ちゅーか、俺様がこんなとこにいるのは間違ってる絶対   作:ビーム

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ようやく再開です…!

皆さま長らくお待たせしました…!


俺様、神様に出逢う。

近頃、妙な噂がオラリオにぽつぽつと立つようになった。

あまり目立った話題ではないが、知る人ぞ知るという具合。

主に新人の冒険者の間に囁かれており、大体の人は信じていないようだった。

そもそもの発信源も今やすっかりあやふやとなってしまっている。

 

 

新種のモンスター。コボルトやゴブリン、さらには初心者殺しのキラーアントでさえも容易く屠りそれらの死骸を食い漁る怪物。

 

 

冒険者に対しても攻撃的で隙を伺い、今にも飛びかかろうとしていたとの報告もある。

 

 

いやいや、アレは人に友好的なモンスターだ。腰抜けのルーキーを見かねて助けてやった世話焼き物好きだよ。

 

 

んなわけあるかい、ダンジョンのモンスターが俺らと仲良し出来るわけが無ぇ。ありゃ弱すぎて話になんねぇからルーキーの存在すら見えてない絶対強者だ。階層主ってヤツだ。

 

 

 

人々の勝手な妄想、様々な設定が噂の尾ひれを巨大化させていく。

しかし、皆が口々に垂れ流す噂にはとある共通点があった。

 

灰色の、怪物。

 

オラリオの新モンスターの噂を聞けばいの一番に聞く情報がそれだろう。しかしそれ以外のものは眉唾ものである。

また、どこかでは「オルフェの苦」という名前があるとかなんとか。

 

 

そんな噂の正体である男、海堂直也。

 

彼はいま、何を思い、オラリオにいるのか。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、魔石の換金忘れた」

 

 

わりかし、元気そうである。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

オッス! オラ、俺様!

 

 

今日はちょいとベル坊んトコにお邪魔しようと思ってんだわ。

なんでかって?んま、聞けよ。

 

 

ちゅーか、覚えてっか?

俺様がパパーッと集めてきた魔石のこと。

俺様ダンジョンから帰ってきたとき、物置に放り込んじまったもんですっかり忘れてたぜ。

 

 

このキラ石をベル坊に換金してもらおーかなっと思ってな!

金もジクジクと溜まってきちゃぁいるが、目標にはまーーだ届かねぇ。ここいらで、ボーナスといこうじゃねぇの?

 

前にも聞いたが、ギルドに俺様直々に換金しにくるとめんどくさいことになるってよ。

いやですね。

 

 

さーて、どれくらいの金が稼げたんですかねーっと。

ちょーど今片付けを終えたとこだ。

女将にちょいと出る旨を伝えると借りた袋を引っ提げて、ベル坊ンとこの根城に向かった。

 

 

うむ、いい天気だ。

歌でも歌いたくなるようないい日差しだなオイ。

俺様はでっけぇー声で挨拶してくるガキどもにクールな笑みで応えてやる。

うむ、いい男。

 

んで、えーとな。

へすてぃあふぁみりあ、だったか?ちゅーとこの場所は前にアイツから教えてもらってる。

教会みてーなところで、ふぁみりあの神さんとやりくりしているらしい。やっぱり神というだけあって、拠点は教会ってわけか。随分と形にこだわるもんだな?

 

 

ん?

自称神様とかいう奴に会っても俺様驚かねーよ?そういうシュミの人間だっているわけだ。

俺様人間の味方だからな。どんな変態でも、味方…、まあ、おぉ……、

 

 

そういうこった。

どういうこった?

 

 

さて、そんな話はもうおいておけ!

そろそろベル坊ンとこに着くぞ!

意外と近かったな。

西と北西のメインストリートの間らへんにその教会はある。

 

 

俺様は軽やかな足取りでその区画に向かう。

なぜ軽やかってそりゃお前!

神さまがいるところだろ?

自分のこと神呼ばわりする危ないナルシスト野郎はわりかしセレブなリッチな奴が多い!

