笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。   作:サボテンダーイオウ

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魔女と林檎と皇子のアンサンブル。

まったく接点がないように見えて実は至るところに伏線が張り巡らされている。様々な思惑が交差する中、果たしてどのような展開が待ち受けているのか。物語に正しいも間違いもない。
なぜならそれが物語だからだ。誰が正義で誰が悪なのかそれは見た目でしかなくそれぞれに己の正義を掲げている。
愛も憎しみも悲しみも諦めも嫉妬も全ての感情を合わせて混ぜ合った世界の中で彼ら彼女らは息づき、感情をぶつけあいながら最後の終わりまで生存を賭けて争い続ける。

最後に生き残るのは果たして誰だろうか。


凋む月(しぼむつき)

唐突に姿を現したかつての恋人に驚きを隠せなかった。何よりも彼から告げられた事実に息を呑んだ。

 

「なぜ、白き姫を殺めてしまったの……!?」

 

小人の呪いを受けていた皇子は元の若さあふれる若者の姿で、魔女の前に現れると、愛おしい者を見るように跪いて愛を唄った。

 

「君を助けるためだよ」

 

魔女は受け止めていたのだ。白き姫が己を邪魔者と煙たがっていたことを。いつか、義理の娘に殺されるかもしれないことを。それでも彼女は魔女を演じ続けた。それが祖国の為と自分に言い聞かせながら。だがみすみす殺されはしない。自害するつもりだったのだ。あの真っ赤な林檎で。

 

それなのに。

 

「私は、貴方に別れを告げたはず!……我が国を救うには傲慢王に嫁ぐしか道はなかった。だから、断腸の思いで貴方に『忘れる呪い』を掛けたはずなのに……」

「あれは失敗していたんだよ。君の想いが強すぎてね。だからと言って国一番の魔女である君の術を完全に防げなかった私は一時的に記憶を失っていた。皇子としての姿を失った私は小人として生きていた。だが断片的に誰かの記憶が常にあった。そこで私は記憶を取り戻すために【彼奴】と契約を結んだのだ」

 

皇子が【彼奴】と示した言葉に魔女は顔を蒼白させた。

 

「……なんてことを……!」

 

【彼奴】が何者であるかは魔女は詳しくは知らない。だが彼と取引した者は死よりも恐ろしい苦痛を受けなければならないと風の噂で耳にしていた。

 

「いや、案外彼の条件は楽だったよ。白き姫に林檎を食べさせればいいと言われた。だから君が作った林檎を食べさせたのだ。見事条件はクリア。元の姿に戻れたのだよ」

 

魔女は皇子が自分の為に犯した取り返しのつかない罪を、自分の為に記憶を取り戻してくれたこと、嘆き、僅かばかりに生まれた嬉しさに己を恥じながら、さめざめと涙を流した。

皇子は魔女にそっと寄り添ってこう甘く、痺れるような声で囁いた。

 

「これで君は自由の身だ。共に幸せになろう。ヴァレリ」

「…アランっ……!」

 

皇子は自由だと言いながら魔女を自身の愛の呪縛で縛る。

魔女は、その呪縛から逃げること叶わず、共に朽ち果てるまでその呪いは続くであろうと悟った。

 

魔女の意思は明かされないまま。

 

【黒雪姫】

 

※※※

 

 

大切な話がある。そう事前に伝えられていた私は、その言葉通り寄り道せずに真っすぐ家に帰宅して先に夕食の支度を済ませることにした。綾兄はやることがあるようで一人別行動をとっている。珍しいこともあるものだ。もしかして、ハワイに行く準備かな?

