笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。 作:サボテンダーイオウ
では本編どうぞ。
とある少女の行動。
電撃的な出会いの次の日、ヴァレリ師匠に会いに行きました。いつもの言葉遣いも出ないくらい緊張してます。でも門前払いくらいました。師匠から
「『手土産もなしに厚かましい。まずは礼儀というものを学んでから出直してこい』、だってさ」
と見知らぬ少年へ言付けされドアをバン!と閉められました。
次の日、再度チャレンジしました。ちゃんと手土産も持って行きました。また門前払いくらいました。師匠から
「『好みのお菓子じゃないからいらない』だとよ」
とまた少年に言付けされました。少年に師匠の好みを尋ねたら、真っ赤な林檎を使ったアップルパイだそうです。しかも手作りの。急いで家に帰ってシェフに頼んで作ってもらうことにしました。
またまた次の日、今度こそリベンジを決めると意気込んでドアを叩きました。そしたらぽややんとした美人さんが出てきました。出来立てのアップルパイが入った箱を差し出して師匠に会わせてもらおうとしたけどその前にぽややんとした美人さんに
「あらあら、いらっしゃい。とっても楽しみにしてたのよ、さぁ中に入ってお茶にしましょう」
と手を取られてなぜかぽややんとした美人さんと一緒にお茶をしてました。アップルパイは好評でした。家のシェフが作ったんだから当然。えっへん!
始終ぽややんとした美人さんと楽しいお茶会はあっという間に時間が過ぎて行きました。気が付けば従者が迎えに来ていてぽややんとした美人さんに見送られて馬車に乗って家へ帰りました。部屋に帰ってから侍女のマキに
「ヴァレリ師匠様に会えましたか?」
と笑顔で質問されそこで初めて目的達成してなかったことに気が付きました。
またまたまた次の日、手土産の第二弾タルトタタンを持って約束をしっかり付けていざ面会へと意気込む私の前にまたもあの少年が出てきました。
今度こそヴァレリ師匠と面会をと意気込む私に少年は引き気味な顔で
「とりあえず中入れば。よく懲りないよな、お前。見た目と違って根性あるんだな」
と褒められました。でも師匠はいませんでした。日頃の鬱憤晴らしに盗賊退治へ出かけたらしいです。ドタキャンされました。でも私はヴァレリ師匠のアクティブさにますます尊敬の念を抱きました。煮詰まった時の斬新なストレス発散法。素晴らしいと思います。ぜひ私も真似してみたいとなぜかお茶している少年に高揚とした気持ちを伝えたら、
「お前には無理だからやめとけ、おばさんだからできるんだよ。アレ絶対人間じゃねーし」
と言われました。少年の名前はジークというみたいです。あのぽややんとした美人さんの息子さんらしいのですが、お茶会がいつの間にやら愚痴の席に変化しておりました。まだまだ若いのに色々と苦労してるみたいです。お母さんであるメリエルさんが重度の迷子症らしくご近所でも数秒目を離した瞬間に迷子になっているとのこと。ここまでくると拍手を送りたいくらいです。
ジークは今から将来禿げないか心配していました。ふさふさしてるのに大変だねと労いました。そしたら結構精神的にキテるのか若干涙ぐみました。
私は彼を慰めながらタルトタタンもっと食べなよと勧めました。
愚痴だらけのお茶会はあっという間に終わってジークが見送ってくれる時、また愚痴聞いてくれよと言いました。
家に帰るとマキが今度こそヴァレリ師匠様にはお会いできましたかと尋ねてきたので愚痴を聞いてきたと言いました。そうしたらマキは困惑していました。私もこのままではヴァレリ師匠に一生会えない予感がして何とかこの状況を打破できないかと考えた結果、家出することにしました。
そこで就寝間際、マキに家出の準備をしてほしいとお願いしました。するとマキはお嬢様が家出なさるのなら私も付いて行きますと願い出てきた。
マキに苦労させるわけにはいかないので説得しましたがマキは頑なに拒みました。まったく強情で可愛いマキです。
なので仕方なく二人で家出することにしました。家出の支度を終えた私とマキはこっそりと朝方家専属の御者であるカルロスの元を訪れました。そして家出するのでヴァレリ師匠の家に向かって欲しいとお願いしました。
