笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。   作:サボテンダーイオウ

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雲の上からスーパームーン

あら、こんにちは!

 

わざわざ待っててくれたの?

 

嬉しいわ、ここ最近あの子に全然構ってもらえなくて寂しかったの。

いつもやってるテキサスクローバーホールドをしてもぜんぜん痛がらないのよ?

普段だったら「やめれっいででで!!」とか悲鳴上げてるのにそれそらもないどころか、「これもあの子にやられてると思えば屁でもないぜ、……昇天しそう…」なんて恍惚とした表情でうっとりしてるんですもの。

何処かで拾い食いしたんじゃないかって心配で心配で、つい友人に相談してみたのよ。そしたら「いくら私が天才科学者でも恋を治す薬は作れないわよ。惚れ薬ならちょちょいと作れるけどね。いるの、アンタ?高いわよ」っていうんですもの。

 

でも私、しばらく恋愛はしなくてもいいから断ったわ。

私の一番はあの人だけだから……。

 

そう、今はそれよりも私の息子がついに恋をしたことよ!

 

今まで私の傍を離れなかったあの子がついに大人への階段を上り始めた。

 

何処のお嬢さんなのか気になってしまうなんていけない母親ね。

でも知りたい気持ちを抑えきれなくて、ついに実行してしまったの。

 

コソコソとスカーフをどろぼうかぶりしてあの子に気づかれないように後を追ったの。そしたら、なんと!

 

―――国のお姫様だったのよ!あのお顔は忘れはしないわ。

ええ、可愛らしいお顔立ちをしていらしたけど、それよりも一番印象に残っているのは、二つに分けて両サイドのリボンで結んでいるツインテール。

あれはツインテールよりもツインドリルという表現の方が似合っているかもしれないわ。

それは見事な縦巻ドリルで若い女子たちの熱い羨望を受けていらっしゃったもの。

それにしても……。

 

お忍びでこちらにいらしているのかしら?

それにしては護衛の姿も見当たらないようだし。もしかして、退屈な王宮暮らしに飽きてスパイス程度のスリルと甘酸っぱい出会いを求めて城下町へ降りてらしたのかしら。

 

そして、裏路地へ迷い込んでしまった王女が

 

『げひげひ、強そうな縦髪ドリルじゃねぇか。大人しく置いてってもらおうか?』

 

なんて賊連中に絡まれ身ぐるみ剥がされ簀巻きにされるかもしれないところ、偶然うちの息子が

 

『少し待たぬか悪人どもよ!』

 

なんて叫んで通りかかり、ダブルラリアットで数人を弾き飛ばして掃除しつつ、卑怯にも王女を盾にしようとした愚か者にはボディプレスで不意をつき、驚いた賊が王女を投げ捨て逃げようとするも、息子の動きが早くスクリューパイルドライバーで一撃必殺!

 

『貴方様は命の恩人ですわ。この縦髪ドリルは我が国の秘宝ともいうべき大切な品……。どうかお名前をお聞かせ願えませんか?』

『いいえ、俺はただの通りすがりのさすらいプロレスラー。それでは!』

『ああ、お待ちになって!プロレスラーの君っ』

 

二人の出会いはここから始まり。それから偶然にも二人は思わぬ再会を続ける内に、想いあう関係となるのよ。

 

はっ!?もしかして、禁断の、恋!?

 

身分違いを憂える二人にはいずれ悲しい別れが待ち受けているのよ。

そうなる前に、二人で来世を共にする約束をして命を……!?

 

いけないわ!二人の愛が本物であることを証明しなければ!

何か手立てがあるはずよ、そうきっと……。

身分違いが障害となっているのなら、あの子の身分は私が保証できるわ。

だって、あの子はあの人と私の息子ですもの。王女が相手ならば身分では文句はないはず。ああ、でもこれはダメね。あの人に迷惑をかけてしまうし。無駄な世継ぎ争いに巻き込みたくないわ。……お父様に一度お願いしてみようかしら。

でもあっちでは私は死んでることになっているから、なんとなく気まずいわ。

実はドッキリでした!って看板持って里帰りしてみようかしら。案外皆明るく受け止めてくれるかもしれない……。一度友人に相談してみようかしら。

 

……?あら、ごめんなさい。

私一人でお喋りしてしまったわね。天使さん。

 

息子の話はいいから昔話してくれ?ええ、わかったわ。

 

それでどこまで話したかしら?

