笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。   作:サボテンダーイオウ

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ambitious

ふぅ、息子の為に実家に帰って来たのにいたく歓迎を受けてしまったわ。

 

自分の部屋に戻ってきて尚更どっと疲れが出てしまう。

 

『姫、疲れたのか?』

『いいえ、大丈夫よ』

 

私を心配してくれる彼に笑みを浮かべてそう答えると『そうか、ならいいが』といまいち疑り深い目を向けられてしまったわ。私、そんなに疲れた顔を出していたかしら?

 

白く大きな貝殻のベッドに腰掛けて辺りを見回すと随分と懐かしい部屋に自然と頬が緩んでしまうわ。残しておいてくださったのね。その証拠に普段からお掃除されて清潔に保たれているもの。

 

『よくぞ、無事で……』

『お父様……』

 

お父様、まだご健在でらした。代替わりしたとは伝え聞いてないから心配はなかったものの、随分と変わられたわ。白髪も目立っておられたし昔のイメージよりは小さく見えたもの。

……あんなにむせび泣いて私の生存を喜んでくださるなんて。でも私の友達が指名手配されていたなんて吃驚だわ。しかも理由が私を誘拐したからですって!

自分から陸に行ったことは姉様たちも知らないのね。何だか複雑だわ。

 

姉様たちも温かく私を迎え入れてくださった。臣下の皆も、魚たちも。

そうそう、私の友達のクロコダイルも。

ワニなのに海で生きれるから仲間はずれにされてた時に友達になった子なの。

私の生存を誰よりも喜んでくれたわ。嬉しさのあまり甘噛みされかかったけどさすがに痛いからやめてもらったけど。

 

水の中で呼吸するということを忘れていたわ。

久しぶりに人魚の姿になった時、一瞬だけパニックになってしまった。

呼吸をどうやってするのか。尾びれをどうやって動かすのかも綺麗さっぱり完全に忘れてたもの。

 

……私、本当に海の中に戻ってきたのね。

最初はあの人に近づきたくて人間に憧れた。あの人の瞳に写りたいって心から願った。

けど、私が思い描いていた夢とは程遠い現実だったわね。

 

あの人は別の女性と結婚。

私は息子を身籠ってシングルマザー。

まともに家事も仕事もできずに友達のサポートなしじゃ母親失格。

息子には、苦労ばかりさせてきてしまった。父親がいない分、あの子を強く逞しい子に育てなくてはいけないと張り切ってもいつもあの子に頼ってしまう情けない私。

 

私は、一体何のために人間の世界に行ったのかしら?

あの人が私を見ないことに絶望して、息子が私の手を離れて行ってしまうことに悲観して、素直に成長を喜んであげるのが母親なのに。

もっとあの子との毎日が続けばいいと願ってしまうなんて、いけない母親。

 

今こちらに戻る為にきた理由も本当は、息子の身分を意中の姫と釣り合わせるため。

 

海を統べる王の娘の血を引く息子なら、人間の姫の相手としてもそれなりに位はつりあうでしょう。でもそれはあの子の生活を一変させてしまうもので安易に出来ることじゃないわ。そう、頭では理解できていたのに。

 

結局私があの子の為に出来ることなんて何もないんだわ。

 

いずれ、私の手を離れていくのなら今のうちに離れたほうがあの子の為なのかしら?

 

手のかかる母親を持つと苦労するってあの子いつも口癖のようにぼやいていたものね。

あの子も、私という足枷がいるからお家を出て行かずに友達の仕事の手伝いばかりしているんだわ。もっと自分の好きなことをしてもいいのに。

 

優しい子。

私が駄目な母親なばかりに苦労させてしまって。

 

いっそのこと、このままあちらに帰らなければいいのかもしれないわ。

あの子は潔いところもあるから私がいなくなっても動じないでしょう。いっそのこと見切りをつけて自分の為に生きていくかもしれないし。

お城に仕官するって方法もあるわ。友達も顔が広いからその辺の融通はききそうだし。

 

『………』

『悲しいのか、姫』

『いいえ、いいえ。そうではないのよ』

 

クロコダイルは私の隣にのそりと上がってきて慰めるように身を寄せてくる。

陸では涙は零れるものだけど、海の世界では輝く宝石【雫】となる。

とめどなく溢れる輝きは決して私の慰めにはならないの。

手の平にこぼれてくる宝石を受け止めても、心は満たされない。

 

