笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。 作:サボテンダーイオウ
最近母さんの様子がおかしい。
おばちゃんのお得意先への薬配達にくっ付いてくるけど目を離すと一人で迷子になってる。これはいつものことだからなんてことはない。夕飯もオレが作るから問題ない。
これは母親なのにどうかと思うが、母さんが作ると奇天烈料理になるのでオレが作れとおばちゃんにキツク言われている。これもいつものことだ。
問題はオレがいないときのことなんだ。
ある友人からお前の母ちゃん、壁に向かって一人で喋ってたぞ、なんて教えられた時はその言葉の意味が分からなかった。どうせ与太話だとまともに取り合わなかった。
でも、その言葉の意味を知ることになるなんて誰が想像するかよ。
誰もいないところで一人で楽しそうに喋ってる姿を見てしまった時。
オレが瞬時に考えたのはあのおばちゃんがついにぽややんな母さんにムカついて一服盛ったんだって。
だから母さん家に連れ帰って速攻おばちゃんとこ殴り込んだ。でもおばちゃんはオレの問いに
「この今をときめく天才科学者におバカな友人に一服盛ってる暇あったら男を女に変える薬でも作って浮気旦那に悩まされてる妻たちの復讐心に付け込んで高額で売りつけガッポリ大儲けしているだろう。アンタで試してみてもいいぞ。試作品995号で」
と一喝してきっぱり否定した。オレは「実験にオレを使わないでください」と土下座するだけで精一杯だった。ぷるぷる、まだ男でいたい。
片想いの彼女に、「急に女になりました!友達として付き合ってください!」なんて衝撃的告白したくない。大体おばちゃんの薬の実験体なんて今までろくな経験がない。
髪をふっさふさにする薬とか言って無理やり飲まされた挙句、波平スタイルの髪形になった時は一生引きこもりになるんじゃないかと思ったし。
他にもいろいろあってオレの中じゃ軽くトラウマだ。
おばちゃんには逆らうなとオレの本能が強く訴える。そうだ、オレは普通でいい。
……普通でいい。
母さんとおばちゃんがいてくれればいい。
下手すりゃオレと同い年に見えちまう若い母さんとずっと見た目が変わらないおばちゃんだけどオレの家族はこの二人だけだ。きっとおばちゃんの怪しげな薬の副作用とかで若作りできてるだけなはず、と信じたいぜ。
……きっと母さんの様子がおかしくなったのはオレの父親の所為だ。
けどオレには父親はいないって思ってる。母さんはソイツのことをずっと忘れられないみたいだが、身籠っている母さんを残してあっさり死ぬなんて根性足りてねぇ。
おばちゃんがいてくれたから今のオレがいる。母さんだってそうだ。
ぽややんな母さんはいいとこのお嬢様らしく家事なんて一切やったことない人だ。オレを育てるときだって冷や冷やしたっておばちゃんはのちに教えてくれたし。
それでも不器用な母さんなりに一生懸命ここまでオレを育ててくれたんだ。
それは父親のお陰じゃない。それだけは確かだ。
よし、今日は母さんの大好きなアレを作って元気づけてやるか!
夕飯づくりに意気込んだオレは、籠片手に材料買い出しに出かけた。
そしてオレの値切り交渉で獲得した満足のいく材料を手に入れて家に帰宅すると、台所で暗い表情のおばちゃんが珍しく部屋から出ていて、紙を片手にオレに「…おかえり」と言った。オレはテーブルにドカッと籠を置いた。
「……どうしたんだよ、実験でも失敗したのか」
「……ったく、あの馬鹿が」
吐き捨てるように呟くおばちゃんの眉間に深い皺が寄っていた。明らかに不機嫌状態。
「…だからどうしたって」
「実家に帰った」
「……は?」
ほらと、手渡された紙をオレは奪うようにひったくった。
そして見慣れた母さんの文字を目を皿のようにしてみた。
そこには、しばらく実家に帰るということ。
心配するなという趣旨の内容が書いてあった。
オレは呆然とするしかなかった。
「だから、自分の実家に帰ったって。ずっと音沙汰なかった実家に」
「……なんだよ、それ」
意味が、わからなかった。
母さんはオレを身籠ったから厳しい家を飛び出てきたって。
それっきり母さんは実家とは縁を切った生活をしてるっておばちゃんが言ってたはずだ。
それがなんで、急に?
