第一話。原作でもそうですが、一番初めの頃は、余り話が進まないですよね。
それではどうぞ。
一ノ皿.:はじまりは唐突に
「士郎、遠月に行ってみないか?」
それは兎も角、イリヤは既に就寝に入っており、現在起きているのは私と城一郎だけである。因みにいうと、私の容姿は令呪で縛った際―正直もう一度見たいとは思わなかったが―元の赤毛と肌に色が戻っており、イリヤもその私しか見たことがない。
「それで、その名で呼ぶということは、何か重要な問題があるのだろう?」
「察しがよくて助かるよ。実はね……」
城一郎は私限定で真面目な話になると、彼の前世、切嗣の様な口調になる。これも、お互いが生前、前世で深い関係にあったことも関係しているだろう。イリヤに対しては、普段のおちゃらけた態度と溺愛ぶりだが。
で、何故私が遠月への入学を勧められているのか。深いところはまだ話せないが、どうやらそこの総帥から個人的に頼み事を幾つかされたらしい。遠月はそこらの料理学校とは一線を画する。そこでは完全なる弱肉強食。そこで実力の見合わない生徒は篩をかけられ、退学という道を辿ることになる。料理の道を行くものは、そこに入学するだけでも箔がつくといっても過言ではない。
それで肝心の総帥の依頼だが、どうやら城一郎はその中でできないものがあったようだ。しかしその出来ないものは、私が引き受けてくれれば、達成できるという。その一つが、遠月への入学だそうだ。
「理由は分かった。その際店を一時休業にすることは否めないだろう。だがイリヤはどうする?」
「それは大丈夫だ。俺についていくか、申し訳ないが倉瀬さんの家が下宿OKを出している。ただ、お前が承諾しなければ、このまま家に二人で過ごすことになる」
「……イリヤはなんと?」
「あの子は……お前の意志を尊重するそうだ。まだ小学生のイリヤに我慢させることは心苦しいが、今回ばかりは背に腹は代えられない事態なんだ」
さて、非常に考えさせられる。私としては、イリヤを下宿させるのは、倉瀬さん宅とはいえ、余り了解を出したくない。かといって城一郎に連れられるとなると、最悪転々と移動を繰り返すだろう。せっかく今の学校で友が出来たのだ、引き剝がすわけにはいかない。
「……一つ手がないことはない。」
「何だい?」
「余り使いたくはないが、ここに住んだまま私が遠月と往復するか。それか私が寮で一緒に住み、毎朝送り迎えするか」
「……言っておくけど、遠月の敷地はかなり広いよ? 総帥なんて車で移動したりすることもあるし」
「……そこは私の本気でどうにかする」
結局話はつかず、翌日イリヤを交えて話し合い、倉瀬さん宅にお願いすることになった。非常に心苦しいが、こちらも渋々納得する。ただし、出来るだけ週一で家の掃除に戻り、顔を合わせるということで決着がついた。
「……すまないイリヤ。こんなことになって」
「ううん、大丈夫だよお兄ちゃん。私知ってるもん、お兄ちゃんは優しすぎるぐらい優しいこと。頼みごとが断れないことも」
「……イリヤ」
「でもちゃんと帰ってきてね? 私、お兄ちゃんとお父さんが頑張っている間、料理の練習して待ってるから。」
強がって入るけど、まだ小学低学年。浮かべる笑顔とは反対に目じりには涙がたまっている。それを放っておくような愚行は、此度の私と城一郎はしない。二人でイリヤを抱きしめ、それぞれの荷物を持って出発した。後ろで手を振る倉瀬一家とイリヤに返しつつ、角を曲がった私たちは一気に走り出す。
早朝の人通りのない商店街ならば、魔力の身体強化も最大限で行動できる。今の私と城一郎のスピードは、F1並みは出ている。一般人では目に捉えることは出来ないだろう。
私はそのスピードを保持したまま、遠月までの最短距離を一気に駆け抜けた。さて、入学試験を受けることになるが、何をするのやら。
はい、ここまでです。
原作ではMOBによる地上げと、その撃退のための料理場面がありましたが、本作では飛ばしました。如何に令呪で縛られているとはいえ、原作ソーマでもその場の機転で撃退できましたし、する必要はないと判断しました。
次回は例の入学試験です。お楽しみに。