笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。 作:サボテンダーイオウ
こんにちは。また会ったわね。
え?来るまで待っててくれたの?それはごめんなさいね……。お仕事のついででこの町に寄らせていただいているのだけれどまだ慣れないわ。町中が迷路みたいで私すぐに迷子になってしまうんですもの。
今日も大人しく待ってろよ!なんてあの子に叱られてしまって、お母さん失格ね……。
そうそう、この間別の町へ頼まれていたお薬を届けに行ったのだけれど、こちらが提示した金額が高すぎるって怒ってしまわれて大変だったわ。友人には絶対金額はまけるなって口酸っぱくして言われてたんだけど、あの子が忙しそうだから私勝手に了承してしまったの。そのお客様はいつもの常連のお客様じゃなくて新規でお話を頂いたお客様だったわ。友人に言わせればたぬき親父ですって。
おなかがふっくらしていて、本当に叩けるのかしらって試してみたいと思ったわ。あの子に慌てて止められてしまったけど。
そしたらね、後からこっぴどくあの子に叱られてしまったの。仕方ないわよね、勝手に金額を決めてしまうなんて。私あの子のお仕事全然手伝えてないから少しでも頑張ろうって思ったのがいけなかったのね。でもあの子、もう一度そのたぬき親父の所へ行って話つけてくるって出て行こうとしたの。
私はもちろん止めたわ。だって物騒な剣なんか携えてるんですもの。喧嘩はよくないし傷ついて欲しくないわ。
そしたらあの子、喧嘩はしない。あのたぬき親父との交流手段は腹を思いっきり殴り叩いてやることなんですって。それが友情の証だとか?
素敵だと思わない?争いあうことだけが全てじゃないって息子が証明しに行ってくれたんですもの。
三十分くらいかしら、満面の笑みであの子は私にサムズアップしてきたわ。
ガッポリ絞れたってそれはそれは嬉しそうに。
あの子が嬉しいと私も嬉しくて、たぬき親父のお腹はどんな音がしたの?って訊いてみたの。そしたら、きったねぇ音ですって。
お腹の調子でも悪かったのかしら?
あら、全然違う話してたわ。ごめんなさいね。私ったらいつもこんな調子で友人にも注意されているの。人の話聞けって。
ええと、昔話よね。
何処までいったかしら……?
私に尾びれと翼があって引っ込み思案で好きな人にアタックできないところから?
そう!そうだったわ。ふふっ、天使さんは記憶力抜群なのね、尊敬しちゃうわ。
そう、私はあの人にアタックできなかったの。
だって人は姿形違う者を恐れるでしょう?だから彼もそうなのだと思ったわ。
でもずっと私の頭の中を占めるのはあの人だけ。
姉様たちといくつ船を沈めるかの競争で99隻だけしか沈められなかったもの。
でもある夜、歌を歌ってまた船を沈めてお城に帰ろうとしたとき、見覚えのある人が溺れかけていたの。そう!あの人だったわ。
嵐に巻き込まれて船が沈んだのね。私気が付いたらあの人を抱え泳いで岸まで向かっていたわ。岸に上がるのは大変だったけどあの人の体が冷たくて、私どうすればいいかわからなかった。でも昔友人が適当に叩けば治るって聞いたから思いっきり腹パンチしてみたの。
そしたら、大量の水を吐き出して彼、息を吹き返したわ。
嬉しかった!彼が生きてるって。
でも私の姿を見られるわけにはいかなかったからすぐに海の中に飛び込んだの。
その後すぐ、あの人は若い少女に助けられてたわ。
良かった、良かったってその時は思った。
でもあの人に直接触れてしまったことで、私の想いはさらに膨れるばかりだったの。
会いたい、会いたいと嘆くばかりで友人である彼女が、人の工房で毎日泣いてたらカビが生えるわ!って言って私に人間になれる薬を投げつけてくれたの。すぐ飲むと即効性が強いから陸に上がってから飲むことと副作用が何かしら現れるはずだから気を付けることと教えてくれた友人に背を押されて私、人間になれたわ。
翼は無くなって尾びれが足に変わったけど、着る服がなくて近くにあった昆布をぐるぐる体に巻き付けてあの人を探そうとしたの。そしたら偶然あの人が砂浜に現れて、私を見た途端驚いた顔してこう言ったわ。腹パンチした乙女かって。
私はそうですわ!って頷こうとしたの。でも、声が出なかった。
これが彼女が言う副作用だったの。
私、悲しくて泣いてしまったら、私を不憫に思ってお城へと招いてくれたわ。
身寄りがない娘だと思われたらしいの。あの人はとても優しい人だった。
でも私は喋れなかった。だからあの人を助けた乙女だと知ってほしくて、機会があれば彼の腹をパンチばかりしていたわ。でも人間になって日も浅いのかなかなか力が入らなくてあの人は、ははは!弱いパンチだなって白い歯を光らせてミット持ち出して私にミット打ちを指導してきたの。不思議と心躍る触れあいだった。
息が上がって鼓動がいつもよりも早く高鳴るなんてない体験だった……。
そこはダンス練習じゃないかって?
