージだ。打ち捨てられるように地面に落ちると、数回悶えたのち煙のように消え去り、跡には宝石のようなものが残った。

 

飛びかかってきた数体も殴り抜く。

結果は同様に消え去った跡に魔石と思われる石ころが残った。

 

「 さーてこんなもんか? 意外とあっけないぜ」

 

やっぱり俺様って戦闘センスあるなぁ〜。っと、ませきってのはどうやらコレみてーだな?

手に取って見てみると不思議な色合いをしている。これを換金しちまえばいいわけだな。

 

……うーわ、袋持ってくんの忘れた。

しゃあねえ、ポケットに入れとくか…。

 

すると、道の奥から声が聞こえてきた。ニオイからしてアレは冒険者だな。

 

 

 

「ナオさん……こっちに走っていったようなんだけど…?」

 

「急いで見つけないと!!もう既に手遅れなことになってるかもしれませんよ! 」

 

「うーん、ナオさんなら大丈夫だと思うんだけどなぁ?」

 

「ホントどこからきたんですかその根拠は……って居たーーーっ!」

 

やーっぱりベル坊とリリ助だったか。俺様の自慢の鼻は今日も元気に稼働中だぜ。

 

「ナオさん!やっぱり無事だったんですね!」

 

「おうよ!たりめーじゃねーかこの俺様だぞぅ?」

 

リリ助が落ちている魔石に鋭く目をつけた。

 

「待ってください!ま、まさか…その魔石は!」

 

「俺様が手に入れたに決まってんじゃねーか」

 

自慢げに魔石を振りつかせてやる。

どうやら俺様が真の冒険者ということの証明になったみてーだな!

だが、リリ助は感心するかと思いきや、呆れていた。

 

「恩恵無しで複数相手に勝利したというのですか…」

 

「俺様ってなかなかやるだろ? 自分でもビックリしちゃうぜこの勇気にはよぉ!」

 

「勇気というか、無謀というか……」

 

「ナオさんらしいですよ!」

 

どんな評価だそりゃ。

頭ん中でツッコミを入れ、魔石を拾い集める。

 

「ベル坊ォ! コレでいくらぐらい稼げんだ?」

 

どれくらい集めたら30万いくのか知りたかった。答えによっちゃあ、俺様はあの店を出ていくかもしれねーしな!! 稼ぎ悪りーし、女将怖えーし、客めんどくせーし、リューにどやされるし、いいとこなんかひとつもねぇからな!

 

その点こっちは何も考えねーから気が楽だ。うるせーやつもいねーし、一番性に合ってる!天職ってやつだな!!

 

ーーーーー『ナオヤさん! 今日もお疲れ様です!また明日も頑張りましょうね!』

 

 

 

 

『なおやーんっ! 暇ニャらクロエと一緒にあの店行くニャ!!』

 

『特別に奢ってあげるニャ!』

 

 

 

 

『カイドウさん、ホットミルクをどうぞ。暖まりますよ』

 

 

 

 

『ナオヤ!今日の給料だ! いつもよりちょっと増やしておいたからね』

 

 

 

 

『カイドウ、買い出しに行きますよ。付いてきてください』

 

 

 

 

 

……でもまぁ、店も結構楽しかったりするので出ていくのはやめておこう。うん。

リューも意外といいとこあるからな。うん。

 

だが!リリ助の口から恐ろしい答えが発せられたのだった!!

 

「魔石はギルドにて換金するんですよ? 冒険者ではないカイドウ様が行ったら、ややこしいことになるのは必然です」

 

「な、な、なんだとぅ!ややこしいの俺様嫌いだ!! どうしよう!」

 

せっかく手に入れたっちゅーのにそんなめんどくせーことになんのはゴメンだ!!どうしようか頭を抱えているとベル坊から魅力的な提案をされた。

 

「じゃあ、僕たちが代わりに換金しましょうか? そのお金を渡せば解決ですよね!」

 

「ベル様!? 」

 

「ベル坊ォ〜ッ! やっぱり俺様の見込んだ通りの男だぁ!!!」

 

もう思いっきり肩を掴んでガクガク揺らしてやる。コイツは俺様が出会った中で一番のいい男だ!!!

