笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。   作:サボテンダーイオウ

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本編がさらに暗くなっていく。似非おとぎ話は佳境へ………。


切歯扼腕

あら、こんにちは!

 

久しぶりね、……何処に行っていたかって?

うふふ、しばらく実家に帰っていたの。息子と一緒に。実は家出同然で出てきたばかりだから勘当されているものかと思っていたけど案外すんなりと受け入れてくれたわ。御父様も現役バリバリだしお姉さま方も御結婚されていたりと環境の変化はあったけど皆に会えて嬉しかったわ。

 

え、そのまま実家にいようとは思わなかったのかですって?

そうねぇ、それも考えたわ。御父様ももちろんそのように仰ってくださったし、その方が何かと息子の為になるのかもなんて考えたけど、私やっぱり陸の生活が気に入っているみたいなの。

友達も残してきたままだし、心配だったもの。

 

でも家に帰ったら帰ったで早速商品を届けて来いって息子に蹴り入れてたわ。フフフ、寂しかったら寂しかったって言えばいいのにね?素直じゃないのは昔からなの、彼女。

私も一緒に配達しに行ったわ。泳いでばかりじゃ足もなまってしまうしね。

 

今回の事で息子とまた仲良くなれた気がしてるわ。

泳げないからだで私の為に気絶しながら海の中までやってきてくれたあの子の成長を強く感じたし、ああ、まだ息子のお母さんでいていいんだって心底思えたの。

 

まだ子離れしなくていいんだって。

 

一応聞いてみたのよ?私、もう息子離れした方がいいのかしらって。そうしたらあの子、真っ赤なタコみたいな顔して怒ったわ。

 

『母さんはオレの事嫌いになったのか!?オレは母さんから離れるつもりはないし面倒見るのが嫌だなんて思ったことないぞ!!』

 

息子に本気で怒鳴られたことないからすごく吃驚したわ。でも自然と口元が緩んで気が付けば笑顔で抱き着いてた。私の息子は私を見捨てたりしない。あの人みたいに、私を捨てたりしない。……正直、あの人に未練たらたらだったわ。

でも少しだけ、どうでもよくなったの。

 

あの人はあの人の生き方がある。

私は私の生き方がある。

 

違う道を進んだだけで、きっとお互いに悔いはないのよ。

私は、私の息子がいてくれるだけでいいわ。

 

私と、息子と、友達と。

ああ、もしかしたら息子の彼女とかも。

 

惚気話とか興味ない?あら、ごめんなさい。自分の事ばかりペラペラと喋ってしまって。ああ、なら貴方の御話を聞かせてくれないかしら?

 

今まで私の話ばっかりだったけど貴方は一体どこからやってきたの?……気が付いたらいつもここにいるの?それじゃあ私待たせてばかりなのかしら、それはごめんなさいね。え、違う?

あ、じゃあお名前は?……白雪姫…?そう、お姫様なのね。だからそんなに可愛らしいのね、ふふ。

当たり前?そうね、とても愛らしいわ。

まぁ、褒められるのがそんなに嬉しいの?だったら沢山褒めてあげるわ。貴方は優しい子だもの。

私の話なんて退屈なはずなのに飽きもせずにじっと聞いてくれる。ちゃんと面白いか面白くないかハッキリと教えてくれる。

素直がところがとても好きだわ。

 

どうして、否定してしまうの?自分は優しくない……?

だって継母を殺そうとした……?そう、それで貴方はどうしてそんなことをしようと思ったの?貴方に辛く当たるような酷い方だったの?

それはなかった。むしろうざいくらい構ってきた?自分とは正反対の性格だった?国を乗っ取られるかもしれないと思った?

そう、ではその方は貴方を愛そうと努力なさったのね。

 

あら、どうしてそこで驚くの?

確かに貴方はお義母様に対して辛辣に当たったのでしょう。それでもその方は貴方をけなすことは一度としてあった?

―――なかったのね。……距離を置いて貴方の自由にさせていたのではないかしら。貴方の無茶な行いを王妃として庇いつつ、正当な国の王女である貴方が国を治めるまでの繋ぎとして国を統治なさっていたのでは?……慎ましやかな方ね。きっと民に慕われた方なのでしょう。

 

……悲しいの?綺麗な涙を流すのね。心が洗われるような素直な涙だわ。……貴方は自分の行いを悔いているのね。

 

気が付けたこと。それは大きな一歩だわ。

大丈夫、貴方は変われるはずよ。時間はかかってしまったみたいだけど。

 

でもほら、貴方の後ろにお迎えがいらっしゃってるわ。

 

とても黒い恰好なさった男性の方が………。あら、どうしたの、そんな怯えた顔をして?