 

寒くなってきたのでそろそろお鍋にしようと材料は買っておいたのは正解だった。一度、二階の自分の部屋に荷物を置いて再び下に降りて台所へ向かいマイエプロンを着けてさっそく調理開始。魚介つみれのあっさり塩ちゃんこ鍋がメイン。野菜たっぷりで栄養も満点。でもそれだけじゃ物足りないと思うので揚げ出し豆腐の葱餡かけも一緒に。あとは定番の味噌汁に艶々の真っ白ご飯。

 

モルは興味津々のようで私の足元辺りをうろついては『ワガハイもワガハイも食べたい!』とか言ってたけど、熱々だよと教えるとシュンと残念そうに『猫舌だからダメだ』と落ち込んでた。

私は「冷ませば大丈夫じゃない?」というと『熱々が食べたいんだ』と拗ねてしまう可愛いモル。私は思わずしゃがみこんで撫でてしまった。モルは『なんだよ』と少し驚いていたけど私が「早く人間になれるといいね」と慰めれば、目を丸くし『……そうだな』と嬉しそうに頷いた。

 

さて、双葉には今日はお鍋だよと声を掛けたけれど反応はいまいち。何かネットで面白いものでも見つけたのかな。あとで覗いてみようと考えてお茶碗を手際よくセットしていく。

 

丁度出来上がる前に玄関がガラガラと戸が開く音がして、「ただいま」とおじさんが台所にひょっこりと顔を覗かせた。私は「お帰り、手洗ってきなよ。うがいもね」と洗面所へと追い払う。おじさんは「厳しいねぇ」なんて軽口叩いて素直に手を洗いに行った。

 

何を言うか、この時期に手洗いとうがいは必要なのだ。

何事も予防が一番。病気になって一番苦しいのは本人なんだから。

 

それにしても早い帰りだ。どうやらお店を早く閉めてきたらしい。それほど大切な話なのかと他人事のように考えてた。

 

その時は。

 

でも、あとから鈍器で頭を殴られるような衝撃というのはこういうことなんだと身をもって体験することになる。

 

双葉はやっぱり降りくる気配がなかったので双葉用の一人鍋に具を入れて別々にとっておいて正解。私は手早く準備して双葉の部屋の前に「鍋置いとくよー」と声を掛けて置いといた。珍しく鍵がかかっていたから相当集中していると見える。

 

いつものように美味しいと言ってくれるおじさんだったけど、いつもよりも口数が少なかったのが妙に引っ掛かった。いや、もっと早く気づいていればよかった。

喫茶店を早く閉めてくるあたりから。

 

いつものようにおじさんと夕食終え、食後のお茶を出して一息ついている時、それは知らされた。

 

「朔、俺が保護司の資格持ってるのは知ってるな?」

 

「うん」

 

年季の入った急須で入れた私の湯飲みには見事茶柱が立った。

あ、なんかいいことあるかな!

 

なんてちょっとほっこりしてたら、意を決しておじさんの口から出てきた言葉は。

 

「一年という約束で知り合いの息子を預かることになった。ルブランの二階の物置部屋に住まわせようと思ってる。だから家に戻ってこい」

 

いいことどころか、突然の私にとっての死刑宣告をくらった。

茶柱効果ないねー。

 

「……」

 

その言葉の意味を理解するまで数秒かかったと思う。

無表情で固まった私の顔色伺うおじさんに私はスッと頭を下げて

 

「おじさん、今まで大変お世話になりました」

 

と礼を述べた。おじさんはポカンと呆けた顔してすぐに私の言った意味を理解すると

 

「……なんだと!?」

 

と椅子蹴とばす勢いで立ち上がって驚愕しながら大声を上げた。私は静かに椅子から立ちあがりつけていたエプロンを椅子にかけて、

 

「荷物はすぐにまとめるから安心して。ああ、こっちの部屋に戻る気はないから片付けていいよ。それじゃあ、私さっそく荷造りするから戻るね」

 

と早々に会話を切り上げて廊下へ向かった。

荷物?ああ、後でいいや。まずはルブランを出るための荷造りしなくちゃ。

おじさんが慌てて後ろから追いかけてきて私の肩を強めに掴んで引き留めようとする。

 

「お、おい!待て」

 

「待たない」

 

けど私は邪魔だと手を振り払おうとおじさんの方へ向き直った、瞬間!