 

「あ、は、は、は、は、は、そ、れ、ほ、ど、で、も、ぉ、ぉ、ぉ」

 

「揺らし過ぎですよっ! 全く…、ベル様の人の良さは美徳なんですけど……」

 

 

 

 

ベル坊のべた褒めが済んだ後、俺様は魔石をリリ助に預けさらに奥に進むことにした。

 

「本当に一人でいいんですか? 僕たちと一緒ならもっと多くの魔石が手に入ると思うんですが…」

 

「いーんだよ、俺様は俺様のやり方ってやつがあんだ。まっ、心配すんなよ」

 

「本当に無謀な人ですね…。 とりあえず、モンスターは内部の魔石を砕けば即死します。決着を早めたい時に狙うといいですよ」

 

「耳寄り情報ありがとよリリ助。後でまた魔石を預けにくるからよろしくな! あばよお前ら!!ちょろまかすんじゃねーぞ!」

 

「するわけないじゃないですか!!失礼ですね!!」

 

「頑張ってくださーい!」

 

こうして2人と別れることができた。

さっきの戦闘はあの雑魚どもだから通用したわけだ。さらに奥に進めば

より強くなったモンスターが出現すると聞いた。そうすりゃあ、今のままでは苦戦するのは必至だろう。

 

「今のままでは、な」

 

そう、俺様にはもう1つの姿がある。蛇をモチーフとした灰色の怪人。スネークオルフェノク。

 

オルフェノク態として戦えば、劇的に難易度は変わる。あっちゅーまに10階層ぐらいはいけるだろう。

 

だが、オルフェノクとしての姿を見せるのが怖かった。

 

この都市は、みんなが協力して暮らしていた。

 

だが、いきなり新しい種族が現れて、すぐさま仲間に入れてもらえると思うか? 無いね。

 

しかも、人の姿をしていない。

他種族と協力するどころか、人間を襲うことの方が多い。

 

そんなやつらを都市の皆は、

 

ベルは、

 

リリルカは、

 

シルは、

 

アーニャは、

 

クロエは、

 

ルノアは、

 

ミアは、

 

リューは、

 

この俺を、

 

受け入れてくれるのだろうか?

 

怯えるかもしれない。

襲いかかってくるかもしれない。

弾圧するかもしれない。

 

異形の怪人として見られるのがオチだと悟っていた。

 

 

 

 

けどやっぱり信じたい。

 

 

 

ココは俺たちの夢が叶う場所なんだって。

 

 

 

 

 

 

祈ってやってもいい。

 

 

 

ココには神とやらが実在するんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル坊からもらった小袋にギッシリ魔石が詰まっている。

とうとう俺様は7階層まで到達してしまった。小鬼や犬頭のほかに、影みてーな奴や、目が一個しかねぇカエル。壁を這い回るヤモリのでっかいバージョンも湧き出てきた。

 

やはりモンスターは強さが増しており、人間態でどうにか勝てる程度のものだった。

 

これ以上先に進めば、オルフェノク態になるのは免れないだろうな。

 

「今日は帰るとすっか。 って、店の仕事すっぽかしてんだった!!うっわ帰りたくねぇーっ!」

 

帰ってきたらミアのどつき、リューの小言、シルのなんとも言えぬ視線を浴びせられることになる。

どうすりゃ許してもらえる…!?

 

そんなことを考えながら帰路につこうとすると、奥から叫び声が聞こえてきた。

アレは、ベル坊じゃねーが…、若い冒険者みてーだな。

まあ、俺様が助ける義理はねー。

他の奴らがやってくれんだろ。

もし、やってくれなかっだとしたら、かわいそうだが…、強く生きて…。

 

 

 

いや待てよ!? アイツ助けることを店すっぽかした理由にすりゃあ、許してもらえるんじゃねーのか!?

 

若手のピンチに颯爽と駆けつける俺様! ズバッと解決! 感謝感激雨あられ!! 女将とリューも納得!!

万事解決ってわけだな!!

 

そうと決まれば、善は急げ!

助けてやるからくたばるんじゃねーぞ!!