おばちゃんは頭を抱えて椅子に座り込んだ。
「まさか、こんな突拍子もないことするなんて私も思わなかった。てっきりずっとこっち【陸地】に移住する気でいるかと思ってたのにさ」
「おばちゃん、その母さんの実家ってどこ。教えて」
「……教えて、でアンタはどうするつもり」
「連れ戻す」
「無理だ」
おばちゃんは即答した。オレは食って掛かった。
「なんで!?だって今まで音信不通だった親戚だろ!?あの母さんが突然訪問したって歓迎なんかされるわけねぇじゃんか!」
オレの剣幕におばちゃんは怯むこともなく言った。
「だからってアンタがしゃしゃりでても仕方ない」
「なんだよ!やってみなきゃわかんねーだろうがっ!」
「……」
「オレは母さんを連れ戻す。だから場所を教えてくれ。いや、教えてください!」
オレはおばちゃんに頭を下げて必死に頼んだ。だがおばちゃんの答えはNoだった。
「無理」
「なんでだよっ!?」
おばちゃんは深いため息をついた。
「……泳げないだろうが、お前は」
「今関係ないだろうが!」
悪いか泳げなくて!どうせオレは男の癖に泳げねぇよ。
でもそれとこれとは全然関係なしだ。
「問題大アリだこの馬鹿」
「あ?」
「お前のの親戚が住んでるいるのは海の奥深く、つまり海の底だ。カナヅチでは到底たどり着けまいさ」
どうやら耳が詰まって良く聞こえないようだ。
オレはおばちゃんと再度頼むことにした。
「………もう一回、言って」
「海の中」
答えは変わらない。
海の中、海の中。
そんな地名あったっけ?
「言っとくけが、地名じゃない」
おばちゃんはオレの心を読んだかのようにズバリ指摘してきた。
「昔からこの辺に語り継がれてる話知ってるだろう。恐ろしいローレライの話」
「……片っ端から船沈めまくった最恐最悪のローレライだろ。歌が聞こえたら終わりだって」
「それお前の母さんの仕業」
「……はい?」
「あの子、上の姉貴たちと競って遊んで船沈めてたらしい。理由が理由なだけに何も言えなくなったけど」
「あの、話が見えないんだけど」
「まだわからないか、この阿保は」
阿保で悪かったな。母さんの息子なんだから仕方ねーじゃん。
「お前の母さん=ローレライ。人魚、マーメイド、セイレーンとも言われている。結構有名だぞ」
「……」
「んでアンタはローレライの血を受け継ぐ息子。泳げないカナヅチ人魚とも言う。分かったか?」
「……ちょっと外出て走り込んでくるわ」
「おう行って来い。運動馬鹿にはそれが一番頭に入りやすいだろうから」
オレはおばちゃんに見送られて外へ走りに行き、ハッと我に返り気が付けば隣町にたどり着いていた。へろへろになりながら自宅に帰るとおばちゃんは「何処まで走りに行ってた馬鹿もんが。お腹減った」とメシ作れコール。
オレはぼんやり料理作りながら、あの話はきっとオレを驚かせるための作り話なんだろうなと思えた。
だが、おばちゃんは無情にも、
「そういえばあの子迎えに行くなら泳げる練習しといた方がいい。なんせ相当深いから。私はあっちじゃ指名手配されてるからのこのこ顔出せないから行けないし。本気で迎えに行くなら覚悟しといた方がいい」
と頼んでもないアドバイスをしてきてオレを撃沈させた。
【人魚の息子とか、アリ?】
※※※
四月十一日。
下校時間――だけど私は保健室~♪
気絶して現実逃避した結果、雨宮君に保健室に担ぎ込まれたようで馴染みの安藤先生より目を覚まして健康チェック受けた時にサラッと嫌味で言われました。先生曰く、「噂の転校生が佐倉俵担ぎしてきたからつい高笑いしちゃったわよ!」ですって!聞きました奥様?そこでなぜ高笑い?
余計なお世話じゃ!とテーブルがあったらひっくり返しているところですわよ!