するとカルロスは驚愕して私の足にしがみ付いてお嬢様が家出なさるならオレもぜひ一緒に!と離れてくれません。見た目子供に抱き着く大の男。絵的にカルロスが圧倒的に不利になります。私はすぐにでも出発してほしいのと離れて欲しい気持ちで、私を助けようとしがみ付くカルロスに遠慮なくゲシゲシ足蹴するマキとそれでも粘り強く離れない必死なカルロスを仲裁しました。結局マキとカルロスを伴ってヴァレリ師匠の元へ向かいました。
「たのもう!」
「……お前今何時か分かってんの?てか何しに来てんだよ」
夜中の3時半です。
「ヴァレリ師匠に会えないから家出してきた。居座らせてください!」
「阿保か!」
正直に言えばジークに怒られました。でもなんだかんだ言ってジークは家の中に私達を入れてくれました。マキとカルロスには大人二人して子供のやることに付き合って何してんだと呆れたように説教していましたが私は眠くていつのまにかウトウト。寝ていました。朝起きたらメリエルさんのドアップ。
「可愛らしいお顔ね、おはよう。よく眠れた?」
「は、はい」
「お嬢様、おはよございます」
「マキ」
今日も可愛いメイド姿のマリー。背中には愛用の【ティソーナ】がありいつものようにマキの背後を守っています。完全無敵のメイドです。隙がありません。
「お褒め頂き身に余ることでございます。ですがお嬢様こそ私唯一の弱点なのでしっかりと死守(小賢しい虫はすり潰す)したいと思います」
「あらあら、頼もしいわマキちゃん。元勇者なだけあるわね」
「いえ、かつて最恐最悪とまで恐れられたローレライ様には到底及びません」
「うふ!やぁねぇ〜。あれこそ若気の至りというものよ。それに姉様方の方がもっとすごかったんだから」
二人で話が盛り上がっているところなんなんですが、お腹が空きました。ジークが扉の隙間からこっそりと手招きして私を呼んでいます。私は二人に気づかれないようにコソコソとほふく前進移動してジークの元へ。
「お前んとこのメイドヤバくない?」
「マキは可愛いメイドなの。だって本人がメイドだって言ってるんだし。背中の【ティソーナ】はマキの家でのしきたりだって」
「何処の家に四六時中剣背負うメイドを輩出するんだよ……。それにあのカルロスって奴おかしいぜ。だって天井にぶら下がって寝てるんだぞ。引力とか無視してるしやたらと家の中に蝙蝠いるし」
「カルロスは寝相がすごく悪いからきっと天井に移動しちゃったんだね」
「そういう問題じゃないって。まーいいや。朝飯食おうぜ」
「うん」
ヴァレリ師匠はまだ盗賊退治から帰っておらず私はヴァレリ師匠が帰ってくるまで居座ることにしました。でも朝食を食べ終えた頃、父様が迎えに来て強制的に家に帰ることになりました。
また次の日ヴァレリ師匠の家に行きました。懲りるという言葉は私の辞書にはないのです。でも諦めない姿勢が報われました。ついに盗賊退治から帰って来たヴァレリ師匠と会えたのです。
「師匠!弟子入りさせてください!」
「駄目だ!」
「駄目だと言われても諦めないのが私!ふぁいとー!」
とりあえずヴァレリ師匠に気に入れられようと、アップルパイを大量生産できるような発明を作ってみようと思いました。肝心のアップルパイの味についてはアドバイザーである家のシェフにお願いしました。彼は『筋肉で料理と語り合う』という有名な料理家で何人ものお弟子さんがいるようです。私の熱意にシェフも感動の汗を流してくれました。感動の涙じゃなくて感動の汗でした。暑苦しい事子の上ないのですが、協力してくれるのでありがたいと思わなければいけないのでしょう。
【シェフの名前はハガーです】
※※※
雨宮蓮という少年は実に模範的だった。敬愛する両親に愛され学校では普通の成績で普通の友人に囲まれ非行に走ることもなかった。真面目で礼儀正しく誰に対しても優しい少し控えめな少年。だが一つだけ抜きんでた所があった。それはいかなるゲームに置いても彼が負けることはなかったということ。友人とのゲームでも父の趣味であるダーツにおいても彼が一度として負けることはなかった。
「蓮、すごいじゃないか」
「そんなことないよ、父さんの教え方が上手いからだよ」
「そうか?いや~、蓮は口が上手いな~」