 

 

さらに言えば、冒険者どものねぐらだ!ベル坊が言うにはメンバーはメチャ少ねえと聞いているが、一人分の装備を整えるにもある程度の財力が必要だ。

 

 

ベル坊の持ってるスパッと切れ味なナイフだって、余程高価なモンだったんだろ!

そんなモンを買い与えるなんざ、余程のリッチちゃんに違いねぇ!

(※個人の見解です)

 

 

中に入れば、豪華絢爛たる花吹雪は舞い散り、瀟洒なメイドたちが手際よく俺様を迎え入れ、色鮮やかなインテリアに囲まれながら、ご馳走をいただくのだ!

もう猫吉の魚臭さなど忘れてしまうくらい美味いご馳走!

さぁ〜盛り上がってまいりました!!

 

 

あ、やべ、よだれ出てきた。

 

 

むふふふふふ!アポなし突入だが、ちょーっとばかァしその恩恵に預からせていただきますよ…!

神様リリ様ベル坊様ーッ!!

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーと、

思っていた時期が、

俺様にもありました。

 

 

 

 

 

「あっ?」

 

 

俺様が期待を込めて向かった先には、寂れた廃墟がポツリと建っていた。へぇー、これが教会って言うんですか?随分侘び寂びを大事にしてますね?

 

 

「あー、これ、和洋折衷ちゅーやつか。そーだろ」

 

 

素人目だが、なかなかの建築美だな?きっと内装は高級感あふれる感じになっている…んだな?

 

 

恐る恐るドアに手をかけ、ゆっくり中を覗き込む。

だが、俺様の眼に映るのは高級感もクソもない、廃墟そのものだった。

 

 

ドアを閉め、気を落ち着けるため戸にもたれかかる。

 

 

!?ッ

ドアからミシミシと変な音しやがる!!

 

 

慌てて離れ、呼吸を整える。

まったく、欠陥住宅にもほどがあんだろ…

 

 

あっ、そーだ。

 

 

「実はあの廃墟はニセモンで、どっかの童話みてーに、なんか合言葉言ったら、めっちゃ豪華な部屋が出てくるんじゃねーか?」

 

 

出てくるんじゃねーか?

ここ異世界だもんな!

そんなことある、ありっちゃ、ある。ありえーるだろ!?

周りから見りゃえれぇ頭のおかしい奴に見えちまうが、幸いここんとこは人気があんまねぇ!

 

旅の恥はかき捨てェッ!

漢見せろ海堂ォ!!

 

 

俺様は大きく咳払いをすると、

戸の前で高らかに告げた!!

 

 

「ひらけェ〜〜ッッ。ゴマァッッッ!!!」

 

 

戸を開ける。ガチャ。

 

 

廃墟。

 

 

戸を閉める。バタン。

 

 

多分合言葉が違うんだろな。

よっしゃもう一回っ。

 

 

「オイ!シムシム! お前の扉を開けろぉい!!!」

 

 

戸を開ける。

廃墟。

閉める。

 

 

「山ァッッッ!!」

 

 

開ける。

廃墟。

閉める。

 

 

「あっ、どうもこんにちは〜、OHK(オレサマ・ヒ-ロ-・カイドウサマ)の者ですけど〜、魔石の換金契約おねがいしまーす」

 

 

戸を蹴り開ける。

 

 

えっ、えっとー、なん、な、な、ななんなんのん、冗談か?

 

 

え? なに、これガチでこれ?え?

これ? これなん?

 

 

廃墟じゃないですか。

 

 

ボロいままじゃねーか。

 

 

ボロいままじゃねぇぇぇえええかぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!

 

 

なっ、なんだとぉぉぉぉぉお!!!!失礼なぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!

 

 

俺様が落胆の喚声を巻き上げると、

後ろから怒号が飛んできた。

え?誰?こんなとこに住んでる人いんの?

 

 

振り返ると、ちっこいガキンチョの姿がそこにあった。

黒いツインテールで白いワンピースみてーなモンを着てる。

胸に蝶ネクタイっつーのか?