勿論、ダンスも乙女のたしなみだって教えてもらったわ。でも私男の人と接することなんてほとんどなかったから、恥ずかしくてあの人に触れられた瞬間、オクラホマスタンピードであの人の体を持ち上げてツームストンパイルドライバーを叩き込んでいたわ。
あの人、よろついた足取りに顔面血だらけでも、お転婆さんだなっておでこツン!って許してくれたの。なんて、優しい人……。でも私とダンスするたびに血だらけになるから貧血になってしまってダンス練習は取りやめてしまったの。
ええと、それから毎日のように彼とスクリューパイルドライバーのような素敵な日々だったわ。すごいのよ!あの人ったら血だるまになっても起き上がってくるのだもの。胸がキュン!って締め付けられていたものよ……。
嗚呼、夢のような日々は突然終わりを告げてしまうの。
あの人の、結婚を知るまでは……。
「母さん、遅くなるから帰るよー」
あら、大変!
あの子が迎えに来たわ。ごめんなさい、お話はまた今度ね?
あら。約束してほしいですって?手形が欲しい……?
約束手形というのね、色紙にこのスタンプを押す……。
これで、いいかしら!
まぁ!これが私の手……。意外と小さいのねぇ……。
でも無事に約束も済ませたしこれで次も大丈夫ね?
じゃあ、またね。
可愛らしい天使さん。
【また続く】
※※※
今日は四月十一日。
どうして私は通学路の途中で雨の中、傘も差さずにお店の軒先で雨宿りしているのだろう?
理由:傘、忘れたから。
どうして私は傘を忘れてしまったのだろうか?
理由:天気予報見なかったから。
どうして私は天気予報をみなかったのだろうか?
理由:……教えてくれる人がいなかったから。いや、これは語弊か。おじさんはきっと教えてくれていたんだと思う。ただ、私の頭は思考停止してすべての言葉は左から右状態だったはず。……朝、綾兄はいなかった。モルも当然いない。なので起こしてくれる人がいなかったので親切にも初日から、居候新人が遅刻するよ、なんて起こしてくれたんだけど、私は条件反射で朝から甲高い悲鳴をあげて彼の頬を思いっきり引っ叩いてしまうというイベントが発生してしまった。ちゃんと謝りましたとも。ええおじさんが私の悲鳴を聞きつけて何事かと駆けあがってきて私と居候新人の有様に目ん玉飛び出しそうなほど驚いてすぐに私が彼に何かされたと勘違いしたおじさんが居候新人に殴りかかりそうになるなんて誰が朝から思いつきますか。頭に血が上ったおじさんを抑えるのに苦労し無駄な体力使った。
それでは最後の問いだ。
どうして私は朝からげんなりした表情で立っているのだろうか。
理由:「そういえば、名前、……佐倉って呼べばいいのかな?」
私の隣で同じく雨宿りしている少年、名を雨宮蓮という。癖毛の髪に黒のウェリントン型メガネがよく似合っていてスマートで均整がとれた体躯に一見大人しそうなイメージを受ける。一昨日から喫茶ルブランの二階に居候となった噂の問題児。だけど私は彼が問題児ではなく正義感に溢れた少年であることを知っている。おじさんから以前理由を訊いたが、女性を助けようとして冤罪で捕まったらしい。嫌がるクソ親父からか弱い女性を救ったのだ。それはとても誇れることだし、私が嫌悪を抱く対象は、あくまで私に性を求める男であって、普通に接している分には何の問題もない。彼なら一年間ぐらい一緒に過ごしても問題ないだろうと判断した。
それに何かある前に綾兄が潰すだろうし。……ぐっ、綾兄は関係ない関係ない!
