笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。   作:サボテンダーイオウ

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トラップ・ビースト

オレがカナヅチになったのにはちゃんと理由がある。

幼い頃、オレは母さんに連れられて海へ遊びに行ったことがある。母さんは泳げるけど事情により泳げないことになっているから遠くまで行っちゃだめよと注意されオレは純真無垢だったから素直に頷いた。

 

でもそこでオレはカナヅチになる原因ともいえる奴と出会った。

 

『……なんだろう。これ?』

 

言っておこう。オレは今よりも世間知らずで純粋だったからソレが世間的にはヤバイ奴であることを知らなかった。母さんも危険だから見たら触っちゃ駄目よ、というか逃げなさい、なんて教えてくれなかった。それどころか、この子は私の昔の親友に似てるわ、なんて動物図鑑を一緒に見ながら懐かしそう顔をしていて、ああ、これは友達なんだなと母さんによって刷り込まれた。

だからオレはカナヅチになったことは仕方ないと思っている。

 

状況が状況だったのだ。

幼いオレにはどうしようもない。

 

オレの目に前には、図体デカいクロコダイルが仰向けに浜辺に打ち上げられていた。バタバタと短い手足を動かして懸命に海に戻ろうとしてたが、近所の子供たちが木の棒でつついたり貝殻を投げたりと面白がってイジメていたのをオレは見ていられなくて助けに入った。

 

『やめろ!いじめるな』

『なんだよお前!』

『邪魔すんな!』

 

オレより体の大きい餓鬼がオレにつかみかかろうとした。だがオレは日ごろから母さんに鍛えられていたのでその手をひょいっと難なく横に避け、体勢を低くして足払いを掛ける。するとあっけなく餓鬼は顔から盛大に砂に突っ込む。もう一人の餓鬼は一瞬たじろいだが我武者羅にオレに突っ込んできた。オレは餓鬼の勢いをそのまま利用して餓鬼の片腕を掴みかかりそのまま背負いあげ砂浜に叩きつける。

 

『う、うわぁぁああああんん!』

『ま、まってぇええ』

 

餓鬼二人は泣きながら逃げて行った。

 

オレ、強し。

 

クロコダイルはじたばたと未だ仰向けのまま四苦八苦していて、小さなオレでは持ち上げることも難しかったが。とりあえず声だけは掛けることにした。適度な距離でしゃがみ込んでと「お前をいじめる奴はいなくなったよ」教えてやると、何処からか謎の声が帰ってきた。

 

『助かった。できれば起こしてほしいのだが』

『……』

『どうした。やはり小さき者ではかなわぬか』

 

どうやらオレの目の前でじたばたしているクロコダイルから発せられる声らしい。オレは目を白黒させて驚いた。

 

『喋れるんだ。クロコダイルって』

『オレは特別なクロコダイルだからな』

 

偉そうに言っているクロコダイルだが間抜けな体勢だということは割と気にしていないらしい。

 

『でもオレには持ち上げられないよ』

『やってもいないことをどうやってお前は知った?それはやってから言う言葉だ。お前はただ恐れているだけだ』

『……』

 

怖れているも何も大きさが違うだろうがと今のオレなら即ツッコミしかけているところ、当時のオレは疑うという言葉を知らないのでクロコダイルの言葉はストレートにオレのハートに突き刺さった。

 

『わかった!オレ、やってみるよ』

『うむ、それでこそ姫の息子よ』

 

クロコダイルは満足そうに唸り声をあげた。歯がカチカチしてマジ怖かった。ちびりそうになった。けどオレは頑張った。

弱き者を助けてこそ、伝説のさすらいレスラーなのよと普段から母が何度もオレに言い聞かせたからだ。刷り込みというやつだ。ここで恐れてしまっては、伝説のさすらいレスラーになれないと感じたんだ。……その時のオレの夢、伝説のさすらいレスラーになること。誰にも言えないオレの黒歴史。

 

『うむむむむむ!!』

『それ、そこで踏ん張りを見せろ!』

 

クロコダイルの応援を受けてオレは何とか両足を踏ん張ってクロコダイルを元の体制に戻すことに成功した。クロコダイルは牙をちらつかせてオレをねぎらった。

 

『よくやった。姫の息子よ。お前のお陰でオレは海に帰れる』

 

何しに来てたんだ?