でっけぇー青リボンがチャームポイント!

(勝手に俺様がそう思っただけ)

 

 

しかし、何よりそんなポイントより目が行くのが…。

コイツガキだよな?

なのに、このおっぱいはなんだろう?

しかも、変な紐で双丘をえらく強調して、して…

 

 

「まったく! 僕たちの愛の巣…じゃなくて大事なホームに向かってなんて言い草だ!!」

 

 

この紐ー、どっかで、どっかー…でー…?

 

 

「せっかく新しいファミリア加入希望者の子かと思ったのに!」

 

 

「あーーっ!! おまえっ!」

 

 

「へっ!? えっ、な、なに!?僕!?」

 

 

さっきまでプリプリ怒ってたおっぱいガキンチョは唐突な指差しに辟易している。

 

 

そうだコイツ!

 

 

「ジャガ丸くんとこの店員じゃねーかぁー! なにやってんだおめぇこんな廃墟で!」

 

 

「あっ! 君は確かジャガ丸くんの大ファ…、ちょおっとまてぇ!聞き捨てならないぞ今の言葉ァ! 取り消せーッ!」

 

 

またプリプリ怒り出して、ユッサユッサおっぱいを揺らしてるぞ。

体は大人でも、精神はやっぱガキだな。へっ!

 

 

「ちゅーかさ、俺様店員に用はねェーんだ。ベル坊に用があんの!

パイパイガキンチョは早く帰んな」

 

 

「こ!こ!が!僕のホームだってぇーのっ!そのあだ名も失礼だぞっ!それにベル君は僕の眷属だ!」

 

 

「んあ眷属ゥ?」

 

 

「そうっ!だから彼に用があるなら僕を通してからにするんだなっ!」

 

 

腕を組んで鼻を鳴らすデカパイガキンチョ。

いや待て、眷属とか言い出したから

ちょっと中二青春スイッチONしちゃってんな。

 

 

「通せと言われてもね……。俺様魔石の換金してもらおーと思っただけだ。ボイン大将」

 

 

「ボっ、ボイン大将って…… むっ!その袋はベル君のじゃあないか?」

 

 

おっとなかなか鋭いなパイ乙ガキンチョ。これで話がスラスラ進んで助かるぜ。

 

 

「まさか君がベル君から盗んでったのかぁーーッッ!!」

 

 

「って待てやァァーッッい!! なんでそーなんだよオメーはァ!!」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

まさか廃墟の中に隠し扉があったとはな。ますますダンジョンじゃあねーか。

 

 

俺様は早とちりおっぱいガールに連れられ、ホームとやらに案内された。

 

 

割と綺麗だな。ベル坊たちはここを寝ぐらとしてるわけだ。

しっかし、こんな爆乳ツインテと?

寝泊まりしてるわけ?

 

 

くぅ〜! うらや、や、や、やらしいな!アイツも割とアレなんだな…。

 

 

そう考えてるうちに、ダブルメロン少女はベッドに座り、俺様にソファに座るよう促した。

 

 

乳リボンは申し訳なさそうに俺様の顔を伺う。

 

 

「うぅ…、さっきはごめんね…。僕はてっきり」

 

 

「おおよぉ全く。次からは是非気をつけなさい!」

 

 

「は、はい!気をつけますっ!」

 

 

「そして、お客様に飲み物をお出しすることっ!」

 

 

「えっ、え?あぁ、はい!」

 

 

「そしてジャガ丸くんを買いにひとっ走りしてきなさいっ!」

 

 

「ってなんでそうなるんだいっ!っていうか君もさっき失礼なこと言ってたろ!それについて何か言うことないの!」

 

 

「綺麗な部屋ですね、このベッドとか俺様超お気に入り」

 

 

「勝手に寝るなーッッッ!」

 

 

なんだよ俺様客だぞ。くつろいだっていいじゃねーかっ!おいっ!

押すな押すな!落ちるだろ!