 

 

 

 

叫び声が聞こえた方向に向かえば、怯えきった若い冒険者の姿が見えた。対峙しているのは赤一色のアリのようなモンスター。側には折れた剣が転がっており、外皮が堅牢だと伺える。

対して、冒険者の姿はボロボロだ。さしずめ、一階層で調子に乗って奥に進みすぎてしまったルーキーってとこか。

 

モンスターが壁際に押しやられてしまった冒険者ににじり寄る。

いつでも殺せるぞ、とも言うように牙をカチリカチリの嚙み鳴らし、冒険者は恐怖で歯を噛み震わせている。

 

なるほど、強そうだな。

 

だが、外皮が堅いっちゅーんなら、毒を食らわせて内部から倒しゃいい。

そのために、俺様はこの姿を見せなきゃいけねーわけだがな。

 

 

指を弾いて、小気味よい音を鳴らす。俺様の変身前の気合入れみてーなもんだ。

顔面に灰の紋章が浮かび上がった。

 

 

「変、身」

 

 

姿が変わる。

 

蛇の怪人、スネークオルフェノク。

 

その顔面には俺様の美顔はなく、毒を含んだ巨大な牙が二本生えていた。

 

「おっし行くぜ!正義のヒーロー登場だっ!!」

 

広間に躍り出ると、見慣れない姿の怪人にモンスターは距離を取る。

冒険者はその隙に逃げ出そうとするが、腰が抜けて立てないらしい。

足がガクガク震えている。

 

しゃあねぇなぁ! いっちょカッコいいとこ見せてやっか!!

 

ファイティングポーズをとり、ちょいちょいとモンスターを挑発してやる。

モンスターはそれに応えるように常人には捉えられないスピードで迫り来る。あっという間にその鋭利な牙で肉を食い破るだろう。

 

「俺が人間だったらな」

 

その牙を両手で思い切り掴んでやる。

攻撃手段が封じられ、後退しようにも、オルフェノクの握力は逃すことすら許さない。

そのままモンスターを持ち上げ、地面に思い切り叩きつけてやる。

 

堅い外皮と言えど、かなりの衝撃だ。モンスターの動きが少々鈍る。

その隙を俺様は見逃すわけがねー。

 

オルフェノクの特徴は常人離れした怪力の他にも、武器を生み出すことだってできるんだぜ。

蛇の牙をモチーフとした短剣。

その短剣には猛毒が含まれている。

 

俺様は瞬時に短剣を手に取り、外皮が及ばない柔らかい関節に深々と突き刺してやる。

 

それでコイツの始末は済んだ。

握っていた牙をはなしてやる。

 

関節の攻撃に怯み、モンスターは距離を取る。が、即座に身体が痙攣し始め、攻撃もままならなくなり、最後にはひっくり返って動かなくなった。

 

このアリみてーなモンスターは危険が及ぶとフェロモンを出して仲間を呼ぶという特性があるとリリ助から聞いた。

だったら、仲間を呼ばせねーように短期で決着つけりゃいいことだ。

毒さえ入れば倒し損ねてもフェロモンを出すこたーねーはずだ。

 

おっと、そういや新米冒険者がいたな?

振り返ると、足の震えは残っちゃいるが、なんとか立ち上がっていた。

へっ!生まれたての子鹿みてーだな!!

 

コイツに恩を売っておけば、リューとシル嬢とミア女将に怒られることもねーわけだし!その証人として、ちょいと付き合ってもらうとすっか!!

 

俺様は新米に話しかけようとした。

初対面だが、友達みてーな感じで。

また舎弟が増えることになるかもしれねぇなと心の中で期待していた。

 

けど。

 

 

「ヒッ…!く、来るな……! 化け物…!」

 

 

 

 

「………あ?」

 

 

 

俺が、化け物?

 

 

 

 

 

そういやそうだった。

 

 

 

 

そうだ。

 

 

 

 

 

こんな姿、モンスターと一緒じゃねーか。

 

 

 

 

 

……所詮こんなもんだったか。

別にそんなに悲しくはない。

 

予想通りだったからな。

 

人間には何も言わずに俺は元来た道を戻っていく。

 

 

 

 

別に悲しくはない。

 

 

ただ、無性に腹が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出ればもう日が暮れていた。

店への道をゆっくり歩く。

周りからは奇怪な目を向けられていた。

多分、ボロボロのウェイター服に注目しているのだろう。

 

けどその視線が、まるで俺を恐ろしがっているように見えて。

 

『来るな!化け物!』

 

『人間のフリをしていたのか!モンスターめ!!』

 

『俺たちを騙そうってのか!?』

 

『だれか!助けて!!ココにモンスターが!!』

 

『化け物が!』

 

『化け物!!』

 

化け物!! 化け物!! 化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化けーーーーーーーーーー

 

 

「ココにいましたか、カイドウ」

 

「…はっ? 」

 

目の前に金髪が見える。

誰だ。この小生意気な声色は。

 

 

「……あっ、リュー、か。 その、俺、その、俺は ぐぉえっ」

 