 

「駄目!」

 

ぐえ。

私の首元を絞めるようにいつの間にか双葉が腕を回して抱き着いてきた。

この私に気配を感じさせないとは、暗殺のスキルでも持ってるのか双葉は。いやそもそもその細腕にどれだけの腕力が潜んでいるの?

 

「双葉!?お前いつのまに」

 

「ふた……ぐるじい…」

 

普段滅多に呼ばない私が勝手につけたあだ名で呼ぶくらい私は必死だった。

ギブギブと意識が遠のきそうな中、懸命に訴えるも双葉は逆に私を引き留めることで頭がいっぱいいっぱいなのか、

 

「だだだ駄目だから!朔はででででで、出ていくのはダメなんだぞ!」

 

ともどりながらも必死に食い下がってくる。だが私もヤバイ。

エビぞりがかっている!首が!腰が!!

私と双葉は結構身長差がある、と思う。

あー足元でモルが『気絶しかかってる?!サク!気絶耐性は持ってないのか!?』とワタワタ焦ってる。

気絶、気絶耐性ね。効果的なのはハリセンかな。

なんて言ったって空腹も直せるくらいだからね。

そう、ハリセンだったらこの気絶からの逃れられるのかな。私は霞む意識の中、無意識に呟いていた。

 

「ハリセン、求ム……」

 

モルが『ワガハイ!今猫だからできねー!』って器用に頭抱えて叫んだ。

可愛い。

 

「双葉離せ!朔が可笑しなこと言い始めたぞっ!?」

 

「あ、ごめん」

 

パッと手を腕を離され、私はぜーはぜーはと荒い息を繰り返して肺に新鮮な空気を送り込むことができた。私は軽く双葉を睨み付けた。

 

「はぁ、ふた?ちょっと力強すぎ。一体その非力な体にどんだけ力溜めてんの?」

 

「はぅ」

 

私の非難の視線に双葉は眉を下げて呻いたが、それも気にしてられないと開き直って

 

「と、とにかくダメだからな!行っちゃ嫌だ」

 

と再度私を引き留めようとまるで捨てられそうな子犬みたいな顔して私の腕をつかんできた。

 

「ふた、そんな顔しないでよ。私が消えるわけじゃないんだから」

 

「だって、朔が出てくって……」

 

縋りついてくる双葉を落ち着かせるために頭を撫でてみたけどあまり効果はないみたいだ。逆に瞳がうるうるしだして逆に慌ててしまった。

 

「朔、そんなにこの家が嫌か?」

 

「おじさんまでなに誤解してるのよ!いつ私がこの家に住みたくないって言った?二人してそんな顔しないで。私が悪いみたいじゃない……」

 

しかもおじさんまで傷ついた顔してさ。この似た者親子は。こっちが呆れるくらいお人よしね。その姿にある意味羨ましさを感じた。おじさんはなお言い募ろうとしたが私が無理やり遮って言葉を続けた。

 

「だが」

 

「私は、やらなきゃいけないことがある。だからあそこの方が都合がいいの」

 

「その、やりたいことってのは何なんだ?」

 

尋ねられるって思ってた。

でも教えない。教えたらきっとおじさんは私を警察に出さなきゃいけなくなる。

私は、失敗するわけにいかない。大切な人を巻き込むわけにいかないんだ。

 

「言えない。でもおじさんやふたには絶対に迷惑掛けないから」

 

「どうしてもか?」

 

「どうしても」

 

厳しい口調に怯えることなく私はキッパリと答えた。

 

「わかった。じゃあ、俺の件は断ることにする」

 

「それは駄目!受けたものは最後まで責任持ってよ」

 

「はぁ、あのな朔。それじゃお前、そいつと一緒に住むことになるんだぞ!?そんなの俺が許さん」

 