ああ、あの人が結婚するっていうところだったわね。

……そう、あの人は別の女性と結婚することが決まったの。あの人を助けた女性ですって。……ショックだったわ。三日三晩枕を濡らして眠ったの。それでも私の心は曇ったまま。あの人はその女性こそが自分を助けた乙女と信じて疑わなかった。

 

私は、ここにいるのに。あの人は私ではなくあの女性を選んだ。

 

辛くて、苦しくて、どうにかなりそうだった。

泡のように消えてしまいたかった。でも、そうなる前に思い出が欲しかった。

忘れられないほどの、思い出が。

 

だから、私はあの人を誘い出してベッドに押し倒したの。

 

思い出が欲しい、ってお願いした。

 

あの人は、私の想いを拒まず、その時だけ、受け入れてくれた。

共に過ごした一夜限りの夜は今でも覚えているわ。忘れられない――。

 

……うふ、ちょっと天使さんには早かったかしら。

 

それから、一か月くらいして船上で盛大的に二入の結婚式をすると教えられたわ。

私も一緒に来てほしいと言われて、私、断れなかった。幸せそうな二人を見ているだけで辛いだけなのに、どうして結婚式まで?

 

気が狂いそうになったりしたわ。

それから体調を崩すようになって食欲も無くなってしまったの。

あの人の強い勧めもあって有名なお医者様に見てもらったら、心底驚いたわ。

 

私のお腹に、小さな命が芽生えていたなんて。

 

勿論、お医者様にはあの人にはもちろん公言しないようお願いしたの。お医者様も勘が鋭い方でお腹の子が誰の子なのか、すぐに察知したわ。私の身を案じて仮住まいを用意してもいいとさえおっしゃってくださった。

私は、そのお誘いにすぐには頷けなかった。

 

せめて、あの人が幸せになる瞬間だけでも見ておきたい。

 

それからあの人の前から消えるのも遅くないって思ったの。

だから、妊娠していることは誰にも気づかれないよう、最大限に注意して結婚式の日をひたすら待ち続けた。

 

……ふぅ、今日はここまでにしましょう?

 

ごめんなさい、ちょっと疲れてしまったの。

なんだか、あの頃の悲しさを思い出してしまって。

 

……大丈夫かですって?ええ、大丈夫よ。

優しい天使さん。ふふ、また貴方が良かったら話してあげるわ。

 

「母さん、腹減ったから帰るよー」

 

あら、もうそんな時間なのね。

じゃあ、また今度、ね。

 

【またまた続く】

 

※※※

 

金髪男子と雨宮君は衛兵型シャドウに捕まってしまい攻撃を喰らって意識を失い引きずられて地下牢へごあんなーい。私の予想は見事的中し、シャドウに気づかれることもなかった。……薄情者というなかれ。出会って一週間にも経たない人間のために自ら命張るような犠牲心は持ち合わせていない。少し痛い目にあって人生経験積むのもいいことだと思う。身をもって知ったほうが後々彼らの為だ。

知らないところへは気軽に足を踏み込んじゃいけないってね。

さて、私は奴らの後を追うことにした。息を潜め、壁に背をピタリと張り付けて敵の様子を探りながら地下へ地下へと進み、ある地下室で彼らがぶち込まれるのを待つ。

衛兵たちが立ち去るのを確認し、檻越しに気絶している彼らに声を掛けた。

「おーい、おーい!」

 

「「……」」

 

だが残念。生身でシャドウの攻撃を受けたのだから起きるにしてもすぐは無理か。

これ以上大声は出せないから、別の手段を用いるしかない。

とりあえず、辺りを見回して投げれるものかないか確認する。……ないみたいだ。

だったらとポケットに入っていたソウルドロップを器用に檻の隙間から彼らに思いっきり投げつけた。雨宮君に。一個しかなかったので金髪男子にはハリセンを投げた。どうやってハリセンがポケットに入ってたかって?そこは乙女の秘密である。

 

「いて!」

 

「あた!」

 

ナイスコントロール!

