バタバタバタ、と急ぎ足の足音が聞こえ、リビングの扉が勢いよく開かれた。
そしたら少し息を切らした冬美お姉ちゃんが現れた。
「り、り、莉愛!莉愛!」
『どうしたの冬美お姉ちゃん、そんなに息を切らして?』
私は不思議に思いお姉ちゃんに問いかけた。
コタツで焦にぃと蜜柑を食べていた私に一つの封筒を突き出した。
「き、来てた!来てたよ!雄英から!」
「『!!!』」
その声に私と焦にぃが一斉に反応し、私は慌てて封筒を手に取り、裏表を見て確かめる。間違いなく雄英からであった。
私は、一度大きく深呼吸し封筒を開けた、
『じゃあ、開けるね!』
「え!り、莉愛!まずは一人で結果を見た方が良いんじゃ?」
冬美お姉ちゃんはそう案じるが、私はそれほど気にしていなかった。正直、1人で見るの方が不安なので、今一緒に見てくれてた方が安心するのだ。
『ここで開けても、一人で開けても結果は一緒だもん!はい、開けたよー』
慌てるお姉ちゃんと、隣でウズウズしている焦にぃを気にせず、私は封筒を開けた。
中には掌サイズの機械が入っていた。掌サイズの機械をコタツの真ん中に置くとブゥンという音と共に空中に映像が浮かび上がった。
《 私が投影された!!!!》
そこに現れたのは、筋骨隆々な逞しい身体、力強く跳ね上がった二つの前髪、威風堂々とした佇まい、アメコミヒーローのような画風。もちろん誰もが知っているNo.1ヒーロー…
「「『オ、オールマイト!!?』」」
「ま、待て待て、2人とも!とりあえず落ち着いて静かに聞こう!!」
予想外の出来事に目をまんまるにして、ポカーンΣ(゚д゚lll)としている私と焦にぃを慌てて美冬お姉ちゃんが落ち着かせる。聞き逃しが無いように静まり、耳を澄ます。
『初めまして轟莉愛少女!私はオールマイトだ!何故、私が投影されたのかって?ハハハ!それは私がこの春から雄英に教師として勤めるからさ!さあ早速、君の合否を発表しよう!』
画面が暗くなり、オールマイトの立つステージのみがライトアップされる。ダララララ、とドラムロールが鳴り響く。流石はオールマイト、エンターテイナーとしても一流のようだ。皆、固唾を飲んでオールマイトを見つめている。そして、ダン!と最後のドラムが鳴った。
《おめでとう、合格だ!
筆記試験はギリギリだが、実技は156ポイント!
今年の合格者の中でも、いや雄英高校始まってのトップの成績だ!
それにしても、数学は満点!どうしたらこんな点取れるんただ?》
わぁ!と大きな歓声が上がった。
焦にぃは、目を細めて微笑んで「頑張ったな」と言いながら頭を撫でて、冬美お姉ちゃんに至っては、目から大粒の涙を流しながら「うわぁ〜ん!良かったね〜」と後ろから抱きついてきた。
画面内のオールマイトもそれを予想していたのか、笑顔で拍手を続けている。
だがしばらくした後、画面のオールマイトがコホンと軽く咳払いをした。
それに気付いて、また皆んながオールマイトに注目した。
《それから、先の実技入試!受験生に与えられるポイントは、説明にあった仮想敵ポイントだけにあらず!実は審査制の救助活動ポイントも存在していた!
ヴィランポイント 156点、
レスキューポイント 50点、
合計206点!文句なしの合格だよ。轟少女!
実技入試は、圧倒的一位!
だが、筆記試験と総合的に見ると2位だ!
惜しかったな!