あいにくとテーブルひっくり返すよりも先に反射的に手が出ちゃってまして、私、ただいま平謝り状態ですわ。
「ほんとごめんさない!条件反射に男なら叩いちゃう習性がありまして」
「いいよ。わざとじゃないんだし。オレがびっくりさせただけだから気にしないでくれ」
私の横になっているベッドの脇に椅子を持ってきて座っている雨宮くんの左頬には真っ赤な紅葉が見事にくっきりと出てまして、その原因は私なんです。はい、前にも申しました通りパチリと目を覚ました時、すぐ顔上で雨宮君が私の顔を覗き込んでまして、あーはい。それでバチンとやってもうた。
ベッド脇の棚に置いてある雨宮君のリュックから隠れきれてないモルがひょっこりと顔を覗かせて突っ込んできた。
『習性ってなんだよ。野生児か?』
『はい!モル~。女子のハートを華麗に抉り取ったんで後でこちょこちょの刑~。おめでとう~』
『なんでだ!?』
私とモルのやり取りは雨宮君には聞こえてないみたいで不思議そうに首を傾げては「なんて言ってるんだ?」と尋ねてきた。
おっと、失敗。いつもの癖で会話してしまったようだ。私は付け足すように説明をする。
「ああ、そっか。これは私専用チャンネルみたいなものだからね」
「チャンネル?」
大雑把ないい方じゃわかりませんよね。でも詳しく説明すると専門用語が飛び出てきそうだから簡単に。
「テレビのチャンネルみたいなものだよ、私の波長とモルの波長が合うようにしてるの。それで普通に会話してなくても頭の中で意思疎通ができるの。……ゴメン、次からは普通に会話するね……。人のいないところで」
「ああ、そっか。ここ保健室だもんな」
納得したように頷く雨宮君はまだ気づいていないらしい。モルに目くばせするとコクンと頷き返した。やはりコレで分かりましたか。さすがモル。
「そーいうことです」
私はそう言うな否や、素早く後ろにある枕を手に取るとあるポイント、カーテン越しに狙いをつけて勢いよく投げつけた。
ばし!
「イで!!」
どうやらクリーンヒットしたらしい。枕を顔面に受けた相手はその場に座り込んだ。雨宮君が椅子から立ち上がってカーテンを思いっきり引くとそこには、赤くなった顔面を抑えてへたり込む一人の男子がおりました。
「いってぇ~」
「お前、屋上で待ってるんじゃなかったのか?」
心なしか呆れた様子の雨宮君に食って掛かる金髪男子は、
「お前が来ねぇから様子見に来たんだよ!教室行ったら保健室駆け込んだとか聞いたから慌ててきてやったってのに」
と怒鳴り返す。誰も頼んでませんがな。
そこにヘッドホンした安藤先生から「そこ五月蠅い!今いいとこなんだから黙りなさいっ!」とのお叱りの声が飛んでくる。パソコン画面にはドラマらしきものが放映されていた。学校で韓流ドラマ見てるのかい。この先生も学校で堂々としたもんだ。他にも色々やってそうでこれからもうまくやっていけそうな気がした。
ほらね。
誰が聞き耳立ててるか分からない、ということ。
ちなみに、なぜ彼がいるか分かったか。
単純なこと。足、見えてたから。
※
安藤先生により「病人じゃないなら秘密会議は他でしなさい」と保健室から蹴りだされた私達は仕方なく、最初の待ち合わせだった屋上へと移動することになった。階段上がりながら雨宮君から道すがら教えてもらったけどなんと、私が保健室で寝ていた時間はそんなに長くはなかったみたい。精々30分ぐらいだそうだ。
どーでもいいですけね。あー、しんどい。階段、しんどい。
億劫そうに階段を上る私を見かねて、雨宮君は手を差し伸べながらこういった。
「おぶるか?」
「結構です」
速攻お断りを入れて彼を抜かしてズンズンと階段を上る私。
どんだけ病弱設定なんだ私は。
雨宮君、お願いですからこんなところで、慈母神発動させないで。
保健室まで私を俵担ぎしたという事実を私に突きつけないで。明日には、きっと校内新聞のトップ記事を飾るほどに騒がれていると思うから。今はそっとしておいてほしい。
私の度胸は貴方の様にライオンハートではないのです。
屋上にたどり着いた私達は、進入禁止と紙が貼られたドアを開けて屋上へと出る。ドアが軋んで嫌な音を立てた。きっと普段から誰も入らないんだろう。その証拠に少し錆びていた。でも私はここの侵入者の常連なのですとは言えませんね。
それぞれ所定の位置につき、まず金髪男子がパイプ椅子に座ってお行儀悪く使われていない古びた机に脚を引っ掛けて少し椅子を地面から浮かしながら、
「来たな」
と言い出した。そこに私は「いや、皆で来たじゃない」とツッコむ。
「しょうがねぇだろ、そういう決まりになってんだからよ」
「なんの決まりだ」
雨宮君がそう尋ねると金髪男子は、真面目な顔でこういった。
「話の決まりだっつーの」
「それじゃあ仕方ないわね」
「だろ?」
決まりなものは仕方ない。物語には始めの流れというものがある。それをクリアしてこそ、先に進むのだ。例えるなら、裸の王様が最初から服を着ていたらそれはもう裸の王様ではなく普通の王様ということだ。最初が肝心。
「それで、お前ら。川上に言われたんだろ。俺に関わるなとかさ」
「問題児なのか?」
「いや、私は君がこの学校に在籍していたことすら知らないわ」
開き直ってそう答えると分かりやすくかみついてくる男。
「へっ、お互い様だろ?それとオメェ!いい方がいちいち癪に障るんだよっ!」
唾飛ばしながら怒鳴るだなんてまぁなんてお下品でザンショ!
