なんか新作が出来たので投稿します。正直自分でもあまり見たことないクロスなので、どう書いていこうか、悩みながらやっております。
それでは皆様ごゆるりと。
守護者時代とはうって変わった平和な時間、男は今まで擦り減らしてきたものを拾うように、己の内が満たされていくのを感じた。そして今、自身の体が透け始めているのが理解できる。足から順に感覚が無くなり、まるで現界を終えるサーヴァントのように崩れていくのがわかる。
「……いってしまうのですね」
ずっと傍らにあり続けた、黄金と青の少女が口を開く。わかっていた別れだが、それでも悲しんでしまうのは人の性か。
彼女の向こうに見える雲海からは、ゆっくりとだが歯車が落下しているのが見て取れる。それに伴い、少しではあったが存在した緑が、徐々にこの世界を満たしていくのも見て取れる。傍らにある剣には蔓が巻き付き、小さな花が咲いていた。
「……これで私もお役御免か。実に長かったが、最後に君と過ごせたのは私にとって素晴らしい時間だった」
「シロウ……」
目の前の少女が目を伏せる。座の主が変わり、魂は同一とするものが来るだけである。が、どちらかが消えるのではなく、協力して存在する道はなかったのか。同じ魂を持っていても、全く別の存在として成り立つことはできなかったのか。何度考えても未練を残してしまう。
しかし当人はもう満足とばかりに、纏っていいた白いマントも脱ぎ、はめていたグローブも抜き取り、身に纏うは黒いインナーとズボンのみだった。戦う兵装はもう身に付けていなかった。
「セイバー、私を頼む」
「え?」
優しくかけられた声に少女が顔を上げる。その目に映った男は、生前でも浮かべたことがないかもしれない笑顔を浮かべていた。
「私を頼む。知っての通り、私よりも危なっかしい奴だからな。凛や桜、イリヤと共に支えててやってくれ」
「シロウ……わかりました、任せてください。セイバーの名において誓います。」
「ああ、安心した」
男がそう言うと共に、男の後ろから一つの足音が近づいてきた。男は振り返り、そこにいた三人目の人物に目を向けた。
「……やれやれ、世界が違えばここまで変わるとはな」
「それはこっちのセリフだ。だが……お疲れ様」
「ふん、ではオレは永い休暇に入るとしよう」
そういった男はその手に白黒の双剣、彼らの代名詞ともいえる夫婦剣を投影し、瓜二つの青年の前に突き刺した。
「餞別だ。とっておけ」
「俺の夫婦剣とお前の夫婦剣、見た目と構造は同じだが、重ねてきた年月と経験が違うからな。俺のも渡そう」
「礼は言わんぞ」
「お互い様だ」
最後まで軽口を叩く二人は、以前まで殺し合いをするような間柄だったとは思えなかった。寧ろ同一人物というより、兄弟や好敵手と言った表現がしっくりくるようにうかがえた。少女もそれを察したのだろう、目じりに涙を溜めながらも、二人を微笑みながら見つめている。
「ではな、精々未熟者らしく頑張るといい」
「抜かせ、オカンが」
その応酬を最後に、男は完全に消えていった。完全に消失した場所には一組の夫婦剣しか刺さっておらず、青年が渡した剣は持っていったことが窺えた。
◆
最後に小僧に言いたいことを言い、視界がブラックアウトする。じきに消滅するだろう。全身を襲う浮遊感に身を委ね、何もない空間を漂う。
暫くそうしていると、何やらこちらに話しかけてくるものがあったが、無視してそのまま漂っていた。暫く何やら呼びかけられたのだが諦めたのだろう、声が聞こえなくなった。安心したのも束の間、何やら吸い込まれる感覚に襲われた。消滅するのかと思ったが、どうも違うらしい。海流に呑まれるかの様に体が抵抗できずに吸い込まれる。
「じゃあ第二の人生、楽しんでおいで。押し付ける形になったけど、話を聞かない君にも非があるよ。まぁ悪いことはない、あの子に人としての喜びを教えてくれた君だからね」