『私は、駄目な母親ね』

『姫……、ならずっとここにいればいい』

『………』

『地上はさぞ姫にとって辛かったのだろう。ならばここにいればいい』

『………分からないわ、クロコダイル。分からないのよ』

『なら答えが出るまでここにいればいい。オレはそう望む』

『ありがとう、クロコダイル』

 

彼の優しさに甘えてしまう馬鹿な私。

彼は私の手ずから宝石を食べてバリバリと鋭い歯で砕いて咀嚼する。するとベッドの上でゴロンと横になってお腹を見せた。

すると、クロコダイルのお腹が煌々と輝きだす。私の宝石が好物だと彼はいうけれど、それは彼なりの優しさの表現の仕方。涙の証拠を消せば私がまた笑うと信じているからでしょう?

 

『懐かしいわね』

『ああ』

 

私はその温かなお腹に縋って瞼を閉じた。

 

【今だけは、甘えさせて】

 

※※※

 

四月十二日。今日はあいにくの雨模様。外ではザァザァーと酸性入りの雨が際限なく降り注ぎ地上のアスファルトを今日も溶かしているだろう。昨日の疲れがまだ取れない今の私はゲームで言うところ、疲労マークが上に出現しているとはずだ。自分で確認したことがないからはっきりとそうだとは言えないけど。

昨日のおじさんの雨宮君に対する説教にいつの間にか私も+されとんだとばっちりだ。

でも、意外だった。おじさんが雨宮君を気に掛けてたなんて。彼を迎え入れる前は、「いらねぇ仕事受けちまったぜ」とか愚痴零してたくせにまるで親みたいにしっかりと叱ってたし、心配する素振りもあるとはたまげたもんだ。私と一緒だと露骨に顔を顰めるけどね。

 

綾兄が雨宮君に対して並々ならぬ警戒心を抱いてしまったことには困っているが、実質彼に被害が向くことはないと思われる。……私が余計なちょっかいを出さなければいいらしい。居候だけどただの居候。それ以上は接触しない、分かった?と口酸っぱくしていう綾兄の顔はそれはもう震えあがるほど怖かった。彼の裏面を見たって感じ。

けど嫌と言う感情はない。それは私を心配してくれている証だから。だから、ありがとうって抱き着いてお礼を言ったら一瞬複雑そうな顔をして綾兄は「朔、男の喜ぶポイントを素で抑えているなんて……、僕はもっと心配になったよ」と私をぎゅうぎゅう抱きしめてきて頬ずりされた。何か綾兄のポイントを刺激するようなことをしただろうか?

分からない。男が喜ぶポイントなんて考えたことないし知りたくもない。

私がビッチなどと言われている理由だって私自身が直接やってるわけじゃないし、あくまでペルソナ『私』にお願いしてやっているだけだし。素人のJKに何ができますか。

 

「朔、トリップしてるな」

 

そういえば、かなり前から重いなぁと思ったらいつの間にか侵入してきているデカい猫がいた。私の普段使わぬベッドに堂々と寝転んで足をこちらに向けてパタパタと動かす。生足出して相変わらず寒い恰好だこと。

 

「……双葉、何してるの。人のベッドでさ」

 

私は端っこに追いやられながら頭を抱えてそう彼女に尋ねた。

狭くなったベッドの上に女子二人はぎりぎりだ。それなりに大きいベッドだというのにこの子がいるだけで狭く感じる。しれっと双葉は答えた。

 

「ハッキング」

 

「自分の部屋でやりなさい」

 

隣の部屋を指さして指示すると、双葉はノートパソコンを広げて見事なタイピングを披露しつつキッパリと「やだ」と言い返してきた。ムカついたから双葉の無防備な片足をむんずと捕まえて足の裏こちょこちょしてやった。

 

「にゃぁ!?キャハハハハハ!ひ、ひきょっ」

 

逃げようと体をよじらせる双葉だがしっかりと足首を掴んでいる私からそう簡単に逃げられない。双葉はバタバタと暴れて笑い声をあげて自分のパソコンのキーボードをバシバシ叩いた。あーあ、滅茶苦茶に押されてるわ。

でも気にしない私は、気がすむまでこちょこちょしてやった。

 

それからぐったりと全身の力が抜けてベッドに顔を伏せている双葉を跨いでベッドから降りた。後ろから「ひきょうだぞ~~~」と恨みがましい声がするけど無視。

 

ぐーんと伸びをして肩を大きく回す。

 

「やっぱ体動かさないと駄目だな」

 