 

『白雪姫、探しましたよ』

『……ぁぁ、嫌ぁぁ』

『勝手に抜け出されては困ります。まだ貴方の刑期は終わっていないのですから。さぁ、戻りますよ』

『嫌、やめてあそこには戻りたくないぃぃぃ』

『何を我儘なこと……。御婦人、ご迷惑をおかけしました』

 

いいえ、とんでもない。あの白雪姫が嫌がっているように見えますが、手荒なことはなさらないでくださいね?

 

『ええ、大丈夫です。私は面倒ごとは嫌いなので』

 

まぁ、それは良かったわ。

女性に手荒なことをするなんて天誅ですからね。

 

『肝に銘じておきます』

『ひっ!いや、腕を掴まないでっ』

『行きますよ。それでは失礼します』

『助けっ』

 

大丈夫よ。彼は手荒な真似はしないと仰ってくださったし。きっと丁寧に迎えてくださいますわ。お元気で、白雪姫。

 

謎の男性に連れて行かれた彼女はその後、二度と会うことはなかったわ。

 

※※※

 

死を決意した者の気持ちなんて本人以外誰も分からないし理解できない。抑えきれない悲しみを背負いながら生きていくことに絶望し、誰も手を差し伸べてくれない状況を嘆き悲しみながら消えたいと願う。

 

自分に唯一残された希望は、死のみ、と死ぬことで救われようとする行為そのものが浅ましいことに気づかずに人は死を望む。私もそうだった。彼女のように生きる希望を失い、果てようとする寸前に綾兄によって掬い上げられた命はこうして辛うじて繋がれている。復讐という細い糸で雁字搦めに縛られている。

 

四月十五日、金曜日の曇り空。

鈴井志帆が午前中の授業中に屋上から飛び降りた。

 

騒然とする学校内、授業中ということもあり生徒たちは教室を飛び出して野次馬として中庭に群がり狼狽する教師らが宥めようと声を荒げるが何の効果もない。すでに駆けつけた救急隊員らによってストレッチャーに乗せられている鈴井さんは青白い顔で横たわっていた。

 

鈴井さんの親友である高巻さんが悲痛な声を上げる。

 

「志帆……!」

 

「コイツラ、クソだな……」

 

遅れて現場に駆け付けた坂本君が侮蔑を込めた言い方で辺りを睨みつけた。まるで見世物のように群がる生徒たちに憤りを覚えたのだ。しかもその中にはスマホを掲げて動画や写真など撮っている生徒まで複数いた。腐った輩と反吐が出るくらいだ。

 

救急隊員の一人が付き添いを求める声を上げるが、冷たい教師達は自分は担任ではないと非道な言い逃れをした。そんな中、高巻さんが誰よりも声を上げて「行きます!」と駆けだした。「早くっ」と頷いた隊員によりストレッチャーは救急車の中へ向かって動かされる。その際、鈴井さんと高巻さんが何か話している様子が伺えたが何を話しているかまでは騒然とした中でかき消されて聞こえなかった。そんな時、顔面蒼白で三島君が現場から怯えて逃げるように走り去ったのを坂本君は見逃さなかった。

 

「おい、三島追いかけるぞ!」

 

「わかった」

 

雨宮君を促して二人で走っていく。動き出す救急車とけたたましいサイレンの方角を見つめる私の足元でモルが急かしてきた。

 

『サク、ワガハイ達も行くぞ!』

 

「……先、行ってて」

 

か細い声で答えるだけで精一杯だった。モルは不審を抱いた様子だったけど『わかった』と答えてすぐに二人の後を追って尻尾をなびかせて走り去った。私はフラフラとした足取りで人のいない場所を求めて歩き出した。雨宮君たちとは反対側へ。

 

『朔、朔!』

 

綾兄の声がずっと私を呼んでいる。心配そうに私を気遣う声だ。でも人目が多い場所で姿を現すことができない彼は歯がゆそうにしているだろう。

 

ああ、どうでもいい。そんなことは。

 

焦点の定まらぬ瞳で生徒の波をかき分けてひたすら進む進む進む。途中誰かにぶつかって地面に跪いてしまうが這うように立ち上がり進む進む進め私。そうだとにかく逃げろここは危険だ私にとって危険な場所。

 

―——あの鈴井志帆の顔はどこかで見たことがある。

デジャブじゃない。実際に確かに見たんだ。私は。

 

ではどこで?