 

『クロコダイルって海に棲んでるの?』

『オレは特別なワニなのだ。だから肉は食べないぞ』

『そうなんだ』

 

わりとどうでもいいやり取りでオレはさっさと母さんの元へ帰りたくなった。別にマザコンじゃねぇぞ。ただ方向音痴の母さんのことだから『まぁ!貝殻綺麗!あ、あっちにもあるわ』なんてフラフラしてるうちに別の場所に行きかねないからな。幼児のオレはおばさんから監視役を頼まれていた。……オレって昔から苦労してたんだな。やべ、目頭が熱くなってきた。

 

『オレを助けてくれたお礼に、そうだな。姫が沈ませた船の中に海賊船があったはずだな。そこにたんまりとお宝があったのを記憶している。それをお前にやろう』

『本当!?あ、でもオレ海の中なんて行けないよ』

『大丈夫だ。姫の息子だからな』

『でも』

 

どうでもいいけど今思い返してみると姫の息子って何ってかんじ。オレが王族とかマジないわ。

 

『ぶつくさ言わずにオレの背に乗れ。男が決めたことを覆すなど見苦しいぞ』

『オレちゃんと行けないって言ったんだけど』

『さっさと乗れ。噛み砕くぞ』

『えー!?さっき肉は食べないって言ったくせに~』

『肉は食べないが噛み砕くのは好きだ』

『屁理屈だ』

『ハハハッ!姫と話していると皆こうなるのだ』

『さっきから姫姫って一体誰の事?』

『そうか。お前は知らないのか。ならば教えられまい。大人になったら自然と知ることだ。今は忘れろ』

『わかった』

 

このクロコダイルって強引なとこあったよな。おばちゃんとテンション似てるわ。今さらながら気づいたけど。

まぁ、それでスッゲェ痛い思いしてクロコダイルの背中に乗って海の中へレッツゴー!

なんてうまくいくはずもなくオレは案の定溺れたわけだ。

誰でも分かるよな、このオチ。

 

幸い、通りすがりの色黒の体格のいい漁師が『今助けるぞ坊主ぅぅぅうう―――!!』と恰好よくオレを救助してくれたおかげで今のオレがいる。オレの夢、恰好いい漁師になることに変更されたのはこの時からだった。今でもそのおっちゃんとは交流があり、カナヅチなオレに根気よく泳ぎを教えてくれている。でも全然進歩ないんだ。

どうしても海=クロコダイルって身構えちゃってガチガチになって足も竦んじまう。

 

でもそんなこと言ってられない。

母さんが海の底にいるなら(まだ信じられないけど八方手は尽くした)最後の望みを賭けてオレは泳ぎをマスターしなきゃならないんだ!

 

「そうか、そうか。お前の決意はオリハルコンよりも硬いんだな。だったらテストしてやろう」

 

おばさんがオレの決意に揺らぎがないことを確認してきた。

 

「テスト?」

「ああ」

「またろくでもないこと考えてるんじゃ『ゴン!』ぐえ」

「この移動には沈黙を守らねばいけないというルールがあるんだ。仕方ない」

 

いけしゃあしゃあとおばちゃんはそう言ってオレをフライパンで沈めたに違いない。意識を失う寸前おばちゃんのニヤリとしたあくどい笑みが頭のどっかに残っている。

家から砂浜に移動【魔術らしい】したおばちゃんから問答無用の蹴りをもらって復活したオレ。体は丈夫なんだよな。これも母さんが逞しく産んでくれたお陰だ。

 

さて、わざわざ海まで来てオレを確かめる方法なんて、一体何するんだと首ひねってたら、何やら怪しい儀式を始めたじゃないか。見知らぬよぼよぼなおばあちゃん数名とズンドコズンドコ太鼓の音と共に手拍子取りながらたき火を囲んで怪しげな踊りを踊りだす。

 

オレ、別次元来ちゃったのかな。

ぷるぷる、母さん、怖いです

ちなみに、おばあちゃんたちはこれだけの為に雇ったそうだ。ムダ金使いやがって!

