化け物は笑う   作:SAMUSAMU

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これでこの小説は完結を迎えます。ここまで読んでくれた方にありがとうと、感謝しかありません。それでは、どうぞ最後までお楽しみください。


エピローグ 化け物は笑う

渋谷中央病院

 

「…………またか」

 

 病院の一室で、櫛田衿那は目を覚ました。

 幾度となく経験した、気絶してからの意識の覚醒という感覚に少々うんざりしながらも、体を動かし、周囲を見渡しながら、自身の調子を確かめる。体中に包帯が巻かれ、点滴まで受ける身でありながら、衿那の心身は不思議と軽い。

 自分の体を縛りつけていた枷や鎖が外れたかのような、ずっと全身にこびりついていた何かが、剥がれ落ちたかのような開放感。窓から差し込む眩い光が、カーテンを揺らす穏やかな風が、それらの気分をより爽やかなものにしてくれている。

 

「……いま……何時かしら……」

 

 個室の壁にかけられている時計に目をやる。針は丁度、正午を指し示していた。側にあるテーブルに花やら、果物やらと、見舞いの品々が置かれているが、誰か来ていたのだろうか。

 

「命は……いないか……」

 

 だが、肝心の見舞客はおらず、親友の姿がないことに、衿那は少し落胆する。

 

「――あら、おはよう。ようやくお目覚めね……」

 

 丁度そのとき、病室に星野梨花子が入室してきた。普段通りの白衣姿。女医と勘違いするほどに病室に溶け込む彼女を見て、衿那が最初に感じたのは『安堵』だった。

 梨花子はいつになく優しい声音で、目覚めたばかりの衿那へ微笑みかける。

 

「調子はどう? まだ色々と痛むと思うけど……」

「……平気よ。少し頭がぼうっとするけど……むしろ、清々しい気分だわ」

 

 強がりでなどではない。今の自分の心情を、正直な気持ちとして吐露する。

 そんな衿那の気持ちが伝わったのか、梨花子も心地よく表情を緩めた。

 

「そう……なら、良かった」

「…………ねぇ。あれからどうなったの。私はいったい? 命は? あの化け物は?」

 

 自分が気を失ってから、いったいその後どうなったのか。ようやく頭に血が巡ってきたことで、衿那は思い出すように問いかける。

 

「そうね……説明しなくてはならないことが山積みだけど……いい? 落ち着いて聞いてね?」

 

 梨花子は、その質問に答えるため、ベッド脇の椅子に腰掛ける。

 そしてゆっくりと、衿那に事の顛末を語っていった。

 

 

 いくつかの報告を、衿那はひととおり聞き終える。まず、自分が三日もの間、病院のベッドで眠り続けていたという事実に驚く。

 あの屋上での巨大な大蛇との激闘の末、彼女はすぐさま病院まで運ばれた。一度はかなり危険な状態までいったという話に背筋をヒヤリとさせたが、今こうしていられるということは、どうやら無事に乗り越えられたようだ。

 そして、目覚めるまでの三日間。多くの人が見舞いに来ていたという。一日目は命がつきっきりでいてくれたらしいが、入学も間もない高校生を、これ以上休ませるわけにもいかないと、梨花子が説得したらしく、今は学校だ。

 その梨花子を初め、鈴鹿や双子の兄妹も何度か顔を出してくれたらしい。

 さらには衿那の両親――彼らもまた、娘の入院を聞き、実家からすっ飛んで来たという。

 自分が病院に担ぎ込まれるなど、そう珍しくもないというのに、両親の過剰な心配に呆れつつ、どこか有難いと思う気持ちが、彼女の胸の内を満たしていく。

 だが、それよりも、何よりも彼女を驚愕させた事実がそこにはあった。

 

「……消えた?」

「ええ、『不幸』の原因である呪術……その核となっていた蠱毒は、鈴鹿ちゃんが引き剥がしたわ。これ以上、貴方が理不尽な不運に振り回されることはなくなったの。安心しなさい」

「…………」

「腑に落ちないって顔ね……まあ、無理もないか……」

 

