笑えない少女とニュクスとワガハイ猫と。   作:サボテンダーイオウ

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~原作開始~
始まりは憂鬱と共に


あら、こんにちは。

また私のお話聞きたいの?ええ、いいわ!可愛らしいお嬢さん。

誰も信じてくれないんですもの。貴方は天使みたいに優しい子ね。

 

私が住んでいたところね。貴方が想像するよりも広い広い世界なのよ。

 

私の世界は蒼い水ばかりで夜空に浮かぶ花が羨ましいと思っていたの。

 

姉様たちは私の友人が不気味で気持ち悪いって毛嫌いしてたわ。彼女は引っ込み思案な私をぐいぐい引っ張って行ってくれる頼もしい友達なのよ。

 

アンタは普段から危なっかしくて目が離せない!って性格を直せるお薬を破格のお値段で作ってくれたりしたわ。味はちょっと物足りなかったけど飲んでみたら気分が爽快だったわ。でも気が付いたら眠っていて、どうしてかしら。友人ったら酷く青ざめた顔して私を見るなり「ヒッ!?」って怯えてしまって彼女の工房も滅茶苦茶に荒らされていたわ。きっと、物取りにあったのね、彼女の作る薬はとても効果的だもの。不思議なのはどうして私に彼女はお酒禁止!だなんて言ってきたのかしら?

今でも飲ませてもらえないもの。ちょっと悲しいわ。

 

でもね、そんな友人にもまだ言えていない私の秘密があったの。

 

船の上から星のように輝いて見えたあの人を見たくていつも陸(うえ)に上がっていたわ。岩陰からそっと覗き見ては何度もあの人に近づけたらって願ってた。

 

でも、届かないのよ。

 

私の尾びれではあの人と同じ目線で立てないもの。泳ぐのには適しているのに。

だからずっと遠くから見つめているだけだったの。私には飛ぶ翼が背中にあったけれど、それじゃあ、あの人を驚かせてしまうだけだわ。

だから私……。

 

「母さんー!行くよ」

 

あら、あの子が呼んでるわ。

 

ごめんなさいね……、今日はここまでだわ。あの子に置いていかれたら私お家まで帰れないもの。ああ、そんな悲しそうな顔をしないで。

またお話をしてあげるわ。

ええ、約束。

え、口約束じゃ不安?困ったわ、私お呪いは得意じゃないわ。

歌を歌って船を沈めるのは得意なのだけれど……。

 

……指切りげんまん?異国のお呪いかしら?

小指と小指を結ぶのね、ええ、これでいいわ。

 

それじゃあ、またね。可愛らしい天使さん。

 

※※※

 

今日は四月十日。もうあっという間に春です。新入生の時期です。

巷じゃ精神暴走事件なんて物騒な事件も多発している。

綾兄曰く、私は関わらないほうがいいんだって。昨日、食事しようって誘ってくれた美鶴さんに、その件についてちょろっと訊いてみたら詳しく調査する必要があるって眉間に皺寄せてた。せっかく滅多に食べれない懐石料理だったのに余計なこと言ったなって反省した。でもさっと綾兄が話題を変えてくれたおかげで雰囲気も明るいものになった。でもね、話題変えるでもなく居候がルブランに増えるって話はとっくの昔に美鶴さんのお耳に入っていたようで、今からでも家の子にならないか?という趣旨のお話を何度かされた。アイギスもその方がいいです!なんて力んで迫ってきた。

なぜにそこまで私に拘るのか…は、薄々気づいてるけどね。

ありがたいお話ですけど遠慮しておきますってお断りはしたが、美鶴さんはじゃあ高校を卒業したらこちらの大学に来る気はないかって再度猛アタック!

途方にくれた私に綾兄がすかさず笑顔で畳み返した。

 

朔はルブランの子だからって。

 

これには美鶴さんもアイギスも言い返せず、今回は諦めるって渋々引いてくれたから助かった。でも諦めてない顔だなあれは。

 

モルはおじさん家で留守番してもらった。本人は豪華料理が食べれると思ってウキウキしてたらしいけど、置いていくって初めて知ったらヘソ曲げて『どうせワガハイはー!』、なんて叫びながら二階に駆けあがって行った。きっと双葉の所に逃げ込んだのね。

ご機嫌斜めのモルには特上寿司をお土産に買って帰ったので彼はキラキラと宝石のように輝かせて双葉と一緒に喜んでた。おじさんは美鶴さんと食事に行ってくることはあんまり快く思っていないみたいだ。夕飯時にその話を事前に伝えたらわかりやすく顔を顰めたもの。