 

怪しげな儀式が数分続き、何か感じたのか、よぼよぼなおばあちゃんたちが一斉に「ぁぁああああああ――――!!」と苦しそうに心臓部分を抑えてバタバタと倒れて行った。

 

「おばちゃん一体何したんだよ!?」

 

オレの動揺とは反対に真顔でおばちゃんは言い切った。

 

「生贄だ」

「人殺し―――!!」

「嘘だ。召喚するために生気を少しもらっただけだよ。大体前金払ってるしちゃんと雇用契約書に『わが身全てを捧げることをここに誓う』って部分にサインもらってるから」

「同じことだろ!?それとこれ超小さい字で書かれてておばあちゃん読めないだろ!?」

「だって仕方ない。私指名手配されちゃってるもーん!」

「うわ!わざとらしい!」

 

コントみたいなやり取りしてる間に何かが海から召喚されたっぽい。のそのそと海から上がってくる物体にオレはごくりと鍔を呑んで視線を凝らした。

……なんか、生き物?こう、昔見たことあるようなシルエット。

 

「ほら、海から呼んでおいた。私の試作品、337号」

「……おばちゃん、これ、ワニだよね」

 

オレが指さした先にはいつか見た、図体デカいクロコダイルがいた。おばちゃんは、しれっと言った。

 

「ああ。私が創ったクロコダイルだ。設定は仲間外れにされて独りぼっちの可哀想なワニさん。丁度お前の母さんの親友ポジションになってる」

『姫の息子よ、見違えるほど大きくなったな』

「スイマセン、気絶します」

 

そう前置きしてオレは意識を手放した。

全て、おばちゃんが元凶だと悟ったオレでした。

 

「気絶してしまった。これではテストもできないじゃない。ムダ金を使ってしまった」

『主よ、どうせだ。このままオレが連れて行こう』

「ああ、そうだ。どうせ泳げないの分かってるしその方法が手っ取り早い」

『主、どのように姫の息子を連れて行けばいい』

「お前の体に括りつける。それとこのペンで額に『海の男』と書けばあっと驚き誰でも人魚のように泳げるという優れもの」

『主よ、最初からそれを姫の息子に使えばよかったのではないか?』

「だって面白くないじゃない。私が」

『確信犯だな』

「そうでなくてはつまらない!」

 

クロコダイルの尻尾にロープを巻き付けて気絶した息子の足首にもう片方を巻き付けて狂科学者〈マッドサイエンティスト〉は優雅に手を振ってクロコダイルを送り出した。ずずっと引きずられて海に沈んでいく気絶した息子に、笑える土産話を期待しているよと願わずにはいられなかった。

 

【マッドサイエンティストの退屈】

 

※※※

 

今日は球技大会なので憂鬱です。毎日憂鬱です。ですが私は保健室でのんびりと優雅に過ごさせてもらうのです。昨日のカモシダパレスでの一件は簡略に説明を受けたがだからと言って私が手を出す理由もない。情報を得たいのなら勝手にやってと彼に伝えた。彼は残念そうに肩を落としたがすぐに表情を切り替え「じゃあアドバイスだけもらえる?それならいいよね」と凹まずにグイグイと顔を近づけてきた。私は少したじろいで「それくらいなら」と了承してしまっていたのである。綾兄から『うまく丸め込まれたね、やっぱり潰そうか』と危ない発言をニッコリと言われたものだからなだめるのに気疲れした。クラスの生徒達が体育館へと向かう中、一人(モルも一緒)保健室へと歩いている私に雨宮君と坂本君が寄ってきたが寄ってくるなよと蹴り入れたい。けど入れられない。清純派な売りの私には辛いわ~。

 

「朔、見学なのか?つまらないな」

 

「うん。参加する意味がないから、あのね、私誰が好き好んで鴨志田のスパイクにいちいちキャーキャーわめかなきゃならないの?そんなことしてるぐらいだったら保健室で推理ドラマでも観ながら開始10分で犯人言い当てるわ」

 

私の決意表明に坂本君からお褒めの御言葉を賜った。

 

「やる気ねぇ発言だな……つーかそれで許しちまう教師も教師だな。学校まで来てドラマかよ!」

 

ええドラマですよ!そっちの方がよっぽど燃えるわ!