遠慮がちに微笑んで相手の機嫌を【損ねることがないよう謙虚なフリ】をする。そうすることで日頃上司と部下との間で気を病んでいる父親を持ち上げて場の雰囲気を和らげる。
「あら、手伝ってくれるのはいいけど勉強はいいの?」
「大丈夫だよ、母さん。そこそこだけど基本はできてるから」
「ありがとう。貴方は優しい子ね」
「俺みたいな奴なんて一杯いるよ」
母親にとって理想の息子であるよう【夢を抱かせてあげる】のも楽な話だ。それは周囲に相乗効果をもたらし、雨宮蓮という少年はご近所でも評判の少年と認知される。自慢好きでお喋りな母親ならではのお陰である。
彼は模範的でありながら、非常に飽いていた。偽りの自分を演じることも、それに騙されいい様に操られる人も。彼は、飽いていた。この変わらぬであろう現実に。
彼は全てにおいてパーフェクトであった。生れながらの能力が、天賦の才か。だが性格は多少捻くれておりその現状に飽きていた。
(今日も変わらない日常だった)
だから、まるで演出されたかのように待っていたあの冤罪は彼にとって好機でもあった。全て積み上げた来たものを一気に壊すことは爽快で今まで体験したことはない愉快なものだった。彼を満足させるには物足りないが、自分の今までの面白味もない経歴を吹き飛ばすようなものだから。だから彼は事件を起こした。
(まるで俺の為に用意された盤上じゃないか)
大物政治家、獅童正義。民衆から高い支持率を得ているらしいが、どうにもきな臭いと蓮は感じていた。だからこそ、あの無茶っぷりなのだろう。蓮が助けたはずの女性を脅して逆に暴漢と訴える強引さ。お陰で雨宮蓮は地元を追い出されることになった。
「蓮、私はお前を信じているぞ」
「そうよ、蓮。きっと何かの間違いだわ」
そう言って多額のお金と引き換えに佐倉惣治郎の元へと託した両親は心底蓮を信じている。たった一人息子の為に。大物政治家相手にそう簡単に冤罪が覆ろうものか。
「行ってきます。父さん、母さん」
寂しそうな笑みを浮かべる蓮に母親はたまらず涙を零して抱きしめた。そして父親は大丈夫だと蓮の肩に手を置いて送りだした。
少しはこの退屈な日常から変化を、と期待したもの。その当ては外れることなく今までにない世界を蓮に見せつけた。
佐倉惣治郎が経営する喫茶の3階に住むという先輩同居人。
名を、佐倉朔。彼女は蓮にとって非常に興味深い存在だった。無表情でありながら周囲に存在を知らしめるほど圧倒的存在感を放ちつつ彼女はそれに興味を示さない。それどころか彼女は他者との交流を拒むようにクラスの中で浮いている。
笑いもせずいつも別の世界を見つめている朔の瞳が気になった。これは新たなゲームを始められる兆候ではないか。
(面白い)
彼女を自分の方に向かせ、笑わせる。卒業までに自分の世界に引き込む。
だが間に合わなければ自分の負け。潔く地元に戻る。
これは彼女との密かなゲーム。
佐倉朔が知らずとも彼女はゲームの参加者になっている。
だからこそ、あの日、あの背後霊が姿を現した時これは本物だと蓮は確信した。メメントスで活躍する時は、モナ。日常の中で過ごす時はモル。そういう風に自分たちを同じように名を使い分けて過ごしているモルは、望月綾時という人物が蓮の前に姿を現した事は驚いていてものの、逆に姿を明かしても大丈夫だと判断したらしく、眠っている朔の傍に付いた。いつも余裕ぶっているモルが嘘のように憂色を浮かべている。それほどにモルにとって朔という少女は大切な部類に属していると理解できる。
その眠れる姫を守るようにいつも背後霊の如く付き従っている者はようやっと姿を現す気になった。
「本当なら僕は姿を現すつもりはなかった。けど君は可愛いい朔に思いのほか影響を与えているようだからお願いというか、忠告をさせてもらおうと思ってね」
「忠告?」
はやる気持ちを抑えて蓮は酷く驚いたような顔をした。背後霊、もとい望月綾時は蓮に理解するには少し説明不足な単語と共に言葉遊びのようないい方で牽制する。
「いくら君がトリックスターだとしても、終焉を終わらせることはできない。最後に朔が選ぶ選択肢を君は止められる権利はない。だから君は黙って朔の選択肢を受け入れることだ。どんな結果であれ、君には受け止めて欲しい。それが朔の願いなのだと」
もったいぶったいい方をする。ハッキリと邪魔だと言えばいいのにと蓮は思った。