私が投げた飴とハリセンは彼らの頭にコン!ばしーん!と当たり石畳の床に転がる。

まずは金髪男子が体を起こした。

 

「いってぇ……、なんだここは!?…ん、なんでハリセン?」

 

「ここは……?」

 

次いで雨宮君がベッドからお目覚めに。雨宮君は飴がhitした部分を痛そうに抑えている。結構力強く投げちゃったからな。……黙っておこう。

 

「お目覚めかしら、お二人さん」

 

私は二人にひらひらと手を振った。

 

「あ!佐倉朔……お前は捕まらなかったのかよ」

 

フルネームで呼ぶな!

 

怒鳴りそうになったのを堪えて堪えてできるだけ声を小さくして話した。

 

「お陰様で助かりました。…雨宮君、大丈夫?」

 

「朔、無事だったんだな。良かった」

 

ベッドから降りた彼は檻側までやってきて私が無事な様子を確認するとほっと息をついた。起きて開口一番にそれとは、さすが慈母神だ。

ああ、感心してる場合じゃなかった。ハッと我に返った私は鉄格子越しに雨宮君によく聞いてと真剣な表情で言い聞かせた。

 

「それよりすぐここから出なきゃいけないわ。あいにくと鍵はさっきの衛兵が持っているみたいだから自力では無理だわ。だから心構えというかアドバイスを送る」

 

「アドバイス?一体何なんだよここは!?アイツラなんなんだよっ!」

 

だが私の態度が気に入らなかったのか、金髪男子が睨んで檻越しに怒鳴ってきた。

これは激怒状態じゃないか。思いっきり後頭部ハリセンで叩いてやりたい衝動に駆られたが、今は後回しだ。私は、とにかく黙らせようとした。

 

「馬鹿みたいに大声を出さないで。言ったはずよ、すぐにここから出なきゃいけないって。それともそのお耳はお飾りなだけ?」

 

多少嫌味を言わせていただきましたけどね。さっきからフルネームで呼び続けてる仕返しだ。そしたら、わかりやすく彼は怒りの矛先を私に向けてきた。

 

「お前っ!」

 

「やめろ」

 

けど、雨宮君が華麗な動きで金髪男子の後頭部にハリセンをお見舞い!

 

パシーン!

「ってぇ!」

 

耳に心地よいハリセンの音が牢屋内に響いた。

 

「雨宮君、それの使い方、わかるの?」

 

「うん。なんとなく。コレで叩けばいいんだろ?」

 

「……うん、そうだけど」

 

一瞬でハリセンの用途を理解するなんて、どうやら彼の器用さは超魔術のようだ。いや、普通に叩けばいいだろって思うだろうけどこれ一応戦闘用だからね。普段用じゃないから。

 

優しさ、度胸に続いて器用さMAXだなんて……。チート的な人間が今、私の目の前にいる。これは湊兄の再来!?もしや、私と同じ『ワイルド』……。うむむ!

 

「ハッ!?今はワイルド関係ないし!」

 

「ワイルド?」

 

「いいから、よく聞いて!今私が」

 

と言いかけた時、ガショガショと鎧の音を響かせながら奴らがこちらにやってくる気配あり。これはヤバイと悟った私の行動は素早かった。

 

「ああ~、間に合わなかった。雨宮君、私隠れるからとにかく諦めちゃダメ、反逆することだからね!忘れないで、貴方が自分で反逆しなきゃ世界は変わらないままなんだから!」

 

「反逆?」

 

「じゃ、よろしく!」

 

言うことは伝えたのでささっと近くの物陰に隠れた。すると、まもなく衛兵を伴って裸の王様自らが罪人の顔を覗きにやってきた。出歯亀根性丸出しである。

何やらごちゃごちゃと罵り合いが始まったらしい。騒がしくなってきた。

 

いざとなったら乱入する覚悟もあるけど、やはり雨宮君が覚醒するのを待って飛び込んだ方がいいかもしれない。これは彼自身が決めなくてはいけないことだから。私は暴力を受ける金髪男子と雨宮君のうめき声に突撃したいのを我慢してその瞬間を待ち続けた。

すると、すぐ後ろで聞きなれた声がした。

 

「案外彼は大丈夫じゃないかな。結構タフそうだし」

 

「そうそう、チート男子じゃないかって疑って……」

 

私は会話の途中でハッと我に返りバッと後ろを振り返る。

 

「やぁ、朔」

 

「りょ、じゃなくてファルロス!?」

 