私のいないところでどんなやり取りをしたのか知らないけど、美鶴さんが私に拘るのは一つだけだ。貴重なペルソナ使いを管理しやすいようにするためじゃないかな。だからと言っておじさんにその理由を打ち明ける勇気はない。

精々おじさんには美鶴さんは良い人だからって地道に説き伏せるしかない。

 

さて、私もシュージンでめでたく二年になることができた。元々勉強は嫌いじゃないので成績は常に上位キープ。教師には問題児のレッテルを張られているけど元々精神面で不安定なため保健室通学も特例で許されている。2-Dの教室に行けば生徒たちから空気のように扱われたので今後問題もない。席は窓際後ろから横に二列目の後ろから二番目の席。左隣は去年から諸事情で転校していったため空席となっている。本当は窓際へ移動したいけど、そこはやっぱり勝手には座れないのでそのうち先生にお願いしようと思ってる。

今年の担任になった川上先生は、実は前々から密かにアルバイトしているという情報をとあるルートから入手していたのだ。事情はどうあれ、公務員がアルバイトしているのは学校側としてもマズい話。そこらへんを揺さぶりかければ色々と便宜もはかってもらいやすいのでは。なんて虎視眈々と狙ってるけど実行には至っていない。

……あんまりそういうの好きじゃないから。

使わなきゃいけないときは覚悟決めて実行しようと思う。

 

昨日はルブランに帰るのが面倒だったので家に泊まりました。前にも話したけどイベントで言うならルブランに居候が増えてる日で私が最も警戒しなければならない日でもある。だがしかし!そんな警戒心すっ飛ばして慌てふためくほどもっと重要なことがある。それはいつも私の癒しでもあり口やかましい師匠だと豪語するモルガナ!彼が、彼が…。

 

「モルが、戻ってこないぃ―――!!」

 

自室、いつもなら私の師匠が口酸っぱくして休みの日はパレス探索行くぞ!なんて意気込んでるはずなのにその姿がないなんて。

うわーんと私は綾兄の胸に抱き着いて縋りつくしかない。

やれやれとため息をついて手慣れた手つきで私の頭を撫でて慰める綾兄の余裕がムカツク!

 

「最近メメントスばかりでパレス探索も怠っていたからね。それがモルガナにとっては耐えられず昨日の夜、朔と口喧嘩。朔もパレス探索なんて面倒くさいことしたくない!なんて言い返すからモルガナが売り言葉に買い言葉で『だったらワガハイ一人でやってやる!』なんて啖呵切って出てったきりだもんね。どうやって向こう側へ行ったのやら……。いや、元々は【あそこ出身】だから行けなくもない、かな」

 

いちいち説明しなくていい!

抗議のつもりで綾兄の頬抓ってやろうと手を伸ばしたけど、動きが見え見えと言わんばかりにパシッと捕まえられた。だが私は諦めない!手が駄目だな頭を使えと誰かは言った。

ずばり頭突きして思い知らせるやるさ!

 

「甘いよ」

 

でも綾兄に先手を読まれ頭突きかましてやろうとしたのに頭を軽く押さえつけられた。これでは顎に頭突きできないじゃないか!

綾兄との身長差が恨めしいと思ったことはない。隙あらばやり返してやるさ、フン!

 

「……どうしよう、モルがカモシダ・パレスであんなことやこんな目にあってたら!ああ!想像するだけで胸がときめくっ!」

 

「とりあえずその表現はやめておこうか。目がキラキラしてるし」

 

「……冗談はこのくらいにして、私、モルを探してくる」

 

さっきのじゃれ合いが嘘のように私は綾兄から身を離してすたこらを出かける準備をした。必要なものはリュックに入れてある。いつもより軽いのが気に入らなくて無理やり回復薬とか詰め込んでパンパンにした。綾兄から入れすぎじゃない?って苦笑されたけど気にしない。背中にモル詰め込んだらきっとこの寂しさは埋まるはずだもの。

 

「それじゃあ僕もお供しますか」

 

「うん、サポートよろしく?『ファルロス』」

 

「お任せください。『コーティザン』」

 

恭しく胸に手を当て、私の手を引いてエスコートしてくれた綾兄は「はい」と召喚銃を私に差し出した。コレはいつも綾兄が持っている。私が勝手に使わないように。でも前回一人で行った時には、カードを握りつぶしての召喚方法ができた。これは偶然だったのかもしれないけど、あまり安定性がなかったからやっぱり召喚機を使ったほうがいいみたい。

とにかく、私はそれをベルト型の白いホルダーにセットする。これは湊兄からのお下がりで大切にとっておいてくれた美鶴さんに感謝しなきゃ。

 

「今宵も艶やかに咲き誇ってあげるわ」

 

私という殻を破って、ワタシが出づるのだから。

 

朝ですけどって顔はやめてよ綾兄。わかって言ってるから。テンション上げるために台詞でも言わないとあの恰好にはなれないんですよ!