最後に聞こえたのは男の声と杖の鳴る音、見えたのは鮮やかに咲く花と真っ白な髪だった。
次に体を襲ったのは、非常に窮屈であるという感覚。狭い場所、何やら液体のようなもので満たされいている暗く狭い場所に閉じこめられている。外から何やら声が聞こえるが、こっちはそれどころではない。いきなり閉塞空間に入れられたのだ、戦場を渡り歩いても多少パニックになる。
暫く、といっても体感時間5時間ほどだが、ついに頭が広い場所に出た。続いて肩、腕、尻、足の順に閉所から出てくる。体は動かし辛く、信じられないが誰かに抱えられている。大の大人を抱きかかえるなどと思ったが、どうも様子がおかしい。
「奥さん、生まれましたよ!!」
「お父さんも、よかったですね!!」
そんな声が聞こえてくる。どうも誰かが生まれた。そして場の状況を察するに、その生まれた赤子とはどうも私らしい。信じたくはないが、未だぼやける視界でどうにか鏡を見つけ、確認したから信じるほかなかった。ついでに言えば容姿は元と似ており、白髪に軽く日焼けした肌、虹彩は
「それにしても、この子泣かないですね。まさか……」
「そういえば、まだ産声を上げてない……」
そんな声が聞こえた。ぼんやり見える母らしき女性の顔も、何やらショックを受けている様に見える。だが体は子供でも、大きく泣き声を上げることに抵抗を覚えた。だから私は産声を上げる代わりに、その女性に向かって拙い動きで腕を伸ばした。女性もそれで察したのだろう、恐る恐る私に手を伸ばし、私を抱きかかえた。
改めて女性を見ると、いやはや、一度だけ切嗣の写真を盗み見た見た覚えがあるが、イリヤの母親にそっくりだ。顔を傾けて父親らしき男に目を向けるが、切嗣とは全く似ていない男がいた。
肩までかかる長い茶髪を結ばずにオールバックにし、こちらを優しそうな目で見ている。しかしその奥に、鬼神のごとき熱を内包しているのが見て取れた。
「産声こそあげてないが、大丈夫そうだな。アイリ、ありがとう」
「ええ。城一郎と私の、初めての子供」
夫婦で話をしているのが聞こえたが、私は驚き、目を見開いてしまった。父と名乗る男、城一郎の声は切嗣と瓜二つだったのだ。だから私は思わずつぶやいてしまった。
「ぃいあん(爺さん)……ぃいうぅ(切嗣)……」
無論赤子の体なので舌も回るはずがなく、母音の身での発音となった。しかしそれでも伝わったのか、城一郎は私同様、目をこぼれんばかりに見開いた。
「まさか……し……」
彼が何を言わんとしたかわかる。そして今の言葉でわかった。城一郎、魂はどこかの世界で私に出会った切嗣が転生したものだと。わかったからこそ私は必死に口を開いた。もしかすると彼は彼女に、イリヤに会えなかったかもしれない。だから少しでも安心させようと、拙い舌を回した。
「ぃいあ(イリヤ)……あぃおう(大丈夫)……ぃああぇ(幸せ)……」
「ッ!? そうか……そうなのか……」
「どうしたの城一郎? この子も、いったい何を……」
私の想いを理解した
そんな彼を母はゆっくりと片腕で抱きしめ、もう片方の腕で私も優しく抱きしめた。イリヤは雪の精の様だと思ったが、母はまるで聖女の様だと思ってしまった。
母も貰ってしまったのだろう、静かに嗚咽を漏らす城一郎と共に涙を流した。私も、産声こそは最後まで上げることはなかったが、自分でも気付かぬうちに、悠久の時の経て、枯れたと思っていた涙を流した。
完結していないのものが多いのに、新しいものを書き始めるのは、我が事ながらいただけないですよね。そんな奴は腹筋するほうがいいでしょう。
というわけで新作です。ソーマとエミヤのクロスですが、完結は連帯食戟、若しくは秋の選抜までかと思っております。
では皆さん、次回はハリポタでお会いしましょう。
さて、腹筋しなきゃ。