「あと適度な距離で頼むよ。君はどうにも朔に肩入れしすぎている節があるからね」
「わかりました」
蓮は物分かりがいい態度を装って、心の中で笑った。
このゲームは楽しめる。
彼女が何処へ向かう世界かは分からないが、もし彼女が自分がいる世界を選びなおかつ笑いかけることがあれば、それは自分の勝ち。
だがもし彼女がその世界を選んでしまったのなら、自分の負け。
なんて単純かつ、奥が深いゲームなのか。
頭を捻って行動に移し、なおかつ会話のやり取りまで周到に計算しつくさねば彼女は興味も示さないだろう。
目の前の背後霊?そんなもの気にする必要もない。ゲームの中のキャラクターとでも思えばいい。そう、蓮にとって自分と朔以外はゲームの中の駒。チャレンジャーである自分と朔だけ。
新参者のペルソナ使いと古参のペルソナ使い。経験の差は歴然だ。だが蓮はゲームに勝つために実に貪欲だった。己の隠された実力を隠すことなく全力で発揮させ生まれて初めて扱った玩具の銃も認知世界で軽々と使いこなした。武器だってそうだ。
斬るなんて感覚、一度として味わった事はないが何より体が先に動いた。
ゲームに勝つ為。ただそれだけの為に蓮は全力を尽くす。
それは今もそうだ。無事に最初のゲーム【色欲の裸の王様】をクリアした。その証拠に鴨志田は自宅謹慎と称して家に閉じこもっていると担任の川上から聞いている。理事会で理不尽にも退学処分されそうになっていたが先手を打った事で状況は変わった。最初の掴みはこんなものかと冷静に納得する蓮の隣で坂本は川上からの話に半信半疑と言った様子だった。五月二日までまだ時間はある。モルの案内でメメントスとやらに足を運ぶのもいい。退屈を紛らわす暇つぶしにはなるはず。
深い思考の外側で身支度を慌てて整えて階段を下りてくる音がする。蓮は意識を外の世界へ向けた。慌てて制服に着替えたのか所々衣服に乱れがあるようだ。後ろにはしっかりと背後霊がいた。目線もバッチシ合う。蓮はワザとらしくにこっと笑みを作ったのに対し相手は露骨に顔を歪めた。そんな二人のやり取りなど知らずに朔は玄関で待っている蓮に申し訳なさそうに一言謝った。
「ゴメン!」
「大丈夫だよ。慌てて階段降りてきたら落ちるよ」
朔が喧しく階段を下りてきた音で台所からエプロンを着けた惣治郎がやってくる。ついでにモルも。
「朔!メシは!」
「いらない~!遅刻しそうだもん」
朔はそう言い返しながら横にリュックを玄関に座って靴を履く。モルが呆れたように『またこのパターンか』と呟いて慣れたようにリュックの中に身を滑らせて入る。
「はぁ、モルが起こしに行ったってのに今日もこれか」
「おじさんはいつも一言多いの!」
眉間に皺を寄せて惣治郎を一睨みしてから朔はモル入りリュックを背負い立ち上がった。
いつもならルブランの三階で暮らしている朔もあの事件から彼女の体調を気遣う惣治郎によってルブラン禁止令が下り佐倉邸での生活を送っている。蓮はどうして朔が鈴井志帆の自殺未遂事件を『認知していない』かのように振舞うのか理由を知ろうとは思わなかった。周りの人間も朔をあの事件から遠ざけようとする節があるのを薄々感じ取っているが今の所興味は沸かない。知ろうと思えばいくらでも突ける。だがそれを行うことによりこれから自分の今作り上げた立場を不利に追い込むような気がするのだ。
佐倉惣治郎、望月綾時、モルガナ、その他朔と交友関係にある蓮の知らぬ人物。彼らから雨宮蓮は朔にとって有害な人物と印象付けてしまうのは良くない。出来るだけ距離を保ちつつ無害を装っていた方が後々ゲームにおいて有利になるだろう。真相を知るのはまだ早急すぎる。
朝、習慣となりつつある朔を迎えに行く行動パターンも慣れたもの。そう、これも朔の生活領域に溶け込むための手段に過ぎない。
「じゃ、行こうか」
「うん」
蓮が先に玄関の戸に手を掛けた。だが朔は思い出したように蓮を呼び止める。
「あ、待って」
「うん?」
振り返る蓮に朔は無表情でこういった。
「おはよう、雨宮君」
蓮は目を瞬かせて律儀だなと思いつつ、少しだけ口元に笑みを浮かべ返した。
「……おはよう、朔」
今日も雨宮蓮は佐倉朔とゲームをする。
どちらかが勝者となり、どちらかが敗者となるまで。
一方的なゲームを仕掛けるのだ。
【だから笑いなよ、朔】