笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。 作:サボテンダーイオウ
魔女の鏡は隠れた己を映し出す。それが演出であろうとも。
今日も魔女は鏡に向かっていつもの台詞を唱える。たとえ腹黒い姫の所為で毎日魔法の鏡に向かって『鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?もちろん私よね』なんてナルシストぶりを発揮していると城中の者に言いふらしていたりしてたとしても全く構わない。
魔女が作った鏡は決してナルシストを開花させる為のものではなく、自分の優柔不断をバッサリと斬ってもらう為なのだ。
「鏡よ鏡。答えてちょうだい。今日中に仕上げなくちゃならない依頼の品が二つあるのだけどどちらを優先させた方がいいかしら?毛根が死滅してしまっても再復活させられる毛生薬?それとも浮気夫をぎゃふんと言わせる女体化薬?」
『主様~、それどっちもアリっしょ?ここは死ぬ気で両方仕上げるでオッケー』
軽い調子で答える鏡の向こうには見た目軽そうな女が映っていた。
「お前は主を死なせる気なのね」
『だってこっちが答えなくちゃ下らないことで納期が遅れるでしょう。逆に感謝してほしーっていうかー』
自分で創っておいてなんだが、人格設定に失敗したと思う魔女であった。もうちょっと主を敬う魔法の鏡にしておくべきだったと後からの祭り。でももう一枚作る気になどなれない。だってかったるいから。
「髪の毛いじりながら答えないで欲しいわ」
『かったるいわ~』
魔女と同じ気持ちなのがさすが以心伝心と言ったところか。
「もういいわ。ありがとう」
『あ、そういや小猿みたいな姫森の中で小人七名とランデブーしてるけど~いいスか?』
「ああ、それね。私が姫を殺そうと猟師に暗殺を頼んだとかなんとか理由付けて居座る気なんでしょうよ。逆にその猟師に蹴り入れてリンチして鬱憤晴らししてたのはどこの誰かしらね。どうせ暫く帰ってこないでしょう」
『主様が気にしないならいいけど~、ちょっと気になることあるんだよね~』
「そう?私はどうでもいいわ。まずは納期をクリアすること」
『その意気でガッポリ稼いで艶出しクリーム買って欲しいかも~』
「間に合えば、ね」
魔女はそう言い残し作業に取り掛かるために鏡に背を向けエプロンを装着し始めた。どちらから取り掛かるか時間との勝負。
ぐつぐつと煮えたぎった大鍋と材料が詰まった棚やら魔法の本やら呪術の本などが揃った年季の入った本棚など必要な機材に囲まれ魔女はまず最初の一手に取り掛かった。喉の調子を確認し、すぅっと胸に空気を吸い込んでグッと腹に力を籠める。
意識を集中して瞼を閉じ、唄を紡ぎ始める。
『―――♪』
理解できない言語が羅列された一つの音は次第に魔力を辺りに漲らせていく。それに影響を受けて材料や本などが宙にふよふよと浮かび上がり詠う魔女の頭上で円を描くように踊りだす。
魔女の薬づくり、基本一つの場合は手作業だが同時進行となるとそうもいかない。なので自分の手を動かすのではなく、必要な物たちに動いて作ってもらうのだ。人はそれを手抜きと呼ぶ。だが高度な技術が伴うと共に集中力も途切れさせないようにしなければならない。あくまで魔女の魔力で動いているのだ。決して意思があるわけではない。
魔女は、悪役王妃であるが同時に偉大な魔女と裏の世界では有名なのだ。
【器用貧乏】
※※※
※
この物語はフィクションである。
作中のいかなる人物、思想、事象も、全てまぎれもなく、貴君の現実に存在する人物、思想事象とは無関係だ。
以上のことに同意した者にのみ、このゲームに参加する権利がある。
【同意する】
【同意しない】
貴方は【同意する】を選んだ。
……確かに承った。
いま世界は、あるべき姿にあらず。
歪みに満ち、もはや「破滅」は免れない……
定めに抗い、変革を望む者……
それは時にトリックスターとも呼ばれた。
汝、トリックスターよ……
今こそ、この世の歪みの深淵に立ち向かうがいい。
※
……なんて、イゴールのおじさんが格好つけていってるかもしれないけど私には破滅なんで関係ない。壊れるなら壊れてしまえばいいと思ってる。何のために湊兄が犠牲になっているのか、その大半の人間は知らずに毎日己の欲望を満たすことだけど考えてせかせかと生きている。
昼間は高校生の顔。夜は見習い怪盗の顔。
モルガナは怪盗だなんて洒落たこと言ってるけど、ようは泥棒なわけで。毎日寝不足だ。