 しかし、その吉報を聞かされて尚、衿那の表情が特別晴れるようなことはなかった。

 本当に呪いが消えたのか。ずっと気絶していた衿那には、それを実感として受け取ることができない。確かに心身共に軽くなったような気分だが、それだけだ。

 故に、衿那がそのような浮かない表情をするのは、仕方がないことだった。 

 

「でも……確かに、貴方の心配は間違ったものではないわ」

 

 梨花子の口調が、どこか暗く、寂し気なものに変わる。

 

「呪いは消えた。それは確かな事実よ。けどね……貴方の身から、不幸そのものが失われたわけじゃない。寧ろ、これからは「呪いのせい」……何て、言い訳もきかなくなる」

 

 そう、呪術がなくなったからといって、不幸そのものがなくなったわけではない。

 

「本来、人の運勢なんてものは、人の手によってどうにかなるものじゃない。人を不幸に陥れる呪術ですら、貴方の身から完全に幸運を奪えなかったように、ね」

 

 もし、衿那が真に不幸だったというのならば、彼女はここまで辿り着けずに終わっていた。

 

「忘れないで、櫛田衿那。貴方は一人ではない。貴方の周りには、常に誰かがいた筈よ……」

 

 きっと、衿那一人なら早々に押し潰されていただろう。衿那の精神に直に触れ、その記憶を追体験した梨花子だからこそ、それがはっきりと理解できる。

 

「この先もきっと、貴方にはいくつもの試練が待ち構えている。今以上の『不幸』が、何の脈絡もなく降りかかるかもしれない。だからこそ、今度こそ、無理に一人で抱えようとせず、周りに相談しなさい。きっと、力になってくれるわ……」

「……」

「誰だっていいのよ。命ちゃんは当然として、両親に相談するのもいい。鈴鹿ちゃんに力を貸して貰ってもいいし、勿論、私に頼ってくれてもいいの。これでも養護教諭だからね。いつでも保健室で待ってるわ。きっと――目を覚ました弟さんも、力になってくれるから」

「そうね…………………えっ?」

 

 養護教諭からのアドバイスに素直に頷く衿那だったが、最後に出てきた人物に、彼女の思考は完全に停止する。そして、顔を上げた衿那の表情は、戸惑いと驚愕に染まっていた。

 

「………いま……なんて?」

 

 震える声で、衿那は問いかける。

 

「そういえば、伝えるのが遅くなったわね……二日前のことよ」

 

 梨花子は少し悪戯っぽく、それでいて、慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、言った。

 

 

「ご両親から直接聞いたのよ。貴方の弟さん、翔くんが――目を覚ました、と」

 

 

「…………」

「まだ貴方と同じで、本調子じゃないようだけど、医者の話によればもう心配はないそうよ」

「……………………」

「だから貴方も、しっかり怪我を直して……櫛田さん?」

「……………………~~~~~ッ――」

 

 衿那は――自身の視界がぼやけ、目に涙を貯めていることに気づけずにいた。

 涙声を上げていることにも、胸を満たすこの気持ちにも。

 ただ一つ、梨花子の言葉の意味を理解することで、悟ることができた。

 

 かけられた呪いが、自身を取り巻く理不尽な不幸が今、ようやく終わりを迎えたことに。

 

 

 その後。衿那が泣き止むのを待ってから、担当医を呼んでくると告げ、梨花子は病室を後にする。部屋を出るまで、梨花子は優しい表情を崩さなかった。しかし、廊下を歩き始めた彼女は、部屋にいたときとは異なり、ぶすっとした無表情で不機嫌を貫いている。すれ違う入院患者も、看護師たちも、彼女を避けるように道を譲っていく。

 

「――まだ、気にしているのかい?」

 

 恐れ知らずにも、そんな彼女を呼び止める男がいた。九十九明だ。

 

「今回の一件、君一人の落ち度ではない。寧ろよくやった方さ。限られた時間の中で、よくぞここまで……だが、今回は相手が悪かった。あのメフィスト相手に、こんな短期間で探知を試みようなどと。そんな無謀を提案した、八咫烏の上層部こそ、責任を問われて然るべきだ」

「いいえ……全ては私の未熟さが招いたこと。言い訳の余地もないわ……」

 