思い出せ、思い出せ私。けれど思い出そうとすればするほど凍りつくような寒さが私を包み込もうとする。手足、膝がガクガクと震え立っていられなくなる。眩暈がして頭が痛くなって吐き気が急に襲い掛かってきて口元を片手で覆う。

 

縺れてしまう歩行で私は校舎裏に何とかたどり着くことが出来た時には息も絶え絶えで壁を頼りにズルズルとへたり込んだ。すると誰もいないことで姿を現した綾兄が「朔!」と私の名を呼びながら焦ったように地面に膝をついて私の頬を挟み込んでくる。

 

「朔、一体何が……?」

 

「綾にぃ、……あの顔が、あの顔を、私は知っているの」

 

焦点が定まらない。綾兄が歪んで見える。何人もなんにんもいるみたい。気持ち悪い。きもちわるい。

 

「今は黙って」

 

「知ってる、しってるのぉ、あのかおを、わたし、は……」

 

そうだ。思い出した。

あの顔は。

 

奴らに襲われた時の、顔だ。

力でねじ伏せられ自由を奪われ、人としての尊厳を踏みにじられた行為。

弱者は強者には勝てないと体に歪んだ形でねじ込められた、あの日。

あの日の私と、鈴井志帆は同じ。

 

途端に戦慄が私の体を駆け巡り、封じ込めていた感情が迸り私は気づけば絶叫をあげていた。

 

「嫌ぁぁあああああぁぁあああ―――――――――――!!」

 

「朔っ!?」

 

驚愕する綾兄を尻目に私は頭を抱えてただただ叫ぶ。恐怖に顔を歪めてボロボロと涙を零す。

 

「朔っ!落ち着いてっ!!」

 

「いやぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――」

 

あれは私!あの時の私!!

鈴井志帆はあの時、私。

 

「朔!!」

 

綾兄が私を落ち着かせようと肩を掴んでくる。でも恐怖で混乱している私に綾兄の行動は私を拘束してくるように見えてしまった。

アイツラだ、アイツラがまた私を追い詰めようとやってきた!

 

バッと手を振り払って私は横に転がり逃げ出す。

 

「来るな来るな来るな来るなぁぁあああ―――!!ヨシノタユウぅぅう!」

 

召喚銃がないまま、私はあの青く光り輝くカードを出現させて強く握りつぶす。そしてペルソナ、ヨシノタユウを呼び出した。伽羅の香りを纏って現れる優美で艶やかなもう一人の私。

 

「なっ!」

 

「アイツラを、殺せっ!!」

 

私の目に映るのは綾兄ではない。敵だ。私を追い詰める悪魔共だ。そう認識した私は大声でヨシノタユウに命令した。コクリと頷いたヨシノタユウからメギドラオンが放たれようとしている。

 

「朔っ!駄目だっ」

 

綾兄の声で私と止めようとするなんてあざとい奴ら。許さない許さない許さない。殺してやる殺してやる殺してやる!!

 

一つの感情に突き動かされている私は「やれ!」とヨシノタユウを促す。

その一手で全てが消え去る寸前だった。けど。

 

「そこまでにしてもらうわ」

 

鋭い女の声と共に首にチクりと走る痛みが私を襲う。

 

「なっ、に……!?」

 

反射的に首元を抑えると何かが私の皮膚に刺さっていて、小細工を!と舌打ちしそれを強引にブツッと抜き取り地面に投げ捨てる。よくよく確認すればそれは小型の吹き矢のようなもの。

 

動きを奪おうという魂胆か。

 

刺さった場所から血が少し溢れ出すのも厭わずに私は新たな敵を睨み付ける。

 

誰だ、私を殺そうとする奴は!?