 

 

「君のことはベル君からいろいろ聞いてるけどっ! ちょっと!図々しすぎやしないかなっ!ホラっ!このベッド占拠とかっ!」

 

 

「なにっ!しやがんだっ!俺様っ!ベル坊来るまでくつろ……、こらっ!ドントタッチミーっ!」

 

 

「そもそもっ!君って!ベル君とどういう関係なんだいっ!? まさかっ!悪い影響与えたりっ!してないだろうねっ!」

 

 

「んな……ワケあるかいっ!どっから、どう見てもっ……こらっ!お腹に乗るな!押される!ぐぉえ」

 

 

こいつ!俺の腹に馬乗りになりやがったぞ!?なんのつもりだ!

 

 

(あっ、ステイタス更新の癖でつい……。こうなったら!)

 

 

「きっ君があまりにも悪い子だから、僕が直々にお仕置きするからね!」

 

 

「はぁ? 何する気だ?やめとけ、やめろ、やめてください」

 

 

「こしょぐり攻撃!おりゃ〜!」

 

 

うわっ!マジかよ!?俺様の脇腹に指がどぇっはぁっはぁっはぁーーーーッッッ!!!!!

 

 

「ヒィ〜ッッッ!!ウヒヒヒヒははははは!!!ダメッ!そこはっ!アヒャははははッッッー!」

 

 

「どーだい!まいったか!」

 

 

「まいっ…ヒィェエァァァァアヒヒヒヒヒブヒ!グギギキ……キキ…、ダメだっ!耐え…どげぁぁぁぁあへへへへへ!!」

 

 

「ん〜?聞こえないなぁ〜?はっきり『まいった』って言ってごら〜ん?」

 

 

「ま、まえっ、まいまいまい、まいった、ヒヒひひひひひひ!ア!うひひひダメッ!そこダメッ!あぁっ!」

 

 

「ここがいいのかい!? ホラホラァ〜!」

 

 

アッー アッー!アッー!!アッー!!!ダメなの!!そこ弱いの〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神様………?」

 

 

 

 

 

あ。

 

 

ベル、坊。

 

 

声がした方向に振り向いてみりゃ、見てはいけないもん見ちまったような顔したベル坊の姿が。

次いで馬乗りになってたやつを見やると、顔を真っ青にしてこの世の終わりみてーな表情になってベル坊を見つめている。

 

 

「べ、ベル、君。ちがっ、違うんだっ。これはっ、その、この子が」

 

 

「け、結構親密な仲になってたんです…ね!ナオさんと神様! う、うん!よかった!」

 

 

「おうよ、俺様のコミュ力っぷりと言ったら一級品だぜ?」

 

 

「あ、そうだ!僕ちょっと、席外しますので!お二人で…えーごゆっくり!」

 

 

「待って!ベル君!これには訳がぁーーッ!」

 

 

…昼ドラみてーだな。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「というわけで、俺様は海堂直也!以後よろしくってなもんよ」

 

 

「よろしくしたくないよ!君のおかげで最悪な誤解されちゃったじゃないかぁ〜っ!」

 

 

と、大きく嘆くオッパイヤー。

ベル坊からも呼ばれてたが、神様だってよ。

へっ、バイトする神様なんざどこにいますかーって話だよな。

 

 

「まあ、気にすんなよ。あんまり悩むとお腹痛くなるぜ?」

 

 

「君のせいじゃないか!なんだい!あの嬌声は!」

 

 

「それはだな!俺様あの辺弱かったからだよ!ほーらみてみろ自分でもこしょぐるとだな…ぐフヒッ! ほら」

 

 

「ほら、じゃないよ! どーしよう!あのままベル君から変な目で見られ続けてしまうのかな!?そうなったら君のせいだよ!」

 

 

「あのな、あんときゃ俺様まいったって言ったんだがな?止めなかったおめーもどうなんだよぉん?神様ァん」

 

 

「うっ、それは、そうだけど…」

 

 

パイ神様は唇をかんで唸っている。

これァアレだな。喧嘩両成敗ってやつだな。

 

 

「まあ、後で俺様が誤解解いとくからよ。それで手打ちにしてくんねぇかな」

 

 

「ほっ、本当!? ぜひ頼むよ!」

 

 

いきなり目を輝かせて頷きを加速させている。

まあ、俺様にも一応セキニンあるわけだしな。もともと用があんのはベル坊だ。そん時に話せばいいだろ。

 

 

こうして俺様はソファに座りなおし、名も知らぬ神様と呼ばれたおっぱいと対峙した。

改めて見るとでっけぇわ!

