笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。   作:サボテンダーイオウ

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フタバ・パレスに行こうよ!【放浪編】

天にも届きそうな感じの高い三角屋根の塔。

幼馴染であるジークから長すぎる名前を省略されて『プゥ』と呼ばれている少女の自前の工房(ファクトリー)には馴染みの客が訪れていた。

ドリルでも開けられるんじゃないかというくらいの見事なツインドリルが特徴的な【美少女】。ちょっとキツめのつり目とピンとした細い眉毛。捉えたものを逃さないような強い意思を宿す瞳に魅惑的に艶やかな唇。完璧に武装された化粧に細身の【彼女】に合わせた最高のドレスは一着だけでどれだけの国民が助かることかというくらいの金額ではなく【彼女】が目を掛けている庶民の新人デザイナーの逸品である。【彼女】はそのやんごとなき身分を笠に着ることなく、貴族と庶民との隔たりを超えてこれも世間を知る為とお忍びで城から毎日の如く城下町を訪れている。

プゥは上客であるはずの【彼女】の訪問を露骨に嫌そうで出迎えた。

 

「来るの早すぎですよ、【殿下】。まだ二週間前なんですけど。約束の日まで』

 

「君の事だから納期前より早くできてるんじゃないかと思ってね」

 

ニコリとツインドリル殿下は微笑んで先ほどまで興味深そうに手に取っていたプゥ力作の【親指おばあちゃん】の人形を元の位置に戻した。プゥは王族目の前にして舌打ちをした。

 

「っチ、見透かされてるか」

 

「君は仕事が早くて助かるよ。それで頼んでいた魔銃機の改良はどうだい?」

 

プゥは面倒臭そうにごちゃごちゃな自分の作業机から一本の銃を手に取ってツインドリル殿下へ見せた。

 

「んー、前よりは精度が上がってますけど使い手に偏りがあるとキツイと思いますよ。っつか下手くそな奴には暴発しちゃうかも」

 

「術者育成には時間が掛かる。量産に踏み切るには魔力量が少ない者にも使えるものでないと軍での普及も難しい。君にはその改良をお願いしたはずだけど?」

 

「いっそのこと、下手くそ用とベテラン用に分けたらどうですか。その方がわたしも楽だし」

 

「金がかかる」

 

「……あのですね、戦争ふっかけようと考えてる人が云う台詞じゃないですよ」

 

「どれだけ此方に有利にことを運ばせられるか、君みたいに単純に考えられるほど戦争は甘くはないよ」

 

「へぇーそうですかい。大体この小国ヴァレンスティア国に喧嘩売る国がいますか?後ろの海にはトリトン王が統治するアトランカ。この小国を他国から囲うようにそびえる山々には天を統べるという気位高いアシェントドラゴンが住むと言われているようなそうでもないような。巷を賑わせている異国からの来訪者、筋肉伝道師?それと超長生きしてそうな年齢詐称のヴァレリ師匠とその親友である最悪最恐と恐れられたセイレーン、あれマーメイドどっちだっけのぽやっとしたメリエルさんとハーフのジーク。後なんか色々強者が集ってますよ。その内勇者誕生とかありそうだし。攻めてくるほうが馬鹿じゃない?」

 

「そうだね。攻めてくるものが今後現れないという保証がないのが僕は嫌だね。だからこその保険だ。これは」

 

プゥから受け取った魔銃機を手に取ってツインドリル殿下は撃つ真似をした。その動きは手慣れたものだった。もし、これが今使用できる状態なら躊躇いなく撃っているほどに。

 

「………ふーん。殿下の女装も保険ってことですか」

 

「まさか!これは僕の趣味だよ。こちらの方が何かと有利だろう」

 

そう言って魔銃機をプゥへと手渡したツインドリル殿下はふわりとスカートの両端を持って軽く会釈をした。プゥは冷めた視線を向けた。

 

「変態殿下」

 

「君の幼馴染のジークも良くしてくれるよ。毎回毎回。ああいうのをお人よしというのだろうね」

 