 

「坂本君」

 

「お、おう」

 

私の真剣な顔に分かりやすくたじろいだ。

そんな後ろに引かなくてもいいのに。ただ、怪盗になったお祝いの言葉を伝えたいだけなのだ。

 

「反逆おめでとう。これで君は社会という檻から離反した立派な猛者だ。その力存分に大人たちに見せつけてくれたまえ。自滅しない程度に。そして私の邪魔しない程度に!」

 

「……お前っていちいち癪に障るいい方するのな」

 

口元ヒクヒクさせて怒りを抑えているようだ。

ワォ!怒りっぽい!これぞ不良少年です。

 

「ありがとう。飴と鞭で育てるタイプなので君には鞭で対応しようと思うの」

 

ぜひ私のストレス発散所となってくれることを期待したい。

 

「褒めてねーし!鞭ばっかじゃねーか」

 

「そうともいう!それじゃあ未来ある若者よ!達者で」

 

『じゃあな』

 

私とモルは雨宮君と坂本君に別れを告げて保健室入りを果たしたのである。

そんな私は男子二人のぼそぼそ話など聞こえておりませんでした。

 

 

坂本「……マジ、噂と違いまくりだわ」

 

雨宮「あのさ、竜司」

 

坂本「あん?」

 

雨宮「その朔に関する噂って、何?」

 

坂本「顔怖いんだけど」(逃げようとするも両肩をガシッと掴まれているので逃げられず)

 

雨宮「気になったから教えて」(拒否の二文字は許さないらしい)

 

坂本「ああ、あのな……」

 

ぼそぼそ、ごにょごにょ。

 

男二人顔突き合わせているのが廊下の真ん中だったのでいらぬ噂がのちにたてられることに気づかずに二人は内緒話を堂々とするのであった。

それと同時時刻、壁際でキラリと目を光らせていた新聞部の女子がノートに殴り書くように一心不乱に書く様子が他の生徒たちから目撃されていたようだ。

 

【スクープ頂き!】

 

 

先生から露骨に嫌な顔されたが、一緒にパソコンで韓流ドラマ観させていただきました。最初はつまらなそうと侮ったが、これまた!登場人物達がそこで罠にはまるかってところでまんまと罠に嵌ったり、運命の出会いが露骨な部分に出てきたりと、期待を裏切らない展開に視線が釘付けになってしまう。

侮っていたぞ、韓流ドラマ。

 

「くあ~」

 

私の膝でお昼寝をしていたモルも暢気に欠伸を一つする。

 

先生はモルを連れ込んでも文句は言わなかった。けど貸し一つだそうで、また賄賂を所望してきおった。今度は何だと思います?大正屋の名菓・あめ納豆ですよ?雨の日限定の1300円もする菓子買って来いですよ?しかも雨の日に並んで買って来いと。鬼ですかマジで。しかも前回差し入れした【限定リカバーオイル】どうしたと思います?てっきり使ったのかと思ったらネットオークションで高く売ったですって!

 

このクソ教師めぇ――!

 

って罵倒してやりたくなりましたわ。いや、しないけどね。しようとしたら眼力でねじ伏せられました。

しかし、人が汗水流して働いた(メメントスで狩りまくった)お金で買った貢物を売るとかどんな鬼ですか、悪魔ですか!

もう二度と借りなんか作ってやるものかと心に固く決めた後でこれですよ。も、ね。先生の気分次第で私、どんどん借りつくられちゃいそうな予感しかない。

そうして、私は雨の日に買いにいくのだろう。

決して自分が食べることのないお菓子をわざわざ人込みの、長蛇の列に並んで!この私自らの財布からお金を出して!