 

 

「改めて、僕はヘスティア!ヘスティアファミリアの主神さ!よろしくね!」

 

 

「おう、さっきも言ったが、俺様海堂様だ。しっかし、ジャガ丸の店員が神…ね?意外と庶民的なんだな?神ってのはよっ」

 

 

「うっ…。まあ、僕のところのファミリアは色々大変なんだ…」

 

 

ファミリアだがなんだか、専門用語が出てこられると困るな?

確かー、恩恵を受けた奴らを集めた組織なんだっけか?

まあ、拠点から見るに貧相な暮らし極めてんなぁ。

 

 

「今はベル君達が頑張ってくれてるから助かるんだけど…あの子達が頑張ってるんだから僕も頑張らないと!って」

 

 

それでバイトとか始めてるわけか。

偉いもんだな!

 

 

「その点君にも助けられてるよ。いつも買ってくれるもんね!」

 

 

そう言ってヘステーはニッコリ笑う。

おいおい、いいヤツすぎないかコイツ!眩しすぎて失明しそうだ!

 

「ま、まあな。うん。そりゃ良かった。ん」

 

相槌を打つしかできねえ…。

ちくしょー、俺様こういうタイプのヤツは苦手なんだよ。

どう対応すりゃいいかわっかんねんだ。

 

 

「ところで君さ!お金に困ってるんだって?」

 

 

「おっ!?おっ、おっ、そうだがっ!?ちゅーかっ、なんで知ってんだよっ」

 

 

「言っただろ〜? ベル君から色々聞いてるってー!」

 

 

なるほどな。ベル君なら聞いてるみてーだな。

まあ、金が欲しいのは事実だ。

景気の良い仕事でも紹介してくれんのか?

 

 

「君さえよければ……。いや、その前に質問させて欲しい!」

 

 

「な、なんだよ急に」

 

顔つきが険しいな?

ちゅーか、めっちゃ見つめてくる。

なんだよ俺様の顔に見惚れてんのかな?

よせやい!確かに俺様カッチョいいが。

 

 

「君さ、なんでお金が必要なんだい?」

 

 

「はい?」

 

 

「お金が必要ってことは、何か欲しいってことだよね?」

 

 

いきなりなーに聞いてやがんだ?

 

 

唐突な質問に怪訝な顔をする。

するとヘステーは背を正して言い放った。

 

 

「確かにベル君は君のことを信頼しきっている。でも、僕はまだ君を信じきれてないんだ。悪いけど」

 

 

「……」

 

 

「さっきから話してると、君のことは悪い子のようには見えない。ちょっと失礼だけどね」

 

 

一言余計ではないですか?

 

 

「でももしかしたら、そのお金が必要な理由が、ファミリアのみんな…いわば家族を巻き込むようなものだったら。だとしたら僕はそれから守らなくちゃいけない」

 

 

ほーお。主神だけあってしっかりしてるじゃあねーか。

 

 

「よかったら、話してくれない? 君の、理由を」

 

 

いいぜ。なんだかコイツに嘘ついてもバレそうな気がすんだ。

最初から真摯に話すってことは大事だかんな。

前にも学んだぜ。

 

俺様はこと細やかに…ってわけじゃあないが、楽器を買いたいってこと。

そいつが30万ヴァリスするってこと。

そして、そいつを誰かに託したいってことを伝えた。

 

俺様がもう弾けないってことを隠したままにしてな。

 

 

「なるほどね…。借金とかが理由じゃないんだ…。よし!素敵じゃないか!楽器を買うのにお金を貯めるって!」

 

 

「おっ!わかってくれるかヘステー!?やっぱいいヤツだなあオメーも!」

 

 

「へ、ヘステー!?なんだか変なあだ名だなぁ」

 

 

ま、とりあえず疑いは晴れたようだぜ。そしたら、ヘステーが言いかけた話ってのを聞かせてもらおじゃない?