 

 

私と綾兄が向かった先は日曜日の衆尽学園。例の転校生、名前なんだったっけ?

えーと、雨宮 蓮(あまみや れん)だったかな。

前々からオタカラに執着していたモルが目をつけていた鴨志田のパレス。ここにモルは単身向かったんじゃないかと推測したからだ。

校門前でナビを開始すると目立つので学校目の前の路地でこそこそとスマホいじってナビを開始した。ちなみにキーワードは変態。ピッタリだわ。ナビの音声が始まると同時に世界は揺らいでいく。ガラリと先ほどまでのそこらへんにある学園の姿は代わり、禍々しい雰囲気の趣味悪いお城へと変化した。

 

「準備はいいかい」

 

「もちろん」

 

私と綾兄の姿も同時に変化している。上部が西洋の女性貴族が着るようなぱっくりと割れた胸元を強調し、ぴったりとコルセットで締める衣装であるのに対し、腰元から足首までふわりと優雅に広がる裾丈。……これ絶対アウトだと思う際どいショートパンツの所為でさらに露出度が高くなっているのは否めない。お尻が寒い……。幸い西洋甲冑を模したニーハイブーツでビシッとしめているからカッコよさはあるはず。見た目とは裏腹に動きやすい滅茶苦茶軽いので驚いた。髪形は横で一つに縦巻ロールとなっている。穴でもあけられそうなドリル具合だ。目元の仮面はベネチアンフルマスク。全ての装飾を白ワントーンで統一しなおかつワンポイントに真珠とレースで飾り付けた女性らしさエレガントな一品。これなら顔バレすることはない。逆に言えば、この仮面が外れた時、私の素性がもろバレするということ。私の生命線……気を引き締めなちゃ。

 

対して綾兄は……どこぞのタキシード仮面化している。恰好良いんだけどさ、いいんだけどさ。どうしてその恰好に?と最初に見た時は思わず「なんでさ!」と叫んでいた。

きっと私たちの恰好は怪盗じゃなくて仮装大会ではっちゃけてる一般人にしか見えないだろう。……良かった、ここが認知世界で。しみじみ感じるよ。

 

「いつみても朔の恰好は……目に悪いね」

 

「じろじろ見ないで」

 

自分でも自覚してるよ、この恰好はアニメにでも出てきそうな恰好だってさ!

 

「うーん、僕のマント羽織るかい?寒そうだし」

 

「いらない!これ以上変な格好になりたくないもん。大体なんで綾兄はそれなの?」

 

「僕に言わないでくれよ。朔を守るって思ってこの世界に入ったらコレに変身してるんだから」

 

そんな平然と真顔で言わないでほしい。

こっちが照れる。時々綾兄の素で言いのける言葉にドキッとしてしまう。

 

「……(理由が恥ずかしい)」

 

「行こうか」

 

「ですね」

 

もうこの話題は禁句にしようと決めた。

いざ!カモシダ・パレスに正面……からじゃなくて裏口から物申す!

 

 

隅から隅まで探した。お宝?この私が見逃すはずがない。ちゃんと全て回収致しました。ありがとう、カモシダ・パレス。唯一のいいところだよ。他はまったくない。しいていうなら階段多すぎるからエスカレーターにしてほしい。もう夕方になってしまった。

 

「……」

 

「見つからなかったね」

 

ぐさっ。自分の無能さを感じてしまう。風花姉みたいに探索系のペルソナ持ってたらモルを見つけられたのかな……。できもしないことを考えては現実の壁に撃沈。

項垂れる私の頭に綾兄が優しく手を置いて慰めてくれる。

 

「……」

 

「明日、学校終わったらまた探してみよう?」

 

「……うん……」

 

本当は、学校なんかサボってパレス探索したい。

けど、学生を演じなきゃ今後の活動にも支障が出る。冗談っぽくモルのこと言ったけど、本当は心配でしょうがない。なんだかんだ言ったって、モルは大事な存在だ。

 

それに、今日は外の世界でも色々あったらしい。

地下鉄暴走で死傷者も多数。ダイヤが大きく乱れて私達も帰るに帰れない状況となっている。人でごった返す駅で壁際に避難し、私は深いため息をついてリュックを手前で持つ。片手でスマホをいじって情報を集めてみるが。

 

「帰れない、ね」

 

綾兄が私のスマホを共に覗き込む。

 