 

と憤っている間に画面のドラマでは今にもハラハラドキドキの展開に突入☆。

 

「スイマセンー!安藤先生いますかー?」

 

ですがここぞという時に邪魔者は現れるものです。パソコンの画面に噛り付いている時に、ガラリと保健室のドアが開く。咄嗟に機転を利かせた先生のマウスを操作する動きが肉眼で把握できないほどに一時停止ボタンとプラウザ隠ぺいの術が発動され私は「あ」と間抜けな声を出してしまった。

 

「どうかした?」

 

偽安藤先生が椅子から立ち上がって降臨した。いかにも善良そうな顔して怪我人を連れてきた保健委員に問いかける。たぶん、心の声じゃ『よくも邪魔してくれたな、ぼけぇ』とか罵ってるよ。どうやら怪我人は鴨志田に直接スパイクもらったらしい。スパイクする瞬間、三画面で切り替えられてキラリと光る汗を飛び散らせながら「フッ」とか漏らして口角上げて女子共から黄色い悲鳴あげられてるのが容易に想像つくわ。

でも顔面に受けるなんて痛そうだわ。やっぱり出なくてよかった!

 

と喜んでいるのもつかの間、早々に付き添いの保健委員を戻らせた先生はなぜか怪我人の生徒の治療をせずにスタスタと戻ってきて椅子に座るとマウスを動かしてまたドラマを視聴しだす。

 

「佐倉、怪我人来たら手当頼むわ」

 

「えぇ!なぜ私が」

 

「アンタ裏保健委員だから」

 

「いつそんな設定が決められてたんですか!?」

 

何その裏技コード的な扱い。

 

「今決めた」

 

「横暴な!」

 

「借りが増えるわよ」

 

「喜んでやらせていただきます!」

 

ビシッと敬礼一つして私はギラついた目で獲物(怪我人)を捕捉する。モナが危険を察知してするりと膝から飛び降りて避難した。

 

『怖いぞ!?サク!』

 

「うふふふ、早く終わらせてドラマの続きを観る!」

 

「……あの」

 

何か言いたげの幸薄そうな顔をしている怪我人男子には悪いが、さっそく治療と行こうか。

ああ、そんな怯えた顔をして逃げようとしなくてもいいのに。なぜか怪我人男子(よく見たらウチのクラスにいたかもしれない男子)は自分が怪我人であることも忘れて窓際に走るのか。しかも窓枠乗り越えて身を乗り出して危ないったらない。

咄嗟のラリアット決め込んで床に倒れさせることに成功した。

 

ふぅ、うまく気絶してくれたみたいでこれで治療もスムーズに行うことができる。ベッドへとズルズル引きずって寝かせた。

 

「拒否の言葉は求めていない。君は大人しく私に身を委ねるだけで至高の快楽に落ちることができるのだから、ね」

 

『それいかがわしいぞ』

 

モルのツッコミはスルーして、私はおでこにそっとちびたいヒエヒエールを張り付けた。

 

「あ、名前思い出した。三島君だ」

 

『今頃かよっ!』

 

私の手当ての甲斐あって数十分後、三島君はこの世の絶望全て背負っているかのような顔で見事復活し、精根尽きた弱々しい声で礼を言われた。

 

「あの、ありがとうございました……」

 

「良かったね」

 

なぜ敬語なのか解せぬ。

 

「……佐倉、さんさ、オレにラリアット「何か言った?」何も言ってません」

 

「そうだよ。気のせいだよ。鴨志田スパイクが見せた白昼夢だから。全部の元凶は鴨志田スパイクだから」

 

「そ、うですよね」

 

「うん」

 

また敬語なのが解せぬ。

だがこれも良しとしよう。三島君を見送って私は早速ドラマの続きを!とウキウキと椅子に座ろうとしたら安藤先生に「見終わったからさっさと出ろ」と背中を押されてリュック入りのモルもろとも保健室を放り出された。

 

鬼だ。

 

すぐ帰ってもいいのだけど暇つぶしに男子たちの様子を伺うことにした。SNSではどうやら情報収集に勤しんでいるらしく、中庭に集合と書いてある。私に向けてのメッセージは返信を期待していないからか、坂本君からは今のところない。だが雨宮君からはマメにメッセージが送られてくる。他愛もない話だ。

 

『具体的にモフモフな男性ってどう思う?』

 

とか、

 

『オレもモルガナになりたい』

 

とか、

 

『そういえ朔の後ろにへばり付いてる幽霊って悪霊?お祓いする?』

 

とか。転校してきたばかりで友人を作ろうと話題作りに奮闘しているのは伝わってくるけど女子な私としてはもうちょっと普通な話題にしてほしいと思った。

きっと雨宮君なりに努力しているはずなんだろうけどね。

 

適当に返信をしつつ、モナが入っているのでずっしりと肩に食い込むリュックを背負いつつ、生徒たちが体操服だらけの中、一人制服で堂々と中庭に向かってみると、雨宮君の後ろ姿発見!