……訂正、不眠症だ。
ここ二、三年はぐっすり眠れたことなんてない。一度もない。
魘されて夜中に起きることなんて当たり前だ。
憎いのはあの大人、あの大人、あの大人。あとあの女共。アイツらが私をせせら笑い無様だと嘲笑う。親が親なら娘も娘だと罵る。たった一人の母さんを馬鹿にして死に追いやったアイツら、憎い憎い憎い、消してやりたいこの世から完全に抹消してやりたい。
信用できるのはほんの一握りだけ。でもそれでいい。私にはこの世界は壊れて見えるから。
※
2009年――秋。
私はある日、二人の少年と出会った。
一人は右目を青い髪で覆い隠しているどっかのキタローみたいな少年。もう一人は泣き黒子が特徴的な女子ばっかりナンパしている少年。どういうわけか、小学生の私はこの二人に懐かれた。というか可愛がられた。元々、一人っ子の私に兄妹という憧れもあってか、実の兄のように二人を慕っては懐いていた。
少年たち、あ、キタローの方ね。名前は有里湊。湊兄は私がワイルドという種類だと見抜き心底驚いていた。
勿論、私はワイルドなんて言葉理解もできなかったし湊兄もその時は詳しく教えてくれなかった。ただ、単純に凄いことなんだって。
もう一人の兄、望月綾。綾兄は私がとある事情から小学校のクラスの中でなじめていないこと、ご近所でも母親の仕事上良く想われていないことを知ると、心配だと言ってストーカーまがいのことをされたこともあった。でも私はそれが心配してくれていることなんだと嬉しく感じたものだ。今考えると気持ち悪いけど。
湊兄にベルベットルームに連れてってもらったこともあった。手を引かれて青いドアを一緒にくぐるとそこは部屋自体が巨大なエレベーターで、長っ鼻のイゴールおじさんやエリザベスが私の訪問をひどく驚いていたっけ。おじさんの鼻掴んで遊んだりもしたな。今じゃやろうとも思わないけど。
エリ姉とも仲良くなったのはあの頃から。弟よりも妹が欲しかったらしく、ペルソナ能力に目覚めていた私にエリ姉は諭すように何度も教えてくれた。男を従えさせてこそペルソナ使いだって。だから私は素直にそういうモノなんだって受け入れてる。私を鍛え上げてくれたのもエリ姉だ。感謝しなきゃ。
あ、エリ姉の弟は今じゃ私の担当なんだけどね。
テオは男でも平気。
でも私が認めた男性以外が視界に入るのも虫唾が走る。接触なんてもってのほか。でもその精神的苦痛に耐えて耐えて仕方なく学校にも通っている。電車通学が悩みだけど。
私の住まいは喫茶ルブランの三階。二階は物置き化していて下に降りる時も埃を立てないように注意しながら降りている。本当はおじさんとしちゃ私を家に住ませたいようでその考えは今も変わってはいない。時々、家に来いと声を掛けてきてくれるけど丁重にお断りしている。双葉もいるしおじさんだって子供の面倒二人も見るのは大変だしね。何より、こっちの方が動きやすい。色々と。でも夕飯に誘われたら行くようにしてるし、たまに双葉の様子を見に行ったり、部屋の掃除をしたりしてる。あの子ったらゴミだめの中で暮らしてるんだもん。前に言った時、謎のキノコが生えてて、思わず卒倒しかけたから問答無用で部屋から追い出して窓全開にして掃除しまくった。双葉はその間毛布にくるまって隅っこで丸まってたな。
終わったよーって声かけると脱兎のごとく部屋に駆け込んでくる。毎回同じ行動にため息すら出ない。いつか彼女が自らあの部屋を出られる切っ掛けが訪れればいいなと願っているけど、私にはそんな力はない。精々、双葉が夜寝れないってメールしに来たときに一緒に寝に行くぐらい。幻覚や幻聴に悩まされる双葉が少しでも休めるなら私はどんな時でも行くだろう。あの子と私は少し、似てるから。
※
今日も眠れなかった。もはや慣れっこの私はぼんやりとする思考のまま、綾兄の『朝だよー』との声とモルガナの『起きろー!』と腹部に喰らう突撃目覚ましにより起こされ着替えろ着替えろと促され「あー、うー」と生返事して制服に着替え一階へと降りていく。
朝から朝食の支度をして待っていてくれた惣治郎おじさんに欠伸をかみ殺しながら挨拶をすした。
「ふあ……、おはよ」
「朔、遅刻するぞ。早く食べちまえ」
その前に顔を洗いたいけど、ま、いっか。
促されるまま私指定のカウンター席に腰かけ、いつもの朝食メニューが出されるのをぼんやりと見つめる。
「……眠れなかったのか」
「うん」
「……またか、薬、ちゃんと飲んでるか?」