 

 

「うん、そのことなんだけどね。君さえよければ、僕のファミリアに入らないかい?」

 

 

「…? ?? ???????????」

 

 

「そんな不思議そうな顔をしないでくれ! もちろん君の腕は知ってるよ! あのロキのところの子と互角なんだってね!」

 

 

…勧誘だったのか。

ちゅーか、ファミリアに入るってことは、冒険者になるってことだよな?

 

 

「できれば、ベル君にも怪我しない戦い方を教えてあげて欲しいなって!」

 

 

それはつまり、俺様がダンジョンで戦う。

 

 

あの姿を、晒すってことだよな。

 

 

 

 

 

「僕も、君の夢のためにバイトをもっと頑張っちゃうぜ! どうだい?悪くない話じゃない……? カイドウ君?」

 

 

 

夢?

 

 

 

俺の、夢。

 

 

 

 

 

 

呪い。

 

 

 

「ね、ねぇ?君?もしかして何かあったの?」

 

 

 

あった。

 

 

 

 

あったよ。

 

 

 

 

 

俺には。

 

 

 

 

 

才能が。

 

 

 

 

 

「あったんだよ」

 

 

 

「…!?君」

 

 

あぁ、情けねぇなあ。

副次効果とでもいうのか?

 

いつのまにか、あの姿を晒すことをひどく恐れるようになっちまってる。

木場の夢を背負っちまって。

人間として生きようと決めてから。

理想ともいえる世界に出会えてから。

 

 

 

 

ひどく生きにくい世界になった。

 

 

 

 

どうしてだ?

 

俺が、弱いから?

 

 

 

夢の続きを追おうとしていたら。

いつのまにか、別の夢を追いかけている。

 

 

そして、また。

新しい夢が呪いに変わろうとしている。

 

 

俺はまた、あんな思いしなきゃなんねぇのか…!

 

 

 

 

「……神様よ」

 

 

 

「な、なんだい…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰もが、手を取り合って生きていく幸せなところって。 あると思うか?」

 

 

 

 

「あるよ」

 

 

 

 

「早っ!? えっ! 早い!もう答えたのか!?」

 

 

「うん」

 

 

えっ!?神様すごすぎねーか!

もう俺様の望みに答え出してるじゃねーか!

 

 

 

「ど、どんなんだっ!? 教えてくれっ!」

 

 

「君って、豊穣の女主人で働いてるんだよね?」

 

 

えっ、ああうん。

 

 

「そうだ。そうです。それが何っ? どうしたっ?」

 

 

「ちょ、ちょっと!顔が近すぎるよ!離れて!」

 

うおっと、俺様としたことが。

慌てて離れる。

落ち着け、答えは逃げねえ。

 

 

「それで、どうなんだっ?教えてくれっ先生!」

 

 

「そこで、豊穣の女主人で、上手くやれてるの?」

 

 

「あ、まあな。働き嫌いの俺様をここまで育て上げるとは大した店だぜアソコ」

 

 

それを聞くとヘステーはにっこり笑ってこう言った。

 

 

「じゃあ、もう答えは出てるじゃないか!」

 

 

は?

 

 

何言ってやがんだテメー?

 

 

「あのー、ふざけないでもらえますかね…?俺様本気で聞いてんだが」

 

 

「だから!君の居場所ってことだよ!」

 

 

「ええ?」

 

 

居場所がなんだってんだ!

そんな規模小せぇもんじゃねぇよ!

