笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。   作:サボテンダーイオウ

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『異世界ナビ』よりも『目玉アプリ』の方がしっくりくる。



四月二十九日・佐倉朔

一応、佐倉朔は『桐条美鶴』に飼われている自覚はある。現役ペルソナ使いであると同時に多数のペルソナを扱うことが出来る『ワイルド』の持ち主。アイギスや、以前八十稲羽市の事件に関わった青年、そして雨宮君を入れた計四人がワイルド属性。だけど先輩たちが把握しているのは三人だけ。雨宮君の存在が知られるのは今後活動する上で不便になるのでなるべく情報漏洩には気を付けておこうと思う。

 

だってその道の研究者らにしてみれば恰好の研究対象なのだ。私が精神的に追い詰められた時、綾兄の手によって桐条傘下の病院へ転院することになった時も私の治療とペルソナとの因果関係を探る研究は同時進行で行われた。そのテストも凡人では理解しがたい内容だった。だが生きるモルモットと彼らに扱われようが別に構わない。私の許容範囲に侵入してこなければ目に止まるほどでもないのだ。だが一度邪魔をすれば容赦するつもりはない。

 

見た目女子高生だが相当なひねくれ者だと自分でも思う。補欠として扱われているがシャドウワーカーでの出動時なるものもたまに要請が掛かってくる。学生の身であることを考慮されているがまぁ大概私の体の具合とかペルソナ関連でのデータ取りだけどそれでも給料というのは発生している。母さんが生前私の為にと少しづつ貯金してくれていた口座を指定してそのまま積んでいる。お金の管理は全ておじさんに任せているし、そのお金に手を付けるつもりは一切ない。いずれ私がいなくなった後、今までの養育費としておじさんに受け取ってもらおうと考えているけどそう簡単には受け取ってくれないだろうなぁ。弁護士さんにお願いするとか頼んでおけばいいのかな。そこら辺は法律関係に詳しそうな人にでも尋ねてみるとしよう。

 

色々考えて見慣れた天井を見上げつつ、この『状況』から思考だけでも現実逃避させようとしているけど、なかなかに強情だ。この子は。

人のお腹の上でスマホいじりだしたわ。なんか前よりも行動が活発化してない?引きこもりはどうしたと訊ねたい。いや、最初に出会った頃よりもオドオドしなくなった。そりゃ私が生活改善を叩き込んでいったから彼女の歪んだ体内リズムを正常に戻せて言ったのかもしれないけど他は彼女の意思次第で変わる。ということは彼女なりに心境の変化があったということか。だから、『あの発言』なわけかと一人納得する。

 

「そろそろ飽きない?」

 

「朔がゲロするまで退かない」

 

ポチポチ指先を動かしながら彼女は視線を合わせずに言う。私は彼女の言葉遣いを窘めた。

 

「ゲロ言わないの」

 

「だったら教えて」

 

素直に教えるわけないじゃない。私は一言キッパリと断った。

 

「やだ」

 

「じゃ退かない」

 

これの押し問答がえーと何回目?だっけと数えるのが面倒になったくらいは続けている。幸い、おじさんはお店の方だしこの家にというか私の部屋には私と彼女二人っきり。モルは雨宮君に強制連行されてメメントスへシャドウ狩りへお出かけ。本人は私と一緒に行動したい~(可愛いというと拗ねるので言わない)と駄々こねていたが首根っこ掴まれては逃げようがない。私は「いってらっしゃーい」と手を振って「ニャ~~!」と暴れまくるモルと爽やかに手を上げて出ていく雨宮君を見送った。うん、頑張れ。

 

今日は四月二十九日。祝日だが私は午前中デートだった。秋葉原で。相手?勿論男、なわけない。

 

朝食の席で雨宮君から洒落こんでるねと言われ、デートだと茶化して答えればそれはそれは笑顔で「相手は?」などと顔を近づけて迫られ質問され朝から尋問されている気分になり胸糞悪い気分になった。私は素っ気なく「女性だよ、誰が男と何かと」と答えてマーガリンがたっぷり塗られた焼きたて分厚い食パンをガブっと噛んでその話題から逃げた。それからさっさと準備して待ち合わせの場所まで途中まで背後霊verの綾兄と出かけた。

風花姉はシャドウワーカーの中でもずば抜けて機械に詳しい人だったから、パソコンを始めたいとついこの間電話口で話題の種として振ったら、じゃあ私が選んであげようか?との提案をされ嬉々としてそれに乗ったわけである。

そして秋葉原にて、右も左も分からぬ店の中、あれやこれやと色々説明を受けて頭がパンクしそうになったけど最終的にはノートパソコンで落ち着いた。それも初心者の私でも分かりやすいシンプルかつ使いやすいのが特徴的なものを選んでくれた。お金の面を心配されたけど普通の高校生が持たないような金額は軽く蓄えてあるので問題はなかった。荷物持ちを買って出てくれた綾兄のお陰で私が重たいものを持つことはなく、お昼を食べる際立ち寄った洒落たカフェで風花姉からプレゼントだと渡された箱には予想外の物が入っていた。中身を確認したのは家に帰ってからだけど、最初はドッキリか何かかと首を傾げたけど、よくよく考えてみると風花姉もそれらしい話を濁して教えてくれたから多分、そういう意味なんだろうと受け取った。