「………胸ぺったんこの癖に、わざわざパット入れやがって偽乳作って誘惑してる癖に。自前なのはツインドリルだけじゃんか。女声だって師匠が作った声替え飴舐めて変えてる癖に」

 

「一丁前に嫉妬かい。僕の偽乳よりも胸を十分に育ててからすることだね」

 

「っ!!~~~~嫌味~~~!」

 

「とにかく誰にでも使える物を早急に作ってくれ。じゃ、よろしく」

 

「殿下、声が男声ですよ」

 

「ああ、そうだったそうだった」

 

ぷぅが差し出した瓶を手に取るツインドリル殿下。ヴァレリに頼んでいたものだがそろそろ切れそうだったので今日取りに来たわけだ。瓶をきゅっと開けてカラフルな飴玉を一つ手に取ってぽいっと口に放り込む。

あっという間に先ほどまでの青年の声から可憐な少女の声へと変化する。

 

「これから【親友】のジークと会う約束だったんだ。忘れてたよ」

 

「ハァ!?聞いてないしっ!」

 

怒鳴るプゥに対してツインドリル殿下は可笑しそうに言い返し背を向けた。

 

「いちいち言うわけないだろう。君の想い人とデートするだなんてさ。それじゃまた来るよ。それまでに完成させてくれ」

 

ツインドリル殿下は手を軽く振ってひらりと身を滑らせて降りて行った。

身体能力が異常に高い彼だからできる荒業である。彼の護衛は毎回殿下が降りてくるのをハラハラしながら見守っているのでいつか心臓が破裂するのではないかと秘かに心配している。

一人残されたプゥは顔を真っ赤にさせて地団太を踏んだ。

 

「生意気~私よりも年下の癖して~~!」

 

実はジークはプゥにとって淡い恋心を抱く相手だった。

だけどジークは女装殿下に惚れていて女装殿下はジークを親友だと思っていて……。プゥと女装殿下は仕事上の関係であるがヴァレリのお得意様でもあるので強気な態度に出れない。

不憫な三角関係である。

 

プゥが悔しさのあまり自身の散らかった机を思いっきりドン!と叩いたらそこに乗っていた怪しげな薬瓶が次々と倒れてしまい化学反応を起こして……。

 

ボンッ!!

 

あっという間に工房(ファクトリー)は爆発した。

たまたま配達の途中だったジークが遠くの空に上がる黒煙を見上げながら「またプゥが失敗したのか」と呆れたように呟いていたとか。

 

【お馴染みの光景】

 

※※※

 

容赦なく照りつけてくるギラギラとした太陽。お肌の水分まで持っていかれそうになるカラカラに乾燥した空気。見渡す限りの砂、砂、砂。双葉のパレスは広大な砂漠でした。

双葉が最初に発した言葉は「あっつ!」でした。そう、靴履かせてなかったね。私も急いで用意していた靴を履きましたよ。初の海外が砂漠ってのもなんかな。あ、双葉のパレスだから海外ってわけじゃないよね。でもここで記念写真とか撮れそうじゃないと考えました。後で双葉と写真撮ろう。

 

「さーて、ここはどこかしら~」

 

「さ、さささ朔!砂漠、砂漠が!」

 

「そうそう。砂漠ね。双葉ったら心に砂漠広げてたのね。これは見事だわ。辺り一面砂だらけ。ラクダいないかな~」

 

こんなこともあろうかと双眼鏡を用意しておりました。スチャッ!とそれを装備して地平線の彼方まで覗いてみる。うん、砂漠だね。すっかり観光気分の私の横でヒッキー卒業しつつある双葉がジタバタ暴れてる。

 

「呑気すぎるぞ!ってか観光気分にならないし!」

 

「……そうでも言わないとやってられないでしょ。大体、ここからまず移動しなきゃいけないんだから」

 