血走った目付きで相手の顔を確認しようとするけど、なぜかぼやける視界。

 

「ヨシノたゆ、う?」

 

ならば、指示を飛ばそうとペルソナの名を呼ぼうとするけど口が回らない。世界が斜めに傾いて立っていられなくなり前のめりになる体でたたら踏むもそれは一瞬で完全に平衡感覚させ維持できないほどに私の体は急激な眠りによって行動の自由を奪われていく。それと同時にヨシノタユウも消えかかっている。私自身が保てないからだ。

 

駄目、まだ、敵が……!

 

私に誰かが必死に名を叫びながら手を伸ばそうとする行動を最後に私は意識を手放した。

 

 

暴走する朔の威力は並外れたものではない。しかも全力でメギドラオンを放とうとする彼女は理性の欠片もありはしなかった。綾時は朔を傷つけたくはなかったが、校内での戦闘しかも昼間となると早々に片を付けねばならないと断腸の想いで自身の力を解き放とうとした。だが、その前に予想外の乱入者が現れた。

 

白い白衣をなびかせて静かに佇む一人の女。

 

その者は顔見知りと言っていいほどの人物で、とても普段のだらけた様子からは想像できないほど冷静沈着な姿だった。彼女が朔に向けて放った吹き矢により朔は急激に態度を激変させ、抵抗を見せるもあっけなく地面に倒れ込む。綾時は朔が地面に着く寸前にぎりぎりセーフで抱き留めることに成功した。ふぅとインテリ眼鏡をかけた女が息をつく。

 

「間一髪だったわね」

 

「……お前は何者だ」

 

眠る朔を庇うように腕に抱きしめて綾時は低い声音で問う。すぐにでも攻撃できるよう態勢を整えて。すると女は茶目っ気たっぷりに一つウインクをした。

 

「保健室の安藤先生で、いいかしら?今回の事は上【上司】に報告させてもらうわ。さすがに暴走一歩手前で見逃しちゃうわけにいかないし」

 

綾時はしばし思案顔をし、

 

「……美鶴の部下か?」

 

と尋ね少しだけ警戒を緩めたが、まだ信じるには至らず不振の目を剥ける。安藤先生はワザとらしく肩を竦めてみせた。

 

「まぁ、そんなところ。統帥の可愛い可愛いモルモットちゃんには怪我させないようにキツク上層部には言われてるから間に合ってよかったわ」

 

朔をモルモット扱いだとほざく女に憤りを覚えずにはいられなかった綾時。すぐにでも消してやりたい衝動に駆られる。

 

「……随分と舐めた言い方をするねぇ。……気に入らないなぁ」

 

「そう殺気出さないでくれるかしら?一応ここ学校なのよ」

 

それとなく釘を指されるが綾時は構わずに仮称安藤先生を脅した。

 

「だったら発言には注意することだね。僕は気に入らない者は徹底的に潰す主義だから容赦はしないよ。人間でもね」

 

人外相手に怖がる素振りも見せずに余裕な態度を見せる安藤先生は不敵に微笑んだ。

 

「肝に命じさせてもらうわ。悪いけど佐倉は保健室運ばせてもらうわよ。ここからは私(安藤先生)の出番ですから」

 

だが朔をすんなりと手渡したくない綾時はけなすいい方をした。

 

「………君に朔が運べるのかい。そんな貧弱ななりで」

 

「貧弱とは失礼ね。女子一人くらい余裕で運べる力はあるわ」

 

しばしにらみ合いが続いた結果、仕方なく仕方なく!綾時は朔を託すことにした。自分が姿を現すわけにはいかなかったからだ。だからといってそのままルブランに連れて行くわけにもいかない。考えあぐねいたすえ涙の決断である。

女の背後にべったりとくっ付いていることでおかしな動きをすれば首一つ飛ばすつもりだった。

 

「少しでも変な真似したら覚えておいて」

 

「わかってるわ。過保護すぎると嫌われるわよ」

 

「なっ!?」

 

絶句する綾時に安藤先生は喉を鳴らして女の細腕で朔を姫抱きして保健室まで運び、その後惣治郎に迎えに来てもらう為電話を掛けたのであった。

 

その後、朔は突然の電話に驚愕し保健室に転がり込んできた惣治郎によって家まで運ばれることになった。酷く取り乱しエプロンを着けたままの状態で学校にやってきた惣治郎はベッドに寝かせられている朔を見て顔を青ざめよろよろとベッドの傍について眠る朔の髪を撫でた。

 

「……先生っ!朔は一体どうしったってんだ!?」

 

「実は……」

 