こうも人の意見に真っ向から対決したがる人がいるとは世の中ってのは不思議なもんだ。
そして、私もそのうちの一人に当てはまる。気に入らなければ、叩き潰す。でなければやられる前にやられてしまうからだ。身をもって体験すればこその知識。これからも大切にしていきたいものだ。
「それはスイマセンね。なんせ初対面からの流れがああでしたんで。さっさと話し進めてくれない?早く帰りたいし」
髪の毛の先っぽをいじりながらそうぶっきらぼうに言い返す私。
あ、枝毛発見。やだ!最近ストレス続きだからすぐにダメージ受けちゃうのね。
これはメメントスでシャドウ狩りならぬ、刈り取る者狩りしよう。
「だったら黙ってろ!ったく、お前さ、前歴あるんだってな。聞いたぜ」
「ああ」
黙ってます黙ってます。
私いる意味なくない?モル、これどうよ。ムカつかない?
と専用チャンネルをカチッと合わせてモルに愚痴を零す。
男子たち?勝手にしゃべらせとけばいいわ。どうせ関係ないし。
「どうりで肝が太てぇワケだぜ。……あれ、何だったんだ。城で殺されそうになったやつ……。夢、じゃないよな?お前も、だよな」
「そうだな」
モルと回線が繋がって私の愚痴に似たようなもんだと呆れたように言うモル。
『サクととことん相性悪いみたいだな』
『でしょ!私もそう思うわ』
早くメメントス行きたい!刈り取る者狩りしたい!
お金がっぽがっぽ稼いで今後の資金の為に貯めときたい!
私は雨宮君のリュックからモルを取り出してむぎゅうっと胸元に抱きしめる。
『キツッ!』
『そんなこと言ってぇ、このこの!』
『馬鹿、痛いって』
何言いますか!美鶴さんみたいな世の男性らが夢を抱くような胸ほどはないけどそれなりに豊かに育っていると言えよう。サイズ?それはヒ・ミ・ツ。
「まぁ、一緒だから何だって話だけどよ……つか、夢とは言え鴨志田から助けてくれたよな?とりあえず、礼言っとくわ。雨宮」
「どうしたしまして」
男子二人が親睦を深めている間、私はひたすらモルを胸に抱き込んで愚痴を零す。
本人目の前にして堂々と言うこの快感と言ったら!病みつきになりそう。
『大体ズカズカと城の中に入って行ったのは誰よ?コイツでしょ?』
『いや、それは場の流れみたいなもんじゃねぇか?』
『それで捕まって騒いで殺される~とか言って情けなく悲鳴上げて?まだアイツに私の存在が気づかれてないからいいようなものを、あそこで気付かれてたら今後の計画がおじゃんだったわ!』
『けど助けないわけにはいかないだろ』
『わかってるけどさ!』
私だってそこまで鬼じゃない。けど誰だって行動には責任を持つべきじゃない?
思慮浅いから突然の問題にも回避できないのよ。………誰だってすぐに助けてくれるわけないんだから。こんな世の中じゃ、大抵仮面被って笑ってんだから。
「けど、あそこでみた鴨志田。……お前は知らないだろうがヤロウには噂があんだよ」
「鴨志田……」
「ほら、校門で会っただろう?ガタイのいいやつ」
「うーん?」
私の胸から逃げ出そうとするモルと嬉しい格闘していると、何やら金髪男子の説明にいまいちにピンとこない様子。しょうがない、助け舟を出してあげましょう。
「変態教師よ」
ピンポイントで教えてあげると雨宮君は頭の上に電球を光らせた。
「ああ!」
ぽんっと手を打って納得したようだ。
「そこで納得か!……バレー部の顧問だが元メダリストで、部も全国行ってっから誰も何も言えねぇ。あの城で『鴨志田が王様』とかそこが妙にリアルっつうか」
「だって実際裸の王様だし」
「あの城、また行けんのかな?」
「朔、行ける?」
ああ、ええ肉球やわ~。
と諦めて大人しくなったモナの肉球に和んでいたら肩をトントンと軽く指先で叩かれた。
私の癒しを邪魔する不届き者は誰だ!
「何?」
雨宮君だった!