なんとそこには、喧嘩別れして朝いなかったはずの怪盗ファルロスが手をあげてにこやかに立っておりました。

突然の出現に気まずさも何も吹っ飛んでしまった。

驚愕する私に、ファルロスは口元に指先を当てて静かにと合図を送ってきたので慌てて私は口元に手をあてがって周囲の気配を探った。

どうやら、向こうには気づかれていないらしい。ほっと安堵し改めて声を潜めてファルロスを見やった。

 

「なんでここに?」

 

するとファルロスは

 

「ずっといたよ。朔の後ろに。朝からね」

 

あっけらかんとストーカー発言を暴露してきた。

呆ける私に、ファルロスは当たり前のようにこう言った。

 

「へ?」

 

「僕が朔から目を離すわけないだろう?ちゃんと気配消してくっ付いてたのさ」

 

綾兄にとって昨日の喧嘩はじゃれ合いみたいなものらしい。

全然気にしていないどころか、たまには兄妹らしくて張り合いがあっていいねなんて喜んでいる。喧嘩というより私が八つ当たりしていただけだったんだけど。彼にとっては、別らしい。もう、綾兄の器がデカすぎて自分が情けない。

思わず私はその場にしゃがみ込んで顔を両手で隠した。

 

「……」

 

「危なかったら手を出そうと思ったけど、召喚機なしにここまで頑張ったね」

 

綾兄も同じようにしゃがみ込んでよしよしと私の頭を撫でて褒めてくれた。

 

「もう、反則。そこで褒めるとかありえないし」

 

「うーん、これでも朔の兄だしね。頑張ったらちゃんと褒めてあげないと」

 

これだから女たらしと言われるんだ。でも、そんな綾兄が好きだ。

 

「……ありがと……」

 

「うん」

 

ほのぼのとした雰囲気が私と綾兄の間に漂い始める。

 

が!よくよく考えればそういうことしてる場合じゃない!

 

私は勢いよく立ち上がってファルロスに手を差し出した。

 

「今それどころじゃなかった!ファルロス、召喚機貸して!雨宮君が危ないから!」

 

「ああ、彼か。でも覚醒したみたいだよ」

 

「は?」

 

呆ける私にファルロスは雨宮君たちがいる牢屋を指さした。

 

「だって牢屋から出てるみたいだし」

 

「え!?」

 

いつの間に。

牢屋の方に向き直れば確かに雨宮君と金髪男子が無事牢屋から脱出してしっかりと鍵をかけて駆けだしていくところだった。どうやらファルロスと仲直りの会話している間に無事に反逆することに成功したみたい。しかもちゃんとカモシダシャドウを閉じ込めている。よくやった!と拍手を送りたいところだ。

 

でも、はて。よく考えてみると、

 

「……私、忘れられてますよね~」

 

「だね。まぁいいんじゃないかい」

 

いやよくないよ!とツッコミ掛けようとしたが、ファルロスは唐突に手慣れた手つきで私を軽々と抱き上げた。

 

「わっ!」

 

「彼らより先回りしておかないとマズいかもしれないからね。それに、モナを見つけたんだ」

 

「モナいたの!?」

 

思わぬ朗報に綾兄の首を締め上げそうになった。っていうか絞めてた。

 

「朔、苦しいから……うん。地下牢で捕まっていたよ。朔を連れてから助け出そうと思って」

 

「急いで助けに行かないと!」

 

もう私の頭からは男子二人のことなどすっかり飛んでいっていた。

何よりもモナが大事!

 

「彼らが走って行った方にモルがいるんだよ。だから彼らより先にモナと接触しないと、ね」

 

「超特急でお願いします!」

 

「了解」

 

ファルロスに抱き上げられて私は文字通り超特急で彼らよりも先回りし、モナの所までたどり着くことができた。どうやって行ったかって?そこらへんはファルロスの力でしょうなぁ。目を瞑っててと指示されたので言われた通りに瞼を閉じてまもなく「開けていいよ」と言われたので瞼を開くと、モナが囚われている牢屋の前に移動していたんだから。ミラクル。

 

私の目の前には喧嘩別れしたモナの姿があった。

ベッドで横になっているようだが、動かない。寝ているのか、それとも……。

最悪のシナリオが頭をよぎり私はたまらずに鉄格子にしがみ付いて

 

「モナ!」

 

と悲鳴に近い声で呼んでしまった。

まさか、この檻の向こうでモナはもう……!?