「事故だって。……被害は今回も大きいね……」

 

「『精神暴走事件』か……。私達以外にもペルソナ使い、いるみたいだね」

 

その辺にぽこぽこ沸いてでるわけじゃないから確信はないけど、湊兄の時と同じ状況に似ている気がする。あれは無気力症……。その名の通り、何事にも無気力になってしまいまるで抜け殻同然になる病気、なんて公表されてるけどあれは世界が破滅を迎える序曲だったって。

 

「朔は関わっちゃ駄目だからね」

 

「なんで?」

 

思わず訊き返してしまうくらい綾兄がそんなことをいうなんてと思ったから。

でも、綾兄は私が思うほどに私の身を案じていてくれた。

 

「一人で突っ走るから」

 

「……別に、そこまで」

 

ズバリ当たっているのでどうにも視線を逸らしてしまう。

そしたら、私のすぐ横の壁にドン!と片手をついて綾兄はぐっと顔を近づけてきた。

壁ドン実行されている。だが乙女が甘いシチュエーションの意味はなく、私を叱るためにやっているのだからときめきどころか、怒られると分かってびくついてしまう。

 

「この間、僕がダメって言ったのに一人でメメントス行ったよね。勝手に」

 

「……あれは、モルが」

 

「そのモルは危ないからやめろって引き留めたのに無理やり引っ張ってアッシーにしたって?」

 

「……モルめ、黙っててって言ったのに……!」

 

「僕が無理に聞き出したんだよ」

 

「……ごめんなさい……」

 

「あんまり無理するようなら、美鶴に言うよ」

 

「え!?なんでっ」

 

私は驚いてスマホ落としそうになった。

 

「それくらい朔が介入してる世界は危ないってこと。彼女達なら喜んで突入するだろうな。朔のやりたいこと、できなくなっちゃうよ。それでもいいのかな?」

 

綾兄は静かに怒っていた。私の軽率な行いに苛立ちを隠せないようだ。私の心配をして言ってくれているのは十分伝わった。でも私はそれよりも美鶴さんに知られることの方が怖かった。だって、唯一の復讐の手段を奪われてしまうから。

私は綾兄に縋っては訴えた。

 

「……気を付けるから、美鶴さんには言わないでっ!」

 

「……じゃあ、今度から一人で行かないってちゃんと約束できるかい?」

 

「うん、だから」

 

「じゃあ言わない。……(本当はやめてほしいなんて、今は言えないね)」

 

「……おじさんに電話してみる。歩いて帰った方がマシなのかな。運転大変そう」

 

「うーん、いっそのことペルソナ使って帰ろうか」

 

「夜になってからじゃないとマズいと思う…」

 

「まぁね、時間潰してからどこかのビルの上から帰ろうと思えば帰れるよ」

 

「……おじさんに電話するね」

 

「うん」

 

どこか気まずい雰囲気が私と綾兄の間に流れ、それはおじさんの迎えで着いたルブランでも同じだった。二階の雨宮君のことなど頭からすっぽりと抜けていた私は、階段を上がって彼がこちらに気づいて挨拶しようと声を掛けてくれたところ、「私、寝るんで明日にしてください」とそっけない返事を返して自室へ駆け上がった。

ベッドに体を投げだしてスプリングがギシリと嫌な音を鳴る。

 

「朔、パジャマに着替えてから寝なよ」

 

綾兄がそう注意するけど応えなくないから寝たふりをした。ベッド近くに歩み寄る気配がして、ふわりと掛け布団を掛けられたことに気づく。ほどなくして明かりが消された。

 

「おやすみ」

 

挨拶だけ残して綾兄の気配がすうっと消えた。

 

私が悪いのはわかってる。でも焦っちゃうんだもの!悔しいんだもの。すぐにでもアイツラに母さんの無念を晴らしてやりたい!私が受けた屈辱を倍以上に味あわせてやりたい!

その手段があそこにある。パレスに単体で侵入する手ももちろん考えた。

でもあの女の関係者には警察に属している奴もいる。周辺を嗅ぎまわれば不信に思われるのは目に見えてる。証拠不十分だったとはいえ、警察に拘束されていたんだ。いずれは怪しまれる。おじさんや双葉を巻き込まないようにしなきゃ……。

だからメメントスで雑魚から片づける。じわじわと追い詰めてやる。

 

なのに……、なんでわかってくれないの!?

私がやりたいことなんてたった一つしかないのに、なんでやらせてくれないの……。

 

八つ当たりに枕を力いっぱい叩いても気持ちは晴れない。

 

私はやるせない気持ちでいっぱいで、いつも通りの眠れない夜を過ごした。

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