そんな彼の頬が少し赤いのは、前にも述べたが私のせい。真田先輩に鍛えられ極限までに磨きかかった私の躰は、以前とは比べようがないほど引き締まり動きにも無駄がない。だから普通の女子が放つビンタよりも強烈で今はまだいいが、叩いた直後はもっと真っ赤だった。漫画で表現を例えるなら真っ赤な紅葉が頬にできたという感じである。
ごめんなさいごめんなさいと謝り倒す私に雨宮君は、いや大丈夫だから気にしないでと微笑んだどころか、私の手の方が痛くなかったかと心配までしてくれたのだ。
私は目を見張り、彼の優しさパラメータが慈母神級であると確信した。
「うん。佐倉でも朔でもどっちでも構わないよ」
拒否できない弱みが出来てしまったのだ。断る選択肢など私に存在しない。
「そう、じゃあお言葉に甘えて朔って呼ばせてもらう」
出会って二日目で名前呼び。どうやら、彼の度胸はライオンハートMAX。
中々侮れない人物がルブランに来たもんだ。
最初だから一緒に行くことになった私達はどちらも傘を持たずに登校した。なので途中で雨が降ったので仕方なく軒先で共に雨宿りすることになった。で、冒頭に至る。
それからちょっとして同じクラスの高巻杏さんが共に雨宿りしにきた。変態教師鴨志田が運転する車が現れ、下心満載高巻さんを自分の車に誘い高巻さんは一瞬嫌そうな顔したけどすぐに口元に笑みを浮かべて車に乗った。私はげぇ!と顔を顰めて雨宮くんの背に隠れた。雨宮君は私に隠れ蓑にされても平然としていた。
鴨志田は男の雨宮君には興味も示さずあっさりと無視し、さっさと車を出して去って行った。ステルス効果持続中良好!
奴の車に乗るくらいだったら、ホルス出してその背中に乗って行った方がまだ快適だ。実践できないのが悔しいけど。
さて、そろそろ行かないと遅刻してしまう。私は雨宮君に「行こう」と促して軒先から出ようとした。そこへ目立つ金髪頭男子が走ってきて、限界に達したのか息を乱しながら立ち止まり
「あの変態教師が……!」
と忌々しそうに悪態づいた。すると雨宮君、不思議そうな顔して
「変態教師…?」
呟いたじゃありませんか。それに目ざとく反応した金髪頭男子。あ、この顔知ってる。でも名前は知らないので金髪男子と呼ぶことにした。
「……何だよ。カモシダにチクる気か?」
「カモシダ?何のことだ?」
「あ?今の車だよ。鴨志田だったろ。好き放題しやがって、お城の王様かよ……そう思わねぇか?」
雨宮君、この問いに、
「どこの城?」
と本気で尋ねた。すると金髪男子は微妙に眉を下げ困惑した顔で
「や、例えだろ…」
と首を振る。朝から一瞬コントを見れて得した気持ちになった。
しかし、お城の王様とは的確なコメント。だってアイツのパレスはお城、シャドウは裸の王様だし。
「ツーかよ、鴨志田知らないとかマジで言ってっか?」
「彼は転校生だから知らなくて当然だけど」
「おわ!?び、びっくりした!いたのかよ……!ってかお前……佐倉朔」
大方ステルス効果で今の今まで私の存在に気が付かなかったのだろう。私の声を耳にして初めて彼は私の姿を認知し、後ずさりするくらい驚いた。
つまり私が彼の前で喋らなかったら永遠彼に認知されない。その存在は知識として知っていても彼に私は見えない。
なんて便利!鴨志田対策、今後も有効活用させてもらいましょう。
雨宮君は金髪男子の行動に理解できず首を傾げ、私に視線をやってきた。
「……?」
説明してほしそうな顔をされるも完全遅刻はしたくないので先に歩き出す。
「雨宮君、遅刻するからもう行こう」
「……ああ」
雨宮君はスマホを取り出していじりながら遅れて歩き出した。
ぐらり、と世界が一変、したような。
うん?