 

「……ん?……サク?」

 

モナは私の声に反応して体を起こした。

最初は信じられないといった表情で錯覚でも見てるとでも思ったのか、目をゴシゴシとこする仕草をした。けど私が再度「モナ」と声を掛けると、私がちゃんと目の前にいることを認知して転がるようにベッドを降りて私の所まで駆け寄ってきた。

 

「サク!ファルロスもか!」

 

見た目にはそんなに変化はないようで私は安心のあまり腰を抜かしてしまった。

 

「良かった、無事で……。心配させまくってぇ」

 

感極まって目を潤ませ声を震わせる私にモナはわたわたと慌て始め「な、泣くなよ!」と困った顔をした。ファルロスは苦笑しながら朝あったことをモナに説明した。

 

「君がいないと朔が起きれないみたいだからね、今日は遅刻しそうになったし」

 

「ファルロス……、サク。ホントに来てくれたんだな……」

 

モナも喧嘩別れしたことを悔いているようだった。

私は、正直に今の気持ちを伝えた。モナは鉄格子を握る私の手に自分の柔らかな手を重ねた。

 

「モナ、私、モナがいないと起きれないよ……。だから帰ってきて」

 

目覚まし代わりに帰ってきてくれなんて馬鹿らしい頼み方だけど、私にはそれくらいモナが大事。スマホのアラームとかで代用できるレベルじゃなくて毎日の一瞬一瞬にモナがいて欲しい。なんならずっと一緒に居て欲しいくらい。

懇願する私にモナは照れくさそうに鼻先をこすぐって、

 

「……ったく、仕方ねーな!ワガハイがいないとサクはてんでダメだからな!」

 

と笑ってくれた。私は嬉しくて何度も頷いた。

 

「…うん!」

 

やっぱりモナがいないと私はダメだ。綾兄も同じ。

この三人でこれからも一緒にやっていきたい!

ファルロスは満足そうに一つ頷いた。

 

「これで、仲直りだね」

 

「うん!」

 

私も同意してすぐにぶら下げてあった地下牢の鍵を使い、牢屋を開けた。

モナは牢屋から出るとぐーんと伸びをして「シャバの空気はうめー」とか言ってる。ああ、モフモフ禁断症状が出てしまう。すでに私は手をワキワキさせてはぁはぁと荒い息をしていた。傍から見たら変態モードである。

 

「朔、今はダメだから」

 

「はっ!?」

 

ファルロスに釘を指され今の現状をしっかりと思い出す。くっ、残念だけど現実世界に帰ってから思う存分モフモフさせてもらおう!

 

よし、モナは助けたから早く脱出してモフモフしないと……。

はて。そういえば何か、忘れているような?

 

私はコテンと首を傾げてファルロスに尋ねた。

 

「なんか忘れてるような?」

 

「あの男子二人だろう?」

 

苦笑しながら教えてくれるファルロスに、私はああそういえばと納得。

 

「あ、そういえばそうだった!?大丈夫かな、雨宮君……」

 

いかにペルソナに目覚めたとは言え、まだ扱いに慣れていないはず。

すぐに合流しないと……。

 

モナが不思議そうな顔をして問いかけてきた。

 

「?……誰のことだ?」

 

「私以外にもこっち側に入ってきちゃった男子二人がいるの」

 

私が軽く説明するとモナは飛び上がって驚いた。

 

「なんだって!?生身でか?」

 

「うん、でも一人はペルソナに目覚めた。彼らと合流するつもりなんだけど」

 

と私が答えると、モナはしばし思案顔で考え込んだが、すぐに私に

 

「……サク、お前は先に現実世界に帰れ。ワガハイがその少年二人と一緒に脱出する」

 

と指示してきた。

 

「え!?なんで」

 

「だって学校、ヤバイんじゃねぇか?さっき遅刻しそうになったって言ったよな」

 

「……そうでした…」

 

モナに言われるまで忘れてました。私、今現在遅刻中なんだよね……。

 

「惣治郎さんに怪しまれる、ね」

 

「……ヤバイ、言い訳が思いつかない……どうしよう…!?」

 