本日、佐倉朔はお休みであります。世間は?いやいや普通の日ですよ、休日でもなんでもありません。それもこれもおじさんからのご命令。今日は休めだってさ。

大体心配しすぎなのだ。たかだか現実逃避した結果気絶しただけなのに、おじさんときたら「薬の副作用かもしれないだろ!」なんて必死な顔して心配してくるものだから本当の理由言えずじまいで素直に頷くしかなかった私。ルブランには寄らずに速攻家に連れ戻されてベッドに寝かされました。しっかり車の中で説教したからいいんだって。雨宮君はそのまま家で夕食食べてルブランへ戻った。

私のスマホには早速彼との連絡交換で得たSNSからの私の体調を気遣う内容と、今日またあちらの世界に行ってみると書いてあった。まだ覚醒したばかりの彼だけでは心配だったので朝急遽モルに着いていってもらうことにした。モルも同じく私と一緒に昨夜はこちらに泊まった。綾兄は家にいるなら大丈夫だからとメメントスにお金稼ぎに行った。そんなにハワイで優雅に過ごしたいのかしら?

彼曰く、『ワガハイがいないと朔は寝れないからな』だって。心配なの丸わかりで胸キュンしてしまいそりゃもうぎゅうぎゅうに抱きしめてあげましたよ!

本人は悲鳴上げて喜んでたけど綾兄に言わせれば窒息寸前だったとか。

 

いやん!愛の力って恐ろしい!

 

しかも私を心配して一緒に寝たのはモルだけじゃない。

そこのベッドで伸びてる双葉もそうだ。昨日からこの子私にべったりくっ付いて離れやしない。だから余計ベッドも狭く感じたし抱き着いて眠りについてる双葉みたら私は抱き枕かとも思ったしね。自分愛用の機材まで私の部屋に持ってきてパソコンやり始めようとしてたのはさすがに止めてもらった。双葉は分かりやすく拗ねてたけどだったら自分の部屋に戻りなさいと言うとそこは素直に諦めてくれた。

いや、諦めないで自分の部屋戻ればいいのにね。普段から閉じこもりな癖して、一点してこういうところは強情だ。それだけ私に気を許しているということは素直に嬉しいのだけど。

双葉がのそりとベッドの上に体を起こして私に声を掛けてきた。

 

「朔、寝てた方がいいんだろ?さっきから百面相してる」

 

「大丈夫よ。ただの気絶なんだから」

 

「でも!何かあったら……」

 

双葉は途中で言葉を途切らせて眉を八の字に下げて泣きそうな顔になる。

私は言葉が足りなかったと心内で反省し、双葉の隣に腰かけて自分の胸に小さな頭を抱き寄せた。

 

「ふた……、ゴメン。心配かけたね」

 

「……心配した。学校で気絶したなんて惣治郎がいうから」

 

双葉は強い力で私のパジャマを掴んだ。

大事にしすぎなのだ、おじさんも。こういうことに双葉が敏感なのはわかってるはずだろうにと苦言を伝えたところで倒れたお前が悪いなどと言われてはぐうの音もでない。だって現実逃避したかったんだもん。双葉には軽く「ちょっと精神的ショックを受けただけなのよ」と説明したが彼女には別の意味で捉えられたらしい。

 

「精神的ショック!?ここころの病か?!そっちなのか!?」

 

「いやいやそんな大袈裟なものじゃ!ただ……チート的主人公に吃驚したというか」

 

「チート?なんだそれ」

 

「ステータスの内四つもパーフェクトなんて誰が予想できるかっての」

 

「ステータス?ゲームの話?」

 

「いや現実」

 

「やっぱどっか悪いんだ!」

 

「いや大丈夫だから。ちょっと現実逃避したいだけだから」

 

「やっぱ朔寝てろっ!」

 

乱暴にベッドにボフッと押し倒されました。双葉も一緒に寝転んで慌ててベットから降りると双葉は転がるように部屋から出て行った時には後の祭りというやつで。

おじさんに電話かけて泣きながら助け求めるわ、おじさんも真に受けて店放ってドタバタと急ぎ足で帰ってくるわで大変でした。

一生懸命に説明して大丈夫なんだと訴えたけど信じてくれなかった。絶対安静を言い渡されずっとベットの上で暇つぶしにスマホをいじることも許されず眼鏡光らせる双葉の監視の元退屈な時間を過ごした。眠れないし、はぁ~、憂鬱。

 