「反省は店の中でじっくり聞きます」

 

首根っこを引っ掴まれて、ズルズル引っ張られる。

 

けど、このやり取りに俺は、どうしようもなく安心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイドウを見つけました」

 

「俺様、ただいま帰還致しました…」

 

店に着けば、シル嬢が怒ったような泣いているような顔をして、詰め寄ってきた。

 

「ナオヤさんっ!!! 勝手にダンジョンに行っちゃうなんて! どれだけみんな心配したと思っているんですか!!本当にっ……!」

 

「す、すまん。あの、とりあえず、き、きが、きがきが、着替えたいのですが」

 

「そんな…ボロボロになって! もうっ! 今着替えを持ってきますから!」

 

シル嬢は涙を隠すように奥に走って行く。

本当に泣いてたんだな、俺なんかのために。

 

次に、猫吉と黒猫吉が俺様にじっとりした目で詰め寄る。

 

「シルを泣かせるなんて最低の男ニャー」

 

「他のみんなにも迷惑をかけるなんて超最低の男ニャー」

 

「す、すんません…」

 

どうにも言い返せねぇ。

 

「罰としてなおやんは二週間客用のトイレ掃除ニャ」

 

「せいぜいトイレを磨いて反省するといいニャ」

 

「ま、マジかよぉ…!」

 

誰もが一番やりたがらねぇ仕事が回ってきた…。

しかし、断ることはできねぇ…。

がっくりうなだれる。

 

ルノっちが手際よく服を脱がせ、あちこちにある傷を処置していった。

 

「カイドウさん。かなり無茶をしましたね」

 

「……まあ、な」

 

「それも全部、あの楽器のためですか?」

 

「…!」

 

バレてら。

頷くしかなかった。

他の言い訳が思いつくほどの気力はもう無い。

 

「そうですか」

 

「イテッ!!」

 

体を思い切りつねられた。

何しやがる、と目を見ればルノアの表情に怒気が孕んでいた。

恐ろしくて目を背けちまう。

 

「たった1人でダンジョンに行くなんて自殺行為です。もう2度としないように」

 

「その、本当にすんません…」

 

その言葉を聞くと、ルノアは指を離した。

 

「アーニャたちもああは言っていますが、他の冒険者たちにカイドウさんを見たか聞き込みをしていたんですよ」

 

「なっ…」

 

「ルノアもシルも同じことやってたニャー」

 

「……みんな、それほどあなたを心配していたんです。もちろん、リューもね」

 

「ルノア」

 

「なによ、別にいいじゃない。本当のことなんだから」

 

「カイドウがそれにつけあがる可能性があるので」

 

 

 

なんだよ。なんだよなんだよ…!

 

なんでなんだよっ!

 

なんでお前らそんなに俺のことを。

 

そんなに優しくしないでくれ!

 

もし、俺の正体がバレちまったら。

もう、こんな温かい場所には、居られねぇ。

 

また、1人になっちまう。

 

 

 

 

 

それが、とてつもなく、怖い。

 

 

 

奥から着替えを持ったシル嬢とミア女将がやってきた。

ミア女将はゆっくりとした足取りで俺のそばによる。

 

「ナオヤ、無事だったのかい」

 

「お、女将。その、どうもすんませブホェアッッ!!!!

 

気が吹っ飛ぶようなデカイ一撃。

左頬が赤く腫れ上がっていく。

多分、さっきのモンスターより強い攻撃だコレ。

痛い……死にそう……!

 

「皆に心配かけたんだ。反省しな」

 

は……い、ど、どう…もすみ…ませんで…した……

 

ミア女将の表情が怒りから優しさに変わる。

 

「待ってな、体が温まるスープを持ってくるよ」

 

そういって厨房の中に入っていくと、いい香りが俺の鼻孔をくすぐり腹を鳴らした。

 

 

「ナオヤさん、着替えです」

 

「お、おぉ……、ごめんなシル嬢お…」

 

「いえ、もう気にしてませんから」

 

おぉ、良かった。もう許してくれたみてーだ。 ちょっと安心しながら着替えると、違和感に気づく。

 

「なななな、なななな、なんじゃあッ!こりゃあッ!!!」

 

渡された着替えはウェイター服ではなく、緑の全身タイツに頭部がカエルの頭になっており、その口から俺様の顔が覗ける構造になっていた。

マヌケすぎる…。

ちゅーかなんでカエルなんだよっ。

 