一瞬、違和感が……。世界が変わったような。
あれ、私あのアプリ使ってないよね。
気のせいだと思い私はシュージンへの近道ルートで学校を目指した。
明らかにアッチ側の気配を感じつつも、きっと気のせい気のせいと自分に言い聞かせて。
私、雨宮君、金髪男子と続いてビルの脇道を黙々と歩いていく。アンタも一緒かよと心狭いことは言いません。
※
トンネル明けたら別世界――、ではなく路地裏開けたら別世界。
城。見慣れた学校じゃなくて、中世時代を模した城がある。
私は目の前の光景に気が遠くなりそうになった。それほどに衝撃的だったからだ。
でも踏ん張って現実から目を背けなかった。たとえ!たとえ、三人そろってここに来ていてもだ。
「な、なんだコレ……学校が…」
呆然と立ち尽くす男二人。ああ、ここで私もエクトプラズムを口から出して気絶するほどメンタル弱かったらいいのに、あいにくと毛が生えてるほど図太いのでそれはかなわず。
「ここが学校?……朔どうした?顔が強張ってる」
「ナンデモアリマセンキニシナイデ」
せめて外人っぽくなって現実逃避したいので話しかけないでください、雨宮君。
「片言になってる」
可笑しそうにクスクスと笑う余裕があるとは。さすがライオンハート。
「門に衆尽って書いてあったよな……?どうなってんだ?……圏外?どこ来ちまったんだ…」
カモシダパレスです。異世界です。生身でくるとこじゃありません。
ぐるぐると頭の中でひたすらなんで?なんで?なんで?と疑問が回っている。
この世界に来る原因、それはアプリ以外にないはず。けど私はアプリを所持しているけどいじってないしスマホはリュックの中。さて、問題。
誰がスマホいじってましたか?
「ちょっと雨宮君スマホ貸してくださいっ!」
「え、ああ」
雨宮君から奪うようにスマホを貸してもらい、血走った目付きであのアプリを探す。
「……」
ありました。あの目玉アプリ。
とりあえず。覚えてろ長っ鼻と電波送っておいた。
私は、「ありがとう」と礼を言ってそっと雨宮君にスマホを返した。
確認の為にとりあえず尋ねてみた。きっと無意味だろうけど。
「雨宮君、このアプリ、さっきいじってたよね」
「……?ああ。試しに起動してみたけど。なんで?」
「ううん、なんでもない」
引きつった笑みで首を振る私に雨宮君は怪訝そうな顔した。
カモシダパレスに来るためにはキーワードを言う必要がある。
『変態』
雨宮君は確かに変態教師と言った。それがアプリでひろわれたんだろう。
アプリは声に反応しナビを開始して、私達があそこからここに移動し無事にナビゲート終了。
私の服が変化していないのは不幸中の幸い。きっと召喚機があって初めて変化するのかもしれない。あとは今の私の意識が関係しているのかも。
思考の切り替えをしている私にはこの恰好はあくまで昼間の学生。
社会に反逆する意思は、今のところない。
それに、今来た道を戻ればすぐ解決する話だ。
そうと決まれば、私は男子二人に戻るよと声を掛けようとした。
が!
金髪男子は頭をガシガシかきながら、
「とりあえず、中入ってみっか」
と先に城へ向かって歩き出してしまった。それに遅れて雨宮君もとりあえずついてく。
けど私が一緒に続かないことに気づくと、ある程度の位置で振り返った。
「……?朔、行かないのか」
ガクッと肩を落とすしかない。大声を上げれば奴らに気づかれるだろうし。
これはもう、やるっきゃないかな。幸い、ペルソナ使い候補はいる。目覚めれば何とか行ける。
「……中入ったら一切私に話しかけないで。私、何も話さないから」
これは賭けだ。
私が言葉を発しなければ奴らに気づかれることはないはず。
隙を見て逃げられるし、駄目だったらだめだったらでペルソナをカード化させて戦う。
彼らを逃がすチャンスも作れるはず。
安定性がないのが不安要素だけどやるしかない。
雨宮君は私の言葉が理解できなかったらしい。
「は?」
「いいから復唱!」
理解できなくても理解させる!
私の勢いに負けて雨宮君はしぶしぶ言葉を続けた。
「……中に入ったら話しかけない」
「オッケー、じゃあ行きましょう。あ、それとアドバイス。『死にたくなかったら反逆して見せなさい』」
「反逆?」
これにはますます意味が分からないと言った表情だ。
私の勘も五分五分なんだ。
私は彼の背をぐいぐいと押して「とにかく反逆すること!さぁ、行った行った」と中へ押し込むように進ませた。
【やっぱり予想通り取っ捕まりました。私以外は】