幸い、過労と今日の事件のことがショックで倒れたという説明により惣治郎は納得したので怪しまれることはなかったが暫く学校は休ませるということになった。

 

 

一方、朔のことなど知らない蓮達は三島を問い詰めたことにより一連の首謀者が鴨志田であることを知る。鈴井志帆が鴨志田の鬱憤晴らしに利用されたことを知り怒髪天を衝く勢いとなったが、奴は権力を振りかざし蓮、竜司、三島に退学処分を言い渡した。今度の理事会で取り上げ正式に退学させると脅し、下卑た笑みを浮かべた。蓮と竜司はモルの協力を得てカモシダパレスに潜入し、オタカラを盗むことで罪の告白をさせようとたくらむ。一度、朔と連絡を取る為電話を掛けるも留守電に切り替わったので伝言だけは入れておいた。

 

さて、そこに高巻杏が聞き耳そばだてて異世界ナビであちら側に巻き込まれる形で行くことになる。一度はジョーカー達に追い返されるもなぜか杏のスマホに異世界ナビが入っており彼女はそれを使用して単独でカモシダパレスに潜入してしまうことになった。その先でシャドウに見つかってしまい捕らえられてしまうことに。いち早く杏の危機に気づいたモナの言葉により杏の元へ駆けつけるとそこには複数のシャドウに刃を突きつけられ四肢を縛り付けられ身動きが取れずにいる彼女とシャドウ鴨志田の姿があった。杏の危機にジョーカーたちは彼女の命を盾に出されただ見ていることしかできずにいた。言葉の暴力で杏は弱気になるが冷静なジョーカーからの

 

「また言いなりか?」

 

との問いかけに目の覚める想いとなった。ずっと我慢して我慢して従っていればいつか解放される時が来ると思い続けていた。逃げていたのだ、現実から。目を背けていた。だから鈴井志帆は鴨志田の犠牲となった。

弾ける意識と心の奥底で眠っていた反逆の力が目を覚ます。

 

「もう、我慢しない!行くよ、カルメン!」

 

男を虜にする妖艶な踊りの美女。カルメンと共に世界に反逆の意思を掲げた杏は勇猛果敢に強敵に立ち向かった。

ここにまた新たな怪盗の仲間が集った瞬間だった。

 

その後、杏の活躍もあって強敵を退けるも初めてのペルソナの目覚めと戦闘により疲弊し混乱した杏を連れてジョーカーたちは一度現実世界へと戻ることにした。そこで、鴨志田のこれまでの罪を告白させる手段としてオタカラを盗むことを杏に説明すると自分も一緒にやりたいと願い出る。もとより仲間が少ないことを懸念していたので蓮達は喜んで杏を受け入れた。

 

ふと思い出したようにスマホを取り出した蓮はいまだ朔から音沙汰がないことに違和感を覚えた。

 

「そういえば、朔から連絡が中々ないんだけど、どうしたんだろう」

 

「あん?用事でもあるんじゃねーの。アイツ、薄情っぽいし。オレ達に協力しようとしねぇしよ」

 

投げやりないい方をする竜司に対してモルが目を吊り上げて蓮のバックから飛び出してリュージに飛びかかった。

 

『サクはそんなんじゃねーぞ!?馬鹿リュージ、適当な事抜かしてんじゃねー!』

 

「うわ!爪立てるなっ」

 

シャーと毛を逆立てて怒るモルを抑えようと格闘する竜司。実は蓮も今の発言にはちょびっと怒った。なので助けようとはせずに傍観している。慌てた杏が仲裁に入ったことで竜司から引き離され杏によって宙ぶらりんに抱き上げられたモルは「うぅ~」と唸って竜司を睨みつけている。

杏はため息をついてモルを蓮のバッグにしまい込む。

 

「……前から思ってたけど佐倉さんって、アンタたちとどういう付き合いなの?」

 

「付き合いって言うか、あっちの世界の事知ってる。勿論モルの事も」

 

そう簡潔に蓮が説明すると杏は目を瞬かせた。

 

「……それって私達と同じ力があるってこと?」

 

『ああ。サクはオレと出会う前からペルソナ使いをしていたらしいぜ。リョージもそうだ』

 

「……リョージ?って」

 

途端に口を滑らせたことを知ったモルは慌てて口元を前足で塞ぐもすでに遅し。

 

『……あっ……。やべっ!』

 

