予告通りの更新です。
今回はサブタイ通りの編入試験の話です。原作展開と薙切えりなの様子が少し違いますが、出来るだけ忠実になるよう描写したつもりです。
とはいえ、相手が純粋な創真じゃない以上どうなることやら。
遠月茶寮料理学園、通称”遠月学園”。
中東部と高等部各三年制のの料理学校であり、日本屈指の名門料理学校である。所謂料理界の「虎ノ門」と言っても過言ではない。少数精鋭教育を行い、そのためか毎年の卒業生は数人ほどだという。
ここまでくると当然退学率も非常に高くなるのは想像に難くないだろう。しかし、最早異常とも受け取れる遠月の実力主義だがそれ故か、「在籍したという履歴だけでも料理人としての箔が付き、卒業すれば料理界における絶対的地位が約束される」とまで言われている。まぁ私自身話に聞いているだけで、本当と所は知らないが。
しかしまぁその編入試験をこれから受けるわけなのだが、右を見ても左を見ても良いところの御坊ちゃん御嬢ちゃんばかりである。中には研磨を積み重ねてきただろうと見て取れる者もいるが、殆どが左程厨房には入っていないだろうことが、手を見ればわかる。包丁を握ったり、食材を扱ったり、熱い調理具を持ったりとでできる、ちょっとした皮の厚みなどが、薄いものが大半だ。いや、もしかするとそう言った料理を提供していないという店の可能性もある。安易に決めつけるのは良くないだろう。
しかし現に私に絡んできている少年は、自らの実家がいかに高級料理店であるか。私の実家である大衆食堂とはどれほど異なる次元に存在するかを、それはそれはまるで自分の手柄のように話している。話しては私を見下しているのだが、はてさて、その地位を築くために一体彼の親やその前がどれほど苦労したのか、まるで理解していないのだろう。
考え事をしていると、何やら会場内がザワザワと騒がしいことに気が付いた。やれやれ、どうにもこの世界に生れ落ちてから気が抜けているらしい。私が人の気配に気づかぬほど考え事をするとはな。
考え事を一度切り上げて顔を上げると、何やら一人の、いや二人の少女が増えていることに気が付いた。片方は腕を組み、もう片方は何やら書類を腕に抱え、まるで秘書然としている。腕を組む少女はまるで金糸や絹の様な滑らかさがうかがえる色と質の髪。十人中十人が振り返るであろう美貌に抜群のプロポーション。しかし一番目を引くのが、まるで冷水の様な冷たささえ感じる目で合った。成程、写真で見たことはあるが、彼女が彼の「神の舌」を持つという薙切えりなか。
するとここで受験生が一斉に退出し始めた。どうやら薙切嬢は卵で一品作り、舌を満足させろとのこと。どうやら今回の試験管の仕事に不満らしい。というより、どうにも自分以外を見下している感じがしないでもないが。
「こちらの食材は自由に使っていいのか?」
口調を不本意ながら、あの未熟者の様にして問う。私の言葉にようやく残った受験生がいることに気づいたのだろう、一瞬ではあるが驚愕した表情を秘書の娘と二人して浮かべていた。
「ええ、卵とここにある食材を使い、私を満足させる一品を作りなさい。制限時間は一時間よ」
「……承知した。では暫しお待ちいただこう」
彼女の承認を聞き、私は頭に真っ赤なハチマキを、腰には紅のエプロンを結び着ける。卵は使うとわかっているため、残りの食材を観察する。それによって分かったのは、どうやら
はてさてどうしたものか。メニューは幾らでも思い浮かぶのだが、高級食材ばかりとなると少々難関である。庶民の食材だからこそ成せる調理もあり、そうなるとここで作れるメニューも限られてしまうのだ。
「どうしたの? 早く調理なさい」
薙切嬢がいら立つように声をあげる。事実いら立っているのだろう、隣の秘書の娘もこちらを不機嫌そうに見つめてきている。