世界規模だぞっ。

 

 

「僕はね、神様なんだけど他の神々に比べたら全然大したことないヤツなんだ」

 

 

…まあ、あんまりカリスマがあるようには見えない。いいヤツではあるけど。

 

 

「それでも、僕のことを慕ってくれる子達がいるんだ。ベル君たちのこと。僕はほんっとうにあの子達に感謝してるんだ」

 

 

「………」

 

 

「だから僕も、あの子達のために頑張ろう!って思える。ほら!これって君の言ってたことと一緒じゃない?」

 

 

そうだ、なぁ。

まあ、確かに、手を取り合っちゃいるな。

 

 

「君も、お店で暮らしてて、店員さん達とも仲良いんだってね!まさに、手を取り合って生きている幸せなところ!それはつまり、

君の帰る家なんだよ!」

 

 

う〜〜む。

質問の仕方が悪かった、な?

まず俺の夢っちゅーのは、割と世界規模だし。

なにせ、俺は。

 

 

「君が人には言えない秘密があるってこともわかる」

 

 

「……っ」

 

 

コイツ…、知ってやがんのか?

 

 

「神様だからね、色々とお見通しさ!」

 

 

案外神というのもバカにはできねーな…

 

 

「でも、僕からしたら君の秘密は悪いようなものには思えないんだ」

 

 

「へぇ?根拠は?なんだよ」

 

 

そう聞くとヘステーは、考え込む仕草をして見せてから、

 

 

「勘だね!」

 

 

思わずズッコケた。

倒れ込んだ状態で首だけ上に向けると、ニコニコ笑ってやがる。

なにわろてんねん!

 

 

「か、カカカカ、勘ですかい。そりゃいい根拠だこって」

 

 

「神様の勘は当たるよ!だから、あとは勇気を出すだけなんだよ」

 

 

勇気だぁ?

理解できない俺様に、ヘステーはきっちりした表情になる。

 

 

「秘密を告白するのは、本当に勇気がいることなんだ。今まで黙ってたことを言っちゃうわけだからね」

 

 

ヘステーの話を黙って聞く。

確かに、俺はあいつらにあることを黙っている。

それを告白するってことは……、勇気がいるよな。

 

 

「でも、ずっと黙って悩んでいるばっかりじゃ、何も進まないんだ」

 

 

「…確かにな」

 

 

「でしょ? 秘密を告白出来て、君が受け入れられたらそこは君の言う世界なんだよ!規模は小さめだけど… 確かな世界がそこにあるんだ!」

 

 

「なるほどな!」

 

 

 

確かな、世界か。

 

 

実のところ、俺様さっきあそこ(豊穣の女主人)だけじゃ規模が小さいだがなんだか言ってたが。

 

 

完全に俺様が受け入れられてるわけじゃあない。

 

 

あいつらの優しさに甘えてるだけだ。

 

 

そして、俺の秘密を言えないでいる。

 

 

だから、俺のことを完全にバラして。

それでもあいつらが受け入れてくれたら。

きっとそこには確かな理想があるということなんだろう。

 

 

 

きっと、乾もそうだ。

 

 

 

啓太郎もあいつ(真理)も。

オルフェノクのあいつをちゃんと受け入れていた。

俺様はそこに、木場の理想を見た。

 

 

 

受け入れる奴はどこか必ずいる。

 

 

ヘステーの言う通りだ。

 

 

たった一回、勇気を出すだけで俺は!

 

 

あいつの夢に!

 

一歩でも!

 

近づける!

 

進むことが出来る!!

 

 

 

 

 

 

 

でも、受け入れられずに、帰る家をなくす羽目になったら?

