笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。 作:サボテンダーイオウ
ついに実行される時が来た。この熱き想いを伝える時がきたのだ。
魔女の所から気づかれないように盗んできた真っ赤で瑞々しい林檎を手に小人Cは白き姫の元へと向かう。白き姫の前で跪いて己の醜さに顔を歪めて露骨に嫌そうな顔をされるのも厭わずに。
『白き姫、どうぞこれを。一口齧れば巨額の富が。二口齧れば永遠の美貌と若さが。三口齧ればあの御方と【まるで夢の中にいるように】末長く幸せに暮らせますよ』
と真っ赤な林檎を差し出す小人C。
白き姫は欲張って三口齧った。なんと強欲な娘だろうか。
だが単純であるから疑わずに食べたのだろう。愚かで怠惰な姫。
「あ、ぁ……」
手足のしびれ、痙攣、吐き気、頭痛、ありとあらゆるところが痛い痛い痛い!
顔が酷く歪み、肌はどす黒く染まって目はぎょろりとくぼんでだらしなく涎を垂らす。
まるで世界中の苦しみを受けたかのような見るも無残な恐ろしい形相のまま白き姫の心臓は止まる。
あっという間に白き姫は覚めることのない甘い夢の中へ落ちて行き、小人達の手により【地中】へと深く埋葬された。死後硬直が酷くもがき苦しんだままの姿で棺に中々納められず、無理やり押し込められた。
その姿、永遠なれと偲ばれることはなかった。
「これで、ようやく彼女を迎えに行ける……」
想いを吐き出すように呟いた小人Cは、ひっそりと仲間たちの前から姿を消した。それ以来、彼の姿を見た者は誰もいなかった。
そう、誰も―――。
【生きているのか死んでいるのか定かではない。】
※※※
校門前付近までたどり着いた私は聞き覚えのある声によってげぇ、と表情が歪んでしまった。
そうだ。今日は奴が校門に立つ日だった。すっかり頭から弾き飛ばしていた。
これもモルが夜中までコードネーム何にするかわちゃわちゃしてた所為だと思う。
大体コードネームって必要?私が適当にモブでいいよモブでって終わらせようとすると、そうはいかねぇ!って猫姿で興奮しちゃってさらに話は私の怪盗に対するイメージを払拭させるとか意気込んではい!寝れませんでしたってオチだからね。
参ったもんだ。いや、結局寝れないんだけどね。
気持ちが落ち着かないじゃない。
だから今日は私たちのコードネーム決めるって話でファミレスGOという予定である。
「おはよう!あ、おはよう!ほら、シャキッとしろ。ちゃんとメシ食ってきてるかー?」
校門前でわざとらしく朝から大声上げてる一人の教師、鴨志田卓。表向きは生徒に教育熱心な元オリンピック選手でバレー部の顧問もしている。我が衆尽学園のバレー部を全国でも強豪校へと導いたのは少なからずこの男の手腕によるもの、と推測される。そういえば衆尽が『囚人』に聞こえるのは私の気のせい?
まぁ校長がアレじゃ意外と囚人の方がしっくりくると思うけどね。
教師が教師なら校長も校長。同じ穴の貉とはよく言ったものだ。
裏じゃ生徒への体罰なんて当たり前。むしろ生徒は自分の駒?もしくは家畜?
まー、裏ひっぺがえせば色々と出てくる出てくる。
えーと、こいつのパレスにはすでに潜入済み。シャドウは裸の王様の恰好をしていた、らしい。モルガナの情報によると。私はお宝稼ぎで大忙しで接触なし。だって気持ち悪いし、何を好き好んで男の裸見なきゃいけないのよ。
あー、嫌だ嫌だ!
私は鴨志田の脇をさっとすり抜ける。
「おはよう!」
「……」
無言で。でも鴨志田は私が通り抜けても反応は返さず他の生徒たちにあいさつを振りまく。そう、私の姿があいつに認知されていないのだ。これぞステルス効果!