「モル、それってもしかして朔の背後霊じゃないか?」

 

にこやかに微笑む蓮に首根っこ引っ掴まれてバッグから引っ張り出されたモルは『ギクゥ!』と分かりやすいリアクションを取る。杏が不思議そうな顔をして竜司に「背後霊?なにそれ」と尋ねるが、竜司は「知らねぇ」と首を横に振る。

その間にも蓮はモルガナに迫る。

 

「モルガナ。正直に答えたほうが身のためだぞ」

 

「ニャ、ニャー!」

 

「こんな時だけ猫の振りするなよ」

 

呆れたように竜司が突っ込んだ。意地でも口を割ろうとしないモルガナにしびれを切らして、だったら朔に直接訊くと蓮は早々に仲間に別れを告げて佐倉家に向かった。

だが家に向かう前ルブランの目の前を通ったら、いつもは開いている店がcloseのプレートが下げられていて変だなと思いつつ、佐倉家に向かえば暗い顔をした惣治郎が蓮を出迎えた。

 

「……あ、おじさん。ただいま」

 

「ああ、お帰り」

 

「どうかした?顔色が、悪いよ。それにお店も閉まってたし」

 

そう言って慣れた動作で玄関に腰掛けて靴を脱ぐ。

 

「……お前は、知らなかったのか?」

 

「何が?」

 

動きを止めて自分の後ろに立つ惣治郎を見上げると、彼の口から信じられない言葉が出た。

 

「朔が、……学校で倒れたんだよ」

 

「……え……」

 

そこで初めて、蓮は初めて朔が学校で倒れたことを知った。バッグに入っていたモルが『サク!?』と声を上げて飛び出して素早く階段を駆け上がって行くのを呆然と見送るしかなく、惣治郎の説明を右から左へと聞き流していた。

 

「今部屋に寝かせてる。過労と、今日学校で飛び降りあったって?それがショックでぶっ倒れたらしい。暫く店は休む。朝飯は夕飯と同じでこっちに食べに来いよ」

 

「あ、うん……。おじさん、朔の様子見てもいい?」

 

「おう。顔見せてやれ。双葉も泣きつかれて部屋に寝かせたとこだ。今なら顔見られる」

 

惣治郎の娘、双葉とは顔見知りだが極度の人見知りであるため滅多に顔を会わせることはない。たまに後ろ姿とか朔の部屋にパパッと逃げ込むところなんかは見たことがある。

泣きつかれたということは双葉にとってもショックだったということ。

 

「ありがとう」

 

許可を得た蓮は重たい足を上げて階段を昇って行った。

今も朔が倒れたという事実をうまく受け止めてきれていない。

朔の部屋の前にはモルが前足でカリカリと何度もドアを開けようとしていて、蓮が上がってきたことに気づくと

 

『おい!ドア早く開けてくれっ』

 

と切羽詰まった声で頼んだ。猫の姿では朔の部屋に入ることもできないのだ。いつもはこの部屋の主がドアを引っ掻く音が聞こえればすぐに開いていたドアも今は固く閉じられている。

蓮は黙ってドアに手を掛けた。ほんの少しの隙間から身を滑らせて先に入り込むモルに続いて蓮も部屋へ入っていく。

そこには、ベッドに横たえられ眠りについている見慣れた少女と、その横に腰かけて朔の手を握りしめ見守る青年がいた。モルは青年がいることに構わずベッドへと飛び上がって『サク、サク!』と必死な声で少女の名を呼びながら頭をこすりつけた。

 

『リョージ!サクはなんで倒れたんだよっ!?』

 

「……過労とされてるよ。表向きはね」

 

『なんだそれ、他に理由が……?』

 

普通の人間ならモルガナの言葉など分からないはずなのに平然と会話をする青年。それは蓮が視た朔の背後霊だった。

ふと、その青年が顔を上げて立ち尽くす蓮に視線が向けられる。

 

「やぁ、雨宮君。朔が日頃からお世話になっているね」

 

背後霊は場違いな笑みを浮かべてこう挨拶をした。

 

「僕は、望月綾時。初めまして、じゃないね。ワイルドの力を持つ者よ」

 

吸い込まれそうなほど彼の澄んだ瞳が蓮に向けられるが、蓮にはそれが好意ではなく敵意を抱かれていることを密かに感じた。

 

【彼は滅びの宣告者】

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