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

やめよう。こんな質問は。

バカらしい。

このままじゃ永久迷路だ。

 

 

この世界は、オルフェノクなんか全く認知されてねぇ。

あの姿晒しても、危険だとは思われてねぇだろう。

襲った前例がねぇからな。

 

 

そうだ、初めてこの世界に来た時に、あの姿で歩き回りゃ良かったんだ。

 

 

そうすれば、最初はビビるだろうが、いずれは慣れて…。

 

 

いや、わからん。モンスターと間違えられるかもしれない。

怯えられるかもしれない。

 

 

やめだ。

やめやめ。

 

 

考えてもしょうがねぇ。

 

 

これは俺の頭で答えなんか出てこねぇ。

 

 

 

俺にできることは、追い続けるだけだ。

 

 

 

 

死ぬまでな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんがとよ。世話になったな」

 

 

ソファから立ち上がるが、ヘステーの目は俺様を心配したまんまだ。

ふっ、本当に世話焼きな神様だな?

 

 

ドアに手をかけ、立ち去ろうとすると声をかけてきた。

 

 

「君…、相当重いものを背負っているんだね」

 

 

手が止まる。

じんわりと汗が吹き出る。

 

 

「なんとなくわかったよ。君って、人間よりも、ちょっと進んでる」

 

 

視界が、歪む。

 

 

汗が大きな粒を作り、手のひらを、額を、顎を、伝って床に落ちる。

 

 

「でも、でもね。僕たちからしてみれば、そんなに変わらないよ、人間の子と」

 

 

「…」

 

 

「秘密を言うのは、辛い、怖い… そうだよね。いっぱい悲しい目に、逢ってきたんだよね」

 

 

ヘスティアは後ろから手を回し、抱きしめる。

暖かく、優しい香りがする。

 

 

「大丈夫、大丈夫だと思うけど…。もしも、もしもこの先君が受け入れられなかったとしたら、僕のところにおいで?」

 

 

「っ、っ、っ、」

 

 

身が、震える。

 

 

「絶対君を、見捨てたりしない」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ただいまー」

 

 

「あっ!なおやん!お帰りニャー」

 

 

「ナオヤさん! ベルさんには会えましたか?」

 

 

「ま、まぁ、一応な? すぐ別れたけど…」

 

「えーっ!どうして!」

 

 

彼が戻ってくると、賑やかな職場がさらに賑わう。

すっかりムードメーカーとして大きな役割を担っている。

 

 

「カイドウさん!こっちお掃除の方お願いできますか?」

 

 

「おーうルノっち!俺様にぃぃぃい!!まぁかぁせぇとぉけぇぇぇぇい!!!」

 

 

「なおやん元気すぎで、暑すぎるニャー…」

 

 

彼も彼でしっかりやってくれている。

たまに妙なことをしでかすのが問題点だが。

 

「ナオヤ!ちょいと買い出しに行ってきてくれるかい? リューと一緒にね!」

 

 

「ゲッ、俺ですかい…? 俺様次のトイレ掃除しようかと…」

 

 

「行きますよカイドウ」

 

 

奇声を上げる彼を引っ張り、皆に笑顔で見送られる。

 

 

割と奇妙な構図だが、これがいつもの日常となっている。

かくいう私もこの日常を楽しんでいるところがある。

 

 

そのところは彼に感謝する必要があるかもしれませんね。

 

 

 

店を出てから数分後。

 

 

「……なあ、リュー」

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

並んで歩く彼は不思議な質問をしてきた。

 

 

「もしもよ、俺が…」

 

 

そこで、話は途切れた。

大したことではないのだろうか?

顔を横目で見ると、何か考え込むように唸っている。

 

 

「いやあの、もしも、知り合いとか、友達とか、仲間とか」

 

 

「…? はい」

 

 

「怪物だったら…… おまえ、どー思う?」

 

 

どういう意図の質問だろうか?

何かの心理テストの類だろうか?

ともかく答えることにした。

 

 

「…他人を害するような存在であれば、それを正し、たとえ怪物だとしても…変わらないのであれば、特に気にはしませんね」

 

 

今、考えたことを口に出す。

彼の言うことだ、そんなに真剣にならなくても良いと思った。

 

 

だけど、彼の顔を見ると。

 

 

 

 

 

「そんな、そんな考えの奴が、いっぱい居たらいいな」

 

 

 

どこか嬉しそうで、切なそうに呟いた。


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