おじさんが怒るとそれは滅茶苦茶怖いのだ。情けなくも頭抱えて呻きだすしかない。

どうするよ!?男子二人見捨てるしかないのか?いや、それだけはダメだ。

無関係な人間を不本意とはいえ巻き込んでしまったのだ。彼らを無事現実世界に戻すまでは帰れない…。

 

「モナの言う通りだね。ここは先に帰らせてもらおう」

 

「でも、モナだけじゃ……」

 

信じてないわけじゃないけど、どうにも心配で仕方ない。私の不安を感じ取ったのか、モナが自分の胸をドンと自信満々に叩いて、しっかりとした声で言った。

 

「ワガハイはもう大丈夫だ。ヘマはしねぇ。必ず無事に帰るぜ」

 

「……モナ」

 

「サク、信じてくれ」

 

モナの真剣な表情に何も言えなくなってしまった。

卑怯な、ここで嫌だなんて言えないじゃないか。

 

「……わかった。あっちで待ってる。ちゃんと二人と一緒に帰ってきてね」

 

「おう!」

 

男子二人はモナに任せ、私はファルロスに手を引かれて城門前へと急いで向かい無事に現実世界へと帰ることができた。しかし、問題は残っていた。

遅刻、という現実が!

 

だが!そこは大丈夫。

ささっと校内に入り、保健室であるお願いをしてから教務室へ。ちょうど授業が終わった川上先生の元へ行き、いかにも具合悪いですという風を装って事情を説明した。

 

「先生、実は登校中に気分が悪くなってしまって……保健室で少し休んでいたんです」

 

「ああ、貴方の体の事情もあるしそれは仕方ないわ。ついさっき安藤先生から連絡もらったし。……ったく連絡し忘れたとかあり?職務怠慢じゃん…。あ、ごめんごめん。なんでもないから」

 

勤務仲間への悪態づく先生の姿に心の中で安藤先生に土下座するしかなかった。

私は軽く頭を下げて教務室を退室し自分の教室へと向かった。

 

どうやって遅刻回避を成し遂げたか?

 

実は保健室の先生とは色々と気心知れた仲なので今日の遅刻の件は口合わせしてもらうようお願いしたのだ。勿論、タダじゃない。……貢物を用意せねば……。

 

何が欲しいと尋ねたら、「限定リカバーオイルで」と来たものだ。

それって駅地下モールにあるコスメショップの限定アイテムじゃん。相変わらず目ざとい先生。大体先生に貢物するときは限定ものと限られている。先生曰く、限定物という言葉に弱いらしい。千差万別、か。

 

さっそく今日の帰りに買いに行かなきゃと頭の隅に置いといて私は教室の扉を開く。

途端こちらに集中するたくさんの視線と先ほどまでの賑やかな声も静まり返る。

 

女子とか男子とかわざと言っているとしか思えないくらい会話がもろバレ。

 

「……あ」

 

「……来た来た…。ビッチが」

 

「良い御身分だよな。教師の御墨付ってのは」

 

妬みや嫌味、悪口に邪険な態度。ああ、もっと来い来いって感じ。

だけど陰湿な虐めなどはないからまだいい方か。だってそんなの実行してたら綾兄が何か裏で仕掛けているだろうし本人も無事じゃすまない。

 

私は気にしない。

 

他人に何かを言われてへこんでいた弱い私はもういないのだ。

 

さっさと自分の席目指して歩きドカッと座ってカバンを置き机に突っ伏して寝る。

寝れないけど寝たふりでもしとけば話しかけられることもないし、授業中当てられることも割と少ない。

 

少し、休もう。

ずっとあちらで神経使って行動してたんだ。

体を、休めないと……。

 

喧噪の波から徐々に意識を混濁させて私は瞼を閉じる。

 

夜は、また動かなきゃいけないから――。

 

 

「朔」

 

トントンと軽く誰かに肩を叩かれている、様な気がする。気安く名前で呼ぶな。

 

大丈夫、気のせいだから。

 

「朔、授業終わったよ」

 

さらに続く目覚まし時計。

 

あれ、私目覚まし掛けたっけ?いや私の目覚ましはモルだから大丈夫。

少し腕を動かして手で追い払う仕草をする。これで大丈夫。目覚まし逃げた。ばいばい。

 

だが気配は一向に消えはしない。目覚ましの癖に偉そうな……。

ちょびっとだけイラッときた。

 

「……モナ、どうやって起こすんだ?」

 