病人じゃないのに夕飯御粥だし。でも珍しく双葉が作ってくれたようで嬉しかった。緊張しながら私が食べるのを傍で見てて食べづらかったけど意外と美味しかった。双葉を褒めれば、えへへと得意げに鼻先を指でこすぐった。

夕食時に雨宮君と対面したらしく、奇声上げて私の部屋に駆け込んできたのには驚いたな。だって私のベッドに飛び込んでくるんだもん。受け身なんてしてない私に突っ込んできた双葉の重みで一瞬昇天しかけたわ。

 

「ふた、じぬ」

 

「あわわわわ!!」

 

気が動転した双葉は慌ててどいてくれたがブツブツと「おとこがおとこがおとこが」と同じことばかり繰り返して呟いて縋りついてくる姿見ると、頑張ったねとねぎらうしかないだろう。彼もこっちでご飯食べるようにおじさんから勧められたらしい。彼も双葉と対面することは今日が初対面だろうから吃驚したかも。

元々引きこもりがちで人と喋るどころか対面することも双葉にはきついだろうに、私のおかゆを下げて台所に降りた時に丁度雨宮くんと鉢合わせしたようだ。

 

「よしよし、頑張ったね」

 

「うぅ、もっと撫でろ!」

 

「はいはい」

 

イイ子ちゃんにはナデナデしてあげましょう。

双葉はいい感じに表情緩ませてすっかり緊張もほぐれたみたいだ。

 

「さぁ第二ラウンド行って来い!」

 

「鬼?!」

 

「冗談だよ。ちょっと」

 

「それってほとんど本気ってことじゃん」

 

だって暇なんだもん。私は双葉に掌を見せて催促した。

 

「だったらスマホ返しておくんなんし」

 

「やだ。それと言葉遣い変」

 

「ふたのパソコンぶっ壊すよ」

 

「返した!」

 

双葉はいい子なのでスマホを素直に返してくれました。

ポチポチとスマホを動かしているとドアの方からカリカリと爪を立てる音がして、私はベッドから降りてドアを開けると隙間からモルが頭の覗かせて『帰ったぞ』と私を見上げた。私は笑顔で

 

「お帰り、モル」

 

と声を掛けて出迎えた。モルは慣れたように私のベッドの上に飛び上がって軽く伸びをした。

 

「朔ってモナのことモルって言ってるんだ」

 

「ああ、たまにモナって呼ぶけどね」

 

まさかコードネームを堂々と呼べないでしょうよ。

 

「さてと、お風呂入ろうかな……、モル一緒に入る?」

 

『入らねぇよ!』

 

「あははは、そりゃ紳士ですものね」

 

「朔はモナと話せるのか?」

 

「うん、なんとなく言ってること分かるんだよ」

 

私は着替えを持ってモルを構いだした双葉に手を振って部屋をでた。スリッパを履いて下のお風呂へ降りると丁度玄関に雨宮君が腰かけながら靴を履いていて私に気づいた。

 

「あ、朔。具合はどう?」

 

少し振り返って体調を尋ねてきたから私は苦笑しながら「ああ、全然。逆に暇なくらいだし」といたって健康であることを伝えた。

 

「そうなのか?ならいいんだけど……。あ、それと今日あの場所行ってきたんだ」

 

「……分かったわ、後で連絡して」

 

色々と消化しきれない顔しているから、それなりに何かを見てきたことはすぐに分かった。また面倒ごとに巻き込まれている感は否めないが仕方ない。できるだけ彼らが危険に首を突っ込まないようアドバイスくらいは送ろうと思う。

雨宮君は「うん」と返事もそこそこに明日のことを尋ねてきた。そっちの方が気がかりみたい。

 

「明日は学校行けるんだろう?」

 

「そのつもりよ、私は。どうして?」

 

「いや、一緒に朝登校できたらなって」

 

そう言って立ち上がった彼はサラッと流すように恥ずかしげもなく登校のお誘いをしてきた。照れる様子どころか笑み浮かべてる余裕すら感じられます。私は彼がどうして一緒に登校したいのか理由が分からずとりあえず思い当たることを言ってみた。昨日一緒に行って道は分かるでしょうに。電車だって乗れてたし。

 

「……別に途中で気絶したりしないわよ?」

 

「そんな心配してないよ。オレが朔と一緒に行きたいだけ」

 

ますます彼の考えが理解できないと首を捻る私。

雨宮君の笑みは深くなり、「そんなに深く考えることじゃないと思うけどな」と遠回しなアドバイスを送ってきた。しかも心なしか彼と距離が縮まったような。顔が近くなった?