 梨花子が抱く感情は怒り。そして、その矛先は他でもない、自分自身に向けられていた。

当初の目的だったメフィストの探知にも失敗し、あまつさえ、蠱毒を目覚めさせるきっかけを作り、衿那たちを危険に晒してしまったことを、彼女はずっと後悔していたのだ。

 

「ここ最近は、陰陽師として活動してなかったから……少し平和ボケしてたわ……」

 

 窓の外を見やりながら、梨花子は自虐的な笑みを浮かべる。

 

「平和ボケ? いいじゃないか! 何事も平和であることに越したことはないさ」

 

 だが、彼女の言葉を聞き、九十九は声を弾ませた。

 

「それに……私は君が陰陽師として研鑽に励むより、一教師として、子供たちの相談に親身になっている方が性に合っていると、今の君を見てそう思うんだ」

「…………」

「さあ、もう学校へ戻りなさい。櫛田さんが心配だったのもわかるが、悩みを抱えた生徒は彼女一人じゃない。影武者代わりの式神に、生身の傷の手当はできても、心の傷を癒すことはできない。我が校の養護教諭は……君しかいないのだからね」

 

 すれ違いざま、九十九は梨花子の頭をそっと撫で、その場から立ち去っていく。

 セクハラ――もとい、幼い子供をあやすかのようなその仕草に、梨花子は不快感を示すことなく、彼の背を見送りながら、心から感謝と敬意を込めて頭を下げていた。

 

「ありがとうございます……師匠」

 

 

4月下旬 刻印学院高校 一年A組  

 

 朝のHR前の一年A組の教室。ごくありふれた日常風景がそこにはあった。大多数の生徒がクラス内に集まり、とりとめもない雑談に耽っている。

 ここ数日の彼らのもっぱらの話題は、例の『渋谷の街中に発生した巨大な大穴』について。

 自分たちの通う高校の同区内で起きた驚愕のニュースに、不安半分、興味本位半分で様々な憶測を熱く語り合っている。ある程度時間が過ぎたこともあり、その話題もいくらか下火になりつつあるが、やはりあれだけの大事件、そうそう収まるものでもなかった。

 

 もっとも、それは何も知らない部外者たちの声。その現場に居合わせた当事者である二人の少女からすれば、既に終わったことであり、周りとの温度差を感じられるほどに穏やかな声音で、少女たち――神宮寺鈴鹿と比佐命は他愛もない世間話に花を咲かせていた。

 

「命よ、お主のクラス、一限目はなんだ?」

「国語だよ。鈴鹿ちゃんは?」

「……こちらの一時間目は英語の授業よ。あんな奇奇怪怪な言語が朝っぱらから教室内を飛び交うかと思うと、今から憂鬱な気分になるわ……」

「ははは、それは……大変だね……」

 

 そう愚痴りながら、自分の机に頭をこすりつけ、鈴鹿はうな垂れる。命(みこと)は生暖かい眼差しで鈴鹿のことを見守りながら、苦笑いを浮かべた。鈴鹿はA組、命(みこと)はB組と、それぞれ別々のクラスであったが、暇さえあれば二人はこうして言葉を交わし、親交を深めていた。

 

 しかし、彼女たちの会話はまだ少しぎこちなく、どこか途切れ途切れだ。

 

 それは、命がときより、鈴鹿の隣――誰も座っていない空席に目を向け、寂しげな表情を浮かべるなど、心ここにあらずといったことが、多々あったからだ。

 

「……ときに命よ、お主は良かったのか?」

「え?」

「あやつに――櫛田衿那に、ついて行ってやらなくて?」

 

 

 櫛田衿那は退院後、実家のある故郷の町へ、大急ぎで帰郷した。半年間、意識不明のまま昏睡状態だった、弟の翔くんが目を覚ましたのだ。それは当然のことであっただろう。

 しかし――それ以降、衿那からの連絡はない。

 

「お主は、あやつのためにわざわざ故郷を離れ、この地に来たのであろう? だったら、お主も一緒についていってやるのが道理ではなかったのか?」

 

 衿那が病院にいる間、命も何度か見舞いで訪れはしたのだが、あまりにも久しぶり過ぎる穏やかな時間に、何を話していいのかわからず、微妙に距離感を掴み損ねてしまっていた。