 

「雨宮君」

 

「朔、来てくれたんだ」

 

うっ、雨宮君の微笑みで花が一気に咲き誇ったように見えてしまった。これって魅力パラメータが関係しているのかしら。いいえ、きっと気のせいのはず。私は軽く頭を振って雨宮君と向き直る。

 

「あ「ちょっといい?」……」

 

声を出して一言目で別の誰かに言葉を被せられた。

一気にやる気が削がれた私は、無言でベンチに腰掛ける。後ろからやってきたのは、今色々と大注目のツインテール高巻杏さん。彼女は私が雨宮君といた事に目を瞬かせて驚いて困惑していた。

 

「……佐倉さんも一緒だったの……?」

 

いえ同類ではありませんという意味で首を横に振る。全力で。

 

「私に構わずどうぞ」

 

群れてると思われたくない私は、ずずぃっと後ろに下がって壁になる。高巻さんは、「え、でも」とか言い淀みつつも私がどうぞどうぞと下出にでたのでさらに驚いたが、要件を優先させたいのか「ごめんなさい」と短く謝ってから雨宮君を睨みつけて腕組みをした。

 

「何か用」

 

「てかさ、アンタ何なの?この間の遅刻も嘘だし。妙な、噂あるし」

 

噂?

 

「雨宮に何のようだ」

 

何というタイミングで坂本君登場ですよ。

まったくやる気のない恰好ですね。

 

「そっちこそ何、クラス違うじゃん」

 

「たまたま知り合ったんだよ」

 

どうやら二人は面識アリの間柄のようだ。

 

「鴨志田先生に何するつもり?」

 

「はぁ!?……そっか、そういうことな。鴨志田と仲いいもんな、お前」

 

途端に高巻さんは屈辱を味わったかのような表情に変わり、声を荒げた。

 

「坂本には関係なくない!?」

 

「ヤローが裏で何してるか知ったら、ぜってー別れたくなるぞ」

 

ハハーン、坂本君は高巻さんがあの鴨志田と付き合ってると勘違いしているようだ。アレと付き合うってマジで言ってます?ないわ、マジないわ~。あんな裸の王様とかマジないわ~である。

しかしだね、坂本君も余計な事言ってくれますよね。黙って聞いている方はハラハラドキドキしてますよ。あれ、コレリアルドラマ?

 

「裏……?それ、何?」

 

案の定、引っ掛かりを覚えた高巻さんは裏というキーワードに反応を示した。だがここは私の出番!完全空気となっている雨宮君を押しのけて突撃隣の坂本くん!

 

「はい!ごめんなすってぇ~~~!!」

 

軽めのアッパーカット下から決めて「ぐふっ!」と呻きながら天上に舞う坂本君。

 

「ふぅ、ちょっと季節外れのすっぽんが坂本君の足元に見えたから咄嗟に突き飛ばしちゃったよ!あ、高巻さんもチャイム鳴るから行ったら?」

 

「いや、なってないし」

 

彼女の目線は地に伏している坂本君へ注がれる。

だがそれを遮るように私が一歩前へと出る。決して隠しているわけじゃない。見られたくないから隠しているわけじゃない。

 

「鳴るよ」

 

私がそう宣言したすぐあと、チャイムの音が校内に鳴り響く。

度肝を抜かれて「嘘」と信じられない顔して呟く彼女をこの場から追い出す為に私は笑顔で近寄った。

 

「さぁさぁ!」

 

「ちょっ、顔近いってば」

 