だが佐倉朔、これで合点がいきましたよ。彼はまだ登校通路に慣れていない。

即ち、不安でたまらないから一緒に行きたいということだ。

 

「……まだ不慣れというわけね。わかったわ。学校行く前にこっち寄ってくれる?」

 

「そういう意味じゃなかったんだけど、まぁいいや。それじゃあおやすみ。あ、そのパジャマ可愛いね」

 

「?うん、ありがとう。おやすみ」

 

ひらりと手を振って雨宮君はお帰りになった。去り際にパジャマ褒めとは出来る男。

その後、お風呂入る前に台所に顔を出すと片付け中のおじさんがぎょっとした顔で私を叱ってきた。

 

「朔!なんでパジャマなんだ!?」

 

「おじさんが学校休ませて寝てろって言ったんでしょ?だからパジャマ」

 

「お、おまえな!あー、もう……アイツしっかり見たな」

 

「は?」

 

なぜパジャマが駄目なのか。解せぬ。

喚くおじさんに適当に相槌打ってお風呂にゆっくり浸かりました。

それから30分ぐらいして濡れた髪のまま部屋に戻ると双葉に次お風呂いいよと促してお風呂に入らせた。モルはすっかり双葉にいじられてどっと疲れたようにぐったりとベッドに手足伸ばしていた。

 

「すっかり遊ばれたね」

 

『サクと一緒だぜ、加減がないんだ』

 

失礼な。

私は使い慣れたドライヤーを手に取ってコンセントに差し込んでベッドに腰を落とす。

 

「私は愛を持って常にモルと接しているわ」

 

『モフモフが好きなだけだろ』

 

カチッとスイッチを入れて温風で髪をタオルでわしゃわしゃと乾かしていく。

 

「禁断症状抑えられなくなるのよ。これは一生ものね」

 

『真面目な顔していうことじゃねーぞーってぎゃあ!』

 

「ウフフフどうだ、温かい風だぞ~」

 

ドライヤーの風を送ってやってモルを構ってあげたら、さっとモルはベッドから降りて机の上に避難。つまらない。私はまた自分の乾かしはじめた。

モルが机の上に置いてある私のスマホを覗き込みながら、『アイツからきてるぞ』と教えてくれた。だがあいにくとまだ手が空かない。なのでモルに「代わりに打ち込んどいて」とお願いした。モルは、嫌そうにしてたけど器用に返事を返し始めた。あーでもないこーでもないと格闘している姿は見ていて萌えた。

丁度乾かし終わった頃には、モルはやり遂げた達成感から白く燃え尽きてた。

私はよしよしとモルの頭を撫でてスマホを手に取ってベッドに腰かけた。

 

「えーと、何々『朔の好きなタイプはモフモフなんだね』……ナニコレ」

 

まったく今日の出来事に対しての内容とは程遠い雨宮君から私に関する質問ばかり。それに返事を返しているモルも適当に打ち込んだな。

思わずモルに文句言おうとしたけど燃え尽きているので返答も期待できない。

仕方なく明日の朝に簡潔に訊こうと思って適当に打ち込んでそれで終わらせてモルを抱き上げるとさっさとベッドに寝転んだ。モルはすっかり寝つきモードに入っていて熟睡していたので胸に抱き寄せておやすみなさーい。

 

【そういえば綾兄が帰ってきてないみたいだけど、まぁいっか】





朝の電車の中での会話。

雨宮「朔、長っ鼻のじいさんを知ってる?」

朔「知ってます。鍵はもらった?」

雨宮「鍵?鍵なんてもらってないよ。それどころか独房に閉じ込められてるし」

朔「独房!?どういうコンセプトでそうなったの?エレベーターガールは?それともボーイ?」

雨宮「エレベーターガールとかボーイとはいないけど看守なら二人小さいのが……。難しい顔してどうした?」

朔「独房プレイ……ちっこい看守に痛めつけられる新しいスタイル。罵られながらその内病みつきになりそうな快楽に身を堕としていく……?」

雨宮「あまり朝からは良くない話だ」

朔「そうね、……ベルベットルームも人それぞれだから私は雨宮君を変な目でみたりしないわ」

雨宮「……あまり嬉しくないな、それは。それにしても、……なんだか殺気を感じてならない」

朔「雨宮君?着いたよ」

雨宮「あ、ああ」

綾時『僕がいない時に狙ってくるなんて言い度胸だ。……悪い虫は潰す』

モル『勘は鋭いようだな、怪盗団も人数が増えるな!』
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