 結局、衿那とは退院祝いからそれっきりだ。ひょっとしたら、このまま刻院を退学し、実家から通える高校に転校するかもしれない。だが――

 

「鈴鹿ちゃん……私が衿ちゃんを追ってきたのは、彼女を一人ぼっちにしないためだったの。自身の不幸に、誰も巻き込みたくないって、家族から離れていった彼女が、孤独に押しつぶされないよう、私が……衿ちゃんを支えてあげたかった。けどね、今の彼女はもう不幸なんかじゃない。支えてくれる家族と一緒に居られる。だから……これで良かったんだよ」

「……」

「それに、私の家って結構貧乏でね。両親にだいぶ無理を言ってこの学校に通わせてもらってるから、今更別の学校に移るなんて……言えないよ」

「ふ~ん、そういうもんかのう」

 

 その言い分に鈴鹿は納得し切れていないようだが、特にそれ以上、何かを言ってくる素振りはない。そんな、鈴鹿の気遣いに感謝し、命は「ありがとう」と自然に礼を述べていた。

 すると、何故か鈴鹿は顔を顰めた。

 

「……のう、命よ。前々から気になっておったのだが……」

「なに? 鈴鹿ちゃん」

「……最近のお主は――なんだか、ちょっと馴れ馴れしくないか?」

「へ……?」

 

 思ってもみない鈴鹿の言葉に、命はきょとんと目を丸くする。

 その反応の鈍さに、鈴鹿はさらに口を尖らせ、不満をあらわにする。彼女は大仰な仕草で腕を組み、思いっきり椅子にふんぞり返りながら息巻いた。

 

「あの屋上でも言ったと思うが、儂は『鬼』である! 貴様ら人間とは一線を画した、恐怖の象徴、真正の化け物よ! その化け物に向かって、こうも軽々しく礼を述べるなど――」

「…………」

「そもそも、なんだ? 鈴鹿「ちゃん」などと、小っ恥ずかしい敬称までつけおって! そこは、もっとこう……威厳のある呼び名をつけるだの、工夫をしてだな――」

「…………」

「感謝など最小限でよいのだ。貴様はもっと恐怖し、怯え震え上がるべきなのだ。我ら鬼神の眷属の威光を前に、己が無力さに打ちひしがれ、平伏するべきであってだな――」

「ふふ……」

「な、なにが可笑しいのだ!」

「ごめんなさい……でも、ふふふ……」

 

 鈴鹿が自らの恐ろしさを説くその途中で、思わず命は笑いを溢してしまっていた。

 

 

 確かに鈴鹿の言うとおり。命も最初の頃は彼女が怖かった。

 鬼として覚醒した鈴鹿の姿は美しくもあり、やはり、恐怖を感じるものでもあった。

 しかし、鈴鹿は蠱毒と戦い、衿那を救ってくれた立役者だ。その事実をないがしろにして、鈴鹿をただ怖がるだけなど、やはり命にはできなかった。

 それに、ここ数日間、鈴鹿の学園生活を見ていて思ったことなのだが。

 鈴鹿は、おそらく初めてなのだろう。慣れない学校生活に、四苦八苦していた。人間たちの集団生活になかなか馴染めず、苦手な勉学に頭を悩ませていた。クラスの違う命からでも、合同授業や噂などで、その様子が伝わってくるほどだ。

 そんな拙い鈴鹿を見て、命は自然と、彼女の力になってあげたいと、手を伸ばしていた。そこに恐怖の色はなく、手のかかる妹を世話する、姉のような気分にさせられていた。

 

 何より――命は思うのだ。

 あの放課後の屋上で見た、あの笑顔を思い出しながら。

 

 あの日、優しさに満ちた笑顔で、命を見つめていた鈴鹿の表情を――

 あんな優しい微笑みができる彼女が、あんな優しい声をかけてくれた彼女が――

 物語に登場するような、ただ悪辣に人々を襲うような悪鬼ではない、と。

 命に、そう確信させるだけの、『なにか』を、心に抱かせたのだ。

 