「さて、何を作るか考えていたものでね。失礼した、すぐに取り掛かるとしよう」
「貴様!? えりな様に対して何という物の言い方を!!」
何やら秘書の子が喚いているが、彼女に構う時間はない。作る料理を決めた私は、食材を手にとった。
◆
乗り気じゃなかった試験監督の仕事。さっさと済ませるために内容を少々変更し、受験者を一気に減らすようにしむけた。結果は上々、全員が腰抜けで退場したと思っていたけど、一人だけ受験者が残っていたことに驚いた。
名前は幸平創真、出身は商店街の大衆食堂で家族は妹と父親のみ。何やら昔父親に連れられて世界を回っていたらしいが、詳細は記入されていない。しかし大衆食堂出身ならば実力も作る料理もたかが知れているだろう。対して期待する必要もない。
そう思っていた。
制限時間まで残り十五分というところで美味しそうな香りが漂ってくる。正直いうとここまで食欲を誘う香りは今まで嗅いだことがない。米の炊きあがる香り、何かを煮込んでいるのか、出汁と調味料の香りが部屋を満たしていく。しかしそこまで来ても私は彼が何を作っているかわからなかった。
「幸平……創真君でいいのかしら? 貴方は何を作っているのですか?」
私がそう問いかけると、今度は彼が驚いた表情を浮かべた。まるで私の言うことがわからないとでも言うように。その表情が何故か私を馬鹿にしているように感じ、非常に私をいらだたせた。
「……ああすまない。確かにわからなくて当然だ」
「何ですって!?」
「いや、語弊が生じた。今作っているのは私の実家でも限られたものにしか作っていない品目だ」
「……」
「まぁ出来てからのお楽しみだ。そら、丁度米も炊けた」
そう言いながら土鍋の火を止める。時間、加熱加減、どれをとっても私の知る最上の米の炊き方と相違ない。そして小鉢に入れているのは、つい先ほど私と質疑応答しながら作っていた炒り卵。中に何やら来い茶色いものが輝いているが、アレは何だろうか。
「幸平創真君、品目は?」
「ふむ、名前など考えたこともなかったが。そうだな、あえてこれに名を付けるとすれば、『幸平流化けるふりかけご飯』だな」
品目名を聞いたとき、私は思わず唖然としてしまった。この舌を持ち、それに見合う技量を身に付けるべく努力し身に付け、食の上流階級の地位についた私の食べる品目が、「ふりかけご飯」だというのか。
「ふざけないで!!」
「ふざけてなどいない」
「ふざけてるわ!! この私に、そんな下等なものを食べろというの? もういいわ緋沙子、帰りましょう」
私が帰ろうとすると、彼は盛大なため息をついた。まるで私を可哀そうな子でも見るような目つきで、哀れんだような目で私を見ている。その目が何故か私を引き留めた。
「えりな様? 如何がされました?」
「いえ、少し」
私は緋沙子の問いに曖昧に返し、彼のほうに顔を向けた。
「……何か言いたいことでもあるの?」
「さて、ね。しかしどうやら試験官殿は私の料理がお気に召さないらしい。となれば、私は帰るだけだろうよ」
まるで、いや確実に私を皮肉っている物言いに、何とも言えない憤りを感じた。現に彼は料理の皿だけを残し、片付けを済ませて帰る準備を始めている。もうこちらに興味がないとでもいう様な態度だ。
「では私は退出しよう。
彼はそう言って退出した。室内にいたのは私と緋沙子だけ、他には誰もいない。私は一瞬躊躇しながらも箸に手を伸ばし、ふりかけをかけて一口食べた。
第92期編入試験、幸平創真、この者を合格とする。
以上です。
次回は例の演説ですが、さてどうしましょうか。流石に中身はエミヤなので創真のようなことはしないとは思いますが。
ではまた次回にお会いしましょう。