そういっておじさんは心配そうに眉を下げて、籠に入ってる私専用の薬を一緒に出す。
私はそれを受け取り朝、朝飲む分の薬を取り出す。
「飲んでるよ、でも効かなくなってきてるのかも」
平然と言う私におじさんは頭を掻いて困った顔をした。別に普通なことなんだけどな、私の中じゃ。あれ、これも飲むんだったっけ?増えすぎてわけわかんない。
綾兄が『それとそれとそれ、あ!あとこれもだよ』と後ろから教えてくれた。
「……定期健診、来週だったな。電話して早めてもらえねえか聞いといてやる。逃げるなよ、校門とこで待ってる」
「うん、わかった」
軽く返事するとおじさんはホントにわかってんのかとため息をついた。
前回の健診で逃げ出そうとした時があったからそれで警戒されてるんだと思う。だって病院、嫌い。
「いただきまーす」
おじさんお手製カレーがこじんまりと皿に盛られ私は両手を合わせてスプーンを手に取った。朝からカレー。これがないと私の朝は始まらない。
でも食べるペースはゆっくりでおじさんとしては見ていてハラハラするらしい。
いつも遅刻ギリギリで登校してるからなおさらかも。
でも、師匠には弟子の振舞いが気に入らないらしい。急に肩が重くなったと感じたら案の定、
「ニャー」
黒猫が私の肩に乗っかってきた。私は驚かずに
「モルガナ、重い」
と少し体を揺らした。むろん、落とす為である。けどモルガナったら爪立てるから痛い痛い。
「モルガナもさっさと食って行けとさ」
「はいはい。おじさん水お代わり」
さっそく空になったグラスを持ち上げ催促するとおじさんはグラスを受け取り冷たい水を注ぐ。
「ほらよ」
「ありがと」
おじさんにはモルガナの行動はダメな飼い主を一生懸命送り出そうとする健気な黒猫ちゃんに見えるかもしれないがこれがそんな可愛い対象じゃない。むしろもっと己の欲望に忠実な時もある。たとえばその面が一番発揮されるのは、夜。メメントスとか?
『サク、遅刻するぞ。いつものことだけど』
テレパシーみたいなもんが脳内に直接声として届く。
私はもぐもぐと口を動かして
『わかってるよ、いつものことだから』
と返す。
『わかってんならさっさと行けよ!』
『これが私だもん』
開き直るとゴン!と軽くモルガナが頭突きしてきた。
けど私は無視して自分のペースで食事を続ける。
『朔、今日は午後から雨らしいから傘持っていくんだよ』
『わかったー』
テレビの天気予報を見ていた綾兄の言葉に返事をしつつとりあえずゆっくりと食べ終えることだけに専念する。あ、今日そういえば鴨志田の体育だった。
保健室にサボろ。
『サクー!もう行くぞ』
『はいはい、顔洗ってからねー』
まったく、モルガナがこんなに世話焼きに変身するなんて思わなかった。
あの日、メメントスで出会うまでは。
【喋る世話焼き猫も乙なもん】
名前:佐倉朔
コードネーム:コーティザン
アルカナ:愚者【ワイルド】
私立衆尽学園高校二年生。
ブラックダイヤモンドのような瞳と髪色。
肩より下までの髪を無造作に後ろでバレッタで一まとめにしている。
他人を寄せ付けないような雰囲気を周囲に放ち、クラスの中で孤立しがち。本人は別に困ってない。整った容姿に(外見)に惹かれて告白されることもしばしば。でも一刀両断。相手を見下した態度をとるときもある。いつも億劫そう。ある意味教師から目をつけられているが成績優秀なので文句もつけられない。
子供のころはサクラサクという名前でいじられた。
居候先は伯父である佐倉惣治郎のお店。母親は中学生の時、病気により死別。父親は不明。
初期ペルソナ
『ヨシノタユウ』
かつて寛永三名妓といわれたうちの花魁、吉野大夫を彷彿とさせるペルソナ。
雲のように白い肌に目尻に沿わせた朱色のアイラン。目は開いておらず固く瞑っている。
絢爛豪華に重ね重ねに着込み下に引きずるほどの着物と様々な簪、そして特徴的な髪形。
側にはおかっぱ頭のおなじ見た目の禿が控えていてそれぞれ、タバコ盆とキセルを持っている。目元には赤い布が巻かれており口元は反対に可愛らしい笑みを浮かべそれとなく不気味さを感じさせる。
他、ペルソナ。
オルフェウス・改【愚者】
タナトス【死神】
アリス【死神】
ノルン【運命】
アリラト【女帝】
スカアハ【女教皇】
キングフロスト【皇帝】
メルキセデク【正義】
スルト【魔術師】
メサイア【審判】
なお、ベルベットルームへの鍵はすでに所持している。エレベーターボーイのテオドアが彼女の担当。