「明日もコレを着て働いてもらいます! ちゃんと反省してくださいね!」

 

「ちゅーか、シル嬢コレどこでこんなの手に入れたの…」

 

こんな姿で俺様トイレ掃除するのか? 客とばったり会ったら、俺様なんて言やーいいんだよ。

 

『コンニチハ! オイラ悪いカエルじゃないよ! ここのトイレに住んでんだ!!』

 

 

 

ただの変態だろコレ。

 

 

 

 

 

最後にリューが俺様の首根っこを引っ掴む。

 

「あいでででって! なんか、懐かしいなこういうの」

 

「……元気が戻ったみたいですね」

 

あ? 元気って、そりゃあまあ、みんなから手当てしてもらったからな。

もう体力は十分だぜい? いくらでも皿洗い、床掃除、トイレ掃除、なんでもかかってきなさーい。

 

「先ほど見つけたときは、まるで魂が抜けていたようだったので」

 

「……まあ、色々な」

 

こいつ、本当によく見てやがるな。

前にも俺の気分の浮き沈みを察知していた。

それが気に食わなかったんだが、今ではそれが助かっている。

そこんところは認めてやってもいい。

 

「迷惑かけちまった。すまん、な」

 

「ええ、ひどく反省しているようですし、罰もかなり充実しているのでこれ以上は結構です」

 

「…そうか、じゃあ…」

 

「ですが」

 

 

ですが?

 

 

「どうしてもお金が欲しいのなら、そのことを皆に真摯に相談してください」

 

「…」

 

「私も、できることなら手伝いますから」

 

そういうと、さっさと奥に戻ってしまった。

 

 

 

 

でっかくため息をつく。

 

マジで俺様は馬鹿だったみてーだ。

 

 

 

 

最初からコイツに相談しとけばよかったんだ。

 

変な偏見は持つもんじゃあねーな。

 

 

 

 

 

 

この日、でっかいカエルは大きく反省し、一歩前へ踏み出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺様は言われた通りにカエルタイツを着こなし、トイレ掃除を積極的に行った。

衛生的な問題で他の仕事はできないので、ゴミ処理などの仕事も引き受けたが、それはそれでいい。

 

たまに客と遭遇するが、ほとんどのやつは見てないフリをしてくれている。

しかし、何人かは吹き出すのを耐えているようにみえる。

失礼なやっちゃな。

 

 

2人の冒険者がトイレに入ってくる。

どうやらパーティを組んでいるようだ。

1人は少々怒り気味に、もう1人はそれをあしらうように会話していた。

 

「…だから、本当に見たんだって!」

 

「ハイハイ、そりゃお前がビビりすぎて幻覚見たんだろ?それともコボルトに殴られて夢でも見たか?」

 

「嘘じゃないんだ!! 実際に遭遇したんだよ!灰色のモンスターに!」

 

掃除の手が止まる。

冒険者の顔はよーく覚えている。

あの新米だ。

 

「で?その灰色のモンスターはお前に何をしたんだって?」

 

「キラーアントを倒した後、ゆっくりとこっちを振り返ったんだ! 気まぐれで見逃したんだろうけど… もしかしたら殺されてたかも…!」

 

「はい嘘でーす!! モンスターが気まぐれで俺たち冒険者を見逃すわけねーーよ! 」

 

「で、でも本当に!「オイ」!?」

 

つい、声が出ちまった。

でも一言、言いたくなった。

 

「な、なんだコイツ…カエル?」

 

「な、何ですか。僕に用が」

 

「灰色の怪物を、見たんだってな」

 

新米冒険者の目が変わる。

 

「や、やっぱり! あなたも知っているんですね!? ほら見ろ! コレで嘘じゃないってのが証明されたぞっ!」

 

「いや、こんな怪しい格好の言葉を信じるのかよお前」

 

「オイラ悪いカエルじゃないよー」

 

「アンタ人間だろ…」

 

「お、教えてください! その怪物、あなたは何か知っているのですか!?」

 

「おぉ、もちろん教えてやるとも。そいつはな」

 

新米冒険者はゴクリと喉を鳴らす。

俺様はゆっくり息を吸い込み、

 

 

ーーーーーヒッ…!く、来るな……! 化け物…!

 

 

「オルフェノク、ってんだ。覚えときな」




読んでいただきありがとうございます!
次回はいつになることやら…。 物語のプロットは完成しているので、完結しないということはなくなりましたが…。

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