 

綾兄は私が家に着くと足早にまた出かけて行った。何やら約束があるらしい。珍しいから相手が誰なのか揶揄ってみたらなんと、美鶴さんとのこと。途端に私が焦りだしたので綾兄は私を落ち着かせる為に頭を撫でてくれ、「大丈夫だよ。上手く誤魔化すから」と言ってくれた。綾兄の言葉を信じて私は彼を見送った。あの美鶴さんに勝てるかどうか不安だったが、案外綾兄ならのらりくらりとかわすかもしれないと焦る気持ちを無理やり落ち着かせた。

 

それでもって、暇つぶしにプレゼントされたブツを動かしてみたわけだ。そしたらなんと!まさかまさかの反応アリ。

いやー、愕然とした。まさか自分の部屋に仕掛けられてるなんて誰が思います?

他にも仕掛けられてるんじゃないかって家の中うろつきまくって外まで出てルブランまで行ってみた。……悪い予感が的中した。まさかルブランにまで反応があるだなんて。

これには結構ショックでした。自分の生活範囲内に盗聴を受けている。そこまでして監視したいのかと憤りさえこみ上げた。けどここで怒りのままに怒鳴り込みに行ったところで無駄足になるだけだろう。むしろ、それくらいですんでいるのだから感謝しろと言われかねない。私の立場はとても微妙なものだから。下手に反抗心を抱き牙を向けば、奴らは精神に異常アリなんて診断してあっという間に私は病院のベッドへ縛り付けられる生活に戻るだろう。それどころか本当にモルモット生活デビューかも。

自分の復讐をやり遂げられないことが何より悔しい。そんなことになるくらいなら舌をかみ切って死んでやる。

80%が復讐のため、残りの20%が綾兄がいるから生きてるようなものの私には今更死を恐ろしいものだとは感じていない。むしろもっと身近なものだと受け止めている。

 

……あーあ、色々考えたら疲れた。このまま寝ようかな。でも重たくて眠れない。悪夢だ。現実でも逃げられないし、夢の中にも逃げられない。たまに沢山出てくる謎の羊共を蹴り落としたいのに。

まさか双葉に馬乗りされる日が来ようとは。指通り滑らかな髪が僅かに動く。華奢な肩が小刻みに震えている。緊張しているのか。

 

「ふた、どいて」

 

「ヤダ」

 

「双葉」

 

「嫌だ」

 

言い聞かせるように優しい声を出していたが梃子でも動かない様子にこちらも苛立ちが増してくる。低い声で脅すようないい方になってしまう。

 

「退きなさい」

 

「………」

 

ここで初めて私が怒っていることを感じたのか、双葉は若干たじろいだ。というか怯えてさせてしまった。瞳が潤みだし、眉がへにょりと下がり唇を噛む真似をする。双葉なりに意地を見せたんだろう。

画期的な進歩に敬意を表して、ここは私が折れるべきだ。うん、その方が利口だね。

 

「………だって…」

 

「まずは退いて。それからちゃんと話そう。ね?」

 

今度こそ言い聞かせるように伝えれば双葉は目元をゴシゴシ乱暴にこすりながら小さく「……うん…」と頷いた。

ぐすぐす言い始めた双葉はゆっくりと私の腹からベッドの端に移動する。ようやっと起き上がった私は双葉を覆うように抱きしめた。

 

「さすがに人の部屋に盗聴器は駄目。それ犯罪ですから」

 

「………う、ん…ごめん」

 

そう、真犯人はお腹の上にいた。美鶴さんではありませんでした。スイマセン!美鶴さんと心の中で謝罪しておく。だがこれも双葉なりの理由がある、らしい。ズバリ、私が心配だから。

私の昔の事情とかを知っているだけに双葉は自分のことよりも私の心配をするようになった。というか、ちょこちょこ付いて回るようになった。まるで親鳥にでもなった気分だけどこれが依存にならないか心配ではある。

 

「心配だから付けてくれてたんだよね。そう受け止めておく」

 

「うん」

 

この話はこれでおしまい。後は……。

私は双葉から少し体を離してベッドから降りた。ティッシュの箱を持ってきてそこから数枚取り出して双葉に差し出す。双葉は鼻をすすりながらそれを受け取ってチーン!と鼻をかむ。十分に鼻をかんだ双葉は私が用意したゴミ箱に丸めたティッシュの塊を投げ込んだ。

 

「よし。―——それで、双葉はアレのことについて知りたいわけね。理由を訊かせてもらってもいい?」

 

ゴミ箱を床に戻して私は双葉の隣に座りなおした。双葉は私と同じように腰かけてぽつぽつと語りだす。ゆっくりと蓋を閉じ込め続けた自分の気持ちを声に出した。

 

「………わたし、も、強くなりたい……変わりたい……!」

 

双葉は今までの苦しい気持ちを吐き出すように言葉にした。惑わすように現れる幻聴、幻覚それらに負けたくないと切実に訴える。

 