『まだ人目があるからワガハイは出れないぞ』

 

「うーん、屋上でアイツが待ってるからな。できれば一緒に来てほしいけど。あ、あっちで使ったこのハリセンで起こしてもいいか」

 

『それはやめとけ。サクが別の意味で怒る。……ほかに手がないわけじゃない』

 

「なにかあるのか?」

 

『この手はあまり使いたくないんだがな、仕方ない。フルネームで呼んでみろ』

 

「フルネーム?……わかった。えーと、佐倉朔。素直に起きろー」

 

棒読み口調だが私をイラつかせるだけの理由にはなった。

 

「だからフルネームで呼ぶなっ!!」

 

苛立ちからついにブチ切れた私は思いっきり机をドンと叩き、怒鳴りながら立ち上がった。そこに誰がいようと叩き落としてやるぐらいの勢いだった。が、そこには。

 

「あ、起きた」

 

『だろ』

 

「……」

 

「おはよう、朔。もう夕方」

 

「あ、雨宮、君?……え、なんで?」

 

そこには目覚ましがいた、ではなく、呆ける私の前で手をひらひらさせて微笑む雨宮君が立っていた。彼のカバンの中にはモルのピンとしたラブリーな耳が見え隠れしている。

 

無事だったこと、もう夕方だということ。まばらだが教室にはまだ生徒がいて私が怒鳴ったことで何事かと視線を向けていること。注目を浴びている一人である雨宮君はまったく気にした態度もないこと。彼の片方の手には白いハリセンがあること。なぜカバンに入れないのか。あ、そうかモルが入ってるから。でも別に手で持たなくていいじゃないか。

それにさっきハリセン使うかとか言いませんでした?一応それ戦闘中に使う奴なんですが。

 

ちょっと情報が一気に頭になだれ込んできてすぐに情報処理が追い付かない。

だというのに、雨宮君はさらに私を追い詰める一言を投げてくる。

 

「朔と一緒のクラス。一年間よろしく」

 

「あ、ははは……」

 

もう、乾いた笑いしかでませんよ。なぜかって?

 

住むところだけは妥協した。私だって困るから。

名前呼びも朝ビンタかましてしまったので泣く泣く許した。

カモシダ・パレスのことだって流れで仕方なく入ったよ。彼にペルソナ使いの兆しがあったから。

 

でもクラスまで一緒とかなんのフラグですか?

 

すでにライオンハート、超魔術、慈母神のスリーパーフェクトな彼と何処まで一緒なのですか?さすがにお風呂までは一緒とか。あ、そういえばうち、銭湯だった。人生詰んだ。いやお風呂の時だけ佐倉家に帰るか。でも銭湯の方が広くていいんだよね。いやそこだけが問題じゃない。

 

「は、ははは」

 

住むところも一緒。学校も一緒。クラスも一緒。あっちの世界での秘め事も共有していること。同じペルソナ使いであること。も、ね。疲れた。

 

もう、色々とパンクしそうです。湊兄。

ちょっと現実から逃げてもいいかな。

 

私の中の湊兄がきらっきらな笑顔でオッケーくださいました。

 

『たまにはいいよ』

 

ですよね~。

 

ので、ここはふらっと気絶させていただきました。

 

「朔!?」

 

『んな!?』

 

横にふらっと倒れる私に度肝抜いた雨宮君が反射的に伸ばす手がゆっくりと動いてみえたがその後どうなったかはわからない。そこから私は意識を飛ばしてしまったから。

 

【起きたらベッドでした。が、真っ先に雨宮君の顔が真横にありましてビンタかましました。】




仲良し親子の会話。

息子「母さん、何暗い顔してんの」

母「大丈夫よ」

息子「母さんの大丈夫は信用できないね」

母「……ちょっと貴方のお父様のこと、思い出したのよ」

息子「……」

母「お腹空いたでしょう?早く帰りましょうね」

息子「……オレに父親なんかいねぇよ」

母「……」

息子「オレは、母さんとおばちゃんがいてくれればそれで楽しいからいいんだ。だから父親なんて言うな」

母「……ごめんなさい……」

息子「なんで謝るんだよっ!」

母「……ごめん、なさい……」

息子「……帰る、……ほら、手出せ」

母「…え」

息子「手、繋がねぇと迷子になるだろうが」

母「……ええ、そうね」

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