だが、改めておめでとう!轟少女!ここが、君のヒーローアカデミアだ!雄英で待っているぞ!』
メッセージはソコまでで映像は切れた。
「莉愛、おめでとう。筆記テストは、少し残念だったけど、実技テストは雄英高校始まって以来の高得点だって!!」
美冬お姉ちゃんが私ををギュッと抱きしめた。隣の焦にぃもその姿を優しげな目で見守る。
『ありがとう、美冬お姉ちゃん……
お姉ちゃんが、必死に勉強教えてくれたおかげだよ!』
「ふふふ、本当によかったよ……よし!今日はお祝いだ!。ああ、莉愛はゆっくりしてて!それから、お父さんに電話しておくのよ!今日ずっと心配でウズウズしてたから!」
『うん!』
隣で焦にぃは、「別にクソ親父に連絡しなくてもいいだろう」とムスッとしていたが、「はい、はい」と冬美お姉ちゃんが言いながら、買い物の荷物持ちに無理矢理連れていかれた。
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時は少々さかのぼる。入学試験後の事である。雄英高校ヒーロー科の会議室では、雄英の校長や教師陣が出席する重要会議が行われていた。
「実技総合成績が出ました。」
前方の大画面に受験生の名前と成績が上位からズラリと並ぶ。それを見た教師陣から感嘆の声が複数上がった。目立つのは轟莉愛、爆豪勝己、切島鋭次郎そして緑谷出久である。
「救助ポイント0点で2位とはなあ!」
「後半、他が鈍っていく中、派手な個性で敵を寄せ付け迎撃し続けた。タフネスの賜物だ。」
「対照的に敵ポイント0点で8位」
「アレに立ち向かったのは過去にも居たけど…ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね」
「思わず、YEAH!って言っちゃったからなー」
ワイワイと騒ぎながら講評を行う教師陣。そして話題は次の注目者に移った。
「あと、ゼロポイントの仮想敵が出てきた時に皆んなが逃げる中、瓦礫が崩れて動けない受験生達を助けた切島鋭児郎。」
「そして……圧倒的1位を叩き出した、轟莉愛。敵ポイント156点、救助ポイント50点、合計206点と雄英高校始まっての高成績だな」
「試験前半は、あの反則な試合開始の合図にも唯一1人だけ反応し、受験生待ちをしていた仮想敵を氷の結晶に乗りながら周りにも作った氷の結晶で仮想敵を貫いて破壊している。
それに、ピンチな者や救護者を発見する度に氷の結晶で助けて、安全な場所まで運んでる。」
莉愛の試験の様子がいくつかの画面に映し出される。教師陣は時に頷きながら、時に感心しながらその姿を見る。
「それに助けて運んだ人数は100人を超えてる。」
「それにしたって、あの氷の結晶の制御力は素晴らしい!最大で50は軽く超えてるぞ!」
「注目すべきは50ポイントという高得点を前半で稼ぎ後半、0ポイント仮想敵が出てきた際、軽々と試験会場にいる受験生以外を全て凍らせています。その際に残り仮想敵ポイントを取ってますね。では、こちらのVTRをご覧下さい」
ピッと音が鳴ると、画面にビルの屋上で片手を掲げる莉愛が映し出された。莉愛が何かを言うと、莉愛の周りに4つの立体が現れた次の瞬間その立体が試験会場に飛んでいき、一瞬で試験会場ごと0ポイント仮想敵と残り仮想敵を凍らせていた。しかも、生物以外をだ…あまりの広範囲の氷結とその並はずれた制御力に、観ている教師達は背筋に冷や汗が流れた。もちろんオールマイトも例外ではない。それは、映画をみていると錯覚してしまうほど幻想的な光景だっだ。教師の中の一人であるプレゼント・マイクは思わず歓声を上げた。
「YEAH!!何度見てもスゲェ氷結だな!どんな制御力してんだ、こいつ?
にしてもなんで、この氷結を最初からやらなかったんだぁ?」
その問いかけに他の教師達はざわめき出した。
「確かに…最初からしていれば、もっと圧倒的な点が取れてたはずだ。」
「できない理由があったのではないか?」
「いや、他の受験生に遠慮したのではないか?」
などと沢山の意見が出たが、それは本人のみが知ることだろう。
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一方その頃エンデヴァー事務所では…
「ああ〜まだか!」
エンデヴァーが自分の携帯を持ちながら、ウロウロしていた。
プルッ!ピッ
携帯が鳴って、通話ボタンを押すまでの時間は、1秒を切っていた。
さすが事件解決数史上最多の異名を持つ燃焼系ヒーローのエンデヴァーである。
「…莉愛か、なんのようだ?」
内心めちゃくちゃ心配で荒ぶれているが、口から出たのは、相変わらず愛想のない音葉だった。
「あっ!お父さん、今大丈夫?」
「忙しいに決まってるだろう!」
しかし、さすがといってもよいのか(?)不器用なエンデヴァー口から出たのは全く逆な言葉であった。今日は、朝からずっと携帯を持ってソワソワしており仕事が手についておらず、それを見かねたサイドキックが、娘から電話が来るまで休憩が入れたのだ。つまり、今はめちゃくちゃ暇である。
「そっか〜、合格結果来たんだけど…忙しいなら、帰ってきたからの方がいいかな?」
「!!!フン!そうゆうことなら早く言え!」
「うん!受かったよー!実技テストは、1位だけど、筆記テストはギリギリだったから、総合では2位だって!」
「っ!!!そうか!」
「うん!じゃあ。お父さんも仕事頑張ってね!」
エンデヴァーのその後のヒーロー活動では、娘の実技試験の1位合格に加えて応援コールのおかげで、エンデヴァーの機嫌とやる気が最高潮に達した為、町で暴れていたヴィランたちが、すごい勢い一掃されたそうだ。
娘パワー恐るべしである。
サイドキック曰く、思わずヴィランに同情してしまうほど、だったらしい…
余談だが、エンデヴァーの携帯のホーム画面は、莉愛と焦凍のツウショット写真である。
(莉愛と焦凍が2人仲良く寝ているところをエンデヴァーがこっそり隠し撮りした写真だそうだ!)