ぐいぐい高巻さんに行くと、なぜか雨宮君も対抗しだした。私の後ろ髪を掴むと、せがむようにこう言った。

 

「朔、後でオレにもして」

 

軽く髪を引っ張られて地肌がツンツンする。適当に「わかった、わかったから髪離して」と相槌を打つ私に彼は「了解」と手を離してくれた。

私の熱意が伝わったのか、高巻さんは変人を見るような目で色々ご丁寧に忠告して去って行った。

 

リュックの中で状況把握していたモルがひょっこりと顔を出して一言漏らす。

 

『リュージ、息してるか』

 

「大丈夫よ。軽めだから」

 

ドヤ顔して言い返せば、

 

「そういう問題じゃねーよ!」

 

華麗な復活を遂げた坂本君から厳しいツッコミいただきました。その後、雨宮君から事情を教えてもらうと鴨志田に体罰を受けている生徒を探しているらしく、それがドンピシャ!私が手当した三島君らしい。彼が急ぎ帰るまえに接触する必要があるというので私は物陰からそっと見守ることにした。

 

問題児二人、三島君に絡む。

 

私、初めて三島君がバレー部であることを知る。

 

鴨志田、絡んで登場してくる。

 

私、直視しないように視線をスマホへと向ける。

 

鴨志田、偉そうな事いって三島君を無理やり連れ去る?三島君、服従状態。

 

私、スマホでしっかりと連射で写メる。(何かに使えるかと思った)

 

問題児二人が私に絡んでくる。

 

「オメェそこでコソコソと何してんだよ」

 

「視界に入るのも煩わしいから隠れてた」

 

ハッキリ言い返せば、坂本君はあきれ顔で「三島もお前みたいな性格だったらな」と零すじゃない。失礼よね。彼が私になれるはずはないじゃない。私は一般人とは歪んでいるもの。

 

「それは無理ね。私と彼はベツモノであり同じ個体ではないもの」

 

「はぁ?」

 

理解できないと頭上にクエスチョンマークすら浮かばせている坂本君にこれ以上は話す理由もないので私は立ち上がって玄関へと向かう。

 

「雨宮君、私先に帰るわ。さようなら」

 

「いや、オレもすぐ着替えるから待ってて」

 

「お、おい!オレも行くって」

 

誰が共に帰ることを許可した?いつ出したいつ言いました?

ちょっと雨宮君、私の手を離しなさい!ズルズル引っ張らないで!

 

ああ!後ろの方で噂好きの女子共がバッチシ注目している視線が背中に突き刺さる。

 

男二人従えて気分は女王様、なわけない!

全力で逃走を図ろうとしたけど、雨宮君には敵いませんでした。待っていると従順なフリをして逃げようとしたのに、すでに玄関で待機されていた。

 

「お待たせ」

 

「いつの間に瞬間移動したの!?」

 

呆然と佇む私の後ろでワタワタしながら「はえーし!」とか文句飛ばしている坂本君が合流するってなんですか?

 

「朔、また転ぶよ」

 

ガッチリと腕掴まれて気分は首輪に繋がれた犬状態。

チート的人間には逆らえないオーラみたいなものがあるのだろうか。……私の気のせいであると、信じたい。

 

そういえばルブランに入る前に、雨宮君がおかしなことを訊いてきた。

 

「今日はいないね。あの悪霊」

 

「悪霊?何の話?変なのっていうかもう精神的に疲れた放置してください」

 

「わざと?それとも素?放置なんてしないよ、だって朔面白いから」

 

和やかに微笑んでますね。

 

「酢?」

 

「たぶんその酢じゃないよ」

 

「あんまり変な事言ってると、おじさんに頼んで激辛カレー食べさせるよ」

 

「それだけは勘弁してください」

 

二人一緒にルブランにお帰りしました。

そういえば綾兄が姿を消していたけど夜中にひょっこり帰ってきた。どこ行ってたのと尋ねたら「湊の所だよ」だって。なんでも強敵が現れたから相談しに行ってたとのこと。綾兄が強敵とか恐れる相手ってどれだけ強いのかしら。メメントスにも注意して潜らなきゃならないと気が引き締まった。

 

【たぶん意味が違う】

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