ちょっとしたジョークだったのに。すっかり観光気分も萎えた私は双眼鏡を双葉に渡してポケットからスマホを取り出す。……なんだかんだ言って、双葉だって双眼鏡覗いてるじゃない。

 

「うわ~、スゲー。え、だってパレスってすぐ行ける場所なんじゃないの?」

 

「そりゃ目玉アプリ使えば来れるけど、あくまであれは道案内。初めて入る場所でいきなり表玄関には繋げないってことよ」

 

「ふーん。で、これからどうするの」

 

双葉は私のリュックに双眼鏡を押し込んでからガサゴソと何かを探し出す。私は「何探してるの」と尋ねると、「ジュース」と言ってお目当てのジュースを取り出した。

まだまだ先は長いだろうに今から飲んじゃうの?私は双葉のマイペースさに呆れながらため息をついた。

 

「ハァ、……歩く、しかないでしょ」

 

「イヤダ!」

 

と言いつつプシュッとプルトップ開けて美味しそうに飲みだす。私にはくれない?駄目?あげない?それ私買ってきたのだよ。

 

「ここで駄々こねますか、双葉ちゃん」

 

「……んぐんぐ、プハッ!だって無理だろ死ぬぞわたしが!」

 

「アンタがかいっ!でもそれもそうよね。確実にパレスに着く前に死ぬわ。そしてふただけじゃない。私もよ!」

 

大丈夫、共倒れになる時は一緒だからと力強く頷けば双葉は逞しさを垣間見せた。

 

「うぅ、こんなところで死んでたまるか!」

 

どうやら一人でも生きてみせるぞって根性を出し始めた。これはいい傾向だ。この調子でプラス思考で進めたらいいと思う。でも本当に置いていっちゃやーよ。

 

「それは私も同じ意見。ってなわけでやってみますか」

 

「なにを?」

 

「双葉が知りたがってたペルソナってのを披露してあげるわ」

 

「おお~!」

 

「と言っても、召喚機がないから不安定のアレなやり方で出すしかないから。双葉、ちょいと下がってて」

 

「わかった」

 

双葉は素直に下がったのを確認して私は意識を集中させる。すぅっと深呼吸をしてリラックス、リラックス。イメージはカードにペルソナを映すこと。それを潰す勢い。ごりっと、めりっと。めきょっと。

………オッケー、イメトレ終了。この砂漠から脱出するに相応しいワタシよ、出てきて。

青白い光と共に一枚のカードが目の前に現れる。それは私の力であり、私の心であり、私の源である。双葉が「おおっ!」とワクワクドキドキの声を上げる。

 

では期待に応えて見せましょうか。さぁ、出番よ!

 

「……ケルベロス!」

 

グシャリとカードを手の中で握りつぶすと光の粒子があふれ出てきてそれが徐々に獣の姿を形どっていく。あっという間に地獄の門番、ケルベロスの登場であーる。

見た目は白一色の毛並みがモフモフなライオンだけど尻尾は蛇。でもデカい。私は慣れてるけど双葉は尻餅着くほどのリアクションで声をあげた。

 

「ほわぁ!?」

 

「よし、成功」

 

私は気分よく鼻歌交じりに尻餅つく双葉に手を差し出して起こす。双葉はケルベロスを警戒するようにすぐに立ち上がりササッと私の背にしがみ付いて隠れた。

ケルベロスはお行儀よくお座りして待機している。なんて良い子だろう!そしてなんてモフモフ具合だろうと感動&興奮したけどよく考えたら、彼は私なわけで、自分で自分を褒めて自分をモフモフしようとしているのかと冷静に考えたらなんか萎えた。尻尾をフリフリして命令待機中のケルベロスをおーよしよし!と構ってやっぱりモフモフした。モフモフが足りない。モル来ないかな~。

 

「これに乗るの?」

 

「うん。二人くらい余裕でしょう。ねぇ、ケルベロス?」

 

そう言って頭を撫でて同意を求めれば得意げに『ワン』と鳴く。私の中でのケルベロスのイメージはコロマルそのものなので鳴き声もコロマルそっくり。

私が最初にケルベロスの背に乗って恐る恐る双葉が遅れて乗る。

 