「……じゃあ選択肢は二つ。私が出ていくか。それともおじさんが私があそこに住み続けることを許可するか。これだけよ」

 

「俺はお前の保護者だ。大体お前に行く当てがあるのか!?」

 

「あるよ。美鶴さんとこ」

 

「!」

 

私の発言に息を呑んだおじさんは、顔を顰めて黙り込んだ。

 

きっと、傷つけてしまった。

けど、こうでも言わなきゃおじさんは納得しなかったと思うもの。

自分でも卑怯な手を使ったのは分かっている。だから、視線は逸らさなかった。

逸らしたら負けだから。

 

私達の間に気まずい雰囲気が漂い、双葉が可哀想なほどに私とおじさんを交互に見つめて泣きそうな顔をした。

 

「……」

 

「……」

 

「……お互い、少し冷静になった方がいいな」

 

でも先におじさんが大人の対応で身を引いてくれた。視線を逸らしてそのまま台所へ戻っていった。私はその背中を見つめることしかできなかった。

 

「……」

 

「…朔…」

 

私は双葉の方を向いて軽く微笑みかけた。

 

「ごめん…、私今日は帰るよ。ふた、今日は寒いからお腹出して寝ないようにあったかくしてね。おやすみ」

 

「朔!」

 

私は荷物をそのままにモルに「帰るよ」と手招きして呼び寄せて、抱っこして共に家を出た。

 

ルブランに帰ってモルに『サク、大丈夫か?』と気遣わしげに心配されながら階段を上がって自分の部屋に向かった。

綾兄がクッションに背を預けて寛いだ姿で出迎えてくれた。

 

「お帰り」

 

「……」

 

私はモルを降ろして綾兄の隣目指して歩いて腰を下ろした。

 

「何かあったの?」

 

「別に」

 

私はぶっきらぼうに答えて断りなしに綾兄の膝に頭を乗せた。

 

「そうやって別にっていう時は大抵何かあったね」

 

「別に」

 

またぶっきらぼうに答えてスマホをいじりだす。

 

「……そうやって甘えてくる時は売り言葉に買い言葉で返したこと、後悔してるのかな?」

 

「別に」

 

またまたぶっきらぼうに答えて、双葉に『さっきはゴメンね』とSNSで謝罪コメントを送る。……すぐに双葉から『明日は寿司がいい!』と返ってきた。明日は手巻きずしにしようと思う。私はスマホをカーペットの上に投げてモルに手招きした。

 

「まったく可愛いお嬢さんだ。明日、ちゃんと謝るんだよ」

 

「うん」

 

誰に、とは言わない綾兄。全てわかっている、私のことならなんだって。

モルは仕方ないと苦笑(したようにみえた)して私の手招きに応じて身を寄せて寝そべった。

 

『……敵わないな、リョウには』

 

「だね」

 

今まで綾兄に敵ったことは一度もない。私の自慢でもある。

恥ずかしくて本人には絶対言わないけど。

 

「だって僕は君の兄だからね」

 

心の声まで見透かすなんて許してない、と文句言おうと思ったけどやめた。

自分の髪を撫でてくれる温かい手の感触があまりに心地よくて、私は瞼を閉じた。

 

【次の日、手巻き寿司と一緒に謝りました。】




※彼は歪んだ物語をパタン、と一つ閉じ本棚に収めた。

誰もが知る物語は、決して同じではない。それは【認識】の違いでどのようにも創りかえることができる。故に、その物語は証拠として本に残され彼の手元にあるのだ。

本物とは何を指す?偽物とはどこから決める?
人間が決める物差しに境目はない。決めるのは極限られた方だけ。

白き姫と黒き魔女。

その姿、相反するようでまさに鏡のような関係だと彼女達は気づいていないかもしれない。

「まずは、一つですね」

彼は、無事、【記録】を回収することができた。
次は、【   】を目指し彼は異世界へ飛んだ。
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