綾兄のお陰で朝からやな奴からあいさつされるというフラグを見事へし折ることに成功した私である。前に奴に挨拶された時、思わず召喚機引っ張り出してメギドラオン叩き込もうとした。けどそこは綾兄に堪えて堪えて!となだめられ、仕方なくモルに思いっきり爪でひっかいてもらうだけで穏便にすませてあげたのだ。モルには感謝の印として念入りにナデナデしてあげた。本人は嫌がる素振りを見せたが、尻尾は誤魔化せないぞ。
ふぅ、こうして私は無事、保健室に入室できたのである。
【教室?今日は午後からお邪魔します】
※
対シャドウワーカーに入ってくれないか。
そう美鶴さんに切り出されてスカウトされた私はこう返した。
『仮でいいなら』
自分の将来に興味はない。けれどやり遂げなくちゃならない為に、敵と戦う術を教えてくれるなら利用しようと思ったまで。エリ姉にペルソナ関連のことならたくさん教えてもらった。けど戦闘面となると武器で戦うって湊兄が言ってたから不安はあった。だから私としても願ったりかなったりだった。綾兄は私の隣で複雑そうな顔して美鶴さんとのやり取りを見守ってた。
私が大丈夫だよ、頑張るからと言ってみせると綾兄は、そうだね、湊もきっと朔を見守ってるよと言って優しく頭を撫でてくれた。
こうして、私は仮シャドウワーカーの仲間入りを果たしたのである。
美鶴さんから受け取ったのは、湊兄が以前使っていた武器。
私は湊兄の残した武器を受け継いで、復讐のための道を進み始めた。
【武器の名前は聖杯ルシファー。攻撃力450全パラ+10】
※
長くて退屈な授業がようやく終わり、私は素早く教室を出て駅へと向かう。
今日は寄り道してくるっておじさんに事前に報告してあるから大丈夫なのだ。ウザったい人込みの中を、実体化した綾兄の腕を組んで二人並んで歩いていると、後ろのリュックからモルが顔を出して『スマホ鳴ってるぞ』と教えてくれた。私は普段、スマホはリュックにつっこんでいる。だってあんまり使わないし。
私は自分で出すのは面倒なので綾兄に頼んで出してもらった。綾兄は画面に映し出された相手に表情を緩ませた。どうやら綾兄の知り合いらしい。それにしても、諦めずに鳴らし続けるなぁ。
綾兄から「はい」とスマホを受け取った。
私は「ありがと」と礼を言って億劫だけど通話ボタンを押した。すると聞きなれた声が耳元から流れる。
『よう、元気か?朔。さっさと出ろよ』
「あ、どうもです。テレッテッテー」
これ口癖になってるんだよね、脳内汚染されてるかもしれない。
順平アワー、恐ろしい。
『それわざとだろ』
「あ、どうもです。順平さん」
『律儀に言い直すなよ』
「なんか用ですか。用ないなら切りますよ。あ、チドリ姉は元気ですか?また順平イジリワードについて詳しく教えてもらいたいんで」
『マジでイジるのやめてくんない!?』
「サーセン」
いいカモだ。悪い気はしない。
エリ姉の気持ちがなんとなくわかった。綾兄が頬を突いて笑いをこらえている。
今イイ顔してたらしい。自分じゃわからないから確認のしようがない。
『……綾時、そこにいるだろ。すぐ代わってくれ。俺の精神ズタボロです』
「はいはい。綾兄」
私から綾兄へバトンタッチ!
「朔、あんまりからかうものじゃないよ……。もしもし?元気かい、順平」
『綾時ぃ~』
まったく、私から構ってもらえるなんて金ぴかシャドウ並にレアなのに。
私のスマホで順平さんを慰めている綾兄の手を取って、「行くよ」と歩き出す。綾兄は頷いて私に手を引っ張られながら足を動かした。
旧友との会話に色々と話は弾むらしい。私に対する扱いがおまけになってる。
私は構って欲しくてスマホを奪おうとする。けど綾兄はそれを阻止しようと先手を打って私の鼻を軽く抓んだ。
「むぅ!」
「あはは」
一笑いして綾兄はまた順平さんへと向けられる。
私は面白くなくて「先行ってるよ!」と声を掛けてさっさと歩き出す。少し先を行ったところでちろりと後ろを盗み見る。綾兄は私の後をゆっくりと歩いてきて私の視線に気づくと女子もコロッと落ちてしまいそうな笑みで軽く手を上げた。
ふん!ご機嫌どりなら後からとっても無駄なんだから!
私は大股で歩きながら、リュック越しに『もっとゆっくり歩け!』と抗議の声を上げるモルを無視して一人先にファミレスへと入店するためにもっとスピードを上げるのであった。綾兄は器用に付かず離れずの距離を保って先に入店して店員に席を案内される頃に後ろにいて追いついてきた。
っチ、おひとり様パーティしてやろうかと思ったのに。
テーブル席に案内され座ると「ハイ」と綾兄からスマホを返された。順平さんとの会話は既に終わっていたらしい。私はそれを無言で受け取ってリュックにつっこむ。
モルガナが『いてぇ!』と鳴いたけど無視だ。
「朔、何にするんだい」
「綾兄のおごりでパフェ網羅」
「コロコロ丸い朔も可愛いだろうね。コロマルみたいにさ。僕はコーヒーで」
「遠回しに太るっていうのやめて。それとコロマルはワフワフ天使です」
「いや、想像してみただけだよ」
「意地悪」
「フフッ、朔限定だよ」
『お前ら、何気にカップルっぽい会話だぞ』
「モルがいるからカップルじゃないわね」
「そうだね。仲の良い兄妹とそのペット、かな」
「喋るペットだけどね」
『ワガハイはペットじゃねぇ!』
という会話を楽しみながら私は宣言通りにパフェ網羅した。綾兄のおごりで。
だって綾兄もガッポリ稼いでるんだよ?私以上に。
そんなにお金溜めて何に使うの?って前に尋ねたら、旅行でも行こうかな、だってさ。
ハワイ辺りを狙ってるとか。死神が常夏のハワイでバカンスとは……。
世も末だね。
結局、コードネームは決まらなかったのでまたルブランに帰って徹夜であーだこーだと考えあぐねることになる。
んで、最終的に決まったのは。
私=【コーティザン】
モルガナ=【モナ】
綾兄=【ファルロス】
まんまだよね、私たちって言ったらモルガナは不思議そうに私のは違うだろって言った。
モルガナは私の素性を知らないから仕方ない。
私のペルソナが花魁だからだよと軽く説明するとモルガナは一応納得してくれた。
綾兄は沈痛な面持ちで私とモルガナのやり取りを見ていたけど、私は知らないふり。
きっと、そのうち嫌でもわかるはずだ。
私が、どういった経緯で【今】に至るのかを。
【その意味は推して知るべし】