「あの城にまた行ける?」
あー、カモシダパレスのことか。また懲りずにあっちに行きたいと?
学習しない男だな。
「あー、夢だ!夢に決まって「行けるわよ」……って行けんのかよ!?」
ビシィー!
坂本男子の華麗なツッコミスルーが炸裂した。
「生身ではお勧めしないわ。覚醒してる雨宮君なら大丈夫だろうけど……」
「……なんだよ」
気に入ら無さそうな態度だな。はっきり言ってあげましょう。
こういうタイプにはストレートにいうのが一番。
「アンタじゃ、奴隷になりに行くだけよ。可哀想だけど」
「あんだとテメェ!!」
机蹴り上げて椅子から立ち上がった金髪男子は、馬鹿みたいに怒鳴りつけて私を威嚇する。そこに雨宮君が間に入って、「やめろ!」と私を庇ってくれた。
「いいの、雨宮君。止めなくて、仮に私が殴られたとしても圧倒的に不利なのは彼のほうだし。女子生徒に乱暴……。今度は退学ね」
「て、めぇ!」
男相手だったら殴りつけてるかしら。辛うじて拳握っているままで耐えてるようだけどいつまで持つことやら。本当に殴られるまえに帰ることにしよう。
彼らは気づいていないだろうけど、ストーカーしてる綾兄が怒りに震えながらなんとか堪えている様子がビシビシと背中に伝わってくるのだ。モナも分かっているので私を抑えようと尻尾でぺしぺしと軽く叩いてくる。あ、癒される……。
「悪いけど、もう帰らせてもらうわ。……あれ、私の着信鳴ってる?モル、スマホ取って」
『待ってろ……』
そう言って私の肩に乗ったモルはそこから身を乗り出して私のリュックに顔を突っ込んだ。
『………物ありすぎだろ。何だコレ?』
「あった~?」
『ああ、もう少しで……!取れたぞ~』
ガシッとしっかりつかんだモナからスマホを受け取って、モナの頭を撫で繰り回してあげた。
「おー、ありがとう。これぞかゆいところにも手が届く孫の手ならぬ猫の手!」
「座布団一枚!」
「ありがとう~」
雨宮君の掛け声に手を振って応えた。ノリがいいな彼は。
私は彼らに背を向けて片手でひらひらと挨拶しながら、自分からリュックに収まったモルを回収してスマホの着信ボタンをスライドさせながら耳にあてがって「もしもし」と応える。この時点で、誰が電話してきているのかわかりません。
『朔、今何処だ』
「お、おじさん!?」
酷く狼狽した様子に慌てて両手でスマホを持ち替えてしまった。
『お前が倒れたって保健室の担任の川上先生から連絡もらってな。保健室で寝てるはずの朔を迎えに来たんだがお前の姿が見当たらなくて校内放送掛けてもらおうかって話してたんだよ。あと、あの雨宮の今日のことも含めてな』
「ああああの!ゲシュタルト崩壊が関係してまして」
『何言ってんだ?まだ学校内にいるんだろ。さっさと校門とこに来い。そこで待ってるぞ。……雨宮も一緒なら連れて来い。車の中で説教してやる』
ぶつっと切れた電話にどうやら今日はメメントスには行けない予感がして、がっくりと肩を落とす。
「雨宮君、お迎えきたから校門までダッシュして」
「おじさん?」
傍に寄ってきた雨宮君を見上げて頷けば、「わかった」と素直なお返事が。
そこまでは良かったんですが、流しそうめんを流すようにさらっとした流れで私の手を取った彼は呆けている金髪男子に振り返り、「じゃあ、また明日」と言って歩き出す。私も引っ張られる形で彼に続く。
なぜ手を引っ張られているのか分からない。
階段を途中まで降りた所で質問してみた。
「あの雨宮君、なぜ私の手を握っておられるのでしょうか?」
「途中で倒れたら困るだろ、だから」
「あ、そうですね」
ウェリントン型メガネが良くお似合いの彼はにっこりと微笑んで私にそう言った。
あ、今こうやって距離が近いことでようやく気がついた。
彼の魅力は魔性の男だってことに。
【なんだか身の危険を感じてならない今日この頃】
おまけ。
ルブランに帰ってからの一コマ。
量兄「朔、ステータスMAX目指そうか」
朔「なぜにいきなり?」
綾兄「度胸がライオンハートならあーいうの自分で撥ね退けられるでしょ?だから」
朔「あーいうのって?」
綾兄「わかってない。ああ、僕の可愛い朔がこれから真っ黒に染まってしまうなんて耐えられないよ!」
朔「だから何が!?」
モナ『意外と天然なんだな』