「アレを知ったくらいで強くなれないかもしれない。むしろもっと怖い事、危険な事待ってるかもしれない。それでも知りたい?」

 

「………知りたい…!」

 

双葉の瞳には強い意思が宿っていた。以前初めて出会った時のどんよりとした曇った瞳ではなく、光が差し込んでいる。

 

「分かった……、双葉は……社会に反逆の意思があるんだね」

 

「社会に、反逆?」

 

「………うん、私は双葉を歓迎するよ。ただ、双葉も皆と同様に自分自身と向き合わなきゃならない。だから双葉のパレスに行こう」

 

「パレスって、なんだ?」

 

訳が分からないと双葉は戸惑っているように首を傾げて不安な顔をする。けど私は安心させるように頭を優しく撫でた。

 

「双葉が変われる事が出来る場所。そのきっかけを与えてくれるところだよ」

 

そう言って私は双葉の手を取りベッドから立たせる。そして机の上に置いていたスマホを手に取ってあの目玉アプリを作動させた。綾兄はいないし、モルや雨宮君もいない。本当ならここで二人で行くことは危険行為なんだと思う。もし綾兄が帰ってきたら雷が落ちるかも。でも今行かなきゃ。双葉が自分から動いてくれたから私もすぐに行動に移したい。

………私は、どれだけ双葉が苦しんでいたか十分なほど知っている。母親から疎まれていたと嘆き悲しむ双葉の姿は今胸をぎゅっと締め付けるものだ。出来ることなら直接助けてあげたかった。でも私に出来ることは彼女にとって母親、若葉さんが本当に双葉を疎んでいたのか、恨んでいたのか、それをしっかりと思い出して欲しいと告げ励ますくらいしかできない。おじさんから訊いていた限りではとても双葉を愛していない母親という印象を受けていないし、彼女が研究していた認知科学はある意味、私達が活動している世界と酷似している。人の認知を利用して何らかの悪事に運ぶことだって可能かもしれない。そんな危険な世界に双葉を巻き込むことはしたくなかった。

なんだかんだ言って、私は双葉を見捨てていたも同然だ。だから変わりたいと願って縋って来た双葉を無下にできない。したくない。その想いに少しでも早く応えたい。その気持ちが私をなお急かすのだ。

 

「佐倉双葉」

 

『候補が見つかりました』

 

「ななっ!?」

 

スマホから発するナビゲーションの声に双葉はビクついて私の背にササッと隠れた。私は苦笑しつつ害はないことを教える。

 

「大丈夫。これが向こうへ行く手段だから。さてさて、ふたのパレスは。ねぇ、ふたはここをどんな風に感じてた?」

 

「ふぇ?」

 

少しだけ後ろを向いてそう尋ねると背中に引っ付く双葉が目線を合わせる。

 

「率直な感想でいいの」

 

「………前は、朔が来る前は、自分の死に場所だと思ってた。ここから一生出られないって。———でも、朔が来てくれたから出たいと思った」

 

ぎゅっと私の服を握りしめる双葉。うん、守るから大丈夫。

 

「そっか、うんありがとう。きっと出させてあげるからね」

 

「うん」

 

「よし、じゃあ『墓場』、かな」

 

『入力を受付しました。目的地までのルートを検索します』

 

「ここまではよし」

 

私は一旦スマホをから手を離す。ボタンをタップすればナビが開始されるのだが今はまずやることがあるからだ。

 

「朔?」

 

「双葉、ちょっとそれなりに準備しようか。今のままだと危ないからね」

 

そう言って私はスマホを机の上に置いて自分のクローゼットをに向かう。

 

「?」

 

「それと飲み物とかも用意しなきゃ。ほらほら、私の服貸してあげるから着替えるよ」

 

「うぉ!?」

 

動きやすい恰好じゃないと向こうはどんな世界か分からないものね。双葉の腕を引っ張ってあれやこれやと自分の服を合わせた。ポイポイっとベッドに私の服が山積みになっていく。私と身長差がある双葉には中々あうサイズが見つからなかった。けど私が中学生の時に使用していた体操着がピッタリ合ったのでそれを着てもらった。本人はふんふんと体操服の匂いを嗅いでは「朔の匂いがする」と変態発言していたのでデコピンしておいた。若干袖丈が長いがそれは折って調節する。それから双葉の長い髪をゴムで縛ってポニーテールにした。

 

「うぅ~」

 

「ほら、動かないの」

 

「あう」

 

本人は後ろがスース―するのが気に入らないらしいが、私としては動きやすい恰好の方が何かと守りやすい。動きやすいスニーカーを玄関から持ってこさせて左手に持たせた。後はリュックに必要な回復薬とかぎゅうぎゅうぱんぱんになるまで詰め込んだ。双葉の手を握ってこれで準備オッケーとスマホを手に取る。

 

「ではいざいかん!双葉のパレスへ」

 

「お、おー」

 

弱々しくも双葉がノリで付き合ってくれた。めちゃぷりちーである。あ、そうだ。綾兄と雨宮君には一応連絡は入れてある。

 

【双葉のパレスに行ってきます】




※佐倉朔専用コミュ

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