 だからこそ、命は鈴鹿のことを、必要以上に恐れないと決めた。

 一人の友人として鈴鹿に寄り添おう、そう心に誓ったのである。

 

 

 

「……まったく、最初の頃の殊勝な態度はどこへいったのやら……ん?」

 

 命(みこと)の自分に対する扱いに不満を愚痴りながら、鈴鹿は教室の時計に目をやる。命も同じように時計に目をやり、そろそろHRルームが始まる時刻だと知る。鈴鹿との会話を打ち切り、自分の教室に戻らねばと、名残惜しげにそう思った。

 そんな矢先――教室のドアがゆっくりと開かれる。

 数人の生徒たちが反射的にそちらに目をやり、見知らぬ女生徒の姿に疑問符を浮かべた。

 

「? 誰だ」

 

 鈴鹿もそれが誰だったかわからなかったのか、目をぱちくりさせる。

 ただ一人――他でもない命(みこと)だけが、それが誰なのかすぐに理解し、その名を呼んだ。

 

「――――衿ちゃん」

「む、櫛田衿那だと? ……おお、言われてみれば!」

 

 確かに、そこにいたのは櫛田衿那その人だった。

 すぐにわからなかったのは、ツインテールの髪がバッサリと切られ、ボーイッシュなショートヘアに変わっていたからだ。また、登校初日に放っていた、どこか周囲を遠ざける危険なオーラも鳴りを潜め、少し強気な顔立ちこそ相変わらずだったが、表情そのものがどこか晴れ晴れとしていた。それこそが、櫛田衿那という少女、本来の姿だったのだろう。

 

「え、衿ちゃん……どうして?」

 

 迷いない動作でこちらまで歩いてくる衿那に、命は思わず問いかける。

 

「ああ、この髪? ただの気分転換……いや、自分なりのけじめってやつかもね。何でも一人で抱え込もうとした、馬鹿な自分に対しての……」

「そ、そうじゃなくて……どうして? 親御さん、弟さんは? 一緒じゃなくていいの?」

 

 どうして戻ってきたのか。髪もそうだが、何よりそれを聞きたかった。

 せっかく呪いも解けて、理不尽な不幸も終わりを告げた。弟の翔くんも目を覚まして、再び家族との絆を取り戻したのだ。なればこそ、もっと家族との時間を共有してしかるべきではないのか。少なくとも命(みこと)はそう思っていた。

 

「ああ? アンタこそ何言ってんのよ! せっかくの学生ライフなんだから、満喫しなきゃ損よ! こっちは一度、親に「進学のために上京したい!」って啖呵切ってんだから、今更撤回するわけにもいかないでしょ?」

「え?」

「今から転校手続きなんて面倒じゃない! マンションの家賃だって、一年分、前払いで済ませちゃったし! 私が使ってやんなきゃ空き部屋よ、空き部屋! 勿体ない!」

「え、ええぇ!?」

「別に、会おうと思えばいつでも会えるんだから、無理に帰る必要もないわよ! それに――」

 

 奇妙なほどのハイテンションから一転、櫛田衿那は照れくさそうに、頬を赤く染めていた。

 

「こっちには……アンタだって……いるしね」

「……衿ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ふっ」

 

 そんな二人の『人間の少女』の微笑ましいやり取り。

 それを『化け物たる少女』が、穏やかな笑みを浮かべて見つめていた。

 

 鬼たる自身を誇るための、傲岸不遜な笑みでもなければ――

 敵対者を圧倒するために浮かべる、獰猛な笑みでもない――

 跪かせた他者を見下す、嘲笑うような嘲笑でもなければ――

 刃物のように冷たく、誰かの傷口を抉る冷笑でもない――

 苦しみを誤魔化すための、無理やりな作り笑いとも違う――

 二人の友の再会を心から祝福し――

 二人の未来へと、その先に思いを馳せた優しい笑顔で――

 

 

 

 化け物は笑っていた――

 

 

 




如何だったでしょうか? 少し長くなりましたがこれで、この話は終わりです。
一様、続きを意識して書いてはいますが、特に続けて投稿するつもりは今のところありません。
 感想、評価、批評などがありましたら、どうかお願いします。次の作品の糧としていきたいので。
 
 本当にここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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