「うわ、毛がフサフサ……。ペルソナってもう一人の自分ってことなのか」

 

「そうね。だからこの子も私ってことになるよ。そこら辺複雑だからもっと詳しい人きたら教えるね」

 

「分かった」

 

「それじゃあ、とりあえずオアシスを見つけましょうか。そこを休憩所にして探しましょう」

 

「ラジャー」

 

ケルベロスの背に乗って私達は一旦オアシスを目指して進むことにした。

 

 

最初こそ快適な旅だった。だが熱さからは逃げようがない。一向にオアシスが見つからない道中で先に双葉が暑さでダウンしてしまった。

私は急いでケルベロスからキングフロストへ切り替えた。特徴的な王冠がチャーミングである。

 

「キングフロスト!中に入れて!」

 

『オッケーヒィ—ホォー』

 

冷蔵庫のドアを開けるようにキングフロストが禁断のドアを開けてくれた。私は双葉を引っ張って急ぎ中へと入る。そして、パタンとドアは閉じた。

キングフロストの中は実に快適。ジャックフロスト達と仲良くババ抜きして遊んでいると双葉が目を覚まして介抱してくれていたジャックフロストに驚いて奇声を上げた。ひんやりとしてさぞ気持ちよかったことだろう。彼のまんまるとしたお腹は。そう、双葉はジャックフロストのお腹を枕代わりに寝かされていたのだ。絵面的に可愛かった。

 

「$#%&????!!!」

 

「あ、気が付いた?」

 

「さ、朔~~~!」

 

あうあうと言葉にならず口をパクパクさせてぴゅーとダイブしてくる双葉に私は受け身を取れず全力で押し倒されて氷の地面に後頭部をぶつけて暫く気を失ってしまった。数分経ったくらいに痛みから気が付いたら双葉が鼻水垂らしながら泣きじゃくって私の首元にしがみ付いていた。私と双葉を囲むジャックフロスト達が私が目が覚めたと歓喜の小躍りをして喜んでくれた。私達からしてみれば『ヒーホー』『ヒーホー』連発してるだけなんだけど。

 

「後頭部が、痛い」

 

「朔の馬鹿!わたし置いて気絶するな」

 

「それって無理な話でしょ。ふたが抱き着いてきて頭打っちゃったんだから」

 

「ここどこ!?っていうかコイツラなに!?」

 

「キングフロストの中。双葉気絶しちゃったから涼しい所にいれてもらったの。ちなみにこの子達はジャックフロストっていう名前でキングフロストの、……僕(しもべ)?」

 

「朔のペルソナって、なんか変!」

 

「失礼な!」

 

ジャックフロスト達はそれはそれは甲斐甲斐しく私達の世話をしてくれたので快適に過ごすことができた。というか太陽ギラギラの外へ出るのが面倒になったのでどうせ綾兄が見つけてくれるだろうと見越して暫くキングフロストの中で過ごすことにした。最初こそジャックフロスト達にバリバリ警戒心を露わにして私の背中にへばり付いていた双葉だったけどあの子たちに害がないと判断すると少しだけ安心感を見せた。へばり付いたままだったけどね。

 

「ほら双葉、アイスくれるって」

 

「なんか餌付けされてる気分だぞ」

 

と複雑そうな顔しているがすでに彼女の手には三段重ねのアイスがある。この魅力的な誘惑には勝てまい!

 

「そんなことないわよ。彼らなりに歓迎してくれてるんだから!。ささっ!どうぞどうぞ」

 

上手く誤魔化してアイスを勧める。ちなみに私の手にもちゃっかりアイスがある。三段ではなく四段だけど。

 

「ふーん……う、うまっ!?…」

 

「うーん、流石本場は違うわね」

 

二人してしっかりとアイスを舌鼓しつつお迎えが来るまでジャックフロスト達と遊んでいた。

 


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